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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 そのメダルが増えてきた頃、黄道十二星座は魚座からとある情報がもたらされた。 星の一欠片はただのメダルではなく、アヤカシが星の力を封じたものだという。 集星と呼ばれる地域は星の力が集まりやすい土地とかで、それを核にすることでアヤカシたちは強力または特殊なアヤカシとしてこの世に顕現するらしい。 依然、依頼に入った開拓者たちが何故100%の確率でメダルを手に入れているのかは不明だが、星の一欠片をどうにか有効活用できないものか。その研究は始まっている――― 「はーい、星座アヤカシの時間ですよー。今日は時計座、ホロロギウムでっす」 テンション高く開拓者たちに依頼を解説しているのは、ギルド職員の十七夜 亜理紗。 星座アヤカシの噂はそこそこ広まっており、一度くらいは参加してみてもいいかと思っている開拓者は多いらしい。 特に、星の一欠片で星座の力を引き出せるかもという話が出てからは顕著になってきたとか。 ちなみに今日は亜理紗一人。相方の西沢 一葉は不在のようである。 「そこのあなた! 時計座というからには時を操り、時間を止めたりするアヤカシだと思ったでしょう!? 残念、斜め上なんですよねぇ」 時を操るというのも微妙に違うような気がするホロロギウムの能力。それは『自分の周囲の生物の動きを加速させる』能力。 どうヤバいのかピンと来ない人も多かろう。だが、人間が100メートルを1秒未満で走りぬけられる様になるといえばわかりやすいだろうか? 要は通常の十倍速。それが『本人の意志とは関係なく速くなり、思考の速度は通常のまま』というのが問題なのだ。 「つまりホロロギウムのテリトリーに入ると勝手に速くなっちゃうんです。自分では普通に一歩踏み出しただけのつもりなのに、足の動きが速すぎてつんのめってコケるもしくは障害物に激突、みたいな」 時の加速した(?)領域内にいることで、当然時計座自体も速い。 身体の速さに意識が付いて行かない不自由な中、星座アヤカシを倒さなければならないのが厄介である。 ちなみに、時計座自体はそこまで強くない。やはり能力の方に力の大半を持っていかれているようだ。 「あ、ちなみに唇の動きも当然速くなるんで、テリトリー内では会話はよっぽど頑張らないとできないものと思ってくださいねー」 作戦は事前に、綿密に。 加速した空間で、どんなドタバタ劇が繰り広げられることやら――― |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
ナキ=シャラーラ(ib7034)
10歳・女・吟
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰
多由羅(ic0271)
20歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●勝ったッ! 「星の一欠片、完ッ!」 「ほー。で、残りの75種はどうするんだ?」 件の林の直前は、小高い丘になっていた。 そのてっぺんで拳を握り、力強く叫んでいたのは各務 英流(ib6372)。 それに冷静にツッコミを入れたのは何 静花(ib9584)。どうやら彼女らが普段敵視というか絶対に許さないと思っている人物が急用で来られなくなったのだとか。 「広い心と決して惚気を許さない怒り。まさか結実するとはな……」 「うふふふ……身体が軽い……もう何も怖くありません。今日の私は金色の三つ首龍より強くなれそうな気がします!」 「お前が望むなら全部現実になるだろうな」 「では御披露しましょう。私のッ! 秘策をッ!」 息を吸い込み、各務は叫ぶ。魂の迸りを感じさせるほどに。 「ふとんがッ! ふっ飛んだァーーーッ!」 木霊だけが響き渡り、やがて辺りに静寂が訪れる。 準備をしていた他の開拓者たちも思わずその動きを止めてしまっていた。 「これが私の! 周囲の時間を止める能力ッ!」 「さぁ、そろそろ突入です。皆さん、気を引きしめて参りましょう」 ビシィ、と奇妙なポーズを取った各務をスルーし、緋乃宮 白月(ib9855)の音頭で一行は林へと歩いて行く。 残されたのは各務のみ。 「ふっ……やれやれですわ」 「おまえがな!」 わざわざ瞬脚で戻ってきた何にはたかれつつ、各務もようやっと気を引き締め直したのだった――― ●ブーストバトル! そのテリトリーに踏み込んだ途端、開拓者たちの中に違和感が生じた。 片足を突っ込んだだけで背筋を駆け上がる、悪寒とも違う言葉にし難い違和感だった。 動きだけ十倍速にされるということは承知しているし、その想定で事前に準備もしてきた。 会話すら不可能になると言われた『動きだけの加速』。それは無意識下での動きは加速されないので、瞬きや心臓の鼓動などは通常のまま。よって急激に年をとったりはしない。 頷きあい、意を決して本格的にテリトリー内に侵入する。 その瞬間理解する。身を以て体験する。十倍速の世界を。 「(ひとまず、その為の準備は色々想定してしました……しかし、まさかこれほどとは……)」 「(変です……これは……。何か……奇妙だッ……!)」 ゴゴゴゴゴ、と空気が鳴動するような気配がした。 入念にイメージトレーニングを行なってきた三笠 三四郎(ia0163)も、多由羅 (ic0271)も、その効果を頭でなく魂で理解した。 辺りの様子を伺うためにちょっと右を向こうとした。しかし、向こうとした次の瞬間にはすでにその方向を向いていたのだ。 要は超スピードというチャチな代物なのだが、自分の意図しない速度でそれが行われると非常に困る。 「〜わ!」 「(ん?)」 「〜た!」 「(……何を言ってるのか全然分からないや……)」 各務が何かを喋っているらしいのだが、速すぎて最後の一文字しか分からない。 真亡・雫(ia0432)が苦笑いしているので、各務は言葉が通じていないと確信する。 とりあえず開拓者たちは少しでもこの十倍速に慣れるため試行錯誤を繰り返す。 アヤカシはいつ姿を現すかわからない。開拓者がテリトリーに入ってきたことをすでに敵は察知しているので、その僅かな間に…… 「アッー! アッー!」 見るとナキ=シャラーラ(ib7034)が両手を前に出し、両足飛びでピョンピョン飛び跳ねていた。 いわばキョンシースタイル。手を前に出す必要があるかは微妙だが、見る限り安定して移動できている。 掛け声と見た目に目をつぶれば……だが。 と、その時である。 「(何か……痛っ!?)」 何者かの気配を感じ振り向いた緋乃宮は、いつもの感覚だったので振り向きの速度で首に鋭い痛みを走らせた。 その痛みを堪えてそちらを見やると、人のサイズほどもある巨大な懐中時計が、でんと立っていた。 手足はくねくね曲がりそうな白い針金のような形状とコミカルな感じ。パッと見では非常に脆そうである。 「(表情が読み取れない……これは苦戦しそうで―――)」 多由羅が内心で呟ききる前に、彼女は宙を舞っていた。 続けて襲うのは胸部への鈍い痛みと自分が地面に転がった感覚。見ると、時計座ホロロギウムが拳を握って何かを殴った姿勢だった。それが自分であったと悟るのに一秒も要らない。 「(な、何ですって……!? ヤ、ヤバい………! この体勢はヤバい……! この場を逃れなければッ!)」 背筋に走った悪寒と直感。それを肯定するように、時計座の姿が一瞬で消える! 「おおおおおおぉぉォォッ!」 ごろごろと体を捻り地面を転がる。すると、今まで自分がいたところに膝をたたき落としている時計座の姿が……! 「(速い……。こちらも加速しているとはいえ、それが足かせになっているというのに……)」 三笠はナイフを構え、相手の動きを先読みする戦闘スタイルを取っている。 しかし、その先が読めない。相手が速いのもあるが、自身の身体の速度に思考が全く追いつかない。 ちょっと勢い良く振り向こうとすれば緋乃宮のように首を痛める。目だけを動かそうとしてもあらぬ方向まで視線が飛んでいってしまう。 手足などは言わずもがな。これでもかと言わんばかりにゆっくり動かさないと構えをとるのも難しい。 言うなれば常時瞬脚を使っているようなもの。人間の限界を超えた速度に、身体の方も悲鳴を上げつつある。 「アッー!」 この力が抜ける合図はナキである。意図は分からないが、何かをしようとするのはわかる。 続けて響いたパチンという指が擦れて鳴るあの音が響き……時計座をふっ飛ばした。 「(へへ、どうよ! 指パッチンには演奏も何もねえからな。ひたすら連発する! 素晴らしきナキ=シャラーラの指技、たっぷり見せてやるぜ!)」 どうやら彼女はフィンガースナップの音を媒介に吟遊詩人のスキル、精霊の狂想曲を発動しているらしい。確かにこのテリトリーでは歌うわけには行かないので非常に有効な手段といえるだろう。 というより、よくあんな装備が実現されたものだ(驚愕) しかし、時計座はふっとばされて転がった後、すぐさま姿を消した。つまり元気に攻撃を再開するということ……! 「(させるかこのヌケサクがーっ!)」 別の角度に移動しナキに攻撃を仕掛けようとしていた時計座。その動きを見切り、拳と拳をぶつけナキを救ったのは……何 静花であった。 瞬脚を使う泰拳士である彼女は、この超加速テリトリーでもいち早くそのスピードに慣れ始めていた。違和感はあるし身体もギクシャクするが、それでも他の面々よりは適応している。 少なくとも、時計座と殴り合いができるくらいには……! 「アッー! アッー!」 「そ れ や め ろ。 き が ち る」 なんとか意味が通じる速度で何が叫ぶ。 このテリトリー内でなければまだ多少違うのだが、速度に適応できても純粋な戦闘能力で何は時計座に劣る。 大幅にと言わないまでも、それがこのテリトリー内では大きなハンデとなる。強烈な回し蹴りを喰らい、何が吹き飛ばされる! 「チッ!(ならこれはどうだ。かつてある男が言った、反復横とびを用いれば容易に分身を生成する事が出来ると)」 何は路線を変更し、その場で反復横跳びを開始した。 戦闘中に何を馬鹿なと思うかもしれない。通常の戦場ならそうだろう。しかしここは特殊なテリトリー。 通常の十倍速という速度もあり、まるで何が3人も居るように……分身しているかのように見える! 「(凄いですね……ここでしかできない芸当で……す……?)」 三笠の言葉が尻すぼみになる。彼の台詞が終わらないうちに何のスピードが落ち、肩で息をし始めた。 「き ん に く つ う」 「(ダメじゃないですか……)」 体にかかる加速度で、肉体への疲労やダメージも十倍である。持久力を問われる行動は正直しんどい。 別に一人一人戦わなくてはいけないということはない。見かねた三笠と真亡が、ぎこちない動きながら何をサポートしに駆けつけた。 しばらく様子を見ていたおかげで、二人は大分テリトリーに慣れてきた。特に真亡はこの空間をどこか楽しんでいるかのような雰囲気であり、普段味わえない領域の加速に笑みを浮かべている。 「(行きますよ)」 「(心得ました)」 事前に決めておいた手信号で、真亡は自分は右から攻撃すると合図する。それを受け、三笠の動きも決定した。 左から攻撃、挟みこむように追い詰める。手信号でそれを合図し、二人は了解の合図を出す。 流石に本能で動いているだけの時計座は二人のやり取りを知るべくもない。ビシュンという音を伴って姿を消したが、次の瞬間には三笠のナイフで拳を止められた状態で出現する! 「(止めるくらいなら、なんとか……)」 二発目、三発目と拳を振るうが、時計座の攻撃はすべて三笠によって止められる。 複雑な動きは難しくとも、正面からの攻撃に合わせるくらいはできるようになった。そもそも、時計座は戦闘力という面では決して突出していない。 このテリトリーは全てが速い。それは敵である開拓者も、だ。 ビシュンという音と共に真亡がホロロギウムの背後に姿を現す。そして複雑な動作を避け、真っ直ぐ刀を突き刺した……! 巨大な懐中時計。その身体は思ったより硬く、上手く力が乗らなかったこともあり刺さりが浅い! 時計座がすぐにでも引き抜こうとした、その時である。 「(これならば自分が加速しても大丈夫だ、問題ない)」 突如、前から何者かが猛スピードで突っ込んできて時計座に体当たりをした。 その拍子に真亡の刀は時計座の身体を刺し貫き、深く深く抉る……! やったのは……各務。加速した空間に手間取ってはいたが、ただぶつかるだけならと意を決して地面を蹴ったのだった。 そしてそのまま真亡の腕を掴み、その場を離れる。刀で貫かれたままの時計座は、抜こうにも手が届かずその場で四苦八苦していた。 その背後に、ゴゴゴゴゴという謎の効果音をまとった多由羅の姿ッ! 「(これがいい……十倍だからこそいい……十倍にしてくれたお陰で……お前を倒せますッ!)」 気配に気づいて時計座が身を捻るのと、多由羅が十倍の加速のついた唐竹割を放ったのはほぼ同時。 当たらなくてもいい。これで決まりでなくてもいい。多由羅の意志は、仲間が受け継ぐッ! 「(準備は全て終わっています。これが、僕達の全てを込めた一撃です)」 「アッー!(手伝ってやろうか? ただし、なんでも真っ二つになっちまうぜー!)」 破軍、泰練気法・壱を使用し自身を強化した緋乃宮。彼こそが今回のキーマン。 彼が今から使おうとする技は足を踏み出すだけでいい。単純にして明快な動作のして、避けにくい範囲攻撃だ。 それを補佐するためにナキが例のフィンガースナップで奴隷戦士の葛藤を使用。時計座の防御を奪う! 仲間はすでに合図を受け退避済み。 後は踏み出そう。この林の下に広がる石の海へ……! 「(やれやれです)」 細身の少年に似つかわしくない、ズダンという重苦しい轟音が響いた後……林に静寂と、心と体が一致した正しい速度が戻ってきたのであった――― ●マッサージを忘れずに 「持ち逃げするなよ。ギルドに提出するんだからな」 「ぎく。し、しませんわよー。何さんは筋肉痛の心配をなさってくださいまし」 金色に輝く時計座のメダルを回収した一行は、すぐに帰還できないでいた。 戦っていた時間は僅かであったが、十倍速の世界では一挙手一投足が身体に大きな負担を与えていたようで、しばらくその場で体を労ることにしたのである。 重量による加速度や疲労、ダメージは開拓者たちも織り込み済みだったようで、重たい装備はなるべく避けていた。これも立派に時計座撃破に貢献した要因と言えるだろう。 「短期決戦できたからよかったですが……長引いていたら危なかったかもしれませんね……」 「人の身に余る加速……私達開拓者でさえこれですから、一般人では耐えられなかったかもしれません。早急に撃破できて何よりです」 三笠と多由羅が言うことは実にもっとも、的を射ている。 速いということはそれだけで強さにつながる。速度に耐えられる体をしていたという点でも、時計座ホロロギウムは実は恐ろしい敵だったのかも知れない。 「あの感覚……嫌いじゃなかったかな。そろそろ実用化できそうっていう話だったし、もしかしたらまた入り込めるかもね……あの速度に」 「力こそパワー! 速さこそスピードだぜ!」 「……? 意味が重複してます」 「こまけぇこたぁいいんだよ!」 物想う真亡。からからと笑い飛ばすナキ。天然全開でツッコむ緋乃宮。三者三様の在り方も勝ったればこそ。 時は流れるように流れるのが一番であると、その場の全員が自分をマッサージしつつ思うのであった――― |