望遠鏡の恐怖
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/05 07:46



■オープニング本文

 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。
 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する―――

 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。
 石鏡の極一部の地域で出現するアヤカシを倒した時のみ落とすことがあると言われており、好事家たちの間で注目されている逸品だ。
 その一部の地域とは、三位湖の真東辺りに位置する『集星(イントネーションはしゅ↑うせい)』と呼ばれる地域であり、星の一欠片を求めてアヤカシ狩りをする者も増えてきたとか。
 最近それに関する依頼が立て続いているが、本来落とすほうが珍しいはずの星の一欠片を、依頼に入った開拓者たちは全て手に入れている。これは奇跡的な数字である。
 これが単なるラッキーや偶然なのか……それとも何かを示唆しているのかは謎のヴェールに包まれたまま―――
「さて、今回の星座はですね……多分望遠鏡座、テレスコピウムです」
「何よ多分って……」
 開拓者ギルド職員、鷲尾 亜理紗と西沢 一葉。星の一欠片関連を一手に任されている二人組である。
 亜理紗は明後日の方向に目を逸らしており、冷や汗をかいているのを見逃す一葉ではなかった。
 一葉も頭が悪いほうではない。そのリアクションで大体の事情は察したようだ。
「つまり、敵の姿を確認できてないっていうことね?」
「そうなんです。どこからか瘴気を凝縮した弾丸で狙撃されたというのはわかっているらしいんですが、どこから撃ってきたのか、どんなアヤカシだったのかは全く判明していないんです」
 今までの星座アヤカシは必ず姿を確認できていた。今回のような事例は珍しい。
 望遠鏡座というからにはかなり遠くから獲物を認識し攻撃しているのだろう。索敵術の範囲では捉えきれまい。
「ちなみに、怪我人はたくさん出てますが死人は一人も出てません。どうやらこのアヤカシはわざと急所を外して、痛がったり怖がったりする被害者の負の感情を瘴気に還元していると思われます」
「不意に飛んでくる弾丸を頼りに、ダメージ覚悟で追い詰めるしかないってわけね……また厄介な」
「専門家の意見では、索敵・狙撃に特化しすぎているため、旋回性能はともかく移動速度は遅いだろうとのことです。本体を見つけ、接近できればほぼ勝ちなのではないかと。また特殊な戦闘になると思いますが、頑張っていただきましょう」
 アヤカシが放つ瘴気の弾丸は、実体弾ではないため弾切れがなく発射音も風切り音もない。ステルス性能にも秀でていると言えよう。
 ただし、流石に連射は効かず一発一発のダメージは少なめ。もらったからと言って手足が吹き飛ぶようなことはまずない。それは目標に近づいても同様である。
 また、軌道を曲げたりすることもない。テレスコピウムが放つ弾丸は常に真っ直ぐ遠くに飛ぶのみ。
 一長一短があまりにはっきりしている望遠鏡座。果たして、撃破することができるだろうか―――


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
各務 英流(ib6372
20歳・女・シ
何 静花(ib9584
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰


■リプレイ本文

●望遠、だよ?
「望遠鏡座のアヤカシ……どんな姿をしているのだろうね。案外、背丈より長い銃を構えた9歳前後の金髪幼女だったりして。……いや、そうに違いない! テンション上がってきた!」
「いや、それが本当なら俺もテンション爆上げなんだがなァ……多分無ェよ」
 あまりに逞しい妄想の翼を広げているのはフランヴェル・ギーベリ(ib5897)。その格好をとりあえず置いておいて、鷲尾天斗 (ia0371)は残念そうにツッコんだ。
 星の一欠片を宿すアヤカシは特殊な者が多いので、100%ありえないとまでは言わないが、そんな一部の方々が喜ぶような外見のアヤカシであることはあるまい。
「長距離から狙撃専門のアヤカシですか、厄介ですね。とにかく何としても距離を詰めたいです」
 そんな二人をさらっとスルーし、緋乃宮 白月 (ib9855)が木の影から周囲の警戒を続けている。
 敵は長距離射撃を得意とし、未だ誰も姿を見たことがないという。望遠鏡座、テレスコピウムの面目躍如といったところだが、その分開拓者たちの負担は大きい。
 被害が続出している山に足を踏み入れた時点で、全員障害物に隠れながら進んでいる。
「方向さえわかれば、敵が隠れられる場所はある程度特定できますね」
「お、珍しく真面目な意見じゃないか。期待していいのかな?」
「おはようからお休みまでお姉様の暮らしを見守り、あまつさえ愛用の抱き枕をだきゅはすぺろぺろして来たこの私の眼ならッ! 99%の確率で、覗きアヤカシを見つけてみせるッ!」
「全然駄目じゃあねーかッ!」
「あなたも人のことを言えますの?」
「この格好してると相棒達が嫌に喜ぶんだが……なんでだ?」
 各務 英流 (ib6372)がぐっと拳を握っているところに何 静花 (ib9584)がツッコミを入れる。
 しかし、その何はまるごとりゅうを着こみ、何事もないかのように堂々と道を歩いている。
 とりあえずの囮役なのだが、今のところ彼女が狙われることはない。ならばと、かねてから準備してきたフランベルが満を持して木の影から姿を現した。
 首から足元までをすっぽり覆う大きさの、円筒形の被り物。
 しかも内部は細竹の骨組みに紙を張り、二重構造としてある徹底ぶりで、筋肉質の鬼(の首から下)の絵も描いてある。
 フランベルは首から上だけをその筒からだし、ひょこひょことひよこが歩くようにして歩く。端から見るとちょっと……いや、かなり危ない絵面だった。
「さぁ、君も!」
「マジでコレ被るンですかァ?」
 フランベルは鷲尾にも同じ物を用意してきたようで、いい笑顔で着用を勧める。
 別にこの格好は伊達や酔狂でやっているわけではなく、立派なテレスコピウム対策の一つである。
 敵の狙撃は発射光も発射音もなく、空気を斬り裂く音すら無い。真っ直ぐ飛んでくるだけとはいえ、それがどこから飛んできたのか見当をつけるためにはダメージ覚悟で普通に弾丸を喰らうだけでは不安が残る。
 そこでフランベルが用意したのがこの円筒状のきぐるみ(?)。本来なら頭だけ出しておくなど自殺行為以外の何物でもないが、テレスコピウムは急所を狙わず獲物をいたぶる性質がある。威力が低いこともあり、脳天をぶち抜かれて即死という可能性はほぼ無い。
「自分の体で衝撃を受けた方がァ素早い行動が出来るしなァ」
「いいからさっさと着やがって的になるといいですわ♪」
「ほら、こんな格好の私だって大丈夫なんだ。おまえならいける♪」
「うすらやかましいわァ! お前らは個人的な恨みみたいなのが混じってんだろォが!」
「……やらないんですか? みんなで作戦立てたのに……集団行動を乱すのはよくないと思うんです」
 各務と何が邪悪な笑みできぐるみを薦めてくるのに対し、緋乃宮は欠片も悪意がない。
 小首を傾げ困ったように呟くその姿は、そんじょそこらの少女よりもよほど可憐だった。
「……俺、そういう趣味ねェからな」
「はい?」
 鷲尾は仕方なくフランベルが用意した円筒状のきぐるみを被り、ひょこひょこと狙いやすそうな見通しの良い場所に踊り出る。
 フランベル、鷲尾、何。その3人が辺りを見回し、敵の攻撃を待つ。
 待つこと10分ほど。人間の集中力は長く保たないもので、そろそろだれ始めた時である。
「あじゃぱァー!」
 フランベルがわざとらしい悲鳴を上げ、倒れまいと必死で足を踏ん張っていた。
 見ると鬼の絵の肩口辺りに小さな穴が開いており、それはフランベルの肩にも当たったらしい。悲鳴はわざとらしくともダメージを受けたのは本当だ。
 連射はないとのことだが、どの程度を連射というのかは人により差異がある。フランベルが撃たれ、痛みを堪えてから30秒ほど。
「ぐっ……!? やろっ……!」
 フランベルに駆け寄ったのが災いして、鷲尾が背後から狙撃され背中に直撃する。
 確かにダメージ自体は大きくないが、痛いことに違いはない。それに、針を刺したような鋭い痛みの後に、じくじくと瘴気が体を侵食するような嫌な痛みが残る。
 こうやって獲物をいたぶるのか。開拓者たちの中に、今自分たちは狩りの対象にされているという実感が走った。
「すると次は私か!? 方向からして……あっちの方だな!」
 何はまるごとりゅうを着込んだまま、撃ってきたと思われる方向を睨む。
 そしてそこから10秒ほど。
「うびゃあ!? な、なんでまたボクなんだい!?」
「リアクションが派手だから気に入られたんじゃねェの……ずおぉぉぉっ!?」
 射撃間隔は変わらないが、何故か撃たれるのはフランベルと鷲尾ばかり。
 ぐっと構えた何は、他二人が撃たれているのを見ていることしかできない。
「……え、なんだこれ。もしかして望遠鏡座のやつ、人型をしてるものしか撃たないのか……?」
 先述した通り、フランベルと鷲尾が着込んでいる円筒状のきぐるみにはムキムキマッチョの鬼の絵が描いてある。逆に、何が着ているまるごとりゅうは人型から大きく逸脱している。
 テレスコピウムが人の形をめがけて撃ってきている可能性は高く、もしかしたら絵がなければ撃たれなかった可能性はある。
 もっとも、それならそれで手がかりが得られず困ったことになったとは思うが。
「見える……この私にも敵が見える! 覗きの王はこの私! お姉様のぱんつの色を知って良いのはッ! この私だけなのですッ!」
「おまえ後で話があるからなァ。それはともかく……連射が出来ねェ以上無駄に動かねェだろうな。ただ、急所に当てず獲物をいたぶる性質からして、こまめに動いて色んな角度から撃ってくるはずかねェ……鷲の眼を誤魔化せると思うなよォ」
 フランベルは律儀にも、最初撃たれた状態から動いていない。きぐるみに空いた穴から角度を計算し、鷲尾はバダドサイトを発動。視力を上げて敵の姿を探る……!
「フ、フフ……どうだい。可愛らしい子猫ちゃんは見つかったかい?」
「……おォ、バッチリだァ。でっけェ銃構えた、銀色頭で黒尽くめの格好の可愛い子ちゃんだぜェ」
「なんだって!? それは本当かい!? 想像とは少し違うけれどナイスな展開じゃないか! なら行こうすぐ行こう今行こう!」
 きぐるみのまま走りだそうとしたフランベル。しかしそれを緋乃宮が止めた。
「待ってください。敵はどうやら向こうの山にいるみたいです。朋友を呼んで飛んでいったほうがいいと思います」
「フフ……そうだね。一刻も早く子猫ちゃんに会いたいからね!」
 言いつつ、フランベルはきぐるみを脱ぎ捨て龍を呼ぶ。
 他の開拓者たちもそれにならい、呼べる者は龍を呼んでアヤカシを目指す。
「見えてるぜ、このまま真っ直ぐだ! 話通り動きはとろい!」
 竜で移動する間も敵は断続的に撃ってくる。その高速弾は受けるのも避けるのも難しく、空中でも開拓者たちはダメージを受け続ける。
 もっとも、徒歩で向かっていたら辿り着く前になぶり殺しにされていた可能性は高く、緋乃宮の助言は正しかったといえよう。
 そして……!
「待たせたね子猫ちゃん! 君からの痛みという名の招待状を受け、愛の狩人参上!」
 バァァーーン、という効果音を伴い、フランベルが地面に降り立つ。
 他の面々も竜から降り、少しばかり勾配が急な山肌を踏みしめる。
 と、勢い良く見得を切ったフランベルが固まって動かない。何事かと思って相手を見るると……
「……なんだありゃ。蜘蛛か?」
「足が四本しかありませんわよ。上に乗っているのは、銃と望遠鏡ですわね」
 何と各務の会話からもわかるように、アヤカシはとてもではないが可愛らしい少女と呼べない風体をしている。というか、人間らしいところは欠片もない。
 やがて我に返ったフランベルは、掴みかからんばかりの勢いで鷲尾に詰め寄った。
「これは一体どういうことだい!? 説明を求める! 事と次第によっては君を先に葬り去るよ!」
「義によって助太刀します(キリッ)」
「おめーは黙ってろ。よく思いだしてみろよ、俺が言ったセリフを」
 鷲尾にそう言われ、フランベルは記憶の糸を辿ってみる。
「確か……『おォ、バッチリだァ。でっけェ銃構えた、銀髪ロングで黒いドレスに身を包んだ10歳くらいのちょっと怯えた感じが素敵な可愛い子ちゃんだぜグヘヘヘヘ』と言っていたじゃないか!」
「言ってねェよ! 都合のいいように記憶改竄すんな!『……おォ、バッチリだァ。でっけェ銃構えた、銀色頭で黒尽くめの格好の可愛い子ちゃんだぜェ』っつったんだ俺は! そんなんだったら俺もテンション上いやなんでもない忘れてくれ」
 キュピーンと目を光らせた各務と何に気づき、鷲尾は言葉尻を小さくする。新婚さんなので愛妻にあることないこと告げ口されては困るからであろう。
 アヤカシは銀色の銃と望遠鏡を載せた、黒い胴体と足で構成される金属感のある外見。無理はあるが、鷲尾の言葉でも嘘は言っていないということになる。
「あのっ……そろそろっ……いいですかっ……!」
 ふと、緋乃宮の切羽詰まった声が響いてくる。
 会話をしている間もアヤカシは待ってくれない。常に発砲し続けている。
 気を利かせた緋乃宮がテレスコピウムの注意を引き、木の影に隠れながら時間を稼いでいたのだがそれも限界気味のようである。
「すまない、ボケッとしていた。いいか、絶対にアヤカシの後ろに立つなよ!」
「あー……意気込んでいるところ申し訳ないのですけれども、多分今回は出番なしですわ」
「なんでだ?」
 各務は無言でちょいちょいとフランベルを指さす。
 その肩は震え、今にも血の涙を流さんばかりの勢いであった。
「裏切ったな! ボクの気持ちを裏切ったなぁ!」
 ダンッと地面を蹴り、フランベルはアヤカシに突撃する。
 望遠鏡座は苦し紛れに発泡するが、怒りに我を忘れたフランベルを止めることはできない。できるはずもない。
 二天+隼襲+柳生無明剣のコンボにより、二発目を待つまでもなく望遠鏡座は一刀両断されてしまった。散々『接近されれば脆い』と念を押されただけのことはある。
 アヤカシが瘴気に還り、望遠鏡座のメダルが地面に落ちる。それを拾い上げ、陽の光に透かすように掲げたフランベルは……つぅっと涙を流した。
「女泣きーーー!?」
「フフ……痛いよ……身体なんかより、心が……」
「泣きたいのはこっちだっての。私なんてきぐるみ着ただけでなにもしてないんだぞ……」
「あら、でもまるごと装備を使いたかったというのが目的だったのではなくて?」
「だからって何もできなくていい気分がするかぁっ! アヤカシを爆砕拳で殴り飛ばして『お前は役割を間違えた』とか言うことが出来なかったんだぞ! 撃たれて『このコインネックレスがなければ即死だった』とかも出来なかったんだぞ! 準備してきたんだ、私は!」
「うわぁ…………」
「可哀想なものを見るような目で見るんじゃあないッ! お前にだけは言われたくないッ!」
 その様子を黙ってみていた緋乃宮と鷲尾。ぽつりと、緋乃宮が口を開いた。
「……どうするんですか? この始末」
「……俺に聞くなよ……」
 無事にアヤカシを倒し、メダルを得てなお収束しそうにないこの場をどうするか。それは誰にもわからない。
 鷲尾は改めて思い知らされた。『あァ、そういやこれって星の一欠片の依頼だったなァ』と―――