十三日の仏滅
マスター名:成瀬丈二
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/30 15:40



■オープニング本文

「君に探求心はあるか? 私の探求心は爆発寸前だ!」
 ジルベリアの開拓者ギルドで学者風の男がそう切り出した。
 受付の男性は返す言葉は微妙。
「謎があれば答えを知りたいです」
 ギルドの本場、天儀の流儀でか、否定も肯定もしない。
 しかし、男はその言葉で納得したようだ。
「よろしい。私はクリアドル・ヴィカーニャ。
 私塾の講師をしている。
 この度、伝説の残る水晶湖に調査に行く。
 ジルベリアの夏は過ごしやすいが、山に囲まれたこの湖は尚よい。
 それはさておき、力仕事に数名の開拓者を雇いたい」
 力仕事と言い切った。
「まあ、噂では水晶湖で人が集まると、山間の森から、鉄仮面を着用して、大なたを持った人型アヤカシが出るそうだ。あくまで噂だ。
 トモダチのトモダチから聞いた噂という奴だ」
 受付はこわばった表情を造り、言葉を返す。
「でも、恐い話ですね」
「その通り、だが噂だ。あと私塾で聴講生をひとりつける。子供だがな──おや来たようだ?」
「済みません、ヴィカーニャ先生、ちょっと道具の調達に手間取りました」
 なぜかフリルとレースに埋もれた子供、風祭均(iz0022)が、クリアドルの元に駆け寄ってくる。
 足下は淑女風ではなく、しっかり固めている。そこが最後の一線か。
 観察する受付の顔をまともに見て赤面する少年に、優しく微笑み返す。
 開拓者は皆が皆、強い訳ではない。
 個々人に色々な事情があるのだろう。
 志士の少年に視線でエールを送るが、命中率は芳しくないようである。
 判断に成否をつけずに受付は確認事項を読み上げる。

「もっとも根幹をなす事業は探索時の肉体労働であり、戦闘ではない。
 非常時のアヤカシの出現、種類は問わず、に準じる事態が起きた場合の退出。
 あるいは開拓者判断で危害があると予想された場合、財産、物資より人員の安全を優先する」
「よろしい、サインしよう」

 それを元に、依頼が張り出されて、人々の耳目を集めた。
 そして、約束の日。
 出立しようとする均の靴のひもが切れ、烏が鳴き、黒猫が通っていった。
「──」
 開拓記39幕開演──。


■参加者一覧
暁 露蝶(ia1020
15歳・女・泰
ジェシュファ・ロッズ(ia9087
11歳・男・魔
ベルトロイド・ロッズ(ia9729
11歳・男・志
グリムバルド(ib0608
18歳・男・騎
伏見 笙善(ib1365
22歳・男・志
朱月(ib3328
15歳・男・砂


■リプレイ本文

 湖は澄み渡り、まるで心の中を移す水晶球の様であった。
 黒いネコミミをピンとたてた獣人の少年である朱月(ib3328)曰く。
「何だかキャンプ気分だね」
 背中に大きな荷物をを背負った伏見 笙善(ib1365)はその朱月の言葉に対して、さらりと──尋ねた。まだ小柄な十代半ばに見える朱月の行動は、二十代に入りたてで華奢だが長身の部類に入る笙善とは対照的な慎重さであった。
「キャンプ気分の割には、ミーは朱月殿が楽しそうには見えないね──キャンプは初めて?」
「キャンプは初めてだから──でも、幸せってこういうものだよね? ボク不幸じゃないよ、凄い幸福だよ」
 動く巨城の観を思わせる鍛え上げられた肉体のグリムバルド(ib0608)は、かみ合わないふたりの頭上から、声をかける。
「不幸じゃない──と、幸福は別物だぞ、朱月。たとえば、生きていけるだけの飯を食うのは、不幸じゃないんだ。逆にそれをうまいと思えれば幸福だ。付け加えれば、気心の知れた連中と飯を食えれば、もっと幸福だ──と、俺の師匠は言っていた」
 顔の右半ばを覆う眼帯をいじりながら、師匠との日々を思い出したグリムバルドは落ちをつける。
「一言──本当にひと言、言っていいかな? じゃあ──」
 とベルトロイド・ロッズ(ia9729)は白とも銀とも付かない髪が、わずかな風になぶられるのも気にせず、質問の答えも聞かずに切り出す。
「俺より朱月の方が身長がある、それだけで十分幸福だぞ!」
 外見の印象だけで言えば、ベルトロイドの方がかなり年下だが、当人にとってはその外見とそこから連想される身長が見合っていても、納得できないらしい。
 朱月は何を意味するんだろうか? 的な面もちのまま。
 ジェシュファ・ロッズ(ia9087)は赤い瞳に笑みをたたえながら。
「まあ、不幸じゃない、っていうのは不幸よりはいいんんじゃないかな〜? 自分で決めているみたいしねぇ?」
 ガタイもタッパも同じなロッズ兄弟がいろいろな意見を出す。そこへ講師のクリアドルと一緒の風祭均が追いついた。
「やっぱり鍛錬不足だな」
 荷物の量は変わらない、単純な鍛錬の差だろう。開拓者の地力は戦闘よりこういった局面でも現れる。
 もっともリボンとフリルの中に埋もれていれば、十分なハンデだが。それに靴ひもも微妙だ。
 その均の行動をしげしげと観察していた暁 露蝶(ia1020)は、やぱり均さんは突っ込まれる所が違うんだなー、と納得。
「とりあえず、山荘で雑事を終わらせて、いろいろ食べましょう」
 様々な料理自慢がそろっており、様々なバリエーションンが期待できるが、逆に食卓の上は『ケイオス』なことになるだろう。均はそんな予感に駆られていた。
 胃薬もってくるべきだった? と後悔する均。だが、そんな薬を買う金は均は持っていない。
 しかし、そこに不穏な空気が吹き荒れる。湖を取り囲む森から、3メートルはあろうかという女性の姿があった。
 こんなでかいお姉ちゃんが居るわけがない!
 笙善はのんびり、と。
「まあ、人間ですね。サイズは置いておくとして」
 おまけに表情は巨大な鉄仮面の中。
 だが、どう言ったところでアヤカシである事は間違いない。
 均はとっさにクリアドルと共に離脱。それを守るため、殆どのメンバーがアヤカシを倒す為に動こうとする。
 焙烙玉と安全の確保を、同時には出来ない。笙善はとっさに火を点すと、明後日の方向に投げる、爆音は注意を散漫にさせるだろう。
 爆発音が轟き、アヤカシの注意はそれる。それは必殺の間合い。
 グリムバルドはアヤカシの値踏みをする──倒せる。
 しかし、彼より疾く動く影。追われるクリアドルが遅いのではない、鍛錬の方向性が違うのだ。
 ベルトロイドが三叉戟『猛』を携えて間合いを詰める。
「精霊よ! 同胞の盾となりたまえ──吹け神風」
 目に見えずとも、精霊は人々を守る、と言われる。
 その確かな感触。
 ジェシュファが紡ぎあげた言霊を以て、精霊に加護を願う。
「現場判断だ。ちょっと──契約を外れるけどね」
 露蝶が周囲の意を汲むと、滑るように間合いを取って気を打ち込む。
 肩口で不可視の力が弾け、アヤカシに絶叫を上げさせた。
「得物が斧だけじゃない? 鉈も?」
 破壊と虐殺のためだけに誂えたような代物。
 だが、それ以上の速度で飛び出した少年一人。
 志体持ちならではの肉体能力を遺憾なく発揮する朱月であった。
 何も迷いもなく、跳躍し、忍拳の一撃が首の半ば以上に食い込む斬撃となる。
「やるな! 負けないぞ」
 アヤカシが悲鳴を上げようとしたところへ、ベルトロイドが自分の短いリーチを補う『猛』の柄の先の穂先をつぎ込む。
 腰に舞うように炎に覆われた槍を反転させ、槍の三叉で鉈を絡めて、捻って落とすと共に腕に沿って、やけどの痕を走らせる。
 志士ならではの魔法と武術の融合ぶりである。
 アヤカシの上半身は半壊していた。
「これが伝説のアヤカシ? 普通のアヤカシじゃないか?」
 結果だけを見ればそうなるが、ベルトロイドから見れば、普通はここまで破壊できない朱月の跳躍からの一撃。
 幸運であった。
 しかし──何かを求めるかのように、動く。
「トリだけ貰う」
 最後の一撃はグリムバルト。
 重い、圧倒的に重い一撃であった。
 圧倒的な破壊力でこのアヤカシの鉄仮面は砕け、存在が天と地に瘴気となって分かれていく。
「はいはい、処分処分」
 消えるのを確認するのが面倒くさくなり、幾つもの焙烙玉で笙善が吹き飛ばす。
 グリムバルトは破壊されたアヤカシを見ながら呟く。
「倒せそうだから、やっちまおうと思ったがな。おまえ等速いな。俺が後一発入れないと落ちないと思ったんだが」
 ベルトロイドと朱月に呆れたように彼は言ってのけた。
 朱月にしてみれば、戦闘の計算外の要素、幸運が働いただけである。
 彼を鍛えた人なら、運も実力の内と言うだろう。

 本来の目的地である山荘に着く頃には日は陰りを見せ始めていた。
 まず、男性陣──というより、グリムバルトとベルトロイドに笙善が食事の支度の前に台所の掃除を始める。
 その最中、台所のスペースに入りきらないので、ちょっと暇を持て余したジェシュファは均に対して尋ねる。
「その格好、似合ってるけど、均って、そういう格好って趣味?」
「え? え? え? ジェシュもそんな事どうして聞くの?」
「探求心だよ? ね、教えて。趣味ならいろんなものがね〜」
「探求心、それは誰も止めてはいけない! 騎士にとっての騎士道と同じ事! ちなみにいろんなものとは?」
 夏の夕日を背負い、クリアドルが怪しげな効果音が付きそうな勢いで現れた。
「ん〜、ヘッドドレス、メイド服、ヒールのある靴」
「私の探求心は爆発した!! 君がどんな表情で買ったかを知りたい! だが、それ以上にその三つを着込んだが、君の姿を知りたい、均君剥いてあげなさい」
「え〜それは考えてなかったよ」
 と、抵抗しながらもジェシュファの白衣が宙に舞い、シャツから胸がのぞき、皮のベルトがはがされると、半ズボンはあっけなく、落ちた。革の短いブーツは次の瞬間、ハイヒールに履きかえされる。そして、白い褌はメイド服のスカートに隠され、白いヘッドドレスが頂かれた。
「ん〜股がすーすーするね」
「ハラショー! ベルトロイド君に見せてあげたまえ、掃除も終わる頃合いだろう」
 ウブとかそういうレベルでなく、感覚のずれのあるジェシュファが、台所からでてきたベルトロイドに一瞬の内に鼻血を吹かせる事に成功した。
「似合うかな?」
「あああああ──!」
 そのまま、絶叫をあげて山荘を飛び出すベルトロイド。
 後ろを見送る朱月、表情をどう作ればいいか彼には判らない。
「こういう時、どうすればいいか判らない」
 笙善は微笑む。
「笑えばいいと思うよ」
「──そうなんだ」
 朱月はぎこちなく、顔の筋肉を動かして笑みを作ろうとする。
「本当に面白ければ、笑みが零れるんだよな〜。笑みは作るんじゃなくて、心の底から浮かんでくる。色々噂は知っているが‥‥肩の力を少し抜け」
 少年は本当に意味が分からなくなってしまった。
 そんな幕間の中、ベルトロイドは食事の支度の前に一泳ぎしてきた露蝶と出くわした。
 水もしたたるいい女ぶりである。
 牡丹のようなイメージだ。
 何というか周囲の空気が違う。
 とはいえ、ベルトロイドにして見れば、かなり困ったことがある。露蝶は文字通りの強化パンツ(何が強化されているか? 問うなかれ!)一枚の出で立ちなのだ。
 ベルトロイドに出来ることは目と鼻を押さえて座り込むことだけであった。
 いやもうひとつあった、パーカーを脱ぐと、露蝶に渡す。
 露蝶から見れば、ベルトロイドは子供である。実際にベルトロイドが13で、そーいう事が判るように思えない。前衛職であり、身長の事に引け目を感じているのが、その裏返しだろ。
 とはいえ、露蝶は羞恥心が入り交じった礼を述べる。
 キッチンでは錬金術のノリでジェシュファが北方の料理を作り、身づくろいを調えた露蝶が持ち込んだ、泰風味の異国情緒あふれる料理。
「ああ、そのジャガイモ、俺が皮を剥いたんだぜ」
 グリムバルドは誇らしげに語る。
 皮の剥き方の善し悪しが料理にどれだけ影響を与えるかは統計を取っていないが、皆水準以上の出来映えだった。
「ベッドメイクはミーにお任せを。ところで均君と、露蝶さんは同じ部屋でOK?」
「不好(ぷーはお)」
 笙善の発言を露蝶はさらりと拒否、個室に寝る。
 ロッズ達と均、朱月はまとめて一部屋に。
 グリムバルトと笙善、クリアドルも個室。
 均が着替えるときに、ジェシュファはひとつの発見をした。
 ワンピースの下に、きっちり短パンをはいているのだ。
 以前に海で、一緒に水着に着替えたときはパンツだったので、いきなりトランクス派に転向した訳ではないようだ。
「いや、趣味じゃないよ、まあいろいろな博打の結果なんだよね」
 幸い笙善の、知性も器用さもが発揮されて仕掛けた鳴子などの防犯設備は発動しなかった。
 しかし、夜間に戦っていて、夜目の利くアヤカシだったら、鉄仮面との戦いは消耗戦になっていただろう。別に誰も1体しかいないとは断言できないのだから。
 朝から笙善は出入り口などの補修を行う。
「誰の所有か知りませんけど、人の住んでいない家は荒れますので、応急処置という事で」
 そして、肝心の力仕事。山荘の地下と湖の周囲にあった無数の彫像の配置換えを行い、そのパターンに何か、クリアドルは納得したようであった。
 クリアドルに言わせると、これらの配置がチェスの定石に関する事で説明できる幾つかの仮説があったらしい。
 しかし、グリムバルド以外では結構重かった。
 人間数人を抱えるようなものである。
 調査のために持ち込んだ、何かの宝珠を用いた器具の反応が上々だったのか、クリアドルは満足げな表情を浮かべていた。更に天儀に帰るときに、グリムバルドは均の頬、唇寄りにキスをしていった。
 朱月はそれを見ても、意味が分からなかった。
 肩をたたく笙善。
「やるな、奴も。朱月、ユーにも判る時がくるさ──それとも判るようにしてあげようか?」
 清らかな笑みが浮かぶ。
──開拓期第39幕閉鎖。