【黒狗の森】少女の願い
マスター名:猫又ものと
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/04/15 16:08



■オープニング本文

●願い
「かかさま、大丈夫?」
「ああ、紗代……。あなたこそ身体はもう大丈夫なの?」
「うん。大丈夫。もう治ったよ」
「良かった……。もう危ないことをしてはダメよ」
「うん」
「……ごめんなさいね、紗代」
「……? かかさま、なんであやまるの?」
「私がこんな身体になったばかりに、怖い目に遭わせてしまって……ごめんなさいね」

 ごめんなさいね、と。
 かかさまは言う。
 かかさまは悪くないのに。
 悪いのはかかさまのからだの中にいる病気なのに。

 かかさまもととさまも、危ないことはしちゃいけないって言うけれど。
 やっぱり、このままあきらめるなんて、できない。

 大丈夫。危ないことなんてしない。
 今度は、お姉ちゃん、お兄ちゃん達も一緒だから――。

「……紗代。どこに行くんだ?」
 後ろから聞こえた声にギクリとする少女。
 振り返ると、父の姿が見える。
「あ、ととさま」
「薬草を探しに行くつもりなのか?」
「あの、えっと……」
 難しい顔をした父に、しどろもどろになる紗代。
 そんな娘の頭を、佐平次はぽんぽん、と撫でる。

 紗代は、自分に似てしまったのか少し頑固なところがある。
 止めたところで、黙って飛び出して行ってしまうだろう。
 それなら――。

「ととさま……?」
「……これを、持って行きなさい」
 差し出された袋。
 受け取ると少し重くて、ジャラジャラという音がする。
「これ、お金……?」
「お前の小遣いだけで開拓者様を働かせる訳にいかないだろう。あの方達はお忙しいんだぞ?」
「おこづかいだけじゃないもん! 紗代の宝物もあげるもん!!」
「分かった分かった。……いいかい。開拓者様達の言うことを良く聞くんだ。くれぐれも迷惑をかけてはいけないよ」
「うん!」
「……気を付けて行きなさい」
 手を振って、走り出した娘の背を、父は黙って見送った。

●再会
「こんにちはー」
 開拓者ギルドの入口からひょこっと顔を出す少女。
「あれ? 紗代ちゃん……?」
「もう身体は大丈夫なのかい?」
 彼女を見知った開拓者がいたのか、彼女を見つけて声をかける。
「うん。もう大丈夫だよ!」
「そう、良かった」
「それでね、紗代、お姉ちゃん達にお願いしたいことがあるんだよ」
「……薬草探しだな?」
 開拓者の言葉に、紗代は大きく頷き、続ける。
「かかさまの病気を治す薬草を、一緒に探しに行ってほしいの」
「それは良いけれど……どんな薬草か分かってるの?」
 開拓者の指摘に、あっ、という顔をする紗代。
 薬草を探しに行く、ということで頭がいっぱいで、そこまで気が回らなかったらしい。
「黒狗の森に生えてる薬草の話なら、私聞いたことありますけど……」
 そこにやってきたのはギルド員の女性。
 彼女曰く、黒狗の森に、雫草と呼ばれる花があるのだという。
 その淡い青の花には水の精霊の涙が宿ると言われ、色々な病に効くという伝承が残っている。
 それが真実かどうかは定かではないが、とても可愛らしい花なのだそうだ。
 その話に、紗代の目が輝く。
「それだよ! ととさま、青い花が咲く薬草だって言ってた!」
「そこまで分かれば、何とかなりそうね」
「でも、紗代ちゃんも一緒に連れて行くの……?」
 その一言に、むう、と考え込む開拓者達。
 これから行く場所は日中でも仄暗い森だ。
 その上、黒狗が棲んでいる。
 この間は運良く戦闘にならなかったけれど、今回もそう上手く行くとは限らない。
 体力の少ない子供を連れて行くとなれば、それなりの配慮が必要になるかもしれない――。
「開拓者さまにお仕事お願いする時は、ほーしゅーが必要だってととさま言ってたの。だから、これ」
 そんな開拓者達の様子を気にすることなく、話を続ける紗代。
 彼女から渡されたのは、決して多くはない文が入った袋2つ。そしてお手玉――。
「おねがいします。かかさまの病気を治す薬草を、探してください」
 紗代はもう一度言うと、ぺこり、と頭を下げた。


■参加者一覧
星鈴(ia0087
18歳・女・志
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
マックス・ボードマン(ib5426
36歳・男・砲
神座真紀(ib6579
19歳・女・サ
輝羽・零次(ic0300
17歳・男・泰
アルバ・D・ポートマン(ic0381
24歳・男・サ
ティナ・柊(ic0478
20歳・女・騎
兎隹(ic0617
14歳・女・砲


■リプレイ本文

●青い花を探して
「うちは、芦屋 璃凛。こっちは星鈴だよ」
「よろしゅう」
「うん、よろしくね。そこのお姉ちゃんのお名前は?」
「……あたし? あたしは神座真紀ちゅう名前やの。今日はよろしゅうな」
 笑顔の芦屋 璃凛(ia0303)と星鈴(ia0087)に、ぺこりと頭を下げた紗代。
 突然話を振られた神座真紀(ib6579)は一瞬慌てたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべ。
 和やかな雰囲気の中、輝羽・零次(ic0300)がちょっといいか、と少女を招きよせる。
「あのさ。1つ確認なんだが……そんなに行きたいのか? 前だって怖い思いをしただろ」
「それはそうだけど……。薬草探したいんだもん」
 零次の問いに、うぐ、と言葉に詰まる紗代。
 行く先はケモノが棲む森だ。遊びに行くのとは訳が違うし、当然危険も伴う。
 それを紗代自身が分かっているのか、どうしても確認しておかなければいけないから。
 彼はあえて難しい顔をしたまま続ける。
「……どうしてもか?」
「うん。危ないのは知ってるけど、かかさまの病気治したいの。だから手伝ってください」
「あいよ、兄ちゃん達に任せとけってェな」
 きっぱりと言い切った少女。
 迷いのない様子に、アルバ・D・ポートマン(ic0381)はニッと口の端を釣り上げて笑う。
 零次から、それ俺のセリフ! とか聞こえた気がしたが、気のせいと判断した兎隹(ic0617)は、うさぎのぬいぐるみを手に紗代に向き直る。
「その勇気、幼き身ながら天晴であるぞ。若輩ながら、我輩も力添えするのであるよ」
 ぬいぐるみの手をぴこぴこと動かしながら言う彼女に、かわいい! と少女ならではの反応を返す紗代。
 そこで、はたと立ち止まって首を傾げる。
「……ねえ、あっぱれってなぁに?」
「紗代さんがえらい、という意味ですよ。……私もえらいと思いますよ」
 左右で色が異なる美しい瞳を細めて、紗代の頭を撫でるティナ・柊(ic0478)。
「うむ。えらいえらいであるぞ」
 兎隹のうさぎさんにも頭を撫でられて、紗代は顔を赤らめる。
 母君を救いたいと願う、彼女の気持ち。
 それはとても尊いものだと思う。
 だから。
「気持ちには報いたいものですね……」
 ぽつりと呟いたティナ。
 その横で、璃凛がうーん、と考え込む。
「……母親の為かあ。うちにはよく分からないなぁ。どんな感じなんだろう」
 捨て子だった璃凛には、親という存在がいまいちピンと来ないらしい。
 星鈴はそんな彼女のおでこをこつん、と小突いて。
「別に親の為やなくたってええやない。大事なひとの為って思えば、璃凛も分かるんやないの?」
「……うん。そうだね」
 確かに。目の前に立つ親友の為なら、どんなことでも出来る気がする。
 身体の1つや2つくらい張ることに何の躊躇いも感じない。
 ――ああ、そうか。紗代もこういう気持ちなんだ。
 璃凛の考えていることが手に取るように分かるのか、星鈴はにーっこり笑う。
「その意気や。それに、小さい女ん子んお願いやったら、聞いてやらんとあかんわな。なあ、兄さん?」
「ま、乗りかかった船というか。事情を知ったからには、放ってはおけんでしょう」
 星鈴の声に、地図から目を上げずに答えるマックス・ボードマン(ib5426)。
 彼が手にしているのは黒狗の森周辺地域の地図。
 さすがに、森内部の地図はないけれど、これなら……とギルド員の女性が持ってきてくれたものだ。
 周辺の川、泉などに印をつけて。マックスは仲間達を見渡す。
「で、だ。基本として水辺を好むらしいが、この間見て回った範囲だとちなみにどうなるかね?」
「この間は……確かここら辺から森に入ってるが、川は近くになかったンじゃねェ?」
「紗代が倒れてたとこも水はなかったように思った」
 地図をトントン、と指差すアルバに、頷いた零次。
 ティナも腕を組み、首を傾げる。
「ということは、今回は別な場所から入った方が良いでしょうか」
「森の中に川が通っているなら、そこから当たった方がいいと思うのであるよ」
 そう言う間にもぬいぐるみがぴこぴこ。兎隹のうさぎ耳もぴこぴこ。
 紗代が自分にもうさぎの耳が欲しい、と騒ぐ程には可愛らしい光景であるのだが、残念ながらマックスは地図に夢中なようで――。
「水辺だったらどこででも見つかるとか、そんな噂は聞いたことあるかね?」
「うーん。ギルド員の人にも聞いたけど、水辺が好き、っちゅうことしか分かってへんみたいやね。あ、でも多年草やし、割といつでも花を咲かせとるそうや。生えていれば目立つかもしれへんね」
 野草図鑑をめくりながら答える真紀に、マックスはふむ、と顎に手を置く。
 紗代の父である佐平次はこの場にいないので聞くことは出来ないが、特徴など分かっているならば娘を通じて伝えて来るはずだ。
 それもないということは、彼も詳細は知らないと考えた方が良いだろう。
 そうなると……。
「……足を踏み入れる人間が少ない場所にある水源を探すとしようか。そこであれば摘まれてしまっていることもなかろうし」
「了解。結局は目視頼みになっちゃうね」
「仕方ないやね。がんばろか」
 続けた彼に、璃凛と星鈴も頷き。
 アルバは恭しく少女の手を取る。
「……さァて、小さいお姫様のお願いを叶えに行きますかね」

●邂逅
 二度目の黒狗の森。そこは変わらず仄暗く、鬱蒼としている。
 開拓者達は、水域が近くにありそうな場所を特定し、そこを始点に捜索を開始することにした。
「いいか、紗代。俺達から離れんなよ」
「1人じゃ危ねェからな。絶対だぞ、いいな?」
 言い聞かせるような零次とアルバに、真剣な表情で頷く紗代。
 兎隹はそんな彼女を覗きこんで続ける。
「我輩からも紗代殿に一つ頼みがあるが良いか?」
「なあに?」
「この子の護りをお願いしたいのである。我輩の大事な友人でな。何かあっては困るゆえ……名は『キルシュ』という。仲良くして欲しいのであるよ」
「……うん、分かった。キルシュちゃん、よろしくね」
 ぬいぐるみを受け取り笑顔になる紗代に、兎隹もにこにこ笑顔を返し。
 大役を頼まれた! と言って走って来た少女にティナの頬も緩む。
「松明の用意ができました」
 そう続けて、仲間達に灯りを配る彼女。
 前回ここに来た時は、松明に火を灯すのに若干苦労したが、同じ轍は踏まず。
 今回は零次が火種を用意してきていた為、事なきを得ていた。
「これが雫草ですわ。よう覚えておくんなはれ」
 そして野草図鑑の中にある雫草の図柄見せ、再度仲間達に説明する真紀。
 雫草の姿が分かっているというだけでも、探しやすさは違うはず。
 熱が入る説明に、仲間達と紗代は頷きながら聞き入る。
「……うん。紗代、覚えたよ!」
「そりゃ良かったなぁ。しっかり頑張りや?」
 図柄を覚えたことが、自信に繋がったらしい。
 真紀の励ましに、少女はありがとう! と答え――。
「よし。では二手に分かれて探すとしよう」
 マックスの声に頷いた璃凛は親友の背を景気付けるようにポンと叩く。
「星鈴、何かあったらすぐ呼んでよ」
「あいよ。璃凛も気ぃつけてや」


「これは……違うね」
「そやね……」
 璃凛の放った式が見つけてきた花を見て、ふう、とため息をつく真紀。
 生い茂る木々。続く同じような光景。
 そんな中ではあったが事前の調査の甲斐があって、比較的すぐに小さな川を見つけることが出来ていた。
 あとは、ここを辿りながら探して行けば良いはず――。
 地面に集中し、樹にぶつかりそうになりながら。
 目を皿のようにして探していた開拓者達だったが、ふと、マックスが立ち止まる。
「……二手に分かれているな」
 彼の目線の先は小川。枝分かれしているそれに、ティナが顔をしかめる。
「両方探すというのは厳しいですね。どちらに行きましょう」
「うーん。あ、棒に聞いてみるってのはどうだろう!」
「適当やね〜」
 ぽんと手を打つ璃凛に苦笑を返す真紀。
 かと言って、他に決め手となるものもない。
「運試しという訳ですね」
「まあ、やるだけやってみたらどうだい?」
 あっさり仲間達から承認が降り、璃凛は棒を地面に立てて手を離す――。


「珍しい見た目言うても、そう簡単にみつからへんもんやな……」
「まあ、しゃーないわなァ。……水の音。あっちか」
「足元、気をつけろよ」
 森に吸い込まれる星鈴のため息。
 松明で行く先を照らすアルバに、零次は紗代が転ばぬように足元の大きな枝を片付けながら。
 暗い森の中、開拓者達は点在する水場を求めて行ったり来たりしていた。
 子どもの歩みに合わせるがゆえ、どうしても進みが遅くなる。
 が、急いだとこで薬草が見つかる訳でもないし、長期戦になるのが分かっている以上、体力を消耗させるのは得策ではない。
 少女に無理をさせない。これが一番の策であった。
「薬草、ないね〜」
「大丈夫である。きっと見つかるのであるよ」
 しょんぼりする紗代の頭をぽふぽふと撫でる兎隹。
 少女の顔に、疲れが浮かんでいるように見え――。
「……平気かいな? 疲れたんとちゃうか?」
「紗代、無理はダメだぞ」
 姉や兄のような気遣いを見せる璃凛と零次に、大丈夫だよ、と答えてぬいぐるみを抱きしめる紗代。
 そんな彼女に、兎隹が小包を差し出す。
「我輩、おにぎりを持ってきたであるよ。食べるか?」
 その誘惑には勝てなかったらしい。
 急遽訪れた休憩。そんな中、心眼で周囲の様子を伺っていた星鈴が慌てた様子を見せる。
「ん? どうした?」
「あっちから何か来よる」
 アルバの問いに森の奥を指差して答える彼女。
 間もなくガサガサと、樹を揺らす音がして――。
「紗代、こっち来とき」
 星鈴が紗代を引き寄せたのと同時。
 木々の間から現れたのは、大きな黒い犬……。
 黒狗と呼ばれるそれに、零次はよう、と声をかける。
「悪いな、勝手に入って」
「……我輩達は病を癒すという雫草を探しに来た。森を荒らす気はないのである。目的を遂げるまでの滞在を許して欲しいのであるよ」
 続いた兎隹の言葉。
 それを怒る様子もなく。聞いているようにすら見える黒狗に、アルバは運試しをしようと決め――。
「あのさ。お前さんの力を借りてェんだ。こんな形した薬草知らねェか?」
 突拍子もない彼の問いに、ギョッとした星鈴。
 ツッコミを入れようと思ったその時、黒狗が小さく、わぅと鳴いた。
「……今、返事せえへんかった?」
「わぅ」
 また返事をするように一鳴き。
「お前、俺達の言葉が分かるのか?」
 そして、零次の問いには尻尾を振って見せる。
 ――どうやら、賭けに勝ったらしいなァ。
 黒狗の様子に確証を得たアルバも、犬の真っ黒い瞳をまっすぐ見つめて続ける。
「雫草を知ってるンだったらさ、ついでにどこに生えてるか教えてくれねェかな」

 ……ぱたぱた。

 尻尾を振るところを見るとどうやら肯定――教えてくれるらしい。
「言葉が通じるケモノ……素敵であるぞ」
「と、とりあえず皆を呼ばへんと」
 目を輝かせる兎隹の横で、星鈴が呼子笛を携える。

 ピィーーーーーー。ピィーーーーー……。

 森に鳴り響く笛の音。

 ワォーーーーーーーン。

 それに合わせるように、黒狗も吠え――。


「笛の音……?」
「ちょっと待って。遠吠えみたいな声も聞こえたよ」
 まずその音に気付いたのは真紀。璃凛も驚いたように周囲を見渡す。
「何かあったのでしょうか……」
「黒狗と遭遇、というところじゃなかろうかね」
 緊張した面持ちのティナに、マックスが淡々と答え……。

 ピィーーーーーー。
 ワォーーーーーーーン。

 そうしている間にも、笛と遠吠えの音が森に鳴り響く。
「……何か、一戦交えてるちゅうよりは一緒に何かを呼んでる感じがするんは気のせいやろか?」
 首を傾げる真紀に、マックスはああ、と頷く。
「我々に来るように言ってるんだろうな……私の推測が当たっているなら、だが」
「……黒狗には知恵がある、ということでしょうか?」
 そう言うティナの頭に過ぎるのは報告書の内容。
 マックスはもう一度頷くと、はぁあ、とため息をつく。
「ああ。恐らく、あのケモノは人の言葉を理解している。そして、この状況で考えられるのは……参ったな。この間の借りも返していないんだが」
「とにかく急ごう。皆が心配だし」
「そうですね」
 焦れた様子の璃凛に頷くティナ。
 開拓者達は音が聞こえる方向を目指して走り出した。


 一方。
「ねえねえ、黒狗さわってもいい?」
「ダーメーだって!」
「えー。どうして?」
「あのなァ、見ての通り普通の犬とは違う訳でな……」
「あの子、紗代達の言葉分かってるんでしょ?」
「それは……えーとだな。紗代君にはキルシュを守っていて欲しいのであるよ?」
「あ、そうだった。……でもこの子は大事って言えばきっと分かるよね?」
「だーかーらー!」
「……璃凛ー。皆ー。早ぅ来てー」
 ――こっちはこっちで何だか大変なようだった。


●願いと報酬
「わあ……! あった! あったよ!」
 青い花を見つけ、走って行く紗代。
 森の中を流れる清流の一角。
 呼子笛のお蔭で無事合流を果たした開拓者達。
 道中、黒狗と遊びたがる紗代を何とか宥め、案内されて辿りついた先で、雫型の青い花を咲かせた草を見つけることができた。
「ありがとな。お前のお蔭で助かったよ」
 頭を下げた零次に尻尾を軽くぱたぱた……と振った黒狗。
 開拓者達と紗代が薬草を摘むのを見届けると、大きな犬は深い森の奥へと帰って行った。
「……まぁ、なんとか見つけられて良かったやないか」
「まさか黒狗に助けられるとは思わなかったけどね」
 お互いの無事を喜び、くすくすと笑いあう星鈴と璃凛。
「また借りが出来てしまった……」
 何だか黄昏れているマックスを、アルバがまあまあ、と宥める。
「結果オーライとしようや。……嬢ちゃんも良く頑張った」
「その薬草で母御が元気になると良いな」
「うん。お兄ちゃんもお姉ちゃんもありがとう! お姉ちゃん、この子返すね」
 兎隹にぬいぐるみを返し、薬草を手にして、輝く笑顔を浮かべる紗代。
 良い笑顔だな、とティナは思う。
 母君の病気が治れば、更に良い笑顔が見られるだろう。
 自分の働きで、人が笑顔になる。
 騎士であるティナにとっては、それが何よりの報酬――。
「母さんが治ったらいっぱい甘えて、いっぱい孝行するんやで」
 母が早世している真紀。親孝行をいくら願っても、もう叶わぬことで……。
 少し羨ましいが――この親子の明日を守れたのであれば、それでいい。
 そう思いながら、彼女は紗代の頭を撫でた。 

 こうして、開拓者達の活躍により少女の願いは叶えられた。
 別れ際に、報酬と言って紗代が渡してきた『宝物』だというお手玉。
 少女らしい暖かな贈り物に、開拓者達は優しい気持ちで帰路につくのだった。