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■オープニング本文 ●続・少年のお仕事 「……この間のいちごのお菓子、なかなか良かった。特に苺の氷菓子と、牛乳寒天が美味かったな。あれならまた食べてやってもいい」 「本当ですかー!? お気に召して良かったです!」 サンドウィッチを頬張りながら言う主に、笑顔を返す昭吉。 開拓者様に作り方を聞いて来なくちゃな……なんて考える。 今、主が食べている食事も、以前開拓者から教わったものだ。 手が汚れず、手軽にたべられるそれを、主はとても気に入っているようで……しばしば作るよう頼まれていた。 「それでね、昭吉。今日は買い物を頼みたい」 「はい。何でしょう」 「百合の花が欲しい」 「……はい? 百合の花、ですか?」 「ああ。研究に使う」 ――昭吉の主は、難しい研究を営んでいるとても頭の良い人物である。 天才肌というか、ちょっと変わっているというか……突然、研究を極める手がかりが頭に降って沸くらしく。 とにかく、思いついたことは試したがる人であったので、時々、妙な買い物を頼まれることがあり……。 百合の花が、研究の何の役に立つのか、少年にはサッパリ分からなかったけれど。 とにかく、主が欲しいというのであれば手を尽くすのが彼の役目である。 分かりました……と頷いて、立ち上がる昭吉。 ――ふと、前回の失敗を思い出し、恐る恐る口を開く。 「あの……主様。百合の花って、今の季節咲いていますか……?」 「ん? どうだったかな。あれは夏の花だったか……。昭吉。今、季節はいつだ?」 「……今は秋真っ盛りですよ、主様……」 予想が的中し、がっくりと肩を落とす昭吉。 研究に没頭し、滅多に外に出ない主は、今の季節すら理解出来ていないようだった。 ●綺麗な花を求めて 各地の特産品を多く揃えた商業都市、陽天の街。 昭吉は、真っ直ぐ馴染みの万屋へ向かい、その戸を叩く。 「玲子さん、こんにちは」 「あら。昭吉君じゃないの。今日もおつかい?」 「はい。あの……こちらに百合の生花は置いてませんか?」 「うーん。今日は……というか、ここ最近入ってないわね〜」 「ここ最近? 以前は入ってたんですか?」 「ええ。そういう季節外れの花や果物って、常に暖かい泰国から入荷するのを待つんだけど、今泰国の情勢が微妙な感じでね……」 昭吉の問いに、申し訳なさそうに溜息をつく玲子。 泰国で起こっている動乱は、こういった物流という部分にも影響を及ぼしているようだった。 「そうですか……。どうしようかな」 「百合じゃないとダメなの?」 「いいえ。今回は、主様に『百合は季節外れ』と言うのをご理解戴いてから来ましたので、華やかで綺麗な花でもいいと……」 同じ轍を踏まぬよう、頑張ってきたらしい少年にくすりと笑う玲子。 そうね……と続けて首を傾げる。 「百合じゃなくてもいいなら、石鏡や、石鏡近隣の国の花とかでもありそうね」 「本当ですか!? でも僕、花のことはサッパリ分からなくて……」 「私もちょっと専門外だわ」 黙って考え込む二人。玲子はぽん、と手を打って顔を上げる。 「……昭吉君、お金ある?」 「はい。花を買いに行くと言ったら主様が多めに持たせてくれましたので」 「なら、話は早いわね。私が開拓者ギルドに頼んであげる」 「え……でも。本来は僕の仕事ですし……。開拓者さん達、お忙しいのにこんなこと頼んじゃって良いんでしょうか」 「報酬をきちんと払うならどんな内容であれ正当なお願いよ。あちこち旅をしている開拓者さんなら、きっと色々な花を知っているし、知恵を出してくれると思うわよ」 「……はい! じゃあお願いします」 ぱあっと顔が明るくなる昭吉に、笑顔を返す玲子。 もしかしたら、この間のいちご料理のレシピもお伺い出来るかもしれない……! そんな淡い期待を胸に、少年は頭を下げた。 こうして、開拓者ギルドに『求む! 綺麗な花を探してくれる方』という依頼が張り出されることになったのだった。 |
■参加者一覧
弖志峰 直羽(ia1884)
23歳・男・巫
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
春吹 桜花(ib5775)
17歳・女・志
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ
闇野 ハヤテ(ib6970)
20歳・男・砲
音羽屋 烏水(ib9423)
16歳・男・吟 |
■リプレイ本文 「やあ、元気だったかい?」 「久しぶりでやんすな」 軽く手を上げる弖志峰 直羽(ia1884)に笑顔の春吹 桜花(ib5775)。 見知った顔に、昭吉は笑顔を返す。 「またお世話になりま……」 「昭〜吉♪」 途切れる声。 ユリア・ヴァル(ia9996)に突然後ろから抱きしめられて、昭吉はアワアワと慌てる。 「あ、あの。は、放し……」 「あらー。お姉さんの事嫌い?」 「いや、あの……!」 「冗談よー。昭吉ったら可愛いんだからー!」 耳まで赤くなっている少年に、闇野 ハヤテ(ib6970)が同情の眼差しを向ける。 「うら若き少年にあれは刺激が強いんじゃないか……」 「人生何事も経験とは言うがの。ユリア、程々にの」 でっかい冷汗を流す音羽屋 烏水(ib9423)に悪戯っぽくウインクを返した彼女。 ようやく解放された昭吉は、大きく深呼吸しようとして……。 「わわわ。昭吉兄さま、大丈夫? ……って、あれー?」 「……天然ってな罪深いな」 ぼそりと呟く星見 隼人(iz0294)。 心配し、駆け寄ってきたフレス(ib6696)に飛びつかれ、少年は今度こそ轟沈した。 「……ここも違うでやんすな」 「どうしたのじゃ」 「お店、見つからないの?」 陽天の街の花屋を何件か巡り、難しい顔をしている桜花。 そこに、違う花屋に当たっていたフレスと烏水がやってくる。 「店はいくつか見たでやんすけど……あっしが探してるのは、『いい花屋』でやんす」 「……いい花屋かの?」 首を傾げる烏水に、頷いた桜花は語り始める。 ――いい花屋とは、植物への愛に溢れた店である。 花の特性を理解し、その花に合った環境を用意する。 反して、そういった事を全く考慮せず、ただただ珍しい花を集めただけという店もある。 花に元気がない状態だというのに、珍しい花を売ってやるんだから素人は黙ってありがたく受け取れ……なんていう高飛車な態度を取ったり――。 「そんな店はてやんでぃ! でやんすよ」 「うん。そんなの許せないんだよ!」 頷き合う桜花とフレス。 桜花は拳を握ると、更に熱弁を奮う。 「ともかく、良い店ってのは店内の様子や店員の接し方で大体わかるでやんす。よーく観察するでやんすよ」 「うん、分かったんだよ! 私も頑張って、良い花屋さん探すんだよ!」 「……概ね同意するがの。その店に欲しい花が置いていなかったらどうするんじゃ」 そこに、烏水のツッコミが入って、二人がガビーンと衝撃を受ける。 「そもそも、おぬし達は何の花を探しておるのじゃ?」 「あっしは篝火花を探してるでやんす」 「私は、彼岸花なんだよ! あと、菊と……直兄さまに頼まれたお使いもあるし、布も探したいんだよ」 「随分色々あるんだな……。俺、菊ならちょっと詳しいが、役に立てるか?」 隼人の言葉に、ぱっと顔を上げたフレス。 彼の家は、石鏡の貴族五家のひとつ、『菊』の星見家。 その別称から、彼の故郷では菊を育てている家が多いらしい。 「じゃあ、菊の事教えてくれるかな?」 そのお願いに隼人は快く頷き、フレスはぴょこぴょことその場で踊り出す。 「しかし、百合と似た雰囲気の花のう……」 腕を組み、考え込む烏水。 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、という言葉はあるが、それらは全て春や夏に咲く花で……。 それでも、彼の頭にはいくつかの華やかな花が思い浮かんでいた。 「よし、では麗しい花を求めて行くとするかの」 「いい花屋で買うでやんすよ!」 興が乗ったのか、べべん、と三味線をかき鳴らす烏水に、懲りない桜花が続き……。 目指すはいい花屋と、いい花。 果たして目的のものは見つかるのだろうか……? 爽やかな秋の風が頬を撫で、随分空が高い。 もう秋なんだな……と。 そんな事を考えながら歩いていたハヤテの足元には黄色の花。 蒲公英に似たそれは、とても可憐で……。 惹かれるように手を伸ばし、数本摘んでそっと束ねる。 「随分少ないんだね」 「ええ、根こそぎ摘んでしまったら悪いでしょ」 続けたハヤテ。花に目を落とした直羽も目を細める。 手にした花は小さく、見た人全てが『華やか』と、評価する事はないだろうけれど。 それでも、ハヤテにはそれが小さな太陽のように、輝いて見えて――。 ぼんやりと脳裏を掠める、何かを信じていた頃の自分。 小さくても、自信を持って咲き誇っているこの花は、いつか自分が無くしてしまったものを持っているのだろうか……。 「……直羽さんは目的の物見つかりました?」 「うーん。もう一つ、擬宝珠が見つからなくてね」 考えを振り払うように首を振ったハヤテに、困ったねぇ、と呟く直羽。 直羽は、ユリ科の野草を探して歩いていた。 野草である分、華やかさという意味ではちょっと控えめだけれど……。 昭吉の主が何の研究しているのか分からないが、花の品種改良をしているのかな? と、そんな推測を立てた彼。 研究材料として使うのであれば同種の花があった方がいいかと思ったのだ。 「俺、擬宝珠がどんな花か分からないけど……教えて貰えれば、手伝いますよ」 深々とため息をつく直羽に、声をかけるハヤテ。 自分が求めていた花は見つけたけれど。だからと言って、先輩を置いて帰るのはさすがにどうかと思う。 「ありがとう! さっきのお花の事といい、ハヤテ君は良い子だね」 爽やかな笑みを浮かべる直羽。彼から思わぬ言葉が飛び出して、ハヤテはピキーンと固まった。 「これでいいの?」 「ええ、勿論。ありがとう」 頼まれた物が意外だったのか困惑を隠せない玲子に、微笑を返すユリア。 机の上には色とりどりの折り紙。そして岩清水に、持参した香水――。 昭吉も玲子同様、不安そうな面持ちで見ている。 「……昭吉、心配しないで大丈夫よ」 頷く少年が可愛くて、くすりと笑った彼女は、早速作業に取り掛かる。 生花が自然が生み出す美だとしたら、己が作り出そうとしているのは人が作り出した美、とでも言うのだろうか。 「昭吉の主も気に入ってくれるといいんだけど……」 そんな事を呟くユリア。 彼女の白魚のような美しい手から、次々と折り紙の花が生み出されて行く。 「わあ。すごい」 「はい、昭吉にも一つあげるわ」 「えっ。でも……」 「沢山作るから大丈夫よ。……そうだわ。折角だし、皆の分も作りましょ」 驚く昭吉に、ウィンクを返すユリア。 素敵な贈り物を戴くのは好きだけれど。 贈り物をして、喜んで貰うのはもっと好きだ。 これが終わったら、次の作品にも取り掛からなくっちゃ……。 皆、どんな顔をするかしら。 その反応を想像して、微笑むユリアだった。 『いい花屋』を求めて、陽天中を巡り歩いた四人。 桜花はとても満足そうな顔をしていたが、烏水とフレス、隼人は何だか疲れた顔をしていた。 「おかえり。とりあえず、これ飲んで」 「良い花は見つかった?」 直羽にお茶を出して貰った買い物班の面々。続いたハヤテの問いに黙って頷く。 「じゃあ、早速見せて貰えない?」 「勿論でやんすよ〜」 笑顔のユリアに応えたのは桜花。 彼女は、真っ白でひらひらとした花を皆の前に置く。 「これは、篝火花というでやんすよ」 「本当だ。綺麗だね」 「花びらがひらひらしていて、その華やかさに心惹かれやして……でも、別名『豚の饅頭』とも言うでやんすが」 笑顔の直羽に、答える桜花。 あんまりな名に仲間達が衝撃を受ける中、烏水がぽつりと呟く。 「……旨そうじゃな」 「そうなんでやんすよ〜……って、話が反れたでやんす」 じゅるりと涎を垂らしかけた二人。 桜花は首を振って、昭吉に向き直る。 「この花、丈夫で長い期間咲くでやんす。室内の窓際に置けるみたいでやんすから研究には良いと思うでやんす〜」 「ありがとうございます」 「あっしは花が好きでやんすが……いやぁ、いい花屋の花は一味違って、やっぱ綺麗でやんすな〜」 ぺこりと頭を下げる昭吉に、満足気に頷く桜花。 いい花屋で、いい花を買えて、彼女自身も大満足なようで……。 烏水は、そんな彼女を見てため息をつく。 その『いい花屋』を探すのに、どれだけ苦労したと思っているのか! まあ、結果的にその拘りのお陰で、良い花を見つける事が出来た訳だし、終わり良ければ全て良しとするのが粋というものか……。 「この辺りはどうじゃろうか」 そう言って烏水が出してきたのは色とりどりの花――。 目にも眩しい黄色に、独特の雰囲気持つ鐘馗水仙。 釣鐘のような花が愛らしく、小ぶりながら鮮やかな紫をした竜胆。 華やかな桃色が幾重にも重なる花弁。歌にも詠まれる華やかさを持つ山茶花。 「あとは、桔梗を……と思ったんじゃが、見つからんでな。その代わり、陽州の花を見つける事ができたぞい」 そう続けた彼の手には、淡桃の大輪の花。 「これは酔芙蓉と言うてな。朝、開花した時は白色で、夕方になるにつれて赤くなるそうじゃ。芙蓉は枯れた姿も面白いゆえ、枯れるまで置いておくが良いぞ」 「主様も喜びそうです」 「あ、待つのじゃ。すっかり聞くのを忘れておったが、花粉はどうした方が良いかの?」 烏水の問いに、キョトンとする昭吉。 花粉はとても落ちにくいものというのを、少年は知らないらしい。 以前、烏水も衣裳に花粉をつけてしまい、水で洗い流そうとして大目玉を喰らった事がある。 昭吉はそうならぬように……と。彼に花粉の落とし方を伝授する。 「なるほど! ありがとうございます!」 「よかったな。……っと。俺の持ってきた花はこれだ。オオジシバリって言うらしい」 ハヤテが昭吉に握らせたのは、小さな黄色い花束。 素朴な雰囲気が、昭吉少年に似合っていてユリアは顔を綻ばせる。 「可愛いわね。でも、どうしてこの花を選んだの?」 「さぁ……。人との繋がりを今一度思い出したかったからかな……?」 「人との繋がりは、この花みたいに明るくて、広がっていくっていう事かな?」 彼女の問いに、どこか遠い目をするハヤテ。直羽は納得したように頷く。 「どうなんでしょうね。あとはコレ……よかったら、どうぞ」 そう続けたハヤテが差し出したのは、手のひらサイズの瓶。 透明なそれに、色とりどりのビー玉のようなものが入っている。 「中身はただの飴なんですけどね。光に透かして見ると……きらきらして華やかなもんでしょう?」 「本当だ。綺麗なんだよ!」 瓶を光に当てて、無邪気に喜んでいるフレスと昭吉。 そんな二人を見て、ハヤテが目を細める。 「友人が教えてくれたんですよ。見方によっては普通も特別になるって。教えてもらった時はバカバカしいと思ったけど……案外とやってみたら綺麗だったんでね」 「深いなぁ……。あ、そうだ。俺が持ってきた花も渡しておくね」 ハヤテの言葉にしきりに頷いていた直羽は、思い出したように机の上に花を並べて行く。 薄桜色が可愛らしいイヌサフラン。 斑点模様と花の形が面白い杜鵑草。 緑と白の美しい葉を持つ擬宝珠……。 「擬宝珠は花が終わっても紅葉が楽しめるんだって。主様に教えてあげて」 笑顔の直羽に、素直に頷き返す昭吉。そこにはい! とフレスが挙手をする。 「直兄さま! 頼まれてたお花、買っておいたんだよ!」 彼女が差し出したのは、花弁が薄絹を重ねたドレスのような薔薇。 清楚な白と薄紅の情熱を秘めた色合いが華やかで美しいそれに、直羽も笑顔になる。 「ありがとう! 大変だったでしょ? いい子のフレスちゃんにもお土産だよ」 彼は、フレスの頭を撫でると山茶花を手渡す。 山茶花には、『困難に打ち勝つ』、『ひたむきさ』という意味があるらしい。 彼女に相応しい言葉に、祈りを込めて……。 「直兄さま、ありがとなんだよ……。あ、次は私かな」 フレスが出したのは花火のような真っ赤な花弁を持つ彼岸花。 そして、丸くてもこもこしている大輪の菊。 「彼岸花は、華やかだけど妖しげな雰囲気なのが大好きなんだよ! あと、菊は隼人兄さまに協力して貰ったんだよ。厚物っていうんだって。あとね、華やかな花っていう事で……舞を踊るんだよ」 そこまで言って、一礼するフレス。 彼女が身に纏うのは真っ赤な衣装。そこに、色々な布で作られた花細工が施されている。 この花は、フレスが材料から買い集め作ったものだ。 百合のような華やかさと清楚さが備わるようにと精一杯工夫した。 そして、彼女のしなやかな動きはとても可憐で――。 「フレス自身が美しい華ね。私も人妻でなければ、お勧めしてみるのも面白そうだったけれど……」 くすりと笑うユリアに、微笑み返すフレス。キレのある回転を決めると、昭吉の前に立つ。 「人は研究対象にならないみたいだけど、人の心はどうかな?」 「……分からないですが。主様にもお見せしたかったです」 「私もいつか、主様に見て貰いたいんだよ」 感涙に目を潤ませる昭吉に、フレスは恥ずかしそうに笑い……。 花が華やかだと感じるのは見ている人の心にもよると思う。 昭吉の主も、そういう心が備わっているといいなと思いながら、彼女は昭吉に布細工を手渡した。 「最後は私ね。私が用意したのはこれよ」 「氷の花でやんすか……!」 「見事なもんじゃのう」 桜花と烏水の感嘆の声に、頷くユリア。 彼女の手には、氷で出来た百合の花。 凍らせる前に百合の香水を数滴垂らしたからか、仄かに百合の香りがする。 透き通った氷の花は水晶の輝きを持ち、茎と葉の部分は細かい気泡で白く見える。 氷の花。いずれ溶けて消えゆく、儚い美しさ。 それでも仄かに漂う凛とした香りが、姿を失っても心に残る――。 「本当に美しいのは、花に感動する人の心かも知れないわね」 「そうだね。でも、よくこんなの思いついたね」 「ありがとう。もう一つあるの」 目を輝かせる直羽に、笑顔を返すユリア。 もう一つは、折り紙で折った百合の花。 色とりどりの紙で作られたそれは、秋でも咲き誇り、永久に朽ちぬ事なく美しい姿を保ち続ける。 「一枚の紙からあれほど多様な形を作り出すなんて、とても興味深いと思わない?」 「本当ですね。僕、これ宝物にします」 「あら! 嬉しい!」 再びユリアに抱きしめられて、慌てる昭吉。 そんな少年を助けつつ、ハヤテは声をかける。 「主さん、喜んでくれるといいね。探したのは俺達かもしれないけど……君が持っていったものは何でも認めてくれると思うよ。一番主を思って悩んでいたのは、君なんだから」 「そうなんだよ。主様を助ける昭吉兄さまは、とっても素敵だと思うんだよ」 己に柔らかい微笑を向けるハヤテと、にこにこのフレス。 開拓者達のお陰で、今回も主の願いが叶った事に感謝しつつ、昭吉は深々と頭を下げる。 「ところでの。隼人も屋敷に戻りゃ花の一つでも土産にしてはどうじゃ?」 突然口を開いた烏水。ギョッとする隼人に、仲間達から笑いが漏れた。 余談。昭吉は、いちご料理の作り方をしっかり聞いて帰ったそうです。 |