![]() |
|
■オープニング本文 ──ジルベリアの大地が揺れる。 ──それは幽かではある、しかし確実なリズムを‥‥ ──刻んでいた。 その巨体、十数メートルはあろうかという巨大な骸骨。まるで騙し絵の様に複数の骸骨が組み合わさって、ひとつの人体を為している。 細かい事を気にするモノがいて、尚かつ、逃げずに観測する無謀、蛮勇などの形容詞がつく人物なら、それが『がしゃどくろ』と言われるアヤカシであると判断しただろう。 単純な巨体は小さな城塞ならば、少々腕の立つ開拓者がいても数時間で落城を余儀なくされたかも知れない。 単純な破壊力は恐るべきモノがあり、軽く掠っただけで開拓者でも死線を見るだろう。 そして、もうひとつのリズム。それは角笛であった。世界の破滅を宣告する様な、重々しく、しかし確実な決意を周囲へまき散らす。 このリズムの主もまた吟遊詩人のパロディーとも取れる一体の骸骨、またがるは馬の骨からなる屍馬であった。 吹かずとも空気が漏れ出す隙間だらけの頭蓋骨で、どうやって角笛を鳴らすのかは定かではない。 しかし、錆びた蹄鉄は確かにジルベリアの大地の辺境から開拓地帯へと導いていた。 開拓者であり、ちょっとした仕事の合間に、それらが連れ出す光景を見た少年、風祭均(かざまつり・ひとし)はその光景を見ると、もっとも近い風信術の設置された、村を目指した。 依頼は成立した。 依頼内容:風信術の設置された開拓村から(開拓者の徒歩で)一日以内の距離にいる、アヤカシ殲滅する事。三日以上、村に異常がなければ、成功と見なす。村にいる間の飲食費は村持ちである。節制を旨とする様に。 開拓歴第35幕が上がる。 |
■参加者一覧![]() 20歳・男・志 ![]() 21歳・女・魔 ![]() 25歳・男・サ ![]() 14歳・男・巫 ![]() 18歳・女・巫 ![]() 14歳・男・サ ![]() 16歳・女・サ ![]() 26歳・女・魔 ![]() 25歳・男・騎 ![]() 18歳・男・シ ![]() 23歳・男・弓 ![]() 23歳・男・サ ![]() 18歳・女・巫 |
■リプレイ本文 「備えあれば憂いなし‥‥昔の人は良い事を言いましたわ」 金髪サイドポニーテールに加えて、青い目を大きな黒縁の眼鏡で覆った花三札・胡蝶(ib2293)は、アヤカシと戦う開拓者への村人からの歓待に微笑んで、お持ち帰り分は? と、訪ねるだけの胆力はあった。が、体力が追いつかない。 巫女として節制のある日々(と当人の弁)は華奢な体は常人並みの筋力しか持つ事を許さなかったのだ。 ちなみに当人は様々なニュアンスで『腐った』本を出版しているが、売れるかどうかはまた別の話である。 活版印刷の始まったこの世界でも、本というものは本当に必要なもの以外は売れないというのが相場の様だ。 柳生 右京(ia0970)に同伴していたルオウ(ia2445)が、眼鏡のフレームをこすって、レンズの調子を合わせている所から、軽く肩を叩き、スキンシップを取った所で、現状を尋ねる。 「──という訳です」 「なるほどなっ!」 ルオウは、周囲にアピールもする。 今回状況を伝えに来てくれたらしい均に、元気よく自己紹介と挨拶。 「よーし俺はサムライのルオウ! よろしくなー。がしゃ髑髏‥‥なんか莫迦でかいのが出てきやがったぜ! でかいのが『がしゃ髑髏』、笛を吹いているのが『道化髑髏』だよなっっ!」 「えー本当に莫迦でかくて‥‥でも倒せるんでしょう?」 「もちろんっ! わかってる。アヤカシなんて俺たちがぶっとばして来てやるぜぃ!!」 「たち──は私も入っているのか?」 と右京が問う。 「もちろんさ!」 右京はさり気なく視線を外した。 その間に集めた開拓者達が村近辺の足場情報を、仲間に公開する。 朝比奈 空(ia0086)や桐(ia1102)、それに盾男(ib1622)が集めた貴重な情報だ。 直接の攻略にはならないが、不利を回避するのには役に立つ。 ともあれ、地平線に巨体が見えてきた所で、見張りに立っていたルオウの言葉を聞く盾男。 ルオウは少年の真っ直ぐな瞳ならではの言葉に、つい盾男も驚異を漏らす。 「で、でけえ‥‥!」 「──ミーもデカ物思うアルね」 盾男という人物は、開拓者ギルドに登録しているこのネーミングセンスで怪しさ大爆発である。しかし人物としては顔こそ普通である。しかし、両手にそれぞれ盾を持っており、それを活かした戦い方を好むという。 変わり者である。 どういう経歴を辿ったか、文字通り開拓者それぞれの人生を聞けば、吟遊詩人は暇にならないという風聞もある、そんな言葉を体現したかの如き人物である。 「いや〜幾ら地形を確認したてアルね。ヒーさんが行きたい道を行くアル。戦術予想は大変アルよ」 もはや、喋るだけで大惨事である。 と、見かけも言葉使いもも戦闘方法も規格外な男であった。 その点、真っ直ぐ伸びた松の木の様な安定感を漂わせる、今川誠親(ib1091)が地平線の影を見据える。 「あのアヤカシが、このまま開拓地帯に進入したら‥‥大変な事になりますな。 何としても協力して食い止めましょう」 彼としては馬を借り受けたい所であったが、馬を出せば、馬ごと殴り殺しかねない、強力なアヤカシと判っていては、開拓者ギルドもよいとは言わなかった。 「しかし、戦い方も判らないとは──厄介な事は間違いありませんか」 一方で、不知火 虎鉄(ib0935)は風祭均の情報にあった、まだ影響がでないらしい距離である道化髑髏から500メートルの範疇から慎重に近づいていった。 おそましい不協和音が虎鉄の鼓膜を振るわせる。吐き気を催す、人間性の欠如した音楽であった。 咄嗟に爪先に手裏剣を突き立てる。 (このまま練力をもぎ取られては、がしゃ髑髏と正対できない──) 「ほう? 忍んでいても、その程度しか判らぬか。それとも良くやった、とほめてやるべきか?」 虎鉄の報告にブロント(ib0525)は見下す様な──当人としてはシノビとしては良くやったとほめているつもりである、が──言葉で迎える。 「で、あの女はどうした? 男尊女卑が良いとは言わぬが、悪手になるかもしれぬな」 同じくブローディア・F・H(ib0334)もルビーの様な瞳からかいま見える活力が衰えている事が確かであった。聖なる矢により遠距離攻撃を行える距離まで近づけるか──それは不明であった。 そこで撤退を試みる。 ブロントや盾男もブローティアが進む事に対して、フォローを入れる。 「射程の長いホーリーアローの間合いまで近づくのに、精神的な攻撃を受け続けます。もし、近づけば近づくほど、威力が上がるのでしたら──魔力が続きませんわ」 桐も手持ちの術ではこの変調を直せない事を確認した。 ブローティアは一同に礼を述べて、自分の間合い以上に道化髑髏の角笛の効果範囲があるのを知り、チャンスは術者では限られる事を奉じる。 神無月 渚(ia3020)がまるで独自の生があるかの様な舌で、唇を湿しつつ──。 「じゃあ、斬ろう。練力がないと効率が良くない、だけ。そんな時もある。斬れないものは少ないからな」 頷いて空は刀と小太刀を引き抜く。 「内乱が終わっても、厄介事は後を絶ちませんね‥‥まあ‥‥アヤカシにそんな事は関係が無いのでしょうが。まだ、余裕はあります。胡蝶さん、フォロー願いますね。戦乱が終わっても、アヤカシも消える訳でないのは残念至極。さて‥‥と、今回は大丈夫でしょうか」 誠親は練力の絶えない内にアーバレストから連射を道化髑髏に放つ。 相手は動きもそれほど高い訳ではなく、重い一撃が決まっていく。 頭蓋骨の半分ほどが削れただろうか。 水波(ia1360)はこの依頼の目標がアヤカシとは違う様に思っていたらしく、若干驚いていた。 「え、がしゃ髑髏といえば超巨大な怪物ですよね。 天儀のアヤカシのようにも思いますけれど、ジルベリアにも出るのは変わっているな──と。それだけ、怨念や死者が多いという事では無いのですか?」 「国境やら、嵐の壁があっても、アヤカシはアヤカシや。 怨念でも死者でも、多分大丈夫やろ──斬れば落ちる。 しても、でかい骸骨と笛吹き骸骨なあ‥‥あの連中、雑技団でもやるつもりかいな。 ともあれ、そんなのにうろつかれたらたまらんしな。道化も落ちる。俺が落としたるわい。 せやから、でかいのも、さくっと片付けてくれや」 振り向かずに、笛対抗用に耳栓をした天津疾也(ia0019)は渚と空とで三角形の楔の頂点をつとめ、道化髑髏目がけて突っ込んでいく。無論、相応の練力が無くなっているのだろう。しかし、それを感じさせない走りぶり、天津は逆にこの耳から攻撃を遮っていた。。 ともあれ、胡蝶は祝詞を唱えて、仲間達に加護を与える。 (どうか、収支決算が合います様に) 渚が得物で大地を一降りすると、衝撃波になって、道化髑髏を打ち据え、一瞬の隙を作る。 そのまま流れる様に間合いを詰め。 にこやかな笑みを浮かべつつ、道化髑髏に徹底的に乱打を浴びせる、その一方で──。 「──秋水」 閃いた疾也の『乞食清光』が馬の部分の足の一本を断ち切る。バランスを崩壊して倒れる道化髑髏。 そのまま、身を翻して、疾也は道化髑髏の笛に一撃を浴びせる。 旋律がやんだ──。 虎鉄が間合いをしめる。 道化髑髏の動きが止まった所で、奥義を披露せず、そのまま鍛錬と実戦の経験のみを信じ、したたかに肋骨を撃ち減らす。 次の瞬間、白い矢がブローディアから放たれ、道化髑髏を打ち据える。 「──!」 次の一手を放つ。ホーリーアローはアヤカシのみを打ち砕くので、乱戦でも仲間を傷つける可能性はない。 「半歩皆さん、お下がり下さい。少々、大きいのが行きます」 『危険』を感じ取った虎鉄が、手裏剣を放ち、少しでも動くタイミングを遅らせる。 結果、完成したのはブローディアの魔法である。 アストラル・ロッドが周囲の力を集積し炎と化して、巻き上げる。 練力の消耗も激しい今、これが彼女の最大にして最後の一撃。 炎を、一瞬陶酔した様な目で見るブローデイアである。 炎に包まれた道化髑髏に向かった渚。 「落ちろ! 落ちろ! 冥府に還れ!」 最後の力を振り絞って咆哮する。自分に攻撃が集中する渚は、練力を殆ど失っても道化髑髏という楽器に『泉水』と『河内善貞』とで二拍子を奏でる。その度に白い破片が弾け散った。 渚とは見事に逆に、両手に盾を持った盾男が盾の頑丈さを活かして、道化髑髏を攻め立てる。相手の反撃を逸らせるだけだが、自分で攻撃をできれば、もう少し楽だったろう。しかし、盾男は自分の流儀を通した。 「ミーの一撃、多分、正義の一撃、ユーの墓はここアルよ!」 幾たびかの音の後、耳障りな音は絶えた。 「その笛──邪魔ですね」 空がツンドラに落ちたそれを粉砕する。 「武運を──」 胡蝶の加護の元、水波も後ろに連れて、右京が、ルオウが、全身をきしませる巨体──がしゃ髑髏──目がけて歩を進ませる。 水波の引き絞った弓からがしゃ髑髏に矢が射られて、単純に目の前のふたりに意識を集中させないよう、様々な欺瞞となった。 水波は10メートルと間合いを取る予定であったが、その程度の距離は手を伸ばし、踏み込めば、がしゃ髑髏には余裕で間合いとなる。 一瞬、ブロントは出遅れたのかと思ったが、単純にふたりの反応速度が人間離れしているというだけの事。 「相手にとって不足はなさそうだしな!!」 志体が共鳴し、ルオウの守りとなる。 「こっちだ! きやがれ!!」 「俺は時代と民の盾となる」 ブロントは自らの得物に全力を集中して、足を少しずつ、それでも削っていく。 これは巨体で、二本足という不安定なバランス取りをしている相手には有効な戦術である。いきなり折れはしないが、負担は確実に積み重ねていく。 無い頭で考えた結果か、がしゃ髑髏がブロントに拳を振り下ろす。 自分の頭上に不浄の一撃が落ちる最後の一瞬までブロントは目を開いていた。 そして、鈍い音。 右京が瞬時にブロントの間合いに踏み込んで『水岸』を、右手で柄を握りしめ、左手首を刀の峰に当てて、巨大な拳を受け止めていた。 右手も左手も激しい出血がある。 すっと、拳を下ろす。 「受け止めて──この衝撃か。成る程‥‥この依頼を受けて正解だった」 無茶を──と言いながら、水波は右京の傷を回復させる。 逆に空がこのまま戦闘を長引かせるよりは──と。精霊砲を発動。 莫大な精霊力が放出される。 破壊力をまともに受け、後じさりするがしゃ髑髏。 そこを突いて、ブロントが第二打に備えようとしていると、右京は呟く。 「焔陰と両断剣を組み合わせている。その腕──もう使えん」 すっと、拳を下ろす。 ブロントが構えた次の瞬間、がしゃ髑髏の肘から下が地表に落ちていく。 「足も、だ」 彼には異邦の武人ほどに破壊力はない、しかし苔の一念。がしゃ髑髏はくるぶしに罅が入り、転倒する──ルオウはその刹那を見逃さない! 「これで‥‥おわりだぁあ!!」 勝機が見えた瞬間、全気力を振り絞ったルオウがとんぼの構えからの真っ向唐竹割で、頭蓋骨を粉砕する。 がしゃ髑髏と道化髑髏は、瘴気となって消滅していった。 空は手近な岩に座り込み、過剰なまでの疲労感を感じる。しかし、その疲労感は達成感と言い換えても、自己満足とは言われない類のものであった。 「やっと、終わりましたか、流石に疲れましたね‥‥」 その言葉に盾男も頷く。 「仕事の後の食事は殊更に旨いですからね」 「大丈夫、最後までサービスが開拓者や。この辺りのアヤカシ、狩ったるで!」 疾也が元気に、体調が良好なものを引き連れて、哨戒に出る。 ルオウは気死寸前だが、立ち上がり、均少年に── 「無茶はすんなよ! 一緒にがんばろうぜい!」 ──と肩を叩く。 こうして不浄なるアヤカシは二体、ジルベリアから葬られた。 これが第三十五幕の開拓の顛末である。 |