|
■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 星座アヤカシを打ち倒し続け、人類はついに星の一欠片の実用化に成功した。 行動力と気力を消費することで発動するこのメダル。効果は様々だが、人により効果が違う上に不確定というのはやはり恐い。実際、マイナス面の効果も出始めている。 使える場所も、石鏡の国の一部、集星と呼ばれる地域内に限られているのが痛い。実験も現地に行かなければならないわけだ。 そろそろ星の一欠片の謎についても研究していきたいところだが、生憎話を聞き出せそうな星座アヤカシは黄道十二宮を模した連中しかいない。しかしそれらは例外なく強力な能力を備えているのが頭の痛いところである。 「というわけで、黄道十二星座タイム。今回のアヤカシは蠍座、スコーピオンよ」 「あれ? 蠍座ってスコルピウスじゃ―――」 「スコーピオン。異論は認めない」 「…………は、はい」 ある日の開拓者ギルド。 普段と変わらぬにこやかな先輩職員、西沢 一葉の笑顔の裏に隠された迫力に怖気づき、鷲尾 亜理紗は両手を上げた。 黄道十二星座の力を持つアヤカシとなれば強力であることは言うに及ばず、蠍座というのはやはり恐い。 どう考えても毒を持つ。加えて防御も高そうなイメージだ。さて、その実態は? 「スコーピオンは25歳くらいの亜麻色ロングの女性の姿。しっぽなんかは無し。主武装は爪、ブレストプレートなんかで軽く武装してるみたい。原動力はしっとの心」 「…………はい?」 「お察しの通り爪には毒があるみたいだから気をつけてね。両手の指10本全部警戒すること」 「そーじゃなくて! え、原動力は何って言いました?」 「しっとの心」 「何故にさらっと!? じゃあ、嫉妬心を煽るような言動や行動を取ると能力が上がるとか?」 「正解。ちなみに、男女間のことだけじゃなくほぼすべての事に嫉妬するらしいから。自分よりお金持ってそうとか、あぁ、いいお昼食べてきたんだろうな、とかでも嫉妬するみたいね」 「もう言いがかりレベルじゃないですか……」 「アヤカシに理屈は通用しません。格闘戦も勿論できるし、何よりヤバいのは遠距離から毒をかなりの射程で飛ばしてくること、ついでにその毒が既存の方法では解毒できないってことは覚えておいてね」 「え、じゃあいったん毒食らったら死亡ですか?」 「まさか。いきなり動けなくなるような毒じゃないし、主に麻痺性の毒らしいから、時間が経てば徐々に治るわ。治るまで見逃してもらえるなら、ね」 星の一欠片のことを聞きたいと思ったらこんな厄介な奴が現れる。星座アヤカシは人の都合など考慮してくれない。 嫉妬深き蠍座の女……星座の闇は、深い――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
水月(ia2566)
10歳・女・吟
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰
焔翔(ic1236)
14歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●いいえ私が 「嫉妬の王はこの私! 未だにボッチで装備も見習い! ぽっと出の蠍座ごときに! この座は渡しませんわ! 教えてやりますわ……下には下が、底辺には更に底辺が居る事を!」 バァァーーーン! と書き文字効果音付きで叫んだのは各務 英流(ib6372)。 普段は人通りが多く賑やかであろう昼下がりの町も、蠍座のせいで開拓者たち以外人っ子一人いない状態。 蠍座がこの近辺に見えないことをいいことに言いたい放題である。 「自慢になるかンなもんよォ。ま、わかりやすい原動力だけに侮れねェわなァ……」 「ん……メダル、実験しておくの。いきなり本番は不安なの……」 「そうですね。相手は黄道十二星座……出来うる限り不確定要素は取り除きたいですね」 呆れ顔の鷲尾天斗(ia0371)をはじめ、開拓者たちはそれぞれ星の一欠片を取り出した。 過去に使って自分が使用した場合の効果が把握できているならともかく、今回は初見使用のメダルが多い。水月(ia2566)が言うようにぶっつけ本番は避けたい。 それは緋乃宮 白月(ib9855)の言葉通り、相手が相手だけに尚更である。メダルの効果に戸惑っている間に毒針をもらいましたでは話にならない。 開拓者たちは星の一欠片の力を開放し、それぞれ効果を確かめてみる。 「……うん? なんだ、私の鳳凰座は見た目では分からないパターンか。厄介だな」 「えぇと……僕の小狐座は、どうやら刃物の切れ味を増す効果みたいですね」 「僕のテーブル山座は……へぐっ!?」 順を追って説明しよう。何 静花(ib9584)が眉を寄せかったるそうな言葉を吐き、雪切・透夜(ib0135)の刀に高速回転する光のノコギリ状の細かい刃が出現したその次に……真亡・雫(ia0432)の周囲3メートルほどの地面が謎の高重力により少し沈んだ。 問題は真亡自身も重力の影響を受けることと、その効果に焔翔(ic1236)が巻き込まれたことか。 思わず悶絶する真亡であったが、効果は長続きしないらしい。わずか十秒ほどで重力はもとに戻る。 「び、びっくりした……。すいません、巻き込んでしまって」 「フッ……構わないさ。間違いは誰にでもある(いいっていいって、気にすんな! 間違いは誰にだってあんだろー)」 「えっ?」←真亡 「ん?」←焔翔 「……えぇ?」←真亡 「何か?」←焔翔 真亡が不審がったのも無理は無い。普段の焔翔はこんな気取ったしゃべり方ではなく、元気な熱血少年といったやんちゃなしゃべり方をする。 というか、本人は普通にざっくばらんに話しているつもりなのだが……彼が使った牡牛座のメダルの効果により口調が自動的にキザな感じに変換されているのだった。 「あら可愛い」 「うるせェよ! 俺が美少女化して誰得なんだよ!?」 「はわぁ……鷲尾さん、可愛いの……」 緋乃宮と水月にキラキラとした目で見つめられている鷲尾は、いつの間にか眼帯をつけた美少女に変化していた。 魚座恒例の女体化はまぁ既定路線として、何か付随効果もあるはずなのだが……鷲尾はさっさと解除しそれを確かめようとはしなかった。 「で、可愛い可愛い言っていた水月さん。なんだか急に大きくなられたんじゃありませんこと?」 「ん……? あれ……? 身体が育ってるの……!」 「外見年齢18歳といったところでしょうか。僕の炎の拳と比べると随分差がありますね……」 水月が使う時計座は『身体の年齢が18歳で固定される』効果。ちなみに成長以外に効果はないのだが、10歳の水月が身体だけ成長したので着物がつんつるてんになってしまっているのは目のやり場に困るところだ。 緋乃宮の小獅子座は『本人が敵と判断したものだけ焼く炎を拳に纏う』効果。装備品なども問題なく扱えるし、味方に被害が行かない点は優秀である。 「…………ところで、私はさっきからかなりの量の酒を飲んでいるんだが何故酔わない?」 「フッ……そうだね。考えるに、それが君が鳳凰座を使った時の効果なのではないかな(そうだなぁ。よくわかんねーけどそれがお前が鳳凰座使った時の効果なんじゃねーの?)」 「そのしゃべり方やめろ。癇に障る。と言うかなんだ、酔わなくなるとか鳳凰と関係なくないか!? またネタ担当の効果かこのクソメダル共!」 思わず星の一欠片を地面に叩きつけようとする何だったが、とりあえず周囲に止められたのでしぶしぶ自重する。 ……と、何と焔翔が微笑ましい(?)やりとりをしていた時である。 「……おっと、これは参ったね。寂しがり屋の子猫ちゃんが向こうからやってきてしまったようだよ(やっべ!? おいみんな、蠍座の奴がこっちを見つけちまったみたいだぜ!?)」 焔翔の気取った台詞の先。じゃり、と大地を踏みしめる蠍座の姿がそこにはあった。 ブスとも美人とも言えない微妙な容姿。高いとも低いとも言えない微妙な背丈。何もかもが中途半端であると外見からは感じられた。 しかし、その目。何かを羨み、何かを恨むその目だけはギラギラと輝いていた。 「……あなたたち、仲がいいのね。あー妬ましい!」 「こいつ……! 警戒はしていたはずなんだけどなァ……!」 「うふふふふふ……気配を殺して近づくのは基本」 冷たく細めた目。言葉とともに蠍座が手を振りぬく! 「危ない!」 風切り音と共に、雪切が構えた盾にガツンガツンと硬いものが当たったような音が響く。 それは例の針のようになった毒そのもの。人の動きを奪っていく麻痺毒! その針は一瞬金属のように固かったが、すぐに液体化して地面に染みを作っている。 力押しで叩き伏せるしかないか。開拓者たちがそう思っていた時である。 「なんて魅力的なべいべーだろう、キミの輝きは黄道十二星座の中でも際立っているよ」 キザな台詞を吐いたのは焔翔……ではなく、各務である。 彼女は珍しく男装しており、男のふりをして蠍座をナンパするつもりらしい。 情報を聞き出したいというのもあるが、褒めたり持ち上げたりして嫉妬させず、戦闘力の上昇を抑えたいという意図もある立派な作戦である。 「ボクと万商店で運命のロシアンルーレットランチをキメてみないかい?」 キラン、と歯を輝かせ各務が微笑む。すると…… 「貴様のような男がいるか」 「あるぇー!?」 ざくざくざくっと各務の胸元に四本ほど毒針が命中し、彼女を麻痺させ地に伏せさせる。 「サラシを巻いてるのか知らないけどね、そんなデカイ胸した男なんていないわよ! なによ、アタシをからかうつもり!? 胸を小さく見せるとか……妬ましい……!」 「さ、作戦失敗……あとはお任せしますわ……」 「うむ、巨乳と惚気死すべし」 「おめーはどっちの味方だ」 酔うことができなくなった何さんは平常運転である。 さて、開拓者たちも手を拱いていた訳ではない。各務の作戦が失敗に終わった時点で、周囲にある大きな桶やら路地やらに身を隠し、敵の毒針攻撃に備えている。 これは雪切が事前に現地の地図を調達、街の構造を把握し、襲われたとしてもなるべく遮蔽物が多い場所で実験をしていたからである。 話し合いが難しいと分かった時点で、とりあえず毒針からは逃げなければならない。痺れたままの各務を回収できたのはひとえに雪切が盾でガードしていたからだった。 「フン……そんなものでアタシから逃げたつもり? それともそんなこそこそしながらでもアタシくらいなら楽勝だって? あぁ妬ましい……!」 「完全に言いがかりなの……」 「うーん……隠れていても言いがかりで戦闘力を上げられたらたまりませんよね。ここは一つ仕掛けてみますか」 「ん……わかったの」 ちなみに水月の身体はもう元のサイズに戻っている。残念だが時計座は今回はあまり使いどころがなさそうだ。 近くにいた真亡と水月は、遮蔽物に隠れながらスコーピオンに近づいていく。 その度に毒針が彼らのすぐ近くに突き刺さり、水音を立てて液体に戻っていく……。 「なるほど……戦いやすい場所に誘い込まれたってわけね。なかなか頭が回るじゃない……あぁ妬ましい……!」 そればっかりだなと開拓者たちが微妙な気分になった時である。毒針の飛来が一時止み、蠍座がニヤリと笑った。 右手の人差指だけを立て、正面を指差すように構えて――― 「いいわ、ならアタシの唯一にして最大の奥義で歓迎してあげる! 必殺! スカーレット―――」 『待て待て待てぇ!?』 それぞれ多少言葉尻は違うが、開拓者たちは身を隠しつつ一斉にツッコミを入れた。 その先は言ってはならない。言わせてはならない。そんな気が猛烈にする。 「偉い人が怒りに来るの……」 「ここは身を晒してでも阻止しないと……」 水月と緋乃宮が物陰から出て蠍座と直に対峙する。しかし蠍座は主に水月を見て怪訝そうな顔をした。 「……何そのお面、顔に自信ないの? 髪もボサボサ、お風呂にも入ってないっぽい。着てるのもボロ……うわ、なんか可哀想になってきちゃった……」 「……くすん……」 「だ、大丈夫ですよ水月さん。とにかく今のうち!」 作戦通りなのだが、蠍座に憐れまれて少し悲しくなってしまった水月だった。 余計なフォローは折角下がった蠍座の戦闘力をまた上げてしまいかねない。そう判断した緋乃宮は、小獅子座のメダルを発動させ敵へと疾駆する。 しかし連射される毒針によって進撃はすぐに止められ、避けるので手一杯となってしまう。小獅子座の力で手で毒針を熱消毒しながら弾けるのは幸いだが、それでも間に合わない。 ついに避け損ない、毒針を一本もらってしまう緋乃宮。まだ動けるが、ヒットしたのが足だったのは痛い! すぐさま追撃の毒針が5本ばかり、緋乃宮めがけて発射される……! 「……個人的に、そうやって嫉妬出来るってのは結構羨ましいのですよね」 「ちっ……またあんたなの!?」 雪切がすかさず盾を構えてフォローに入る。アヘッド・ブレイクはこういう時にも非常に便利だ。 忌々しげであった蠍座だが、雪切の言葉に少々怪訝な顔をする。 「……どういう意味よ、羨ましいとか」 「それって、詰まる所相手をちゃんと見ていくってことですもの。自分に不足してる部分なので、そういう点は欲しいところです」 「なっ……! や、やめてよそういうの! お、おだてたって毒針以外出ないんだからね!」 「……出た。天然ジゴロ」 「あ、あはは……透夜君のいいところでもあるんですけどね……」 鷲尾と真亡が呆れるのも無理は無い。アヤカシといえども女性であるところの蠍座は、自身の特性も相まって『きちんと認められる』と弱い。 雪切は意識しているわけではないが、蠍座は頬を赤らめ明らかに気勢を殺がれている。 と、そんな時だった。 「うおーすげえいい女だ! あんたに惚れちまった、俺と付き合ってくれ!」 突如雪切の背後から飛び出した焔翔は、薔薇の花束を差し出しつつ蠍座に向かってそう言った。どうやら牡牛座の効果は切れたらしい。 何を口先だけ……と思い毒針を用意した蠍座であったが、焔翔の顔を見てその考えを改めた。 この男は本気でアタシのことを好きだと言っている。女の勘であり妬みの特性が、嘘偽りがないことを告げている。 「今までの流れ見てビビっと来た、あんたこそ運命のひとだ!」 「なんで!? あ、アタシなんかのどこが気に入ったのよ……」 「どこが魅力的って、全部だぜ! 表情がくるくる変わるところとか、人のことよく見てるところとか、水月のこと可哀想だなんて優しいところも持ってるしよ!」 これが上っ面の演技や、作戦のため仕方なく口説くなどといった心持ちであったなら蠍座はすぐに看破しただろう。しかし生憎と焔翔は本気の初恋をスコーピオンにぶつけている。 熱い想い。真っ直ぐな視線。偽りのない言葉。もしかしたら蠍座は、自分にだけ向けられる誰かの心を求めていたのかも知れない。 ……だが。 「どけ、焔翔。お前が本気であろうとなかろうと、そいつは倒さなきゃなんねェんだ」 ギラリと鋭い視線で焔翔とスコーピオンを睨みつける鷲尾。その手には魔槍砲が構えられており、今にも発射しかねない雰囲気だ。 「ま、待ってくれよ! 人に害をなすからダメだってんなら、俺がきちんと見張るから!」 「…………」 鷲尾はため息を一つ吐き……躊躇なく砲撃をぶち込んだ。焔翔もろとも、である。 火線に晒された焔翔は、スコーピオンを抱きしめ庇い、その背に砲撃と爆風を受けていた。 「ぐぅっ……! ホントに好きになっちまったんだよ! 好きな女を守ってやりたいんだ!」 「……辛い思いをするんだよ。お前も、アヤカシの方も」 鷲尾には過去に色々あったのだ。状況は違えど、今の焔翔のようにアヤカシと心を通じ合えそうなこともあった。 しかし、結局それは悲劇にしか繋がらない。経験者は語る……。 「よ、よくもこの人を……! 許さない!」 スコーピオンは怒りに任せて毒針を発射するが、目に見えて先ほどまでの勢いや精度がない。 嫉妬よりも怒りのほうが先に立ってしまうということは、彼女にとって自己否定をしているのとほぼ同義。それではアヤカシとしての力が高まるはずもない。 「くっそ! 邪魔する気はなかったんだけどよ、ここで引いたら男が廃る! 蠍座のことを好きだなんて言えなくなっちまうだろうがぁっ!」 「……ごめん」 いつの間に接近したのだろうか。ズドン、という振動とともに真亡と焔翔に超重力が課せられる。 真亡がテーブル山座のメダルを発動させ、自分もろとも焔翔の動きを安全に封じたのだ。 効果はわずか十秒ほど。その間に、何が蠍座に肉薄している……! 「馬鹿ね、この距離なら毒から逃げられない!」 「よく言ったあ! それでこそ修羅だ!!」 いくら戦闘力の上昇が抑えられていると言っても、黄道十二星座相手では何は役者不足。カウンターで直に突き立てられた爪から大量の麻痺毒を流し込まれ、何はすぐさま動けなくなって――― 「修羅を無礼(なめ)るなっ!」 「なっ―――」 ゼロ距離での爆砕拳を腹に叩きこまれ、蠍座は悶絶する。 何の鳳凰座の真の効果。それは『体内に入った毒素・病魔を焼きつくす内なる炎』であったのだ。 回復こそしないが、その効果で麻痺毒を瞬時に無効化したらしい。 「ん……ごめんなさいなの……」 「これもお仕事です。許して下さいね」 「ぐっ……! あなた、名前を! せめて名前だけでも教えて!」 水月と雪切が迫っている。もう逃げられないと、スコーピオンはそんな言葉を放つ。 「焔翔! 俺は、焔翔だぜ!」 「焔翔……嬉しかったわ。……サヨナラ……!」 「うおぉぉぉぉぉぉっ!」 一人の少年の絶叫が木霊し……一つの恋が終わりを告げた。 黄金に輝く蠍座のメダルを手に少年は号泣し……また一つ、大人の階段を登る――― |