歯医者の恐怖!
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/07/07 10:58



■オープニング本文

 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。
 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する―――


 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。
 メダルの数もそろそろ40に届こうかという昨今、狼座によって新たな事実が判明した。
 普通のアヤカシは闇雲に負の感情を瘴気に還元していることが多いが、どうやら星座アヤカシたちはとある目的に添って行動しているらしい。意志があるなしに関わらず……だ。
 その目的とは、最強の星座を蘇らせること。導星の社はそのためにアヤカシが建造したものと思われる。
 そして……開拓者ギルドに保管されている星の一欠片は44枚となり、88星座の半数となったその時、物語は新たなステージへと進む―――
「さて、今回のアヤカシはですね、祭壇座アラ―――」
「祭壇座アルターよ。他の呼び方は存在しない。いいね?」
「アッハイ。(一葉さん、蟹座関連の事になると眼の色変えるからなぁ……)」
「ついでに、祭壇座の他にも牛飼い座ボオーテスがいるらしいから気をつけて」
 ある日の開拓者ギルド。
 今日も今日とて星座アヤカシの依頼を紹介する職員の鷲尾 亜理紗と西沢 一葉だったが、最近星座アヤカシたちが集団行動している事例が多くなっているらしい。
 知性のないタイプであっても、必ず二種以上で行動している。ペガサス座の暗躍があると専らの噂だが、結局彼が何をしたいのかは未だに判明していない。英雄がどうとか言っていたが、それとアヤカシを統括することが結びつくのだろうか?
「今回のアヤカシもちょっと特殊でして……祭壇座と牛飼い座は、最初攻撃を全く受け付けないんです」
「ただし、祭壇座に固定され、牛飼い座に歯の治療を行ってもらった人間はダメージを与えられるようになるの。ただし、どんなに屈強な人でも歯の治療をされた後は肉体的・精神的に疲労するらしいけど」
「……これ、いちいち順番待ちするってことですかぁ? っていうか、ダメージ喰らうことになるとわかった上で牛飼い座が歯の治療してくれるんですか?」
「するらしいわよ。だって歯の治療で出る負の感情を瘴気に還元してるらしいから、充分仕事はしてるんだもの」
 これまでも何人かの開拓者がこの二体に戦いを挑んだが、結局歯がピッカピカになって帰ってくるだけで撃破には至らなかった。
 歯の治療を受けていない人間はダメージを与えられないので、順番待ちしている時に攻撃しても無意味。かといって治療が終わった後すぐさま襲いかかろうにも、疲労している上祭壇座も牛飼い座もそれなりに戦闘力があるので苦戦は必至、尚且つ仲間の治療中に治療済みの人間が攻撃しようものなら仲間の口内がとんでもないことになってしまう。
 牛飼い座が手にする、キュイーンという耳障りで恐怖を煽る甲高い音を発する奇妙な物体。歯を削る道具らしいが、あれが順番待ちをしている人間にも恐怖を植え付けると専らの評判だ。
「あ、ちなみに歯医者としての腕前は結構よくて、患者として祭壇座に固定されてる人には一切攻撃しないんだって。プライドかしら」
「とにかく、この際歯の悪いところをきっちり治してもらってから撃破しかないみたいです。頑張ってくださいね! ところで……患者を生贄に見立てる祭壇座はまだしも、なんで牛飼い座が歯の治療なんてしてくれるんですか?」
「牛飼い座→牛飼い→うしかい→う、歯科医! ってことなんじゃない?」
『審議中』
 この日一日、一葉は自らの軽率な発言に心底後悔したのであった―――


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
各務 英流(ib6372
20歳・女・シ
何 静花(ib9584
15歳・女・泰
ノエミ・フィオレラ(ic1463
14歳・女・騎


■リプレイ本文

●ギュンギュン削ってガリガリゴリゴリ
 7月某日、曇り。灰色の雲が広がる空の下、開拓者たちは三位湖のほとりへとやってきていた。
 そこにはすでにアヤカシ二体が陣取っており、切り株を椅子代わりにしている牛飼い座と、割と豪華な彫り物がされた茶色の祭壇座が場違いながらそこに在る。
 特に牛飼い座の方は酷い。緑色の、割烹着とエプロンを足して二で割り怪しさでミキサーしたようなその格好は、マスクと、同じく緑色の帽子のようなもので倍率ドン更に倍。屋内ならまだしも、こんな風光明媚な湖畔に居るような格好では断じて無い。
 この二体はまず歯の治療を受けなければダメージを与えることができない。奇襲は無意味ということで、開拓者たちは素直に近づいていく。
『らっしゃい! ボオーテスよう、お客さんだぜ!』
「物事は全てエレガントに運び給え。エレガントに……アルター」
 敵意を見せるわけでもなく、二体のアヤカシは心良く開拓者たちを迎える。アヤカシに歓迎されるというのも何か不思議な感じがするものである。
「アヤカシに歯の治療をしてもらう日が来るとはなァ……」
 鷲尾天斗(ia0371)のぼやきはまさに心の底からのもの。アヤカシとは倒すものであるのに、大人しく拘束されて治療をしてもらうなどと正気の沙汰ではない。
 とはいえ、しっかり歯の治療をしてもらったという前例が幾つもあるためそこは信用してもよい。してもよいが、やはり心情的に納得はしづらいだろう。
「ふっ……私の方の準備は万端だよ。誰から診るかね?」
「じゃ俺からだァ。……ん? 意外と歯が悪いの多いんだなァ」
「治療を受けないとダメージを与えられないんだから仕方ないだろ。まぁ私は親知らずがあるから、折角ならそれを何とかしてもらいたいというのもある」
「あたしの火力は開拓者随一。ねーねー、あたしが最初じゃダメぇ?」
「……しゃーねーなァ。ここはれでぃーふぁーすとにしとくか」
「ロリーファーストの間違いではなくて?」
「上手いこと言ったつもりかよ!」
 一番を宣言した鷲尾であったが、ズラリと並んだ面子を見て呆れたように呟く。
 何 静花(ib9584)の意見はもっともで、治療されないと手が出せないのだから診てもらうほかはあるまい。
 リィムナ・ピサレット(ib5201)が一番先に治療を受けたいと言い出し、しばし考えた後に鷲尾は順番を譲る。確かに火力的にリィムナは貴重な戦力であり、少しでも回復時間が長くなるならそれもいいだろうとの判断である。
 案の定、各務 英流(ib6372)には冷たい目で見られたが、まぁ下心が全く無いわけでもなかろう。
「殿方の前で見ず知らずのアヤカシに口の中を弄られるなんて……。あの、私は牛飼い座様の助手をさせていただき、殿方の悶える姿を間近で眺めるというのはどうでしょうか!?」
「あ、あの……物凄い勢いで本音が漏れているんですが、それは……」
「ほぉう、これはなかなかの逸材だね〜。でも本職の人がそれを許してくれるかな〜?」
 ノエミ・フィオレラ(ic1463)は可愛らしく恥じらいながらも、わりととんでもないことを言い出した。
 真亡・雫(ia0432)がやんわりと窘めるが、叢雲・暁(ia5363)は半ば煽りつつ牛飼い座に是非を問う。
 妙齢の女性の姿形をしている牛飼い座は、怪しい服装とは打って変わって実にエレガントに答えた。
「すまない……治療は専門知識が要るのでね。お気持ちは嬉しいが座って待っていてくれたまえ……レディ。それにね」
 一呼吸置いて、牛飼い座は続ける。念願叶ったと言わんばかりに。
「私は歯医者になりたい……常々そう思っていた。口は生物の玄関であり、それが美しく保たれることは実にエレガントだ。私の生き甲斐を奪わないでくれたまえ」
 そう言いつつ、牛飼い座はマスクを外して微笑んでみせる。そこから見える歯はわずかだが、素晴らしく整った歯並びに新鮮なミルクのような乳白色が輝く。
 よくキザな男が歯を輝かせて……という比喩を見かけるが、女性とはいえそれを実際目撃するとは思わなかった開拓者たちである。
『そんじゃ診察台にお乗りくださーい。危ないから動くなよぉ?』
 文字通りの祭壇のような形をしていた祭壇座の身体が変形し、椅子のような段差を作る。そればかりか六本の足が生えリィムナをガッチリと固定する。その拘束力はかなりのものだ。大の大人でも振りほどくのは無理だろう。
「では口を開けてくれたまえ。…………ふむふむ、まだ全て乳歯だね」
 スプーンの先に小さな鏡を付けたような器具でリィムナの歯の状態を調べていく牛飼い座。
 本人申告でもあったが、虫歯の前兆らしき黒い小さな点が一つ。だが、牛飼い座は一通り診終わると、疲労困憊対策に狸寝入りで熟睡していたリィムナを頬をエレガントに叩いた。
「このくらいならば問題ないよ。乳歯はそのうち生え変わるからね」
「ふぇ……? 治さないの?」
「無理に治療する事はエレガントではないからね。よく歯磨きできているよ」
「あー……うん、ありがとー」
 治してもらえないとダメージを与えられないのだが、牛飼い座の行動原理の裏を返せば健康な人間は治療してもらうべき患部がないということでもある。転んで擦りむいた程度で手術をしましょうなどと言う医者はいない。
「そんじゃ俺は大丈夫だなァ。当然全部生え変わってるし悪いとこの一つや二つあんだろォ」
「無いならそれに越したことは無いのだがね」
 祭壇座がリィムナを開放し、鷲尾をガッチリとキャッチ。試しにもがこうとしてみるが、祭壇座のアーム兼足はびくともしなかった。
「覚えておくが良い……貴様が私の気まぐれで生かされているという現実を。今の貴様はただの無力な獲物だという事を!」
「五月蝿ぇよ!」
「キミもだよ。さぁ口を開け給え」
 各務と鷲尾のやりとりをエレガントに流し、先ほどと同じようにスプーンのような鏡で鷲尾の口内を一通り診た牛飼い座は、ふむ、と呟き切り出した。
「少し削ればすぐ治る。ただ、恋人がいるならもう少し歯磨きをしっかりした方がいい。口臭の元になるよ。歯茎だけでなく舌もブラシで磨くといい」
「…………そらァどうも」
 治療は受けたが、意外とあっさり終わってしまって拍子抜けの鷲尾。しかし何故かわからないがどっと疲れ士気が上がらない。あのキュインキュインいう道具のせいなのは明らかだが、これで負の感情を取られているというものなんだか理不尽な気がした。
 問題が起きたのは次の何だった。
「一箇所危ない歯がある。銀歯と詰め物、どちらがいいかね?」
「は?」
「歯を削ってその上に人体に無害な銀を被せるか、同じく無害で歯に似たような物質で削ったところを埋め立てるか。好きに選び給え」
「いや、私は親知らずが鬱陶しかっただけなんだが」
「その親知らずのすぐ横の歯がね……少々問題ありなのだよ。……まぁ詰め物にしておこう。銀歯だと歯の風貌が変わってしまう……私としてはそれはオススメしない。エレガントさに欠ける」
「……やんないと駄目か?」
「やったほうがいいね。とりあえず親知らずを抜いてから」
 そう言って、麻酔針を患部近くの歯茎に刺し、小型の万力のようなものを取り出す。
 それで無理やり引き抜こうというのか。見るからに痛そうだったが、腕がいいのか麻酔のおかげか、それ自体は特に痛みはなかった。 
 続けて牛飼い座が小さな鏡から別の器具に持ち替える。先端に細い釘のようなものが付いた、歯ブラシの出来損ないのような物体。
 それに牛飼い座が念を込めると、キュイーンと甲高い音を立てて先端の小さな釘のようなものが高速回転を始める……!
『!?』
 その音を聞き、順番待ちしていた開拓者たちは思わず戦慄した。
 この心の奥深くを抉るような不快な音は何だ? 総毛立ち汗が滲むような不安を煽る音。
 だが、待っている者はまだいい。問題はそれを口の中に突っ込まれようとしている何だ。
「……お、おいそれ大丈夫なんだろうな!?」
「任せ給え。これでも腕は確かだよ。口を開け給え」
「アッーーー!」
 ガリガリガリ! と凄まじい音を立て歯が削れていく。いや、正確に言うなら音自体は大したことはないのだが、本人には骨を通じて頭全体に響き渡るのだ。
『キヒヒ! よう、暴れんなよ兄ちゃん。じゃなくて姉ちゃんか? まぁ俺っちが押さえてるんだから暴れようもないけどな!?』
 祭壇座の煽りなど聞いていられない。牛飼い座が気まぐれを起こし舌をこの道具で抉ってきたらという不安さえ今は微塵もない。あるのは、純粋に音と歯を削られている恐怖だけだった。
「ふっ……終わったよ。口をすすいだ後、30分は飲食しないでくれ給え」
 近くに置いてあった清潔な水で口内をすすぎ、ふらふらとした足取りで切り株に座り込む何。その背中は煤けているようでもあり、真っ白に燃え尽きているようでもあったという。
「くっ……殺せ!」
「なんでだね?」
「治療と称して私にいやらしい事をするつもりでしょう! 薄い本みたいに! 薄い本みたいに!」
「よくわからないが口を開け給え。後が閊えているのでね」
「あがあ! ひぎい! アイェェェ!」
「ふっ……大袈裟だねキミは」
 ノエミも治療を受けるが、ネタを振っても牛飼い座はエレガントに受け流し治療に終始する。
 やがて全員の診察と治療が終わったが、リィムナ、真亡、各務(!)は治療の必要がないらしくダメージを与えられない。きちんと歯の管理をしていたことが仇になった格好である。
 逆に言うとこの三名だけ疲労せず元気なのだが、やはりダメージを与えられないのは困る。よく出来たアヤカシだ―――

●何もしたくない
「仕方ありません、僕たちは支援に専念します。皆さん、戦闘準備を!」
「って……どーしたのみんな! ここからが本番だよ!?」
 真亡とリィムナが叫ぶが、他のメンバーはどんよりとした顔をしたまま立ち上がろうともしない。
 負の感情を還元されたことより、やはり歯の治療の後遺症が残っているらしかった。
 特に何は酷い。先ほどから真っ白に燃え尽きたままで顔すら上げていない。
「きゅいーんって……ガリガリって……ズズズズズって……ふふふ……」
「あの叢雲さんまでもが遠い目をしていますわね……。こうなれば私達でやるしかありませんわ!」
「でも、僕達ではダメージを与えられませんよ?」
「さて……治療は終わった。私達としてはキミたちと戦う理由はない。次の患者を求めて出発したいんだが」
「残念だけどそうは行かないんだよねー。歯を治してもらえるのはいいけどさ、負の感情を還元され続けたら新しいアヤカシがどんどん生まれちゃう。それの被害者を増やす訳にはいかないよー!」
 リィムナは黄泉より這い出る者を使用し牛飼い座に直撃させるが、彼女は怯むことすら無くそのダメージを無効化した。続けて真亡と各務が斬りかかるも、その刃は文字通り歯が立たない。
「ヘラクレス座ですわ!」
「蠍座、力を貸して!」
 星の一欠片を使用する各務とリィムナ。
 その効果は各務が『どんな重い武装でもペナルティ無しで扱えるようになる』というもので、リィムナの方は『どんな高温の中でも活動できる(直接火に炙られるのはダメ)』というものだった。
 当然、これでは現状は打破できない。流石の牛飼い座と祭壇座も振りかかる火の粉は払うべしと戦闘態勢に入り、このままでは全員の命が危ない。
「残された可能性は……僕の乙女座? 上手くいくといいけれど……!」
 祈るような気持ちで乙女座のメダルを発動させる真亡。するとその右手が、ぼんやりと優しい緑色に包まれる。
 もしやと思い近場の叢雲に触れてみると……
「はっ!? あれっ、気だるさが抜けた!? なんか体の調子もいい!」
 真亡が乙女座のメダルを使った時の効果は『発動後最初に触れた者の状態異常全てを回復する』というもの。肉体的なダメージは無理だが、鬱や恐怖などのメンタル面、毒や麻痺などは治療できる癒やしの効果である。
「さっすが、癒し系男子♪」
「て、照れるのでやめてください」
 そうと分かれば真亡の行動は早い。メダルを何度も発動しすぐさま仲間たちを鬱状態から回復させた。
『おいおいアレが噂の星の一欠片かよ! まずいぜボオーテス!』
「ふっ……狼狽えるんじゃあない。エレガントな星座は狼狽えない」
「遅いよっ!」
 叢雲が早駆で一気に肉薄し祭壇座の後ろに回る。どちらが前か後ろかはよくわからないが、祭壇座が迎撃に回ろうとする前に炉座のメダルを発動!
「吼えろ炉座のメダル! これぞ炉座の最大奥義! 炉座昇龍覇!」
『ギャァァァァ!?』
 叢雲が炉座のメダルを使った場合『対象を殴る際にのみ自らの拳を1500℃の高温にする』という効果を得る。
 鉄をも溶かしかねない灼熱の拳は、木製である祭壇座を一瞬にして発火させ燃え上がらせた。
「アルター……!」
『へ……へへ……なんて悲鳴だ……。俺っちは、やっぱり……エレガント、には―――』
 火が全身に回り、やがて動かなくなる祭壇座。その体が崩れると同時に火は消え、燃えカスが瘴気に還り……祭壇座のメダルが残された。
「白き剣嵐……姫騎士ノエミ推して参ります!」
 友の死を悼む間もなく、牛飼い座はノエミに斬りかかられる。
 ギリギリで回避しつつ、手にした例の釘歯ブラシもどきを構え、キュイーンと音を立てる。折角真亡に戻してもらったが、その音が再び開拓者たちのトラウマを抉っていく……!
「くぅぅ……! 牡牛座のメダルを……!」
 藁にもすがるような気持ちで発動した牡牛座のメダル。その効果は『赤い物に対する攻撃力が3倍になる』であった。
 時と場合によっては有効だが、牛飼い座は赤くない上音に苛まれている現状を改善するものではない。
「祭壇は壊れるのが様式美だろ多分!? 昇竜!? いいや鶴だ!? クレインキックだ!?」
 最も精神ダメージの大きかった何は最早錯乱状態で何を言っているのかよくわからない。
 無意識に鶴座のメダルを発動し、飛び蹴りを放つ何。彼女が鶴座のメダルを使うときの効果は……
「―ッ―――――!?」
『周囲に暴風を起こし天候を雨に変える』。吹き荒れる風の音で釘歯ブラシの音が掻き消えるが、自身が起こした風に煽られ飛び蹴りは失敗に終わり、逆に蹴り飛ばされた。
 ところで、覚えているだろうか。牛飼い座と祭壇座の戦闘力は……
「それなり。治してもらって気ィ引けるが、治療代だァ、受け取りなァ!!」
 鷲尾が狼座のメダルを発動し、ボーク・フォルサーで突撃する。メダルの効果は『突撃系の技を使用した際、狼型のオーラを纏いダメージを上げる』。
 右上半身を抉り取られた牛飼い座は、それでもエレガントに微笑み……こう言った。
「歯を大切にな―――」
 どこまでもブレない牛飼い座は、開拓者の負の感情すら難なく還元し……黄金のメダルとなって消えたのであった―――