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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 数々の星座アヤカシを打ち倒してきた開拓者たちの前に突如示されたもの。それは導星の社(どうせいのやしろ)と呼ばれる謎の施設の正体である。 竜座ドラゴン曰く、 『導星の社とはアヤカシを創り出す瘴気と人間の想いを混ぜるための装置のようなもの。私達を星座アヤカシたらしめているのは、元はあなた達人間が長い時の中で星々に馳せた想いの力なのよ』 とのこと。 そんなものを人間が創りだすとは考えにくい。創り出せるとは考えにくい。よって、導星の社とはアヤカシが建造なり建立なりしたと考えるのが妥当だろう。それならば現地の人間が誰もしらないのも、記録に残っていないのも頷ける。 アヤカシが創りだしたと思わしきより強力なアヤカシを作るための設備が、星の一欠片という力を人類に与えたのは皮肉という他ない。 しかし、それはどこにあるのだろうか? 集星のどこかには違いないのだろうが、そんな建造物は知られていない――― 「さて今回のアヤカシは狼座、ルプスよ」 「ウルフじゃないんですね……」 「誰が相撲取りの話してるのよ」 「……相撲取り?」 ある日の開拓者ギルド。 今日も今日とて星座アヤカシの依頼を担当するのは、西沢 一葉と鷲尾 亜理紗の二人組。 星の一欠片を狙う平坂空羅の調査も進んではいるようだが、とりあえずは目の前の星座アヤカシである。 「狼座は、銀髪ショートで人間とよく似た外見の獣っ娘。ひらひらの服とスカートにスパッツを装備した元気系。勿論獣っ娘なんでケモノ耳と尻尾も完備よ」 「それだけ聞くと開拓者さんの中にもいそうな雰囲気ですね」 「ただし、他のアヤカシと違って周囲の人間から強制的に負の感情を抜き取り、戦闘力を半分まで低下させることができる特殊能力持ち。性格は嗜虐的で目的のためなら手段を選ばないタイプね」 「は……?」 今、一葉は何と言った? 強制的に負の感情を抜き取れるというのはヤバい。とてつもなくヤバい。 星座アヤカシに限らず、普通アヤカシというのは人間に対し何かしらのアクションを取ることで負の感情を瘴気に還元する。それは単純に死への恐怖というものでも構わないが、それをするためには相応の実力と行動が要る。 しかしこの狼座はそれがない。近くに居さえすれば、どんな屈強な力や精神力を持つ開拓者であっても負の感情を抜き取られることを避けられないのだ。 「本人もそれなりに強いから、戦闘力を半減されると苦戦は必至ね。ちなみに口癖は『ウルッフッフッフ』」 「なんかこう、ヘラクレス座より強そうな印象なんですけど……」 「元の星座のイメージとどんなアヤカシとして顕現するかは別問題よ。そんなこと言ったら水瓶座だって見た目だけならただの瓶だったじゃない」 「そ、そりゃあそうなんですけど……」 突如現れたにしてはやたら強敵感が漂う狼座。知性も高く会話もできるが、果たして情報が得られるかどうか。 平坂空羅の動きもきになるというのに、難儀な話である――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
ローゼリア(ib5674)
15歳・女・砲
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●嘘か真か 「ウルッフッフッフ……待たせたのだ! あたいがギッタンギッタンにしてやるのだー!」 狼座ルプスと最初に顔を合わせた開拓者一同の感想は、 『うわぁ……』 であった。 外見で言えば、ケモノ耳と尻尾を除けばほぼ人間と変わりない。しかしその口調というか言動が妙に痛々しく、なんだか居た堪れない気持ちになってしまったのである。 しかし、油断はできない。予め先に交戦した開拓者たちに話を聞いていた開拓者たちは、すぐさま得物を取り出し速攻をかけようとする。 「なんだぁ!? せっかちな奴らなのだ!」 先に現場に到着し狼座を待ち構えていた開拓者たち。レネネト(ib0260)が使った時の蜃気楼の効果もあり、研究と対策は万全だ。 狼座の半減効果はノータイムで発動できるようなものではない。ある一定の手順を踏まなければ発動できないと判明している。 ならば速攻で半減を使わせる暇も与えないという作戦になるのは極々自然なこと。 できれば情報を聞き出したい気はするが、まずは撃破するのが先決……! しかし迫り来る開拓者たちを前にしても狼座は動じない。ニヤリと笑って尻尾を揺らすだけ。 「ウルッフッフッフ。お前らのやりそうなことなんて先刻御承知なのだ! ペガサス!」 『!?』 狼座がそう叫ぶと、開拓者たちのド真ん中に何かが墜落……いや、突っ込んできた。 生い茂る木々や葉を薙ぎ倒し着地したその地面はクレーターのようにえぐれ、開拓者たちは大きく吹き飛ばされる。 そしてようやく聞こえてくる風切音。今の攻撃は音速を超えていたとでも言うのか……!? 「……勝手に名前を呼ぶの止めてもらえませんか」 「いいじゃないかー。翼の白い忍者じゃ呼びづらいのだ」 そう、それは例の翼を生やした少年忍者。かつて彼をペガサス座のアヤカシではないかと予想した開拓者がいたが、それが立証された形となる。 開拓者たちの体勢が崩れたところに、狼座はすかさず右手を天にかざす。 「世界よ! あるべき結末……惨劇に染まれ! 輝く未来を破滅で塗り潰すのだー!」 その瞬間、ルプスから漆黒のオーラが広範囲の球状となり広がっていく。 その中に閉じ込められるような形となった開拓者たちは、全身から力が抜けていくのを感じていた。 「人間どもの発した負の感情が、最強の星座を蘇らせていくのだー!」 『!?』 同時刻……集星のどこか。 昏く閉ざされたはずのその場所には、多くの淡い光が灯っていた。 それは88の星座たち。中には光っていない星座も多いが、狼座が一際強い輝きを放ったのはルプスの行動と無関係ではあるまい。 やがて光は弱まり、周囲の星座たちと同じ程になる。 闇は深い。星座たちは眠るように、揺蕩うように、闇の中に在り続ける――― 「最強の星座!? なんだ、12宮のどれかか!?」 「ここに来ていきなりの衝撃的な発言ですね……!」 何 静花(ib9584)や真亡・雫(ia0432)は、なんとか立ち上がりながらも内心は穏やかではない。 最強の星座。わざわざ強調して叫んだ辺り、ハッタリではなかろう。とにかくヤバいことは容易に想像がつく。 ペガサスの強襲からルプスの半減効果で気勢は削がれたが、怯んでいる暇はない。 「……ルプス。君は口が軽すぎるね」 「ウルッフッフッフ。いいのだいいのだ。冥土の土産ってやつなのだ」 「……この前の開拓者も取り逃していたけど?」 「うぐ。こ、細かいやつなのだ」 「まぁいいけど……僕はこれで義理は果たした。後はお好きに」 そう言って凄まじい早さで天空へ姿を消す白い忍者。今はルプスに専念する他ない。 「皆さん、大丈夫ですか? 体勢を立て直しましょう」 「そ、そうですね。まったく……盾で防げない範囲弱体化なんてね……」 「皆さん、御心配をお掛け致して申し訳ない」 『誰!?』 レネネトの音頭に従い、一同は一旦集結する。彼女を守るように盾を構える雪切・透夜 (ib0135)だが、ペガサスの起こした爆心地に一番近かったためか肋骨が痛む。 そしてやたら丁寧に無事を報告したのは鷲尾天斗(ia0371)。明らかにいつもの彼ではないリアクションに、仲間が総ツッコミをするのも無理はなかった。 「さて、アヤカシを絶滅させましょう。この世で暴力を振るって良い相手はアヤカシと異教徒共だけなのですから」 「異教徒ってなんですの……。いつも気持ち悪いですが輪をかけて気持ち悪いので今すぐやめてくださいな」 「止めとけ止めとけ。負の感情を抜かれて一時的に綺麗な鷲尾になってるだけだろ。そのうち汚い鷲尾に戻る」 「それもそうですわね」 いつも通り、各務 英流(ib6372)と何は鷲尾に対して辛辣であった。 「ウルッフッフッフ。漫才は終わったのだ? ならこっちから行かせてもらうのだ!」 地を蹴り突撃してくるルプス。妙に速く感じるのは、自分たちの感覚も弱体化しているためか。 「盾が重い……!」 前に出て盾で迎撃を図る雪切。いつも慣れ親しんだはずの盾が重く、動作がきつい。 「先刻御承知なのだ!」 ルプスはひっかくような軌跡で盾の側面を引っ張り、力づくで雪切のガードをこじ開ける。 そして雪切がよろけたところに頭突きを叩き込み、続けて延髄斬りで叩き伏せる。 いつもの実力を発揮できていればどうということもない攻撃なのだが、流石に半減ともなると笑い事では済まない! 「透夜くん!」 「フッ……好きにはさせませんよ」 すかさず救助に入る真亡と鷲尾。しかしルプスはしっかり機を見てすぐに離脱、今度は何と各務へ向かった。 「結局、狼は討たれるんだよ……!」 「小熊座と大熊座の共演、お見せいたしますわ!」 何と各務はそれぞれ大熊座と小熊座のメダルを発動させ迎え撃つつもりのようだ。 基本的に星座アヤカシの発した効果は星の一欠片の発した効果を阻害しない。つまり、半減されない100%の効果が得られることが期待できる。 が、それも戦闘用の良い効果が出た場合の話。未知の星の一欠片にはリスクも伴う。 「ここで変化なしかー!?」 「私もです……わっ!?」 「遊んでるのだ? 張り合いがないのだー」 拳と回し蹴りであっさり弾き飛ばされる何と各務。一応説明しておくと、今回何が大熊座を使った時の効果は『普段の三倍食い溜めができる』というものであり、各務が小熊座を使った時の効果は『はちみつの匂いを数キロ先から感じられるようになる』というもの。ぶっちゃけ戦闘にはまるで向かない。 「レネネトさん、弱点は見えます!?」 「……いいえ。あるならば見えるという効果なので、現状では特に」 顕微鏡座のメダルを使うレネネトに声をかけた真亡だったが、空振りに終わる。 罠を張った別の場所にルプスを引き込みたい開拓者たちだったが、それもままならない。失敗を見たばかりで少々おっかないが、真亡は覚悟を決めて未知のヘラクレス座のメダルを発動させた。 「これは……身体が軽く……!」 その効果は『常に100%中の100%の力で動けるようになる』というもの。限界こそ超えられないものの、半減効果を打ち消し常に全力で行動できるのは大きい! 「こいつっ!? 急に強くなったのだ……!」 「これが僕の本当の実力です!」 半減効果がなくなってしまえばルプスは真亡にスペックで勝てない。しかしそのまま押し切られるほど甘くはなく、ちょろちょろと他の開拓者や木々を盾にするような立ち回りに変化する。 いつもならそんなことは許さない程の面子だが、半減効果を受けている状態では翻弄されっぱなしである。 「いけ、ファンネル!」 「漏斗……? あぁ、そういえば形が似ているよう……なっ!」 アンドロメダ座の効果で魔槍砲の砲身を分割、オーラのチェーンでオールレンジ攻撃を仕掛ける鷲尾。それに追従するように太刀を振るう雪切。 だが林という立体機動を可能とする場所では分が悪い。三角飛びの要領で木々を渡るルプスは、隙を見て高角度からの飛び蹴りを放ち、二人を弾き飛ばす。 「くっ! 思ったよりも半減が厳しい……皆さん、一度撤退を!」 雪切はそう叫ぶと、背中を見せてその場を去ろうとする。 半減が厳しいというのは本音だが、撤退宣言は作戦の内。罠を張り、仲間が待機している場所までルプスを誘導するのが目的だ。 他のメンバーもそれを受けて撤退しようとするが、ルプスはニヤニヤしたままその場を動かない。追ってこない……!? 「逃げるんならどうぞなのだ。負の感情はしっかり頂いたから問題ないのだー。それに……罠でも張られてたら困るのだー」 あれは開拓者の行動が誘導であると知っている顔だ。知っていてわざとらしいことを言っている。やはり情報が漏れている以上、傾向と対策は練られている感じか……! 「だったら意地でも運ぶまでだよ」 そう言って歩み出たのは雪切。盾を構え、ルプスに突撃する。 「何のつもりなのだ?」 余裕綽々のルプス。今の雪切では彼女を抱え上げて移動することもできないはず。 しかし、わざわざ回り込んだ雪切の行動に一抹の不安が過る。そしてそれはすぐに現実のものとなった。 「これからは蝿も馬鹿に出来ないね」 「なんっ……!」 発動されたのは蝿座のメダル。彼が使用した時の効果は『装備している盾にオーラによるブースターを付与し飛行や浮遊が可能になる』というもの。 もちろん半減効果を受けないこの効果で、ルプスの背中を押すような形でブースト、木々の間を抜け罠を張った地帯へ! 「先に行きます!」 そのスピードは凄まじい。雪切とルプスは、他のメンバーを置いてすぐに見えなくなってしまったのだった――― ●罠 「このっ! いい加減にするのだー!」 空中で無理矢理体を捻り、背中を押す雪切から脱出するルプス。かなりの低空飛行だったが、きっちり着地して地面を滑る辺りは侮れない。 ルプスの使う半減効果は彼女を中心としており、移動する。よって雪切以外の面子は範囲から逃れたが、雪切は単独で危険な状態に陥っていると言っても過言ではない。 だが。 「生憎と騎士は弱いんでね、まともに戦う気などないんだよ」 「……!」 その言葉でルプスは理解する。やっとこさ脱出したが、もう連中が仕掛けた罠の只中なのだと。 慎重に動かねばなるまい。ルプスがそう考えた時だった。 ガウンッ! という重苦しい銃声と共に、彼女の頬を銃声が掠めていった。 一瞬ぎょっとしたルプスだが、すぐさま岩陰に身を潜める。 まだ敵がいるとは思っていたがまさかよりによって砲術士とは。遠距離攻撃を得意とする面々はルプスにとって鬼門である。流石に弱体化の範囲外から攻撃されるとどうしようもない。 ついでに言うと、ペガサスがもたらした情報の中に砲術士は居なかったので対処法も今ひとつ。 「さぁ、他の皆様方が合流するまで手を拱いていますか? それとも……」 遠く離れた場所から、スコープを覗きつつ呟くのはローゼリア(ib5674)。彼女はルプスを罠地帯に追い込んだ後、狙撃にて更に追い込むのが役目だ。 彼女の中には本来スコープなど付いていないが、三角座のメダルにより『三角形のオーラによるスコープを生成、銃弾の射程を2スクエア伸ばす』という能力を得ている。 距離が開く分命中精度や敵の不意の行動に左右されやすくなるが、少なくともルプスにはローゼリアがどこにいるかは分からない。 「真打ち登場といったところかしら。鳳凰さん……力を貸してね」 メダルにキスしつつ胸元にしまうのは雁久良 霧依(ib9706)。魔術による罠を張ったのも彼女であり、直衛の雪切もいるしローゼリアの援護射撃も見込めるため、姿を現した。 「メダルさえなければこんなところにのこのこ来なかったのだ……!」 「でもあなたはここにいる。負けよ」 「お前だって今は半減空間の中なのだ! この中であたいに勝てると思うななのだー!」 雪切が庇うように立ち塞がっているのを承知でルプスは雁久良に突撃を仕掛ける。 しかしここは罠の敷設地帯。数歩も行かないうちに地面から吹雪が巻き起こり、ルプスの足が凍りづけにされる……! 「ぐっ!」 「あら……その隙は逃せませんわね」 その様子を三角座のスコープで見ていたローゼリアは、泰練気法・壱による強化から弐式強弾撃による攻撃へのコンボを敢行。唸りを上げた弾丸がルプスに襲いかかる……! 「しゃらくさいのだー!」 両腕をクロスさせてガードの姿勢を取り、銃弾を受け止める。 もちろんノーダメージとはいえない。大量の瘴気が噴出するが、痛みをこらえて足元の氷を砕き前進する! 「ブースト!」 「甘いのだ!」 迎撃のためシールドブースターで突撃した雪切であったが、ルプスの身を躱しつつの回転かかと落としで逆に迎撃され地面に叩きつけられてしまう。 あといくつフロストマインが敷設されているか知らないが、デカい魔術を貰うよりはマシと、雁久良目掛けて突撃を再開。 しかし時すでに遅し。鳳凰座のメダルの力を借りた雁久良は、紅蓮の炎のように真っ赤なララド=メ・デリタを今まさに放たんとするところであった。 彼女が今回発動した効果は『魔術すべてを炎の魔術に変更する』というもの。 自動命中であり、補正値の大きいこの術であれば、例え雁久良本人の知覚が半減していても充分な威力となる。 「可愛い子……できれば可愛がってあげたかったわ」 「くそぉぉぉっ! あたいがっ、こんなところで……!」 半減効果は脅威だが、本人の実力はそれほどでもない。どうすることもできずルプスは直撃をもらい、消――― 「まだなのだ! 一人くらい道連れに―――!」 上半身だけとなってなお諦めず雁久良に襲いかかるルプス。流石に不意を打たれた雁久良であったが、 「往生際が悪いですわ」 ガウンッ! という銃声が響き、今度こそアヤカシは瘴気へと還った。 ローゼリア。遠くてすぐに礼を述べることはできないが、彼女のお陰で助かったことは多い――― ●進む物語 「しかし、最強の星座……ですか。一体どの星座なんでしょうね……」 「一般論で言うなら黄道十二星座、天秤座か双子座といったところでしょうね」 帰路についた開拓者たちは、ルプスが放った最強の星座という言葉を思い出していた。 88星座の力を持つ星座アヤカシたちは、最強の星座復活の為に生み出され貢献しているということなのだろう。どうしても後手に回ってしまう以上、それを食い止めるには導星の社を破壊する必要があるかもしれない。 星座が夜空を回るように、物語は確実に、止まることなく進んでいる――― |