【水庭】楽園での1日
マスター名:猫又ものと
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 50人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/09/09 09:15



■オープニング本文

●楽園
 豊かで多彩な自然環境に、まるで図鑑の如き動植物の多様性が広がり、一方では水中遊歩道に代表される不思議な遺産が眠る島。謎は深まり、開拓者たちは探究心のままに儀の真実を探っていく――と、いうのは表向きの話。
 今この場で我々にとって重要なのは、そのような話ではない。
 じゃあ一体何が重要なのかって?
 野暮な奴だ。そんなもの、誰の目にも明らかじゃないか。君の眼前に広がっているものは何だ?
 そうだとも。
 乙女の肌のように白い砂浜。大空との境界線を失わんほどに碧く澄んだ海。かくなる大空には太陽がその生命力の限りにさんさんと輝き、朝靄の中に浮かび上がる木々は瑞々しく両腕を広げている。
 空を見上げれば龍が舞い、海中には色鮮やかな魚が戯れ、妖精らは花を食み、そして時には獰猛なケモノがスリルを提供する。
 そしてもちろん忘れてはいけない。
 視界の隅にちらつくのは、太陽に輝く小麦色の肌だ。君は、水着や浴衣姿の女神たちを見たか? 野郎共の筋肉から立ち上る野生は? 木陰で優雅に涼むもふらさまの悩殺ぼでーは? よろしい。ならば存分に堪能してくるがいい。水着! 浴衣! そして恋! 夏が我々を待っている!


●水中遊歩道と温泉
 その日はたまたま休みだった。
 そう、休み。休みだから珍しいものを見に来た。
 それがたまたま今話題の不思議な島だっただけの話。
「綺麗ねえ」
「凄いな……一体何で出来てるんだ、これ」
 頭上を泳ぐ魚を見上げる開拓者達。
 透明な鉱物をくりぬいたように作られた水中遊歩道。
 海や湖の中にあるため、当然その周囲は水で満たされ、色とりどりの魚が遊弋している。
 空から入る光で水が輝き、遊歩道にもゆらゆらと揺れる光に満ちて――。
「あ、あれ何だ?」
 幻想的な光景に見とれていた仲間達を現実に引き戻す声。
 遊歩道を抜けた先。そこには複数の水溜りがあった。
 白濁した水や赤い水など様々な色があるが、共通しているのは皆湯気が出ていて暖かい。
 そう、これは……何と言うか。お風呂に最適な温度である。
「これって温泉……よね」
 呟く開拓者。
 仲間達は顔を見合わせると、次の瞬間笑顔になって、己の荷物を漁り始める。
「水着! 水着持って来てたかしらっ」
「もういっそ褌で入っちまおうかな……!」
 不思議な島の温泉。これに入らずして何をするか!


●空に咲く花
 そして、別な水中遊歩道を歩いていた開拓者達は、道のすみっこに佇む白い物体を発見した。
 丸くてぷよぷよした豆腐のような外見。あれは確か……。
「……杏仁豆腐!」
「ぴー!?」
 開拓者の声に身を竦ませる杏仁豆腐。その外見からは想像もつかぬ速さで逃げて行く。
「あっ。待ってよー!」
 後を追う開拓者。
 逃げる杏仁豆腐を追って追って走っているうちに、遊歩道から出てしまった。
「あーあ。杏仁豆腐見失っちゃったね」
 遊んでみたかったのに、と残念そうに呟く開拓者。仲間達が黙ったままなのに気づいて振り返る。
 すると、そこには見た事もない装置があって……。
「これ……何だ?」
 装置に近づく開拓者達。
 根元についている丸い宝珠。そこから筒が上に向かって伸びているところを見ると、何かを発射する装置なのかもしれない。
「何だろ。武器かな?」
「砲台にしちゃ形がおかしいよな……」
 恐る恐るそれに触れる開拓者。
 次の瞬間。光の玉が空へと上がって行き……空に、大きな花が咲いた。
「は……!? 何!?」
「……打ち上げ花火だ!」
 しかし、この花火は火薬を使っていない。
 どうやら精霊力を使って花火を作り出しているようだ。
 そして、開拓者達は気づいた。
 打ち上げ台の横に、制御台らしきものがついていることに。
 これを上手く使いこなせば、色々な形の花火が打ち上げられるかもしれない……。
 ニヤリと笑う開拓者達。
 どうやら、格好のおもちゃを見つけたようであった。


 楽園での休日。
 一体何をして過ごそうか……?
 真夏の、開拓者達の1日が始まる。


■参加者一覧
/ 梢・飛鈴(ia0034) / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 雪ノ下 真沙羅(ia0224) / 劉 天藍(ia0293) / 柚乃(ia0638) / 相川・勝一(ia0675) / 鳳・陽媛(ia0920) / 天河 ふしぎ(ia1037) / クローディア・ライト(ia7683) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / ネオン・L・メサイア(ia8051) / 久我・御言(ia8629) / ニノン(ia9578) / 皇 那由多(ia9742) / レヴェリー・ルナクロス(ia9985) / ユリア・ソル(ia9996) / エルディン・バウアー(ib0066) / アルーシュ・リトナ(ib0119) / ヘスティア・V・D(ib0161) / 御陰 桜(ib0271) / 十野間 月与(ib0343) / ニクス・ソル(ib0444) / 劉 那蝣竪(ib0462) / 岩宿 太郎(ib0852) / 猫宮 京香(ib0927) / 真名(ib1222) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / ウルシュテッド(ib5445) / ローゼリア(ib5674) / 神座早紀(ib6735) / サフィリーン(ib6756) / レムリア・ミリア(ib6884) / 八条 高菜(ib7059) / ラヴィニア・ラヴニカ(ib7243) / エルレーン(ib7455) / 藺 弦(ib7734) / 須賀 なだち(ib9686) / 須賀 廣峯(ib9687) / 雁久良 霧依(ib9706) / 戸隠 菫(ib9794) / 輝羽・零次(ic0300) / ジャミール・ライル(ic0451) / 火麗(ic0614) / 兎隹(ic0617) / ラシェル(ic0695) / リズレット(ic0804) / リーズ(ic0959) / 不散紅葉(ic1215) / サライ・バトゥール(ic1447) / 狗流咲夜(ic1651


■リプレイ本文

「紅葉さん、やっぱりよく似合います♪」
「陽媛さんも……よく似合ってる」
 満面の笑みを向ける鳳・陽媛(ia0920)に、穏やかな笑みを返す不散紅葉(ic1215)。
 せっかく海に来たし、まずはお互いの水着を選ぼう! となった2人。
 白のワンピースは、思った通り紅葉の紅い髪に良く映えているし、白いビキニに短めのパレオは陽媛の可愛らしさを一層引き立てていた。
 仲良く歩き出した2人の頭上を過ぎる魚影。色鮮やかな魚が、踊るように泳いでいく。
 遊歩道に差し込む光で周囲は青く染められ、何だか吸い込まれそうで……思わず手をぎゅっと握る陽媛を、紅葉は優しい瞳で見つめる。
 ――自分は、記憶や大切なもの……色々なものを忘れてしまった。
 陽媛と一緒にいると、『温かさ』が思い出せるような気がして……。
 彼女の身体に腕を回した紅葉を、陽媛は小首を傾げて覗き込む。
「……具合でも悪いんですか?」
「ううん。ちょっと、こうして居たくなって……駄目、かな?」
「いいですよ」
 にっこりと笑う陽媛。紅葉は彼女を抱き止めたまま、広がる海を見上げる。
「……折角だし、後で海で遊ぼうか」
「はい! きっと浜辺にも色々いますよね!」
「うん。蟹やヒトデとかいるかもね」
「貝殻も拾いたいです」
 くすくすと笑って、これからの計画を立てる。そう。休日は始まったばかりだ。


「ええっ!? どうしてお水の中なのに息できるの?!」
「水の中に透明な隧道が通ってるんだよ。だから水が入って来ない」
 目の前の光景に歓声をあげる紗代。輝羽・零次(ic0300)も彼女に説明しながら、これはなかなか凄いな……と周囲を眺める。
「ねえ、あっちはどうなってるの?」
「あー。待て。はぐれたらヤバいし……手出せ」
 走り出そうとした紗代に、ぶっきらぼうに手を差し出す零次。
 少女は少し顔を赤らめると、彼の手にそっと己の手を乗せる。
「何かあればすぐ言えよ」
「うん。ありがと。相変わらず心配症だね」
「親父さんにも『ちゃんと守ります』って言って来たし、何かあってからじゃ遅ぇだろ」
 少女の歩調に合わせてゆっくり歩く零次。内心、ちょっと焦っていた。
 一通り回ったら食事でも……と思っていたが、周囲は海と温泉ばかりで何もなかったからだ。物好きな開拓者の出店もない。
「紗代。飯なんだけどさ……」
「お兄ちゃん、お腹空いたの? 紗代、おにぎり持って来たよ!」
「いや、そうじゃなくて。お前に美味いものをだな……」
「紗代が握ったの。お魚さん見ながら一緒に食べよ」
「お、おう。ありがとな」
 ――仕方ない。戻ったら、送ってく前に何か美味いものでも食わせてやるか。
 笑顔の紗代からおにぎりを受け取り、頬張る零次。その周囲を、魚が緩やかに通り過ぎる。


 無知は幸福では無いかもしれないが、不幸でもない。
 知恵を得て、箱庭を知ってしまった人はどうすればいい?
 箱庭の外に出るべきなのか、箱庭の内の幸福を続けるべきなのか――。
「おー! すげえな!」
 ヘスティア・ヴォルフ(ib0161)の声に、顔を上げた竜哉(ia8037)。
 目に入る彼女の白のバンドゥビキニ。
 本当は無色とお願いしたのだが、さすがにそれは2人きりの時がいいと思う。
 水中の美しさに子供のようにはしゃぐヘスティアが眩しくて目を細める。
「考え事か? ちゃんと見ろよ」
「見てるよ。君をね」
 その一言で、彼の手を取り引っ張り回していた事に気づいたヘスティア。
 頬が赤くなるのを誤魔化すように、竜哉を壁に押し付けて腕で囲い込む。
「たまにはこういうのも楽しいだろ?」
「……無理するな。恥ずかしい癖に」
「そんな事ねえ!」
 ムキになって少し高い目線から恋人を見下ろす彼女。竜哉はその背をあやすようにぽんぽん、と叩く。
「大丈夫、安心しろ」
 君が君で居る限り、俺はちゃんと居るから。
 俺を信じてくれる限り、君の傍に戻れるから……。
「……ずりーなぁ、たつにーは」
 いつもこうやって自分の気にしている事にさり気なく触れて来る。
 でも、やられっぱなしは性に合わないから……。
「覚悟しろよ」
 竜哉の顎を掴んで呟くヘスティア。そのまま、2人の影が重なった。


「わぁ。すごいねローザ。お魚になったみたいだね♪」
「そ、そうですわね」
 皇 那由多(ia9742)に手を引かれるままに歩くローゼリア(ib5674)。
 彼の言う通り、水中遊歩道はとても綺麗だと思う。見ている余裕は全くないけれど。
 繋がれた手。婚約者になって変わった呼称。彼女の心拍を上げるには、十分過ぎる出来事で……。
「ローザ、ほっぺが赤いよ?」
「えっ!? いえ、大丈夫ですわ」
「暑いの? それとも熱?」
 頬が熱くなるのを抑えられない彼女を覗き込んで、こつんとおでこをくっつける那由多。ローゼリアは耳まで赤くなって飛びずさる。
「……む、無理ですわー!」
「ふふふ。熱上がっちゃったね」
 悪戯っぽく笑う那由多。彼が遊歩道の壁を触り始めた隙に、彼女は深呼吸をする。
「これ、何の素材で出来てるんだろうね?」
「……硝子か、水晶でしょうか」
「金剛石かな。ああ、何だか呼吸している事が不思議だ。……こうしていると息苦しくなる気がする。……ほら」
 じっと壁から海底を見つめる那由多。ローゼリアを引き寄せて、頬に唇を寄せる。
「……!??」
「ね? 溺れた」
 驚きのあまり呼吸を忘れる彼女を見て、くすくすと笑う那由多。
 参りましたわ……。今日はこの人に勝てそうにありませんの……。
 とうとう首まで赤くなったローゼリアを、那由多は嬉しそうに見つめていた。


「わあ……! 姉さん見て! あっちのお魚可愛い♪」
 興奮気味に壁にはりつく真名(ib1222)に、笑顔を向けるアルーシュ・リトナ(ib0119)。
 不思議な光景に、真名の術師としての血も騒ぐけれど……今はこれを楽しまないと!
 ゆらゆら揺れる水を通した柔らかな光。その中を、青や赤の魚が泳いでいる。
 一枚の大きな絵を見ているようで……言葉より先に溜息が出る。
「あの子へのお土産話には最適ですけど……この美しさを言葉で伝えきれるでしょうか。吟遊詩人ですのに、ね」
「姉さんなら大丈夫よ。養女さんは元気?」
「ええ。元気ですよ。……少し座りましょうか?」
 アルーシュの誘いに頷く真名。2人並んで腰掛ける。
「ね、姉さんは、今どう? あの子と仲良くできてる?」
「いい関係……と言っていいのでしょうか。お互い、もう少し力を抜けると良いんですけど」
「そっか……」
「真名さんは最近どうなんです? ……素敵な方が、出来たのでしょう?」
 アルーシュににっこり微笑まれて、ぼふっと顔が赤くなる真名。もじもじしながら続ける。
「うん……えへへ♪ 聞いてくれる?」
「勿論。沢山お話聞かせて下さい」
「うん! 何から話そうかな……」
「慌てなくていいですよ。お茶も如何ですか?」
 アルーシュから水筒を受け取って大喜びの真名。
 尽きぬおしゃべり。水中遊歩道での、和やかなお茶会が続く。


「ほらっ! すごいでしょー! 向こうに大きな滝もあって、水龍みたいな影も見たんだっ」
「はいはい。あんまりはしゃいで転ぶんじゃねぇぞ」
 犬尻尾をぱたぱたと振りながら興奮気味に話すリーズ(ic0959)に、ラシェル(ic0695)が適当に頷く。
 淡い光に満ちた水中遊歩道。どの程度のものかと思っていたが、これはなかなか……いいかもしれない。
「……ル。ラシェル?」
「どわーっ!?」
 突然現れた友人の顔に思わず身を引いたラシェル。リーズはキョトンとして小首を傾げる。
「わぅ? ごめん。邪魔しちゃったかな?」
「別に。なんだよ」
「ううん。あのお魚何かなーって」
「ありゃ石鯛だ。生でも焼いても美味いぞ」
「へー! 食べてみたいなー!」
 きゃっきゃと喜ぶリーズ。どうやら景色に見惚れていた事はバレていないようで、彼は安堵のため息をつく。
 暫く水中の様子を眺めていた彼女は、笑顔でラシェルを見つめる。
「またラシェルと一緒に素敵なものが見れて、嬉しいなっ」
「別に俺じゃなくたって良いだろうによ」
「え。だって去年、流星祭でまた素敵なもの見に行こうって約束したじゃない」
「そんな事あったっけか?」
「あったの!」
「ふーん。まあいいや。これからどうする?」
「ボク石鯛釣りたい!」
 心底嬉しそうなリーズ。そんな彼女を見て、まあこういうのも悪かねえな……とラシェルは思う。


 ――失敗した。
 ニクス(ib0444)はユリア・ヴァル(ia9996)の手を引いて、早足で人気のない場所を探していた。
 モノキニというのが、こんなに際どい水着だと言うことを実際見るまで知らなかった。
 白と言うのもこう、透け易いと言うか……。
 それを着こなした妻が綺麗で目が離せないのもそうだし、他の視線に晒したくないのもあるし……。
「どこまで行くの?」
「あー。うん。この辺でいいかな。じゃあ、祝杯をあげようか」
 どことなく顔の赤いニクスに、くすりと笑うユリア。
 どこまでも続く海の青。優美な光景。
 何より長く彼女を蝕んでいたアヤカシが滅んだ。その事が嬉しくて――。
 とっておきの葡萄酒の封を開けて、2人で寄り添う。
「これで一安心だな」
「ええ。子供への影響も心配ないしね」
「……えっ。ああ」
「何照れてるのよ。さあ、踊りましょう」
 夫の手を取り、立ち上がるユリア。
 白い砂の上を素足で、くるくる、くるくる――。
 いつ終わるともしれない円舞。
 そんな事を続けているうちに、足が縺れて……ユリアは、そのままニクスの上に倒れ込む。
「……君が無事で良かった」
「あたしがそう簡単に壊れる訳ないでしょ? だから……傍にいて、ずっとよ」
「ああ、君が望むなら。……愛してるよ」
 しみじみと言うニクスの首に、ユリアは腕を回して……磁石が引き合うように、唇を重ねた。


「うおお! すげえ! これどーなってんだ!?」
 打ち上げ花火の装置を触って興奮気味の須賀 廣峯(ib9687)。
 想像していた以上に立派な花火が上がって喜ぶ彼を、須賀 なだち(ib9686)が穏やかに見つめる。
 ――戦い以外でこんなに楽しそうな夫を見るのは初めてだ。
 彼の仏頂面は素直になれない故の仮面で……。
 出会い、嫁いでからの三年間で、それを知った。
 ……もっと、色々な顔を見ていたい。
「おいなだち! お前もやれよ! これすげ……」
 振り返る廣峯に笑顔のなだち。妻をすっかり放置していた事に気付き、彼はこほんと咳払いをする。
「あー。これ、好きな形の花火が打てるらしいぜ。何か見たいのあるんなら言えよ」
「そうですね。マメちゃん、でしょうか……?」
「よし、分かった」
 相棒の忍犬の名に頷いた廣峯。腕まくりをして装置に向かう。
「うさぎ……?」
「くそっ」
「……たぬき」
「間違えたーっ!」
「ねずみ……」
「くそ! 次だ! 次は出来るからな! 見てろよ!」
 己の要望のせいですっかり意地になってしまった夫。
 でも、そんな彼も可愛くて……そっとその手を取ったなだち。
 次の瞬間、打ちあがる花火。それはまさに、忍犬の顔で……。
「まあ。可愛い」
「どうだ! 上手く行ったろうが!」
「はい。さすがです。……今度はマメちゃんも一緒に来ましょうね」
「ん……そうだな」
 かわす約束。なだちの穏やかな笑みに、廣峯もにっと笑いを返した。


「早紀ー。これ何もふ?」
「花火の打ち上げ装置ですよ」
 腕の中のこもふらさまに笑顔を向ける神座早紀(ib6735
 紫陽花を腕に抱えたまま、打ち上げ装置を眺める。
 どうやら、横についている板で制御するらしい。
 細い手で操作を試みる早紀。試しに何度か打ち上げると、だんだん操作法が分かって来て……とうとうコツを掴んだのか綺麗な形の花火が打ちあがる。
「綺麗もふねー」
「そうですか? お気に召して良かったです。紫陽花様はどんな花火を打ち上げてみたいですか?」
 おやつのチョコを差し出す早紀。紫陽花はそれを食べさせて貰いながら首を傾げて……。
「団子がいいもふ!」
「お団子ですね。分かりました」
 色気より食い気の紫陽花にくすりと笑いを漏らす彼女。制御板に団子の形を入れながら、ふと考える。
 ――これ、文字の形も打ち上げられますよね。
 よし。恥ずかしいですけど、ここは思い切って……!
 流れるような動きで制御板を操作する早紀。
 発射ボタンを押すと、団子型の花火に続いて、空に浮かび上がる大きな文字は――。

 姉さん大好き!

「きゃーーーっ! 恥ずかしいぃーー!!」
「……早紀、何を恥ずかしがってるもふ?」
 大空を使った告白。打ちあがった花火に、きゃーっと悲鳴をあげて顔を覆う早紀。
 顔を真っ赤にしている彼女を紫陽花はキョトンとした顔で見つめていた。


「……えっ、混浴?!」
「もー、今更恥ずかしがらなくても♪ 大丈夫よ、ここは私達2人だけだし!」
 小さな温泉の傍で、劉 天藍(ia0293)は明らかに挙動不審だった。
 目の前の緋神 那蝣竪(ib0462)を直視出来ない。
 己の妻はこう、脱がなくても綺麗だけれど。
 脱いでも凄く……体の凹凸がハッキリした、女性らしい身体つきをしているし、紅いビキニが白い肌に映えて……うん。
「水着、どうかしら?」
「うん。似合ってると……思う」
「本当ー!? 嬉しい〜!」
 笑顔で腕に飛びついて来る那蝣竪に固まる天藍。
 結婚してお互い知らない事等何もないのに、酷く初々しい反応をする。
 まあ、でも。そんな晩生な所も好きなのだ。
 だから、つい。過剰に世話を焼いて、夫が照れる様を愉しみたくなる。
「はい、天藍君。お酒どうぞ。おつまみも、あーん♪」
「あっ。ありがとう……那蝣竪さんも飲みなよ」
 笑顔の妻にドギマギして目を伏せる天藍。
 そこに、パーンと言う音がして、花火が空を彩る。
「……天藍君見て! 花火よ!」
「綺麗だけど、何だか不思議な花火だな。どうやって作ってるんだろう?」
「……気になる?」
「そりゃ、少しはね。でも……今はここでいいかな」
「私も、貴方の傍がいいわ」
 天藍の肩に頭を預ける那蝣竪。
 温泉につかりながら、お互いが傍にいる幸せを噛み締める。


「遊歩道には驚いたが温泉まであるとは。その水着もいいね、似合ってるよ」
「そうかえ? 特売で半額だったのじゃ」
 温泉に身を浸して上機嫌のウルシュテッド(ib5445)。
 笑顔のニノン・サジュマン(ia9578)は、金色の髪を結い上げて、淡い緑の水着を着ている。
 セパレートのそれは、動くとお腹がちらりと見えて、それがまた愛らしい。
 水着姿の彼も……こう、カタケットの女子達が喜びそうな感じが堪らない。
「海に湖に河に温泉。この夏は一緒に色んな所へ行ったのう」
「だね。お陰で俺も日に焼けたなあ。ニノン、腕を見せて」
 ウルシュテッドに応じて腕を差し出したニノンは、彼の腕をまじまじと見つめる。
 日に焼けた小麦色。がっちりと筋肉の層が積み上がった腕に、また傷が増えたような気がする。
 いつも誰かの為に奮闘している……働き者で、歴戦の戦士の肉体。
 抱えるものが多い程に、彼は大きくなるのだろうか。
 そして、ウルシュテッドは彼女のあまりの細さに絶句する。
 ――透けるように白い肌。すらっとして余計な肉のない腕。
 その身体は華奢で、空へ向かう一輪の花のようで……。
 思う以上にニノンが大きな存在になっていた故か、その落差にただ驚く。
 触れたら壊してしまいそうで、彼は躊躇いがちに彼女の手に指を絡める。
「……火傷しそうじゃ」
「そう、だね」
 呟くニノン。熱いのは彼女の手か、それとも――。
 手にこめられる力。2人の関係は、少しづつ変化していく。


「うわぁ、温泉が一杯! 菫お姉さんどれから入ろう?」
「サフィちゃんの好きな所でいいよ」
「本当!? 最初は温めで白っぽいのが良い!」
「いいよ。じゃあ行こう!」
 そわそわとするサフィリーン(ib6756)を年上らしくリードする戸隠 菫(ib9794)。
 浅葱色のホルターネックの水着。所々黄色いリボンがついたそれは、菫の小さくてシュッと締まった身体に良く似合っている。
 お湯の中で伸びをするお姉さんは細いだけでなく、丸みもあって素敵だなぁ……と、考えていたサフィリーン。
 菫に腕をつーと指で撫でられてひゃあっ!? と飛び上がる。
「サフィちゃんは褐色で綺麗な肌よね。すべすべしていて良いなあ」
「えっ。でも私、手足棒みたいだし……」
 ションボリとする彼女にくすりと笑う菫。
 褐色の肌に淡い藤色の水着も、しなやかで、成長を感じさせるアンバランスな身体も可愛らしい。胸だって成長途中にしてはなかなかのものだ。
「サフィちゃん、大丈夫。まだまだこれからだよ」
「うー。私もお姉さん達みたいに綺麗になれるかな」
「勿論! 保障するよ」
 菫にはにかんだ笑顔を返すサフィリーン。足を伸ばして、思い切り温泉を堪能する。
「お姉さん、気持ちいいね〜」
「だねー。今度はあっちのお湯行こうか」
「うん! 後で浴衣で夕涼みもしようね」
「いいね! 花火も見られるかなー?」
 続く他愛もない話。のんびりとした女子会はまだまだ続く。


「これが、温泉……」
「そうよ〜。気持ち良いでしょ?」
 不思議な色のお湯を見つめるレムリア・ミリア(ib6884)。
 十野間 月与(ib0343)はゆったりとお湯に浸かりながらも、ここが将来的に補給・救護拠点に使える場所なのかじっくり見極める。
 レムリアの故郷は砂漠ばかり。こんなに水に溢れた観光地は珍しくて……何だか不思議な感じがする。
 そして、目に入る月与の緑のモノキニがはちきれんばかりの胸や、白いむっちりとした足。
 綺麗だな……と思っていたら、湯船から上がった彼女に手招きされる。
「オイルマッサージしてあげるからこっちへおいで」
「あ、ありがとう」
 誘われるままに敷かれたバスタオルの上に横たわるレムリア。
 健康的な小麦色の肌に映える白いビキニ。ピンとしたお尻に、豊かな胸が押し潰されて横から溢れている。
 滑らかな肌にオイルをたっぷり塗ると、背中からお腹……月与は優しい手つきでマッサージを施す。
「んっ……」
「どうかした?」
「ううん、何でもな……っ」
 慌てて首を振るレムリア。月与の妙技が気持ち良くて、気を抜くと声が出てしまう。
 ――こ、これはマズ……いやいや。これは是非お返しせねば……!
「月与さん! 私もマッサージ覚えたいので実験台になって!」
「ちょっ。えええ!?」
 月与の手を引っ張り、押し倒す彼女。
 2人のオイルマッサージはちょっと長くなりそうな気配です!


「水着が無いと入れないのか……」
 心底残念そうに呟く水鏡 絵梨乃(ia0191)。可愛い女の子達の裸体を楽しみにしていたのは、八条 高菜(ib7059)も同様だったが、絵梨乃とお揃いの赤いビキニを来た梢・飛鈴(ia0034)に、鼻の下を伸ばしきっていた。
「2人とも可愛いですよ〜」
「ありがとう。折角だし、皆でのんびりしようか。なあ、ふぇい?」
「えっ? ああ、うん」
 妖しく笑う高菜に笑顔を返す絵梨乃。その横で、飛鈴はしきりに胸を気にしていた。
「うーん。またちょっとキツくなったかァ?」
「どれ。確かめてあげましょう!」
「えっ。ちょっ……」
 止める間もなく飛鈴に飛びつく高菜。手から零れそうな胸がむにむにと形を変えて……それを涼しい顔で眺めていた絵梨乃は、不意に飛鈴の肉付きの豊かな臀部に手を伸ばす。
「ふぇい、お尻も肥えたんじゃないか?」
「こ、こら……! こんなとこで……!」
 頬を羞恥に染めて震える飛鈴。その様が可愛らしくて、絵梨乃はにんまりとする。
 そこに、後ろから高菜が不意打ちー♪ という声と共に抱きついて来た。
「んー。絵梨乃様はEカップかな? すべすべで気持ちいいー♪」
「ははは。高菜さん、くすぐったいぞ」
「隙ありー!」
 絵梨乃の水着に手を滑り込ませて、形の良い胸を撫でる高菜。
 その隙に、飛鈴は高菜の水着を剥ぎ取ったが……彼女は白いたわわな双丘を隠そうともしない。
 そう。高菜にとってこういった事象は悦びにしかならない。だって変態だし。
 飛鈴は、火に油を注いでしまった事を悟った。
「あ、あの……」
「ほう? 反撃する元気があるのか。……高菜さん」
「はいな。ふぇい様、天国いってみる?」
 手をワキワキしながら迫る2人。ヤバイ。これはヤバイ。
 せめて人気のない所へ行かないと、明日からの開拓業務に色々と差し支えるどころか社会的に死亡しますよ!
「んふ、よいではないかー♪」
「大きな声を出したらバレるぞ……?」
「……っっ!!」
 温泉に巻き起こる桃色空間。これ以降は想像にお任せします!


「はー。温泉、気持ち良いわねえ」
「そうですね〜。お酒も美味しいし……」
 温泉の中で杯を傾けながら、はふぅ……と幸せなため息をつくレヴェリー・ルナクロス(ia9985)と猫宮 京香(ib0927)。
 豊満な肉体を持つ2人。面積の少ない水着が頼りなさげに身体に張り付いて、湯にたゆたうたわわな実が何とも眩しい。
「そうだわ。いつもお世話になってるし、身体洗ってあげるわよ」
「わーい! ありがとうございます〜!」
 大分酒が回った2人。提案に京香が乗って来たのを見て、内心ニヤリとするレヴェリー。
 普段頭が上がらない分、ここで仕返しをするのだ……!
「ひゃ、そこまで洗わないでもいいのですよ〜!?」
 きちんと洗うと言いつつ、零れんばかりの胸や脇をくすぐる彼女。くすぐったさに身を捩る京香を見て、すぐに悪戯心を引っ込めたが……何だか、京香の様子がおかしい。
「ふふふ、御免なさい、京香。少し悪戯が……って。京香?」 
「うふふー! 私も洗ってあげますよおおおお!!」
 凍りつくレヴェリー。逃げる間もなく、あっと言う間に京香が覆い被さって来る。
「あぅっ!? ちょ、京香。待って」
「レヴェリーさん、相変わらずいい身体ですね〜?」
「わ、私が悪かったわ! きゃふぅっ!」
「胸がふかふか〜! お肌すべすべですよ〜♪」
 柔らかな胸、艶やかな白い太腿……全身をくまなく洗われて、レヴェリーは悲鳴をあげる。
 これってもしかして乙女のピンチかも!?


 あっちこっちで大変な事になっている温泉内。
 それを察知したネオン・L・メサイア(ia8051)は、雪ノ下 真沙羅(ia0224)を後ろから抱きかかえ熱い吐息を送る。
「真沙羅、我らも負けていられないな」
「えっと……何がですか?」
 白い肌をほんのり上気させている真沙羅。その艶っぽさも愛おしい。
 お揃いの浅葱色と薄桃色のビキニは、2人ともボンキュッボーンの為色々と隠しきれていなかったりするが、白く濁った温泉に入っている為、上手く隠れている。
 そう。見えてさえいなければ問題ない……!
「温泉の成分を肌に擦り込んだらもっと綺麗になるぞ?」
「あっ。ネオン様……?」
「大丈夫だ、我に任せておけ」
「きゃうっ! くすぐったいです……」
「ふふふ、真沙羅の肌は何時もすべすべで気持ちが良いな」
 悪戯っぽく笑うネオン。何とか言い包めて真沙羅の豊満な身体を撫で回す。
 くすぐったいと言いながらも、すぐに真沙羅の目がトロリとして、切ない吐息が漏れ始める。
「……可愛い奴め。ほら、此処にもしっかりと馴染ませないとな」
「んー。私ばっかりダメですよぅ……。ネオン様も気持ちよくなりましょう?」
 くるりと身を反転させて、ネオンの張りのある胸に顔を埋める真沙羅。
 甘えるように擦り寄る彼女を抱え直して、ネオンはその背中をそっと撫でる。
 お湯と、愛しい人の体温が気持ち良くて……暫く離れられそうになかった。


「温泉……色々あるのだな!」
「折角だし、のんびりしようかねえ」
 はしゃぐ兎隹(ic0617)に、目を細める火麗(ic0614)。
 髪を大きなリボンでまとめて、青のホルターネックビキニを纏った妹分は健康的で愛らしい。
 その姿にほっこり和みながら、火麗は酒を煽る。
「水着、気になるかい?」
「えっ。いや、とっても似合ってるのだ!」
「そうかい? 兎隹も良く似合ってるよ」
 胸をガン見していた事を悟られて慌てる兎隹。
 火麗のふっくらと盛り上がる胸。形良く均整の取れたそれに、申し訳程度に貝殻が張り付いていて……彼女の真っ白い肌も美しい。
 ――火麗姉は……ないすばでぃ、なのだ。
 それに対して己の慎ましい身体。ため息も漏れる。
 火麗姉はよくお酒を呑んでいる。もしやぼいんぼいんの秘訣は、酒……!?
「火麗姉! わ、我輩もお酒、少し戴いても良いか?!」
「えっ!? これ、結構キツい……」
 言い終わる前に杯を空にした兎隹。直後にぱたりと倒れた。
「ふにゅ……。ないすばでぃの道は険しいのである……」
「……ったく。兎隹は可愛いんだからそんな事気にしないで良いんだよ」
 妹分の頭を膝に乗せて、優しく撫でる火麗。兎隹は上を向くと、カッと目を見開く。
「ふおお! 下から見上げる圧倒的存在感! これが下乳、男性諸氏の憧れ! 我輩理解した!」
「……兎隹?」
 あひゃひゃと怪しく笑う兎隹に、火麗は冷や汗を流した。


 久我・御言(ia8629)と岩宿 太郎(ib0852)は見つめ合っていた。
 示しあわせた訳ではない。だが、分かっていた。
 己の肉体の美しさを競い合ってから早数年。
 ここで顔を合わせたのは必然。そう、運命なのだ。
「あの日から、俺は己の肉体を磨きに磨き上げた。それは御言さんとて同じ事だろう?」
「勿論だとも。私達は共にこの身1つで美を体現する漢……。さあ、今こそ魅せ合おうではないか!」
 不敵に笑う2人。
 そこに揚々とやって来たエルディン・バウアー(ib0066)。カソックをばさっと脱ぐと、そこは褌一丁。衝撃が走る。
「エルディンさん……」
「おや。太郎さん。奇遇ですねえ」
「その格好は……そうか。この勝負に参加するんだな!?」
「へ? 褌こそ天儀の水着正装と聞いたんですが……?」
「ふむ。挑戦者と言う訳か。いいだろう」
 エルディンの話をまるっと無視する太郎と御言。
 更に褌姿の相川・勝一(ia0675)を見つけて、太郎がその肩を掴む。
「君も挑戦してみるか?」
「えっ!? 何の話ですか?」
「肉体美を競うらしいよ。おにーさんには関係ないけど」
 他人事のように言うジャミール・ライル(ic0451)。御言は嘆かわしい、とでも言うように天を仰ぐ。
「無駄なものは一片もない筋肉。生命力に溢れる引き締まった身体……そのようにいい物を持ちながら褌の良さを理解せぬとはな」
「どーも。おにーさんの身体は商売道具だからさ。綺麗じゃないと、ね」
 賞賛と嫌味を受け流して笑うジャミール。勝一は素朴な疑問を口にする。
「ジャミールさん、女の子に声かけたりしないんですか?」
「別に口説いても良いけど……慣れてるしねぇ。特にどうも思わないかなー」
 さらりと贅沢な事を言う彼。
 しかし、女の子以上に野郎、更には野郎の裸体評価とか全く興味がない。
「まあ、可愛い子見るのは好きだけどね!」
「福眼ですよね。まあ、僕も癒しに来たんですけど……」
「あ、疲れてんの? おにーさんがマッサージしようか」
「わー。いいんですか?」
 ジャミールの申し出にホッとする勝一。
 肉体美競争も気になるけれど、女顔の上に細身の自分では、勝負にはならない気がする。
 まあ、成長途中のしなやかな筋肉と、中性的な身体のラインはまた別の意味で美しいのだが……。
 2人がそんな事をしている間に、3人の静かな熱い勝負が始まっていた。
 この戦いにルールなど不要。互いの肉体に流れるオーラを感じ取った時、負けた側が膝をつく。真の肉体勝負とはそういうものだ。
 見栄も嘘も彼らにはない。何故なら裸なのだから!
「皆の者! ポージングをしろ!」
「そうだ! 見せ付けるんだ!」
「ポージングってどうするんですか!? こうですか!?」
 御言と太郎に煽られ、困惑しつつも順応するエルディン。
 褌から覗く美しい尻。痩せてはいるが全身にくまなくついた強靭な筋肉……それは実に神々しかった。
 負けじとビシィッとポーズを決める御言と太郎。
 御言の弾力のある鋼鉄のように滑らかで美しい筋骨。磨き上げられた白い肌が妖しく輝く。
 太郎のはち切れるほど雄々しい血色が漲る肉体。ポージングで動くたびに形を変える筋肉は何とも美しい。
「ふ。素晴らしい……流石は我が好敵手。この勝負、私の負けだ」
「いや、俺の負けだ。御言さんが築き上げて来たものが見えたぜ」
「じゃあ、引き分けですかねえ」
 固く握手を交わす2人。褌がずり落ちかけたエルディンが呟く。
「あー。何かおにーさん、眠くなって来ちゃった」
「きゃあああ! 結局こうなるんですかー!?」
 そして、ウトウトしかけたジャミール。
 うっかり勝一の褌を引っ張り、つるりと落ちて……大惨事となった。


 小型の赤い前掛けと、黒猫が描かれた褌を身につけたリィムナ・ピサレット(ib5201)。
 幼い凹凸の少ない身体にスク水型の日焼け跡が何とも悩ましい。
 そして、雁久良 霧依(ib9706)の艶やかな黒いビキニが大人の魅力を引き立てている上に、お尻が丸見えで……。砲弾型の柔らかそうな胸がお湯にぽよんぽよんと揺れている。
 その様をガン見して、前屈みになるサライ(ic1447)。
 肉付きの薄い少年らしい身体。丸いお尻。白い褌にくっついた黒い兎尻尾が可愛いわぁ……とか、霧依に観察されている事に気付く余裕もない。
 その隙に消えるリィムナ。霧依の背後に回り込み、ビキニに手を差し入れる。
「ふへへ。柔らかーい♪」
「あっ!? 何これぇっ」
 更に揺れる彼女の胸。更にがぶり寄るサライとばっちり目が合う。
「君がやったのかしら? エッチな子ね♪ お仕置きよ♪」
「僕じゃな……」
 言い終わる前にふかふかの双丘に顔を押し付けられる彼。
 極楽責めに遭い、残り少ない理性は流れて消えた。
「ひゃあっ!?」
 今度はお尻を揉まれて飛び上がる霧依。しかし振り返っても誰もいない。
 無理もない。サライは『夜』を使って触りまくっているのだから。
「あー。最高♪ よし、次は……!」
 霧依の豊かな身体を堪能した彼は、ギラリとした目をリィムナに向けた。
 それを察知した彼女はニヤリと笑い……餓縁で彼のスキルを無効化し、即刻『夜』を発動させる。
「あたしにセクハラなんて10年早いよ♪」
「アッーーー!!」
 まともにカンチョーを喰らい、悶絶するサライ。
 高レベルなスキルを使った低レベルな争いが続く。
 そんな中、ぶるっと身体を震わせたリィムナに霧依が声をかけた。
「リィムナちゃん。トイレ行きたいんでしょ?」
「だいじょーぶだよ、まだ……」
「そんな事言って我慢できなくなるんだから! ちゃんと行かないとお尻ペンペンするわよ!?」
「きゃー! 行くー! 行くからーー!!」
 柔らかいリィムナのお尻をきゅっと摘まんで、うっとりする霧依。
 低レベルな争いはいつまで続くのか!?


「ぐぬぬぬ……」
 桜色の可愛らしい水着を纏ったエルレーン(ib7455)は、歯軋りしていた。
 温泉にはボインとバカップルだらけなのは予想していた。
 が、この変態の多さは何なのだ! 目のやり場に困るでしょうが!
「い、いいもん! 私は温泉を楽しみに来たんだから!」
 そうボヤきながら彼女がやって来たのは一番奥まった温泉。
「誰もいない……よね」
 もう一度指差し確認。納得した彼女は、謎の歌を歌いながら『ばすとあっぷ体操』を開始する。
「むぅ……。戦うもの特有の鍛えられた無駄のない身体。そこには眩い程の健康的な美しさがあるのじゃがのう……」
「気がついてないのかしらね。勿体無いわぁ♪」
「ぎゃああああ!? だ、誰!?」
 突然の声に飛びずさるエルレーン。
 そこには謎の神仙猫に化けた柚乃(ia0638)と、御陰 桜(ib0271)が佇んでいた。
「ワシは謎のご隠居じゃ。気にせんでええ」
「邪魔しちゃってごめんなさいね。さ、続けて?」
「続けて……って、見た!? 今の見た!?」
 こくりと頷く2人。あああ……と膝をつくエルレーンの背を、桜がそっと撫でる。
「落ち込む事ないわ。女の子なら誰しも抱える悩みよね」
 優しい桜の言葉に涙目を向ける彼女。
 が、白を基調としたホルタータイプビキニを纏う彼女の胸は、水着に収まりきらないほどの立派なものだし、ウエストも折れそうな程に細くてお尻はふんわりと大きく……とても同じ人間には思えない。
「あ、あなたに言われても説得力ない……!」
「いやいや。桜も昔は、身体のことで悩んだそうじゃぞ?」
 ふぉふぉふぉ、と笑う神仙猫。
 実は、柚乃もこう見えてわがままボディの持ち主である。
 個人的に、もう少し胸が小さい方が有難かったが、今言うと殺られそうなので黙っておくことにした。
「胸の成長はね、栄養と体操、愛情よ! 挫けちゃダメ!」
「ううう。私も大きくなる……?」
「勿論! ここにバストアップに効果がある温泉があるかもシれないわ! さあ! 一緒に全種制覇目指しましょ♪」
「はいっ! 師匠!」
「うむうむ。良かったのう」
 手を取り合う桜とエルレーン。謎のご隠居も満足気に頷くと、仲良く温泉に浸かった。


「温泉……沢山ありますね」
「うん。リズはどこから行きたい?」
 笑顔の天河 ふしぎ(ia1037)に頬を染めるリズレット(ic0804)。
 夫は、無駄のない均整の取れた身体つきをしていて、溌剌として男性美に溢れている。
 水着での混浴をちょっと残念に思ってしまった自分に驚き、首を振った彼女。
 思わず足を滑らせて、ふしぎに抱きとめられる。
「大丈夫かい?」
「あ、ありがとうございます……」
 いよいよ赤くなるリズレット。彼女が纏う赤い花をあしらった水着。ふっくらとした胸や白いすらりとした肢体を間近に感じて、ふしぎも心臓が飛び出しそうで……見惚れてしまって、身体が動かない。
「あ。ご、ごめん。つい……」
「い、いえ。私こそ……」
 名残惜しそうに身を離す2人。手を繋いで近くの温泉に身を浸す。
 温泉が温く感じるのは、自分達の体温が上がっているからだろうか?
 そんな事を考えていると、空に鮮やかな花火が上がる。
「わあ! 今の見た?」
「はい。花火……素敵ですね……」
「花火も綺麗だけど、リズはもっと綺麗だ……」
 真顔で呟くふしぎに、はにかむリズレット。
 言おうと思っていた事を先に言われてしまい……彼女は、思い切って口を開く。
「あの……ふしぎ様。今夜はずっと一緒に、いて下さいますか……?」
「えっ。あの、それって……」
 黙ったまま、夫に身を預けるリズレット。
 今晩は、熱い夜になりそうだ。


 辺りはすっかり日が沈んで暗い。感じるのは、遠くに上がる花火の音と愛しい人の肢体……。
 ラヴィニア・ラヴニカ(ib7243)は、あえてこの時間を選んで温泉にやって来た。
 愛しい主、クローディア・ライト(ia7683)の美しい身体。艶やかな小麦色の肌。ほっそりとした身体に、たわわに実る胸……これを見て良いのは、僕であり恋人である己だけだから。
「いいお湯ですわね、ラヴィ」
「お気に召して良かったわ。髪を洗ってあげましょうか?」
「本当? 嬉しいですわ」
 頷いて、主の銀糸のような髪をそっと洗うラヴィニア。
 優しく髪を梳かれて、クローディアはうっとりとため息を漏らす。
 目に入る、ラヴィニアの形の良いふっくらとした胸。透けるような白い肌。妖艶な赤い唇……まるで美の女神に作られた彫刻のようで、金色の髪をそっと撫でる。
「クローデ、どうかした?」
「ふふふ。わたくしもラヴィを洗ってあげますわね」
「貴女がそんな事しなくても……」
「あら。わたくし、髪を洗ってもらうのと同じ位ラヴィを洗うのも好きなんですの」
「もう、クローデったら」
 くすくすと笑いながらたっぷり石鹸を泡立てるクローディア。
 2人はあっと言う間に泡だらけになる。
「それにしても、月が綺麗ね」
「そうですわね。洗い終わったら、温泉でお月見したいですわ」
「仰せのままに」
 恭しくクローディアの手の甲に口付けるラヴィニア。
 遠くでまた、花火が上がった。


「あー。まったり過ごしたな」
 思い切り伸びをする狗流咲夜(ic1651)。
 水中遊歩道だけのつもりが、海も花火も見てきた。もう水筒も空っぽだ。
 さて帰ろうかと歩いていると、遊歩道の片隅で蹲っている人物を見つけた。
 やって来た彼女に、すっと人差し指を立てる藺 弦(ib7734)。
 静かに、と囁く彼女の足元を見ると、白い物体が鎮座ましましていた。
「あ……これ。杏仁豆腐?」
「はい。ようやっとここまで近づけたんですよ」
「逃げ足が速いんだっけ?」
「ええ。……本当に杏仁豆腐みたいですよね」
 警戒心の強い杏仁豆腐。2人はこそこそと、小さな声で囁きあう。
 ふと、色を変える海。目線を上げると、穏やかな淡い光が揺れている。
「月の光……? なんて美しい」
「本当だ。魚も綺麗だし……」
 頷きあう弦と咲夜。杏仁豆腐に、弦は微笑みを向ける。
「ねぇ、貴方達は、いつもこんなに美しい世界を見て……見……」
 思わず目を探す。ああ、あった。黒くて小さな目。一応、口もあるようだが……。
 触ったら冷たそうだけれど……無理に触れて、害になってはいけない。
「もう少し、ご一緒してもいいですか?」
 首を傾げる弦に、短く鳴いた杏仁豆腐。
 彼女はそっと、『心の旋律』を奏で始める。
 こりゃ良い所に出くわした……と呟いた咲夜。
 月光が満ちる水中遊歩道に、優しい唄が響き渡った。