自分の意志/運命の悪戯
マスター名:成瀬丈二
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/07/25 08:35



■オープニング本文

 ジルベリアの北方にいまだ未開拓の大地がある。
 どこにでもある、しかし、皇帝の威光およばぬ土地を脅かすのはアヤカシと、それが潜む、深い森であった。
 森は迂闊に踏み込めば、志体の持ち主でも、迷いかねない。
 ただし、瘴気の森という事ではないだろう。
 ともあれ、アヤカシの最も好む物は人間。
 故に開拓民はこの脅威に備えなければならなかった。
 領民50人ほどの村では、冬になる前にこの脅威を排除すべく、開拓者ギルドに使者を走らせた。
 しかし冬まで、という事なので、大至急ではない。
 確かに一分一秒を争う依頼ではなく、馬や龍といった、高速の移動手段はギルドでは必要とされなかった。

 相手のアヤカシは身の丈、2メートル程の豚鬼、ジルベリア風に言うなら『オーク』が5匹である。
 このアヤカシの命中率は素手にも関わらず、高くないが、志体の持ち主を相手しなければ、充分に押し切る力を持つ。
 逆に、物理、非物理の両方の防衛が安定しており、駆け出しの開拓者では苦労する(そして死亡する可能性は充分にある)相手であり、困った事に、固まって行動するだけの猿知恵は持っている。
 何か手段を取らなければ、正面からまとめて撃破する事は難しいだろう。
 合計5匹が森から現れて、一通り開拓村に悲劇を振りまいた後、森に戻っていった。
 何を意図しているかは判らない。アヤカシなので単純に人間を襲っているだけ、というのが穿った視点ではない、分析であった。

 開拓者ギルド内で、依頼が張り出されると立つ開拓者の影々。
 ───森のオークを殲滅。殲滅できなければ報酬は出ない。
「行くのか?」
「たまには火薬の臭いを嗅ぐのも悪くない」
 それぞれの意図を秘めて、開拓者は動き始める。

 開拓紀第3巻開演。


■参加者一覧
月夜魅(ia0030
20歳・女・陰
赤城 京也(ia0123
22歳・男・サ
皇 輝夜(ia0506
16歳・女・志
美和(ia0711
22歳・女・陰
諸葛・紅(ia0824
15歳・女・陰
静雪・奏(ia1042
20歳・男・泰
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
翔(ia3095
17歳・男・泰
黒果・真砂(ia3290
72歳・男・サ


■リプレイ本文

「よっしゃ、気合いれていこか? 皆きぃつけてな」
 糸目の射手、諸葛・紅(ia0824)の声が響くジルベリアの空は青く、高かった。
 そんな異国の空を三度笠越しに見上げる老爺の黒果・真砂(ia3290)。
「それにしても懐かしいのう、この空気。初陣の時を思い出すわい」
 感慨深げな視線を地に移せば、人の侵入を拒むかのような、うっそうとした未開の森が、翔(ia3095)の目線に突き当たる。
「入り口───どこでしょうか? 人の手が入っていないという事ですか。これは、作戦を見誤りましたね。俺に限ってですが」
 彼は森の入り口に鳴子を仕掛けて、オーク達に備えるべし、と考えていたが、辺境の森の中に道を敷くほど、ここの開拓者(開拓者ギルドに所属しているような超人ではない、フロンティアに新たな可能性を求めているだけの一般人である)には余裕がないようだ。オーク達との抗争がなければ、その内に森に分け入ったであろうことは間違いないが、翔の考えは些か先走りすぎていたようだ。
「志体を持たないのに、開拓を行っているのか‥‥人は逞しいな。こういう人々を守ることこそ、開拓者の誉れ。何としても成し遂げねばな」
 やや上から視線で(高い能力を持った者が、自覚無く下から目線というのも困りものではあるが)皇 りょう(ia1673)が周囲を見やると、ぽつんぽつんと開拓村が見えている。一部、廃墟となったのはオークにより襲撃を受けた村であろうか? 翔はつい反射的に手を合わせ念仏を唱える。寺育ちの性だろうか?
「作戦を見誤ったのは、私も同じ。翔殿だけではない」
 りょうは生真面目に言った。
「私はおそらくは狼煙を上げれば、位置関係を把握できるだろうと考えて依頼しようとした。しかし、あの森の深さを見るに、狼煙を用いても、我らの内誰かが、定期的に木に登って位置関係を正確に把握し続ける必要がある。私もまだ甘い」
「ならば、その分、我が動こう。こういっては何だが、汝ら、狼煙を使う計画が崩れた所で、大勢に影響はない。それくらいは補うのがチームプレイというもの」
 小柄な影の輝夜(ia1150)も狼煙案に備えて、各種火付け道具を準備していたが、森の深さにあっさりと方針を変更した。
 村にたどり着いた所で、開拓者に開拓民から歓迎の声があがり、月夜魅(ia0030)が新鮮な水を樽に入れて運んできたのを供し、赤城 京也(ia0123)が日持ちのする食料で彩りを添える。
「がんばりますので舞ってて下さいっ」
 と月夜魅が所信表明をすると、一同に笑いの花がこぼれた。
「? ? ?」
 鉢金で額を隠した京也が頭の上にクエスチョンマークを浮かべている、彼女の肩を軽く叩き。
「『舞って』ではなく『待って』の過ちでは? 月夜魅殿」
 クールにツッコミを入れる。
「はぁ、ジルベリア語難しいですね───」
「ともあれ、これ以上村に被害を出したくない。ここで全ての敵を滅しておきたいところですね」
 そこで静雪・奏(ia1042)は村人に───。
「ボク、奉拳士の静雪・奏というよ。よろしくね」
 と、自己アピールをし、オークの話を聞きながら、時折、ジルベリア語で詩を吟じつつ、細かく合いの手を入れながら、詳しい情報を聞き出そうとする。
 美和(ia0711)が、奏のおしゃべりに口添えしていた。一通り済んだ所で、次は京也の手助けをして、食料品を原材料から芸術品へと変えていく作業をしゃべりながら行う。それが終わっても更にしゃべくりながら、森の地図がないかと聞いてみたが、残念な事にそんなものを作っているヒマは開拓民にはないようであった。
「年寄りと若者ばかりじゃが皆れっきとした開拓者じゃ。大船に乗ったつもりでおりなさい」
 輝夜と真砂もオーク達が来た方向、立ち去った方向を確認しようと村人に問うたが、去った方向は判る。しかし、来た方角までは判らなかった。
「困ったものである。些か緊張感が欠けているのではないか?」
「豚鬼ってどんなやつがくるんやろなぁ、何にせよ油断しないに越したことはない相手なんやろな‥‥」
 紅がもどかしげにしている、森に踏み込みたくて仕方ないようだ。
 だが、中途半端な時間に森に踏み込み、夜をそこであかす事を考えると、慎重に翌朝に出発する方が望ましいとなった。

 そして、翌朝。先頭を皇 輝夜(ia0506)として、森に分け入った一同は、オーク達の痕跡を探しながら進んでいく。
「今回はやっかいな依頼だな。
 敵は多数、しかもまとまって行動するとなると、こちらも油断はできないな。
 気を引き締めてかかろう」
 皇 輝夜が紫の眼を輝かせながら、枝を踏みしだきながら歩いていく。
 途中京也が比較的、罠を仕掛けるのに手頃な地帯を発見したので、そこを中心に偵察と罠の作戦を同時展開すべく互いの健闘を祈った。
 真砂が全身に下生えを縛り付け、臭いも含めて身を隠す。さすが老兵───と、言った所か。
 途中に落とし穴のひとつも掘ろうと考えていたが、オークに追いかけられた囮班が、打合せした所で、緊急時にそれほど考える余裕が無いからという事で止められる。
「策士策に溺れる───というヤツかのう?」 
「水物だな。溺れる、ではなく、アヤカシの一本釣りってか」
 そう、皇 輝夜が評する。
 一本釣りの最大のエサは姓を出していない方の、輝夜であった。

「こっちが本命?」
「多分‥‥粉骨砕身、力を尽くさせて頂こう。さあ、こちらが主導権を握った」
「相手は自分たちを隠すという考えに至らない、のかな?」
 銀色の瞳に好奇心を煌めかせながらりょう。静雪と月夜魅と、方向を必然的に一緒になった所で、オークの影を発見する。5匹が固まり、肉らしい何かを食っていた。
「静かにしている必要はないよね───そこ!」
 静雪が声を出すと、オーク達はようやく、自分たちの本来の食料を発見して、贅肉だらけの肉体を揺さぶりながら、ふたりの方に向かう。
 さすがに他の群が無い限り、オークの数は5体を上回る、という事はない。
 木々を盾にして、命を賭けた鬼ごっこが始まる。
「輝夜ー!」
 ふたりが叫ぶと、オーク達は嗜虐心をそそられたのか、足行きが大きくなっていく。
 そして、放胆に大鎧に身を包んだ、小柄な影が出てきた。
 オーク達はよだれを垂らしながらも、新たな食料の存在に歓喜する。
「!!」
 輝夜が大きく息を吸い込み、無言で気合いを入れる!
 その圧力にオーク達は精神に失調を来たし、輝夜の方に向かって突進し始めた!
 サムライの奥義のひとつ『咆哮』である。よほど力量に差が無ければ決まらない大業であるが、見事に決まった事から推測出来るように、力量に差がありすぎたのだろう。
 静雪とりょうが、罠班のメンバーに作戦成功を伝えながら、次のステップに進む。
「冷静に、縄を引く機を誤らないように‥‥」
 京也の合図に、真砂が、翔が、紅が、皇 輝夜が、美和が次々と木々の間に巡らしたロープを引っ張る。あるものは気力により、また、あるものは法力により、常人の限界を超えた力を発揮する。
 輝夜と完璧なタイミングを打ち合わせていた為、オーク達は面白いように転倒していく。
 そこへ転進した月夜魅が呪符を舞わせて、見えざる力で戒める。
「御願いですからじっとしてて下さいっ」
 さすが、陰陽師という所か。
 京也が鞘から抜いて木に立てかけて置いた太刀で、倒れたオークをめった打ちにする。
「烈火の如き我が渾身の一刀‥‥その身に受けろ!」
 連打にオークは立ち上がる暇も与えられない。
 
 そんな京也とは対照的に皇 輝夜は冷静に攻撃を浴びせた。決して、間合いを掴ませない一撃離脱の刀さばき。
 しかも、その太刀は炎で被われている。
 美和は止めを刺しきれない、皇 輝夜のフォローをするべく、数多の呪符を投げかける。呪符が一枚張り付く毎にオークは苦悶の呻きが響く。
「終わりだ」
 皇 輝夜は宣言した。
 そして、その通りとなった。
 
「しつこいアヤカシは嫌われるでほんま‥‥!」
 舌打ちする紅。これが作戦なのだ、というツッコミは無し。
「体狙っても効きにくそうや‥‥弱いところを狙うしかないなっ」
 紅は泰弓を射る。しかし、決定打にはならない。
「1本、2本‥‥おまけや、3本っ! もってけドロボウ!」
「紅、きみは下がって下さい」
 あまりにも陰陽師は弓を射るのは向いていなかった。
 静雪が冷静な足捌きで、オークを翻弄するが、限度というものがある。脇腹を深々と抉るオークのラッキーヒットを浴びる。
「ただでは落ちない!」
「それはムリでんな、あんさんも下がりなや」
 見かねて、静雪を紅が止める。
「少々手に余ったようだな、こいつは任せろ。サムライの戦いというものを見せてやる」
 白鞘を片手に輝夜が現れる。
「ふむ‥‥泰拳士に一撃浴びせるとは‥‥意外とやるものじゃの。だが所詮はこの程度か。りょう、汝に一匹任せた」
 その声にオークと斬り結んでいるりょうがうなずくと直後。
「さて、鬼ごっこももう飽きた。そろそろ本気で相手をしてやろうかの」
 放たれた輝夜の重い一撃が防御ごとオークを断ち割った。
 図らずも同じタイミングでりょうが一足飛び退く。
「武神の加護やあらん!」
 転倒しているオークの詰みへと確実に進んでいく、刀で描かれた譜面。生真面目なりょうらしい戦いぶりであった。
 返しの一撃を受けながらも、王手の一撃は確実に決まった。

 翔は手数で攻める。やはり、一撃の軽さはカバーし難いものがあるが、空気撃でオークの体勢を崩し続けた。
 それに乗じて、真砂の槍の一撃が決まる。絶妙のコンビネーションである。単にふたりの奥義の相性が良いだけ、しかし、それは重大な要素であった。
「翔、止めは若いのに任せたぞ!」
「じゃあ、良い所だけもらうよ!」
 オークの首があり得ない方向に曲がった。

 一同はオークを殲滅。後に月夜魅が手傷を負った者を癒していく。美和は術の使いすぎで練力切れであり、紅は何か思う所があったらしい。
 ともあれ、一同は活力を取り戻した。

 更に森の中を調べ、オークを筆頭としたアヤカシがいないかを調べた。しかし時間との勝負では、いないと断言できるほど調査は出来ない。
 開拓民達の催した、ささやかな勝利のもてなしを一同は受け、人々の歓喜の声を聞く。
「ばあさんになんか土産でも買ってやるかの」
 そんな中、真砂ののんびりした声が響く。

 ジルベリアはまだ夏であった。
 開拓記第3巻閉幕───。