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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 黄道十二星座を模した星座アヤカシも三体目を撃破したが、あまり話を出来る状況ではなかったため星の一欠片の謎については遅々として解明が進んでいない。 しかし、研究者の中からこんな仮説を立てるものが現れた。 即ち……『集星という地域の何処かに、星の力を引き寄せる遺跡か何かがあるのではないか?』というもの。 似たような仮説は以前からあったが、こうも明確に星座の力を宿したアヤカシが出現し続ける以上、元凶というか中心となる物がないと説明がつかないのである。 結局のところ、その謎を解き明かせるのは、やはり開拓者たちしかいない。 「さて、今回の星座アヤカシは、八分儀座オクタンスと六分儀座セクスタンスみたいね」 「セッ……!? あぁいえすいませんわすれてください」 「……あなたも大人になっちゃったのねぇ……」 「わーもう深く追求しないでくださいよ! で、何でしたっけ!? 六分儀とか八分儀って!」 「んー、私もよく知らないんだけど、測量とか航海に使う道具なんだって。一般的には馴染みがないわね」 開拓者ギルド職員、西沢 一葉と鷲尾 亜理紗による星座アヤカシ依頼はすでに幅広く知られていた。 通常では見られないアヤカシや、星の一欠片による特殊な力を使ってみたいという者もちらほらいるらしい。 敷居が高いのか、奮って参加とまではなかなか行かないようだが。 「ふむふむ、物品系ってことですか。時計座と似たような感じですかね。どんなアヤカシなんです?」 「ケンカしてるんだって」 「……はいぃ?」 「見た目はその六分儀とか八分儀に手足が生えた形で、振り子みたいなもんだと思ってもらえればいいわ。で、人の大きさくらいもあるそいつらがいがみ合ってバトルしてるの。しかも決まって人や町を巻き込んでね」 「はた迷惑な……」 「しかも、本人たちは人を巻き込もうなんてちっとも思ってないわけ。喧嘩ながら移動して、たまたまそこに人や物がいて巻き込まれて被害が出る、みたいな。だから怪我人は出てるけど死人は出てないわね」 基本的に拳や蹴りでの殴り合いで喧嘩しているのだが、力が強い上に体が固いので結構バカにならない威力がある。 困ったことにこいつらは他の星座アヤカシとの戦いではダメージを受けないし与えられない仕様らしく、疲弊したところや傷が蓄積したところを狙う漁夫の利も狙えない。 単純故に強いというのはどこにでもあるパターン。厄介な相手である。 「ところで、喧嘩の理由は?」 「六分儀座曰く、『直角以上を測れない八分儀座なんぞただの産廃よ!』八分儀座曰く、『俺達八分儀座があったからこそ生まれた癖に偉そうな!』だって」 「…………くだらない…………」 本人たちにしてみれば大真面目な、いつまでたっても終わらない千日戦争(ワンサウザンドウォーズ)。 誰も居ないところでひっそりとやるならまだしも人や物を巻き込むのではやはり排除する他ない。 果たして、この喧嘩の間に入って無事に止めることはできるのだろうか――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●ルール無用の残虐ファイター 「キョーッキョッキョッキョ! 今日こそ決着をつけてやるぞ下等測量機めが!」 「カーッカッカッカ! 返り討ちにしてくれるわ軟弱測量機ぃ!」 石鏡の国、集星なる地域の東に位置するとある村。 そのすぐ近くの街道で、二体の……巨大な振り子のような形をしたアヤカシが文字通りの火花を散らしていた。 八分儀座オクタンス。六分儀座セクスタンス。星の一欠片をその身に秘めた星座アヤカシであり、その二体は何故かアヤカシ同士で殴り合い、蹴り合いの大立ち回りを演じている。 しかし彼らはお互いにダメージを与えられない仕様のため、いくらやっても決着はつかない。それどころか移動しながらやりあうので、たまたま近くにあった物や人を巻き込んでいくから非常に質が悪い。 依頼を受けて討伐にやってきた開拓者一行は、遠巻きに観察しながら深い溜息を吐く。 「………」 「き、気持ちはわかりますが黙らないでくださいよ。早く止めないと町が大変なことに……(汗)」 「いや、それはわかってンだけどさァ……なんだよあれ。色気も何もあったもんじゃねェ」 「そりゃ測量機だからな。色気のある測量機が有るなら見てみたいもんだ」 「……ナンデスカァその白い視線は」 「ぶぇーつぅーにぃー」 わざとらしくぷいっとそっぽを向いた何 静花(ib9584)に、星座アヤカシですでに腹を立てていた鷲尾天斗(ia0371)の怒りも有頂天である。 まぁ、思い当たるフシがないでもない。藪蛇になっても困るのでとりあえずスルーしようと心に決める。 一方、二人をまぁまぁと宥めつつ敵への警戒も怠らない真亡・雫(ia0432)。苦労人気質は相変わらずだ。 「正直8分だろうが6分だろうが計れりゃ良い気がするんだがなぁ……つーか結構派手に暴れてるねぇお二方」 「思ったより速いですね。あの打撃の速度……見た目に騙されると痛い目にあうかもしれません」 「どちらが優れているか争うなんて悲しい事ですわ。皆違って、みんな良い。で良いではありませんか……」 「おや、いいことを仰いますね」 「いやいや、君は相変わらず純粋だねぇ」 「そしてお姉様は私の物。それで良いではありませんか」 「……前言撤回します」 「なぁ?」 敵の観察を続けていた不破 颯(ib0495)と緋乃宮 白月(ib9855)の見立てでは、かなり高位の泰拳士くらいの実力がありそうという結論に至る。 振り子の身体から突き出た細い手足でよくもと思うくらい、星座アヤカシたちの拳は鋭く足は切れる。 争うことを憂い、切ない表情を見せていたかに見えた各務 英流(ib6372)であったが、安心の平常運転だったようだ。 「とにかく近づきましょう。いきなり攻撃してくるということはないでしょうから」 人間をすぐさま攻撃対象にしないことは分かっている。言い方は悪いが口車に乗せるためにも接近しあの攻防を一時中断させる必要がある。 真亡の音頭により、開拓者たちは渋々ながら六分儀座と八分儀座に向かっていくのだった――― ●優劣 「死ねよやぁぁぁっ!」 「逝けよやぁぁぁっ!」 無機質なはずの二つの測量機の拳が唸り蹴りが空を裂く。 電光石火の如きそれらが激突するその時、二つの影が現れ戦場に静けさが訪れた。 六分儀座の拳を鷲尾が魔槍砲で。八分儀座の蹴りを緋乃宮が右腕のブロックで受け止め、その戦いを中断させていた。 「キョ!? 貴様ら何者だ!?」 「人間ごとき下等生物が、我ら測量機の邪魔立てをするか!」 「……アヤカシじゃなくて測量機って部分強調するんだねぇ」 「あえてツッコまないでおきましょう……。そんなことより、あなた方の喧嘩で大勢の人が迷惑しているんです。できれば止めていただけませんか?」 へらっと笑う不破に対し、真亡は頭を抱え気味である。 それでもめげずに交渉を開始する真亡は開拓者の鑑と言えよう。 「ふん、俺様も速く決着をつけて本来のアヤカシの使命に戻りたいところだが……この時代遅れのポンコツが存外しぶとくてな」 「古きを慮ることを知らぬ愚か者がほざきよる! 数多の時代を支えてきた俺たち八分儀が貴様らごときに遅れを取るものか!」 うぜぇ―――その言葉を開拓者たちは必死に飲み込んだ。 このスチャラカな外見で、ニヒルだったり時代錯誤な喋り方をされると何故か頭にくる。 鷲尾と緋乃宮が体を張って喧嘩を中断させてくれたのでなんとか会話に持っていくことはできたが、ここで下手を打つと元の木阿弥どころか共闘されて状況悪化ということにもなりかねない。先ほどの腕前を見る限り、それはできるだけ避けたいところだった。 「貴方がた、戦闘力よりももっと重要な比べる物があるのではなくて?」 「何ィ!?」 すっ……と歩み出て意見を叩きつけたのは各務。 正直上手い言い回しだ。争うことを否定せず、それでいて殴り合いから考えをそらすことができ、しかも煽りまで含んでいる。事実、星座アヤカシたちは敏感に反応した。 これが『同じ測量機なんだから仲良くしろ』といったことを告げたなら完全に逆効果、裏目に出ていたであろう。 「グ、グムー。しかし、一体どんな勝負をしろと言うんだ」 測量でいいじゃないか、と言おうとした各務を緋乃宮が制する。 穏やかな笑顔で、彼はその後を引き継ぐ。 「良い測定器にはどんな時でも正確に測定結果をしめしてくれる事も条件だと思うのです。ちょっとした衝撃などでズレが生じてしまうのは望ましくないでしょう?」 「残念だが元が幾ら優秀だろうと歪んだ測量機は用なしのガラクタだ、必要ないな」 「それは無論である。少々落下させた程度で歪み使えなくなるようで話しにならぬ。……もっとも、六分儀のような軟弱アルミ製では無理な相談かも知れんがな」 「そいつは聞き捨てならないな! コストばかりかさむ真鍮で作られたからといって頑丈とは限らん! 骨董品が、実は内部が錆びて脆くなっているのではないか?」 「貴様ぁ……! 言うに事欠いて錆だと!? ならばこの勝負受けて立つのだろうな!?」 「望むところよ! 俺様の攻撃でへし折れなかったことは評価してやるが、果たしていつまで保つことやら!」 この始末である。煽ったつもりの何も拍子抜け以外の何物でもない。 不破辺りはどちらかが難色を示し、殴りあい以外の決着を拒むかと思っていたがそんなことはなかったぜ! さんざん殴りあって決着が付かなかったのだから、今度は公平に第三者を立てて耐久力勝負を、と恐いくらいに話が進む。会話はできても基本アホのようである。 やがて並び立った六分儀と八分儀の前に上機嫌の不破が弓を構えて立つ。 「耐久勝負は任せなぁ。しっかり両方に同じだけ撃ってやるからねぇ」 予告通り、六節で素早く矢を番え次々と射る不破。その狙いは正確無比で、二体の同じようなパーツをどんどん狙い撃ちにしていく。 が、連中の身体はアルミやら真鍮やらといった素材とは全く違うらしく、月涙を絡めてもなおほぼノーダメージ。少なくとも部品が凹んだりはしていない。 「……こりゃ本当に共闘させなくて良かったかもねぇ。さぁて、今度は何が出るかな〜っと……矢座発動!」 不破のお気に入り、矢座のメダルを発動させる。 彼が使った場合、光の弓と矢が発生し手ぶらの状態でも弓術を行使することができる。 しかし、不破は効果がそれだけではないことを発見したのである。 即ち――― 「矢を射らずに再発動を繰り返すと、威力が上がるんだよねぇ!」 「ゲェーッ!? 矢が大きくなりましたわぁー!?」 「ふむ……あれだけの巨大さだと、単発で撃つときの二倍、三倍……いや十倍の威力があるだろうな」 「どんな理論だ」 何の解説はともかく、大の大人くらいの長さと太さになった光の矢。スパークする光からも威力は伺える。 狙われた八分儀座は、どっしりと構えそれを受け止め――― 「やっぱ無理!」 ずにすんでで回避した。 「なんだい、避けたら意味ないだろぉ」 「い、いや、その、なんだ……意地の張りどころを間違えてはいかんと思ってな!」 哲学的である。 それはさておき、無理に避けたことを非難し続けて藪蛇になっても困る。いざとなればこの連続チャージした光の矢は切り札になりそうだと判明したので良しとしておこう。 お次は緋乃宮が前に出て魚座のメダルを使用。 すると緋乃宮の銀髪が腰くらいまで伸び、身体が少年のそれから少女のものへと変化する。 元々可愛らしく女の子と見紛うばかりの少年は、文句のつけようがないネコミミ美少女になった。最早女体化は魚座の恒例行事である。 もっとも、可愛らしいことに違いはないが真亡が使った時のようなチャームの効果はなさそうだ。何か別の効果があるらしい。 「…………なんだか変な感覚です」 照れて頬を染めていた緋乃宮だったが、気を取り直して二体に急接近する。 二体を範囲に収めた崩震脚。それが発動した時、崩震脚の円形範囲の地面から大量の水が吹き出し、六分儀と八分儀を空中へと舞い上げる。 綺麗に緋乃宮だけ避けて水は地面に叩きつけられ、少し遅れて二体のアヤカシも大音響を伴い墜落した。どうやらこれが緋乃宮の魚座の効果らしい。 「ま、まだまだ……! まだ俺様は折れちゃいないぜ……!」 「あら頑丈。ならば次は私がお相手しますわ」 次に歩み出たのは各務。その表情には自信が溢れており、手にしているメダルは……蠍座。なんだかとってもヤバそうな組み合わせである。 「燃えろ、私の中の嫉妬力! 分儀達を倒すまで高まれ!」 メダルを発動した瞬間、各務の体を紫色のオーラが包み込む。 手にした長斧で六分儀座をぶっ叩く各務。その攻撃力、命中力などは明らかに彼女本来のものをオーバーしている。 各務が蠍座を使った時の効果は『嫉妬している相手の全てのステータスを1ずつ上回る』というもの。この場合の対象は勿論鷲尾であり、ぶっ叩かれた六分儀座はとばっちりを受けたようなものである。 「き、傷が! 俺様の体に傷がぁっ!?」 「嫉妬の一念岩をも通す、ですわ♪」 上機嫌の各務を見て、ようやく二体のアヤカシは何か理不尽なものを感じ始める。 「な、なぁ八分儀の旦那。いくら勝負のためとはいえ、俺様達が一方的に人間に殴られてやる義理はあるのか……?」 「……俺もそれは疑問に思い始めたところだ。……もしや俺達はやつらの謀略に乗せられたのでは……」 アホはアホなりに頭を使い始めたようである。 その時、ひそひそ話をしていた二体のうち、六分儀座が突如押し寄せた大量の水によって押し流されてしまう。 やったのは……鷲尾。エリダヌス座のメダルを使い、『瞬間的に濁流を発生させる(攻撃能力は物理的な水の勢いだけ)』ことで二体の分断に成功したのである。 「ウザったい三角だな! 大体90度以上計れないから六分儀に取って代られてマイナーになった道具がゴチャゴチャ言うなやァ! だから星座自体も地味であまり目立たない結果天の南極を知るに南十字座使われちまうんだよォ!!」 「き、貴様、いくらなんでも言っていいことと悪いことが―――」 「五月蠅い! 遠い天体の観測が得意な灯台下暗し野郎に何が言える!? 大体お前の星座見たって六分儀に見えネーんだよ!!」 「そうだそうだ! 測量の器具が殴り合って決着が付くわけ無いだろっこのヌケサク共が!!」 雲行きが怪しくなってきたので、鷲尾は共闘される前に叩き潰そうと思い当たったわけである。 何も一緒になって煽りつつ、海蛇座のメダルを使用し光の毒爪を発生させた。 流されたところから、一瞬八分儀座を弁護しようとした六分儀座。しかし鷲尾の容赦無い言葉でこちらも大ショックを受けている。以外と気にしていたのだろうか。 「お、おのれぇ! 六分儀、こうなったら勝負もクソもない! まずはこいつらを蹴散らすぞ! ……六分儀!?」 「ざ、残念ですけど、合流は、させませんよ……!」 「グォォ……! 身体が……重い……!」 共闘の要請を出した八分儀座であったが、六分儀座のところにはすでに真亡が辿り着いており、テーブル山座のメダルで自分をも巻き込む超重力フィールドを発生させていた。 元々重量のある六分儀座にはより効果が大きい。倒れこまないようにするのでやっとのようだ。 「不覚……! 優先順位を見誤った結果か……!」 「何を今更。ちなみに八分儀より天文六分儀の方が古くからあるぞ」 「ばんなそかな!?」 「そのトリビア土産にあの世へ逝けやァ! つらぬき丸ゥゥゥゥゥゥ!」 男のロマン、パイルバンカー機能を備えた魔槍砲ペネトレイター。何の毒爪で斬り裂かれた直後に白梅香をかけた杭が八分儀座の身体を深々と抉る。貫通しなかっただけ褒めてやりたいくらいだが。 体の端から瘴気に還っていく八分儀座は、最後の最後にこんなことを言い残したという。 「つらぬき丸とは……剣のことではなかったか……?」 「八分儀の旦那!? くっそ……いなくなっちまえばそれはそれで寂しいもんだぜ……!」 「安心しなぁ。お前さんもすーぐに後を追わせてやるからさぁ」 ライバル(?)の死を悼む暇など六分儀にはない。真亡の高重力に縛られている間に不破の連続チャージが完了したらしい。 勿論避けようがない。先ほど八分儀座ですら危険を感じて回避した攻撃をまともに喰らわなければならない……! 「最後に1つだけ。なぜこの地域ではメダルが効力を発揮するんですか?」 「そんなもん、導星の社があるからに決まってんだろ!」 「導星の社(どうせいのやしろ)……?」 ダメ元で聞いてみた緋乃宮の質問に、六分儀座は思いもかけず即答した。 それはやはり、この集星という地域に星の力を集める元凶があるということ。しかし今までの調査でもこの地域にまつわる伝承や歴史などは散々調べたが、それと思しきものは該当がなかったはず……。 直後、六分儀座は不破が放った巨大な光の矢を受け絶命し瘴気に還った。こちらも貫通しなかったこと鑑み、この二体の装甲に関しては評価してやりたい。 地に落ちた六分儀座と八分儀座のメダル。それらを拾い上げ、鷲尾はふと秋の空を見上げた。 「そろそろこの星の力を手に入れようとする人間が出てきてもおかしくはネェよなァ……」 星の一欠片は誰にでも使える上に一点物ではない。その懸念は充分ある。 アヤカシとのメダルのやりとりだけならまだいい。人類同士でそんなことにならないよう祈るしかあるまい――― |