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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 メダルの数もそろそろ40に届こうかという昨今、狼座によって新たな事実が判明した。 普通のアヤカシは闇雲に負の感情を瘴気に還元していることが多いが、どうやら星座アヤカシたちはとある目的に添って行動しているらしい。意志があるなしに関わらず……だ。 その目的とは、最強の星座を蘇らせること。導星の社はそのためにアヤカシが建造したものと思われる。 そして……開拓者ギルドに保管されている星の一欠片は44枚となり、88星座の半数となったその時、物語は新たなステージへと進む――― 「今回の星座は炉座フォルナックス。外見上は手足が生えた火鉢みたいな感じね……って、何やってるの亜理紗」 「しー! 静かに。ちょっと試してみたいことがありまして」 ある日の開拓者ギルド。 今日も今日とて星座アヤカシの依頼を紹介しようとしていた西沢 一葉であったが、黄金に輝く大量のメダルを前に何やら念じている鷲尾 亜理紗に遮られた。 ランダムに44枚並べられたメダル。かざされた亜理紗の手がぼんやり光ったかと思うと、それに呼応するようにメダルも輝き始める。 「そういえばあなた陰陽師だったっけ」 「そう言えばも何も陰陽師ですが!?」 「だってあなた、最近陰陽師らしいこと何もしてなかったし」 「もー、いいから黙っててくださいよ!」 88枚の内44枚、半数集まったことにより何か情報が得られないかと亜理紗は試行錯誤していた。 訳知りの平坂空羅は聞きに行っても答えてくれる可能性はゼロだ。ならばこちらでどうにか情報を得る他ない。 しかし導星の社にしても星の一欠片にしても記録らしきものは出てこなかった。ならば新たに手に入れたものから探る他あるまい。 今亜理紗が使っているのは、同じ起源の物品から関連する情報を読み取るオリジナルの術。ただし、彼女自身がへっぽこ陰陽師であるのであまり具体的なことはわからない……はずなのだが。 「……暗い……洞窟……? 天井に88星座……光ってるのとそうでないのがあって、光ってるのはメダルが確認されているのが殆ど……。あ、炉座はもう光ってますね」 「めっさ詳細じゃないの!? っていうかあなた、星図だけで何の星座か分かるの?」 「絵が描いてありますから。……出入口がない……? 岩盤に覆われた、古墳みたいな感じでしょうか……。棺はなし……目ぼしいのは天井の絵だけ……」 「……そこに行ける?」 「うーん……もう少しメダルの数が増えれば、この場所とのつながりが強まって跳ぶこともできるかもしれませんが、今は無理です。とりあえず―――」 そこで、一旦亜理紗の言葉が途切れる。その首筋に指で圧迫されたような跡がつく。誰も首など絞めていないのに!? 「ぐっ……かはっ……!」 「亜理紗!? どうしたの!?」 遠見のようにその場所……仮に星見の間とでも名付けようか。そこを見ていた亜理紗だけに響く声。 いつの間にか星見の間に現れた黒い影。その影が、低く重い声でこう囁く。 『貴様……見ているな。こんな真似ができるとは驚いたぞ』 「あな……た、は……誰……!?」 『ククク……いずれ分かるさ……いずれな』 「亜理紗、接続を切って! 早く!」 一葉に促され、亜理紗は術を解きその場で激しく咳き込む。 どうやらあの出入口のない星見の間は重要な意味を持つらしい。謎の黒い影が亜理紗に警告を与えたことからも明らかだ。 しかし、出入口がないのにどうやってあの黒い影は星見の間に入ったのか。亜理紗が遠見を始めた当初はいなかったはずなのに……。 「とりあえずあなたは少し休んでなさい。話を依頼に戻すわね……今回倒してもらう炉座は、火鉢みたいな姿をしてるっていうのは言ったわよね?」 炉座はその内部に超高温の火を燃焼させており、開拓者からは武具を、一般人からは鍬などの農機具などを奪って自分の中に放り込み、ドロドロに溶かしてしまうのだとか。 大事な愛用の武具を溶かされた開拓者の精神的ダメージは計り知れない。また、換えのきく農機具でも一般人には金銭的に大打撃になることもある。 幸いなのは、あくまで手持ちの武具や農機具だけで人を放り込んで焼き殺そうとはしないらしい。もっとも、体内の炎や溶かした鉄などをばら撒き攻撃してくることもあるので油断はできないが。 「はっきり言っておくけど、このアヤカシに溶かれされた武具は絶対に戻ってこない。破壊されたくない武具は決して当日持っていかないこと。あと、このアヤカシは体が常時高温だから素手で戦う場合火傷に注意」 最終決戦場となるのだろうか。星見の間なる場所が判明し、星座たちは静かに脈動を続けている。 まずは目の前の炉座の撃破。武器破壊を行う灼熱のアヤカシである――― |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●熱波戦線 薄曇りの空の下、集星のとある平原には、その場に似つかわしくない巨大な火鉢が立っていた。 全長5m近いだろうか。陶器のような光沢のある身体に太い手足。顔などはなく、正直どちらが表なのか裏なのかは全くわからない。 開拓者たちは慎重に近づくが、遮蔽物のない平原である。すぐに発見され炉座フォルナックスがこちらに突っ込んでくる。 「来るぞ! 汝ら、気を入れて行けい!」 「先鋒は任せろー! バリバリー!」 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)が号令をかけるのとほぼ同時に、何 静花 (ib9584)は瞬脚を発動、アヤカシのすぐ側に出現していた。 彼女が装備しているのは篭手であり、手持ちの武器ではない。よって奪われ溶かされる心配はないのだが……。 「おら、殴り合えよ」 文字通りの先制パンチを炉座の胴体に打ち込む何。しかし篭手で保護されていてなお浸透してくる熱は、炉座の表面温度と中身の灼熱具合を多分に感じさせるものだった。 『ろー!』 野太い声でよくわからない叫びを上げつつ炉座は反撃する。 太い腕を振りかぶり、何に拳を叩きつける! 「ぬわーっ!」 弾き飛ばされた何は仲間のところに強制的に戻される。そこには、呆れたような面々の顔があった。 「ひ、一人で勝手に突っ込んだら危ないですよ!」 「熱いうちにと言うだろう」 「大丈夫ですよ。きっと、彼が死なない限りいつでも熱いままです」 「チィ。銀髪ショタコンビは口が減らないな」 『誰が銀髪ショタコンビですかっ!?』 何を嗜めた相川・勝一(ia0675)と真亡・雫(ia0432)だったが、何のぼやきに仲良くツッコむ。 しかし炉座は待ってくれない。不意にお辞儀のようなものをしたかと思うと、真っ赤に赤熱した粘度のある物体を開拓者たちに向けて発射した! 武器受けどころか盾受けすら危ないと判断した開拓者たちは、各々の判断で回避する。地面に落ちた燃える水のような物体は、生えていた雑草を一瞬で灰にし地面を黒焦げにしてしまう。 「昔、里での製鉄作業にも立ち会った事のある身としては炉の脅威も知っているので……その危険性は知っているつもりです。しかし……」 「自分から溶けた鉄を飛ばしてくる炉なんてねェわなァ。いっそのこと転ばして中身全部ブチまけさせてやらァ!」 三笠 三四郎(ia0163)は腕に固定するアームクロスボウで、鷲尾天斗(ia0371)は二丁の銃で距離を取りつつ射撃戦を仕掛けるようだ。 見た目は陶器のようだが、その装甲は硬い。丸みを帯びているせいもあるのか、ヒットしても表面にめり込むくらいしか効果が見られない。 それは腕や足を狙っても同義で、痛みを感じない体質なのか余裕のよっちゃんで突っ込んでくる。 「あら……主に狙われているのは真亡さんと相川さんですわね。……はっ!? まさかあぁ見えてショタコン!?」 「いや、手持ち武器を持ってるやつを優先しとるんじゃろ。汝も気をつけんとその長斧、持っていかれるぞ」 「とか言ってる間にこちらに来てますわぁぁぁ!?」 あっけらかんとしていた各務 英流(ib6372)だったが、リンスガルトが言うように炉座は手持ち武器を持ってる人間を優先するらしい。巨体を揺らし二人に……いや、各務に迫る! 「任せるのじゃ。水瓶座の力とやら……とくと見せてやろう」 リンスガルトは水瓶座のメダルを取り出し発動させる。すると彼女の前に『5×5mの巨大な氷の壁が出現』し、炉座の行く手を遮る。 見た目からして分厚い壁なので、力自慢の炉座であっても破壊するのは一苦労だろう。 「ならば私も権力の影に隠れてメダル発動! ですわ!」 気を良くした各務はリンスガルトが作ってくれた壁の後ろでコップ座のメダルを発動させる。相手が高熱・火の使い手なので、水を連想させるメダルを持ってきている面子が多いらしい。 すると、周囲の地面から急に水が湧き出し『半径30m円を水深3mのプールに変える』。 即ち、足がつかない。溺れこそしないだろうが、これではまともな接近戦はおろか銃撃戦にも苦労する。 「ははぁん。なるほど、この円と水でコップをイメージしているんですのね!」 「感心している場合か馬鹿者! あやつも一緒に浸かっておるのだぞ!?」 現実逃避をする各務だったが、リンスガルトの指摘通り炉座もしっかり水の中である。 それは言わば焼いた石を放り込んで沸かす風呂のようなもの。みるみるうちに水の温度は上昇し、冷たいからヌルい、ヌルいから暖かい、暖かいから熱いへ変わっていく……! 「ちょっ、あ、熱い! 僕、熱いお風呂とか苦手なんですがー!?」 「冗談じゃねェ、煮魚にされてたまるかァ! 英流、メダルを解除しろ!」 「それが、一定時間経たないと解除されない仕様らしくて……」 慌てる相川。怒声を浴びせる鷲尾。自分の意志で効果を解除できないパターンに頬をひきつらせる各務。 このままではすぐに人が耐えられる限界温度を超え、火傷どころかゆでたまごもかくやという状況になってしまう。 そんな時、三笠は冷静に状況を分析し……そして己が選び持ち込んだテーブル山座のメダルに運命を託す。 「私の読みが正しければ……。後は……!」 メダルが輝き、その手から発せられたのは重力波。黒い波動が各務を直撃し、数十メートルに渡って弾き飛ばす。 纏めるなら『対象を50m後退させる重力波を放つ』といったところか。ただし、この重力波そのものにダメージはないので、崖に押し付けて潰すなどダメージの与え方は考える必要がありそうだが。 コップ座によって出現したプールは各務を中心にしているらしく、他のメンバーは熱湯風呂から開放されたのであった。 「リンスガルトさん、各務さんのプールを氷の壁で冷やしてあげてください。真亡さん、相川さん、相手は急激な温度差で少し脆くなったはずです。追撃を!」 「ふむぅ。地味な役回りじゃのう」 三笠の指示で周囲が動く。リンスガルトは少々不満気だったが、各務一人だけを熱湯に漬け込んでおくわけにもいくまいと救助に向かった。 「狐くん……またお願いできるかい?」 真亡は小狐座のメダルを使い、エネルギー体の小狐を作り出す。 敵に触れると爆発するそれは、可愛らしい仕草で頷くとまっすぐ炉座に突撃し……爆発によりよろめかせる。その胴体にピシっと亀裂が入ったのを開拓者たちは見逃さない。 「ここで巨嘴鳥座の私が参上だ。俺、今度こそ点穴を突くんだ……」 死亡フラグビンビンの台詞を吐きつつ何が巨嘴鳥座のメダルを片手に突撃する。 すると彼女の『右手に鳥の嘴のような手甲が、左手に鉄球のような手甲が出現。それらは鎖で繋がっている』。 「……嘴お―――」 「それ以上いけない」 「ツッコミありがとさん!」 手甲、しかも先が尖っている嘴の方なら極神点穴も使用可能。真亡にツッコミを入れてもらいつつ、何は念願の点穴を突くことに成功する。 ひび割れた部分に点穴によるピンポイント攻撃を喰らい、ビシビシと音を立てひびが増大。ついには人間で言う腰骨辺りに穴が空き、灼熱の溶けた鉄が周囲に流れ出る……! 「危ない! というか、周辺が焼け野原になっちゃいますよ!?」 「や、焼き畑と言っても言い訳になりませんよね……」 相川と三笠は、明らかに炉座の体積を超える量流れ出てくる鉄を前に頬をひきつらせる。 灼熱の洪水。燃える水。周囲に気温は一気に上昇し、動植物を焼き焦がしていく。 一方、穴が開いたくらいでは死なないのか炉座は元気にこちらに向かってくる。ただし、鉄が流れだしたままなので周囲に飛び散り非情に危険。雫一滴で火傷は免れない。 「とにかく、流れ出る鉄をなんとかせねば! このメダル、どういう効果が出るのか。水系のまともな効果だといいのだが……!」 エリダヌス座のメダルを発動させる相川。これも川の星座なので水系には違いない。 かといって必ず望んだ効果が出るかわからないのも星の一欠片の醍醐味であるが。 ちなみに今回はというと…… 「夕立っぽい!?」 「勝一くん頑張ったっぽい!」 突如、この戦場にだけ土砂降りのような雨が降りしきる。空自体は晴れているので、完全にメダルによる効果だ。 溶けた鉄を急速に冷やし固めていくのは勿論、焼け野原となった草木が元の姿に戻っていくまさに恵みの雨のような効果もあるようだ。 纏めるなら『損傷を受けた草木を元に戻す豪雨を戦場に降らす』といったところ。これが木材となってしまった木であったり木造家屋などにも効果があるかは要検証である。 「こりゃァ後で怒られなくて済みそうだ。しっかし……」 鷲尾は豪雨に打たれ苦しむように体を震わせる炉座を見やる。その体、何によって開けられた穴からは未だ溶けた鉄が流れ出ている。 問題はそれではなく、自分自身とその手に握った魚座のメダル。これまでも何度か使用しているが、美少女になるという効果しか判明していない。 他の使用者は美少女化+αがあっただけに、彼にも何かあるはずなのだ。それとも、自分だけ美少女化しか効果が無いのか……。 これまで戦闘に役に立たない効果はいくつも見てきた。しかし、戦闘以外でも役に立たない能力は自分の魚座だけではないのか? そんな焦燥感が……忘れたはずの無力感を呼び覚ます。 「ボケっとするでないわ、たわけめ!」 ふと気づくと炉座が接近しており、その拳をリンスガルトが蹴りつけ鷲尾をフォローしてくれていた。 「スローすぎてあくびがでるわ!」 そう挑発し炉座の注意を引き受け、真亡と相川も加わる。ひび割れていてなお、炉座は頑丈だ。 「畜生ッ……!」 「……鷲尾さん。私は星の一欠片に詳しい方ではないですが、あなたは出発前に仰っていたではないですか」 『可能性を信じて! 魚座に決めたァ!』それは鷲尾自身が言った言葉。アームクロスボウを放ちながら、三笠は続ける。 「私が思うに、何か条件付けがあるのではないかと。炉は火が入って初めて鉄を溶かします。火の入らない炉は、ただの入れ物に過ぎないんですよ」 「馬鹿が悩んでもしかたないということだ。私もそうだからよく分かる。何が言いたいかというと、グチグチ言ってないで行動しろこのお惚気野郎」 三笠に続き何まで声をかけつつ炉座に向かう。鷲尾は多少面食らいながらも、いつもの不敵な表情に戻った。 「ハッ、別に悩んじゃいねェよ。勝一の降らした雨のお陰でちょっとおセンチになっただけだ。見せてやろうじゃねェか、黄道十二星座の力をよ!」 鷲尾が魚座のメダルを発動させると、その身長が縮み眼帯をつけた可愛らしい少女へと変化する。 魚座。魚。水。何も出ない。出ないが……操れるなら? こんな場所で大量の水……? 「水ならここにあるじゃありませんこと!?」 未だプールに浮かんだままの各務が鷲尾に向かって叫ぶ。 そうだ、あの水。あれを使えたなら! 「いい効果発動してんじゃねェか英流! 後でキスしてやらぁ!」 「お姉様のキスにしてくださいまし」 「じゃ亜理紗にキスした俺がお前にキス」 「…………百歩譲ってその女の子状態でなら」 「まァそれは後だ! 魚座の本当の力、見せてみろォォォ!」 鷲尾は各務が浮かんでいるプールに手を突っ込み、イメージする。 すると大量の水が吸い込まれるように鷲尾の手に圧縮され、巨大なプールを形成していた水が人の頭くらいにまで縮まり手に収まってしまう。 「オラオラオラオラァ! 釣りはイラネェから取っておきなァ!」 突き出した右手からは、螺旋状に回転する巨大な水流波! 炉座は腕を交差してそれをガード! しかし!? 「狐くん!」 「手足があったのが運の尽きだな!」 真亡が再び小狐座のメダルを発動、炉座の右腕を爆破してガードを開く! 同時に何が巨嘴鳥座のメダルで炉座の左手を拘束、ガードをこじ開ける! 「亀のように……というか瓶のように転んだら自力で起き上がれないと楽でいいのだが、どうだ!」 「ここで決めましょう!」 相川が鬼切りで左足を攻撃、体勢を崩すと同時に三笠がテーブル山座のメダルによる重力波で右足を掠めるように撃ち、自重を支えきれなくなった炉座は螺旋水流をまともに受ける。 ガリガリと硬いものを削るような音。それが収まる前に炉座の土手っ腹に穴が空き、水と大量溶けた熱がぶつかり合い……水蒸気爆発を起こした。 もうもうと煙る灰色の煙が収まった後には、バラバラに砕け散った炉座の破片や溶けた鉄が瘴気へと還っていく光景だけが残ったという。 輝く炉座のメダルを拾い上げ、鷲尾は魚座のメダルと見比べてみる。 彼が魚座を使った時の効果は『美少女化し、大量の水を螺旋状の水流波として撃ち出せる。ただし水は別途どこからか供給しなければならない』というものであった――― ●星見の間より 星座だけが薄い光を放つ閉ざされた暗闇。そこに立つ人影と、それを敬うように片膝をつく人影があった。 立っている人物は上機嫌な様子でもう一人に声をかける。 「炉座もやられたか。なかなかどうして奴らもやるものよ」 「は……。いかが致しましょう? すでに半数の星座が敗北しておりますが……」 「もう一匹一匹では手に負えまい。顕現した星座アヤカシを纏め、複数で挑ませろ。それで連中が敗北するようなら我が相手をするまでもない。勝ち進むようであれば……」 「それはそれで計画が進む、と……?」 「戦いとは二手三手先を読むものだ。もっとも……」 星の一欠片は完全なイレギュラーだがな。そう言い残して、立っていた方の影はこの場から姿を消した。 片膝を付いていた影は立ち上がり、天井に描かれた88星座の内まだ輝いていない……顕現していない星座たちを見つめる。 「……早くおいで。あのお方の計画を進めるために。そして僕達自身のために―――」 |