【神乱】死人砦
マスター名:成瀬丈二
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/13 17:22



■オープニング本文

 かつては戦場であった、シルベリア南部の砦がある。
 敗者の所有していたそれは、いくさが終われば、おそらく帝国に帰属するというのが、ある年長の騎士であるオークバインの読みであった。
 内部の確認──有り体に言って、衛生の問題から、雑兵の亡きがらを荼毘に付す、あるいは地に還すかの二択になるだろうと予測される為、オークバインは正直状況を軽視していた。戦線の後方という事が、油断を招いたのだろう。
 油断であったかはさておき、4人送り込んだ兵たちは帰ってこなかった、いやそう見られていたが、最後のひとりが城塞近くの河から流れてきた。
 体温は冷え切っていたが、それ以前に深傷が酷かった。志体持ちでない衛生兵の治療では限度がある。
 その兵は幾つかの言葉を残している。
──総合すると。城塞の兵、二十人が動き出していた。
 運命のいたずらか、悪意のからくり仕掛けかは判然としない。しかし、この現象はかなりの確率で兵士がアヤカシとして蘇ったのだろう。
 原因の究明はさておき、このアヤカシを放置する事はジルベリアの住人として出来ないだろう。
 兵は最後に命を落とした。これ以上証言は得られない。
 アヤカシの使った武器は斧らしい。しかし、異常な点があった、斧の背で乱打されていたのである。
 知性は戦闘という分野に限定しても、衰退しているのだろう。
 しかも、特殊な訓練を受けてもいない兵でも、4人を殺しきれないのだ。
 アヤカシとしては弱いタイプだろう。
 とはいえ、放置するには問題がある。このアヤカシには損得勘定エトセトラ、そういったものが無い、虫けら同然の身である。
「とはいえ、考えるだけでは仕方がない。アヤカシを自分達で処理できなければ、開拓者に依頼をする」
 賛成反対、色々な要素が加味され、以上の情報は(必要以上のパニックを防ぐ為)、開拓者達に伝播された。
 目標:砦を機能を維持した状態で、アヤカシとして生き返った死人を殲滅する事。
 開拓記第30幕解放──。


■参加者一覧
薙塚 冬馬(ia0398
17歳・男・志
懺龍(ia2621
13歳・女・巫
樹咲 未久(ia5571
25歳・男・陰
千代田清顕(ia9802
28歳・男・シ
向井・奏(ia9817
18歳・女・シ
祈藤影一(ia9979
20歳・男・魔
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
相馬 遼(ib0910
17歳・女・魔
モニカ・ヴァールハイト(ib0911
17歳・女・騎
不知火 虎鉄(ib0935
18歳・男・シ


■リプレイ本文

 モニカ・ヴァールハイト(ib0911)はアヤカシの殲滅──そして、鎮魂のために動いていた。
 このジルベリアの寒気の中を、一本一本枯れた枝を集めて火計の為の礎とする、吐く息は白い。もう四月であり、南方ではあるが、それでも志体持ちでなければ、それなりに苦労したのだろう。
 倒れたとはいえ、ジルベリアの為に戦った兵士達──灰は灰に、死者は死者に還してやらねばな。
 不吉な空気を漂わせている城塞を見て、不知火 虎鉄(ib0935)は心の中で思った。
 モニカの助力を行い、可燃物を砦近くの森林から集めていく。必要な分と思われる材料を手に入れた虎鉄は、口に出しては、信頼するリーダーに問う。
「懺龍殿、罠のための木材はこの程度でよろしいか?」
「‥‥よし」
 罠の手帳と描かれた手帳を読むのに、眼鏡をかけた『リーダー』である少女、懺龍(ia2621)が頷き、円が一部欠けている丸太で囲まれた10メートルの空間の中に、丸太を数本倒して置く。
 しかし、ふたつ目の罠で予想外だったのは、あちこちで有効と見られていた『力の歪み』による落とし穴を掘るのが、単に範囲内の土を砕くだけであり、別に土が別の空間へと吹き飛ばされる訳ではなかったことだ。まあ、開拓者は(当然だが)志体持ちなので、少し手間が増えただけで済んだ。
「精霊さんの今日のご機嫌は如何でしょうか?」
 と、虚空に声をかけながら、ファイヤーボールで穴を掘ろうとした相馬 遼(ib0910)であったが、懺龍が声をかける、単純に言うと、アヤカシ撃破に集中して欲しいので、手で出来る事を魔法で処理するのはやめて欲しい(と本文はもっと短い。遼が意を汲んだ部分が大きい)
 そんな状況が流れていく中、屍臭漂う城塞で『心眼』で探ろうと、挑んだ薙塚 冬馬(ia0398)の心眼に即座に屍人が反応した。
「いたぞ、アヤカシに違いない」
 冬馬は左右で濃さの違う青い目を一瞬しばたかせた後‥‥腰の物の重みを確かめる。
 同じく超感覚で中の存在に気付いた千代田清顕(ia9802)も、視線を一瞬交わすと、肩を竦める。
「ま、何とかなるって。修行と思えばいい」
 と、手裏剣を取り出そうとするが、穴掘りに返し忘れたショベルをまだ肩に持っていた事に気付く。
 地面にシャベルを置くとねらい澄ました一撃を浴びせていく。
 向井・奏(ia9817)としてのリアクションは──自らのそれと相反する物をみた様に。
「こうなったのは目下の幸い、拙者は廃墟は(ゴニョゴニョ)」
 という秦も巻き込んで置いてきぼりにして状況は動き出す。
 そんなふたりを見てにやりと笑い、オラース・カノーヴァ(ib0141)が髭をいじりながら──。厳しげな笑みを動き出す。
「ここは死人が動き出す、条理を外れた場所だ。そんな場所には見合った方法を用いる事さ」
 立ち止まったオラースが身を翻すと同時に、宙にアストラルロッドでシンボルを描く。
「──!」
 オラースの一括と共に、怒濤の様に氷雪が吹き出していく。
 手前にいた数体がみるみるうちに動きが封じられる(一過性のものではあるが)。
「シノビじゃないんでね──派手になるのは勘弁してくれ。
 おーい、このまま逃げるぞ、アヤカシども? 付いてこられるなら、付いてこい」
 そのまま、背中を向けて走り出す。
「で、誰が手に入れるんだい? 天下のオラース・カノーヴァを倒したアヤカシという称号を」
 アヤカシの動きが鈍いのを感じ取ると、上半身をひねり、更なる挑発をする。
 冬馬の感覚には十体以上の屍人が追跡してくるのが感じ取れていた。
「罠にかける、リーダーの指示通り分割しろ──未久?」
 すれ違う視線。
「絡みなさい『呪縛』」
 樹咲 未久(ia5571)は呪符を投げ、瘴気を集めて、型造るは漆黒の粘体の防壁。
(瘴気で造った式神でアヤカシは倒せる──でも、別に剣だって、拳だって倒せる、まるで陰陽術が単なる上位互換じゃない)
 不健康そうな顔が頂く頭脳の中で、そんな事を考える未久だった。
 式神を打って防壁を造る一方で、未久の足元にまかれた鳥の血の臭いに屍人たちは粘菌を無理矢理突破しようとする。
 次々と式を打ち、戦線を造る未久であったが、手元の陰陽符が切れるふりをする。。
 手早く袖から次の呪符の束を取り出す未久。
 その隙を突いて、屍人が乱入するが、未久は既に落とし穴の縁にいた。
 結構な俊敏さで罠を飛び越えようとする、対面にいた祈藤影一(ia9979)が手を伸ばし、身体をひねった事による遠心力で未久を自分側に引き寄せる。
「本当に死体なら燃えやすいだろうな‥‥卑怯だなんて思うなよ」
 呪文の最後の一文節が終わった瞬間、落とし穴の中にいた屍人達は目を潰さんばかりの雷撃に包まれた。ツン、とした空気が漂う。
 数発打ち込んだ後、遼から声がかかる。男性に対して免疫のない、彼女の必死に絞り出す言葉。
「あ、あの‥‥交代‥‥でどうですか?」
「ああ──‥‥そうだな、錬力も無限じゃないし──任せた」
 背を向けた影一の耳にとどきし遼の言葉は。
「荼毘に伏す‥‥というわけではありませんが、安らかに眠ってください。精霊さん、力を」
 轟雷の次には、弔いの言葉であった。
 一方で木の幹に周囲を囲まれた罠になだれ込んだアヤカシは、とりあえず前進する、しかし──。
 その木々の天辺で、仮面を装着しつつ腕を組んだ懺龍は、火種の術を使うと、枯れた木々に安易に着火する。
「──私のトラップは百八式まであるぞ」
 と、どこかの頭をそった方の様な台詞をはきつつ、炎系の攻撃を打ち込む様に指示を出す。
 炎が点った。
 中でアヤカシは炎に包まれていく。
 この事件で依頼された全てアヤカシは破壊され、瘴気は死体から抜けていった。
 亡きがらは黙して転がるのみ。
 皆、焼きただれた死体を確認する。
 モニカが予め準備しておいた(水源があるのは城塞の条件のひとつである)水で、亡きがらをくすぶらせる煙を断つ。
 モニカは緑と空色の二色の目でそれを見ていた。

 冬馬は念のため、心眼で生物らしい生物が砦の中にいない事を確認し終えた。
 そこで未久が狩ってきた野生動物の肉をは冬馬は受け取る。
 血をまくために切ったのだろうか、首から上がない。
 冬馬は一瞬困った様な笑みを浮かべ──決意を決めた。
「血抜き位手伝ってやる。これからは──」
 適当に理由をつけて、量を量らず、怪しげな隠し味を入れたり、包丁を持ったときは周りを見ない──といった基礎を教えたが‥‥長い授業になりそうであった。
 
 そして、弔い。
「他国の陰陽師がしても効き目が無いでしょうが、どうぞ彼岸へ無事行ってくださいね」
 未久は木管に鎮魂の句を認め、炎の中に投じる。
 一方、泰はささやかな白い花を集めた花束を添える。
「今度こそ、ゆっくりと眠ってくだされ」

 こうして、コンラートの反乱におけるひとつの局面が終りを迎えた。
 また、時を置かずして、新たな兵士達が訪れるであろうが、彼らには彼らなりの運命が待っているのだろう。自分達で切り開いてもらうしかない。
 未久が点した炎は消えていった。
 一同は悄然とする。
「神楽へ戻ろう」
 誰言うともなく。思いがひとつになった。
 帰郷──だろうか? それとも開拓者の義務? それは誰にも判らない。
 ともあれ、彼らは精霊門を目指し、思い思いの移動手段で進んでいく。
 彼らにとってジルベリアの冬はこの時終わったのかも知れない。
 過ぎゆく春を惜しみながら──。
──開拓記第30幕閉幕。