矢が先か的が先か
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/12 07:30



■オープニング本文

 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。
 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する―――

 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。
 そのメダルが増えてきた頃、黄道十二星座は魚座からとある情報がもたらされた。
 星の一欠片はただのメダルではなく、アヤカシが星の力を封じたものだという。
 集星と呼ばれる地域は星の力が集まりやすい土地とかで、それを核にすることでアヤカシたちは強力または特殊なアヤカシとしてこの世に顕現するらしい。
 依然、依頼に入った開拓者たちが何故100%の確率でメダルを手に入れているのかは不明だが、星の一欠片をどうにか有効活用できないものか。その研究は始まっている―――
「で、どうなの? 何か進展はあった?」
「むーん……どうも、神楽の都じゃ無理みたいですねぇ。多分、星の一欠片に封じられた星座の力を使うには、集星で研究しないと無理っぽいです。星の力とやらが足りないんだと思います」
 開拓者ギルド職員、西沢 一葉と鷲尾 亜理紗。星の一欠片の依頼を任されている二人である。
 亜理紗は陰陽師でもあり、星の一欠片の研究にも携わっている。しかし、状況は芳しくない模様。
 この辺りは要研究。パッと答えは出まい。
「ところで、また星座アヤカシの依頼が来てるわよ。今度は矢座、サジットね」
「紅蓮の―――」
「そのネタはポンプ座の時にやった」
「……使いどころを間違えましたかねぇ……」
「あれはあれで好評だったみたいだけどね。話を戻すわよ。今回のアヤカシは、的が合体したような形をしてるわ」
「的が合体ぃ?」
 ド真ん中が赤く塗られ、白と黒の円が連続して描かれた円形のアレである。それが、サイコロのように六面体になっていると思えばいい。
 中心には球形の物体があるらしいが、問題はこのアヤカシが通常の攻撃では絶対に死なないということ。
「わ、出た。○○しないと死なないシリーズ」
「このアヤカシは、近接攻撃と術攻撃ではダメージすら与えられないわ。このアヤカシを倒すには『10メートル以上離れたところ』から『身体から完全に離れた物理射撃攻撃』を当てないといけないらしいのよ。ちなみに、的の中心に近ければ近いほどダメージが増し、六面全部の中心……つまりは赤い部分に当てればそこで即死するんだって」
「……矢座っていうより的座なんじゃ……?」
「そんな星座はありません。ちなみに、瘴気の矢を放って攻撃してくるから注意すること。狙いはかなり正確だって」
「申し訳程度の矢要素!?」
 鎖鎌などの伸ばして当てる攻撃は不可。弓矢、銃弾、手裏剣などは10メートル以上離れていればOK。
 刀や剣、槍などでも、10メートル以上離れての投擲ならばダメージは入るらしい。要は遠距離攻撃をしろということである。
 浮遊し、移動する六面体の的。矢を放って攻撃してくるそれを、見事撃ち抜き撃破することができるだろうか―――


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
水月(ia2566
10歳・女・吟
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
何 静花(ib9584
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓


■リプレイ本文

●反逆の的
 狙って現れたのかは定かではないが、件の矢座が現れたのは遮蔽物のない平原である。
 白と黒と一部に赤を彩られたその姿は遠目からでも目立ち、発見することは容易であった。
 何を考えているか全く読み取れないエセサイコロ。地上1.5mほどのところをふよふよ浮いている。
 瘴気で作った矢を射かけてくるということは、索敵能力も高かろう。開拓者たちはゆっくり、じりじりと間合いを測りつつ接近していく。
 すると、ふと漂っていた矢座の動きが止まる。開拓者たちとの距離はおよそ150m。まさかこの距離で攻撃が可能なのか? ここから8連射の矢はそうとうヤバいが。
「矢座って言うから来たけど……あれ、矢かい? 的じゃあないかい? まあ別にいいんだけどねぇ」
「えっ、ちょ、そんな無造作で大丈夫ですか!?」
 苦笑いしつつ歩みを進めるのは不破 颯(ib0495)。慌てて真亡・雫(ia0432)が声をかけるが、不破は手をひらひらさせて大丈夫とアピールする。
 彼には理屈でなく魂で理解できたのだ。まだ奴の射程ではない、と。
 その直感を信じ進む一行。やがてその距離は50mほどまで接近する……!
「つかよォ。ここまで撃ってこねェなら弓で狙い放題なんじゃねェか?」
「違うの……多分、撃ってきてないだけなの……」
「ということは何かい、すでにやつの射程圏内だって?」
「おい、しれっと頭を撫でるな。手を下に持っていくな!」
 鷲尾天斗(ia0371)は矢座を眺めつつ、表情も攻撃の予備動作も見受けられないその姿に溜息を吐く。
 それに対し、水月(ia2566)はとっくに奴の射程内に入っているであろうことを感じ取っている。
 不破もそうだが、単に相性の問題なのか……それとも彼らに星座の力を感じ取る何かがあるのかは不明。
 水月をいいこいいこしつつデレそうな顔を引き締めているのはフランヴェル・ギーベリ(ib5897)。スキンシップだと主張するが、何 静花(ib9584)がツッコんだ通り今にも危ない方向へ行ってしまいそうなのが色んな意味で恐い。
「あれが件のアヤカシか。弓術師を誘うようなあの姿……面白い! 私の弓にたっぷりと宿した殺意、その身に受けて……痛ったい! 矢が刺さった! 的の分際で矢を飛ばすなど生意気だぞ!」
 ゆるい空気の中、篠崎早矢(ic0072)はきっちりはっきり敵意というか殺意を向けて口上を述べていた。
 それに反応したのかどうか。矢座は発射口の一つから予備動作ゼロで一本の矢を発射、篠崎の左腕に直撃させた。痛いで済んでいる辺り、そこまで威力はないのか……それとも加減されただけか?
 連射こそしてこなかったが、一同は素早く散開して矢座を包囲する陣形へとシフトする。
 勿論、そこでも前衛後衛のような概念がある。敵の注意を引き付ける役と、的を狙い撃滅する役である。
「あまり投擲はしたことがありませんが、やるしかありません」
 口火を切ったのは緋乃宮 白月(ib9855)。彼は引きつけ役の一人であり、攻撃手段は飛行下駄。
 八連射の矢など、何度も攻撃のチャンスをやる訳にはいかない。緋乃宮を基点として、一行は波状攻撃を仕掛ける……!
「私の矢を受けてみるがいい!」
「さァ、ショータイムの始まりだァ!」
「がっかりアヤカシ、ボクが相手だ!」
「殴る方が本業なんだけどな」
「僕も刀のほうが本業ですけれども!」
「お願いなの、ねこさんたち」
「さぁて、じっくり早く正確に、さっさと済ませてしまおうかねぇ」
 それは時間にして十秒ちょっとの交差。それを細かに説明するとこうなる。
 まず緋乃宮の飛行下駄を矢座が撃ち落とし、続けて篠崎が放った矢をアヤカシが迎撃。銃を連射する鷲尾に向かって迎撃の矢が放たれる。
 フランベルが投擲した投文札と何が投げつけた泰剣「飛刀」が撃ち落され、接近しつつ銃を放った真亡に向かって矢が発射されるも迎撃、水月が放ったねこ型式による呪縛符にまとわりつかれているアヤカシを狙った不破の一矢が二本の矢で空中迎撃される。
 息をつかせない怒涛の攻撃を、的確に、そしてノーモーションでやってのけた矢座。不気味な見た目に違わずその能力は高い……!
 実際にダメージとなったのは鷲尾と真亡の銃弾のみ。流石に弾丸を矢で迎撃は難しいようだが、的の中心に当てるまでには至らない。
「矢が先か的が先か、しかし的から矢が出るのか……奴は禅問答か何かか?」
「なんて迎撃性能だ。こうなったらやはり8発撃たせきるという方向でいくしかないねっ」
 何とフランベルの呟きに一行は緊張感を高める。あれだけの攻めをいなした敵を侮ることなど出来はしない。
 とはいえ、現状の矢座は水月の呪縛符によって生み出された様々な色柄の猫ににゃーにゃーまとわりつかれている。ちょっと可愛いというかシュールである。
「……振り払わない……?」
「直接的な被害をうけるわけではないからではないでしょうか」
「ふむ……あれは助かるかもねぇ」
 水月と緋乃宮のやりとりを聞いていた不破は、にやりと笑って弓を構え直す。
 しかし、水月は不破の着物の袖をくいくいと引っ張った。
「……ねこさんたち、いじめたらだめなの」
「大丈夫さぁ。猫には当てないって約束するから、俺のタイミングで呪縛符使ってくれるかい?」
 こくこくと水月が頷いたのを確認し、不破も満足気に頷く。
「となればだ、囮役は俺達だよなァ」
「敵は撃ち落とせない銃を持った僕達を警戒するはずです。矢の引きつけは任せてください!」
「人手が足りなさそうなので、僕もお手伝いしますです」
 鷲尾、真亡、緋乃宮の三人が駆け出し散開する。
 矢座には後ろとか前といった概念はない。死角すらも存在しない。だからといって纏まっているよりは有効な作戦である。
 銃を乱射する鷲尾と真亡に対し、矢座は正確に矢を撃ち返す。
 流石に射手の命中力を上回るほどの回避力は二人にはない。それぞれ三本もの矢を連続で放たれ、足に被弾する……!
「やりにくいっ」
「それはみんな同じと思い給え!」
 間隙を突き、何とフランベルが走り込んでいる。
 再び10m離れたところから投擲を行うも、それぞれ迎撃されてしまう……!
 しかし!?
「護衛ありがとね、フランベルさんっ!」
「フランでいいよ、大猫ちゃん」
「後で話があるから……ねっと!」
 迎撃で全ての矢を撃ち切ってしまったサジットは、リロードが追いつかない。その僅かな隙に、フランベルの影に隠れていた篠崎が飛び出し五文銭で矢を放つ。
 精密射撃に長けたこの技。そして10mちょっとのこの距離。彼女が放った矢は六面体の一つのド真ん中に見事突き刺さった!
「今だ、水月ちゃん!」
 ほぼ同時に、不破の指示で水月が呪縛符を発動。サジットは再び猫まみれになり、空中でかくんかくんと体勢を崩す。
 しかしその程度でズレるほど不破の狙いは甘くない。そして水月との約束をきっちり守り、猫を避けて見事的のド真ん中を撃ち抜いた……!
 二本の矢を受けたサジットは、一瞬痙攣するようにビクリと大きく震え……予想外の行動に出た!

『当たーりー』

 響き渡った女性のようなよく通る声。一行は思わず目を点にして動きを止めてしまう。
 やがて呪縛符の猫が消えるが、サジットは何事もなかったかのようにふよふよ浮くだけだった。
 十数秒後。ようやく事態を飲み込めた開拓者たちの意見は概ね一致していた。
『うぜぇ……』
 流石に水月だけはきょとんと首を傾げるだけだったが。
 六面体のうち二面に矢を突き立て、要領を得た開拓者たちは同じ作戦で更に二面のド真ん中を撃ちぬくことに成功する。とりあえずアホなので同じ作戦が通用するのがありがたい。
 しかし、再び響いた『当たーりー』をきっちり無視し、開拓者はここからどうするか考える。
 残るは六面体の上と下の面。今までは横の動きで撹乱し本命の射手が面を撃ちぬく事ができたが、上下はそうも行かない。
 10m以上離れて撃たなければならないという制約上、下に潜り込んで攻撃しても意味は無い。かと言って面が見えてすらいない上部はもっと難しい。
 一応、当てずっぽうで撃つことは可能であるが美しくない。同様に、すでにド真ん中に当てている四面を攻撃し続けて倒すというのもなんだか弓術師としてのプライドが許さない。
 と、そんな時だ。
「ここは私に任せてもらおうか」
 歩み出たのは何。真剣な表情で瞬脚の準備に入っていた。
「なんだ、今日は随分真面目だな」
「流石に前回はふざけすぎた、今日は真面目だ」
「相方がいねェからかァ?」
「それもある」
「あんのかよ!」
「最近隣国が騒がしくなるらしいし、ここはここで抑えないとな。フォローは頼むぞ!」
 一瞬でサジットの直下に潜り込む何。危機を察知し慌てて下面から矢を放つサジット。
 しかし何は矢傷を受けながらも爆砕拳でサジットをかち上げる!
 吹き飛び地面をゴロゴロと転がるサジット。すると、どこかで聞いたような声で……
『何が出るかな♪ 何が出るかな♪』
「……すいません、本気でうざいと思ってしまいました」
「大丈夫です。多分みんな同じですよ」
「というか、全面全て的なのだから何が出るもクソもないと思うけどね」
 真亡、緋乃宮、フランベルの会話を他所にサジットは転がり続ける。
 そう、先程まで上下に位置していたところも含めて。
「なるほど、いい手だねぇ」
「あとは私達の出番。この一矢に―――」
『すべてを掛けて』
 転がりながら正確な迎撃など、できるものならやってみろ。
 二人の弓術師が放った矢の行方は、語るべくもないことであった―――

●一欠片の断片
 六面全てのド真ん中に矢の直撃を受けたサジットは、ついに瘴気となって消え去った。
 その後に残るは矢座の絵と星図が刻印された黄金のメダル。それを回収しつつ、一行は水月に治療を施してもらっていた。
「膝に矢傷を受けてしまってな……」
「肘なの」
「あぁっ、痛い! 君が可愛すぎて心が痛いよ水月ちゃん! 是非君が治しておくれ!」
「怪我じゃないと無理なの」
「ある意味大怪我ですけどね」
「緋乃宮さん……笑顔でさらりと恐ろしい子っ……!」
 衝撃を受けた様子の真亡を筆頭に、一同には弛緩した空気が流れていた。
 まぁ見たことも聞いたこともないような珍妙なアヤカシとの激闘を終えたのだ。誰も文句はあるまい。
 と、矢座のメダルを手にし眺めていた不破に鷲尾が声をかける。
「おう、どしたァ。ネコババは禁止だぜ?」
「しないよ。ただね、不思議とこいつとは呼び合うというか通じるものを感じるかなってさぁ」
「ふーん……人間とも相性なんてモンがあんのかねェ」
「そりゃあるだろうさぁ。……確か本来、この星の一欠片っていうのは落ちる可能性のほうが低いんだったよねぇ?」
「嫁の話によりゃあな」
「もしかしたら、参加者の中に常にその星座と引き合う人がいたのかもしれないな。煌めく星座がおまえを呼んでる……というわけか!」
「それは選ばれた戦士の証とでもいうつもりかよ」
 急に話に割り込んできた篠崎。しかしその台詞は妙に的を射ているような気がした。
「さぁてね。とにかく、研究が進んでるんだろ? 俺も楽しみにさせてもらうよ」
 言いつつ、鷲尾にメダルを投げて寄越す不破。
 かつてピスケスが語った星の力。その断片が集まりつつある今、解明の日は近いのかもしれない―――