いちごの味を求めて
マスター名:猫又ものと
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/28 21:02



■オープニング本文

●少年のお仕事
「……いちごが食べたい」
「いちご!? いちごですね! ハイっ! 分かりましたっ」
 ぼそりと呟いた主の声に、少年は元気よく頷いて家を飛び出す。

 ――昭吉の主は、とても頭の良い人物である。
 何かの研究をしているとかで、主の部屋には様々な、見たこともないような機材がびっちりと並んでいて……ほとんど外に出て来ない。
 以前、主が研究している内容を教えてくれたことがあったが、残念ながら少年にはサッパリ理解できなかった。
 でも、昭吉はそんなことは全く気にしなかった。
 彼の仕事は、主の身の回りのお世話をすること。
 主の望むように。主が快適に過ごせさえすれば、それで良かったので……。

 そんな昭吉にも、ちょっとした悩みがあった。
 主は偏食な上に、食が細く……研究に没頭すると、食事を摂ることすら忘れてしまうのである。
 そんな主が『食べたいもの』を要求してくるなんて、年に数回あればいい方。
 この貴重な機会を逃す訳にはいかない。
 そして、再び主が研究に没頭し、己の要求を忘れてしまう前に。
 迅速な対応が求められる仕事になりそうであったが……少年は知らなかった。

 彼が住む石鏡の国は、今の季節、いちごは収穫できず。
 泰国の南部で栽培されているいちごを、行商人が運んでくるのを待つしかないことを……。

●いちごの味を求めて
「悪いが今日は入荷してねェなあ。他を当たってくれ」
 12軒目の店で、同じ台詞を言われ、昭吉はがっくり肩を落とす。
 陽天の街は、各地の特産品を多く揃えた商業都市。
 この街で揃わないものはないと思っていたのに……。
 ――とりあえず、もう一軒寄って、いちごのことを聞いてみよう。
 昭吉は疲れた足にムチを打って、馴染みの万屋の戸を叩く。
「玲子さん、こんにちは」
「あら。昭吉君じゃないの。今日もおつかい?」
「はい。あの……こちらにいちごは置いてませんか?」
「うーん。今日は入ってないわね〜」
 本日13回目の台詞を聞いて、その場にがっくりと膝をついた昭吉。
 同じ店で商品を物色していた開拓者達が、ギョッとして少年に駆け寄る。
「……大丈夫ですか?」
「具合でも悪いの?」
「いえ、あの……大丈夫です」
 そう言いつつも、立ち上がる気配のない彼に、開拓者達が顔を見合わせていると……再び戸が開いて、星見 隼人(iz0294)が顔を出す。
「邪魔するぞ。怜子、いつもの酒を……って、何だ? 取り込み中か?」
「あら。隼人様もいらっしゃい。……ご当主様のお酒ね。ちょっとこの子を休ませてからでいいかしら」
 椅子を出しながら言う玲子に、頷き返す隼人。
 開拓者達が少年を椅子に座らせていると、隼人はまじまじと彼を見つめる。
「……ん? お前、この間の……昭吉か?」
「あ、ああああ! 星見さん! あの時は本当にありがとうございました!!」
 椅子から勢いよく立ち上がり、がばっと頭を下げる少年。
 開拓者は、隼人と昭吉を見比べて首を傾げる。
「この子、星見さんのお知り合いですか?」
「ああ、色々あってな。……そんな事より今度はどうしたんだ。疲れた顔してるじゃないか」
「いえあの。それが……」
「昭吉君、いちごを探してるんですって」
「いちご……?」
 玲子の言葉に再び首を傾げた開拓者と隼人。
 かくかくしかじか……と、少年がいちご探しに奔走する理由を説明して、一同はうんうんと頷く。
「なるほど。そういう事だったんですね……」
「いちごは今の時期、確かに手に入りにくいだろうね。いっそ泰国に買い付けに行けばすぐ手に入りそうだけど……」
 開拓者達の言葉に、ポンと手を打った玲子。徐に昭吉に向き直る。
「……昭吉君、お金ある?」
「はい。いちごを買いに行くと言ったら主様が多めに持たせてくれましたので」
「なら、話は早いわね。私が開拓者ギルドに頼んであげる」
「え……でも。今からギルド経由でお願いしていたら、また主様が研究に没頭しちゃって間に合わないかも……」
「それもそうね……」
 再び考え込む玲子と昭吉。
 そんな2人の肩を叩き、開拓者がおずおずと口を開く。
「あの……私達で良ければ手伝いましょうか」
「そうだな。いちごそのものは見つからんかもしれんが……代替品とか、似たような味がするものなら手分けをすれば見つかるかもしれん」
 開拓者の言葉に頷く隼人。玲子の顔がぱぁーっと明るくなる。
「本当ー? 助かるわ! 料理するならうちの台所を使ってちょうだい。足りないものがあれば言ってね」
「……随分協力的なんだな」
「そりゃあ昭吉君はうちのお得意様だもの」
「……ご迷惑おかけします。よろしくお願いします」
 でっかい冷汗を流す隼人に玲子はにーっこりと笑顔を返して……そして、昭吉が深々と頭を下げた。

 こうして突然に。
 開拓者達は『いちご探し』に借り出されることになったのだった。


■参加者一覧
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
春吹 桜花(ib5775
17歳・女・志
フレス(ib6696
11歳・女・ジ
音羽屋 烏水(ib9423
16歳・男・吟
リト・フェイユ(ic1121
17歳・女・魔


■リプレイ本文

「困っている者おれば助けるのが人道というもの。なればなれば、手伝わせてもらうぞぃ!」
 頭を下げる昭吉を宥めるように、べべん♪ と三味線をかき鳴らした音羽屋 烏水(ib9423)。
 また陽天まで流しで演奏しに来てみれば、見知った顔に出会えたという彼に、一仕事終えて、服飾店に立ち寄ろうと思っていたユリア・ヴァル(ia9996)も頷く。
「そうそう。お姉さん達に任せなさい」
「それにしても、この時期に苺、ですか」
 ご主人様、何か降りてきたんでしょうか……と続けたリト・フェイユ(ic1121)に、昭吉は首を傾げる。
「今の季節って苺、収穫できないんですか?」
「苺の季節は春ですよ?」
 リトの言葉に、ぽん、と手を打った少年。
 苺が見つからない理由が理解できたようで、弖志峰 直羽(ia1884)が小さく笑う。
「季節外れだけど、だからこそ食べてみたいってあるよね」
「そうね。唐突さに親近感を覚える御主人だわ。私は引きこもって研究だと飽きちゃうけれど……」
「うーんと。食べたい物が食べられないってとっても辛いんだよ。お仕事の最中とかなら尚更なんだよ!」
 くすくすと笑うユリア。
 一生懸命のフレス(ib6696)の横で、春吹 桜花(ib5775)が唸っている。
「苺がないとなると、苺に似た食べ物でやんすよね……」
 苺、苺……と呟く桜花に、直羽も考え込む。
「そうだね。どんな趣向で『いちご』を提供しようかねぇ……?」
「折角だし、美味しい苺を食べさせてあげたいんだよ!」
「そうですよね。……まずは、材料を探しに行きましょうか」
 ぐっと拳を握り締めたフレスに頷き返しつつ、リトが立ち上がり……。



 沢山の人で賑わう陽天の街。
 八百屋で運良く新鮮な生の木苺を入手した直羽は、次の店に行こうとして……聞こえて来た声にふと足を止める。
「直兄さまー!」
 近くの店から出てきて手を振るフレスに、直羽は笑顔を返す。
「次の店に行くところなんだ。フレスちゃんは、探し物見つかった?」
「ううん。かき氷用のシロップ、品切れだったんだよ……」
 彼女が真っ先に思いついた『苺味』は、夏の風物詩であったらしい。
 犬耳をしゅーんと伏せるフレスを、直羽はよしよし、と宥める。
「じゃあ、一緒に探そうか」
「うん! 直兄さまのお買い物もお手伝いするんだよ!」
「あ。フレスちゃん、走ると危ないよ!」
 今泣いた烏がもう笑う。
 ぴょこぴょこスキップしながら、器用に人波を潜り抜けるフレスを、直羽は慌てて追いかける。


「あの、苺味の飴を探してるんですけど……」
 たまたまキャンディボックスを持参していたリト。
 その中に、苺味の物も勿論あったのだけれど、そこから料理をしようと思うと足りず……。
 お菓子屋さんを覗いてみようと思い立ち、今の状況がある。
「苺味か。人気の味だから色々あるよ。何なら味見してみるかい?」
「お願いします!」
 ぺこりと頭を下げるリトに、軽く返事をした菓子屋の店主。
 次々と並べられる沢山の飴に彼女の目が点になる。
 ……これは、全部味見しようと思うと大変かもしれない。
「あら。美味しそう。手伝いましょうか?」
 聞こえて来た声に振り返ったリト。そこには、鮮やかな青銀の髪を持つ女性が立っていて……。
「あ、ユリアさん! お願いしてもいいですか?」
 瞳をうるうるさせる彼女に笑顔で頷いたユリアは、徐に店主に声をかける。
「店長さん。干し苺って置いてるかしら?」
「おう。生苺を干したのと、煮苺を干したのがあるけどどっちがいい?」
「んー。両方見せてくれる?」
 頷き、店の奥に消えて行く店主を見送って、リトは再び目を丸くする。
「……苺のお菓子、色々あるんですね」
「本当ね。こんな役得もあるし、買い物も悪くないわね」
 ユリアはそう言って笑うと、苺の飴を一つ、口に入れた。


「店主。苺の『じゃむ』とやらはないかの」
「ああ、春ので良ければまだ残ってるよ」
 店主の答えに、大喜びする烏水。
 ジルベリアの『ぱん』はすぐ見つかったのだが、『じゃむ』がなかなか見つからず……三軒目の青果店で、ようやく見つける事が出来た。
「この店、『じゃむ』を置いてるんでやんすな」
「ん? おお。桜花ではないか。首尾はどうじゃ?」
 烏水の問いに、無花果を齧りながら手で丸を作って見せる桜花。
 よく熟れた無花果は甘くて……彼女は納得したように頷く。
「食感は苺っぽいでやんすが、味は無花果でやんす」
「そりゃあそうじゃろうの」
 桜花のそのままの感想に、思わず吹き出した烏水。彼女の手にあるトマトを見て首を傾げる。
「……その蕃茄も使うのかの?」
「そうでやんすよ。あと砂糖を買えば完璧でやんす」
 頷く桜花に、烏水は更に首を傾げる。
 ……蕃茄に砂糖?
 味が全く想像つかないが……桜花が言うのだから大丈夫なのだろう。多分。
「さて、次は砂糖を探すでやんす」
「砂糖なら、玲子の店にもありそうじゃな」
「戻って聞いてみるでやんす」
 頷き合う烏水と桜花。急ぎ足で昭吉が待つ店へと戻る。


「直兄さま! あったんだよ!」
「うん。良かったね」
「お店の人も優しかったんだよ!」
「あはは。フレスちゃんの熱意が伝わったんじゃないかなー」
 店先で大喜びするフレスと直羽。
 かき氷の季節は終わってしまっているからか、探し物は見つからず。
 結局、彼女が見つけたのは、高級品と言われる類の物だったのだが……。
 店主には、笑顔でかき氷シロップを求める少女がとても愛らしく見えたらしい。
 思い切った割引をしてくれたお蔭で、予算内で抑える事が出来ていた。
「皆待ってるんだよ。早く戻るんだよ!」
「そうだね」
 二人は頷き合うと、軽い足取りで店へと向かう。



 フレスと直羽が玲子の店に戻ってきた頃には、店の中は苺の甘い匂いが立ち込めていた。
「おかえりなさーい」
「リト殿、焦げそうでやんすよ」
「ひええっ」
 2人に笑顔を向けたリトに容赦なく入る桜花のツッコミ。
 美味しい苺飴を無事入手してきた彼女は、それを砕いて煮溶かす作業をしていた。
「ここに苺酒置いておくわ。良かったら使ってね」
「はい。ありがとうございます」
 一生懸命のリトに、ウインクを返したユリア。
 苺ジュース、苺酒、苺のシロップ漬け、干し苺、苺ジャム……あらゆる苺の食材を目の前にして、腕を組む。
 ――さて。材料は揃えて来たし。問題は見た目よね。
 苺の味がする物を羅列するのは簡単だけれど、それだけではつまらない。
 ユリアはボウルを手に取ると、手際良く材料を入れて行く。
「何が出来るでやんすかね〜。楽しみでやんす」
「桜花さんはもう完成したんですか?」
 リトの言葉に頷き返す桜花。リトはなるほどと頷くと、焦がさぬように鍋を振り続ける。
「むむ。これはなかなか楽しいのう」
「……烏水兄さまは何をしているの?」
「じゃむを塗っておるのじゃよ」
 覗きこんで来たフレスに、ほれ、と手元のパンを見せる烏水。
 白い和紙に、赤い絵の具を塗っているような感覚が彼の芸心をくすぐる。
「おぬしは何を作るのじゃ?」
「これで、冷たいお菓子を作るんだよ!」
 烏水の問いに、フレスは苺シロップの瓶を見せる。
 お店の人が譲ってくれた大事なシロップ。
 鍋に入れ、香りを飛ばさないように気を付けながら、トロ火にかける。
「うーん。みんなすごいな。俺も頑張らないと」
 皆の動きを見ていた直羽。それに良い刺激を受けたらしい。テキパキと作業を進める。
 いつもは、友人達が作ってくれるご飯の方が好きだから自分では作らないけれど。
 実は、お菓子作りは得意だったりする。
 彼の師匠が甘党で、良くねだられては甘いものを作った。
 何となく、昭吉少年が昔の自分と重なって見えて、直羽の手に力が入る。



「よし、出来た……と」
「わぁ……! とっても美味しそうなんだよ!」
「ありがとう。ちょっと味見してみてくれる?」
 お菓子を差し出す直羽に、目をキラキラさせるフレス。
 その後ろで、ユリアが悪戯っぽく笑う。
「あら。私もご相伴したいわ」
「あっしも食べたいでやんすー」
「折角ですもの。皆で味見してみませんか?」
 挙手をする桜花に、リトがくすくすと笑い……その言葉に、烏水も目を輝かせる。
「おおお! それは良い! さ、すぐにでも始めるのじゃ!」
「……当然私も貰えるのよね?」
「勿論。昭吉君もどうかな?」
 確認する玲子に、頷く直羽。突然話を振られた少年は、アワアワと慌てる。
「え。でも……主様の為の物ですし」
「主の為に奔走したんですもの。ちょっとくらいご褒美があったっていいんじゃない?」
「そうなんだよ! 昭吉兄さまも一緒に食べるんだよ!」
 ユリアにおでこを突かれ、フレスに手を握られて、昭吉は耳まで赤くなり……。


「私は苺ミルク寒天に、苺の紅茶を用意してみました」
 リトから差し出される器の中には、ふるふるとした桃色の寒天。
 その上からかけられた苺のシロップが見た目も華やかで――。
 飴から作ったシロップと牛乳を合わせて固めたと言うそれの優しい味に、桜花はうっとり目を閉じて。
「んんん! 甘すぎず上品な味でやんすなぁ〜!」
「紅茶には、干し苺を入れて、リキュールとシロップで少し味を足しました」
「うん、いい香りね」
「甘すぎなくていい感じ」
 ユリアと直羽に褒められて、リトはぽっと頬を染めた。


「俺はお菓子を二種類用意してみたよ」
 そう言う直羽の手には、苺の形をした練り菓子と鮮やかな赤い色のゼリー。
 練り菓子はほんのり淡い桜色。それに見合う優しく、ほんのり甘酸っぱい味がして……。
 ゼリーの中には李と薔薇の花弁が閉じ込めてあり、見目も麗しく食感も楽しめる一品となっていた。
「ゼリーはね、二つの食感を楽しんでもらえればと思って作ったんだ」
「ふむふむ。これは格調高いのう……」
「直兄様、とっても美味しんだよ。甘酸っぱい感じが、とってもイチゴなんだよ!」
 そんな事を言いながら無心に食べている烏水に、フレスは感動で目を輝かせる。
「すごいですね……。弖志峰さん、良いお嫁さんになれる気がします」
 続いたリトの言葉に、お礼を言おうとした直羽は飲みかけた紅茶を噴出した。


「……これは何かしら?」
「無花果とトマトでやんすよ」
 ユリアの問いにきっぱりと答えた桜花。
 いや、それは見れば分かるんだけど……。
「あっしに火を使う料理はできないでやんす。なので、食感と味が近いものを探して来たでやんすよ」
「無花果の食感が近いのは分かるんですが……トマトは……?」
「ある人から聞いた話しなんでやんすが、トマトに砂糖をかけて食べるといちごの味がすると聞きやした」
 恐る恐る尋ねたリトに、真顔で受け答える彼女。その内容に直羽は思わずのけ反る。
「ええっ!? 本当に!?」
 頷く桜花に固唾を飲む仲間達。
 彼女は迷わず砂糖をかけたトマトを口に入れ……カッと目を見開く。
「いちごっぽい味がするような気がするでやんす。いや、本当でやんす!」
 桜花が嘘をついているようには思えない。
 ここまで来たら、試すしかない――。
 仲間達も砂糖かけトマトを徐に口に運ぶ。
「……果物っぽさが出てる、ような気がするんだよ」
「苺かと言われると……微妙というかのぅ」
 言葉を濁すフレスと烏水。
「うん。やっぱり、本物のいちごの味には敵わないでやんす」
 身も蓋もない桜花の感想に、仲間達が一斉にずっこけた。


「わしも凝った料理なんぞできんからのぅ。皆とはちょっと趣向を変えてみたんじゃが……」
 烏水が出して来たのは、苺ジャムのサンドウィッチ。
 彼も幼い頃、蝋燭を立てて握り飯頬張りながら歌舞伎の勉強に没頭していた。
 その時はとにかく時間が惜しかったし、昭吉の主の気持ちも良く分かったので……研究の合間でも食事を忘れないように、あまり手を汚さず片手でも手軽に食べられる物をと考えたのだ。
「うん。すごく親身に考えた料理だよね」
「シンプルだけど美味しいんだよ!」
 直羽とフレスの言葉に、ユリアも頷いて続ける。
「軽食にもいいし、色々応用が効くわよね」
「うむ。ぱんは色々挟んで食べるものと聞いたし、具材を変えれば食事の幅も広がるじゃろうて」
 烏水の話に頷きながら、食い入るように聞く昭吉に仲間達から笑いが漏れる。


「さあ、召し上がれ」
 笑顔のユリアが出して来たのは、色鮮やかなシャーベット。
 いくつか、苺型の氷が添えられていて見た目も愛らしい。
 ジュースやお酒に果肉が入ったジャム類を混ぜて、氷霊結で凍結させたものだ。
 原液は甘すぎるくらいだったのだが、凍らせた事で甘さも程よく抑えられ、シャリシャリとした食感も楽しめる一品となった。
「まだ暑いですし、この冷たさが心地よいですね」
 舌鼓を打つリトに頷く烏水。器が2つあるのが気になったのか、首を傾げる。
「何やら二種類あるようじゃが、何が違うんじゃ?」
「ああ、片方はお酒入りなの。……あなたは大人になってからね」
 悪戯っぽく答えたユリア。彼女にウインクを向けられてフレスはぷうっと頬を膨らませた。


「えっと。私が作ったのはこれなんだよ」
 最後に、恐る恐るゼリーを出して来たフレス。
 苺と一口に言っても、やはり色と香りの影響は大きいかなぁと思う。
 彩り良く、香りも良くと考えた時、彼女が行きついた答えがシロップだったのだ。
 それに寒天を入れ、ちょっと固めのゼリーを作ったのだが……フレスの耳がしゅーんと垂れる。
「皆が作るお料理すごいんだよ。それに比べて私のは……修行が足りないなぁって思うんだよ」
 彼女に優しい目を向けるユリア。ゼリーを口に入れて頷く。
「落ち込む事ないわ。美味しいわよ」
「料理が出来るだけすごいでやんす!」
 続いた桜花のフォローに、仲間達が笑い……直羽は、彼女の顔を覗きこんで続ける。
「……フレスちゃん、あのね。相手を想って、一生懸命作ったものはきっと美味しくなるんだよ。だから大丈夫。頑張ってな」
 頭をぽふぽふと撫でられて、フレスは頷いた。


「沢山用意して戴いて、本当にありがとうございました」
 頭を下げる昭吉。直羽は用意した簡易氷室の中に皆の料理を詰め込むと、少年に手渡す。
「はい、これ。研究に勤しむご主人様の慰めになればと思うよ♪」
「本当に助かりました! じゃあ、僕はこれで!」
「あ、良ければ主様の感想聞かせ……行っちゃいましたね……」
 風のように去って行った昭吉にリトの声は届かず。
 肩を落とす彼女を、桜花と玲子がぽんぽん、と叩く。
「仕方ないでやんすね」
「あたしが今度感想聞いておいてあげるわ」
「うむ。昭吉の主人に喜んで貰えりゃ良いのぅ♪」
 烏水の言葉に頷いた仲間達。ユリアは突然、ため息をつく。
「あー。何だか私まで苺が食べたくなっちゃったわ。お菓子を探して帰ろうかしら」
「あ、私も欲しいんだよ!」
「じゃあ、皆で買い物に行こうか」
 挙手をするフレスに続いた直羽の声。開拓者達は頷くと、揃って陽天の街へと繰り出した。