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■オープニング本文 「いたいた♪」 ジルベリア首都のとある塔で、眼鏡を額に跳ね上げた女は望遠鏡を片手に、開拓者ギルドの出入り口を伺っていた。 彼女の名はレージャ・レーメンタイン。延々と連なる技術の継承者である、彼女が手がけるものは『オートマータ』。あまりメジャーな嗜好ではない。 それだけではない、彼女を知るものは『大人でない女』と呼ぶ。 レージャの作品は多くはないが、少年や少女の形をしたものしかない。 しかし、少年を造れば──彼女が最初に手がけた赤毛のオートマータは思春期前の少年であった──まるで、可憐な少女の様だ──と、評される。 その言葉に力をなくしつつも、試行錯誤を繰り返して造り出したオートマータ──モチーフやはり思春期前の少女だった──を見て、まるではつらつとした少年の様だと評される。 心が入っていない、という意見もある、外界からの精神的刺激に弱く、内向的な方向に陥ってしまいやすい。 近所に住む師匠などは、レージャ当人の人間としての生の経験が少ないから『恋』のひとつもすれば、様変わりするのではないか? という。 確かに激しい人間としての体験が、弟と死別した事位ない、後は親も祖父母も健在であった。 そんな事を言われながら、レージャは開拓者ギルドから出てきた少年少女に走り寄る。 「私、芸術家をしているんですけど? 良かったらモデルになってくれませんか?」 如何にも十代初めの、若い開拓者に若い順に声をかける。 「失礼、挨拶が前で。私、レージャ・レーメンタイン。少しオートマータをたしなんでいるんです」 彼女は首を傾げ、コケティッシュな笑みを浮かべる。 「もし、時間が空いていれば──ですけど」 生き生きとした少年少女とふれあう事で、自分の研究にフィードバックする。 少年らしい少年のために、少女らしい少女のために、とレージャは説明する。 興味を持ったものには自分の工房近くの酒場で会おうと告げる。 自宅の工房に戻った彼女は偏執狂的なまでに造られた鍵を手慣れた様子で開け、中を伺う。 作りかけ、あるいは中途で断念した無数の少女の様な少年、と少女の様な少年の断片が彼女を出迎えた。 レージャは薄い笑みを浮かべた ──開拓史第31幕開幕 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
剣桜花(ia1851)
18歳・女・泰
ジェシュファ・ロッズ(ia9087)
11歳・男・魔
木下 由花(ia9509)
15歳・女・巫
ベルトロイド・ロッズ(ia9729)
11歳・男・志
今川誠親(ib1091)
23歳・男・弓
Wistaria(ib1199)
15歳・女・弓 |
■リプレイ本文 「面白そうですねぃ‥‥私でよければ是非!と言いたいところなのですが‥‥少年少女でしたっけ? 私ではちょっと発育が良すぎます?」 依頼のレージャは胸から上へ視線をやりながら、剣桜花(ia1851)に、彼女の体格ではモデルに不釣り合いだいうのに首肯。 「そうね──残念だけど」 「残念ですけど、とりあえず、氷菓子食べてみます?」 桜花は魔法で氷を造り、砂糖水をかけて涼感を楽しんでもらおうと思っていたが、ジルベリアにはまだ不似合いな季節だった様だ。 そこで天津疾也(ia0019)がやってくるのを見ると、さらりと──。 「天津殿‥‥何処からどう見てもおっさんでしょうが。いくらお金稼ぎに邁進しているとはいえ、少しは依頼を選ぶべきだと思うのですよ?」 「その言葉、そっくりそのまま熨斗つけて返したるゎ、その胸で少女語るは詐欺やで? ほんまに」 そして、酒場に落ち着いた後、しばしして工房に映る。 疾也にはそれなりの施設に見える。 「ほうほう、オートマータかいな。俺は専門的なことまではようわからんが、こういうのは職人芸やからなあ、素直に尊敬できるで」 自分の道を肯定されてレージャも悪い顔はしない。 「是非とも動く所を見たいんや。まあ、モデルは──一応、モデルに立候補するけど、やっぱりペケやろ‥‥これでも開拓者になる前は紅顔の美少年で──スマン、ウソついたわ」 木イチゴのジャムを入れた紅茶を呑みながらレージャは微笑んで疾也もモデルから外す。 「で、オートマタって、どれくらいの事ができるんや? どういう原理なのか興味あるんやけど。それと、日常生活や戦闘とかどこまで使えるんや?」 「日常生活どころか、台座の上でポーズを変えるのが精一杯ですよ。宝珠も使わない、古式ゆかしい、ゼンマイと歯車の集合体ですよ」 なんでそんなものがいるのか、実用主義者の人からすればまるで意味がないだろうと 疾也は思ったが、それを言ったら、殆ど全ての芸術品が、実用主義からすると意味がない。それと同じ事だろう、と思考を切り替える。 「まあ、たまには少年少女だけでなく、別の年齢──自分位の年齢の外見で造ってみるのも別の刺激になる‥‥」 と、レージャは立ち上がる。血相を変えていた。 「あなたはまるでオートマタの事が判っていない、何年何ヶ月という月日をかけて、体格にあった骨格の設計、無数の歯車の組み合わせを人間らしい動きに見せるための何日も眠らずに設計書を描く。単に刺激になるため、その為に時間は長すぎます! 人間は寿命に限りがあります」 「あかん、今のナシ! ノーカンや! すまへん」 疾也にしてみれば(というより、かなりの割合の参加者だが)オートマタがそんな手間暇かけて造って、使い道らしい使い道のない存在だとは知らない様だ。 要は金持ちの道楽だ。 しかも、皇帝より下賜された技術体系な為、大きな変更や進歩の望めない。 「でも、逆を言えば、お人形さんって背が伸びないんですよね?」 木下 由花(ia9509)は、人形好きの夢見る少女の風情であった。 レージャの反応も待たずに──。 「人形とお揃いの着物を作ってあげたりしてましたし、自分がお人形のモデルになれれば嬉しいですねっ」 Wistaria(ib1199)は小首を傾げながら──。 「ん〜と〜モデルさんにゃ? 良くわからにゃいけど‥‥とりあえず、遊べばいいのにゃ? 何すればいいのか判らにゃいけど、とりあえず、がんばる〜」 と、やる気はまんまん、思考はくるくるな、藤の花を思わせる様な名前であるWisrariaが、元気に腕を振り上げる。 その一方で黙しているのが、今川誠親(ib1091)であった。外見だけで二十歳を超えた彼に、モデルの気はない。しかし、嫌な予感だけがしていた。それは漠然としすぎていたが、レージャが準備にいない内にさり気なく由花とWitariaに注意を促す。 何かあれば、機械弓──自慢のアーバレストで突入をする覚悟もしていた。 だが、レージャが何を求めているかはまるで判らなかった──あえて予断をしなかったのだろう。 そして、油と鋼の匂いのする工房に招かれる。 来客に備えて、様々な品は布をかけられて隠されていた。 オートマタが動く所をみたいというリクエストもあった事で、白い亜麻布を被されたみっつのオートマタのひとつを露わにする。ミルクの様な焼き物の肌に、太陽の様な赤い髪をし、にこやかな笑みを浮かべながらまどろんでいる少女の姿があった‥‥と、先入観を持たない者が論評するだろう、髪はさして長い訳でもないのに、微妙な違和感を感じる。 膝関節は出しているものの、上流階級の絹製の服を纏っており、それが年は若すぎるのに男装の麗人かといった風情を漂わせている。 レージャは手慣れた様子で服の上着の背中を露呈させると、懐からゼンマイ回しを取り出す。手慣れた様子で三度ひねると、微かな歯車と歯車の触れ合う音がして、少女めいた少年は目を開いた。 硝子細工の深い緑色の目──そのまま、椅子から立ち上がり、周囲を二度三度と見渡し、右手を心臓の上に当てると深々と腰を曲げ、もちろん膝も若干引きながら、一礼すると、数秒後には椅子に座り、目を閉ざす。 「次はこの子──サミリア」 亜麻布を剥ぐと、鴉の濡れ羽色の髪を色を腰まで伸ばして、修道衣に身を包んだ、凛とした佇まいの、少年の様な少女が姿を現す。 ゼンマイを回すと、立ち上がって、聖印を握りしめ祈るかの様に深々と頭を下げた。 「‥‥まぁ、少女のような少年、少年のような少女のお人形。一部の方々の需要はありそうですけれど‥‥ね?」 「かわいい子にゃ」 「ありがとうございます。これが最初の作品、エマージュとサミリアです、今見た動きを終わりまで行うだけで精一杯です」 (それだけで何ヶ月もかかるのか? 注文製品にしても、めっちゃ高くせんと売れへんは。ま、芸術品や建築物と一緒で時間は度外視したオーダーだけやろうな) 疾也は、ふとそう思って、何気なく片手を机に付くと、バランスが崩れたのか、部品と──正確には部位と呼ぶのが正しいのだろうが──思しき、腕が転がりだしてきた。 まだ、着色はされておらず、中で様々な精密な部品が組み合わさっているのがはっきりと見える。 「うーん、人形見るより、こっちの方が商売人には判りやすいわ〜これだけの部品を、同時で動かすのは神経使うし、部品をひとつひとつ、外注か手作りか判らへんけんど準備するだけでも、えらく頭使うわ、ジルベリアの技術は宝珠以前から続いているのやから、よっぽど熟成した技術やろうな、覚えるのも、教えるのも大変そうやけど」 皆が騒いでる間に周囲を調べていた誠親はさり気なく背中に隠したアーバレストの引き金に手をかける。 「少し不自然な気がしますが、何故失敗作を?」 「同じ過ちを繰り返さない為、失敗品もあえて残しておく。私の師の教えですが?」 別に周囲にモデルとなった少年少女の死体が埋められていたり、怪しい秘密結社のサインの入った手紙などはなかった。 強いて言えば、器用さに任せて鍵を開けた部屋──そこは如何にも子供の部屋らしい、船などが飾ってある部屋だった。 痕跡を残さない様に上辺だけ調べると、縁戚の少女(手紙の表書きに記されていた)であるサミリアとのやりとりが残されている。 「別に人間、理屈だけで動いている訳でなし」 途中でモデル陣は別室に通される。モデルとなるため、身体の線が出やすい衣装なので、直接の関係者以外に見せたくはないのだろう。 レージャの言葉のままに、様々なポーズをとりながら、少女達の永遠は切り取られていく。 「この時に残された人形は『今日という一日』を後世に残すわ。貴方たちが孫を抱くおばあちゃんになっても、変わらない『今日』を」 由花は先ほど見た人形を思い起こす。 どの様にするかのリクエストを訪ねるレージャ。 「可愛いお洋服が似合うよう、ちょっとでも美化してくださいな‥‥でも、私って判らないのは駄目なんです。瞳はエメラルドのような感じで。髪は、さらさらの絹糸の様な感じがいいです」 「大丈夫。最初からオートマタの髪は絹ですよ」 「──はい、そして、私は甘いものをが大好きなので、甘いお菓子のようなイメージで作ってくださると嬉しいです♪」 「ボクはボクっぽくしてくれればいいにゃ」 Wistariaは注文のない注文を出す。 「判ったわ。そう、今日という時間を切り取ったあなた達がここにいるわ。大丈夫、私は命の限りまで──」 レージャはそう言って薄い笑みを浮かべる。 ふたりがモデルとなったオートマタが完成するのは近くない未来の事だろう、少なくとも今年ではない。。 誠親は首をひねりながら出てきた。 これが開拓記第31幕の閉幕である。 |