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■オープニング本文 空高く馬肥ゆる秋である。 もっとも肥えた馬は目の前の戦に駆り出されているが。 どうも、開拓を全体としてみると、停滞している観がある。それでも直接関係ない、面々は存在するものである。 「えっさ、ほっさ、ほらさ、こらさ」 と、かけ声と共に山に分け入る五人程の集団。四人は上から下まで黒ずくめの衣装。残りひとりは女性ながらに頭分らしく、煙管をくゆらせながら、紫煙を大きく吸い込む。 「目指す紅葉はもうすぐだからね──下僕ども、気合い入れて行きな!」 啖呵を切るあたり鉄火肌かもしれない。 「判りました葵さま」 葵(アオイ)というのが、女の名前らしい。 腰には拡げれば半畳はありそうな呪符を持っている。 もちろん、虚仮威しである。通常のものと性能は変わらないが、単に重いだけ。 呪符を少し苦労して抜くと、隠れていた手近な木こりに目がけて投げつける。 見る見るうちに呪符が無数の氷柱と化して、木こりの影を打ち抜くと、目に見えて木こりの動きは鈍った。 「陰の流れ──穏妙氷釘」 要は単なる呪縛符であるが、彼女は自分が他人と違う事を殊更にアピールしたいらしい。 ヴィジュアルにこだわりがあるのだろう。 一応、付け加えておくが、葵は陰陽師という事らしい。あまり正当とは言えないタイプの。 「やれやれ、雑魚相手に手間取ったもんだ。殺すのも後味悪いから、縛って転がしておきな」 呪縛符を一回打っただけで、葵は肩で大きく息をする。 「あたし達の目標は、枝振りのいい紅葉を一本持って帰るだけだ。根っこ毎引っこ抜いてやれば、依頼人も否とは言わないだろうよ。 まったく泣かせる話じゃないか、祖父の死に際に満開の紅葉を見せたい──だから、そこまで護送してくれ、じゃなくて、紅葉の方を持ってきてくれ、なんて手前勝手な事、生半可なワガママじゃ言えないよ──からって、開拓者ギルドじゃ七面倒だから、はぐれもののあたしたちに話を持ってくるなんて、金を出せばお客様だ。お客様は精霊です、なんて言葉は金を出してもらえるから言える言葉だよ」 言って、葵は大地に煙管のカスを落とした。 「目指すは山頂だよ! 下僕ども張り切ってお行き! まあ、荷物が重いから、そうは簡単に進めないけどね」 逃げ出した木こりが急いで、村の若い衆に伝えると、一様に苦い顔をする。陰陽師は良く判らないが、相手にはし辛いだろう。ならば──。 「という事なので、急ぎの仕事お願いします」 風信術により、急ぎ神楽へと開拓者の依頼を送った。 依頼内容は紅葉を荒らされる前に、良く判らないこの集団を、山の自然を荒らさない程度の実力行使で捉える事。 安いが、割に合わないという訳ではないだろう。 ──開拓記第9章開幕。 |
■参加者一覧
秘純 織歌(ia1132)
17歳・女・巫
竹内 洋(ia4805)
12歳・男・志
深凪 悠里(ia5376)
19歳・男・シ
慧(ia6088)
20歳・男・シ
朱点童子(ia6471)
18歳・男・シ
鳴崎 セツナ(ia7497)
16歳・男・陰 |
■リプレイ本文 「いや──そう言われても」 布で瞳を隠した秘純 織歌(ia1132)が、葵たちの位置を木こりたちに問いただす。 彼らの返答は、道は判るが、現在位置など想定も出来ない。 彼らが山頂を目指すと言っただけだ。 「うーん、確かに迷惑だけど、あんまり悪人に思えないのは何故だろう? とにかく、捕まえてお説教くらいはしないとね」 と、銀髪緑眼の美女、大人びた雰囲気を周囲に認識させているが、実際の所、年も年齢も諸人の予想を裏切っている少年シノビは深凪 悠里(ia5376)その人であった。 しかし、木こりは納得しない。 「あんた達、何を言っているんだ? こちらにマヤカシを使ったんだ、それだけでも十分すぎるだろう!!」 「いや、彼らの人の迷惑顧みずと言う態度は確かに悪い。木こりさん達が忙しいのに、何かやりたい事があるんだったら、まず、地元の人に話を通して、事情を説明、協力を仰ぐのが筋だと言いたいんだが──」 「言葉尻を取る様だが、忙しくなければ山を荒らしてもいいのか? 最初に向こうが何かをした段階で、向こうに話し合う気がないのがはっきりしているだろう!? 確かに話を通せば、何か事情があると折れたかもしれない。向こうの方が一方的に──」 (「裏家業の陰陽師か、この世の中の所為なのか」) 手傷を織歌に癒してもらった慧(ia6088)はここで話を混ぜ返すと、ややこしくなると判断した。 「ならば一刻、一秒を急ぐ為に、山の道案内を頼みたい。難所などを教えてもらっても、急げるとは限らぬ故」 とりえあえず、木こりたちと賊の関係には言及しない。 「うまい酒を飲むために、いっちょやりますかぁ!」 朱点童子(ia6471)が意気をあげる。もちろん、笠をかぶったままである。ここまで話をしなかったのは、単純に面倒だったから、特に他意はない。 「みんな、山頂へ急ごう!」 少年ながらも、一人前の開拓者として、竹内 洋(ia4805)が皆を後押しすべく、頑張った。 誰言うともなく、立ち上がり木こりと供に件の山へと急いだ。 森の中は暖色系の装いをした紅葉たちが出迎えてくれる。しかし、一部の者には紅は血の色を想起させた。 シノビふたりがそのまま、山頂へ急ぐ。 「大丈夫ですかね?」 木こりが朱点童子に問うた。 「知らねーな。何だったら賭けるか? 俺は奴らの勝利に有り金全部賭けてもいいがな?」 あっさりと返す朱点童子に、木こりは絶句する。 「暇を潰したきゃ、俺と花札でもやるか? 賭け事と酒以外は面倒くさいんでな。あ、一応、仕事は予算の範疇で最善を。もっとも良心価格のつもりだぜ」 袂から本当に花札の絵札を取り出す朱点童子であった。 先行した慧がそのシノビとしての能力を発揮する。 金色の目が輝く所、急所を痛撃されて賊達は気絶する。あっけない、あまりにも、あっけないが、これが『志体持ち』と『一般人』の差だ。 確かに世界には優れた一般人も存在する。しかし、優れた一般人と、優れた開拓者だったら、優れた開拓者の方にほとんど軍配が上がる。 同じく悠里も葵に接触する。 反応はする。しかし、身体がついていかないようだ。 「敵だっ!!?」 叫んで仲間を集めようとする所を、悠里が聞き手でつかんだ腕を逆手にねじり、逆手で短刀をうなじに突きつける。 葵は冷たい鋼の感触に敗北を悟った。 「負けを認めてくれるかな? 悪人には見えないから、命を取ろうとは思わない」 「其処までよ? 大人しく御縄に付いて貰えるかしら?」 遅れてきた一同から、宣言する織歌が出てきた。 「私も鬼ではない。事情があるなら、情理を考える」 「うんうん。とりあえず、一杯やろう。酒の上で口が滑っても誰も悪くない」 朱点童子はさらりとやり過ごす。単純に酒を飲む口実が出来たからであった。 勝てば祝勝会。負ければ残念会。 だから、名を上げられず、無名陰陽師にとどまっているのかもしれない。 捕縛した葵に、織歌が話を向ける。 「何故こんな事をするのか? 事情があるなら多少長くなっても構わない」 「金の為さ。世の中は金を中心に回っているからね」 「木こりさん迷惑はどう考えてる?」 悠里が突っ込む。 「人の迷惑考えていたら、こんな裏稼業やってられるかい? ギルドで職を選べる志体持ちとは違うんだよ」 精霊と交信すると俗に言われている志体持ちでないと、奥義(スキル)を事実上修得できない。練力の消費が激しすぎるのだ。有り体に言って十倍の差がある。 葵が呪縛符を使用しただけで、一般人としては強力すぎるのだ。 「そもそも、なんでこんな事をしているんだ? 人を殺さなければ、まだ引き返せる──かもしれない」 いささか悠里の言葉にも精彩を欠いた。どれほど葵の事を自分自身は知っているのだろう? 顔を合わせたばかり、不確実な証言をのぞけば、言葉も幾ばくか交わした程度に過ぎない、それだけだ。 「さあね? 私が依頼されたのは、きわめて単純に、金持ちの宴会か何か──要はどんちゃん騒ぎだろう? その際に季節のものの彩りを添えたいから、紅葉を調達したいという事──ここでねぇ、病に倒れている少女が自分の命がもう長くない、と知って、涙ながらに『死ぬ前に紅葉を生まれて一度でも見たかった』だから、悪い事と知りつつ、山まで紅葉を取りに来た──とかいうウソをつければ、自分も悪党として一流になれるんだけどね」 一同に顔を背けながら自嘲する葵。 「ウソでも後の方を言ってくれれば──」 言いながらも、悠里は世の中が最高級の時計の様にきれいな、カラクリだけで動いている訳ではないと知っている。 法を犯したものは相応の咎を受ける必要がある。 この葵の言葉では『せめてひと枝を──』という彼の願いは木こり達は通じない。むしろ背反者として扱われるであろう。 (「‥‥」) 慧もまた、誤解であってくれ、と思っていたが現実を悟る。 「ほら、ろくでもない事ばかり考えている連中だ」 木こり達は声を張り上げる。 「ならば仕方がない」 慧が一同の未練を振り切るかの様に、断言する。 「開拓者の権限で、葵殿ならびに、その配下殿を全員身柄を拘束する。この場で罪状をあげつらって欲しいか? ──そうか、特に要求は無いようだ。ならば近くの街まで行く。たしか、あそこに風信術が設置されていた。後は官憲に引き渡す。それだけど。そこから先は自分達では如何ともし難い」 悠里はそんな葵たちに向かって一言。 「葵は悪党として一流ではないが、そうでなかった事がありがたい──」 多分、最初から甘美なウソをつかれていたら、悠里は悪事と悟りつつも、葵に肩入れしただろう。 それが、どれほどに決定的な事であったにしても、だ。 短い旅路の末に、葵とその一味は正式に官憲に引き渡される。 「さようなら──」 「まだ、やり直せる、多分。だから──」 葵の後ろ姿を肩越しに見やりつつ、慧は短いながらも別れの言葉を告げている。 無言ながらも洋はその背中をじっと見ていた。 織歌は堅く目を閉ざしたまま、目隠しを取ると、笠を目深にかぶる。彼女なりの手向けのように。 部下の後ろから入っていく、葵はこっそりと、しかし確かな笑みを浮かべながら、一同に最後を告げた。 「『多分』と『絶対』という単語は裏稼業では──少なくても私自身だけには──嫌われるのよ。あなた達は考えもしないと思うけど。でも、あなた達の善意は信じるに値するわ──それだけ」 朱点童子は最後に、葵たちがどの程度の罪になるだろうか、官憲に聞いてみた。 少なくともいきなり処刑にはならない、という返事を聞いて、面倒くさげながらも朱点童子はほほえんだ。 「──ま、酒が不味くならないで、すむか‥‥」 そして一同は精霊門をくぐり、神楽へと帰還するのであった。人それぞれの思いを重ねて。 ──開拓史第9幕閉幕。 |