鶴の倍返し
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/05/31 00:03



■オープニング本文

 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。
 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する―――


 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。
 メダルの数もそろそろ40に届こうかという昨今、狼座によって新たな事実が判明した。
 普通のアヤカシは闇雲に負の感情を瘴気に還元していることが多いが、どうやら星座アヤカシたちはとある目的に添って行動しているらしい。意志があるなしに関わらず……だ。
 その目的とは、最強の星座を蘇らせること。導星の社はそのためにアヤカシが建造したものと思われる。
 ハッキリ言ってどの星座が最強なのかというのは全く不明。現時点では黄道十二星座の一つではないかとささやかれているが……?
「今回のアヤカシは鶴座グルス。外見は根本が白、先に行くと黒のコントラストになったロングヘアが特徴の女の子よ」
「おおう、いいですね女の子。華があります」
「……その華を刈り取るのがお仕事なんだけどね……?」
 ある日の開拓者ギルド。
 今日も今日とて現れる星座アヤカシの事件を受け持っているギルド職員、西沢 一葉と鷲尾 亜理紗のコンビ。
 人型でないアヤカシのほうがやりやすいような気もするが、そういう姿で顕現したのであれば是非もなし。とにかく撃滅あるのみである。
「しかし、人型で鶴座とは。鶴の恩返し的なサムシング?」
「いいえ。つるっと滑る的なサムシング」
「またダジャレですかっ!」
 鶴座は年にして17、8歳くらいの少女の姿で、変身したりはせず空も飛べない。
 だが、彼女の周囲は半径250mにもわたって『つるつる滑るフィールド』になってしまう。
 外見上の変化は何もないが、土や砂利、草原、芝生、どんな足場であろうと例外なくつるつる滑る。そのフィールドを、鶴座は氷の上を滑るかのように高速で移動し戦闘するのだという。
 手に持つは双剣。滑る地面を物ともしない格闘攻撃に対し、腕自慢の開拓者もろくろく実力を発揮できないのだとか。
「そりゃ、回避も防御も足を踏ん張れてなんぼですもんねぇ……」
「ローラーダッシュでもできればいいんだけどね。あなたの義妹、馭者座でそんなことできなかった?」
「できましたけど、一人だけじゃどうにもなりませんよ。朋友は連れていけないんですか?」
「そこら辺自然保護区みたいになってるのよ。もふらとか小動物系ならまだしも、龍は禁止だって」
「でも、馬じゃ滑るんでしょ? うーん……」
 基礎能力はそこそこでも、フィールドを自らに有利なものに変更するタイプ。基本的に厄介である。知能もそこそこあるようだし、思った以上に強敵かもしれない。
 果たして、開拓者たちは無事に鶴座を撃破できるのだろうか―――


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
各務 英流(ib6372
20歳・女・シ
アムルタート(ib6632
16歳・女・ジ
何 静花(ib9584
15歳・女・泰


■リプレイ本文

●つるつるだぁー!
 場所が平原ということもあり、目標である鶴座グルスはすぐに見つかった。そうでなくとも特徴的な髪の色は目立つし、平原に女の子が一人というのはわかりやすい。
 向こうも開拓者たちに気づいたようだ。スーッとまさに滑るような動きでこちらに近づいてくる。
「ツルツル滑る……」
「なーにー、まだそんな顔してるの兄ロリ。ほらほら、スマイル&ダンス♪」
「イヤだってよォ! あんな滑る所ワザワザ行くなんて自殺行為だろォがァ!?」
「えー、兄ロリスベるの得意じゃん?」
「……お前とはいっぺんきっちり話を付けなきゃならねェようだな?」
 いつものように賑やかなやりとりをするのは鷲尾天斗(ia0371)とアムルタート(ib6632)の義兄妹……なのだが、鷲尾は何故か眼帯付きの可愛い女の子の姿になっている。
 彼が使用している魚座のメダルの効力なのだが、まだ隠された能力があると噂されている。一方、アムルタートは馭者座のメダルで足にオーラの車輪を形勢、キュイーンと甲高い音を立てて地面を縦横無尽に滑っていく。
 開拓者たちの戦闘準備は万全だ。後は鶴座のフィールドに入るのを待つしか無い。
 その距離およそ250メートル。銃弾すら届かない位置でありながら、一行は周囲の空気が変わったことを認識した。奴のテリトリーに入ったと肌で感じる。
 次の瞬間。

 つるっ。

「ぬォォォ!?」
 少女らしからぬ叫び声を上げて鷲尾が転ぶ。盛大に足を滑らせ尻餅をついた。
 確かに大の大人がこれをやっていたら恥ずかしいかもしれない。
「これは……確かに対策なしでは厳しいかもしれませんね……」
「でも、スパイクはそこそこ効果ありでよかったよ」
「確かに。いつも程は見込めないけど、動けるね」
 真亡・雫(ia0432)と雪切・透夜(ib0135)のコンビは事前に靴に細工をし、スパイクなどで滑り止めを自作していた。
 滑ること自体は変わらないが、有るのと無いのとでは天地の差が有る。これなら刀を振るったくらいでは転びはしないだろう。
「ふむふむ……クナイもきちんと地面に刺さるな。……しかし、なーんか柔らかくて湿ってるような」
「まったく、皆さん小細工が過ぎますわ! 私のように最初からソリを用意しておけば万事解決ですのに!」
 何 静花(ib9584)もそうだが、各人このつるつる滑るフィールドを打開すべく思案を重ねてきた。しかし各務 英流(ib6372)だけは『逆に考えるのですわ。滑っちゃってもいいさ』とばかりに大きなソリを持参してきている。
 持ってくるまでは大変だったが、いざフィールドに入ると意外に快適。手にした長斧で舟を漕ぐようにスイスイ滑る。発送のスケール勝ちといったところか。
 やがて鶴座が開拓者の目の前までやってきて、ゴスロリ着物のスカートの先を摘んで恭しく挨拶する。
「こんにちは。そして死ね!」
 恭しかったのは一瞬だけ。ギラリと凶眼を晒した鶴座は、素晴らしいスピードで大地を滑る。
 手には鈍く光る双剣。本来ならありえないほどの速度で旋回、急接近で開拓者を襲う!
「カッコ悪いと言われようが痛い目見るよかァマシだァ!」
 片手に持った剣を地面に突き刺し、支えにしながら魔槍砲を放つ鷲尾。しかし鶴座の速度が速すぎてなかなか捉えられない上、方向転換するのも一苦労。
 ようやく一発砲撃するが……
「ずォォォ!?」
 滑る足場で反動を殺しきれず、そのまま尻もち。勿論、そんな狼狽え弾のような砲撃が当たるわけもない。
「何やってんのもー! そんなことより……私も滑りたい! つるつるーってしたい!」
 キュイーンとローラーダッシュの音が響き、鶴座と同じように地面を滑って移動するアムルタート。速度は鶴座に多少劣るものの、どうやらこのフィールドでも問題なく進める模様。
「なにっ!? これが噂に聞く星の一欠片の力……生猪口才!」
 繰り出される双剣の剣閃を、アムルタートは両腕の鉄甲で的確に弾いていく。
 普段なら隙を見つけて逆襲に転じるアムルタートだが、滑りながらの高速戦闘は勝手が違う。彼女だからこそバランスを保っていられるが、攻撃までは難しい!
 しかし!
「っ!?」
 攻め立てていた鶴座が気配を察し、慌てて急速後退。するとアムルタートと鶴座の間を、瞬風波が駆け抜けていくところだった。
 放ったのは真亡。スパイクのお陰で技を放っても転ぶことはないが、連発はやはり厳しい。
「僕達を忘れてもらっては困ります」
「フン……少しは対策を練ってきたようね。でもそれで戦えるつもり!?」
 鶴座が双剣の片方を振るうと、三日月のような衝撃波が発生し真亡に向かう。それをなんとか刀で受け止めるも、弾き飛ばされて地面を盛大に滑っていく……!
「ならば滑る心配のない私はどういたしますこと!?」
 長斧を櫂代わりに地面をソリで滑る各務。速度をつけ一気に斬りかかる!
 鶴座はそれを双剣の片方で受け止め、力の方向をずらすことで脱出。距離を取った後各務と睨み合う。
「一つ聞きたいですわ……あなたの力で、お姉様のパンツをつるつるにして脱がす事が可能かどうか!?」
「できるわけないでしょ!」
「では死ぬがよいですわーッ!」
「こいつ……荒唐無稽!」
 本人が滑らないのは利点だが、ソリに乗る各務には大きな弱点も存在した。それはソリを操るためにいちいち長斧で地面を突かなければならないこと。
 それは大きな隙を生み、特に鶴座の速度で背後に回られた日には旋回が追いつくわけがない。
 そして……
「そのソリ、貰った!」
 双剣から衝撃波を発し、各務の乗るソリを破壊しようとする鶴座。各務にそれを回避する手段はない……!
「残念。そうはさせませんよ」
 何者かが空中を駆け、間に割って入りシールド防御。
 それは言わずと知れた防御の達人、守りの要。雪切である。
「空中浮遊だと……!?」
「地面を蹴ることも多いですから、スパイクもつけてきましたけど……ねっ!」
 蝿座のメダルの力でシールドにブースター機能を付与、一定時間空中を自由に飛び回れる。彼独自の効果である。
 続けてチェーンブレードを展開し蛇腹剣のようにして使用、曲線的な動きで鶴座に猛攻を仕掛ける!
 流石に鶴座の能力でも飛ばれるとどうしようもない。そういう意味では雪切と蝿座の組み合わせは彼女にとって天敵といえるだろう。
 そしてもう一人、奇策で以って対抗しようとする人物が。
「そいやぁぁぁっ!」
 瞬脚で一気に移動した何は、間髪入れず絶破昇竜脚を放つ。バランスを崩すことも滑ることもない普通の攻撃。何故そんなことが可能なのか!?
 驚愕しながらも横滑りで回避する鶴座。その時彼女が見たものは、無数に地面に突き立ったクナイのうちの一つに着地する何の姿であった。
「足場を作る……くっ、流石にペガサスの言っていたとおり一筋縄ではいかないかしら!」
「そういえばそのペガサスさんは加勢に来ないので?」
「そりゃそうでしょ。私のフィールドじゃ彼の最大の持ち味である足技が使えないもの」
「羽があるのに足技が最大の持ち味……かっこ驚愕かっことじ」
 雪切の純粋な質問にあっさり答えてくれる鶴座。対して煽るようなことを言う各務。しかし鶴座は怒ることもなく、一番与し易そうな鷲尾に向けて急速接近する。
 未だに生まれたての子鹿のようにガクガクしている鷲尾。しかしナメなれてそのままでいられるほど彼は穏便ではない。
「魔槍砲にゃこういう使い方もあンだよォ!」
 自らの後方に向けて砲撃を放ち、その反動で逆に鶴座に突っ込む鷲尾。
 その手にした魔刃で、滑りながらのファクタ・カトラス+ボーク・フォルサー。体勢は悪いが、当たれば致命傷も望める!
 ……が。
「バーカ。そのまま端まですっ飛んでいくといいわ!」
「ここで避けるか普通ゥ!?」
 大きく軌道を変え、鷲尾の剣の届かない位置へ移動する鶴座。当然、慣性の法則で鷲尾は滑り続けるが、途中で剣を地面に刺しなんとか止まる。
「ふっふっふ……こうなれば私も星の一欠片を使わざるを得ませんわね。真亡さん、あれをやりますわよ!」
「えぇ!? で、でも実戦試験もしてないのに……!」
「為せば成る、為さねば成らぬ何事も。お姉様のハートを取り戻すことも為せば成りますわ!」
「それは無理じゃないかなぁ。姉ロリ、兄ロリにぞっこんラヴだし」
「お黙り小娘! ほら真亡さん、早く!」
 アムルタートのツッコミをキッパリ無視し、未だソリに乗ったままの各務は、ようやく戻ってこれた真亡を近場に呼び寄せメダルの発動を促した。
 接敵までに実験したので効果の程は本人たちはわかっているが、どうも真亡は乗り気でない様子。それは、二人で協力して連携技として使ってみようと各務に言われたからである。
 一人が二枚のメダルを持つことはできない。だが、二人が二枚を相乗効果が有るように使えればそれはより協力に作用するかもしれない。勿論、上手くいけばの話だが。
「えぇい、男は度胸です。やってみましょう!」
「生兵法に付け焼き刃、そんなものが役に立つもんですか!」
 煽り耐性がないのか、はたまた自分のフィールドに自信があるのか。あえて誘いに乗り各務と真亡に向かって突撃する鶴座。
 彼女の読みはこうだ。どちらが攻撃してくるにせよ、格闘攻撃なら勢いの分こちらに分があるし、射撃だとしても直角横滑りで回避できる。その後に斬撃を飛ばしてジ・エンド。
 一応、先ほどの雪切のような弧を描く攻撃をされると困りはするが対処できないこともない。
 だが、ここでふと疑問が生じる。何故他の連中は動かない? ローラーダッシュの娘やシールドブースターの男も黙って見ている義理はない。加勢すればいいだけのことなのに距離を保ったままだ。
 しかし、各務と真亡までの距離はもう殆ど無い。疑問を飲み込んで鶴座は激滑する。
「輝け、水瓶座!」
 先に動いたのは真亡。そのメダルが眩い光を放つと、『彼の周囲20mほどの大地が瞬時に凍りつく』!
「烏滸言を! 滑る私に地面を凍らせたところで!」
「仕上げは私ですわ。狼座……思い知るがいいですわーッ!」
 続けて各務のメダルが輝き、周囲に高周波が撒き散らされる。
 キィーンという耳鳴りのような音。しかし物理的な衝撃を伴っているわけでなし、行動不能になるほど耳障りなわけでなし、このまま押し切るべし! そう鶴座は結論づけた。
 氷の上を滑り肉薄する鶴座。しかし二人に到達する直前、不意にバランスを崩し地面に激突する!
「うぐっ……! な、何が……!」
 鶴座は地面を見て瞬時に理解した。真亡が水瓶座の力で凍結させた大地を、各務の狼座の高周波でバキバキに砕いたのだ。その効果を纏めるなら『全方位に高周波を発生、氷や脆い岩などの無機物を砕く』といったところ。
 滑らかに滑るには滑らかな地面が必要。凸凹した場所でスケートなどできようはずもない。
 一度体制を崩してしまうと、それまでコケたことのない鶴座は挙動が遅い。その隙にアムルタートと雪切、何がそれぞれ突っ込んできている!
「地の利は人の和に如かず……!? そんな戮力通用するものか……!」
 鶴座は諦めない。双剣を構えその場で高速回転、三日月のような斬撃衝撃波を無作為に周囲にばらまく……!
 雨霰と降り注ぐ攻撃に、思わず足を止める開拓者たち。しかし、機動力がウリのはずの鶴座が足を止めて放つその攻撃は―――
「ヤられた分はヤリ返す。倍返しの時間だコラァ!」
 ズガァァァン、という大音響とともに爆発の中に消えた。
 すっ飛んでいった鷲尾が加速を付けて戻ってきており、砲撃による反動もそれで相殺。やられっぱなしでいられるかという彼の……今は彼女だが、の意地である。
「さぁって、トドメは任せろ。ノロケ野郎以外はフェミニストだからな」
「あの貧乳は天然物! 希少価値があってもったいないですが、致し方ありませんわよね何さん?」
「……何故私に同意を求める? こっちの踊り子娘でもいいだろうが」
「あー、言ったなぁ。これでもキミより年上なんだぞ〜。絵姿見れば谷間だってあるんだぞ〜!」
 開拓者の勝利はほぼ確定。最早鶴座に勝ち目はない。
 だが、それでも。彼女にもまた、意地がある……!
「ケェーーーッ!」
 怪鳥音を発し、雪切に飛びかかる鶴座。しかし微塵も油断していなかった雪切は、巧みにシールドブースターを操りそのままバック。しかも同時に、サラサラした砂を撒き鶴座の目潰しを行うという徹底ぶり……!
「うあぁぁっ! ひ、卑怯者……!」
「正々堂々なんて強者の戦とは無縁でしてね。それに不意打ちも大概だと思いません? 相応にお相手しましょうか」
 涙の滲む目で必死に雪切を見る鶴座。チェーンブレードを構えない!? そのまま突進!?
 目の痛みと混乱で思考がまとまらない。次の瞬間には、雪切の着ていた忍鎧「羅業」から飛び出した刃が彼女の胸に深々と突き刺さっていた。
 影というスキルによる一瞬の交差。刃が抜かれると、そこから大量の瘴気が噴出し……鶴座はとうとう黄金のメダルを残し消滅。地面も滑ることはなくなり、ありのままの摂理を取り戻したのであった。
「さて……発動する機会がなかったわけだが、乙女座試してみるか」
 ペガサス座が現れないことを確認した何は、メダルの回収を各務に任せ乙女座のメダルを取り出してみる。
 家事が上手くなるとか女子力(物理)だとか安定しないメダルというイメージがあるが、彼女が使った場合の効果は?
「……ケーキ?」
 彼女の手の平に、突如イチゴのショートケーキが現れる。念じれば他にも甘味に限りどんなものでも出現させることができるようだ。
 これはつまり……
「『スイーツ(笑)』ってことかこらぁぁぁっ!?」
 飢えなくて済むのは便利そうだが、甘いモノばかりでも困りもの。
 とりあえず戦勝の祝に、全員に柏餅を振る舞う何であった―――