カミーユのハジメテ
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/04 21:44



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

 カミーユ・ギンサ。それは銀取引で財を成した銀砂屋の一人娘であり、開拓者でもある少女だ。
 彼女は世界に一つしか無い、彼女のための武装を使っていることで少しずつ知名度が上がっていた。しかしそれは名声ではなく、物好きとか金持ちの道楽といった具合の半ば嘲笑じみたものである。
 それでもカミーユは気にせず開拓者としての活動を続ける。未熟ながら、誰かの自由を守れると信じて。
 そんなカミーユには、人と戦う経験が不足していた。開拓者は基本的にアヤカシと戦うものなので、駆け出しともなればそれは無理からぬ事であったが、彼女はそれすらも自ら特訓している。
 だが、訓練と実戦はやはり違う。戦うと決めたその時から、どうしても避けられないことがある―――
「盗賊……ですか?」
「そう。最近台頭してきた連中で、どうもシノビ崩れみたい」
 開拓者ギルド職員でカミーユに依頼の紹介をしているのは、西沢 一葉。カミーユとは良き友人である。
 石鏡内部で暗躍する新興の盗賊の話で、一人一人が結構な実力者らしい。
 普通の野盗などと違い、無差別に人は殺さず人知れず金品を奪うことを美徳としていたのだが……
「そのシノビ崩れたちがある村に盗みに入った時、別の依頼で開拓者たちがその村に滞在してたの。で、存在を嗅ぎつけられて開拓者たちが応戦、何も盗めず逃げたのね」
 その際、盗賊側の一人が死亡。盗賊たちは必ずこの村から盗んでやると言い残しその場を撤退した。
 開拓者たちはあくまで偶発的にその場にいたのであり、いつまでもいるわけではない。
 石鏡の軍の派遣も検討されたが、シノビがまだ9人もいるということで、逃さないための後詰を担当し本格的な戦闘は開拓者ギルドへの依頼となったのだった。
 逃走の阻止には大人数が要る。この分担は妥当といえば妥当だ。
「なるほど……ではわたくしも参加いたしまして、その盗賊さんたちを捕まえますわ」
「…………」
 しかし一葉は眉を寄せ、心配そうな顔をカミーユに向けた。
「何か?」
「……こんなこと、普通は聞かないけど……大丈夫? 敵は手練、おそらくあなたよりも強い人ばっかり。殺される可能性もあるし……人を殺すことになるかもしれない。手段は選べないわよ、多分」
 それは純粋にカミーユを心配しての発言だった。
 ともすれば侮っていると取られかねないが、カミーユは一葉の言葉をありがたく受け止めた。
 開拓者だろうがなんだろうが、人を殺さずに済むならその方がいいに決まっている。カミーユのようなお嬢様なら尚更、実家のイメージというものもあろう。
「お気遣い感謝いたします。でもわたくしは自由を守る騎士……守るべきは弱き者、自分の名誉ではありません」
 本人は清々しい笑顔で答えたつもりだったが、それは苦笑いであった。
 不安。恐怖。本人の無自覚な所でそれらが笑顔を苦笑いに変えた。
 それを察した一葉であったが、カミーユを止める術を一葉は知らない。
 人が人を殺す時。どんな理由や大義名分があれ、その重責にカミーユは耐えられるのか。
 避けて通れるはずの道をあえて征くカミーユの未来や如何に―――


■参加者一覧
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
无(ib1198
18歳・男・陰
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
アムルタート(ib6632
16歳・女・ジ
イデア・シュウ(ib9551
20歳・女・騎
鴉乃宮 千理(ib9782
21歳・女・武


■リプレイ本文

●殺し殺され
 開拓者たちは件の村に入り、早速準備を始めた。
 まず行ったのは村の財の集中。村中央にあった集会所に、各家の銭や金目の物を集めさせたのだ。
 難色を示されるかと思ったが、村人たちは積極的に協力してくれた。一度別の開拓者に村を救ってもらっている実績もあるし、彼らには他に妙案もなかったからである。
 敵は複数で、しかも機動力のあるシノビくずれ。いくら開拓者たちでも一軒一軒をすべて守るのは難しいし、敵には妙なプライドがある。そこを利用させてもらうのだ。
 仲間の仇討ちも兼ねて盗むと豪語した以上、二束三文にしかならないような物を盗んで『はい目的を達成しました』などとは口が裂けても言うまい。
 故に、金目の物を集めさせた。最終的にこの集会所を襲わざるをえないように。
 開拓者たちは各々準備をしつつ、もう一つの主旨であるカミーユについて考えた。
 いつものようにたおやかに笑ってはいるが、その眉は微妙に困ったような表情になっている。
 やはり不安が拭えないのだろう。フライハルトを握る手に必要以上の力が入っているのがわかる。
「いざという時に人と戦う、時に命を奪う覚悟が必要な時もあります。けれど、それは不安を感じながら無理に使命感で行う事でもないでしょう……自分の中にある不安や怖れ、それを凌駕する正しき怒りをもって為すべきことかと。カミーユ殿がそれを感じての事であれば、無理に止めはしませんが……」
 見かねて、志藤 久遠 (ia0597)がカミーユに本題を突きつける。
 戦場での迷いは自分を殺す。相手を殺すか殺すまいか迷った挙句反撃されて死にましたでは笑えない。
 友人である志藤の言葉に、カミーユは一瞬たじろいだ。彼女の中に、志藤が言ったような正しき怒りがあるかどうかカミーユ自身が甚だ疑問だったからだ。
「さて貴方の剣には何が乗ってますかね。正論、正義や大義があっても殺しは殺し、要否で決定する手段の一。振るう力は自分の命と意志と相手の生命、これまで振るった結果の積み重ねが乗るとも感じています。相手が人であれアヤカシであれ……ね。それが振るう力の意味と重さ。それと、殺すことは殺されることの容認ですが大丈夫ですか?」
 つい、とメガネを持ち上げながらいうのは无(ib1198)。
 彼らはカミーユとは年季が違う。かつて自分たちが通った道を歩む後輩に……そして友人としてもまたアドバイスを贈っている。
 人の命を奪うこと。その重さ。覚悟を決めたはずなのに……カミーユはあっさりとその覚悟が崩れていくのを感じる。
「俺は殺しはしねー。自分の命だけで精一杯なのにこれ以上重いもん背負えねーよ」
「あなたは……この道に踏み入れるべき人間ではない気もしますけどね。……その必要が、ないのであれば」
 羽喰 琥珀 (ib3263)やイデア・シュウ(ib9551)は、別にカミーユを止めているわけではなく、単純に自分の意見を述べているに過ぎない。
 最終的に決めるのはお前だ。だから好きに決めるといい。ただ自分はこう思っているということである。
 カミーユは焦っているのだろうか? 開拓者として、人を殺す覚悟も、その経験も無いことに。
「別に殺さんでいいんじゃよ? 我も無益な殺生は好まぬし。修羅外道はその場で殺したりもあるがの。己が信念を突き通したらいい、生かす事の方が余程辛き道じゃから」
 カミーユの対人間戦闘訓練に付き合ってくれたこともある僧、鴉乃宮 千理(ib9782)。口調は軽いながらも、その言葉には確かな説得力があった。
「ただ、自分が殺さずとも相手は殺しに来る。仲間が相手を殺すやもしれん。生かした相手が死罪となるやもしれん。……恨まぬこと、思い詰めぬこと。ここは戦場。死は承知」
「……でも、わたくしは……このままでは……」
「何、安心なされ。カミーユには民を守るという信念がある。これは何も持たぬ修羅や武人くずれより遥かに強くなる」
 くしゃ、とカミーユの頭を撫でて笑う鴉乃宮。
 カミーユも頭では理解しているのだろうが心が納得しきれていない。
 しかし時は待ってくれない。開拓者たちは遊撃班と防衛班に分かれ、盗賊たちの迎撃を開始する。
 不殺を貫くだけの実力も、想いも。今のカミーユにはあまりにも足りない―――

●少女が選んだ結末
「ちっ、こいつっ! 透明になれるなんて聞いていないぞ!」
「ぬかりましたね……囚痺枷香、ですか……!」
 敵はシノビくずれ。ということは、当然シノビの技を使う。
 村の右方を担当する遊撃班、イデアと長谷部 円秀(ib4529)は、思わぬ苦戦を強いられいた。
 相対する黒装束は二名。家屋に侵入したはいいものの、金目の物がなく仕方なく出てきたところをイデアたちに見つかり戦闘に入った。
 確かにシノビくずれ二人はかなりの実力だったが、イデア以上ではあるものの長谷部には及ばない。
 が、彼らは二人と出くわしたことで作戦を変更したらしく、イデアと長谷部の足止めに努めヒットアンドアウェイを繰り返す。どうやら盗み自体は他の連中に任せるつもりのようだ。
 シノビの技を駆使し戦う盗賊。長谷部すら神経毒で能力の低下を余儀なくされ、二組は互角の戦いを繰り広げる。
 しかし、足止め。時間稼ぎ。それらが自分たちの致命傷になることをシノビくずれは知らない。
 やがて……村から離れたところから狼煙銃による青い光が上がった。
 それに気づいたシノビくずれは、一瞬戸惑った後……事態を理解する。
 時間を稼ぎたかったのは自分たちではない。むしろ開拓者たちの方だったのだと。
 そして。
「何のためにあえて攻撃を食らったと思っている」
「多少の毒程度で、私の進撃は止められません」
 その一瞬の隙は、イデアと長谷部がシノビくずれに接近するのに充分であった。
 長谷部は瞬脚で滞りなく。
 相手が透明になっていたイデアも、自らの血をあえて返り血として相手に付着させたことで場所を確定、アヘッド・ブレイクで敵を捉える。
 油断できない相手ということは承知している。だから二人は、そのまま敵を刺し貫き急所に拳を叩きこみ……絶命させたのだった―――


 時は遡ること四半刻。こちらは村の左方を担当している雪切・透夜(ib0135)と羽喰。
 彼らも二人のシノビくずれと出くわし、戦闘に入っていた。
 こちらも敵はヒットアンドアウェイを繰り返し時間を稼ぐ方針に転換した。つまり、敵も戦力を集中させ集会所を狙ってくる可能性が高まったということでもある。
 違うのは、敵が完全に攻めあぐねている点。雪切の盾捌きに羽喰の逃げ足。毒を流し込もうにもまず近づけない。
 開拓者側にしてみれば時間がかかるのは歓迎なので、二人が無理に攻めようとしていないのも原因の一つだ。
 が、どうやら敵も馬鹿ではないらしい。雪切と羽喰の積極性の薄さに気づき、何やら言葉を交している。
「むむ。あれ、やばくねー?」
「僕に任せてください。お前たち! 盗みに入り、迎撃されて逆切れと……随分と安いな」
 まだ合図がないということは、石鏡軍による包囲は完成しきっていない。ならばもう少しここにとどめておく必要が有るということで、雪切が相手を文字通り挑発する。
「そしてどれだけ盗みの美学を誇ろうが、所詮盗人の自己満足でしかない……。唯のまやかしだ。誇るというのなら、真っ当な生き方で誇ってみせろ」
「貴様如きに何がわかるかっ!」
 まんまと挑発に乗ったシノビ崩れの一人が雪切に突撃してくる。
 雪切は悠然と構えを取り、それを迎撃……しなかった。
 だんっ、と雪切が地面を蹴ると、その身は突っ込んで来なかった方のシノビの眼前にあった!
「は……?」
「遅いですよ」
 アヘッド・ブレイク。雪切はこの技を使い、距離が離れていた方に奇襲をかけたのだ。
 当然、相手はわけも分からずマヌケな声を漏らし……延髄に峰打ちを叩きこまれ失神した。
「おのれぇぇぇっ!」
「甘いぜっ!」
 挑発に乗り迂闊に前に出た結果、味方を倒された。
 しかも羽喰の存在を忘れるという痛恨のミスを犯したシノビ崩れは、羽喰の紅椿によって足をえぐられ地面に繋ぎ止められてしまう!
 激痛に苦悶の呻きを上げたのも束の間。羽喰は両足でシノビ崩れの頭を抱えるように挟み込み、そのまま回転して地面に叩きつける!
 勿論、その際は地面に突き立てた刀を抜きつつだ。足が自由になる代わりに今度は脳天が地面にたたきつけられる結果となり、シノビ崩れはその場で昏倒する。
 と、ちょうどその時狼煙銃の青い光が空に上った―――


「あは♪ 行かせないもんねー!」
「敵は五人……カミーユ殿、油断は禁物ですよ!」
「心得ております!」
 村の財を集めた集会所。そこに強襲をかけてきたのは五人の黒装束。どうやら敵も開拓者の動きは察知していたらしく、村の左右に散った面々は念のためであり遊撃班の足止めでもあったようだ。
 流石に本命だけあってどれも強い。そして連携がきっちりとれている。
 接近戦を仕掛ける者を手裏剣で援護、鍔迫り合いになりそうなら横から割って入って毒を画策する。
 元々機動力があるだけあって、その動きを捉えるのは容易ではない。
 カミーユはフライハルトを片手剣と手甲に変形させて接近戦を挑んでいるが、常にアムルタート(ib6632)に守ってもらっているような格好だ。
 それも仕方がない。カミーユはまだまだ自力が足りなさすぎる。一対一をやろうものならあっさり殺されてしまいかねない。
「これ。そっちの毒はまだ効かぬのか」
「つ……! やってはいるのですが、ねぇ」
 実は无は負傷しており、日常会話ならともかく戦闘となると能力の低下が避けられない。
 普段ならば毒蟲なる技で戦局を優位に導けたはずだが、現状はそうはいかないようだった。鴉ノ宮もそれは承知しているのだが、敵の思わぬ実力に手がほしいと思う故の発言である。
「はっ!」
 志藤は瞬風波を放ち、遠距離攻撃からの追撃を画策する。
 しかし、踏み出す前から別の敵が圧力をかけそれを許さない。
 別に急ぐ必要はない。開拓者からしてみればまずは石鏡軍の包囲を待ちたいのでどれだけ時間がかかっても構わないのだ。
 とはいえ突破されるのは困る。事実、現状旗色が悪いのだから。
 敵は一人でも突破し集会所に乗り込んで金品を盗めれば良い。それができないのは開拓者たちが必死で戦線を支えているからに他ならない。
 ……正確に言うならば、志藤とアムルタートが、か。
「はぁっ、はぁっ、そもそも、勝てるか、怪しいですわ……!」
「カミーユ、無理しちゃダメだからね」
「で、でも、少しくらい無理をしなければ……」
「だーめ。ねえカミーユ、簡単に覚悟とか決めちゃだめなんだからね? 自分の在り方を決めちゃうんだからね? カミーユ頭いいから、今日を踏まえてちゃんと考えた方が良いと思う……よっと!」
 鞭を振るい、カミーユに接近してきた黒装束を撃退するアムルタート。
 にこやかにくるくる踊っているが、その頬に一筋の汗が伝うのをカミーユは見逃さなかった。
 無理をしている。参加者の中で取り立てて弱いカミーユをサポートしながらなのだから当たり前か。
 足を引っ張っている現実を認識したカミーユは、歯噛みして前へと駆け出した。
「無理はいけませんと言われたばかりだろうに!」
「攻める時は攻めませんと!」
 それは人と戦う訓練をした時に学んだこと。
 無闇に突っ込むのは論外だが、亀のように縮こまっているのも悪手である。
 敵はカミーユがアキレス腱であることを知っている。だから突出してきたことをこれ幸いと見た。
 カミーユを捕縛し人質とすれば事は終わる。その魔の手がカミーユに伸びる……!
「カミーユ殿!」
「カミーユぅ!」
 それは何に対する叫びだったのか。カミーユは左手に武装した手甲を振り上げ、シノビくずれに攻撃を仕掛けた。
 敵はそれをギリギリで回避しそのまま捕縛するつもりだった。実際、彼の腕なら十分回避できるはずだった。
 カミーユの手甲から、鉤爪のようなものが伸びるまでは。
「!?」
 敵はカミーユの武器が変幻自在の武装であることを知らなかった。というか、普通はわからない。
 僅かとはいえリーチが伸び、すれすれで躱そうとしていた身体を引き裂く!
 そしてそのまま右手に持っていた剣で追撃を―――
「…………! なんで……どうして……!」
 カミーユはその手を振り下ろせなかった。決めたはずなのに。覚悟したはずなのに。命を奪うことが、できなかった。
「大丈夫? 無理せずいこ♪」
「今はそれで良いですよ。戦いに集中しましょう!」
 すぐさまアムルタートと志藤が駆けつけ援護に入る。
 その時、空に狼煙銃の青い光が瞬いた。石鏡軍の包囲が完成したということである。
 一人を事実上捕縛された黒装束たち。壊滅は時間の問題である―――

●根源の想い
 黒装束たちをすべて捕縛し終わり……事件は終わりを迎えた。
 村人たちは集会所から財を持ち帰り、村に平穏が戻ったのである。
 その笑顔を遠くに見ながら、カミーユは物憂げに木に寄りかかっていた。
 そこに現れたのは、雪切。
「何の為に戦うのか、結局はそれでしょうか。理由なんてそれぞれで、人の数だけ存在します。勿論、僕もね。その上で、自分が納得出来るかどうか……。悩む事、それ自体に意味があると思います。あまり焦らずに」
 優しい微笑み。頬を撫でる優しい手。カミーユはそれに手を添えながら……ぽつりと呟いた。
「……わたくし……一人前になりたかったのです。貴方に認められるような……」
「僕に……?」
「でも、愚かでした。命を奪えることが一人前だなんて、そんなこと……あるわけないのに……」
 ぽろりとカミーユの頬を涙が走る。雪切は内心驚いたが、表には出さず微笑みを絶やさない。
「わたくし、嫌な女です。誰かのため、守るため……そんなことを隠れ蓑にして、その実自分のために人を殺すことを肯定しようとしたんです。でも……それに気づいてしまったからこそ、言います。言っておかないといけないんです。……聞いて、くださいますか?」
「……はい」
「雪切透夜様……わたくし、カミーユ・ギンサは貴方をお慕い申し上げております。一人の、男性として」
 涙を拭い、真っ直ぐ雪切の顔を見つめるカミーユ。その瞳は不安に満ち溢れていた。
「すぐにお返事をいただこうとは思っておりません。でも……こんな愚かな女がいるということだけ、覚えておいてくださいまし」
 ゆっくりと立ち上がり、ふらふらとおぼつかない足取りで帰っていくカミーユ。
 その後姿を、雪切は見送ることしかできない。
「……カミーユさん……僕は―――」
 その呟きは、風に運ばれてきた村人たちの歓喜の声にかき消されてしまったのだった―――