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■オープニング本文 「大丈夫まーかせて!」 小麦色の肌に長髪、眼鏡を着けた少年、風祭均(かざまつり・ひとし)がアヤカシの進路にある街の民の前で宣言した。 「具体的には三年で街をアヤカシに勝てる戦力を──」 「遅いって!」 隣にいた開拓者がツッコミを的確かつ鋭角に入れる。 「こら開拓者じゃなければ死んでたぞ。死んでたらご飯が食べられないじゃないか」 「今はそんな事を言っている場合か、魔の森からの迎撃に街の防衛隊は出払った。お前が宝珠を捜したい、とか言い出すから、この街に寄ってみたそれだけの偶然だぞ。ここにいる志体持ちは俺たち開拓者だけなんだ。それも六体のアヤカシだ。でかい連中だ。 端的に言うと、身長三メートル。 体がでかけりゃ生命力もでかくなる。 まあ、有り体に言って駆け出しのお前がいた所で数にしかならない」 巨体に見合った棍棒を持ったアヤカシ。統制がとれているかは怪しいが、単純な破壊力はベテランのサムライでもなかなか出せない程にある──が六体。 平原によって立つ街に向かい前進してくる。 単に進んでいる方向が一緒なのか、それとも統制が実はされているのかは判らない。 とはいえ、衛兵の前線に出ていないこの街では、死刑宣告に相応しい偵察結果であった。 しかし、攻略点はあるかもしれない。この報告を持ち帰った、腕利きの斥候は、盾で相手の一撃をいなしたが、相手のフルスイングには何とか生還した(腕は折れたが)という、すさまじいまでのノーコンぶりを示したという。 それを聞いた均は掌を拳で打って。 「じゃあ、ひとり一殺という事で。いいでしょうか?」 「お前、さりげなく自分の事を勘定から外しているな」 「さりげなくなんかないよ、堂々と外してるんだからね。一応、避難の誘導とかでパニックに陥らない人材は必要だろう? みなが平原のどこに布陣するかで、頭をひねってくれよ。時間はなさそうだし」 一面の平原、子供程度の身長ならば、身を伏せる余地はあるかもしれない。 到達まで三日。来れば死闘が予想される。 続く偵察で相手は頭が悪そうだ、というより単に同じ向きを歩いている程度の協調性しかない、と報告があった。 七対六? ──開拓記第九章開幕。 |
■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
狗叢 統志朗(ia0229)
19歳・男・志
月城 紗夜(ia0740)
18歳・女・陰
鬼啼里 鎮璃(ia0871)
18歳・男・志
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
夏葵(ia5394)
13歳・女・弓 |
■リプレイ本文 大船原を往くは六人の英傑──の筈であった。しかし、実際に歩を進み出したのは五人のみ、ひとりは如何なる状況下は明確には言い難いが、結論だけ言えば、この場に居なかった。 風祭は村人の避難の方で動いている。 そんな、緊張が走る中、夏葵(ia5394)は思い人より委ねられた、髪留めに手を添える。 「あたしを‥‥守ってくださいね」 そんな、夏葵を見て、滝月 玲(ia1409)は笑みを浮かべる。 「やれやれ、俺よりやっこさんの方が頼りになるか? まあ、俺がついている、民人を守る為の戦いなら、俺の後ろにいるのが安全か?」 玲はそう軽口を叩く。しかし、鉄甲鬼が戦いになった時、ひとりが相手を出来なくなる。 そのアヤカシが自分達を相手にしてくれれば、それで良い。 だが、自分達も無視して村の方に進んでいった時の事は、考えたくはない。 鬼啼里 鎮璃(ia0871)は今から、風祭を呼び、戦線の維持を考える。 ひとり欠けた以上、避難誘導程度にしか使えない様に思えた、風祭にも開拓者として戦力になってもらう必要が出てくる。ともあれ、現状は、ここで誰かが村まで移動するのは、時間的に無理が出てくる。 (生きていれば──なんとかなる) 五年間にわたる郷里喪失──冥越を出ての生き方で鎮璃が学んだ事のひとつである。 少なくとも鎮璃のかわいがっている、白うさぎの林檎の世話くらいは出来る。志体持ちなのだから。 「準備の、不備、全力で、補う」 妙に濁点の多い独特の口調、そして、それ以上に、顔の左半分を覆う傷痕が目を惹く、月城 紗夜(ia0740)が一同の軍師役としての、役目を果たした。 「鉄甲鬼の、油断を、期待できず」 「おいおい、酒が不味くなるぜ」 無月 幻十郎(ia0102)は酒精を飲み下すと、鷹揚な口調で『河内善偵』を抜き放つ。 見事に反りの浅い刀身を眺めると、幻十朗は酒をあおる。 「相手を嘗めている訳ではないがな。とりあえずは、勝利の祝い酒の先払い──」 「辞世の句、でなければいい」 紗夜が一同を配置につかせる。 単なる進行方向が同じだけで、統一された行動理念を持っていない、巨躯に曲がった角、巨大な鉄棒を携えた影が進む。 夏葵は鉢巻きを締め直し、『朏』の弦を弾くと、嘘の様に落ち着く。厳しい祖父の薫陶があったのだろうか? それとも愛が通じたのか。 小兵である彼女が弓に矢を番える姿は、アンバランスさと、凛とした空気が混在している。 相手は警戒はしていないが、油断している訳ではない。ともあれ、ターゲットそのものが大きいからと言って、弱点となる場所を狙えるほど、夏葵の弓術は長けている訳ではなかった。 通常ならば届かない間合いから、彼女の目が鷲のごとき、峻厳さを以て、目についた一体に集中する。 矢は彼女であり、的は彼女そのものであった。 限りない、時間が過ぎた様に夏葵には思えたが刹那しか過ぎていない。 気がつくと、的となった鉄甲鬼は雄叫びを上げていた。 草原を吹き渡る風が鉄の匂いを孕む。 もし、彼女が『鷲の目』を使っていなかったら、弾かれていた。しかし、夏葵は使う事を選んでいた。 それが結果を産み、伏兵となった一同が一斉に攻撃を開始する。 秋空を無数の蜘蛛が舞い踊る。紗夜の放った呪縛符である。鉄甲鬼めがけて襲いかかり、紡ぐ糸は、四肢五体を絡め取る。 「糸に、囚われ、よ―――蝶の、如く」 幻十朗が斬り込む。 「はっはっはっは、さぁ始めようか! 次の酒宴のほら話のネタにとなりやがれ! ぐはっ?」 力任せに振るう棍棒が直撃。 「成る程、一般人なら、腕毎砕ける訳だ。ちょっと死ぬかと思ったぜ。だが、俺には全天儀の酒を味わうという浪漫がある。その酒代になりやがれ!」 血反吐を吐きながら、天空を振るわせる叫び。 続くは鉄と鋼の刻むビート。 「これはほら話じゃなくて──笑い話だな」 鎮璃はその重圧に頼もしさを感じていた。敵でなくて良かったと。 さすがに頭数が割れているのに、戦いが始まれば、鉄甲鬼もそこまで莫迦ではない。 一匹ずつ分断するのが不可能ならば、呪縛が効力を残している内に、相手の戦力を削ぐ。鎮璃の長槍は鉄甲鬼とのリーチを埋める役には立った。 穂先で斬る様な真似は長刀使いに任せて、直線の最短距離、最速距離で鉄甲鬼に打撃を与えていく。 志士として、長槍に練力を乗せ、攻撃に防御にと畳みかけるが、相手に決定打を入れられない事に焦りを感じる。 手数では勝っている。しかし、体力の損耗は果てしない。 気力を振り絞って一打を浴びせる。ようやく、よろめいた。 体力は雀の涙しかない。 一発食らえば、かすり傷でも自分は意識を失う。 しかし、一発浴びせれば、相手に致命打となる。 「生きる事を諦めない。それは仲間を信じる事!」 全ての気力を一撃に浴びせる。 「林檎の世話を誰かやってくれ──」 鎮璃の意識は遠のいた。 無数の白い蝶が紗夜を取り巻く。薬草を出す暇はなく、体力の消耗を防ぐだけで手一杯。 痛みが治まる。 「魂、朽ちぬ、蝶。理へ、舞いあがれ」 しかし、周囲には倒れている面々があった。 倒せない相手ではない、という紗夜の判断は間違っていない。ただ、頭数という天運が無かっただけである。 それを恨む間もなく、紗夜を棍棒が吹き飛ばす。 自分にとっての最適距離を鉄甲鬼も喜ぶとは限らない。 蛮勇は多少の糸など無視。無数の胡蝶で斬り苛もうと無視。最後の力を振り絞って幻十朗に白い蝶を飛ばす。その蝶の羽は造り主の血を浴びて、紅に染まる。 「やれやれ、前門の虎、後門の狼と思っていたが、そうはならなかったな」 体力をぎりぎりで取り戻した幻十朗が不適な笑みを浮かべる。 言いながらも紗夜を攻撃した鉄甲鬼も間合いに収めるべく動く。「来い。逆転という言葉を教えてやるぜ」 そして再び咆哮。 玲は夏葵を背にする形で、刀身を炎で覆っていた。 夏葵は棍棒の一撃で、瀕死の重傷を負っている。 死には至っていない。三途の川の渡し賃などは持っていない。 それに愛している人がいるからだ。 もし、その支えがなければ、練力も気力も使い果たした彼女は破滅を迎えていただろう。 玲は、善戦した夏葵が残った最後の気力まで使い果たし、深手を負わせた二匹の鉄甲鬼をにらみつける。 「こんな女の子ひとり守れない! そんな自分に腹が立つ!!」 彼の珠刀『阿見』を包む炎が更に高まった。 「己が魂、炎と化して、滅せよ、アヤカシ──炎帝の如く!」 無数の乱刃。一撃浴びせては間合いを取り、また一撃──一下半身に集中する事で機動性を削ぐ。 「落ちろ!」 しかし、珠刀の間合いでは、巨躯と巨大棍棒の間合いの外から攻撃する訳にはいかない。 最初の内は紗夜の呪縛で優位に立てた──しかし、残るものは気力のみという状況。 「一匹、倒しても──残る一匹が来る。ならば、男として、守るべきものがある存在として出来る事はひとつ。一天地六賽の目次第! 燃えよ我が気力、限界まで高まれ!」 そして、ふたつの影の間合いに入る。 「最後の武器は『勇気』だっ!」 その声と共に鉄甲鬼二体は倒れ伏した。もし、相手が万全に動けていたら、有効打は無理だったろう。 「さてと──後は任せた」 玲は意識を手放した。 気がついた一同は、幻十朗の憮然とした表情を見る事になった。 「逃げ出しちまったぜ、三匹討って、後はなますにするだけだったがな──」 村の方には往かず、幻十朗の咆哮の呪縛から解き放たれた相手を殲滅しきれなかった。 最終的には村を守ったものの、手負いの鉄甲鬼がどこで被害をまき散らすか、そこまでは保証できない。 「やれやれ、勝利の美酒という訳にはいかないか」 一同は釈然とはしないが、傷ついた身を癒すべく、それぞれの居場所へと向かっていった。 あるものは還るべき場所はこの戦場かもしれないが。 五人の開拓者の切り開いた、ひとつの局面は終わった。 ──開拓記第九幕閉幕。 |