鬼やらい
マスター名:成瀬丈二
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/15 15:52



■オープニング本文

 如月である。その中で開拓者ギルドに奇妙な依頼が舞い込んできた。
『奇妙』
 それが何を意味するか開拓者は良く判っているはずである。
 つまり、『日常的』という事だ。
「はあ、依頼は節分の鬼退治の的になってくれ? 普通の方でも出来ると思いますが──志体持ちの方に依頼する程の事ではないと思いますが」
 勿論、この言葉を発した受付嬢は、宇宙的恐怖や、世界の果てを見る様な、蒟蒻問答な返答をワクワクしながら待っていた。
「はい、つまり本物の豚鬼が近くにいる──今までは村に開拓者が『あえて』氏族の枠組みに入り、村を守ってきたのですが、先日不帰の方となりました。その方が今まで開拓者がいる、という事で頭の悪いアヤカシに対して、にらみを利かせていたのですが、開拓者の方に、一時的に──」
「話の腰を折るようで申し訳ありません、威圧ととは言わず素直に開拓者に豚鬼退治を依頼すればいいのでは?」
「とんでもない! 負けたらどうするんです、それこそ生き残った豚鬼の蹂躙を許します。最低限の被害で、最低限の安全がうちの村のモットーでして」
「はあ、モットーですか。でも、話を総合すると、そちらの村に出るのは『豚鬼』、腕っ節は普通だが、強いものにはとことん弱く、弱いものにはとことん強い。性根が非常に腐っているアヤカシですね。お客様が来年も再来年も来てくだされば、毎年金を落としてくれるお得意様ですが、自分の良心は毎年、豚鬼との恐怖に駆られるより、臭い匂いは元から断たねば駄目だ、と訴えます」
「しかし、金勘定の問題が──」
「大丈夫! 開拓者は正義の味方です!! 豚鬼の十体くらいひとりで殲滅できます」
 嘘ではないが、その依頼人には荒唐無稽に聞こえた。
 実際、昨今のアヤカシの活性化からすると、対抗する開拓者も何が起きても不思議ではない。
「茂みで視界の下半分が遮られる、谷間に豚鬼は住む。推定十体。出入り口の数は不明だが、谷の外に出ているものはふたつしか見いだされていない。
 谷には水源となる川が流れているので、その汚染に注意。
 村人の助成は一切期待できない。
 必要な情報は先行した開拓者ギルドのスポークスマン、風祭均に確認すべし」
 言い切ってしまった受付嬢が、受付の書面に墨で流暢に文面を認める音が開拓記第20幕の始まりを告げた。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
鬼啼里 鎮璃(ia0871
18歳・男・志
四方山 連徳(ia1719
17歳・女・陰
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
鞘(ia9215
19歳・女・弓


■リプレイ本文

 端的に女傑、四方山 連徳(ia1719)が言うところによると──。
「豚は外、福は内──いや、これでは豚さんに失礼と思うでござるから‥‥鬼は外、豚は内でござるね」
 いかに『だーくひーろー』らしい悪のカリスマが、時と場合と、天候と見る人によっては出ているのではないか、という雰囲気を醸し出してる。
ともあれ、彼女の前におかれている、空っぽの椀には、天津疾也(ia0019)特製の雑炊っぽい何かがあった。
 彼のメガネはまかない造りの時の湯気で曇っている(伊達眼鏡ではあるが)。
 疾也にしてみれば、捨てられた子犬の様な、連徳の欠食児童っぷりに思わず涙が出て、厨房で片手間に造ったまかない同様の料理であるが。
 連得にしてみればもっと大きな恩義を感じているのかも知れない。
 そんな中、全身を血の様な赤いマントに身を包んだ凄い奴『赤マント(ia3521)』が、今回の現地調査員の志士『風祭均(かざまつり・ひとし)』と共に戻ってきていた。
 赤マントにしてみれば、ギルドに寄せられた風祭の報告は曖昧で、作戦を立てるにはもう少し詳細な情報が欲しいところであり、皆で行こうという所だった。とはいうものの、疾也が連得の腹を満たしてやるのに動き出したところで、全員で偵察に行く意義がないのではないか? と思い至り、土地勘が全くない訳でもないだろうと思われる均のみを連れて、彼の報告書とつきあわせてその曖昧な所を確認していた。
 過去形なのは来訪者を出迎えにきた豚鬼と目が合ったらからだ、戦力を揃える(多分、赤マントだけなら余裕どころか、ぶっちぎりで、引き離せる)方が逆撃をかますのに有利だろうと、判断して退却したところだ。途中で均のピッチに会わせざるを得なかったが、豚鬼には志体持ちと、一般人の差は判らない──多分。
 赤マントが確認できた数は12体。予想より多い。
 ちなみに生きているのは11体。赤マントの返り討ちにした分である。
 手段は気功波。意表を旨く突けたのだろう
 一方、弓取りなのに、箙と呼ばれず、鞘(ia9215)と呼ばれる弓術士である彼女は、大雑把な地図を広げては、谷の上からか、それとも谷沿いに煙を焚いてあぶり出しにする戦術を提唱する、きちんと打ち合わせていた通りだ。
「しかし、こんな田舎にしても、こんな形で共存しようとはね、アヤカシと──」
 鞘は半ば呆れたいた。疾也は首を横に振る。
 疾也は別の意味で憤慨していた。
 ここ数年の鬼との共存に使う費用と、得られる安全はあきらかに費用の方が上回っている『盗人に追い銭』とはまさにこの事だと。
 鬼啼里 鎮璃(ia0871)も同じように憤っていた。
「────‥‥最低限の被害で、最低限の安全ですか。そんな危うい均衡は長続きはしないと思うのです」
 葛切 カズラ(ia0725)も、豚鬼との関係はシンプルに見ていた。
「何だか借金したら利息だけで搾り取られそうな村にも思えるわね」
「折角ですから風祭さんが情報を纏めてくれたという話ですからね。情報はただだと思って居る方にはしないと思うのです、折角ですから風祭さんが情報を纏めてしないと思うのです、折角ですから風祭さんが情報を纏めてくれたのですから、情報を纏めない手はないでしょう」

 怪しげなオーラを立ち上らせているカズラも、豚鬼との戦場を単純に谷川沿いにしない、というのが厄介だと認識した。
「一番、ラクなのは河を汚させない様に、開けた場所まで豚鬼どもを、誘導撃破することよね。朱猫さん(と、殊更にカズラは『赤マント』の本名を呼ぶ)──? 道は確認したでしょう‥‥あなたみたいな、一見すると弱そうな外見って弱いものにとことん強気な下種な豚鬼連中の注意をひくのにもってこいなの、そんな程度の連中から逃げ遅れる事なんて事、あり得ないわよね?」
「きみの言うとおり! 何人たりとも僕の前は走らせない!!」
 断言する赤マントの言葉に、カズラは椿が落ちる様な笑みを浮かべた。
「その言葉を待っていたわ」
「でもね、全部の通り口を発見したって訳じゃないから」
「────!」
 考えておくべきシチュエーションだったわ。 
 疾也は枯れ葉に朽ち木を積み上げて、乾燥した空気の中、着火すれば速やかに燃え上がり、谷に煙を吹き込ませ(風向きが良ければ──だが)、相手を呼吸困難にする策を取っていた。
 これならば、河を汚さない、というリクエストにも応えられるだろう。
 風向きさえ無事ならば──だが。

 朽ちたものの塊に鎮璃は松明を投じた。
 乾燥した大気は発火を妨げることなく、発火点を超え、ぶすぶすと煙を上げていく。
 豚鬼とて反応がない訳ではない。
 連徳が予め仕掛けておいた、地縛霊の数々が見つけられた入り口で霊力を放出豚鬼たちへの足止めとなる。
 彼ら(豚鬼ども)には読めないだろうが、連徳が術を仕込んだときに入り口付近に置いていた呪符には墨痕鮮やかに『この者、財産略取の罪、許し難し』と認められていた。
 これで3体が落ちた。
「急ぎて律令の如く為し、万物事如くを斬刻め!」

 続いてカズラは妖艶な表情を造り、自らの放った式神たちが、粘液に包まれた、のた狂う触手の塊となり豚鬼を責めさいなみ、骨を砕き、関節を外し、体中の穴から侵入を果たそうとする光景を己の目で見る事で、次のアイディアを思いついた芸術家の様な心境へと誘われていた。
(それでも足りない──火力が足りない‥‥もっと威力と衝撃を)
 自分に満足していない、それはまだ成長できるという証拠。
(秩序にして悪なる独蛇よ、我が意に従い、その威を振るえ!!)
 その脇で疾也が理穴弓を引き絞り、撓みが頂点に発したところで、一矢を放つ。
 カズラが次の呪符を取り出そうとした瞬間、彼女を遠距離から串刺しにしようとした豚鬼が鎖骨のあたり深々と、突き立った矢が運動エネルギーで、谷の上から立ち上がろうとするが、果たせず、切り立った崖に体を数度打ち付けて、谷岸に落ちた。
 命はない。
 続く3体の弓持ちは『鞘』が圧迫、ギリギリで攻撃に迫る動きを封じテイク。
 赤マントは煙の中、目立つ黄昏の如き赤さが的になる。しかし、そんな事は当然のこと。この一同で最も早い彼女に触れる事は、何かの間違いでもなければあり得ない。
 目立つ目標に攻撃を集中しろ、と谷蠅力?罎聾世辰討〓襪?⊂笋伴戚蕕力?發頬イせ澆瓩蕕譴討い襦?
 多少風向きが変わったが、その程度は開拓者ならば計算の内。煙から飛びだした──赤マントを追ってきた豚鬼たちは、上からの援護射撃があると判断して飛びだしたらしいが、その援護射撃はすでに沈黙させられていた、ただそれだけの事であった。
 合計、豚鬼は十四体、四体が弓を持っていた。ただし、これを使える様に修理するなら、新しい弓を買った方が安上がりだ、その程度の扱いしかされていない。
 赤マントの提唱で、豚鬼たちは洞窟に埋められる事になった。豚鬼自身が移動する段階で空気と地に溶ける様に姿を失っていく。殆ど埋める、と呼ばれるに値した者はなかった。
 河を汚さない様に、という依頼人からの指示を守るためのアイディアだったのだろう。 一同は渓谷から水を浴びせ、炎を消す。残念ながら手近に砂はなかった。
 そして、一同は後ろから声を聞くのであった。
「鬼はー外!! 福は内ー!!」
 鎮璃は最初の思考に戻り、出ていく自分たちは『鬼』なのかと、一瞬考えてしまった。「いや、単なるマレビトか」
 開拓記第20幕閉幕。