龍はスピードだ
マスター名:成瀬丈二
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/29 03:29



■オープニング本文

「こちら開拓者ギルドだ。用件を短く言え」
「アヤカシのいる荒野を突破。薬草をワンの街まで届ける依頼だ。街では病が流行りだしているので、その対応。薬草の買い付けをして、三日を目処に運んでくれ」
 風信術で、ジルベリアにあるワンの街から開拓者ギルドに依頼が届いた。
 開拓の受付は余事を切って捨てる様に言う。
 ワンの街には、精霊門が開いている訳ではないので、出来るだけスピードを前提にするなら、自然に龍が選択となる。
「速度重視なら龍だな? 大事な事を聞く。アヤカシの形状、データを出してくれ」
「龍が三匹だ。出来損ないのチーズの様に腐っていて、何度か弓を射たが、まるで決定打にならない」
「その射手は開拓者か?」
「志士がひとりに、弓術士がふたり、だ。龍はいないが──信じられないかも知れないが、一応、ラッキーヒットで前足を潰した奴を撃退したが、次の日に来たときには、もう前足が生えていたんだ──」
「そんなことで驚くような開拓者は向かわせない」
 竜の死体に瘴気が入り込むと、中途半端に育てた龍より闘争力は高い。
 噂では肉弾戦には強い。これは手数を増やさないと、相手の再生速度に追いつかないからだ。情報には『死竜』と記録され、噂にはには『ドラゴンゾンビ』と言われている。
 ともあれ、薬草を届ける事が第一であって、ドラゴンゾンビを倒す事が目的ではない。
 その事を開拓者ギルドは確認した。
 目的が決められなければ、最初のスピード重視という前提が崩壊する。
「了解した。生きのいい開拓者を送る。新参者ではない、ヴェテランをな」
 この場合、ヴェテランは龍の方にかかる。
 至急の触れが出され、龍を持つ開拓者達は、アヤカシの防衛戦を突破する力量が自分達にあるか、どうかを相棒達と、目と目で確認し合うのであった。
 こうして開拓記第33幕の幕が開く。


■参加者一覧
桐(ia1102
14歳・男・巫
剣桜花(ia1851
18歳・女・泰
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
深凪 悠里(ia5376
19歳・男・シ
今川誠親(ib1091
23歳・男・弓


■リプレイ本文

 時は四月、所は某所の開拓者ギルド。
 ジルベリアの開拓街・ワンの街から、伝染病の伝播の可能性が大きいため、特効剤となる薬草を運んでくれ。
 という、風信術が開拓者ギルドに届いたのはつい先日の事であった。
 その風信術は、単純に街の住人や薬を商う隊商が移動できない要素として死んだ竜に瘴気が吹き込まれた死竜──俗に言うドラゴンゾンビが3体──の存在を告げ、単純に早く薬草を集めればいいという事態のはずが、それどころか、腕自慢の開拓者が必要とされる状況──に追い込まれていると告げているのであった。

「私、この依頼が終わったら彼女に告白するんです‥‥‥‥」
 と、やりかけのチェス盤と、半ばまで空けられた酒瓶(あえて、酒の種類は伏せる)とを後にして、サラダを作ってもらいたくなったなどの心情その他もろもろを、桐(ia1102)が言語化すると、草履で一発、斉藤晃(ia3071)が側頭部に切れのいい一撃を浴びせる。ちなみによく言われるらしいが、桐は端から見ると、銀髪の少女である。結構図式的には桐いじめに見えない訳でもない。
「あかんわ、つい反射的にやってしもうた。桐の頭は殴り甲斐があるんや──ともあれ、まあ‥‥そういうからには相手がおるんか? 鬼嫁が現れるのか、それとも鬼婿かー? 本当の鬼嫁とか言い出して、実はアヤカシの『鬼』でしたー、なんて言い出したら、まとめて真っ二つにするで」
「お約束大事! 鬼嫁も鬼婿もナシ、鬼婿なんてタワゴトは晃、あなたも互いに現実を知っているのですだから。なによりまず暴力から訴えるのは如何なものでしょう」
 そんなドツキ合いをしているふたりの脇を──この依頼の参加人数は四人だと思って、ギリギリの死線を潜る事を覚悟していた深凪 悠里(ia5376)が、ギリギリですりぬけた。それは死に神が誰かを連れて行く可能性を削る事になる。
 少数精鋭、だと思えばいい。
 上半身から上がボリュームたっぷりなところに、着崩した服装(どこまで彼女の意図かは、言及を控えておく)の騎士の剣桜花(ia1851)も、悠理と同じ危惧を分かち合っていた。
「いやー流石に皆様危ない橋は渡りたがらない──みたいですね、斉藤殿が危険な依頼が大好きなのは知っていますが」
「横文字風に言うとな、ワシはトラブルメーカーじゃなくて、トラブルドリンカーや。飲み干せねば死ぬまでやな」
 晃の言葉に、桜花は慎重論を返す。
「それでも飲み干すのは今度の依頼はひと苦労ふた苦労はかかりそう。援護はしますけど──こんな所で死んだら旦那に怒られますものでっ!」
「開拓者も大変やけど、所帯持ちも大変やな。まあ、わいの言えた義理やないけど」
「ともあれ、薬草の調達も含めて三日ですから、十分な量の調達を急いでますが」
 今川誠親(ib1091)は愛用のバーストボウに手をかけながら──。
「ワンの街の運命は私たちの手にかかっています。何としても成功させねば」
「成功させる──ではなく、成功しなくてはならないのです」
 落ち着いた雰囲気の女性然とした悠理が、誠親の言葉をさりげなく訂正する。
 あった事もなく、これからも依頼が無ければ、会う事もないであろう民人の為に悠理はさらりと身を投げ出す。
 自らの荷物も削ると、更に浮いた重量の分だけ、薬草を詰め込む。生薬ではなく、葉を干したものである。しかし、ひとつの街でどれだけ必要とされるか──その点に関しては、悠理は楽観論で仕事をする気にはならなかった。

 やがて、薬草が必要量と目された分集まると、皆が龍を確認する。
 桐の龍は『歌月』、重厚そうな甲龍であった。変わった血脈などは入っておらず、育て方も際だったものがある訳ではない。逆な言い方をすれば、龍の定石と言った所であろうか?
 桜花のパートナーである『ベティ』は、開拓者ギルドの龍房の片隅で埃を被っていた(多大なる誇張あり)のを、ようやく桜花が思いだしていた。桜花自身の悪意ではなく、単に便利屋(桜花の趣向であろう、開拓者は誰しもが荒事を請け負うべし、などというルールはない)であった主が声をかけると、目をぱっちりと開き、彼女に目を向けて、しばし身震いすると、全身を覆っていた埃をふるい落とす。
「行きましょう、ベティ」
 血の前兆を感じたのか、晃の相棒『熱かい悩む火種』は徐に首をもたげる。
「ほう、判ってとるんか──行くで」
 炎龍ならではの攻撃性と、それ以外では、食事のみに向けられた情熱が燃え上がる。
 しばらくして、ようやく翼を広げる。
 けだるげな雰囲気は未だ変わらない。
 しかし、決意はあった。
 一釵という龍がいる。主人は悠里であった。一般に『いっさ』と呼ばれがちであるが、本当の読みは『かずさ』である。
 困った事に、速度はともあれ、体力に些か、主である悠里は自負をもてなかった。先ほどの荷物の選り分けからも見て取れるとおりである。
 薬草運搬という大任を一釵がどう思っているか? それは判らないが、悠里の事を信頼している事はスミレ色の視線のひたむきさで、周囲の人間から見ても明らかであった。
 鱗の隙間から藤色の羽毛が生えており、ばっと目にはふんわりした毛皮で包まれている様に見える。愛らしい乗騎である。
 如何にも異国風な『Alexander』という龍がいる。
 異国情緒な品のコレクターでもある誠親の影響からこの名前をつけられたのであろう。それがルーツとなるジルベリア風の響きをもつ地から取られたのかも知れない。 特技は早さを活かしての、相手の攻撃をさばき、絡め取る様な戦い方である。
 誠親は網を準備しようとしたが、自分のロープでは作りきれず。数メートルある存在の動きを絡め取る網となれば、晃も手伝ってくれたが3日の間で、それだけ編む時間はない。開拓者ギルドは『返却』を前提とした貸し出しをする事もある(担当者によるので、絶対ではない)が、さすがにドラゴンゾンビを絡め取るものは無理であった。ついでに言えば、地上から投げては届くとは思えず、龍上から放るには翼という無視できない障害物がある。
 少し慣らした程度で、自らと同等かそれ以上の相手との相手を実戦の対象とするには難しいだろう。
「遠江今川流機械弓術の課題のひとつになりますか?」
 それは誠親が、元々氏族の枠を超えて、研鑽した術だ。熟練を積んで大成するのなら、弓術を用いて大型のアヤカシに対しても大きなアドバンテージと得て、対大型生物も組み込んだ流派となる。それを為せば流派の名前を大きく挙げられるだろう。
 もっとも、完成を目指している途上、自分の身ひとつなら体系化する必要ない。支持者も出来、伝授の段階で小器用にまとめる事が必要なレ×ベだが、まだ共に研鑽しようという従事者は今はいない。だが、従事者を得て、我流を超えるべきか──。
 考える事より、敢えて虎口、この場合は竜口に飛び込むべきか、と思考を停止する。

 開拓者ギルドから飛び立っていく、明日空に散るかもしれぬ翼は、誰を乗せるのか──。
 ともあれ、二日目までの旅路は順当であった。しかし、夕日の中から腐臭がする。
「夜襲われたら、厄介やで」
 晃が酒を軽く煽り、心身を賦活する。度を超さねば『酒は百薬の長』という事を体現している火の様であった。
 誠親は弓に弦を張り、いくさに備える。腕の手応えはそのまま相手に与える破壊力と化す。彼の弓術は破壊力と連射力を旨とするが、その代償は命中率の低下であった。
 無論、これらの武具の特性に限って言えば、『すべては当たらなければどうという事はない』という昔の偉い人(?)の言葉もあるという。
 どんな大アヤカシを一撃を吹き飛ばす一撃も、当たらなければ何百発打っても関係ないという考え方だ。
 ともあれ、逆もあるという事だ。
「空を通せんぼうするは、死竜か、やっかいやのぅ」
 晃は酒精を含んだ息を吐き出すと、大斧『魔風』を肩に担ぐ。
「悠里、わしが適当に相手やっとぅから、お前は回り込め」
「歌月、今回は大変だけど一緒にがんばろうね」
「桐、来るのか、てめぇも」
「緊張感が足りませんけど‥‥足手まといにはなりませんよ。一差し──舞いましょう」
 桐の視線に一瞬、鋼にも似た強さが交わる。
「どう考えても足止めが精一杯ですよね‥‥まあ、白薔薇の騎士の腕が見せ所という事で」
「巫女のくせに『騎士』を自称するんか? 本物の騎士にあったらえらい事やで」
 桜花の言葉を晃は軽く──敢えて軽く──茶化す。
「一番弓はお任せを──」
 そう言って、誠親は腐臭のする方向に『Alexander』を向かわせる。
 翼を大きく羽ばたかせ、揚力を得る。
 そして、無言の内の戦いの開幕の鐘が鳴る。
 数秒の後、3つの影が情報通りのドラゴンゾンビであるを確認した。
 鼻をつく異臭をそれぞれがそれなりの対処方法でやり過ごしつつ、悠里が戦線を離脱するのをフォローする。
「みんな、ワンの街で待っている!」
 同意する一同。
 微妙に一同とは方向を変え、夕日に銀髪を赤く染めて、離脱していく。
 数秒後、誠親の一撃が空を切り裂く音が響いた。
 ひとつ、ふたつ。
 誠親は色々な──神とか、仏とか、精霊とか、もふらとか──を呪う言葉を口に出そうとしたが、手早く呟いた言葉は──。
「駄目だ、命中しても再生速度の方が早い──」
 今回の依頼で開拓者ギルドで指定された開拓者としての力量を自分は持ち合わせてはいない、しかし誠親はそれを愛弓と弓術とでカバーで出来ると思っていた。
 知っていて死地に踏み込んだのだ。
 その絶望を吹き出す絶叫。夕焼けのジルベリアの空に響き渡る大音声。
 晃の『咆哮』であった。
 誠親が死を覚悟したとき、敵意を集中させるその奥義は三頭のドラゴンゾンビに届いた。
 晃に殺到する所に桐が祝詞を唱えると、晃の攻撃のプレッシャーが一段階上がった様な気がする。
 両手に『契』を包帯で結わえた桐の姿が見える。
 一方で、桜花は魔祓剣を、白薔薇に帯びさせての突撃を敢行する。しかし困った事に桜花は誠親以上に破壊力がなかった。
「近づくんやない、咆哮が切れたら、逆襲をくらうで」
 腐汁をまき散らすドラゴンゾンビは普通なら苦痛を感じるところを、無視して襲いかかってくる。
「死竜! まずはてめぇらの死という名の幻想をぶちこわす!!」
 無数の衝撃波を生み出す両断剣に、『熱かい悩む火種』のキックを織り交ぜての攻撃。
 更に咆哮を織り交ぜる必要があるとなると、晃の限られてくる戦術は練力の関係から限られていた。
 前の依頼から回復しきっていないのだ。
 尚、龍の攻撃は相手の回復速度を鈍らせるのに殆ど役に立っていなかった。
 ついに咆哮が切れ、他の全員の練力も余裕が無くなる。
 誠親も箙の中で太矢が無情に転がる音を感じ始めていた。 
 このまま戦闘していても優位はない。
 優位も意味もなくなった──悠里が無事に戦域から離脱したのだ。
 悠里の姿が見えなくなった所で、全力で別方向に欺瞞する一同。
「再会はワンの街で!」

 それぞれが移動すると、しばらくして、大きな光源があった。
 先行した悠里の指示で、大きなかがり火が焚かれているのだ。街を襲う病から救ってくれた英雄である開拓者をを出迎え、そして標となる炎である。
 一応、一同も薬草を服用して、しばらく滞在、病気を街の外に持ち出さない事を確認して、出立した。
 結果を言うと、ワンの街における流行病の被害は最小限ですんだ。
 どうやら、今までの情報からすると、ドラゴンゾンビは陽の出ている時には襲ってこない様だ。
 来る前から判っていた情報ではない、数度の突破を試みる事から判った情報だ。この情報が先に出ていれば、警告とベストなスケジュール構築もも出来たのだろう、しかし、判ったのは一同の出立後。風信術が携帯には向かない事から、この情報は遅れてきたものであるらしい。
 依頼を終え、開拓者ギルドに向かうべく、日輪を浴びて飛びだす一同。
 再訪を願う声も響く。
 一同は手を振って応えた。
 そして、ワンの街は、龍たちの上昇につれ、ひとの痕跡は見えなくなり、やがてジルベリアの大地の中の小さな一点へとなって行った。
「しかし──ワンの街、中々に酒が旨かったのう、まあ生きていれば酒は旨いが」
 晃は『熱かい悩む火種』に身を伏せて、一同にこれが開拓のひとつの顛末が終わった事を知らせるのであった。
──五月の風も間近い頃合いであった。
 これが開拓記第33幕の顛末である。