【神乱】フレッド日誌5
マスター名:成瀬丈二
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/07 20:59



■オープニング本文

●落ち武者狩り
 俺はフレッド・バート。ジルベリア人の開拓者である。
 内乱の、既に大勢は決しているか──自分もその一部に関わった事で、事の大きさ小ささはどうあれ、自己満足と紙一重の所にいると勘違いしてしまう。
 ともあれ、俺の今回の依頼人も開拓者である、威厳のないもしくは若々しい顔立ちの志士(自称)である不良中年のルーク・イナスントその人である。
 最近得物を大太刀から精霊剣に代えたそうだ。
 ともあれ、そんな事より大事な事項として、逆賊“ヴァイツァウ”の元から、遁走していく勢力が少なくないことがある。あの逆賊が再び兵をあげないように、巨神兵への対処をするべきだと、自分はルーク隊長に言っている。
「英雄には英雄の。中堅には中堅の戦い方があるものさ」
 微妙に意見をずらしている感触。
「今後の再興の核になりそうな相手を追い詰める。端的に言うと士官、下士官などか」
「ちなみに特定する方法は?」
「知恵と勇気」
「今、何か旨い事を言ったと思っていませんか?」
「‥‥」
「‥‥」
「──そこは臨機応変。広い範囲になるかもしれないからな。前線を突破して北に抜けなければ、後は海路。ある程度の人数を移動するからには、船を調達なりなんりしてるだろう。今度は海賊かなぁ?」
 自己満足はこの人の悪い癖だな。
「捕まえた武人は武具を剥がして、臨時収入。身柄は帝国軍に売り飛ばす、一々身代金の交渉が出来るほど、こちらも時間的余裕はないし、面倒くさい──ただし、だ」
 ルーク隊長はえり元を正した。
「相手が志体持ち、アヤカシの場合は見逃す。志体持ちはこちらも深手を負う可能性があるし、アヤカシは死体の判別が出来ない。という事で、どこかのネムナス河中流でしばし待機」
 つまり残党が一兵卒であれ、一般兵なら身柄を確保する、という事だ。

 ただ、こちらに向かう反乱軍の数が多すぎたりした場合はどうするんだろう?
 ともあれこれが俺の第5の開拓史だ。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
ヘラルディア(ia0397
18歳・女・巫
北条氏祗(ia0573
27歳・男・志
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
風月 秋水(ia9016
18歳・男・泰
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
ブリジット(ib0407
20歳・女・騎
グリムバルド(ib0608
18歳・男・騎


■リプレイ本文

 グリムバルド(ib0608)は豪快そうに見える人物だ。別に見えるだけで中身は違うという訳ではないが。
 鉄鉱石から削りだした様な巨躯は、必要以上のインパクトを感じさせるだろう。
 川沿いに逃げ出していた衛兵崩れの一団を難なく制圧した。
 その一因には彼の顔面の右側を覆う、黒い眼帯が大きいだろう。
 どんな、いくさ場で傷を負ったのか聞いてみると、眼帯をあげる。そこには左と変わらぬ金色の目が座していた。
「単なる修練だ。それにしても今まで傭兵をしていたが、追いかけられる側になった事は一度もないな。まあ、傭兵隊長は目端が利いたんだろうな。あの師匠も参謀だったしな。拾われた場所次第では、もっと悲惨だった事もあるだろう」
 まだ十代にも見えるのに、色々とあるんだな──。
「じゃあ、グリムバルド、少し新しいネタを仕入れてきた。相手は舟場所だから、手伝ってもらえるか。ルエラが位置をフォローしている。頭領格の外見は──」
 そこへさらりとブリジット(ib0407)が羊皮紙に木炭で流暢に描いた人物図を出してくる、才女だ。ブリジット自身はフルネームだとブリジット・ラ・フォンテーヌ。見た目は男性的な衣装で、天使がひと刷毛で描いた様な金髪と、(自分も近いが)一見すると青く見える、しかし正面から見れば碧色の髪が印象づけられる。
 修道騎士だそうである。
「私も行っていいでしょうか? 一応、面制圧も出来ます」
 ジークリンデ(ib0258)がふたりに賛同する。銀髪とアイスブルーがジルベリアの吹雪を思わせる風情だ──危険だが、美しい。こんな事考えているからマセガキとか言われてしまうんだろうな‥‥。
 北条氏祗(ia0573)は愛刀、乞食清光の双刀を確認し、自分も参加すると一言告げた。。
 そして、4人はルエラ・ファールバルト(ia9645)が懸命に心眼で、船の情報を調べ続けてくれたため、二十人を超す捕獲者を得た。
 捕まえた貴族達は、武器はいざという為の短刀だけで甲冑などは脱いで逃げたため、はぎ取りの対象にはならないのが残念。
 逃げなければ、皇帝陛下の処罰として、重税だけで済んだだろうに、なまじっか逃げるから、余計な身代金まで支払う羽目になる。
 ジークリンデは彼らの掌を確認、貴人、武人、平民の見立てをしようとした。貴人は手があれていない。それは確かだ。平民はかなりの確率で手が荒れている。しかし、武人として手をチェックした所で、自分達の様なジルベリア側かもしれないという可能性は拭えない。大戦力がぶつかり合ったのだ。武人は掃いて捨てるほどいる。
 それを受けてブリジットも騎士風=反乱軍という考えを見つめ直した様だ。
 ジルベリアでも南部で暖かい。ここまで来たのだから──という帝国軍の貴人もいるのだろう。もっとも、そんな人物は限られているだろうが。

 記録をつける最中で笠を被ったままの風月 秋水(ia9016)が自分の髪をかき混ぜる、子供好きだそうだ。どうやら自分はその『子供』の範疇に入るらしい──早く大人になりたい物だ。
「フレッド、いい加減に寝るで、ござる」
 ただでさえ、収まりの悪い髪の毛が──。
 至近で感じる潮風の匂いを孕んでいる匂い。海の方まで行ったか?
「判った、か。ルオウ、と、一緒だった、ぞ」
『ルオウ(ia2445)』か。今回の任務ではまだ会っていないな。そういえば、あいつは秋水からみて子供だろうか? 大人だろうか? 少なくとも俺よりは頭ひとつ高い。
 赤毛に金目と色々な意味で目立つ外見だ。
 と、思うと頭をくしゃくしゃとやられた。
「秋水の真似! わっはー、フレッドは久し振りー! 元気だったか? 俺は無茶苦茶元気だぜい」
──本当に元気だな。
「無茶苦茶じゃないけど、元気だよ。ルオウも一財産得たって?」
「まあ、色々とね。体術は優れていても、損じゃないし」
 サムライで更に体術まで修めると──まあ、術には色々ある。
 一方で堂々と入って来た天津疾也(ia0019)は、身代金の腹算用を行っている様だ。そういうのはこちらに回してくれればいいのに。
 引っぺがした荷物も小銭に換えて、僅かな金属音がする。
「銭の鳴る音は何に代えても堪らんわ」
──困った‥‥否定が出来ない。
「でもさあ、銭じゃ腹は膨れないぜ」
 ルオウがさらりと言う。
「心は膨れるわ。無人島にもしひとつだけ持って行くなら、銭の入った袋、と即答するで。でなければ、銭の一杯入った袋や」
 どこまで本心かは俺の論評はさておく。
「──ええと」
 困るルオウ。
「いい加減に、しろ。子供、は眠れば、成長、する」
 秋水が言い終わると、俺とルオウとユニゾンする。
「はーい、もう寝まーす」
 子供の時間は終わり、という事なのだろう。

 朝になるとルオウと食卓に向かうと、赤マント(ia3521)が朝食の席に加わっていた。
 如何にも俊敏そうな少女だ。
 上から下まで赤で染め上げられ、食卓には『もふらの面』が置かれている。
 当たり前だが、これから朝食なのだろう。
「戦果は?」
「コンラートにならって飛空挺で逃げた連中が二、三人はいると思ったけどさ。どうやら、コンラートだけが運良く飛空挺を準備していた、開拓者ギルドの方針に逆らった開拓者の仕業とも言われたが、ともかく特例とも言える事態だったそうだ。で、どこかに降りたのかと飛空挺の発着場のある場所を探し回って──」
 単純に飛空挺の施設といっても大変だ。飛空挺は一度降り立つと、飛び上がるのに準備がかかりすぎるため、短距離飛行という事はまずあり得ない。その為、特別に必要のある場所でなければかなりの距離がある筈だが、彼女はそれを調べて回ったのだという。実を結ばぬとしても、とんでもない脚力だ。
「で、次は反乱軍が崩壊に伴って、物資の流出が考えられるため、周辺の住民が──」
 テーブルに顔をすりあわせて寝息を立て始めた。
「別々にやって、互いの成果をすりあわせていれば、な」
 団長のルーク・イナスントが赤マントにケープを被せつつ、ごちる。
 この計画が三人いれば、かなりの確率で大量の捕縛が出来たがかもしれない、自身一人ではその目は薄い。現に常人離れした彼女でも体力が枯渇している。
 氏祗はそんな光景を見やっていた。
「反乱軍を放置するのは危険だというのは判る。しかし、帝国側に売り飛ばすというのは‥‥感情的になりすぎる、か」
「売り渡すとは口が悪いですが、殲滅してしまうよりはましなのでしょうね」
 ヘラルディア(ia0397)、正確にはヘラルディア=アルマ=アリュールが氏祇の目の前のカップに茶を入れるとバターの欠片を落とす。
 彼女は内地の調査を──と考えたのだが、赤マントのフォローに終わるきりであった。
「でも、ここで反乱の残り火を放置してしまうと、地に伏して、何処かの出番を待つでしょうね、それがわたくし達が行方が途絶える前に、捕捉するのが本来の運びでしたよね、この依頼の」
「まあ、きれい事はさておいてや──イヤー、俺もきれい事は好きやで、損にならん時はな。まあ、義理や人情も判るけどな。あのフレッドの日記に挟んである、請求書。ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ‥‥往々、仰山おるなぁ、あれ全部が金づるになると思うとよだれが止まらんは、ぐふふふ」
 疾也は精神からよだれをたらしつつ、ヘラルティアとは正反対の感情で動いている。
 結果だけ見れば、自分達はトータルでプラスの収支があった。自分はもう少し行かな? と思ってみたが、敗残兵の相場は値崩れしているのだろうか?
 何はともあれ、ルーク団長が各人に分け前を渡した事でこの開拓の幕が下りる。
 俺の開拓日誌第5幕はここに終了。