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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 黄道十二星座を模した星座アヤカシも三体目を撃破したが、あまり話を出来る状況ではなかったため星の一欠片の謎については遅々として解明が進んでいない。 しかし、六分儀座と八分儀座という、思いもよらぬ星座アヤカシから思いもよらぬ情報が飛び出した。 導星の社(どうせいのやしろ)。星座アヤカシ曰く、それがあるから星座アヤカシが発生するし星の一欠片の効果も発動するという。 問題は、集星という地域にそのような社の記録はなく、また伝承も無い。今までに散々調べたのでそれは確かだ。 無いはずの場所に無いはずのものが今もある。誰が、いつ、どこで? 手がかりは得たが、未だに謎は深い――― 「さて今回の星座アヤカシは、小熊座ウルサ・ミノルと大熊座ウルサ・マヨルのベアーコンビよ」 「おや、ガクガク動物ランドの時に出てこなかった小さいシリーズがこんなところに」 開拓者ギルド職員、西沢 一葉と鷲尾 亜理紗は、今日も今日とて持ち込まれる星座アヤカシ依頼を整理していた。 「この二匹は外見上は普通の熊よ。力はあるけど特殊な攻撃はしてこない。小熊座は本当に小熊くらいの強さしかなくて、多分一般人でも勝とうと思えば勝てるわね」 「じゃあ大熊座を倒しちゃえばあとは楽ですね♪」 「それがそういうわけにも行かないのよ。こいつらの特徴は冬眠前の熊をもっと激烈にしたような感じでね……」 大熊座を倒すと、それをトリガーに小熊座が伝説のスーパー小熊座に進化し驚異的な力を発揮するという。また逆に、小熊座を先に始末すると大熊座が伝説のスーパー大熊座に進化して手がつけられなくなる。 どちらかを倒し、どちらかがハイパー化してから10分以内にハイパー化した方も倒さないと、もう片方が復活してしまう。そんな連動ギミック付きの厄介なアヤカシたちのようだった。 「……親子の愛ですねぇ」 「そういう設定ってだけでしょ。瘴気から生まれるアヤカシに親も子もありません」 「うぅ、一葉さんたらドライ……。それって、同時に倒したらどうなるんですか?」 「さぁ……本当に寸分の狂いもなく倒せたなら同時に消滅するかもしれないけど、刹那のタイミングでも誤差が出たらどっちかがハイパー化するわよ。すでにそういう事例があるから」 ちなみに、ハイパー化した段階でそれまでに受けていたダメージは全快する。できるだけ削って……という作戦は通用しない。 冬を前に、冬籠りの準備をするかのごとく人を襲って回る大熊座と小熊座。 星座アヤカシの発生は、まだまだ終わりそうにない――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●同時撃破を狙え! 「さァ、大人しくしてもらおうかァ? 縛れ天の鎖(エルキドゥ)!!」 鷲尾天斗(ia0371)がアンドロメダ座のメダルを発動し、自らの魔槍砲を半ば辺りから分割。それを繋ぐエネルギー体のチェーンで小熊座を拘束した。 目標となるアヤカシ二匹を発見した開拓者たちはすぐさま戦闘に突入し、作戦通りに事を進める。 即ち、通常では弱いという小熊座を無視してなるべく大熊座を削り、範囲攻撃で同時に打ち倒す。 こうすればどちらもハイパー化させず、しかもタイムリミットに追われる心配もない。上手くいけば万々歳だが、事前にタイミングが極めてシビアであることは聞いている。 それでもやって見る価値はあろうと、まずは鷲尾が小熊座を拘束し準備にかかったわけだ。 「ぶーぶー。動物虐待はんたーい」 「そうやってお姉さまのことも縛り上げているのですわね……ぎりぎり……」 「何の話だ!?」 やる気のなさそうな何 静花(ib9584)と、臍を噛む各務 英流(ib6372)から野次が飛ぶ。 鷲尾の行動は作戦通りなのだが、小熊座が思いの外可愛かったのが主な原因。 ころころしていて外見も小熊のそれである上、戦う気迫が見られない。顔を洗ったり鼻を鳴らして開拓者たちにじゃれつこうとしたり、警戒心が感じられないのだ。 そんないたいけ(に見える)小熊座を鎖でふん縛っているのだからまるで悪い人のように見られてしまうのも無理からぬ事である。 もっとも…… 「あのー……こちらのお手伝い、お願いできませんか?」 眼前を通過する丸太のような太い腕を紙一重で回避しつつ、緋乃宮 白月(ib9855)は何と各務に声をかけた。 小熊座に人数を割く必要がないと分かった時点で、鷲尾以外の開拓者は大熊座との戦闘に入っている。 事前情報通り、力に任せた打撃しかしてこない上に『それなりに』強い。だが現状居るメンバーにとって、それなりに強い程度では最早相手にならないのだ。 『熊か……久々に腕が鳴るわ!」』 作戦前にそう言っていた北条氏祗(ia0573)も、いざ戦ってみると肩透かし感が拭えない。 「そうらこっちこっちー! 俺を捕まえられるっかなー?」 ルオウ(ia2445)が使用する咆哮に釣られ、大熊座は小熊座のことなどまるで気にすることなく突撃を繰り返す。 確かに力は強いし耐久力も普通の熊よりはかなりある。しかし相手が悪すぎる。 「問題点は、倒すのは簡単でもタイミングが難しいこと……かな」 「そうですね。直線上に並んでもらうのも一苦労です」 真亡・雫(ia0432)や鈴木 透子(ia5664)が言うように、短時間の交戦で大熊座もこのメンバーならさして恐い相手でないことは判断できた。 とは言っても、今回のアヤカシはただ倒せばいいというものではない。作戦通りの範囲攻撃で同時撃破という流れを作る前にうっかり止めを刺してしまい、小熊座がハイパー化しましたでは笑えない。 倒してしまわない程度に……かつ同時撃破が狙える程度まで弱らせる。文章にすると簡単そうだが、大熊座は常に暴れるので危険度は低くない。 「では小狐座を試してみましょうか」 真亡は初使用である小狐座のメダルを手に取り、発動させる。 何かいい効果が出ればいいという思いと、どんな効果が出るのかという期待が渦巻く。星の一欠片を初めて使うとき、得てして開拓者たちは心を踊らせる。 発動した直後、真亡の目の前に狐のような形をしたエネルギー体が発生する。 管狐というやつだろうか? 愛らしく尻尾を振り、真亡の指示を待っているようだった。 「え、えーっと……うん、頑張ってみてくれるかな?」 真亡が大熊座を指さすと、狐は軽く頷いて大熊座に突進する。 どう戦うのだろう? 誰もが注目し、両者が触れた瞬間…… ちゅどぉぉぉぉんっ! 大音響とともに爆発が起き、大熊座は爆煙の中にその姿を消す。 真亡が小狐座を使った時の能力は『狐の形をした自立行動型爆弾を作り出す』であるようだ。 とりあえず最初は回避に徹していたおかげで、大熊座はまだ動ける模様。 「へー、こりゃ面白いじゃん! 俺もやってみるぜぃ!」 「倒してしまわないように注意してくださいね」 「おいおい、これじゃ私がつんつんする場面がないぞ……」 何が使うのは海蛇座。そしてその効果はエネルギー体の毒爪を作り出すというもの。 毒で弱らせるのは悪くないが、そこまでする必要がない相手なので仕方がない。 緋乃宮の助言を受け、ルオウは八分儀座のメダルを手にしそれを発動させた。 あまり星の一欠片に関わったことがないルオウだけに、ワクワクは人一倍である。 その効果は…… 「お!? なんだこれ……扇か?」 ルオウの持っていた刀を中心にしてエネルギーが展開。八分儀のような形で定着する。 言うなればとても軽い大斧。測量器具を斧として用いるのもどうかという気がするが。 「せいやー!」 試し斬りとばかりに大熊座を斬りつけるルオウ。八分儀は大熊座の毛皮を寸断し、深く脇腹に食い込む……! 「おー、結構な切れ味じゃん!」 「では折角なので私も」 離脱したルオウに続き、各務が牡牛座のメダルを手に前に出る。 黄道十二星座の力。各務がそれを発動させた場合の効果は…… 「ドーピングスターダストワンだ……。さぁ諸君、私が怨敵を倒すのを止められるかしら……?」 100%中の100%とばかりに、ナイスバディであった各務の身体が筋骨隆々の大男のように変化する。 ただし顔はいつもの各務のままなので、すこぶるバランスの悪い小顔女性(?)になってしまっていた。 「お前それ絶対ェ範囲攻撃とかできそうにねェよな!?」 「フゥ〜、フゥ〜……クワッ。なーに、本気を出せばまだまだ空だって飛べますわ……」 なんとなくイッちゃってる感じの目で、大熊座ではなく鷲尾に歩み寄る各務。 どうやら『身体だけ大幅に筋力がアップするが頭が混乱状態になる』能力らしい。 「クシカツにして差し上げますわぁぁぁっ!?」 「止せ馬鹿、小熊座が一緒に……おわぁぁぁっ!?」 「ロリコンふっとんだー!!」 振り下ろされた各務の丸太のような腕は、鷲尾がガードのために前に出した魔槍砲を鷲尾の身体もろとも盛大にぶっ飛ばした。当然、チェーンで繋がっている小熊座も一緒に宙を舞う。 地面にたたきつけられる一人と一匹。流石の小熊座もこの程度では死なないようだが……。 「うふふふふふ! 今なら勝てる! 待っててくださいましお姉さま、今英流が邪悪の魔の手からお救いいたします! クマさんどいて、そいつ殺せない!」 一応小熊座を避けつつ鷲尾に止めの一撃を繰りだそうとする各務。なんぼなんでも錯乱し過ぎといえる。 なので…… 「うむ、充分笑ったからその辺にしておけ。そういうのは正気の時にやるもんだ」 ぷすっ、と軽快な音を立てつつ、何は各務の身体に毒爪を刺した。 すると空気が抜けるようにみるみる各務の身体が縮み、いつもの女性らしい体つきの各務に戻りパタンと倒れる。 「毒はまぁ我慢しろ。お前がハイパー化してどうするんだ」 「……いつもこのような雰囲気なのか?」 「……ま、まぁ概ね……」 大分呆れている北条に、真亡は気恥ずかしくなってなんとなく目を逸らしてしまったという。 一連の各務の行動の間も大熊座は暴れていたが、北条と真亡が相手をしてくれていたおかげで大事にはなっていない。 そして戦況を伺っていた鈴木も星の力に導かれ六分儀座のメダルを発動させる……! 「射角を変更できる機械弓……でしょうか?」 その腕に、六分儀を模したエネルギー体の機械弓が装着されていた。それはエネルギーの矢を発射する至ってシンプルな機械弓に見えるが、どうやら射角を任意で変えられるらしい。 威力はそれなり。だがそれが今回の場合幸いし、遠距離からチクチクと大熊座を削っていける。 「そろそろ良いかもしれませんね。鈴木さん、最終段階に行きますよ」 鈴木が頷いたのを確認し、緋乃宮は魚座のメダルを発動させる。 銀髪が流れるように美しく伸び、胸が膨らみ少年の身体は少女のそれへと変化する。 「うーん……やっぱり、変な感じです」 はにかみながらもすぐに決意を秘めた表情に切り替えた。 鷲尾は落下により痛む体に鞭を打ちつつ、チェーンで縛ったままの小熊座を遠心力を利用して大熊座にぶつける! 「ぶちかませェェ!!」 どがっ、という動物が衝突する鈍い音が響くのと、緋乃宮が大熊座に肉薄し鈴木が式を召喚するのとはほぼ同時であった。 一直線に突き進む陰陽師の術、氷龍。そして魚座の力で激流を吹き上げる崩震脚。その同時攻撃を受け、大熊座と小熊座は――― 『何っ!?』 その言葉は誰が呟いたものだったか。突如として大熊座たちを中心に大爆発が起き、緋乃宮を盛大に吹き飛ばす。 もうもうと煙る黒煙をかき分けて歩み出てきたのは、全長5mほどまで成長した小熊座……!? 「大きくなった? アレは悪しき力だ!」 「というか、小熊であれなら大熊の方だったらどうなっていたんでしょうね……」 あまり想像したくないものである。 緋乃宮はなんとか息はあるようだが、小熊座が変身した時の爆発の衝撃波でかなりのダメージを受けたようだ。各務同様簡単には動けまい。 タイミングはほぼ完璧だった。しかし鈴木が使用した氷龍は『直線上』を攻撃する式。 ということは、まずどちらかに命中してからもう一方に命中するというプロセスを経るため、どうしても若干の誤差が生まれてしまうのだろう。 同時に、緋乃宮の崩震脚だけでは倒しきれなかったことも意味する。恐らく大熊座が若干体力を残したものと思われるため、結局誰が悪いわけでもない不幸な偶然ということになる。 『今の爆発で死ななかったか……。嬉しいぞ……貴様らは是非この手で殺したかったと思っていた……』 「喋ったぁ!?」 「どうやら知恵の方も強化されるみたいで―――」 ルオウが驚き、鈴木が状況分析を述べ終わる前に小熊座は大地を蹴っていた。 その巨体でよくもと思えるほどのスピード。一足飛びでまだ倒れている各務の所へ……! 「ぬぅっ! ふん、これでようやく張り合いが出てきたというもの!」 『オォォォォォッ!』 北条がフォローに入り、霊剣をクロスさせ拳を受け止める。 ミシミシと嫌な音が耳に入る。ハイパー化した小熊座のパワーは、まるで紙切れかのように北条の体を殴り飛ばした! 「北条さん! くっ、行って、小狐!」 小狐座のメダルを発動し再び狐型爆弾を向かわせる真亡。直撃し爆発が起きるものの、小熊座は何事もなかったかのように巨体を現す……! 『なんなんだぁ今のはぁ……?』 「そ、そん―――うわっ!?」 「膨らんだだけじゃないのか! ずおっ!?」 真亡に続き、近くにいた何も蹴り飛ばされて地面を数メートルも擦る。 ずしんずしんと歩むその足からは想像できないスピードを持っている……! 「残り7分……倒せるでしょうか……?」 「倒すんだよ! こいつが縮んだって振り出しに戻っちまうだけだ!」 「ふ……にわかには信じ難かったが、星座が相手とは面白い。我が武で星々に挑もうぞ」 鈴木の言葉に、ルオウと北条が同時に駆け出していく。ふっ飛ばされた真亡、何もダメージを押して攻撃に加わった。 しかし恐ろしいことに、5メートル近いその巨体にもかかわらず、四人からの攻撃をきっちり捌いている。 それは格闘術以外の何物でもなく、先程までころころ遊んでいた小熊と同一個体には全く見えなかった。 「ちっ!」 「ぐぅっ!」 「がはっ!」 「つぁっ!?」 ルオウ以外の三人が殴り飛ばされ地面に叩きつけられる。現状、まともにやりあえるのはルオウしかいないらしい。 そのルオウをもってしても互角か少々不利レベル。八分儀座を発動させた状態の刀は多少なりと小熊座の攻撃を弾くらしく、これがなければルオウも危なかったかもしれない。 自らの身体能力だけでこれだけの脅威を誇るハイパー小熊座。開拓者に勝機はあるのか……!? その時、不意に槍先がどこからか飛来し小熊座の巨体を軸に旋回しだした。 チェーンに繋がれた槍先……即ち鷲尾の魔槍砲! 自らを束縛した鎖を見下ろし、小熊座は鼻で笑う。 『こんなもので俺様を封じ込めたつもりか?』 「へっ、切れるもんなら切ってみなァ」 『……!? なん……だと……!? なんだぁこれはぁ!?』 「アンドロメダ座の多重発動。鎖の強度が上がるだけみてェなんだが、今回に限ってはおあつらえ向きだぜェ!」 小熊座が思いもかけぬ鎖の頑丈さに驚いている間に、槍先は小熊座の肩口に突き刺さる。そしてすぐさま鷲尾はアル・ディバインとゼロショットの合成技を撃込む! 「爆導鎖ァ!」 体内への直接の砲撃。しかもスキルの重ねがけでその攻撃力は大きく上昇している。 『グォォォォォッ!?』 肩口から黒煙と瘴気が混じったものを吹き出す小熊座。それを見逃すルオウではない……! 「こいつで止めだ! 奥義、八分儀スラァッシュ! 回転、剣舞!」 八分儀のような形のオーラを纏ったルオウの愛刀。それを手にしての回転斬り。 それは八分儀座の測れる角度を……限界を大きく超えた円環の理……! 銅を大きく斬り裂かれ、息も絶え絶えになりながらもなお闘志衰えず、ルオウに手を伸ばす小熊座。 しかし…… 「例え子熊でないにしても……大熊座とともに居てあげるといいよ」 「敵が小さく……は見えないが、私らが勝つということだ」 真亡。何。梅香る刀と海蛇の毒爪が閃くとき、ついに伝説のスーパー小熊座も瘴気へと還元されたのだった。 「……9分28秒。それがあなたの絶望へのタイムです」 鈴木が静かに目を閉じて時を告げる。どうやらこちら側にも余裕は皆無だったようだ。 偶然だろうか? 冬の風が吹きすさぶ山の中、二枚の黄金のメダルが寄り添うように地上で輝いていたという――― |