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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 数々の星座アヤカシを打ち倒してきた開拓者たちの前に突如示されたもの。それは導星の社(どうせいのやしろ)と呼ばれる謎の施設の正体である。 「許せません……乙女座ヴァルゴ! どうやら私も出撃しなければならないようですね……!」 「いいからよだれを拭きなさい」 ある日の開拓者ギルド。 拳をぐっと握ったまま、口元からよだれを垂らしているのはギルド職員の鷲尾 亜理紗。 それを呆れ顔でたしなめるのは同じくギルド職員の西沢 一葉。いつもの星座アヤカシ担当二人であるが、いつもと少し様子が違う。 今回現れた星座アヤカシは乙女座ヴァルゴ。黄道十二星座に名を連ねる強力なアヤカシである。 サラサラの金髪ロングという見目麗しい少女の姿であるが、その戦闘能力は至って特殊。 彼女は『料理』を使って戦う。比喩ではなく、きちんと食べられて味も絶品な料理を空中に出現させてそれで戦うのだ。貧しい人間から恨まれそうな能力である。 当然、料理はだいたい駄目になる。もったいないオバケからも祟られそうな能力だ。 例えばコシのあるうどんを出現させ相手をふん縛るとか、アツアツのおでんを頭からぶっかけて相手を火傷させる等々。字面にするとバカバカしいが、その女子力(物理)は決して侮れない。 「食べ物を粗末にするなんて許せませんよ! 一丁とっ捕まえて家に一匹欲しいです!」 「……女の子の姿なんでしょ?」 「………………やっぱり撃滅……いや、でもタダ飯……うーん……うーん……」 「悩んでるアホは放っておきましょ。ちなみにこのアヤカシは、無理矢理口に料理を押しこんで『これ以上食べられない!』とか『熱い!?』といった負の感情を吸収したりするから。見た目や丁寧な口調に騙されると痛い目見るわよ」 亜理紗を放置し、客に説明を続ける一葉。職員の鑑である。 「交戦した人たちの話によると、料理って意外と侮れない武器になるんですってよ。サイズが大きいだけで色々ヤバいらしいから」 そりゃあ全長3mもあるスイカを頭から落とされたりすれば死ぬこともあるだろうし、山のようなゼリーの中に閉じ込められたら窒息もする。 要は大盛りをやり過ぎたというのを実践するとこうなる……といったところか。 誰もが羨む『食料を無限に出せる能力』。それが使い方を誤ればこのザマである。 果たして、開拓者は兵糧攻め(物理)を掻い潜り、乙女座を撃破することができるのだろうか――― 「……一葉さん、私決めました」 「ほう。其の心は?」 「とりあえずお腹いっぱい食べてから考えます」 一葉の無言の鉄拳が飛んだのは言うまでもないだろう――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●飽食乱舞 穏やかな水音が響く三位湖のほとり。目に止まるものは他に無く、その少女が優雅に立っているだけ。 開拓者たちに気付いた乙女座ヴァルゴは、スカートを摘んで悠々と挨拶してみせた。 「ごきげんよう。ワタクシが乙女座ヴァルゴですわ。皆様に素敵なお食事を振る舞わせていただきます」 にこりと笑うその姿は実に可憐。しかも言葉の内容もありがたい申し出にしか聞こえないが、それで肉恐怖症になってしまった人間もいるようなので油断はできない。 「食べ物を粗末にする奴はこの小麦粉の魔術師と呼ばれた俺が許さねえ! 食ってやるから素直にだしやがれえ!」 「その通りです! さぁ、一刻も早く御馳走を! ハリー! ハリーハリーハリー!」 「うふふ……嬉しい事を言ってくださるじゃありませんの。それじゃたっぷり味わっていただきますわ」 ルオウ(ia2445)は戦う上で料理を使うというならそれをやってみろという意味で言ったのだろうが、亜理紗は単純に食わせろと言っている。最初から食欲全開モードの嫁に対し、旦那の鷲尾天斗(ia0371)は複雑な表情で見つめる。 「おい、お前の嫁だろ。なんとかしろよ」 「無理だ。あァなっちまった亜理紗を止める手段はねェよ。今のあいつはある意味金色の三首竜より強ェ。しかし、大食いした後の夜がなァ……」 「あなたこの場で切り落とされたいんですの……?」 何 静花(ib9584)のツッコミにも頭を振る鷲尾。嫉妬に狂いそうになる各務 英流(ib6372)であったが、亜理紗が発した歓声で威勢を削がれる。 見ると、三位湖のほとりに色とりどりの料理が所狭しと出現している。綺麗に皿に盛りつけられ、古今東西あらゆる食材・調理を施したまるで満漢全席。 ただ、テーブルもないので地面に皿がおいてあるという非常に珍妙な光景になってしまっているが。 「こ、これはっ! このパスタはっ! 絶妙な茹で加減に新鮮なトマト、肉もジューシー! 濃厚でありながら油を感じさせない優しいソース……素晴らしい!」 「早速喰うんかい! 毒のこととか考えないのか?」 「ちょっとの毒くらいなら体内で分解できます!」 「うそーん……」 座り込んで近場にあったスパゲッティを食べ始めた亜理紗。常人サイズなのでペロリと平らげてしまう。 ツッコんだ何は、亜理紗の勢いにただただ圧倒されていた。 「僕……生まれてこの方、このような贅沢を見たことあるでしょうか……信じられない光景です」 勿体なさそうな視線で料理の山を見るのは真亡・雫(ia0432)。無理もない、ある意味無造作に地面に投げ出されたようにも見える料理の数々は、ちょっとしたパーティーどころでは済まない量がある。 亜理紗の言から察するに味付けもしっかりとしてある。それについて真亡は言いたいことがあるようだ。 「間違いなく、貴女は使い方を間違っている。手の込んだ料理は……食べて欲しい方がいるから作るものです!」 「そんなことはありませんわ。ワタクシは全ての人々にワタクシの料理をお腹いっぱい限界以上に食べていただきたいと思っておりますの。美味しいとわかっていてもこれ以上お腹に入らない、苦しいと言う時の人間の顔はとても美しいんですの。極上の負の感情も採取できますしね」 「そ、そうではなくて……その……特定の誰か、という意味で……(頬染)」 「うふふ……あなた、乙女でいらっしゃいますのね。可愛いですわ」 「あ。い、いやその、確かに今この時は僕も女性ですが……!」 乙女でいらっしゃる、という言葉でふと我に返る真亡。魚座のメダルで超絶美少女になっているとはいえ、彼は立派な男である。乙女と言われてあまりいい気はしない。 そして、乙女が居るところに彼女もまた現れる……! 「やあ、愛らしい子猫ちゃん♪ 会えて嬉しいよ♪ 君は大変な料理上手だそうだね。だがボクは……料理よりも君自身を味わいたい! 皆の見ている前で!じっくりたっぷりと! 勿論性的な意味でね!」 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)。乙女座は彼女が好む年齢を多少超えているようだが、美少女であれば大した問題では無いのだろう。 本当は隣の真亡にも大分興味が有るのだが、それは後でもできると判断したか。 「よろしくてよ?」 「いいのかい!?」 「いいですとも! ただし……ワタクシのフルコースをしっかり食べきっていただけたらの話ですわ」 乙女座が腕を振るうと、フランヴェルの上空から大量の液体が降り注ぐ。 危険を察知しすぐに退避した真亡と異なり、フランヴェルはもろにそれをひっ被ってしまった。 「お、おい、大丈夫かァ?」 「大丈夫だと思いますよ。あれ、コーンスープですもん」 炒飯をかき込みながら冷静に返す亜理紗。思わず『は?』と問い返した鷲尾であったが、フランヴェルが普通に立ち上がったので嫁を二度見した。 あの距離から、他のものを食べつつコーンスープと見抜くか、と。ある意味恐ろしい。 「この濃厚なスープ……太陽をふんだんに浴びた活発な少女のようなコーンと、深窓の令嬢を思わせるなめらかな舌触りを引き出すミルク。これはまさに、ロリの二重奏やー!」 「ほう。俺も一杯いただこうか(キリッ)」 「私もー♪」 「いやいやいや。お姉様までケダモノ野郎と同調なさっては収拾がつきませんわよ……」 各務のツッコミで我に返るフランヴェルと鷲尾。亜理紗がいるからかどうも調子が狂う。 「うふふ……まだスープしかお出ししていませんのに。この調子では完食は難しそうですわね?」 「そう、前菜が出ていないのにスープを出すなどッ! この順番で料理を出すなど、女子の風上にも置けぬわーッ!」 「あら、前菜は省かれることもありますし」 「そうですよ各務さん。それに前菜なら私がきっちり頂いています♪」 地面に並べられた料理の半分以上がなくなっている。確かにこれらを前菜とするなら料理の順番は間違っていない。 問題はあの量を平然と平らげている点だ。ルオウも加わって二人で食べているとはいえ、どういう胃袋をしているのだろうか。 「ちっ……やべえな、腹が膨れる前に勝負をきめねえと」 ふと我に返ったルオウは、頬につぅっと汗を垂らしながらシリアス気味に言う。しかしその手には草紙に出てきそうな巨大な骨付き肉が握られているのだった。 「な、なんか調子が狂いますね……」 「いや、星座アヤカシの話はこんなもんだった気がする。アンドロメダ辺りから方向性がブレ始めたんじゃないか?」 改めて構えを取り真剣に戦闘を開始しようとする真亡と何。それに気づいた乙女座は、再び地面のあちこちに皿に乗った料理を敷き詰める。 「うふふ……あなた方にこの料理たちを踏みしめて……無駄にしてまでワタクシを攻撃する勇気がおあり?」 「チィッ! 仕方ない真亡、私が持参の弁当箱に料理を詰めていくからちょっと待っていろ!」 「何さんも充分この場の空気に毒されてるじゃないですかー!?」 「つったってなぁ。美味いんだぜこの料理。きちんとした料理だけに、それを踏みつけて突進とか俺にゃできねー」 「い、いや、僕も料理を踏みつけるとか絶対出来ませんけど……」 ルオウも持参の弁当箱に料理を詰めながらなので緊張感はないが、普通料理を足蹴にするとか無駄にしろという教育は受けていない。そういう意味において、乙女座の戦術は非常に対処しにくい。 「次は魚料理ですわ。トラフグのお刺身一万人前、召し上がれ!」 「な、何ィ! あの超高級食材の!?」 乙女座の前に巨大な舟盛りのようなものが現れ、そこに美しいフグの刺身がこれでもかと盛りつけられている。 もちろん、毒のある部位はしっかり取り除かれ、食べても害は全く無い。問題があるとすれば、先ほど敷き詰めた料理達の幾つかが船に押しつぶされたことくらいか。 「続いて肉料理! 馬刺しの踊り食いなどいかが!?」 乙女座から細かく切られた馬刺しが雨霰のように発射され、ベタベタと開拓者たちに貼り付いていく。当然、そのまま地面に落下していくものも多数。 「うめぇー! けどもったいねぇー!」 「あぁぁぁぁ、せっかくの馬刺しがっ! わさび醤油とかありませんー!?」 「ちったァ食いもんから離れろォ!?」 洋食和食ごちゃ混ぜというのが難点だが、最早開拓者たちの倫理ではまともな戦闘ができていない。 食はすべての基本。食べ物が、大量に、目の前で無駄になっていくというのに常人の神経は耐えられないのだ。 その混乱に乗じ、乙女座は急接近しフランヴェルの顔を鷲掴みにし……地面に叩き伏せた。 「ワタクシの女子力(物理)を侮って頂いては困りますわ。お次はソルベ!」 乙女座の腕から大量のシャーベットが生み出され、さながら雪崩のように開拓者たちを飲み込んだ。 本来は口休めに用意されるものだが、全身をシャーベットで覆われたらそれはもう冷気による攻撃と大差ない。 「この口どけ……いくらでも食べられそう♪ この辺はオレンジですね。あ、こっちはブドウ。メロンにバナナ〜♪」 「……全然堪えてねェ……正直感心する」 なんとか抜けだした開拓者たち。しかし自分たちはもちろん周囲は大量のシャーベットでベチャベチャだ。正直歩くこともままなるまい。 「食卓は何時も綺麗にってなァ」 鷲尾は持参したエリダヌス座のメダルを用い、水流を放つことでシャーベットを押し流した。 「はぅぅぅ……天斗さぁん……!」 「そんな顔すンな、抱きしめたくなるだろォが。今はあいつ倒さないと、な?」 「まるごとりゅうを着込んだ私に隙はなかった。二重の意味でベタベタするのは難だが……!」 「料理の皿も流された今なら!」 鷲尾夫妻を放置し、何とルオウが瞬脚と隼人で乙女座のすぐそばに出現する。 足元の料理も気にする必要はない。ここが最大のチャンスと攻撃に移る! 「ロースト」 乙女座の全身が一気に赤熱化し、二人はそのあまりの熱量に思わず後退する。 まるで自分が肉にされた気分。もう少し踏み込んでいたらこんがりローストになっていたかもしれない。 「ふふふ……今度はローストの肉料理でしてよ? 最高級米川牛1トン、受けられますか!?」 出現した巨大な生肉をむんずと掴み、振り回して殴りかかってくる乙女座。 彼女自身が赤熱化していることもあり、肉はドンドンいい色に焼かれていく。 当然、熱い。肉そのものが焼きたて肉汁たっぷりなのだ、脂が飛んでくるのも地味に嫌である。 「これが女子力(物理)……なんて恐ろしい……」 「真亡さん、女子力を勘違いなさらないように。何さん、こうなったら私達のメダルで!」 「おいそれ前回ダメだったパターンだろ」 「他に手がありますか!?」 仕方ないとばかりに彫刻室座のメダルを取り出す何。各務は孔雀座。 能力が判明していないメダルは怖いが、何か突破口がほしいのも確か。 二人のメダルが輝いた後、その時は不意に訪れた。 乙女座が振り回していた巨大なブロック肉が突如サイコロステーキのような形に細かく寸断され、大量に地面に積もっていく。 そして各務の右腕に孔雀の羽にも似た巨大な扇子……いや、シャベルが出現、肉をまとめてなぎ払う! 何が使った彫刻室座の効果は『生命および装備品でないものを細切れにする』というもので、各務の孔雀座は『手に巨大な孔雀の翼のようなシャベルを出現させる』である。 「あー! もったいないー!」 「くそっ! こんなに無駄にしやがって(ばくばく)あ、これうめええーーー! ゆるさねえかんな!」 「お前ら一体どっちの味方だ!?」 「決まってるじゃないですか何さん」 「俺達は俺達の味方だ」 ドヤ顔をするルオウと亜理紗。もう駄目かもわからんね。 「隙ありです!」 乙女座がそのやりとりに注意を向けている隙に、真亡は白梅香で斬りかかる。 多少驚いた様子であったが、乙女座は冷静にあるものを出現させ盾にした。 それは人間ほどもある巨大な玉ねぎ。ざっくりと斬られ、中から汁が飛び出す……! 「目が!? 目がぁぁぁ!?」 「あら、生野菜を切っていただけるなんて、助かります……わっ!」 スカートをふわりとなびかせ回し蹴りを放ち、真亡を弾き飛ばす。 しかしそこに火線が走る! 「食い物を粗末にしやがる悪い子にはお仕置きをしてやらねェとなァ!」 魔槍砲の砲撃で玉ねぎが砕け散る。乙女座は巨大なかぼちゃを出現させると、鷲尾に向かって蹴り飛ばす! 「相当若いかぼちゃですの。砲撃で砕けますかしら!?」 「ンなもん他人に出すなよ!?」 「これも女子力(物理)の内です」 なんとか回避した鷲尾であったが、やはり乙女座はやりにくい。今までに居なかったタイプのアヤカシだ。 そして、ルオウが再び立ちふさがる。今度はテーブル山座のメダルを手にしている。 「いくぜ好敵手! 俺たちの前に立ちふさがったお前の力を見せてみやがれええええ!」 テーブル山座のメダルが輝くと、『ルオウの身長が10メートルほどまでに巨大化する(ただし3分しか保たず一日一回)』。 流石に服や鎧以外の装備は巨大化しなかったが、突如出現した巨人に乙女座も度肝を抜かれたようだった。 「な、な、なんですの!?」 「おー、こりゃすげぇーーー! これなら……!」 「あれなら……!」 「喰い甲斐があるぜー!」 「食べさせ甲斐がありますわー!」 ブレない連中である。 しかし、そのブレなささが最大の隙を作った。乙女座の背後に回ったフランヴェルが鳳凰座のメダルを使用しつつ羽交い締めにする。 「フッ……捕まえたよお嬢さん。ボクと一緒にいってもらうよ!」 「あ、まだ甘味と果物とコーヒーが残って―――」 「さらばだ諸君! 最後まで男らしく戦うんだぞー!」 乙女座を捕まえたまま、フランヴェルは天歌流星斬を連打。二人でどんどん上空へと登って行き、練力が切れた時には100mほどの上空に居た。 フランヴェルが発動した鳳凰座の効果は『落下攻撃時に炎を纏いダメージを追加する』というもの。その姿はまるで力尽き地面に堕ちようとする鳳凰のよう……! 「は、放しなさい! このままではあなたも地面に激突しますわよ!?」 「フフ……君のような子猫ちゃんと人生を終えるならそれもまた一興かな」 「ワタクシはまだまだ料理を食べさせたいのに……!」 「……その気持ちを正しく持っていてくれたら、ね……」 ふっとフランヴェルが乙女座を放し……次の瞬間、乙女座は頭から地面に激突し鈍い音を立てた。 一方のフランヴェルは白き羽毛の宝珠のお陰でダメージはさほど無い。便利な代物である。 「……せめ、て……最後に……。お腹、いっぱい、食べ……て……」 最後の力を振り絞り、周囲に様々な料理を出現させ力尽きた乙女座。 夢の様な御馳走と、黄金のメダルがその場に残されたのであった。 「……ごっそうさんでした!」 乙女座の意志を弁当箱に詰め、開拓者たちはその場を後にしたのであった――― |