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■オープニング本文 迎えた菊の季節。菊の栽培が盛んな星見領には『菊花祭』という祭りがあり、秋になると様々な人に今年の菊の出来栄えをお披露目する。 今年もその祭りの季節が近づいていて……昭吉は連日、菊の世話に明け暮れていた。 「昭吉、精が出るな。少し休憩挟めよ」 「あ。隼人様! さっきお出かけになられたばかりでしたよね? 忘れ物ですか?」 「おいおい。俺が出かけたのは朝で、今は昼過ぎだぞ……」 「えっ。あれ……?」 星見 隼人(iz0294)の呆れたような声に首を傾げる昭吉。 次の瞬間、ぐう〜とお腹が鳴って、少年の顔が朱に染まる。 ――元々、身体を動かすことは好きだし、何もしないでいると余計な事を考えてしまうので、菊の花の世話は昭吉には渡りに舟の仕事だった。 ただ、ちょっとばかり夢中になりすぎてしまったようで……。 「……昼飯、まだみたいだな。一緒に食うか」 「ハイ……」 ため息をつく隼人に素直に頷く昭吉。 台所に向かいながら、少年は思い出したように隼人を見上げる。 「隼人様。そういえば穂邑さんはお元気ですか?」 「ああ。今は合戦の準備で忙しくしているだろうが、元気にはしていると思うぞ」 「そうですか……」 目を伏せる昭吉。亞久留に誘拐されたと言う穂邑(iz0002)。 きっと怖い思いをさせていたに違いない。ずっと、謝りたいと思っていた。 謝らなくちゃいけないのは、彼女だけではなくて――。 「あの、隼人様。僕、色々考えたんですけど……。主様、生前あちこち壊したり、色々な方にご迷惑おかけしたんですよね? 僕、その場所に行きたいです。主様が壊したものを直して……皆さんに謝りたい」 きっぱりと言う昭吉。 少年の下した決意。それは尊重すべきだと思うが……現実は、そんなに甘くない。 謝罪する彼に、厳しい言葉をぶつける者もいるだろう。 隼人は難しい顔をしたまま口を開く。 「昭吉。お前の主が齎した被害は甚大で、今でもその傷は癒えていない。謝ったところで許して貰えるとも限らない。……辛い仕事になるぞ。それでも行くか?」 「はい。僕は神村菱儀の従者です。主様がやったことは、僕がきちんと責任を取らないといけないと思います」 「……そうか。石鏡国内に、神村菱儀の破壊活動によって甚大な被害が出た村がある。そこに行ってみるか?」 「お願いします! あ。……穂邑さんのご都合も、お伺いして貰っていいですか? きちんと謝りたいので」 「ああ、分かった。……まずは、飯にしよう」 隼人の言葉に再び頷き、お茶漬けの用意を始める昭吉。 菊の花の中で、葛藤しながら下した決意。 少年も少しづつ、前を向いて歩き出している。 「以前、神村菱儀が主導で瘴気の木の実をばら撒いた村を覚えているか?」 「ああ。酷い有様だったよな……」 「今日は、そこに昭吉と人妖達を同行させる。一緒に来てもらえないか」 開拓者ギルドにやって来るなりそう切り出す隼人に、遠い目をする開拓者達。 続いた彼の言葉に、開拓者達は目を丸くする。 「……随分急な話だな」 「そういえば、あの村、今どうなってるの?」 「少しづつ、腐った土壌を運び出してはいるが、何しろ広範囲にばら撒かれたんでな……今現在も、復旧作業中で、元通りには程遠い状況だ」 「そうか……」 ――先日処刑された白いアヤカシ、ヨウが実行犯を務めた事件。 大量のアヤカシと共に湧き出した瘴気は、大量の瘴気の木の実によるものだった。 木の実が原因だった為、瘴気自体はすぐに消えたものの、村の中心地の土壌が腐ってしまい、土の総入れ替えが必要になるなど人手がかかる作業が多い為、復旧作業も難航していた。 「昭吉と人妖達を連れて行くということは……罪と向き合わせると言うことであるな?」 「そういう事になるな」 「昭吉は大分落ち着いていたようだけれど、人妖達は大丈夫かしら……」 「そうだな。暴れたり、泣き叫んだりと言う事はなくなっているが……」 開拓者達の疑念に、言葉を濁す隼人。 ひいは妹達とはあまり過ごさなくなり、一人で本を読んでいることが多くなった。 ふうは暴れることはなくなったが、難しい顔をして考え事をしている時間が増えた。 みいは泣く事はなくなったものの、姉達や人と離れることに強い不安を訴え、何もない時はヨウとイツの位牌の前に陣取っている――。 「それぞれに変化は見えているようだが、本当に落ち着いているか……と問われると疑問であるな」 「そうね。だけど、教育はしなくちゃいけない……」 顔を見合わせる開拓者達。それを宥めるように、開拓者が続ける。 「まあ、遅かれ早かれやらなきゃならないことだからね。様子を見ながらやってみたらどうだろう」 ――人妖達に、自分達の犯罪行為を理解させる。 人妖達が生きる未来のために。 それはどうしても、乗り越えなければならない。 「そうだな。……どうせ行くなら、ついでに村の復旧も手伝おうぜ」 「ああ、そうして貰えると助かるよ」 開拓者の提案に、頷く隼人。 開拓者達もそれに頷き返すと、出立の準備を始めた。 |
■参加者一覧 / 柚乃(ia0638) / 倉城 紬(ia5229) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 尾花 紫乃(ia9951) / ユリア・ソル(ia9996) / 明王院 浄炎(ib0347) / 国乃木 めい(ib0352) / ティア・ユスティース(ib0353) / ニクス・ソル(ib0444) / 緋那岐(ib5664) / 春吹 桜花(ib5775) / クロウ・カルガギラ(ib6817) / 音羽屋 烏水(ib9423) / 火麗(ic0614) / 兎隹(ic0617) / リト・フェイユ(ic1121) |
■リプレイ本文 「ごきげんよう、ユリア」 「元気そうね、ひい。……本を読んでいたの?」 本から顔を上げて頭を下げるふうに、笑みを返すユリア・ヴァル(ia9996)。 ふうはその問いに頷くと、再び本に目線を落とす。 「……わたくし、先日ユリアに言われたことがどうしても理解出来なかったものですから」 「だから勉強しようと思ったのね? 偉いわよ」 ぽふぽふと頭を撫でられて、困惑した表情を見せるふう。 甘やかされることに慣れていないのだろう。 ユリアはにっこり笑うと、ふうの顔を覗き込む。 「それで、この本に答えは書いてあった?」 「いいえ……」 「でしょうね。本の知識は答えを知るのに役には立っても、答えそのものは教えてくれないもの」 「この本では駄目なのですか? ではどの本を読めば宜しいでしょうか」 「そういう意味じゃないわ。本当の答えは貴女の感じる心が知っているものよ」 「ですから、それが分からないのですわ……」 「そうよね。分かってるわ」 ため息をつくふうから本を取り上げるユリア。人妖の小さな手を取って続ける。 「だから……行きましょう、一緒に。貴女の主が何をして来たのか……貴女が何をしてきたのか。知るべきだわ」 厳しい言葉の中に感じる、ユリアの優しさ。 それにふうは頷いて、彼女の手を握り返した。 「こんな暗いところで考え事か。身体に悪いぞ」 「……竜哉。あなたが宿題を出したんじゃない」 「ここまで思い詰めて考えろなんて言ってない」 突然現れた竜哉(ia8037)に、ジト目を向けるふう。 締め切られた窓を開けながら彼は外の晴れた空を見上げる。 「……答えを聞かないの?」 「そんなにすぐに結論が出るものでもないだろう? ゆっくり考えればいい」 ふうの疑問は、アヤカシという存在の根底から考えることだ。 開拓者達ですら正しい答えを持たぬのに、世界を知らぬ彼女にとっては更に難しい問題だろう。 いや、世界を知らぬからこそ、意外と簡単に答えを導きだすかもしれないが……。 「……さて、ふう。今日は一緒に出かけようか」 「外出とか言ってまた庭じゃないでしょうね。一体どこへ行くの?」 「行けば分かるさ」 「竜哉がそういう言い方するってことは、あまり楽しい場所じゃないわね?」 訝しげな顔をするふうに、肩を竦めて見せる竜哉。 そう。行けば判る。 あの光景が、彼女達の罪を全て示してくれるだろう。自分の口から説明する必要もない。 だからこそ、見せなくては――。 「さて、姫君。ご案内しよう」 「そんな調子のいいこと事言ったって騙されないんだから」 恭しく頭を下げる竜哉に、頬を染めたふう。 それを誤魔化すように、ぷいと横を向いた。 「……みい。あのな……」 「…………」 「離れてくれぬか。これでは話が出来ないのだ」 「嫌ですわぁ」 三姉妹の末っ子を誘いに来た兎隹(ic0617)は困惑していた。 みいが会うなり首にしがみついて離れなくなったからだ。 兎隹は深々とため息をつくと、みいの背をそっと撫でる。 「……一体どうしたと言うのだ?」 「最近、ひいはずっと本を読んでいて、ふうは怖い顔をしていて……誰も遊んでくれないんですのよぅ」 兎隹の髪に顔を埋めたまま呟くみい。 今までとガラリと変わった生活、教えられる様々なことに、三姉妹がそれぞれに苦悩している。 その様子が、みいにとっては姉妹達が突然変わってしまったように見えているのかもしれない……。 「あの2人もな、色々と悩んでおるのだよ。君と同じようにな」 「……でも。一緒に遊んで欲しいのですわぁ……」 「もう少し落ち着けばきっと一緒に遊べるようになるのだ。……今日は我輩や開拓者が一緒にいる。それなら寂しくなかろう?」 その言葉にようやく顔を上げ、無邪気に目を輝かせるみい。 きっと開拓者達が一緒に遊んでくれると思っているのだろう。 期待を裏切るようで、胸が痛むけれど……。彼女達が生き残る為に、『罪』を、見せなくてはならない。 「みい。今日はな……」 兎隹はため息をつくと、意を決して口を開いた。 「……既に村にお戻りの方と、避難先で生活されている方といらっしゃるようですね」 「中心部の汚染が酷いからな……。戻りたくても戻れない人もいるんだろう」 調査結果を報せるリト・フェイユ(ic1121)に頷くクロウ・カルガギラ(ib6817)。 「これは……村人の健康も心配ですね」 目の前の光景に眉根を寄せる尾花 紫乃(ia9951)。 瘴気の木の実は広範囲に瘴気を撒き散らすだけでなく、土壌を腐らせる効果を持つ。 広範囲に汚染された為、腐敗した土を捌ききれないでいるのだろう。村中に腐敗臭が漂っている。 普通では、こんな場所で暮らそうとは思わない。それでも、故郷への想いを捨てきれない人たちが戻り、少しづつ土を取り替える作業をしているようだった。 「……じゃからユリア。程々にしておけと言うておるに」 「だって昭吉ったら可愛いんですもの。それにそろそろ慣れてくれてもいいと思わない?」 「すまんな……」 耳まで真っ赤な昭吉を支えながら呆れたように言う音羽屋 烏水(ib9423)。 悪びれず、くすくすと笑うユリアに、何故かニクス(ib0444)が謝っている。 いつものユリアのハグを食らってお決まりの酸欠に陥りつつ、昭吉はニクスに頭を下げる。 「奥様にいつもお世話になっています。昭吉といいます」 「こちらこそ。……ところで、足が震えてるぞ。大丈夫か?」 「だ、だ、大丈夫です。大丈夫に決まってます」 心配そうなニクスにアワアワと返事をする昭吉。 それが酸欠によるものか、これから向き合う罪への恐怖によるものかは分からなかったけれど……。 ユリアは真っ直ぐに少年を見据えて続ける。 「……村人は故郷を奪った菱儀の配下を許さないはずよ。それでも行くのね?」 「はい。もう決めましたから」 きっぱりと答える昭吉。その様子を黙って見守っていた倉城 紬(ia5229)は、ほっと安堵のため息をつく。 その目には確かに生気があるし、以前開拓者ギルドで会った時より気力を取り戻したようで……よかった。 烏水も同感なのか、昭吉の背を励ますように叩く。 「わしも力になろう。決めたのであれば、臆せず行動あるのみじゃ!」 「昭吉さん。まずは村を見て回りませんか? 村の現状を見て、聞いて、知ってから、謝った方が良いと思いますから」 リトの提案に、頷く昭吉。ユリアはその背を撫でながら、ふと思い出したように口を開く。 「人妖達は……まだ謝罪させるのは早いかしらね」 「そうだな。まだ、罪が何たるかを教えている段階だしな……」 腕を組んで考え込むクロウ。 彼女達が、己の罪を自覚した上で自ら謝罪しようと言い出すまでは、村人達に会わせない方がいいような気がする。 誰かに言われて、形だけの謝罪など失礼だし、却って彼らを傷つけるだけだ。 そう続けた彼に、それもそうねと頷くユリア。 そして、彼らは村の中心部へ向かって歩き始める。 少しづつ土の入れ替えは行われていると言うことだったが、村の中心部は当時とあまり変わっていなかった。 戻って来た村人はごく一部なのか、村全体に生活感がない。 土から腐臭が湧き上がり、その表面には長いこと放置されていた為か、真っ白いカビに覆われている。 「どうだ? ユリア」 「表面の瘴気は消えてるようね」 ニクスの問いに淡々と答えるユリア。 彼女が張り巡らせた瘴気を探索する結界から感じる微かな瘴気。 やはり土には若干残っているいるようだが……雑草すら育つことが出来ない地面と、アヤカシの襲撃により破壊された家は、目を覆いたくなる有様だった。 「こりゃ、酷いでやんすな……」 「これを……こんな事を、主様が……」 三度笠を上げて、その様子を見つめる春吹 桜花(ib5775)。その横で、昭吉が呻く。 ――主様は罪を犯した。それは理解していたはずだ。 でもその認識は甘かったのだと、痛感させられる。 「主様、何故ですか? 何故こんな酷いことを……」 その場に膝をついて、涙を零す少年。 口から漏れる問いかけに、答えられるものはなく。 何も知らず、ただ主に仕えていた純朴な彼が受け止めるには、あまりにも重い事実――。 その様子に、胸がズキリと痛んで。リトは昭吉の背を撫でる。 「……昭吉さんは何も知らなかったんですから、仕方ないです。どうか無理をしないで。少し休んでからにしましょうか?」 「いいえ。早く元に戻してあげないと……!」 「あっしも手伝うでやんす!」 「俺もやろう。俺はからくりだ。瘴気の影響が少ない。遠慮なく使うといい」 涙を拭って立ち上がる昭吉。桜花は昭吉とリトの相棒、ローレルに鋤を手渡すと、腐敗土に足を踏み入れ、猛然と土をかき出し始める。 「その意気だ。腐敗土は運び出すから袋に入れてくれ。ひとまず腐った部分を取り除いて、瘴気を祓う曲でも歌えば、土を入れ替えなくても戻りそうな気はするんだが……」 「『精霊の聖歌』ですね。もう始めましょうか?」 クロウの呟きに竪琴を構えて小首を傾げるティア・ユスティース(ib0353)。 むーん、と腕を組んで烏水が考え込む。 「あれ、一度始めてしまうと動けないんじゃよな……。まずは土を運び出して、仕上げにやるとするか」 「分かりました。では他のお手伝いを先に行いますね」 「うむ。頼む。……ティアよ、面倒なことを頼んですまんのう」 「いいえ。お役に立てて嬉しいです」 「そう言って貰えると気が楽じゃ。……よし。いろは丸は木材の運搬じゃ!」 「烏水殿はもふら遣いが荒いもふ……」 「いいから黙って動かんか!」 相棒のすごいもふらをびしびしと追い立てる烏水。 相変わらずの2人に、ティアがくすくすと笑う。 そこに足早にやって来る村人達に気付いて、リトが頭を下げる。 「こんにちは。突然お邪魔してしまってすみません」 「いえいえ。とんでもない。開拓者様がお手伝いに来てくださってると聞いて急いで来た次第で……」 「我々だけではどうにも手が足りず、困り果てておりました。本当にありがとうございます」 ぺこぺこと頭を下げる村人達。そこにすっと、昭吉が歩み出る。 「あ、あの……」 ガクガクと震える少年を不思議そうに見つめる村人達。 身体の震えが止まらない。きちんと名乗って、謝らなければいけないのに、舌が張り付いたようになって上手く喋れない。 ――村人は故郷を奪った菱儀の配下を許さないはずよ。 当然だ。こんな酷い事をしたのだ。許して貰えるはずがない。 でも、ここできちんと自分が向き合わなければ、主様が本当に、消えてしまう気がする。 あの人は、確かに罪を犯したけれど。 今自分が生きているのは、主様のお陰だから――。 「あの……ぼ、僕は、し、賞金首、神村菱儀の従者、昭吉といいます。み、皆さんの村に瘴気の木の実を撒いて、破壊し尽したのは……僕の主です。先日討伐された主の代わりに、皆さんに謝罪しにきました。ほ、本当に、申し訳ありません」 震えながら膝をついて、深々と頭を下げる昭吉に、ポカーンと口を開ける村人達。 その表情は怒りと言うより驚いている様子で……年端のいかぬ少年に突然謝罪され、理解が追いつかないのかもしれない。 そこに桜花が割って入り、がばっと頭を下げた。 「許して欲しいでやんす。この通りでやんす」 「……開拓者様!?」 「お、桜花さんは何も……」 大地に頭をこすり付けんばかりの桜花に、いよいよ困惑する村人達。 慌てる昭吉を制止して、彼女はその姿勢のまま続ける。 「昭吉の坊ちゃん。勘違いしないで欲しいでやんす。あっしは謝りたいから謝ってるだけでやんす。……今回の一件はあっしも無関係じゃないでやんす。あっしもちょっと賞金首に手を貸したりしちまったでやんす。知らなかったとはいえ、昭吉の坊っちゃんと同罪でやんす」 「そうね。そういう意味では私も同罪ね」 優雅に頭を下げるユリア。彼らを守るようにして、ニクスと紬がそっと控える。 狼狽と、遅れてやってくる怒りに顔を歪ませる村人達を、烏水は宥めるように口を開く。 「黙っていれば逃れられたこと。じゃが自らが従者であり、主の為したこと告げて謝罪し、償おうとしている。……その想いだけでも理解してくれんじゃろうか」 「……突然の事で、何と言って良いやら分かりませんが……俺達も許せるかと言われたら、すぐには許せません。未だに避難先に住むことを余儀なくされている者達もそうでしょう。その気持ちもご理解戴きたい」 「それは勿論でやんす。村を元通りという訳にもいかないかもしれないでやんすが……ちゃんと元のようになるまで、あっし達をこき使ってくれて構わないでやんす」 搾り出すように言う村人に、もう一度頭を下げる桜花。リトも必死の表情で続ける。 「昭吉さんが村の復興に関わる事に抵抗があるかもしれませんが……。彼は間違いなく一人の人間です。志体持ちでもない一人の少年です。彼の行動は私達が責任を持ちます。どうかお手伝いをさせて下さい」 ぺこりと頭を下げる彼女。村人は暫く押し黙っていたが、疲れたように頷く。 「……開拓者様がそう仰るなら」 「寛大な配慮、感謝するぞい。少年は、わし等が確かに監視するゆえ」 「井戸は、村はずれのを使ってください。中心部のものは腐敗土の影響で汚れておりますので……」 「それじゃ、井戸も浚って汚れた水を出さないといけないでやんすね! 頑張るでやんすよ!」 頭を下げる烏水に再度頷いて、続ける村人。増えた仕事に、桜花はぐいっと腕を捲くった。 そこから離れた場所。人妖達の前には、腰に手を当てたクロウと火麗(ic0614)が立ちはだかっていた。 「今日はお前達に、ここの土を運び出して貰うぞ」 「さあ、キリキリ働きな」 「働くって何よ! こんな所まで連れてきて一体なんなの?」 「こんな臭いところ嫌ですわぁ。帰りたいですぅ……」 不満気な声を上げるふうに、顔を顰めて兎隹の首に縋りつくみい。 ひいだけは、青白い顔で汚れた土を掬って運び出していた。 「ひい、どうして抵抗しないの……?」 「彼女はここが何であるか、理解しているからだろうね」 「ここが何って……。何なの?」 「分からないか? だったら良く見るんだ。あそこで働いている村の人々の顔を、感情を、思いを……」 駆鎧『戦狼』を起動しながら言う竜哉に、首を傾げるふう。 続いた彼の言葉に、不満そうな顔をしたまま村の中に目をやる。 「さ、みいもやるのだ」 「どうしてもやらなきゃ駄目ですのぅ?」 「今日は作業の手伝いに行くと言ったであろう」 「兎隹もやりますのぅ?」 「勿論。さあ、一緒にやろう」 兎隹に促され、渋々身を離すみい。 思い思いに作業を始めた人妖達。 いつの間にか近くにやって来ていたユリアは、黙々と作業をしているひいに声をかける。 「……その土は重いでしょう」 「そうですわね。とても重いですわ」 「その重さを良く覚えておくといいわ。きっと、貴女の役に立つから」 ユリアの声に、黙って頷くひい。 ここが何であるのか理解している彼女に、これ以上の言葉は必要ない。 ――奪うこと奪われること。 悲しみを作り出すこと。 その重みは、自分自身で受け止めるしかないのだから。 ふうは、周囲の様子を観察し、土を運び出しているうちに、不満そうな表情は消えていった。 知識こそ欠けているが、賢い彼女はここが何であるのか気付いたのかもしれない。 一方のみいは、兎隹や開拓者に褒めて貰いたくて作業を手伝っているようで……ここが何であるのかまでは理解が及ばないようであった。 三人三様の反応を見せる人妖達。火麗はため息をつくと、彼女達を呼び寄せる。 「さて。ここまで作業して来た訳だけど……ここが何だか分かったかい?」 火麗の問いに、無言を返すひいとふう。みいだけが、ふるふると首を振る。 クロウは火麗を顔を見合わせるとため息をついて、人妖達に向き直る。 「ここは、以前、ヨウがアヤカシを引き連れてやって来た土地だ。菱儀の命令で、瘴気の木の実を撒いた。……覚えがあるだろ?」 「主様は、なるべく人が沢山いるところに瘴気の木の実を撒けと仰いましたわ。それが、ここだったんですのね」 彼の言葉に弱々しく呟くひい。クロウはそれに頷きながら続ける。 「そうだ。なあ、お前たち。ここに住む彼等は菱儀に何か……こんな仕打ちを受けなきゃならない事をしたと思うか?」 「……それは。あたし達は、主様の命令で……」 「それは分かってるよ。でもこの村に、その命令は関係あるのかい?」 目を反らすふうに、ピシャリと言う火麗。 みいはガクガクと震えて、兎隹に縋りつく。 「わ、わたし、何も知らなくて……」 「分かっておる。だが、君は知らなくてはならない。ちゃんと聞くのだ」 「……大事なものを失う悲しみ、苦しみはお前達も分かるだろう。菱儀はそんな苦しみを理不尽に世界中にばら撒いたんだ」 「神村はイツやヨウやあんた達使って、それをやらかしたんだよ。あたしたちがあんた達からイツやヨウを奪ったようにね」 クロウと火麗の重い声に、無言を返す人妖達。 続く沈黙を破ったのは、竜哉の声だった。 「ふう。君はこの間、こう言ったね。『消えていいものなんて無い』と。その通りだ。そして君の目に、この村はどう見える?」 日常が消えてしまったこの村は――。 そう。人妖達は、主の指示だったとはいえ村人達から故郷と、日常を奪ったのだ。 それは変えようのない事実であり、罪であり……。 「あたしにも難しいことは良くわかんないけどさ。あんた達もあたしも、奪ったことについて、そしてそれに対する償いについて、考えなきゃいけないと思う。あたしはあんた達に許して貰えるとは思ってないけど……あんた達の手助けをすることが、償いだと思ってるよ」 自己満足かもしれないけどね、と吐き捨てた火麗。 竜哉も静かに続ける。 「今の話を聞いた上で、どうするのか。どうしたいのか。良く考えるといい」 「畏まりました。すぐには答えは出ないかもしれませんが、必ず……」 「竜哉達は宿題が多すぎるわ……」 「焦ることはない。俺の命のある限りは付き合うから」 頷くひいにボヤくふう。それに、彼はくすりと笑い、己の左腕……白いアヤカシの遺した腕を、そっと撫でて――。 そして、それに答えることもなくえぐえぐと泣くみいを、兎隹は優しく抱きとめていた。 善悪の判断がつかない、良くも悪くも無邪気な彼女には、辛い話であったと思う。 ただ、先程の話でみいが全てを理解したとは思えなかったし、きちんと教えなければ、この子はきっと悪戯に、同じ過ちを犯してしまうから……。 もう一度しっかり、話さなければならない。 「みい。我輩の話を良く聞いて欲しい。……君が好きな菓子は、材料を作る者あってこそ口にできる。それがこうした村人達だ」 作物は、清浄な土なくしては育たない。 今回は土だけで済んだが、もっと汚染が酷ければ、多くの人が命を落としていただろう――。 「火麗姉とクロウの話は、分かり易く言うとそういうことだ。君達の主が命じた事は……君達が手伝った事は、多くの人々を苦しめてしまった。それは分かるな?」 「わたし達は、悪いことをしたんですのねぇ?」 「うむ。残念ながらな」 「わたし……どうしたらいいんですのぉ?」 「罪は忘れてはならない。しかし償う事はできるのだよ」 「つぐなう……?」 「罪に対する埋め合わせをする、と言う意味なのだ。その為にできる事をしようではないか。我輩も一緒に頑張るから……な?」 「……兎隹が一緒ならいいですわよぉ」 やけにあっさり頷くみい。何だかそれが妙に引っかかる。 ――もしかしたら。みいは、己とヨウを重ねてみているのかもしれない。 もう少し、自立を促さないとならぬな……。 見える課題に、兎隹は深々とため息をついた。 その後も続く作業。人妖達は無言で、顔色が悪かった。 絶対と慕っていた主と、己が行った罪を目の当たりにしたのだ。冷静でいられるはずもない。 別段暴れる様子もない。大人しく開拓者の指示に従っているが……。 自棄を起こされても困るよなあ。 守るってあいつらに約束しちまってるし……。 そんな事を考えて、とため息をつく緋那岐(ib5664)。掌に意識を集中して……周辺に漂う瘴気を集め、可愛らしい花を生成する。 「わあ。可愛い」 「……緋那岐は主様と同じ技を使えるんですの?」 目を丸くするふうに、小首を傾げるひい。それに緋那岐は肩を竦める。 「全く同じかどうかは分からねえけど……これは、瘴気から物体を生成する初歩の術だよ。何か希望の形はあるか? 要望があれば挑戦してみっけど」 「うさぎ! うさぎがいいですわぁ! ねー、兎隹?」 「えっと……」 突然話を振られて困惑する兎隹。緋那岐ははいはい、と頷くと再び意識を集中する。 そして生まれた掌サイズの兎に、目を輝かせるみい。 ひいは不思議そうな顔をして、彼を見上げる。 「緋那岐はどうして、瘴気から物体を生成してるんですの?」 「ん? ここの瘴気を消すのに害がなくて便利だろ。……俺、人妖師になりたくてな。その練習中なんだよ。瘴気は消える、練習にもなる。一石二鳥だろ?」 「緋那岐は人妖師になるの?」 「ああ。そのつもりだ」 「だったら、一つお願いしていい?」 「ん? 何だよ」 ふうに腕を引っ張られ、首をひねる緋那岐。 彼女は必死の形相で続ける。 「ヨウを生んであげて」 「ハイ?」 「ヨウ、人妖として生まれたがってたから……。人妖師は人妖を生み出すんでしょう? だから」 「んー。まあ、努力してみるけど……さすがにどんな人妖が出来るかまでは指定できないからな。あんま期待すんなよ?」 「すごい宿題を出されたな……」 ぽりぽりと頭を掻く緋那岐に、でっかい冷や汗を流す兎隹。 ――これは、緋那岐の人妖師としての、一つの指針になるのだろうか? 村人の避難先には、国乃木 めい(ib0352)と紫乃によって仮設診療所が作られていた。 復興の目途も立たない中で、日々の生活を営む人々の心労は計り知れない。 季節の変わり目でただでさえ体調を崩し易いこの時期、瘴気の木の実による汚染の被災地ともなれば……。 めいと紫乃の予想は当たり、数多くの村人達が押し寄せていた。 「どこか具合の悪いところはありませんか?」 「すみません。うちの子の怪我を見てやって貰えませんか」 「さっきあそこの道で転んだのー!」 「あらあら。この位ならすぐに治りますよ。ちょっと待って下さいね」 子連れでやってきた親子に、ささっと対応する紫乃。 母親はそれに安堵のため息をついて、不安そうに彼女を見つめる。 「開拓者様。最近、うちのおばあちゃんの食欲がめっきり落ちてしまって……。あまり外にも出たがりませんし……」 「それは心配ですね……。慣れない生活にお疲れなのかもしれません。少量でも元気が出るような、滋養のある食事をお教えしますね」 てきぱきと健康指導をする紫乃。ここに来る前、村で復旧作業に当たっている村人達の診察もしてきた。 彼らも怪我や病気、瘴気感染などはしていないようだったが……とにかく疲弊している様子だった。 長い避難生活は、確実に村人達の心と身体を蝕んで行っている。 が、せめて。瘴気の影響がないことが分かれば、少しは安心できるかもしれない。 めいも同じ気持ちなのか、次々とやって来る村人達の話を、じっくりと聞いていた。 「最近節々が痛くてのう……」 「季節の変わり目は老骨に響きますねえ。私もそうですよ」 「開拓者様も?」 「ええ。開拓者でもね、寄る年波には勝てないんですよ」 身体が痛いとぼやく老人に、穏やかな笑みを返すめい。 彼女は開拓者の中でもかなり高齢だ。屈強な開拓者も、自分と同じなのだと知って、老人の表情が和らぐ。 「節々の痛みはね、暖かいお風呂に漬かること。あとは身体を冷やさないようにすることですよ。食事は、しょうがやはちみつが良いですね」 めいの明るく、優しい語り口に村の老人達がどんどん集まって来る。 「開拓者様がこんなに頑張ってるんだ。ワシらも負けておられんなぁ」 「本当になぁ。まだまだ行けるぞい」 「ふふふ。その意気ですよ。でも、無理はしないようにして下さいね」 「そうですよ。ご家族が心配しますからね?」 海のように深いめいの語り口。そして優しい紫乃の声。 紫乃から癒し効果のあるポプリが配られて、村人達に笑顔が広がっていく。 「ねえねえ。おばあちゃん、このわんちゃん可愛いね。一緒に遊んでもいい?」 「勿論。……山水、遊んでおあげ」 「わん!」 忍犬を遠巻きに見ていた子供達に笑顔を返すめい。主の命令に、山水は元気に吠えて、子供達と一緒に走り始める。 「じゃんけんぽん!」 「あ。天澪、まけちゃったの」 「お姉ちゃんが鬼だー!」 「じゃあ、菊浬と一緒ににげるよー!」 「わーい!」 仮設診療所の周囲で鬼ごっこを始める子供達。柚乃(ia0638)のからくり天澪と、緋那岐のからくり菊浬が、その中にごく自然に混じっている。 「うむうむ。元気なことはいいことじゃ」 「わっ。この猫さん喋ったよ!?」 「わしは謎のご隠居じゃ」 「猫なのに?」 「うむ。仙猫と言うのじゃよ」 柚乃が変身した謎の仙猫に驚く子供達。 子供達にとっては、仙猫自体が珍しいらしくあっと言う間に取り囲まれる。 「ふむ。おぬしら、歌は好きかの」 「歌? 好きだよー」 「そうか。ではこの歌は知っておるか?」 そう言って、仙猫姿のまま歌を歌う柚乃。 馴染みのある童謡に、子供達は口々に知ってるー! と叫び、一緒に歌いだし……明るい声に、大人達の目が潤む。 「子供達のこんなに明るい声を聞いたのは久しぶりです」 「いつ帰れるのかと聞かれて、答えらなくて……」 「必ず帰れる日は来ます。大丈夫ですよ」 「その為に私達もお手伝いしますから」 めいと紫乃の励ますような声に、村人達は何度も頷いていた。 「皆さん、お疲れ様です。甘い物で一息ついて下さいね」 「雑炊もあるのだー!」 「ありますのよぅ」 大鍋に甘酒や汁粉、雑炊を用意して、声をかけるティアと兎隹。 みいも彼女の真似をして叫び……食欲をそそるいい香りに、村人達が集まって来る。 「いやぁ。こりゃあ美味そうだ」 「戴いて宜しいんですか?」 「勿論ですよ」 「遠慮なく……あああ、みい。危ない。危ないのだ」 笑顔で甘酒を振舞うティア。雑炊が入った器を持ち上げようとプルプルしているみいを、兎隹が慌てて止める。 そこに汗を拭いながらやってきた烏水に、ティアはにっこりと微笑む。 「あら。烏水さん、お疲れ様です。一杯いかがですか?」 「ティア、大丈夫かの。おぬし、ついさっきまで『精霊の聖歌』を歌っておったじゃろ。おぬしこそ少し休んだほうがええ」 「大丈夫ですよ」 心配そうな彼に、頷くティア。 村人達の抱えている不安を考えたら、自分の疲れなど比ではない。 彼らの目の見える場所で行う、『瘴気を消す』という行動。 それが与える安心感は目覚しく、村人達の士気も少なからず上昇しているようだった。 「ぐぬおおおおおおお!! 重いでやんすうううう!!」 「……手伝おう。玄武、来てくれ」 「あ、ありがとうでやんす」 土嚢に汚染土を詰めすぎたのか、持ち上げられずもがいている桜花に声をかける明王院 浄炎(ib0347)。 彼が合図を送ると、相棒の鋼龍が軽々と土嚢を運んで行く。 「まだまだかかりそうでやんすなぁ」 「ああ。だが、続けていれば必ず終わる」 額に浮かぶ汗を拭う桜花に、頷く浄炎。 彼の目線の先には、必死で土を集める昭吉の姿があって……。 ――主に代わり、罪を償いたい……か。 長く険しい道を選んだ彼。 それを気に掛け、支える者達が居るのであれば、関わりの浅い者が下手に口出しするなど野暮の極み。 彼や、それを支える仲間達を思うのであれば、彼らの志を行動を持って被害者達に示す事こそが、己の務めだ。 浄炎は多くを語らず。ただ黙々と、それの実現の為に身体を動かし続ける。 村人と開拓者達によって、どんどん増えていく汚染土の入った土嚢。 竜哉の駆鎧は特に目覚しい働きを見せ、広範囲に汚染土を削り取って行く。 そして纏められた土は、クロウの翔馬や紫乃の霊騎、浄炎の用意した荷車で次々と運び出され、辺りを支配していた腐敗臭も少しづつ減って行き、村の中心部は大分綺麗になっていた。 「ちょっとあたし、井戸浚いしてくるよ。ここもさっさとやっちまった方がいいだろ?」 「そうだな。水が汚れていては、土にも影響が出るかもしれん」 「だよね。じゃ、行ってくる。声かけたら桶をあげてくれる?」 「分かった」 手馴れた様子で腰に命綱をつけて井戸に潜っていく火麗。浄炎が上で待機し、掻き出した汚れをどんどん上げて行く。 「わしもそろそろ、瘴気を浄化しに行こうと思う。暫く動けんようになるから、後は頼んだぞ」 「ああ。浄化の手が多いに越したことはない。こちらは任せておけ」 「すみません。宜しくお願いします」 切り出す烏水に、頷く竜哉と昭吉。 そこに、とことこと紬がやって来る。 「昭吉さん。あの。手伝って戴けると助かるのですがお時間戴けますか?」 「はい。何でしょう?」 「これを植えたいんです」 紬の声に、首を傾げる昭吉。彼女の手には、桃の苗が握られていて……。 桃の樹には、邪気を祓うという言い伝えがある。 これを村に植えたら、少しは慰めになるかもしれない。 そう考えた紬は、村人達と植える場所を相談し、その結果、何もなくなってしまった村の中心部がいい、と言うことになった。 そこであれば、村の皆が見えるだろうから……と言う村人達の顔を思い出しながら、紬は入れ替えたばかりの新しい土を掘る。 「昭吉さん、そっち持って戴けますか?」 「分かりました」 力を合わせて苗木を植える2人。その小さな苗を見て、昭吉がため息をつく。 「この桃の樹が大きく育って、この村を守ってくれるといいですね」 もう二度とこんな事が起きないように……と続けた彼に、紬も頷く。 「桃の樹の効果があれば、きっと大丈夫ですよ」 「そうですね。あ……そういえば、紬さん。先日はありがとうございました」 「……何がですか?」 突然礼を言う昭吉に、小首を傾げる紬。彼は服の中から、徐に御守り袋を取り出す。 「この御守り贈って下さったの、紬さんですよね」 「え。あ……はい。でも、どうして……?」 確かにこの御守りを贈ったのは紬だ。でも、名乗らなかったはずなのに……。 不思議そうな顔をしている彼女に、昭吉はぽりぽりと頭を掻く。 「ええとですね。ギルドの職員さんにお伺いしたんです。どうしてもお礼が言いたいからって。僕なんかにお気遣い戴いて、ありがとうございました」 「いえあの……気にしないで下さい。昭吉さんは、ここ以外の場所も行かれる予定があるんですよね?」 「はい。そのつもりです」 「今回は幸い、厳しい事言う人いませんでしたけど……。この先は、色々とあるかもしれません。その時は、どうかその御守りを思い出してください。きっと貴方に希望を与えてくれますから……」 「ありがとうございます。紬さんはいい人ですね」 「そ、そんなことないですよ」 そう言いながら俯いて、頬を染める紬。昭吉も釣られて、顔を赤くする。 「あらー。初々しいわねえ」 「ユリア、あまりからかってやるなよ」 「分かってるわよ」 そんな2人の様子を暖かい目で見守るユリア。相変わらずの彼女に、ニクスは深くため息をついた。 「隼人様。これ、村の人たちの様子と、必要な援助物資を纏めたものです」 「ああ、ありがとうリト。助かるよ」 リトから簡単な報告書を受け取る星見 隼人(iz0294)。 それに目を通しながら、彼は首を傾げる。 「村の様子はどうだった?」 「腐敗土を運び出すのと、汚れた井戸を浚う作業は終わったよ。それだけは、今回で何とかしたかったしな。後は綺麗な土を運び込む作業なんだが。それはさすがに全て完了、と言う訳にはいかなくてな」 「そうか……。まあ、腐敗土がないのであれば、被害が広がる心配もないな。綺麗な土を運び込むなら、うちの人間を派遣することも出来るし……」 クロウの返答に考え込む隼人。そこに、おずおずとリトが口を開く。 「あの、隼人様。冬も近づいていますし、なるべく早く物資を送れるようにしたいんですけど……」 「ああ。そうだな。分かった。急いで手配しよう」 頷く隼人。リトは安堵のため息をつくと、宜しくお願いします……と頭を下げた。 こうして、神村菱儀の手によって破壊された村は、一気に修復の手を進め、復興の兆しが見え始めた。 昭吉と人妖達は、罪と向かい合い始めたばかり。 これからまだ向き合うことも、こなさなければならない課題も多いけれど……。 ひとまず一つの贖罪を果たしたことに、開拓者達も安堵のため息を漏らした。 |