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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 複数の星座アヤカシが同時出現することが多くなり、メダルの数も50を越えた。そろそろ3分の2になりそうである。 そんな折、判明した事実。現在、星座アヤカシたちを統括しているのは黄道十二星座の中でも最強の実力を持つとされる星座らしい。また、星座アヤカシが使い捨てのようにされても問題がないメカニズムも判明した。 最強の十二星座ですら望む最強の星座の復活。そして星座アヤカシが平坂空羅を引き込みたい理由。 新たな謎が浮上する中、物語はまた一歩進む――― 「今回は緊急依頼よ。黄道十二星座の一つ、双子座が現れて石鏡軍と交戦中。開拓者は大至急この応援に向かってもらいたいの」 「双子座は二体で一つの星座みたいで、外見は双子の美少女って感じです。青いドレスで青い冠を頭に乗っけている方を『甲』とし、赤いドレスで赤い冠を乗っけてる方を『乙』と呼称。こちらの依頼では『甲』の撃破を担当していただきます」 ある日の開拓者ギルド。 石鏡から緊急の協力要請を受けた開拓者ギルドは、西沢一葉と鷲尾 亜理紗に指示、迅速に依頼書を作成、募集にかかった。 問題は『双子座が一定距離近くにいると倒しても即復活してしまう』という点。大規模な部隊を編成し双子座の討伐にあたった石鏡軍だったが、やっとの思いで倒した双子座が全快状態で復活してしまったことで士気が低下してしまったのだ。 これは同時に倒しても同じ。二体が近くにいたなら同時撃破でも復活してしまうのはすでに立証済みであり、引き離して戦う他はないのだ。 「とは言っても、引き離してもそこは黄道十二星座、一体一体でも強いわけ。『甲』の特徴は、冷気系の攻撃防御を得意としていること、頭に乗っている冠が冠座コロナ・ボレアリスであるっていうこと。人が集まってくれるといいんだけど、二正面作戦だからどうなることやら……」 ちなみに引き離して片方を撃破した後でも、もう片方の双子座が撃破ポイントに一定距離近づくと撃破された方は復活してしまう。できるだけ離れた距離で、同時刻に撃破することが望ましい。 石鏡軍が何とか戦線を繋いでいるが、他の星座アヤカシが援軍に来る前に始末してしまいたい。 「作戦としては、開拓者の到着後に石鏡軍が二体の間を割くように突撃、その後、瞬龍を駆る航空部隊が二体を別方向に連れ去る。距離を取った後航空部隊は双子座を投げ捨てて撤退、開拓者と双子座との勝負に……という流れね。ちなみに二体は冠座と南の冠座の力で離れてても口に出さなくても会話ができる。注意してね」 今回も星の一欠片は勿論持っていけるが、『乙』撃破組が持っていくメダルは使用できない。 人間側も意思の疎通を測り、無事に双子座と冠座、南の冠座を撃破していただきたいものである――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
臼井 友利子(ia0994)
18歳・女・志
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●蒼き双子座 「あ痛っ! もう……投げ捨てるなんて乱暴ね。……あら」 上空から地面に叩きつけられた少女は、平然とした顔で青いドレスに付いた埃を叩いて払う。 平原に似合わぬ綺羅びやかな格好。まるでどこぞのお姫様のようでもある。 その視線の先に、すでに準備を万端に終えた開拓者たちの姿があった。 「そういうことですの。しかし分断したぐらいでわたくしたちを倒せるなどとは夢にも思わないでいただきたいですわ。ねぇ、ポルクス。……うふふ、そうね。でも慢心はダメよ?」 「はわー……凄い。あれが冠座のテレパシーなのでしょうか?」 「うわー可愛い! 可愛いよこの子! お姫様みたーい♪」 「ナイスポニー。じゃなかった、はしゃいでる場合じゃねェぞお嬢さん方。コイツは……ヤバイ」 「本当に決まらん男だな。まぁいい、旦那に賛成だ。あの身のこなし……隙がない。……しかし暑キュアに行った誰かさんが何か途轍もなくどうしようもない事を言ってる気がして仕方がない……」 双子座のビジュアルに心ときめかせていた臼井 友利子(ia0994)とアムルタート(ib6632)であったが、鷲尾天斗(ia0371)と何 静花(ib9584)は双子座の力をすぐさま感じ取った。 ひらひらのドレスに似つかわしくない無骨な手甲を具現化して装備した双子座甲。おっとりしていそうな口調とは裏腹に内に秘めた殺気にはいささかも迷いがない。 と、その時。遠くの空に狼煙銃による白い狼煙が打ち上がる。 乙組からの合図……交戦開始! 「俺達もいくぞォ! 気合入れろやァ!」 『応ッ!』 人数はわずか四人。しかし何としてでもここで潰しておきたい。 双子座甲を取り囲むような配置で、開拓者たちは口火を切ったのだった――― ●舞吹雪 それはまさに雪の女王とも呼べるような光景であった。 双子座甲が拳を、蹴りを繰り出すたびに吹雪が巻き起こり開拓者たちの体力を削っていく。 何と臼井は防寒具を用意してきているが、それだけでダメージを防ぎきることは難しい。 何より…… 「ふっ!」 「がっ……! こ……のォ!」 「うふふ。動きが遅くてよ?」 「ぐぁっ!?」 懐に入られ腹に重い一撃を食らう鷲尾。必死に反撃するがすでに双子座甲は彼の背後に回っており、裏拳で後頭部を強打される。 あの動きにくそうなドレスでありながらこの動き。歴戦の開拓者をも圧倒する戦闘力。黄道十二星座とはいえ、4体1で囲んでいるのにあまりに差がある。 「うー、なんか社交ダンスみたいな感じでちょっと凄いって思っちゃうなぁ」 「というか、あのドレス何で出来てるんだ!? クソ硬いぞ!?」 アムルタートも何もその手強さに舌を巻く。まだ冷気攻撃を本格的に使っていないのに……! 「くすくす……あら、いいのに。なんだかんだとポルクスも心配性ね」 「え……? な、何のことですか?」 「危ねェ!」 意味深なセリフを吐いた双子座甲。訝しげに呟いた臼井を鷲尾が突き飛ばした直後、巨大な火の玉が炸裂した。 紅蓮の炎に焼かれる鷲尾。しかし鷲尾は鳳凰座のメダルを発動させており、炎属性と氷属性の攻撃を無効にできる状態になっていた。 「熱っ……!」 「下がってな友利子。この炎は敵味方問わず焼いちまうんだ。ま、壁くらいにはならァ」 全身から炎を吹き上げる鷲尾も気になるが、先ほどの火球はまさか双子座乙によるものか。かなりの距離離れているはずなのに正確にこの戦場に攻撃を仕掛けてこられたのは、やはり冠座と南の冠座の能力……? 「やっぱり、やるしかないよね。(大泥棒に、私はなる……!)」 臼井や何に目配せし、双子座甲の背後にいたアムルタートはナハトミラージュとカシオペア座のメダルを発動し、気配を消した。 冠座にどんな能力があるにせよ、アレをどうにかしておいたほうが後々のためになるだろう。 「折角だからわたくしもお返しするわ。遠慮しないで使って」 そう言いつつ明後日の方向に巨大な冷気の塊を発射する双子座甲。それは火球が飛んできた方向と同じ。彼女も双子座乙への援護射撃を放ったということか……! そんな双子座甲を前に、臼井が敢然と立ち向かう。 「この私のしろくまんとには、あなたの冷気など効かないのです!」 「くすくす……可愛いですわね。そんなチャチなマントでわたくしの冷気を凌げるとでも?」 「ふん、戦うのはこいつだけじゃない。付き合ってもらうぞ、寒キュア!」 「寒キュア……? と言うかその格好……緊張感に欠けますわね」 何は防寒のためにまるごとりゅうを着込んでいるので、パッと見冗談のようにも見られがち。しかしその異彩を放つ格好も双子座甲の注意を引くためと思えば悪くない。 その隙を突き、アムルタートが極秘裏に接近。ヴォ・ラ・ドールで冠座を奪い取――― 「あ痛っ! も、もう、なんですの!?」 「へ!? な、何今の感触……わっ!?」 冠を奪えず戸惑っていたアムルタートに対し双子座甲は回し蹴りを放った。 避けられない軌道だったが、カシオペア座による回避効果で事なきを得て無事に離脱する。 「アム、どォしたよ」 「う、うん……あの冠、変な感じ。装備品って感じじゃないんだよ……なんかこう、頭に根でも張ってるみたい。ガッチリ固定されてるみたいな……」 盗むのに失敗したというより、最初から取れない物であるような感覚。それは冠座を取られようとした際、双子座甲が痛いと発言したことからも汲み取れる。 常におっとりとした口調と表情だった双子座甲に、少々焦りが見えたことを鷲尾は見逃さない。 「こいつ……まさか……」 「手癖の悪い女性ははしたないですわ。その罪、コキュートスで贖いなさい!」 本気を出したとでも言うのか、双子座甲から青いオーラが立ち上り周囲に猛吹雪を巻き起こしていく。 鷲尾は魔槍砲を投擲しつつ鳳凰座を発動、仲間のそばに立つことで吹雪の影響を軽減するが…… 「こんな棒きれを投げつけたところで!」 魔槍砲はあっさり弾かれ、双子座甲はそのまま鷲尾に殴りかかる。 敵味方もろとも焼く炎にまったく物怖じしない。それは彼女が冷気で自分を守れるから……! 「危ないのです!」 臼井の声が響き、鷲尾の目の前に三角形のバリアのようなものが形成され攻撃を防いだ。 続けて臼井は南の三角座のメダルを起動。 臼井の三角座=対象者の目の前に三角形のバリアを形成、どんな攻撃も一回だけ防ぐ。ただし自分には使えない 臼井の南の三角座=細かい三角形の散弾を無数に発射。威力は本人の攻撃依存 二つの三角座の効果で鷲尾を守り、反撃を加えたのだった。 「散弾ではなぁ! ですわ!」 手をかざし氷塊を形勢、臼井にぶつけ弾き飛ばす。早速バリアが自分に使えない弱点が露呈する。 「寒キュア、今日こそお前の最後の日だ!」 まるごとりゅうのような動きにくそうな格好でも瞬脚は有効。何は瞬時に双子座甲の背後に周り、麒麟座のメダルを使用しつつ空気撃を放った。 今までの攻防で何の火力恐るるに足らずと思っていた双子座甲は、直撃こそ避けたが無理にそれを回避しようとしなかった。鷲尾が自分を狙っていることを知っていたからである。 だが、それがまずかった。 何の麒麟座=掌に雷球を発生させ、次の拳での攻撃時攻撃力+300 空気撃の衝撃と電撃のダメージとでバランスを崩し、大きく体勢を崩す双子座甲。これが好機とばかりに鷲尾とアムルタートが走り込む! 「アム、お前もポニテにしたらモテるかもよォ!」 「よけいなお世話だよー!」 鷲尾は戦陣「砂狼」を発動し仲間の能力を上昇。続けてアムルタートが鞭を振るい、双子座甲の胸を強打。続けて鷲尾が蠍座のメダルを発動! 鷲尾の蠍座=手に蠍のハサミのような物を装備する。開閉自在 鳳凰座は一旦解除し、手にしたハサミで双子座甲の右腕を…… 「ナ、ナムアミダブツ! 見事にぶった切ったな……良い子には見せられないぞ」 何の言うとおり、双子座甲の右腕は二の腕辺りですっぱり切断され、傷口からは瘴気が漏れている。 しかし双子座甲は怒るでもなく恐怖するでもなく、はぁ、とため息を吐いた。 「……ん、大丈夫よポルクス。ちょっと右腕が取れただけ。すぐ治るから」 『はぁ?』 開拓者たちが間の抜けた声を上げた直後、双子座甲は地面に落ちた腕を拾い上げペタリと元通りにくっつける。 「そ、そんな馬鹿な……! いくらアヤカシでも、そんな簡単に欠損を治せるはずないのです!」 「やっぱりそうか……俺達は勘違いしてたんだ。『双子座が冠座を頭に乗っけてる』んじゃない。『冠座が双子座を下にくっつけてる』んだ!」 「そっか、だから冠座を盗めなかったんだね〜。備品っていうかパーツ扱いだから身体の修復も簡単なんだ!」 「くすくす……バレちゃった。二人揃っての不死性とかは双子座の能力だけど、主導権を握っているのは私達冠座と南の冠座。いつもいつも双子座ばかりが持て囃されて、私達や南の魚座たち対を成す星座はいつまでもマイナー扱い……それは三角座や南の三角座も同じだったはずよ」 「下克上か。まぁ確かに黄道十二星座が他の星座に使われちゃいけないっていう決まりは無いな」 「……いいじゃない、少しは語らせてよ。どうせこいつらは死ぬんだから、秘密は漏れないわ。コキュートスプリズン!」 吹き荒れていた吹雪がピタリと止み、今度は身体の芯から底冷えするような極寒の静寂が訪れる。 それはまるで音すらも凍りついたかのような空間。足元の草が瞬時に凍結し、ぶつかっただけで砕けていく。 防寒具を着ていようが関係ない。こんな所に何分もいたら確実に凍死する……! 「鳳凰座だァ!」 「くすくす……あなたはいいとして、お仲間はいつまで保つかしら。背中はさぞ寒いでしょうね」 「チィっ……!」 焚き火代わりになろうとする鷲尾だったが、周囲の気温低下を完全には防げない。 このまま数分も立てば、背中の側から心臓が凍りついてしまう。かと言って鷲尾に近づきすぎると焼かれてしまう。痛し痒しならぬ熱し寒しだ。 「よ、よう、旦那。ここは一つ私のポンプ座に賭けてみないか?」 「……掛け金は?」 「私達の命。どっちみち失敗したら手はない……!」 「ハッ、上等! ノッたぜ!」 この状況でも闘志を失わない何の瞳に、鷲尾は頷いて応える。 一応事前に実験はしてある。効果も判明済み。あとは、思惑通り上手くいくかどうかだ。 「くすくす……今更何をしようと、私の結界からは……ッ!?」 双子座甲が言い終わる前に、周囲に巨大な重力がのしかかる。いや、重力ではない。これは…… 何のポンプ座=周囲3スクエアに上空から猛烈な下降気流のスタンプ。敵味方巻き込むが直接のダメージはない 「今のは……空気の塊!? はっ、わたくしの冷気が押し潰されて拡散―――」 「そして私はカシオペア座で衝撃を回避したのでしたー♪」 くるくると双子座甲の前に文字通り躍り出るアムルタート。その手には、蝿座の星の一欠片……! アムルタートの蝿座=使用者のナディエに攻撃力600の飛び蹴り効果を加える 狙うは一点……! 「冠座本体だぁーーーっ!」 高速の飛び蹴りを喰らい、冠座は大きくひしゃげ双子座の身体から抉り取られるようにして切り離された。 すると双子座の身体は糸が切れた人形のようになり、すぐに瘴気へと返ってしまう。冠座による身体能力ブーストが体を限界以上に酷使させたためだろう。 双子座のメダルを回収した開拓者たちは、地面に転がる冠座の前に立つ。 『……わたくしたちはただ……誰かに認めて欲しかっただけなのに……』 「だったら、他人を犠牲にしたりしちゃ駄目なのです! 自分を磨くことでしか、本当の強さも、美しさも手に入りっこありません。犠牲を強いたそれらは……誰にも認められませんよ」 『……わからない……わからない……。ポルクス……きっとわたくしを、復活……させ、て……』 ざぁっと風が吹き、冠座を瘴気として飛散させる。残されたのは冠座のメダル。 臼井はそれを拾い上げ、悲しそうな顔でぎゅっと胸に抱いたのであった――― |