【猫又神社】季節外れの春
マスター名:猫又ものと
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/12/19 23:47



■オープニング本文

●冬の気配
 吹く風に木々は葉を落とし、どんよりとした雲が空を覆う。
 もう少ししたら、猫又神社にも雪が降り始めそうだ。
 猫は寒いと丸くなる。それは猫又も例外なく……母猫又は用意された寝床で、うつらうつらしている。
 それは、6匹の猫を抱えるこの猫又神社では良くある光景のはずなのだが……。
「……おい、美色。大丈夫か? 具合でも悪いのか?」
「大丈夫にゃ。眠いだけにゃ……」
「本当か? お前ここんとこずっとそうじゃないか。動くのも辛そうだし。具合が悪いならちゃんと診て貰った方がいいぞ?」
「…………」
 村人の問いかけに無言を返す母猫又。
 どうやらまた眠ってしまったらしい。村人はため息をついて……。
 ――1ヶ月と少し前くらいだっただろうか。
 母猫又が突然、村人達に『少し休暇を貰うにゃ。子供達をよろしくにゃ』とだけ言い残し、1週間程帰って来なかったことがあった。
 戻って来てから暫くの後、しきりに眠さを訴え、ご飯をやたらと食べるようになり、猫又喫茶にも出ようとせず……美色も疲れているのかと思い様子を見ていたが、復帰する様子も見られず、最近は仔猫又達だけで仕事を切り盛りするようになっていた。
 ふと、母猫又の身体を見つめる村人。
 最近妙にお腹がふっくらしている。
 食べて寝る生活をしているから太ったのかとも思ったが、それにしては丸いのはお腹だけだし、大きすぎるような気がする……。
「美色。お前、もしかして……」
 ハッと顔を上げた村人。彼は慌てて、村長のところへ走って行った。

●季節外れの春
「お願いします。猫又が身篭ったようなのです。お手伝い願えませんか」
 開拓者ギルドにやって来たのは、『猫又神社』がある村の村長だった。
「……へ? 身篭っただぁ?!」
「えっ。赤ちゃんがいるんですか!?」
「……どういうことですか?」
「はい。実は……」
 首を傾げる開拓者達に、村長は静かに話始める。

 ――1年ほど前だっただろうか。
 開拓者達はとある漁村で盗みを働いた母猫又を懲らしめ、5匹の仔猫又と共に就職先を世話したことがある。
 彼らの就職先であるその村は、猫又達の住まいと働く場所を提供する為に『猫又神社』を建立し、更にその後、『猫又喫茶』を開店した。
 その後、ちょっとした混乱があったものの、開拓者の薦めもあり、宿屋や海釣りの体験場、食事処にお土産屋、グルメガイドなどが次々に整備され、今では6匹の猫又を祀る村として、すっかり観光名所となっていた。

 そんなことを続けて早1年。
 問題が起きるも開拓者達の救いの手によって窮地を乗りきり、猫又や村人達も力を合わせて切り盛りを続けていたが……突如、母猫又に異変が起きた。
 何と、身篭っているらしい。
 これには村人達も仔猫又達も動転し、大騒ぎになった。
 仔猫又達は自分達に弟、妹が出来ると張り切って、張り切りすぎて気合が空回りしている。
 村人達は猫又のお産に立ち会ったこともなければ、生まれた仔猫又の扱いも分からない。
 一体、何をどう手伝えばいいのだろうか?
 母猫又に聞こうにも、彼女は眠いのか話すのも億劫そうで気が引ける。
 6匹の為にと作られた部屋も、仔猫又が更に増えるのであれば手狭になるかもしれない――。
 上へ下へと大騒ぎした結果、村人達は、自分達だけでは手に負えない状況であることに気がついた。
 その結果、開拓者達なら何とかしてくれるんじゃないか、という結論に達したらしい。
「それで、こうしてお願いに伺った次第でして……」
「ああ。なるほどな……」
「確かに、開拓者は猫又を相棒として連れていますけど……さすがにお産に立ち会った人はいないんじゃないでしょうか」
「えっ!? そうなんですか!?」
 遠い目する開拓者達に困惑する村長。
 そもそも、猫又は希少で、生態も良く分かっていないケモノだ。気位が高い個体も多く、お産を人に見られるのを嫌がるかもしれない。
 だが、ケモノのお産であれば、世話の仕方などはそんなに差がないはずである。
「とりあえず、お産は猫又さんに任せるにしても、その前後のお手伝いは出来そうですよね」
「そうだなぁ。仔猫又達も空回りしてるんじゃ、ちょっと言い聞かせた方がいいかもしれんし……」
「はい。仔猫又が増えるのでしたら、増築も考えなければなりませんし……そこの辺りもご助言戴けると助かります」
 むむむと考え込む開拓者達に、深々と頭を下げる村長。
 季節外れの春の気配に、開拓者達は仄かな期待と不安を感じつつ、仕事を引き受けることに決めた。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
音羽屋 烏水(ib9423
16歳・男・吟
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
リシル・サラーブ(ic0543
24歳・女・巫
黒憐(ic0798
12歳・女・騎


■リプレイ本文

「……ほえ。……美色さんご懐妊ですか……」
「ほぅ! 一度手伝いに行ったきりじゃったが、目出度い話じゃのぅ」
「ふふ、驚きましたけど……とても嬉しい報せです」
 かくりと小首を傾げる黒憐(ic0798)に、べべんと三味線をかき鳴らす音羽屋 烏水(ib9423)。
 嬉しそうに微笑むリシル・サラーブ(ic0543)に、柚乃(ia0638)もうんうん、と頷く。
「仔猫又さん達に兄弟が増えるなら、更に賑やかになりますね♪」
「赤ちゃん猫又可愛いでしょうねぇ」
 まだ見ぬ赤ちゃん猫又に思いを馳せる御陰 桜(ib0271)。
 そんなこんなでやってきた猫又神社。クロウ・カルガギラ(ib6817)が仔猫又達の姿を見つけて、声をかける。
「おう。お前達! 久しぶりだな。元気にして……」
 クロウの姿を見るなり飛び掛る仔猫又達。一気に5匹に圧し掛かられ、その声は途中でかき消された。
「にーにゃ! あのね、僕おにーちゃんになるにゃ!」
「あのね、おかーにゃがね!」
「ちょ、ちょっと! 待った! ストップ!」
「一度にお話したら何が何だか分からないよ?」
 彼の上に乗ったまま一斉に喋り始めた仔猫又達を抱っこして引き剥がすリィムナ・ピサレット(ib5201)と戸隠 菫(ib9794)。
 そして否応なしに目に入る桜の頭で揺れる猫耳。猫の手伝いをするから、形から入るべきと思ったのだろうか。
 この状況でツッコむのも躊躇われて、リシルはひとまずクロウを助け起こす。
「クロウさん、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「仔猫又さん達……ダメですよ……。少し手加減しないと……」
 黒憐に叱られてしょげ返る仔猫又達。
 その姿を見て、クロウは遠い目をする。
 初めて会った時は、5匹まとめても彼の腕が余る程だったが、今はもう、立派な大人の猫又と変わらぬ大きさになった。
 開拓者達の姿が変わらないから、仔猫の時の感覚のまま飛びついて来たのだろうが……これはきちんと言い聞かせないと、村人達に怪我を負わせかねない。
「さてと。まずは話し合いかのう?」
「うん。まず村人さん達の許可貰わないと何にもできないもんね!」
 烏水と菫の声に、仲間達が頷いて……。
 こうして、開拓者達と村人による何度目かの『猫又神社改善会議』が始まった。


「えーと。まずは猫又達の住まいを増築シたいって言ってたわよね?」
 確認する桜に頷く村長。クロウがうーんと腕を組んで考え込む。
「そうだな……。仔猫又達もあの通り立派に成長してる。いっそ新しい大きな部屋を作っちまうのはどうだ?」
「新たに……別棟を建ててはどうでしょう……。……神社には観光客もやって来ますし……別棟は完全に非公開の個人部屋にしてしまって……美色さんはそっちに移ってもらうのが良いかもしれません……」
「これからは静かな環境も特に必要になりそうですし、離れを建てるのはいい考えだと思います」
「あー。そうか。そうだよな。神社は人が来るんだよな」
 頷くリシルに、ポンと手を打つクロウ。
 確かに黒憐の言う方が美色達の為になるかもしれない。
「あとは、生まれてくる仔猫又が多少暴れても構わんよう、丈夫な造りが必要かのぅ」
 腕を組みながら言う烏水。クロウ首を傾げながら続ける。
「別棟と猫又神社を、通路を作って繋げるといいかもな。猫又達の移動も楽になるだろ」
「……では……この辺りに猫又専用通路を作りましょうか……」
 既に構想を練ってきていたらしい。図面を広げつつ言う黒憐。そこに菫がはいっ! と元気に挙手をする。
「折角だし、防寒設備もしっかり作ろうよ! これからどんどん寒くなるし」
「そうそう。仔猫はすごく寒さに弱いからね」
 元気に言うリィムナに、柚乃もこくりと頷く。
「新しい場所を母猫又さん達の部屋にするなら、移動の回数も減りますし負担も少なそうですよね」
「そうね。後は……新しい設備については母猫又の意見も聞いた方がいいかもシれないわね。本人の希望もあるかもシれないし」
 桜の意見に頷く仲間達と村人。村長は思い出したように開拓者達を見渡す。
「そういえば、赤ちゃん猫又の世話はどうすれば良いのでしょう?」
「うーん。私達も経験はないですが……」
 困った顔をしている彼にため息をつく柚乃。烏水の相棒のもふらさまが出されたお茶菓子を独り占めする勢いで食べながら口を開く。
「猫又もケモノもふ。お産は普通の猫とそこまで変わるものではないはずもふよ」
「いろは丸ちゃんの言う通り、猫と似たようなものだったら……お産の時は人だけじゃなくて、他のケモノの目にも付きにくい場所を好むんだよね。隠れられるような場所にしてあげるといいと思うんだけど」
「うん。母猫又さん、これからどんどん身体が重くなるだろうし、寝床も入り易いような工夫をしてあげた方がいいんじゃないかな♪ 後はねー……」
 続く菫とリィムナの猫のお世話講座。それを真剣に聞き入っている村人が、何か思いついたのか挙手をする。
「お産が近くなったら、猫又喫茶はどうしましょう。静かな方が良いのであれば、あまり客を入れない方がいいでしょうか」
「そうですね。いっそ休業にしてしまうか、営業時間を短くするか……お客様も、事情を話せば分かって下さると思いますよ。お産の当日ともなると気に掛かるのは無理もないですしね」
 リシルの優しい声に、安心したような顔を見せる村人達。
 改築計画が概ね決まったところで、黒憐は姿勢を正してビシっと正座する。
「……憐は……皆さんに……一つ確認したい事があります……」
「どうされました?」
 猫又神社相談役の只ならぬ雰囲気に釣られ、居住まいを正す村人達。
 黒憐は頷くと、村人達を順番に見つめる。
「……今回は美色さんでしたが……いずれ月白ちゃんやリーファちゃんも……母親になるでしょうし……男の子たちもお嫁さんを連れてくるかもしれません……。……先を見据えた話し合いをすべきだと……思います……」
「そうだな。猫又達が増えた時どうするか、考えておいた方が良いだろうな」
 クロウの言葉に、ハッとする村人達。
 元々、この猫又神社が出来たのも、子供が増えて大変だった母猫又が漁業で生計を立てていたこの村で盗みを働いた事に起因する。
 それから色々な事があったが、開拓者達の助けもあり、猫又達と村人達は良い関係を築いて来た。
 折角得られた猫又達の安住の地。しかし、猫又とてケモノだ。可愛いだけでは済まない事だってある。
 ネコ算式に猫又が増え続け、村との関係が悪化するのは……どうしても避けたかった。
「……最悪……猫好きの開拓者に大きな子猫又さんを引き取ってもらう、と言う方法もあります……。一番良いのは……やっぱり家族みんなで暮らせる事かな……と憐は思いますが……」
 そこは、村人の皆さんの判断なので……と続けた黒憐。村長は暫し考え込んだ後、深々とため息をつく。
「そうですね。正直そこまで考えておりませんでしたが……。猫又達のお陰で、我々の村は漁業だけに頼らずとも済むようになりました。今村が潤っているのも猫又達のお陰です。出来る限り、彼らを手放す事なく好きにさせてやれたらと思います」
「そっか。村に残すって言う方向で考えるなら……いっそ猫又に技や芸を教えられる人を雇って教育を施した上で、猫又が村中を闊歩する観光地としてしまうとかどうかな。技を使える猫又が居れば村の警備にもなるし。開拓者向けの猫又専門の相棒養成所にするとかもアリじゃないか?」
「教育係であれば、定期的に開拓者が来るようにすれば良いのではないかの? 技を教えたりするのは、それなりに知識がなければ難しかろうて」
 クロウと烏水の建設的な意見に、しきりに感心する村人達。村長も真剣に聞き入る。
「さすが開拓者様。参考になります。仔猫又達の結婚はすぐという訳ではありませんが……その時はまた改めて、皆様に相談に伺っても宜しいですか?」
「もっちろんだよー!」
「その時も是非お手伝いさせて下さいね!」
 どん、と胸を叩く菫に激しく頷く柚乃。
 猫又神社の村の未来が何だか素敵になりそうで、彼女達の瞳がキラキラと輝いた。


「……相談役。ここ、神社から離れていますがいいんですか?」
「……いいのです……」
 村外れに集められた建築資材。それを不安そうに見つめる村人達に、こくりと頷き駆鎧を起動する黒憐。
 神社の近くで建築作業を行うと、騒音が発生して母猫又の負担になりかねない。
 壁や柱と言った部品は村の別の所で作って、組み立てだけ一気に行うようにすれば騒音は最低限で済むはず……。
 そう呟いた彼女に、村人達からおお! と感嘆の声が上がる。
「さすが相談役……! 我々、相談役に従います!」
「ありがとうございます……。では……始めますよ……」
「私も頑張るぞ! 葵も応援して!」
「いいよ! 菫、頑張れ!」
 黒猫の少女に付き従う男衆という、何ともシュールな光景。菫はそれを気にする様子もなく大鍋に海藻と水を入れ、相棒の羽妖精が手を叩いて応援している。
「菫様、これは……?」
「漆喰の材料だよ。これに塩焼き灰と麻すさを混ぜるの。煮ないといけないから火を焚くの手伝って!」
 彼女の指示に大急ぎで薪を運んで来る村人。
 リシルは相棒の破龍に手伝いを指示すると、黒憐に声をかける。
「私は一旦仔猫又さん方の様子を見に行ってきますね」
「はい……。憐の分まで……ビシっと言い聞かせておいて下さい……」
「分かりました。ラエルに荷運びに手を貸すように言付けましたが、私の手でも手伝える事がありましたら、この子を呼びに回して下さい」
 笑顔のリシルに、こくこくと首を縦に振る黒憐。烏水ももふらさまの背をぽんぽんと叩く。
「さあ、いろは丸。おぬしもここでキリキリ働くのじゃ!」
「……烏水殿はもふら使いが荒いもふ。後で甘味を要求するもふ」
「おぬし、さっき散々お菓子を食っておったろうが!」
「あれは相談に乗った分もふ」
 相変わらずな相棒に、がっくりと肩を落とす烏水。
 その間も、黒憐の駆鎧と村人達が樹を削って木材を整え、菫も床材や壁材の準備を進めていく。


 母猫又の寝床。綿入り布団や日の当たる暖かな部屋に、村人の思いやりを感じる。
「美色さん……」
「んにゅ……?」
「こんにちは。ご懐妊だそうですね。おめでとうございます」
 柚乃の声に顔を上げた美色。ふああと欠伸をして、こくりと頷く。
「お身体辛いのに起こしてごめんなさい。何かして欲しい事とか、欲しい物があったら教えて下さい」
「んー。大丈夫。眠いだけなのにゃ……。ご飯と暖かい寝床があればいいにゃ……」
「それは勿論用意します。他には?」
「任せるにゃ……」
 話し終わらないうちにイビキをかきはじめた美色に苦笑する柚乃。
 細かい事に拘りがないのか、眠くて面倒なだけなのか……。
 とりあえず、任せるといわれたからには、こちらで工夫してしまって大丈夫だろう。
 その事を、突貫工事中の黒憐と菫に伝えに走る。


 リシルが猫又神社に戻って来ると、クロウが仔猫又と話をしている最中だった。
「お前達の気持ちは分かるんだけどさ。ちょっと落ち着こうや」
「でも、おかーにゃ大変なんでしょ?」
「お手伝いしないとなのにゃ」
 真顔のヨシツネと月白。それに頷く弟妹達に彼は深々とため息をつく。
「美色やお腹の子の為に何かしようとか考えなくて良いんだよ。自分達の事をしっかりやって、美色が出産に専念出来るようにしてやるのが、結果的に手伝いになるんだ」
「そうですよ。ゆったりどっしり構えたお兄さん達がいたら、お母さんとしても頼もしいと思いますよ」
「ゆったりにゃ?」
「どっしり? こうにゃ?」
「あの、ちょっと違うかな……?」
 言葉をそのまま受け取り、ごろんと転がって腹を出した仔猫又達に、でっかい冷や汗を流すリシル。
 その様子に、桜とリィムナが俯いて肩を震わせている。
 クロウも噴き出しそうになるのをぐっと堪え、誤魔化すように咳払いをした。
「……美色は暫く、生まれてくる仔に掛り切りになる筈だ。お前達にも構ってやれんだろう。寂しいかもしれないがそこは我慢しないとな」
 続いた言葉に、自分達の立場を改めて気付かされたらしい。
 しょぼんとする仔猫又達を桜が順番に撫でる。
「みんな可愛いから、生まれてくるコ達もきっと可愛いわよ♪ きっと寂しいのもすぐ吹っ飛んじゃうわ」
「弟妹が出来ると大変な事もありますが、楽しい事も沢山有りますよ」
「あんあんっ♪」
 主の言葉に頷く闘鬼犬。姉貴分の優しい目線に又鬼犬も同意するように尻尾を振り……そうなの? と小首を傾げる仔猫又達に、リシルも頷いて見せる。
「大丈夫ですよ。美色さんが皆のお母さんである事は変わらないですから。お母さんが頑張っている間、皆も独り立ちできるように頑張りましょうね」
「お前達も大きくなったんだ。母さんを見て、どうやって子育てがするのか良く覚えとけよ」
「ところで、一つ聞きたいんですが。下の子が生まれた時の事、覚えている子はいますか?」
「ううん。オイラ達は5匹一緒に生まれたにゃ」
「だから歳の離れた弟妹は初めてにゃよ」
「そうだったんですか……」
 クロウの言葉を継いで、質問をするリシル。
 仔猫又達の返答から考えるに、美色は一度に沢山の子を産む傾向にあるのかもしれない。
 そうなると、赤ちゃん用の物資も多めに用意しておいた方が安心できるだろうか。
 そんな事を考えていた彼女。その間も、リィムナの元気な声が続く。
「やる気があるのは悪い事じゃないよ。そこは変えなくていいと思うの。やる気を焦りじゃなくて、良い方向に向けてみようよ。……と言う訳で、一つ芸を覚えてみない?」
 ぴっと人差し指を立てたリィムナ。仔猫又達は小首を傾げて彼女を見上げる。
「うにゃ? 芸?」
「そう! 芸だよ!」
 言うなり、真っ白でふわふわな猫又の姿に変わったリィムナに、仔猫又達は目を丸くする。
「ねーにゃ、猫又だったのにゃ!?」
「どうやってニンゲンに化けてたにゃっ!?」
「逆だよ。猫又に化けたんだよ……。さて、今からダンスを教えるからねっ。真似して動くんだよ!」
「あら。素敵ね。折角だし、うちの子達にも教えて貰ってもイイかしら?」
 猫又達のやりとりを笑顔で見つめていた桜。その後ろから、闘鬼犬と又鬼犬がひょっこり顔を出す。
「申し遅れました。私は桃。こちらは弟分の雪夜と申します。宜しくお願いします」
「わんっ!」
 ぺこりと頭を下げる闘鬼犬に釣られてお辞儀する仔猫又達。リィムナは生徒達の顔を順番に見つめると、うぉっほん、と偉そうに咳払いをして胸を張る。
「よし。皆にがっつり教えちゃうぞ! あたしの猫又ダンス、とくとご覧あれ〜♪」
 猫又の姿のまま、身体をクネクネと動かすリィムナ。
 それを一生懸命真似する仔猫又と鬼犬達に、リシルと桜が目を細める。
 リィムナの踊りはジルベリアの舞踏とアル・カマルのジプシーの舞をミックスした為かちょっと動きが複雑だったけれど、静と動、二つの要素が絡み合い、とても綺麗で……。
 きちんと覚える事が出来れば、猫又喫茶の名物が増えるかもしれない。


「今日は三味線の弾き語りがいるのねえ」
「良い音だねえ」
 猫又喫茶に響く三味線の音を聞き入る客人達。
 烏水は三味線弾き、猫又喫茶の客を楽しませていた。
「……それで、猫又喫茶のお仕事と言うのは何をすれば良いのでしょうか?」
「みんにゃ、仕事教えてにゃん♪」
「わんっ?」
「あのね、お客様のお相手をするのにゃ」
「お話したり、なでてもらったりするにゃよ」
「引っかいたり噛んだりしちゃダメだけど、嫌な事は嫌って言ってもいいのにゃ」
 桃とリィムナにゃんこ、雪夜に猫又喫茶の仕事を教える仔猫又達。
 それがどうやら、自分達の復習にもなっているらしい。
 そして、桜とリィムナの予想通り、空回りしていた気合が新人教育の方に向いたようで、大きな失敗と言うのも自然と減ってきていた。
「何であんなに慌てちゃってたのかにゃ……」
「そう言う事もあるわよ。気がついただけ偉いわ」
「そうかにゃー」
 客のフリをして仔猫又達を見守る桜の横で、小首を傾げるリーファ。彼女はそのふわふわな灰色の身体をそっとマッサージする。
 桜のまっさ〜じが余程魅惑的なのかウトウトし始めるリーファ。その近くでご飯を食べていた柚乃の相棒、八曜丸がぬっと顔を出す。
「桜ー。おいらにもまっさ〜じやって欲しいもふ」
「あら。イイわよ。ちょっと待っててネ」
 ウィンクを返す桜。その近くで、客が真っ白な仙猫をを見てうっとりとため息をついていた。
「あらー。綺麗な猫さんねえ」
「ふぉっふぉっふぉっ……。ワシは謎のご隠居ゆえ、見るだけでお願いしますぞ」
「あたしも謎の猫又なのでおさわり禁止でお願いしまーす♪」
 いつもの如く謎のご隠居に化けた柚乃とリィムナにゃんこ。
 二人があまりにも美しい猫又だったせいか、その主張に疑問を抱く客もいないようだった。


「で、できたああ!!」
「我ながら……良い出来なのです……」
「おー。立派なもんだな」
「腹減ったもふ……。もう動けないもふ……」
 肩で息をする菫に、額の汗を拭う黒憐。顔についた汚れをふき取るクロウの横で、いろは丸が地面に突っ伏している。
 彼女達と、後に手伝いに加わったクロウ、そして仲間達の相棒の尽力で、一夜城ならぬ、一夜猫又部屋が完成した。
 部品を別な場所で作り、駆鎧で一気に組み上げた為、騒音防止の為の行動が結果的に観光客の妨げにならないといういい結果も齎した。
 そして、壁は漆喰で隙間風を防ぎ、床下も石灰を固めて作るという、大工も真っ青な知識を披露した菫。
 夏は風通しがいいように高い場所に小窓をつくり、閉じられるように扉もつけて……機密性も高まり、防寒対策もばっちり。
 そして、部屋の一角には石を積み上げた暖炉が作られ、その近くに用意された寝床には屋根があり、身体を完全に隠せるようになっている。
 寝床には柚乃が用意したもふらさまの毛を敷き詰め、ふかふかな寝床が実現。
 温度を常に誰かが見ていた方がいい、というリィムナの提案もあり、母猫又から見えない位置に監視窓がつけられ……。
 美色も新しい住まいが気に入ったようで、早速寝床で爆睡を始めていた。
「もう少しお腹が大きくなったら、栄養価の高い柔らかい食事にすれば良いのですよね」
「はい……。分からない事があったら……いつでも質問して下さい……」
「必要だったらお手伝いにも来ますからね」
 確認する村長にこくりと頷く黒憐と柚乃。その横で桜がため息をつく。
「生まれるのはまだ先なのネ。赤ちゃん猫又、触りたかったわぁ〜」
「その頃にまた来ましょうよ。ね?」
「賛成ー! あたしも触りたーい!」
「そうだな。その頃にはもう少し暖かくなってるかな」
 慰めるように言うリシルに、猫又姿のまま腕を振り上げるリィムナ。
 クロウが言うように、春になる頃にはもう、新たな命が生まれているだろう。
 遠い目をした烏水は、ふと甘味を貪る相棒に目線を戻す。
「これも何かの縁なれば……手を貸せてよかったのう、いろは丸」
「烏水殿、おかわりもふ」
「は!? もう3杯目じゃぞ!? おぬしまだ食う気か!?」
「あれだけ働いたもふよ。まだまだ食べさせて貰うもふ!」
「あたしにもご褒美ー! 仔猫又さんと遊ばせてええええ!」
 相変わらずの相棒に、深々とため息をつく烏水。
 仔猫又達に飛び込んで行く菫に、仲間達から笑いが漏れた。


 こうして、開拓者達の活躍により猫又達の生活がより良い物へと変貌を遂げた。
 この調子で猫又が増え、何年か経ったら、もふもふ沢山な猫又の村なんて事になるかもしれない。
 開拓者達は淡い期待を胸に、村を後にしたのだった。