雷霆の騎士
マスター名:成瀬丈二
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 15人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/11 19:26



■オープニング本文

 風切り天を駆ける翼、鍛え上げられた六肢──四肢ではない──はまさしく異形であった。
 馬の首を切り落とし、そこに人間の上半身を結合、人としての二本の腕、馬体としての四本の足。それが、このアヤカシを描写するのに相応しい文言だったろう。
 更に、その瞳が一閃すると数十メートルに及ぶ雷撃が伸び、それだけでは殺戮の本能を満足できぬのか、背には矢筒を蔓で体にくくり、両の手にはロングボウの弦が殺戮のバラードを歌う刻を待っていた。
「はっはっは、大丈夫です。開拓者が偶然、ここに通りかかっているのですから問題はナッシング!」
 旅の少年開拓者、風祭均が彼を引率している(均の中では立場が逆転している)一向に、愛と正義の誓いにかけ、勇気を持って戦おうと、鼓舞する。
 一般論かどうかは知らないが、開拓者はセイギノミカタが多いようだ、金を取るが。金を取らずに願いを聞いてくれるのはカミサマくらいである(聞いてくれるだけという説もあるが)。
 草原のまっただ中、食うに困らない程度の牧畜社会の村に、トラブルが降りかかる。
 それだけでは足りないかのように。
「ヒト、コロス、マエ、ケモノ、スベテ、コロス。ヒト、イチバン、サイゴ、クウ、カクゴ、シロ」
 困った事に相手は知性を持っているようだ。生半可な誘導では殺戮意志を食い止められない。
「いやー、ドキドキする程、大ピンチですな」

 勝利条件:村人全員の無事。
 開拓記十一章開幕。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
一之瀬・大河(ia0115
21歳・男・志
当摩 彰人(ia0214
19歳・男・サ
美空(ia0225
13歳・女・砂
月城 紗夜(ia0740
18歳・女・陰
福幸 喜寿(ia0924
20歳・女・ジ
フィー(ia1048
15歳・女・巫
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
八嶋 双伍(ia2195
23歳・男・陰
安宅 聖(ia5020
17歳・女・志
朝倉 影司(ia5385
20歳・男・シ
雲母(ia6295
20歳・女・陰
柊 かなた(ia7338
22歳・男・弓
燐瀬 葉(ia7653
17歳・女・巫
黄忠(ia8135
38歳・男・弓


■リプレイ本文

 風の音の中、稲荷神宮に待避した村人を前に、一之瀬・大河(ia0115)は神楽の町が地震ででも滅びたかのような仏頂面だった。虚脱感に襲われたまま、村人に言葉を飛ばす。
「案内をしてくれている連中が居る。男は年老いた者を背負って逃げろ。殿は開拓者が勤める」
 その言葉に真っ向から反発するのは福幸 喜寿(ia0924)であった。
「家の中に居る方が安全だよ、陰陽師が色々探っているから、危ない事は止めようよ」
「何を!? ここは逃げるのが最善だろう」
「逃げる? どこへ──アヤカシの翼に追いつかれるよ。
 みんながみんなうちら開拓者の様に、弱くない訳じゃないんだよ。
 一発食らえば、村人は死ぬんだ。
 せめて、開拓者だけが的になるようにした方が良いよ」
 この口論に村人は不安の色を隠せない。
 困惑する大河であったが、緊張をほぐすべく、喜寿は忍ばせていたお手玉を取り出す。
 子供達の注意が引きつけられた。
「さて、お手玉をするよ? 何個までいくかな、ちゃんと数えてみようね」
 周囲の空気が和らぐ。
「ひとーつ、ふたーつ、みーっつ」
 大体、20個くらいのお手玉を同時に放る。流しの芸人でも、なかなか出来そうにないことであった。
「ほなら、一差し舞ひょうか? お代は報酬の内という事でイロつけたるわ」
 燐瀬 葉(ia7653)が一振りで扇子を開くと、幻妙な舞を披露する。小柄なれど紅い髪と、扇子の色彩が舞にアクセントをくわえていく。 
 その魔法じみた光景を見ながら──。
「続き‥‥後に‥‥した方が‥‥いい」
 この事件に巻き込まれた(まあ、殆どの開拓者はそうだが)フィー(ia1048)が、今にも消え去りそうな声を出す。
「神宮に均ちゃんが‥‥待っている‥‥そこに‥‥人を集めて」
「大体判った」
 “自称”通りすがりの冒険者である、開拓者の巴 渓(ia1334)は全身に負った稲妻による火傷を押して言った。身を以て、相手の力量を図ろうとしたのだが、少なくとも白兵戦の間合いに入りたがる相手ではないと判っただけだ。
 これだけ無茶が出来るのも渓が開拓者だからである。一般人ならば間違いなく死んでいる。
 現に半死半生だ。
「渓ちゃんの、いたいの‥‥いたいの‥‥飛んでいけ」
 葉も先ほどの舞と似た、しかし明らかに違う舞で精霊と交換する。周囲が静まった。
 か細い声と共に発動されるフィーの神風恩寵によって渓の傷が癒されていく。
「てめぇら、優しいな。
 でも、ちゃん扱いはな‥‥。とりあえず、あのアヤカシには俺の練った程度の気功破では届かん──死ぬかと思った──もっとも、そうそう死ねないがな」
 葉はその言葉に反発を覚えた。
「何言うねん、ひとりで突っ込んでおいて、何を偉そうにしとるのや? 志体持ちがひとり欠ける村人の安全を削る事やで? そこらへんの勘定も出来へんのが、大きな口を叩くのや、お笑いぐさや、ホンンマ」
 
 安宅 聖(ia5020)も慎重論を唱えていた。正確には論争になりそうな所に冷や水をかけたという所であろうか。
「冷静に考えましょう。これだけ大量の開拓者がいて、避難所に成りそうな場所までは短時間では到着できません。たしか、老いた方々を背負うのは大事です。
 体力の配分という意味でも納得がいきます。
 しかし、それを何回も開拓者が全員護衛して、数度に渡って、人を動かすのは兵力を分散します。
 かといって、同時に大脱出を図るには悲しいかな、アヤカシの攻撃を防ぎきる力量はありません」
 淡々と述べる。それが彼女の状況分析であった。
 もちろん、柊 かなた(ia7338)もこの状況に巻き込まれた口であるが、弟の為に、何か精がつくものはないか? と、流れてきた口であった。
 報酬をもらうことは当然と考え、明確に依頼が、村人を救う事だと割り切る。
 山羊が何頭死のうと、村人に害がなければ、もらうべきものはもらう。
 施しは受けないが、正当なる報酬を断る気質ではない。勝ち取った報酬で癒してこそ弟の生きる意味があるかもしれない。
「行きたい人はそちらへ。
 私は囮組に合流します。
 少なくとも議論だけしていて報酬を頂くのは恥ずかしい事です。
 何であれ、依頼人の意図通りに動く事だけが大事です」
 流石に力量が伴わない者は報酬を受け取る前に死ぬだろう、とは言わないが、かなたはそこまで他人に意見する気になれなかった。
 それとは対照的に朝倉 影司(ia5385)はまぶたを重たげに持ち上げ、紫の瞳をのぞかせると呟いた。
「俺の予定とは違いますね」
 では、あなたの状況は? と、喜寿が問う。
「護送だけです。
 それならば様々な状況を考えています。
 完璧だと断言できませんが、俺なりに考えています。
 とはいえ、開拓者同士で行動の指針が違う中途半端な状況は困ります。
 まあ、開拓者もたまたま居合わせた寄せ集め。
 指導者が明確でないのはやっかいです。
 多数決にしますか? そんな余裕があったら、事態を打破に動きますが、やっぱり何を以て打破とするかで、揉めるでしょう。違いますか?」
 その言葉に雲母(ia6295)は実力が伴っていなければ憎上慢とも取れる口調で、断言した。
「巻き込まれただけだが、仕事は仕事。さっさと済ませよう」
 喋りながらも器用に煙管をくわえている。
「避難民は集めた。後はアヤカシの後背を討つ。もっとも、相手も黙って射られ放題になるとは貴様ら程度でも判るだろう? その為には色々策を論じる必要があるな。しかし、その為の協調ひとつ取れないとは。私が立って導かねばならぬか?」

 芳香が鼻をくすぐる、焼けた山羊の匂いだ。あのアヤカシは自分の宣言通り、律儀にも家畜から、血祭りに上げているようだ。
 たかが家畜、されど家畜。貴重な財産には代わりがないが、村人の命と天秤にかけるなら、大河の思考は村人の命に方に傾くだろう。
「面倒だ‥‥さて、先回りするか。でも、どこへ行くべきか、居合わせたばかりじゃ、まるで判らないな」
「先回りして被害無し、という上策がとれなければ、こちらの判る範疇で動かせるのが中策かと。神宮に人を向かわせるかどうかは割れていますので、できるだけ遠くに──まあ、基本かと」
 八嶋 双伍(ia2195)は言って、大法螺笛を取り出す。今にも潮の匂いが漂ってきそうであった。

 とりあえず、ふたりは柵を空けて、山羊たちを興奮させて的を分散。アヤカシが狙う的を増やす。
 少なくとも、村人の命を最優先とするならば、これはひとつの手段だろう。
「間合いが問題だよな。向こうが降りてくれれば、一撃浴びせる機会もあるかも、ま無理か」 
 どこまでが本音かは判らない、当摩 彰人(ia0214)は笑みを浮かべながら、避難民とは別の方向に歩みを向ける。
 向こうが開拓者というアヤカシの好敵手の存在を知っているなら、百数十名もそぞろ歩きをするよりは、囮としては役に立つという判断。
 自分は運命の悪意か善意か、痛みを感じない。体は感じないが、他人の心の痛みは判るつもりであった。
「さて、どこまで耐えられるかな、こちらに来てくれれば、弓取りのお嬢さん方が悪くない戦いをしてくれるだろう」
 その裾を握って“仲間”の存在を確認するのは、歩き巫女の美空(ia0225)。一際小さい体と、彰人の事を気遣う風情である。痛みがわからない彼は限度が判らない、事もある。
「ねえ、このアヤカシを倒したら──」
「何だい?」
「村の祭りで踊るっていう『メーメー踊り』を教えてもらうんだ」
「そうか──」
 満面の笑みを彰人は浮かべた。笑顔の絆は例え、美空の視力に障りがあっても、届くだろう。それ以上に強い者はない。強いて挙げれば、今日の自分より明日の自分の方が強いだろう。
「お前が空と一緒に引きつけてくれ、俺はひとりでいい的になってやるぜ」
 風は血の臭いを孕んでいた。月城 紗夜(ia0740)が自らの血を的にアヤカシをおびき寄せようという算段である。
「困った、律儀に、家畜を、狙うとは、予想外、だった──ならば血潮を、徒に、流すより、体力を、万全に、するのが、最良」
 懐から血を吸って紅くなった呪符を取り出し、短い文句と念により、瘴気が形を為し蝶となる。
「蝶の、翅は―――強い、わ」
 更に練力を使って、深紅の蝶を生み出す。

「‥‥ふん、雷を操るのは正義側だと相場は決まっておるのにのお」
 黄忠(ia8135)が最後の避難民を確認し終えると、弓に矢を番えた。
 他の開拓者達も集っている。強いて言えば、均が神宮の守りに入っているくらいか。
 懐に北条手裏剣を隠し持った朝比奈 空(ia0086)も、緊張の色を隠せない。巫女故に切る突くといった行為は得手ではない。
 切り札の『浄炎』は間合いがあまりにも短すぎた。
「物事は移ろうもの、機を得る事──人であれ、アヤカシであれ、同じ事──多分、今がその気なのでしょう」
 とはいえ、彼女は囮として走り回り、深手を負っていた。自らの練力と、他人の傷を秤にかける身である。
 大河の白弓も超えた間合いである。渓の情報がなければ、厄介な事になっていただろう。
 そこで双伍が印を切り、空中に呪符を放つ。周囲の瘴気を再構成して、一体の巨竜となった。
 アヤカシは動く。予備知識が無ければ、幻術は非常に効果がある。周囲の開拓者でも唐突な存在に内心驚くものがいた。
 そして、アヤカシの矢が抜き放たれる。それが素通りするのを見て、ようやく自分がペテンに引っかかった事に気づく。
 そして、その間合いは雲母と、かなたの巨弓『朏』の間合いに入っていた。
 放たれた矢は翼を打ち抜き、羽毛を散らす。瘴気と化していく羽毛。
 更に容赦なく飛び道具は射られる。
 アヤカシが失速、もしくは翼によって飛行を維持できなくなる。
 落下地点を予測するのはたやすい事だった。
 矢は尽き、雷撃が降り注ぐ。しかし、無尽蔵の練力を持ったアヤカシはいない。
「ニニゲンガ、ニンゲンテイド!」
 立ち上がり、反撃に出ようとした瞬間、乱刃が殺到する。
「残念だったね貴様が相手にしたのは私と開拓者サマだよ──時間の無駄だ、疾く失せろ」
 煙管をくわえたままの雲母が脳天を射貫く。
 血は出ず、横たわったアヤカシは時間の推移と共に、地に消え、大気に溶けていった。
「家畜の被害も少なく済んだ。
 こうして、アヤカシの一体が打ち倒された。
 おそらく、開拓者がいなければ、この一帯は相応の被害を受けていただろう。
 かなたは口約束で交わされただけの金額を受け取り、その一部で──。
「何か栄養のつく、美味しいものはないか?」
 と、尋ね、醍醐を買っていって、神楽に帰還した。
「あのアヤカシ、血の代償を、払った、少なくとも、罪科に、相応分は──」
 紗夜がしばしの平穏を取り戻した村を振り返った。
 開拓記十一幕閉幕。