アイェェェ!?
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/06/11 02:36



■オープニング本文

 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。
 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する―――


 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。
 メダルの数もそろそろ半数に届こうかという昨今、奥ゆかしくも狼座によって新たな事実が判明した。
 普通のアヤカシは闇雲に負の感情を瘴気に還元していることが多い。しかし、あぁ、なんたること! 星座アヤカシたちはとある目的に添って行動しているのだ。その意志があるなしに関わらず。
 その目的とは、最強の星座を蘇らせること。導星の社はそのためにアヤカシが建造したものと思われる。
 ハッキリ言ってどの星座が最強なのかというのは全く不明。現時点では黄道十二星座の一つではないかとささやかれている! コワイ!

「今回のアヤカシは飛魚座ボランス。忍者戦士飛魚が相手よ」
「アイェェェ!? トビウオ!? トビウオナンデ!?」
 ある日の開拓者ギルド。
 今日も今日とて星座アヤカシが現れたようだが、ギルド職員である西沢 一葉=サンと鷲尾 亜理紗=サンの様子はいつもと違っていた。
 何が、と問われると返答に窮するが、とにかく場の雰囲気が違う。それはカズハ=サンが呟いた忍者戦士飛魚が原因だろう。

 アリサ=サンにもよくわからないが、忍者とか戦士なら特に問題はないのだが、忍者戦士と続けられた上に名前が飛魚となると穏やかではいられない。それは彼女の細胞レベルに刻み込まれた恐怖とストレスによるものだ。
 勿論それはアリサ=サンだけに留まらない。依頼書を持つカズハ=サンの手も微かに震えていた。彼女も恐いのだ。
 それでも勇気を振り絞り、カズハ=サンは続ける。開拓者=サンに依頼を届けるために。そのバストは豊満であった。

「ボランス=サンは特殊なアヤカシで、開拓者=サンがアヤカシと戦っている時に限って現れ乱入し、アヤカシの方を倒してしまうの」
「そうすると経験値が貰えない上に、星の一欠片も手に入れられない……そういうことですか?」
 アリサ=サンの推察は当たっていた。集星でのみ発生する星座アヤカシ。それらが落とす星の一欠片は黄道十二星座以外一品物ではない。気合を入れてアヤカシを狩れば確率とはいえ複数人数が手に入れられる。
 その狩りを邪魔し獲物を横取りすることで開拓者=サンたちからヘイトという負の感情を還元する。サツバツ!

「外見は黒のシノビ装束に身を包んだ人型なんだけど、頭部だけ飛魚のような魚の形をしているわ。半魚人みたいなものかしら」
「シノビのアヤカシというと、ペガサス座もそうですけど……やっぱりスゴイ級なんですよね?」
「どちらかというとテンサイ級ね。ペガサス座みたいなヤバイ級よりは劣るかもしれないけれど」
 より多くの負の感情を得るために、同族殺しさえ厭わない凶気のアヤカシ。それが飛魚座。
 その特性上、まずは集星でアヤカシと戦い、ボランス=サンがやってくるのを待ち構えることが必要となってくる。

 忍者戦士飛魚。そのカラテは空を裂き、そのスリケンは何十メートルも離れた敵を貫くという。
 果たして、開拓者=サンはボランス=サンを打ち破ることができるのか、それともツキジめいた惨状を晒すことになるのか。おお、ブッダ! 願わくば彼らに平穏無事のあらんことを―――!


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
レネネト(ib0260
14歳・女・吟
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
各務 英流(ib6372
20歳・女・シ
何 静花(ib9584
15歳・女・泰
サエ サフラワーユ(ib9923
15歳・女・陰


■リプレイ本文

●慈悲はない
 石鏡の国、集星。その北東部に位置する山は、夏に向け様々な命が息づき太陽が輝いている。
 そんな汗ばむような初夏の山に一匹の大熊が徘徊している。そしてそれを遠目で監視する開拓者たちの姿。正直この場に不釣合いである。
「……気配はないな。遠くからこっちを監視してんのかァ?」
「やはり乱入してくるところを待つ他ない、ということでしょうね」

 飛魚座、ボランス=サンと戦うために、まずは目の前の大熊座……ウルサ・マヨル=サンと戦って誘き出す必要がある。鷲尾天斗(ia0371)と三笠 三四郎(ia0163)は、周囲に他の気配が全く無いことを確認しておく。

「おい。飛魚座にも注意だが、ロリコンと変態と百合が居るからそのケが無いなら気をつけろ」
「アイェェェ!? み、味方にも注意なのですか!?」
「大丈夫です。大袈裟に言っているだけで多分害はないのです。多分」
 まだまだ初心者といった感じでおどおどしていたサエ サフラワーユ(ib9923)に対し、何 静花(ib9584)はありがたいアドバイスを施す。レネネト(ib0260)はフォローを入れつつも、ロリコンと百合はともかく変態は誰のことだろうと内心首をひねった。

「ふっふっふー。それじゃ仕掛けちゃおっか!」
「そうですわね。待っていても始まりませんから」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)の幼い笑顔からはやる気と自信が溢れていた。それに同意する各務 英流(ib6372)は逆に乗り気そうには見えない。
 大熊座は小熊座が一緒にいなければ大したアヤカシではない。それが不満なのだろうか?

「先手必勝だァ!」
 ワシオ=サンがいの一番に飛び出し大熊座に肉薄する。それに気づいた大熊座は咆哮と両手をを上げ威嚇するがそれで止まるワシオ=サンではない。
 振り下ろされた丸太のような豪腕を紙一重で躱し、魔槍砲を突きつける。ナムサン! 零距離で放たれたセフル・ザイールにより、爆音が辺りに轟く!

 重苦しい足音とともに後退するウルサ・マヨル=サン。そこにホウ=サンとカガミ=サンが走り込み、ウルサ・マヨル=サンの回りを瞬脚と早駆でカゴメカゴメめいて走り回る。その動きにウルサ・マヨル=サンは翻弄されっぱなしだった。

「コップ座……やってみるのです」
 レネネト=サンはコップ座のメダルを握りしめ、発動させる。すると彼女の手に何の変哲もないコップが現れた。
 しばらくコップを見つめていたレネネト=サンだったが、徐ろに口をアヤカシに向けて念じてみる。

「イヤーッ!」
「グワーッ!」
 掛け声とともにコップから光線めいた水流が迸りウルサ・マヨル=サンを直撃! 全くの注意の外からの攻撃にアヤカシはバランスを失い、地面に転がり呻く。
 その効果を纏めるなら『レーザーめいた水流を発生できるコップを召喚する』といったところか。

 それで勝負はほぼ決した。ハイクを詠めと言いたいところだが、熊にそれはナンセンスだ。開拓者たちは頷きあい、アヤカシにトドメを刺すべく歩み寄る。
 そこに、周囲を警戒していたルンルン・パムポップン(ib0234)から声が掛かる。
「……この法螺貝の様な音、それに周囲の音の流れが変わった。皆さん気を付けて、来ます!」

 音。法螺貝のような音とルンルン=サンは言ったが、他の面々にはそんなものは聞こえない。超越聴覚を使用しているレネネト=サンも同様だった。
 しかしルンルン=サンには確実に聞こえていた。彼女の中にある何かがボランス=サンに共鳴しているのであろうか?

 でーれれー、でーれれー。でっ! でででっ!
 耳に残る恐怖を煽るような音。それとともに凄まじい速度で何かが走ってくる音が聞こえる。こちらはレネネト=サンにも感知できた。
 その速度はまるで豹めいており、警告を発しようとした時にはすでに開拓者の目前! そのまま大地を蹴り飛び上がる! 殺戮者のエントリーだ!

 ボランス=サンのニンジャスピードは人間では追いすがれない域に達する。おお……見よ! 瞬きする間に開拓者の真上まで迫っているではないか。ゴウランガ!
 ボランス=サンの非人道攻撃、スリケンランチャーが無慈悲にも開拓者もろともウルサ・マヨル=サンに降りかかる! ナムアミダブツ! 何たる非道!

 一発二発なら余裕で弾き返せる開拓者たちも、雨霰と降り注ぐスリケンを前にしては自らの身を守るので手一杯。哀れボランス=サンは全身にスリケンを受けケンザンめいたオブジェに成り果てた。その身体は五分と保たず瘴気へと還るだろう。

 アンブッシュを終えたボランス=サンは地面に降り立ち、その飛魚めいた素顔を晒す。
彼に最初に言葉をかけたのはリィムナ=サンだった。
「ドーモ、ボランス=サン、リィムリィムカワイイです」
「ドーモ、リィムリィムカワイイ=サン。ボランスです」
 アイサツ前のアンブッシュは一度だけ許可されている。それが終わればアイサツを交わすのは至極当然のこと。古事記にも書いてある。

 しかしアイサツが終わった直後、ボランス=サンはオブジェと成り果てたウルサ・マヨル=サンに突撃する。何たる無慈悲! ここからさらに止めを刺そうというのか!
 ぴくりとも動かないウルサ・マヨル=サンの前にミカサ=サンが立ち塞がり、咆哮で目標を自分に変えさせる! だが彼の細身でボランス=サンとやりあえるのか!?

「アヤカシ死すべし、ジヒは無い」
 突き出された槍をボランス=サンは体を捻って回避! 手にしたニンジャソード「サシミ」でミカサ=サンの首を……ナ、ナムアミダブツ!
 だがその白刃はミカサ=サンの左腕でガードされていた。抜身の刃を腕で!? しかしこれは彼が使用している竜座のメダルの力なのだ。

 ミカサ=サンが竜座を使う場合『斬属性に耐性を持つ緑色のオーラを全身に纏う』という効果を得る。打撃や銃撃には無力だが刺突を含め刃には生身であってもかなりの防御力を得られるのだ。ゴウランガ!

 そうやってミカサ=サンがボランス=サンを引きつけてくれている間に開拓者たちは体勢を整え攻撃に移る。ウルサ・マヨル=サンはいつ消えてもおかしくない。奴が消えればボランス=サンも躊躇なくこの場を去るだろう。ここからは時間の勝負だ。

「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
 リィムナ=サンとルンルン=サンによる波状攻撃! しかしボランス=サンもテンサイ級と目されるだけありかなりのカラテ! 突き出された拳を蹴りあげ勢いで回転、足払いでルンルン=サンを攻撃! ルンルン=サンはそれを回避! ワザマエ!

「これがニンジャの世界……まったく、忍者やシノビという人種は悉く非常識ですわ。一般人の私には理解できませんわ」
「お前もシノビだろーが」
 カガミ=サンのボケにホウ=サンがツッコむ。まさにチャメシ・インシデント。二人はそれぞれ巨嘴鳥座と小獅子座のメダルを取り出し発動させる!

 カガミ=サンの周囲に小さな五匹のペリカンらしき形のオーラが出現。それらはゆっくりと回りながらカガミ=サンを守っているようだった。試しにつついてみるカガミ=サンだが、特に爆発などはしない。そのバストは豊満であった。

 同時にホウ=サンの全身に炎が吹き上がる。本人は熱くないが周囲の人間も熱くない。どうやら『ショルダータックルをするときにだけ炎のダメージを追加する』効果のようだ。そのバストは絶壁であった。

「イヤーッ!」
 テンサイ級のシノビであるボランス=サンであるが、今ひとつ動きに精彩を欠くような気がする。それもそのはず、彼は開拓者の様子を伺い戦場の動きを把握しつつあったのだ!
 先ほどウルサ・マヨル=サンをオブジェへ変えたスリケンの雨霰を、突っ込んでくるカガミ=サンとホウ=サンにむけ乱射する。

 カガミ=サンの周囲を飛ぶミニペリカンたちが瞬時に動きスリケンと相殺! 纏めるなら『五匹のミニペリカン型の自動防御盾を作り出す』というところ。ホウ=サンは身に纏った炎のショルダータックルでスリケンを意に介せず突撃!

 しかしスリケンが飛んできた方向にはすでに誰もいない。ボランス=サンはどこへ!?
 おお……見よ! 戦場を駆ける飛魚の如き影! それは山の地形を巧みに蹴り疾駆するボランス=サンである! その速さは弾丸めいており、目で追うのも一苦労!

「咆哮が……間に合いません!」
「一旦そっちに向かってすぐ方向変えてやがんだ。前にもそういう奴に出くわしたことがある。俺は詳しいんだ」
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
 高速移動を繰り返し、ほんの少し隙を見せたミカサ=サンとワシオ=サンにスリケンを撃ちこむ! 竜座の効果で防御できるミカサ=サンはともかく、ワシオ=サンはその数を撃ち落としきれない!

 なんたる非道! ボランス=サンは黙々と飛び回りスリケンでじわじわと開拓者たちの命を削りとっている! それは彼が忍者戦士と呼ばれ恐れられる所以、ハンニャも裸足で逃げ出す恐るべきザンギャックの一側面か!

「このままじゃウルサ・マヨル=サンが消えて、ボランス=サンにも逃げられる……。ううん、こんなシノビをのさばらせておく訳にはいかない! 私が正しいニンジャ道で、目にもの見せちゃうんだからっ!」
「わ、私も及ばずながらお力になりますっ、パムポップン先輩!」

 ルンルン=サンとサエ=サンもメダルを取り出しその効果に賭ける。道中で聞いたが、星の一欠片の効果は同じメダルでも人それぞれ違う上に能力は一つだけ。既存の効果が被ることはほぼ無い。
 だからこそ未知数に期待できるとも言える。二人のソウルに反応したメダルの輝きからは何が生まれるのか!?

 バチィン、と衝撃音! そして吹き飛ぶボランス=サンの姿! 一体何が起こったのか!?
 それはサエ=サンが馭者座を使った時の能力、『射程3まで広がるオーラの車輪が敵味方問わず弾き飛ばす』というものだったのだ! ゴウランガ! 地を蹴ろうとしたところに思わぬ不意打ちを受け、さしものボランス=サンも対処ができない!

 サエ=サンのすぐ近くにいたルンルン=サンも吹き飛ばされてしまったのか? いや違う! オーラの車輪を踏み台にしジャンプ! 鳳凰座のメダルの効果『鳳凰のような5本の尾が生え、自由に動かせる』を得てボランス=サンを捕まえにかかる!

 それでむざむざ捕まるボランス=サンではない。巧みに受け身を取りすぐさま地を蹴ろうとしたが許されない!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
 レネネト=サンのコップ座による水流レーザーがボランス=サンの肩に直撃!

 よろめいたところに狼座のメダルを発動したリィムナ=サンが走り込む! すかさず発動された黄泉より這い出る者がボランス=サンを襲う!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
 怨霊系の高位式神を召喚し、死に至る呪いを送り込ませるというこの術! その式には姿や声も無いが、確かに『何か』を召喚、再構成しているのだという! コワイ!

 そして怯んだところにボランス=サンの手を掴む。すると狼座の効果『敵味方問わず最初に触れた生物との間に爆発を起こす』が起動! これは至近距離で爆発するものの自分はその爆発でダメージを受けないという! ムゴイ!

 このままやられては忍者戦士の名が泣く! ボランス=サンは空中で体勢を変え必死の形相でスリケンを生成し反撃に転じようとするが、その右手が動かない。何事かと自らの右手を見やると、なんたること! いつの間にかオーラの鎖で雁字搦めにされているではないか!

「フン……やっぱりペガサス座に比べたらお前はサンシタだなァ。チョロチョロするばっかりで注意力が散漫なんだよ」
「いつの間に!?」
 タツジン! ワシオ=サンはアンドロメダ座のメダルで魔槍砲を分割、それを繋ぐオーラのチェーンでボランス=サンの右手を拘束していたのだ!

 それはリィムナ=サンの狼座による爆発とほぼ同時に仕掛けたこと。爆発の衝撃で鎖を巻きつけたことを悟らせないワシオ=サンのワザマエである! そして地に降り立ったルンルン=サンが満を持して鳳凰座の尾を展開、ついにボランス=サンを捕縛する!

 素早さと神出鬼没さが売りであるボランス=サンは、こうもがっちりと捕まえられては実力を発揮しようがない。まさにまな板の上の鯉、いや、巨人の前のカープ的アトモスフィアである。

「ハイクを詠め。カイシャクしてやる」
 拳を握り近づいてくるホウ=サン。最早これまで。ボランス=サンは覚悟を決めるとともにある決意を固めていた。それはアヤカシでありシノビでもある彼の矜持であり存在意義であった。

「イヤーッ!」
 なんたること! ボランス=サンの執念は自らの首を引きちぎり、首だけとなって、消滅寸前のウルサ・マヨル=サンに突撃したのである! ナムアミダブツ! 流石にそんなことまで想定していなかった開拓者たちは反応できない!

「サヨナラ!」
 そう叫んだボランス=サンの生首が爆発四散すると同時に彼の身体も爆発四散! ケンザンめいたオブジェと化していたウルサ・マヨル=サンにとどめを刺し、己の使命を全うして死んだ。

「アイェェェ!? ジバク!? ジバクナンデ!?」
 ウルサ・マヨル=サンは瘴気となって消滅した。ボランス=サンを倒せたことで目的は果たされたが、結果としてボランス=サンに最後の最後でしてやられた感は拭えない。ボランス=サンはシノビとして、アヤカシとしての仕事を全うしたのだから。

 開拓者たちは苦い思いを噛み殺しながら、地に落ちた飛魚座のメダルを拾い上げた。
 敵ながら天晴と褒め称えるべきか、小癪な事をと憤るべきか。そんな葛藤すらもボランス=サンの掌の上のような気がして、複雑な表情を浮かべるのだった―――