陽天歩けば災難に当たる?
マスター名:猫又ものと
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/04 21:22



■オープニング本文

●陽天の街で
 石鏡国、陽天。
 三位湖の南、安雲から更に南に下ったところにあるその街は、観光名所の一つとして知られている。
 各地の特産品を多く揃えた商業都市であり、常に行商人や旅人が多く行き交う。
 日中は勿論、日が暮れても篝火が灯され、いつでも明るい――賑やかで活発な街。
 物も人も沢山あるが、もう一つ多いのが――犯罪。
 夜がないようにすら思えるこの場所は、石鏡で一番治安が悪いという不名誉も同時に抱えていた。


「えーと。あと買わなきゃいけないのは……」
 走り書きを片手にきょろきょろとする少年。
 その背には大きな袋。
 ――お使いだろうか。周囲を伺う様子が、明らかにこの場所に不慣れであることが見て取れて、危なっかしい。
 上を見るあまり足元を見ていなかったのか、少年は道端の石に躓き、体制を崩し――。
「あっ……」
 一瞬の間。
 倒れるはずの身体はそのまま。代わりに、自分の腕に白い手が添えられている。
 振り返ると、長い黒髪を靡かせた少女と目が合って……。
「……大丈夫ですか?」
「あ、あ、ありがとうございます。助かりました」
 アワアワと身を離す少年を、少女はじっと見つめる。
「それは良かったですわ」
「えと……あの。……ここにはお買いものに?」
「ええ。お土産を買いに来ましたの」
「そうですか。ここ、色々ありますもんね」
 その流れで世間話に花を咲かせる2人。ふと、少女がため息をつく。
「……あの。もし、ご存知でしたら教えて欲しいのですが……銀泉はここからどうやって行けば宜しいのですかしら」
「銀泉ですか? えーと。それだったらこの街の東側から出て……」
 身振り手振りで説明を始める少年。
 その腕が通りがかりの人物に接触する。
「あ、すみません」
「おいおい。俺達のツレに何してくれてんだよ、坊主!」
「いってえええええ! 今ので骨折れちまったみてぇだ……。ホラ、とっとと治療費よこしな」
「何ならそっちの荷物でもいいぜ」
 ぶつかった相手が悪かったらしい。
 流れるように続いた恫喝に、少年は慌てて荷物を抱え直す。
「だ、ダメです。これは主様から託った大事なものなんですから……」
「随分買い込んでるじゃねえか。金持ってんだろー?」
「姉ちゃん、こいつの保護者かい? アンタが払ってくれても良いんだぜ」
 少女の身なり……質の良い服を着ているのを見て取ったのだろう。
 ニヤニヤしたまま続ける男達に、少女は表情を変えずに答える。
「ぶつかったと言っても触った程度ではありませんか。この子はきちんとあなた方に非礼を詫びています。子ども相手にこのようなことをなさって恥ずかしくないのですか?」
「何だとコラ!」
「威勢のいい姉ちゃんだなぁ」
「ま、いいや。こいつらまとめて連れて行こうぜ。お前ら逃がすなよ!」
 2人を取り囲んだ男達。
 彼らが飛びかかろうとした刹那。
「お前達、そこで何やってる!」
「アァ? うっせーな! 引っ込んでろ……って、開拓者!?」
「無頼者を成敗しようと思っていたところですわ」
 異変を感じ取ったのは開拓者の勘か。
 駆け付けた開拓者達に驚く男達と、淡々と受け答える少女。
 あの、お姉さん。あれは僕達に聞いてるんじゃないと思うんですけど……という少年のツッコミは男達の声にかき消される。
「開拓者さんよォ。誤解してるみてぇだが、迷惑かけられたのはこっちなんだぜ?」
「これからその話し合いをするとこなんだ。お引き取り願えませんかねえ」
「……話し合い? どう贔屓目に見ても誘拐の現場に出くわしたとしか思えんのだがな」
 たまたま通りかかったらしい、星見 隼人(iz0294)がぼそりと呟くと、開拓者もうんうんと頷く。
「どうせそっちからぶつかるように仕向けておいて、その子達に治療費寄越せーとか言ったんでしょ?」
「ンだとコラ!」
「図星だったみたいですねー」
「カッコ悪ー」
 クスクスと笑う開拓者達。その様子に、男達の顔がみるみる赤くなり。
 男の1人が、突然少年の首に腕を回し、刃物を彼の頬にピタリと当てる。
「何す……わあああ!」
「下手に出りゃつけあがりやがって……! このガキがどうなってもいいのか!?」
「卑怯者! その子をお離しなさい!」
「おっと。姉ちゃんもこっちに来るんだ。こいつの命が惜しけりゃな」
「とっとと金持ってこい! こいつらと引き換えだ!」
 少年と少女を人質に取り、下劣な笑いを浮かべる男達。
 開拓者ははぁ……とため息をつく。
「……居直りやがった。面倒なことになったな」
「……彰乃? あの娘、彰乃か?」
 隼人の呟きにギョッとした開拓者達。目線が彼に集中する。
「え。あの女性、星見さんのお知り合いですか?」
「ああ。多分、遠縁の娘だ。……俺の記憶に間違いなければ」
「何だ。その曖昧な返答は……」
「仕方ないだろ。ここ数年会ってなかったんだ」
「それは後で本人に聞くとして……まずはこのチンピラ共を何とかしちゃいましょ」
「承知」

 かくして唐突に。
 少年と少女の救出劇が始まるのだった。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
音羽屋 烏水(ib9423
16歳・男・吟
呉 花琳(ic0273
19歳・女・シ
ルッチェ・ニマーニュ(ic0772
19歳・女・砲
花藍(ic0822
17歳・女・泰
ウルスラ・ラウ(ic0909
19歳・女・魔


■リプレイ本文

●巻き込まれた者達
 沢山の人で賑わう陽天の街。
 流石の賑わいじゃのぅ……などと呟きながら散策していた音羽屋 烏水(ib9423)。
 もふらさまグッズを大量に抱えた知り合いの少女、柚乃(ia0638)とばったり出会ったのも何かの縁、一緒に買い物をしつつ良い音を紡ぎ……なんて、素敵な計画を立てていたのだが、世の中、そう上手くはいかないようで――。
「え、えらい事になったのぅ……」
 あわあわしながら呟く烏水。
 開拓者の目の前には、少年と少女を人質に取った男達――。
 何か、ちょっと。どうにもきな臭い現場にかち合ってしまったらしい。
 ルッチェ・ニマーニュ(ic0772)は、男達を一瞥すると、深々とため息をつく。
「……治安があんまりよろしくねぇってのは話にゃ聞いてたが……こんな往来のど真ん中で出くわすとはな」
「折角の観光やのになぁ……」
「はわわ……。都会は怖いところですね……」
 彼女の後ろからひょっこり顔を出している呉 花琳(ic0273)と花藍(ic0822)。
 そんな2人に柚乃は慌てて言い添える。
「いえ、いい所ですよ!? こんなにもふらさまグッズ売ってますし!」
「オイてめえら! 人の話聞いてんのか!?」
「金持ってこいって言ってんだろ!」
 自分達の要求を無視されたと思ったのか。声を荒げる男達。
「あー。聞いておるぞよ。まずは落ち着いて話をじゃな……」
 ぐぬぬ。とりあえず素敵計画は脇に置いておいて、こちらを先に何とかするのじゃ……!
 烏水は決意を新たに、男達を宥めにかかり――。
「……低能すぎる台詞吐いてるのはどこのバカ?」
 そこに響き渡る不機嫌な低い声。
 ギョッとした彼の前に割って入ったのは、凍りつくような鋭い目線を投げつけるウルスラ・ラウ(ic0909)。
 ただならぬ雰囲気に、男達は言葉を失い、人質の少年に至っては震え上がっている。
 一方、人質の片割れの少女は、眉一つ動かさず。その様子から伺うに、それなりに場馴れしているのかもしれない。
 続く沈黙に、ウルスラは更に苛立ちを募らせる。
「何黙ってんのよ、低能共。何とか言ったらどうなのよ」
「ご、ごめんなさ……」
「あなたに言ってるんじゃないと思いますわよ」
 反射的に謝罪する少年に反して、至って穏やかな少女。
 そう。ウルスラはこういう身の程知らずのバカが大嫌いである。
 そして、弱者を喰い物にする卑怯者は更に嫌いだ。
 存在すら許せない。
 容赦のないウルスラに、ルッチェは笑顔で親指を立てる。
「おー。いいぞ。もっとやれ」
「コラコラ! 何でお前さんたちはそんなに煽っとるんじゃーっ?!」
「言ったでしょ。バカは嫌いなのよ」
 悲鳴を上げる烏水をバッサリ切り捨てたウルスラ。
 言い合っている仲間達をどうしたものかと見守っていた星見 隼人(iz0294)。
 くいくい、と腕を引っ張られた気がして振り返ると、そこには柚乃がいて……。
「……どうした?」
「あの人質のお二人は星見さんのお知り合いの方、です?」
「あの女子の方はな。もう1人の子どもには心当たりはないが……」
「そうですか……。でも放っておけませんよね……」
 ふう、とため息をつく柚乃に、花琳はぐっと拳を握りしめて続ける。
「せやね。よっしゃ、お姉さんに任せとき!」
 こそこそと耳打ちする3人。その間も、仲間達の会話は続いていて――。
「で。殺っていいの? このバカ共」
「いーんじゃね?」
 目線だけで人を殺せるならば、この男達は今頃間違いなく地獄行きだろう。
 物凄い殺気を放つウルスラに、ルッチェはぞんざいに頷く。
 折角買い物に来たというのに、こんなゴミ虫以下の存在に時間を割く理由なんてないのだ。
 彼女達のあまりの迫力に凍り付いていた男達。
 バカと連呼された事にようやく気付いたらしい。顔が怒りで赤くなっていく。
「大人しくしてりゃつけあがりやがって!」
「ほれみろっ、怒らせたではないかーっ!」
「だ、ダメですよっ。お二人共自重してください」
 烏水の本日何度目かの悲鳴。花藍が友人達を宥めるように割って入る。
「えー。いいじゃん。めんどくせえ」
「二度と朝日を拝めないようにしてやった方が手っ取り早いと思わない?」
「ダメですよ! 皆さんを巻き込んじゃったらどうするんですか!」
 不満そうなルッチェとウルスラに、垂れた兎耳をぷるぷる揺らしながら首を振る花藍。
 気が付けば、大分野次馬が集まって来ている。
 確かに、この状況で交戦するのは危険かもしれない。
「……ここは相手の条件を飲むしかないんちゃう?」
「あ? 何でこいつらの言う事聞かなきゃなんねーんだよ!」
 いつの間にか合流し、きっぱりと言う花琳に、食い下がるルッチェ。花藍は、もう一度首を振ると穏やかに続ける。
「人質の方の命もかかってるんです。分かりますよね?」
「あー、もー。しゃあねえなー」
「……つまんない。勝手にやってれば」
「こらこら! どこへ行くんじゃ?! わしを置いて行くでない!」
 その言葉に、納得せざるを得なかったのか、がっくり肩を落とすルッチェ。
 殺すな、と言われ興味を失ったのか、踵を返したウルスラの背を、烏水が慌てて追いかけ……ちらりと隼人と仲間達に目配せすると、彼らも了解、と目配せを返し――。
 その動きに合わせて、柚乃も人ごみに紛れて行く。

「何だ。仲間割れかぁ?」
「開拓者って言っても大した事ねぇみたいだなぁ」
 下品な笑い声をあげる男達。そうしている間も、少年の頬に刃物が当てられ続けている。
 ルッチェは唇を噛みしめると、男達を睨みつける。
「……本当に、金を渡せばそいつら解放するんだろうな」
「勿論だ」
「あの。その方達に手を出さないで下さい、お願いします。お金はお渡ししますから……」
 びくびくしながら言う花藍に、男達は調子づく。
「おー。分かってるじゃねえか」
「どんだけ持ってんだ? 見せてみろ」
「なあ、お兄さん方……。うちの持ってるもので良ければ持ってってええで……?」
 潤んだ目で男達を見つめ、艶やかな笑みを浮かべる花琳。
 ……本来なら、ガツーンと拳で語り合う彼女なのであるが、今回は時間稼ぎ、そしていかに自分達に注目を集めるかが勝負の分かれ目である。
 その為なら、ちょっとくらい静かに……出来る筈だ。多分。
「何持ってんだ?」
「装飾品や。詳しく見せるさかい、こっち来て……な? ほら、ここにあるんよ」
 深い切り込みのある衣装から、彼女が白い太ももをチラリと見せると、明らかに男達の鼻の下が伸びる。
「ほおー。なかなか上玉じゃないか」
「よし、そこの獣人の姉ちゃん、こっちに来い。そこの美人の姐さんもだ」
「あ、足が竦んで動けません……」
 瞳をうるうるさせて首を振る花藍。怯える兎は嗜虐心をそそるのか、男達がニヤニヤ笑う。
「開拓者のクセに情けねえなぁ」
「この子は駆け出しなんだよ。こういう場に慣れてねぇの!」
 無頼者に受け答えるルッチェ、後方で刀を携えた男を見て、花琳に目配せする。
 ――あいつ、志体持ちか?
 ――多分、そうやと思うわ。
 その男は用心棒的役割なのか、誘いに乗る様子はない。
 ともあれ1人でも多く、人質から引き離さないと……。
「ちょっと恥ずかしい場所やから、見に来て欲しいんよ……ダメ?」
 白くしなやかな手。花琳の衣装を緩める仕草に、男達の鼻の下が伸び切って。
 しょーがねえなあ……と1人が歩み寄って来る。
「あ、あのお金はここに……」
 文の入った袋を慌てて取り出し、男に差し出そうとして、勢いよくコケた花藍。
 男は、そんな彼女を覗きこんで――。
「おい。姉ちゃん大丈夫かぁ?」


 その少し前。
「……間もなく花藍が転ぶわ。そしたら動くわよ。用意はいい?」
「はい。いつでもどうぞ」
「それではいっちょ、演奏会を始めるとするかの」
 集まる野次馬。それに紛れて囁くウルスラに、頷く柚乃と烏水。
 3人は逃げ出した訳ではなく、人ごみの中で好機を待ち続けていた。
 ルッチェ達は実に良く男達を引き付けていた為、こちらの動きに全く気付いていない。
 これなら、多少派手にやっても行けそうだ。
 間もなく、兎耳の少女は、ウルスラの言う通りビッターンと転び……。
「……我は命ず。彼の者、深淵の眠りへと導け」
 それと同時に。聞きとれぬ程の小さな、しかし確かな声で詠唱をしたウルスラ。
 間もなく聞こえて来たのは、カラーンと言う乾いた音。
 少年を羽交い絞めにしていた男の手から刃物が滑り落ち。そして、その男自身も静かに崩れ落ちる――。

 べぃん――。
 そして鳴り渡る、三味線とは思えぬ柔らかな音。
 烏水のゆったりとした演奏に合わせて、柚乃の澄んだ歌声が辺りに響く。

 ねんね ねんねよ 夜の空に お月様が浮かんだら
 ねんね ねんねよ ゆりかごに 銀の光がふりそそぐ――。

 妙なる歌声。優しい演奏。
 野次馬の注目が柚乃と烏水に集まる間も、男達はバタバタと倒れて行く。

「な……」
 花藍を覗きこんでいた男は、仲間達に、そして自分に何が起こったのか理解する事もなく倒れ込んだ。
 彼女が倒れた状態から反動もつけずに起き上がり、間髪入れずに拳を叩き込んだからだ。
 そして、脚に気の流れを集中させ、一瞬で人質の少年少女の元へ駆け寄った花琳。
 2人を抱きかかえながら、仲間達に向かって叫ぶ。
「志体持ちが逃げるえ!」
「低能のくせに逃げられると思ってんの?」
「世の中そんなに甘くねえよ、バーカ!」
「……逃がしませんよ」
 ウルスラの作り出した魔法の蔦に絡め取られ、ルッチェの銃撃と、柚乃の鞘に収まったままの守刀が無頼者にめり込んだのはほぼ同時。
 足に攻撃を受け、受け身を取る暇もなく地面に崩れ落ちる。
 勝負は一瞬で、そして一方的だった。
「面白いくらいに上手く行ったのう。お疲れさまじゃ」
「目が覚めて暴れたら厄介です」
「ほな、さくっと縛っちゃいましょか」
 三味線を担ぎ直しながらやってきた烏水。
 にっこりと笑いあう花藍と花琳を見て、女子は怖い生き物じゃ……と思ったり思わなかったり。
 無頼者全員が地面に伏す様を茫然と見ていた少年と少女。その頭をルッチェがぽんぽん、と撫でる。
「ったく。手間かけさせやがって……よく頑張ったな」
「はい。助けて戴いてありがとうございました」
「こ、怖かったよお」
 ぺこりと頭を下げた少女。
 少年と言えば、その言葉で自分が救出されたとようやく理解したらしい。
 その場でしゃがんで泣き始めた。


 そして、縛り上げられた無頼者達には、文字通り地獄が待っていた。
「おはよう。私の観光予定をぶっ壊してくれたクソヤロー共。どーだ? 他人に命を握られてる気分はよ? てめーらが今までどれだけの人からこんなやり方で金を奪ってきたのか知らねーが、恥を知りやがれってんだ」
「金より大事なものってあるやろ? お袋さんが泣いてるでー?」
 銃剣で男達の首筋を叩くルッチェに、頷く花琳。
 そんな2人にウルスラは肩を竦めて見せる。
「二人ともバカねえ。恥や人情を知ってたらこんな低能な事やらかさないわよ」
 それもそうだ、と頷く2人。ウルスラは、懐から水の入った小瓶を出すと、小声で詠唱をする。
「で? 残りの仲間はどこ? いない? そんな訳ないでしょ。言わないとこの毒でジワジワ苦しめて殺すよ?」
「あのー。ウルスラさん、とっても気が短いので早く言った方が良いと思いますよ」
「そうそう。お役人さんの手間も省ける事ですし、キリキリ言いましょう」
 凄惨な笑みを浮かべるウルスラの横で、無邪気に笑う花藍と柚乃。
 この雰囲気の中、輝く笑顔というのもまた怖い。
 ――ただ1人、男子である烏水は、端っこでガクガク震えていた。


●少年と少女
「……ええと。昭吉君は、主さんに頼まれたお買いものに来て、巻き込まれちゃったんですね」
「そっか……そりゃえらい災難やったね」
 男達を役人に引き渡した後、2人に事情を聞いていた開拓者達。
 柚乃と花琳の言葉に、少年は目をごしごしと擦りながら頷く。
 少女は隼人の姿に目を見開くと、慌ててその場で膝をついた。
「まあ、これは隼人様……!」
「やっぱり彰乃か。ああ、止めろって。こんな所で控えるな」
「いいえ、隼人様は次期ご当主様。ご無礼があってはいけませんわ」
 続くやり取りに烏水は首を傾げる。
「何だか只ならぬ雰囲気じゃな。どういった知り合いなんじゃ?」
「ああ、俺の家の親戚筋の娘なんだ」
「山路 彰乃と申します」
 隼人の言葉を継いで、深々と頭を下げる彰乃。
 その姿に、彼は少し遠い目をする。
「それにしても、随分久しぶりだな」
「はい。先代様のご葬儀以来でしょうか……」
「しかし、何だってこんな所にいるんだ?」
「ご当主、靜江様の命で、銀泉に向かうところでしたの。隼人様が武者修行に出られるので、代わりにご当主様のお世話をするようにと……」
「じゃあ、星見さんのお家に住むんですか?」
「はい。そういう事になりますわね」
「へえ〜。それじゃ、これからも会えそうやね」
 柚乃の問いに、頷く彰乃。
 花琳の台詞と重なるように、隼人の聞いてねぇぞ!? とかいう声が聞こえた気がしたが、まるっと無視して柚乃は本当に聞きたかった事を口にする。
「ところで、彰乃ちゃんはもふらさま好きでしょうか……?」
「はい。大好きですわ」
 ああ。精霊様、神様ありがとう。
 もふらさま好きに悪人なし!
 今、柚乃は心の友を得ました……!
 感動に打ち震える彼女の横で、花藍が少年に声をかける。
「昭吉さんはお買い物、全部終わったんですか?」
「いいえ、まだこれからあちこち回らないといけなくて……」
「マジか。また妙なのに絡まれねーよう、私が付いてってやろうか?」
「ふーん? 随分優しいじゃない」
 ルッチェの申し出に、ニヤリと笑うウルスラ。彼女はムッとして答える。
「違ぇよ。この辺の事はよく知らねぇから、見聞を広めるついでだよ」
「まあ、そういう事にしておいてあげるわ。花藍、薬詳しいのよね? ちょっと付き合って。ああ、あんた達もついでに来てもいいわよ」
「何だよ。それはこっちの台詞だっつーの!」
 軽口を叩き合う2人。何だかんだで、仲が良いのかもしれない。
 そのやり取りを聞いていた昭吉は、ひたすら恐縮する。
「あの、でも僕、開拓者の皆さんに護衛をお願いするほどお金持ってませんし……」
「何言うてんの。護衛じゃなくて、一緒に遊びに行くんよ。ねえ?」
「うむ。時間ありゃこれも縁。折角じゃし、皆で陽天散策でもせんかのっ?」
 昭吉の背中をバシバシ叩く花琳に、ベベン、と三味線をかき鳴らす烏水。柚乃も笑顔で頷く。
「良いですね! 一緒に甘味を食べに……あ。そういえば、星見さん、紫陽花ちゃんはお元気です?」
「何だお前、思い出したように……」
「はい。今思い出したんです!」
「ほら、何してんだ! 置いてくぞー!」
 続くやり取りに重なるルッチェの声。開拓者達は、昭吉と柚乃の手を取ると、その背を慌てて追いかけた。