ハルハバケモノ
マスター名:成瀬丈二
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/30 18:24



■オープニング本文

 まだ稚い声であったが、神楽の開拓者ギルドの風信術はその言葉を漏らさず伝えていた。
 恐怖と背徳感をおぶいし声に、周囲にいた者はつい耳を傾けてしまう。
 風信術で遙かな国より、救援を依頼したのは先立っての事であった。

 話を若干巻き戻す。
 最初はこの声の主は、足長の村の長、太郎吉であった。どうやら村の中でアヤカシが出ている。それを倒して欲しい、という依頼であった。
 村の高祖である高僧が、黒い蛞蝓状のアヤカシを封じ込めた、という信仰が足長村では伝わっていた、村の誰もが信じている、しかし目の前にしたくはない、ジレンマを抱えつつ、開拓者の成立から幾度となく、封印を破棄して、開拓者に退治を頼もうという動きがあり、同じ数だけ反対にあう。
 しかし、子供というものは、入り込んではいけない、という場所につい入り込んでしまうものだ。
 そこで語り手は老爺から治という少年に変わる。彼はガキ大将で、悪ガキを引き連れていたものだ。
 その子供達は数が5人。年は上が九つ、下が七つ。
 禁所として、人が遠ざかっていた、お堂の奥深くで、アヤカシは五つの地蔵像に分割して封印されており(どうやってそれが行われたかの技術はとうに忘れられおり、その手がかりも絶えて久しいが)、彼らはそこに備えられていた清めの塩をひっくり返し、老人達が守り続けた灯明を吹き消したのだ。
 塩は再び盛ればいいし、灯明は点せばいい。
 そう思って、お堂を元に戻したつもりであったが、次の日から奇事が起こり始めた、一番最初に灯明を吹き消した子供と、その家族がひとつ部屋の中で寝ていたらしい所を、襲われた──らしい。
 朝になって、井戸から異臭がし、そこから子供のいた家に向かい、銀色の幅80センチほどの固まりかけの粘液の痕跡が、子供達のいた一家に向かっているのだ。血相を変えて、様子を見に行った村人が見たものは。
 まるで馬のような大きさの何かが、障子を突き破り、その一帯を銀色の粘液で多い、家族だったものは眠っている所を上から巨大な金ヤスリで削られたが如き、肉と骨と皮と血で構成された人間だったものの痕跡であった。
 そして、毎日毎日、同じ事が続いた。夜半に井戸から忍び出ては、お堂でいたずらした順番に『破壊』されていく。
 二日目で同室は危険と悟ると、親たちは子と部屋を同じくする事を忌む。
 そして、最後にいたずらをやらかした治──(九つの最年長である)が、残るのみとなった。

──そして、時は早送りされ、治の絶望に満ちた声が風信術を通じて伝わってくる。
「急ぎだな。確か、足長村は精霊門の近くだった筈」
 開拓者達が立ち上がっていく。
「治という子には灸を据える必要がありそうだが、塩を絞る相手の方を先に相手しないとな」
 足早に進んでいく開拓者の足音が第二十九幕の開拓史の始まりであった。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
暁 露蝶(ia1020
15歳・女・泰
桐(ia1102
14歳・男・巫
神鷹 弦一郎(ia5349
24歳・男・弓
和奏(ia8807
17歳・男・志
ジェシュファ・ロッズ(ia9087
11歳・男・魔
ベルトロイド・ロッズ(ia9729
11歳・男・志


■リプレイ本文

「う〜ん、こう言うのって自業自得って言うのかねぇ?」
 全速力で長足村を見下ろす丘に登った少年、ベルトロイド・ロッズ(ia9729)、広い村落に点々と連なる異物とも言える地点を見いだす
「────」
 ジェシュファ・ロッズ(ia9087)が一方で、肩を大きく上下さながらうり二つベルトロイド少年とは違うオーラ、真逆の印象を与える瞳の色で周囲を見やる。
 もちろん、ジェシュファ少年も開拓者ではある。ひとくちに一般人を凌駕するという志体持ちでも、先天、後天ともに個人の資質によって大きな、精神的肉体的の才能の伸びはある。
 血縁者ではどうなるかは莫大な判例(そして、それはアヤカシとの戦いの歴史でもあるが)が待たれる。
 最も、ベルトロイ少年は問いを投げかけたが、それが『断定事項となるまで扁桃のない事も判っている』。ベルトロイとジェシュフェアの儀式のようなものである。
 ともあれふたりは、見る人によっては風に白とも銀ともとれる色居合いの髪を嬲らせていた。
 急な坂を、和奏(ia8807)は井戸のチェックポイントを確認して、書き付けた雑記帳を懐に入れるとつい、声を殺して呟く。
(‥‥我子の命より自分の方が大事‥‥言出し難いことかと思っていましたが、さっくり態度に出てしまう方々もいるのですね‥‥)
 そうこうしている内に、治少年の身柄は、村長宅で、弓を背負った神鷹 弦一郎(ia5349)により確保された。
 何も言わず、ジッと治少年視線を合わせる弦一郎。
(‥‥悪戯が過ぎたな少年。どんな事にも何かしら意味があるものだ。
 その目でしかと見ろ。そして心に刻んでおけ。
 二度と同じ過ちを繰り返さぬように、な)
 込められたメッセージがどれだけ、理解されたかは定かではない。
 しばしの後、治少年は気合い負けして、一歩退いた。
「何をやっているんですか? あなたも!? あなたも!」
 弦一郎も桐(ia1102)も感情──最も原初的な感情『恐怖』──に心が浸食されている、村長が怒鳴り散らす。
 弦一郎としては灸を据えた程度の事。しかし、桐の方法論は治少年を囮にして、もちろん開拓者達が全力で守護する、それは前提ではあるが、とはいえこの親は自分の子供だけは可愛いようであった。
「待ってもらうで」
 ぱっと見だけは、軽い兄チャンに見える、しかし、そのメッキを剥がした地金には様々な戦いの傷跡を勲章としていた。
 天津疾也(ia0019)は伊達眼鏡を直しながら──。
「やれやれ、リーダーなんて柄やないんやけどな。とはいえ任された以上はきっちりやらしてもらうけどな」
 疾也は村長の祖父に話を通して、治少年を預からしてもらい、アヤカシ退治のときも傍にいさせて、ほかの村人に被害が及ばないようにするのと今回の不始末がどういうことに繋がったのかをしっかりと教えてお灸をすえさせるために傍にいさせることの許可をもらう──つもりだったが、アヤカシ退治に同行させる方法論に関して疾也は残念ながら考えていなかった。
 アヤカシと戦う自分達の側にいさせる、それも自分達の側にいる方が安全だからだというが、どうやって治の安全を守る?
 実力を示すにはいかな手段が適当か? そもそも相手のアヤカシの強さは判らないというのに?
 長老は疾也は意外と気骨のある人物だと舌を巻いた。
 そこへ油の香り。
 油の詰まった壺をいくつも携えた水鏡 絵梨乃(ia0191)の腕から、暁 露蝶(ia1020)が丁寧に足下へと壺を置いていく。
 その壺はまるで絵梨乃の肉感的なボディラインに恥じ入っている可能様に思えた。
「どうあっても、アヤカシとのいくさに治を連れて行くわけにはいきませんでしょうか、村長さん? アヤカシが相手でしたたら、ボク達の側以上に安全な所なんて治にはないと思いますよ」
 一通り自分の意見を述べると、絵梨乃は自分の荷物に隠していた──というか、他の荷物が芋ようかんに埋もれている状態であったが。
(一本──あと一本だけなら、大丈夫、今日はここまで‥‥だから)
「絵梨乃は変わらない」
「弦一郎? 芋ようかんは一竿しかあげられません」
「あの子の前でも笑えればいいのですけど」
「犯した血の過ちは、自らの涙で濯ぐしかないと思います。どれくらい時間が経っても。でも、時間だけでも、涙だけでも過ちは拭えないでしょう」
「(‥‥両手に芋ようかん持っていなければスゴイ人なんですけどね)

 その暮れなずむ頃、疾也は半壊した家々を回る。治とと共に罰当たりな事を行って、命を落とした面々だ。
 感極まって涙をながしているが、疾也の目には嫌な予感が見えてきた。
(何ぞ、偉く大きくなっとる様な気がせえへんか?)

「蛞蝓ねぇ。斬ったり突いたりって効かなそうだぁ」
 油を調達しに動いているのに対し、ロッズ家のふたり組の内ベルトロイド少年が、陽の出ている内に倒そうと先走るが、それをやんわりと止めるジェシュファ。
「低俗なサガだと、危ない所に近づいた子供はね〜」
「では、高尚な英雄物語だったら?」
「これから考えるよ。まあ、自分でも対処方法を考えあぐねているなら、村長の家に戻る方がいいと思うよ」
 ジェシュフェアも、けがをアヤカシに負わされた村人に話を聞こうとしていたが、アヤカシと接触して生きていた者はいない。
 人間とアヤカシの間にはあまりにも隔絶した力の違いがある。
 ともあれ舞台は村長宅へ。
 和秦は村長宅のいろり端で、時折精神集中しながらアヤカシの気配を探っていた。
 彼の超感覚に捉えたのは全長3メートルほどの『何か』。
 周囲を見渡しても影はない。
 ──ならば水流か!
 そして、周囲に焚かれたかがり火が、激しく燃えさかり、辺りを昼間のように照らしている。
 嫌らしい雰囲気と水音から、和泰の警告のあった牛並みの大きさを持った蛞蝓が村長の家にまっしぐらに向かっているのを感じた。
(ハル見ておきや、世の中取り戻しようのない、過ちかてあるんや──)
 臨時の柵越しに、疾也は弓の弦に手をかける。絵梨乃が立ち上がり、練り上げた闘気を打ち込む。一瞬、怯み、粘膜を一部削いだが、決定打にはならない。
 他人の比較が無い為、法力が有効なのか、それとも物質的な攻撃が有効なのかは初撃では判断材料はない。
 絵梨乃は赤い目を輝かせる!
「酒で酔えず、油で踊り死に遊ばせ」
 油の樽を変幻自在の蹴りで、転がしながら、中身をぶちまける。
 一瞬、太陽が落ちたような錯覚を覚える。露蝶がかがり火を放り込んだのだ。
 巻き上がる異臭と、振動、奇音をまき散らしながら粘液の固まりになっていく。更に空間が炎毎『歪む』──村長宅の二階から治と手をつないだ、桐の唱えた術によるものだ。
「護りますから怖くてもいてください、君のしたことの結果なんですから」
 桐の手には大きな振るえが伝わっている。
 そこへ立て続けに弓弦をかき鳴らす音。
 それと同じ数だけ、アヤカシの体に突き立つ矢玉。
「‥‥悪戯が過ぎたな少年。どんな事にも何かしら意味があるものだ。
 その目でしかと見ろ。そして心に刻んでおけ。
 二度と同じ過ちを繰り返さぬように、な」
 弦一郎の手練の業、通常の人間にとっては、矢を一本射た様にしか見えないだろう。
 アヤカシは逃走を図る。
 しかし、逃げ道は既に和泰の手によってふさがれている。見事なまでの用意周到さ、出会った所に更に空間毎絞られる。今度の法力はジェシュフェアの手によるものだ。動きが止まった所でベルトロイドが両手に構えた槍が突き込まれる。この槍も穂先から焔を吹き出し、情け容赦なく、水分を失った、アヤカシの命脈を絶つ。

 治に関しては──幼少の為、村の寺で修行──入門という訳ではない。最も、治が真っ先にするのは寺の整理二なりそうであったが。

 鞘かな念仏が、第二十九幕の開拓の幕を引いた。