【面妖】魂吸い花。
マスター名:夢鳴 密
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/07/09 00:08



■オープニング本文

 北面の国にある、とある屋敷。
 古くよりその場所にあるその屋敷には人の気配はなく、手入れが入った様子もないため廃墟同然の佇まいである。ただ、廃墟にしては珍しく鮮やかな赤色の花が所狭しと咲き乱れている。立っている場所も人里より随分離れた場所にあるため、滅多に人が寄り付くことはない。そういう場所には昔から不思議な噂が流れるもの―――この場所も例外ではなかった。

 神隠し。

 周辺の地域ではそう呼ばれている。
 つまりあの屋敷の近くを通りがかった者は忽然と姿を消しているのだという。
「出鱈目だろう」
 そう言って自身を奮い立たせるのは村の若者、為三(ためぞう)。
 村の人間が余りにも屋敷に近付くなと言うので、俺が行って確かめてやる、と意気込んで出てきたのだが。鬱蒼と生い茂る木々の中にひっそりと建つ廃墟の屋敷。その光景だけでも人間が恐怖を抱くに十分である。
 だが、ここで引き返しては男が廃るというもの。意を決して為三は屋敷の中へと飛び込んでいく。
 数刻後、屋敷を大きな悲鳴が包み込み、すぐに静けさを取り戻す。
 何も変わらない、いつもの外観。
 ただ屋敷周りの赤い花だけが風に揺られてざわざわと騒いでいた。
 まるで新たな仲間を歓迎するかのように―――。

 その後、為三の姿を見たものはいない。


 数日後、開拓者ギルドに一つの依頼が開示される。
 依頼内容は神隠しにあったという村人の捜索と現場の屋敷の調査。
 現在は誰も使用していない屋敷だそうで、最悪破壊しても構わないとのことだが、不可思議な噂と実際に人が消えているせいか誰もやりたがらないのだとか。
 その屋敷についてわかっているのは随分古いということと、やけに鮮やかな赤い花が咲き乱れていること。
 そして人が消えた後三日程は、強烈に甘い匂いが風に乗って村までやってくるということだけだった。


■参加者一覧
神町・桜(ia0020
10歳・女・巫
万木・朱璃(ia0029
23歳・女・巫
幸乃(ia0035
22歳・女・巫
赤城 京也(ia0123
22歳・男・サ
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
雲母坂 芽依華(ia0879
19歳・女・志
御剣・蓮(ia0928
24歳・女・巫
水月(ia2566
10歳・女・吟


■リプレイ本文

●屋敷周辺捜索。
 鬱蒼と生い茂る木々、静かな森に響き渡る不気味な鴉の鳴き声。そんな中にひっそりと、というには余りに大きな屋敷が一つ。見ればどこかしこも風化していて建っているのがやっとのような古めかしい屋敷。更にその屋敷には全くといっていい程似つかわしくない異様に鮮やかな赤い花が屋敷の周囲を覆っている。
「うわぁ‥‥嫌な感じね」
 眉を顰めて呟いた万木・朱璃(ia0029)は見ているだけで不安な気持ちになる光景にぶるりと肩を震わせる。昔からの怪談で、鮮やかに咲き誇るとある花の下には死体が埋まっている、なんて話を思い出してしまったせいもあるのだろうが。
「神隠し‥‥ですか。原因がこの屋敷なのか‥‥しかしこの花、随分咲いてますね」
 考え込むように腕を組む赤城 京也(ia0123)は屋敷の周りに咲き乱れる花に目を向ける。
「確かにやけに派手な花が咲いておるの。怪しすぎる程に‥‥」
「‥‥何の花なんだろうな。まるで血の色みたいで気味が悪い」
 興味深そうに花を観察する神町・桜(ia0020)と恵皇(ia0150)。恵皇は実際に花を手にとって持っていた手斧でその茎を切ってみる。すると茎の部分からドロリと赤い液体が流れ出た。
「うわっ‥‥なんだこれ」
 驚いて茎を手放す恵皇。桜がその茎に近寄って流れ出る赤い液体をちょんと指につけてその香りを嗅ぐ。
「‥‥蜜のようじゃな」
「‥‥紛らわしい‥‥」
 桜の言葉に幸乃(ia0035)は溜息交じりで呟いた。
 と、水月(ia2566)が花の下をざくざくと掘り始める。同じように京也もまた花の根を辿るべく花を掘り起こす。だが、花の下に何かが埋まっているということはないようだ。気になる部分と言えばやはり根。普通の花と違い異様に長くとても先まで掘り起こせない。更にそれぞれの根が全て屋敷のほうへと伸びている。
「どうやら屋敷に何かあると見て間違いなさそうですね」
「面倒ですけど、中には入らないといけないみたいです」
 京也の言葉に無表情で呟く幸乃。
「燃やしてしまったほうがいいのでは‥‥?」
 御剣・蓮(ia0928)は事前に屋敷周りの花を燃やすことを提案。だが、いくら周りの草などを刈り取ったと言っても屋敷に密着した花を燃やせば当然屋敷にも引火する。調査することなく屋敷を消滅させるつもりならそれでもよかったのだが―――蓮の裾を引っ張り首を横に振る水月。
「うちらの仕事に調査もあるさかい、燃やすんは終わってからでもええんとちゃいます?」
 現状で外の花自体に危険はなさそうだと判断した雲母坂 芽依華(ia0879)の言葉に一同は頷きを返す。一通り周囲を確かめた開拓者たち。赤い花以外に気になるような物は外では見つからなかったため、一行は屋敷の内部へと足を進めた。

●内部探索〜発見。
「鬼さ〜ん、あんまり恥ずかしがらずに出てきてください〜‥‥」
 身を縮めて辺りを見回す朱璃が屋敷内を歩きながら声をかけてみる。当然反応はない。不気味に静まり返った屋敷内は昼間だというのに日の光が届かず真っ暗だ。蓮が予め用意していた松明で内部を照らす。随分と長い間放置されていたのだろう、床には大量の埃が積もっていて壁には至る所に蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
「本当に全然手入れされていませんね」
 ギシギシと軋む床に若干の不安を覚える幸乃は慎重な足取りで進んでいく。
 ふと足元に注意を向けていた京也が立ち止まり、そのまま片膝をついてしゃがみ込む。見ると靴で踏んだような形で埃が刳り抜かれている。
「‥‥足跡、ですね。比較的最近の物のようです」
「きっとその足跡の人が依頼来る前にここに入りはった人やね‥‥まだ無事やったらええんやけど」
 言いながら芽依華もその可能性の低さには気付いていた。この屋敷に何が棲んでいるのか、あるいはこの屋敷自体が敵なのか―――もしそうならば自分たちは既に相手の腹の中にいることになる。
「全く‥‥何で自分から危険に飛び込むようなことするんでしょうね。まぁ依頼を受けてとはいえここに来てる私たちも人のことなんて言えませんけど」
「まぁそう言うでない。人間好奇心にはなかなか勝てんもんじゃて」
 面倒だと言わんばかりに頭を振る幸乃に苦笑浮かべる桜。
 話しながらも注意を欠かさず進んでいた開拓者たちは屋敷の中心部へと続く廊下へと足を進めていた。と、先頭を歩いていた恵皇が立ち止まって右腕を水平にあげて制止をかける。
「何か匂わないか‥‥?」
「‥‥そう言えば‥‥何やえらい甘い香りがしてますなぁ」
 恵皇の言葉に改めて息を吸い込んだ芽依華。村人が言っていた甘い香りというのはこのことなのだろうか。しかし話では人がいなくなったときだけのはず。しかも入った時にはそんな匂いはしていなかった。
「この先に‥‥何かあると見て間違いないのでしょうね」
 手にした松明で廊下の奥を照らす蓮。目を凝らしてみると先に部屋の入り口のようなものが見える。匂いはそこから流れてきているようだ。慎重に部屋の前まで進んだ開拓者たちはそこでお互いの顔を見合わせる。
「さて‥‥鬼が出るか蛇が出るか‥‥」
 京也は腰の白鞘にそっと手をかける。水月も無言のまま弓を片手にいつでも戦闘に入れるよう手を矢筒にかける。首と拳をゴキリと鳴らした恵皇は部屋の扉に手をかけた。
「それじゃ―――行くぜ!」
 掛け声と共に開拓者たちは一斉に部屋の内部へとなだれ込んだ。

●戦闘開始。
 恐らくは大広間であったのだろうその部屋は呼吸をするのが若干辛くなるほどの甘い香りが充満していた。思わず顔を顰める一行の視線は、嫌でも部屋の中央に鎮座する物体を捉える。一瞬壁ではないかと思われるほどの巨大な花。大きく開かれた花弁は一枚が畳一畳分ぐらいあるかと思うほどの大きさで、その中央には触手のようなものがうねうねとその身を躍らせている。更にその触手の奥には目玉のような物が開拓者たちをぎょろりと睨みつけていた。
「何て醜悪な‥‥」
 蓮の呟き。ふと視線を花弁の下に向けると、恐らくここに来た人の物なのだろう、数人分の服と骨が乾いた血痕の上に無造作に転がされている。
「アヤカシ、か」
 予想通りではあったがその醜悪さに思わず苦笑する恵皇。
「花というのは愛でるものだというのに‥‥」
 あからさまに嫌そうな表情で呟く幸乃はさっと弓を構える。
「うえー気持ち悪い‥‥さっさと終わらせよ。行くよーっ!」
「皆さん、お気をつけて!」
 くるりと回転して舞い始める朱璃と蓮。開拓者たちの身体に力が漲ってくる。同時に床下がメキメキと音を立てて割れ、中から巨大な根が数本開拓者目掛けて飛来する。円陣のような陣形を取った一行はそれぞれが根を撃退する。
「何処から来ようが‥‥私の剣から逃れられると思うな!」
 怒号一閃、京也の白鞘から放たれた銀色の煌きが根の数本を切断。更に反対側に迫りくる数本を芽依華の紅い刃が刻んでいく。
「うちをエサにしようやなんて、大胆な事考えおすなあ」
 のんびりとした口調とは裏腹に鋭い斬撃が次々と根を払いのける。撃ち漏らした根は恵皇が手斧でぶった切っていく。だが斬っても斬っても次から次へと生えてくる根。ダメージ自体はほとんどないものの本体であろう花の方に近付けない。
「水月さん‥‥あの中心の目玉みたいなの、狙えます?」
 前衛陣に守られながら花を観察していた幸乃は隣にいた水月にそっと耳打ち。一瞬花の方に視線を送った水月がコクリと頷く。同時に二人は弓を構えて矢を番え、花の中心にその照準を定める。それに気付いたのか根が一斉に幸乃と水月の方へ。ほとんどが前衛陣によって斬り落とされるも、数が多く何本かが二人の元へ―――銀閃。寸での所で一本の薙刀がそれを防ぐ。
「ふんっ。わしとて援護ばかりではない!少しくらいなら近接戦闘は出来るのじゃ!」
 息を吐いて叫ぶは桜。同時に放たれた二本の矢は一直線に花の中心部へ。嫌な音と共に花の中心から赤い液体が噴き出す。地響きにも似た咆哮のような声が部屋に響き渡り、開拓者たちを襲っていた根が動きを止める。
「今ですっ!」
 蓮の声にまず飛び出したのは恵皇。彼は一気に花の目の前に躍り出ると拳を握り締めて花弁の根元を殴り飛ばす。鈍い感触と共にめり込む拳。花は狙いを恵皇に絞り根を振るう。だがその軌道を読んだ恵皇はするりとかわし手斧で切断。
「斬り刻むっ!」
 恵皇が花の攻撃を引き付けている間に右側面へと回り込んだ京也が花弁の一枚目掛けて白鞘を振り下ろす。ずるり、と音を立てて花弁が床に落ちた。同時に左側面に回り込んでいた芽依華もまた炎を纏った刃を花弁目掛けて解き放つ。紅蓮の光に本体と離される花弁。更に中距離で構えていた桜が花に意識を集中。ぐにゃりと歪んだ空間が花をギリギリと締め上げる。同時に中心から噴き出す液体。どうやらそれが匂いの元のようで、甘い香りが一層強くなる。
「恵皇さん、危ないです」
 掛けられた幸乃の声に振り向いた恵皇は、すぐさまその意図を理解しその場を飛び退く。同時に幸乃の手から矢が放たれ花に突き刺さる。更に時間差で水月の矢が放たれる。
「トドメだっ!」
 叫んだ恵皇、ありったけの力を込めて花の中心―――目玉を目掛けて拳を解き放つ。肉を割くような感触が拳から伝わり、赤い液体が恵皇の顔に盛大に噴きかかる。が、恵皇は気にせず更に拳をめり込ませる。びくんびくんと数度脈打った花は、その巨体をゆっくりと地に沈める。轟音と共に花は黒い瘴気の塊となって中空に霧散。同時に床下が割れて大きな穴が出現した。

●終結〜そして新たなる鼓動。
「随分大きな穴よねー‥‥」
 朱璃は穴をそっと覗き込む。中にはいくつもの根が絡み合って張り巡らされている。更に一輪の小さな赤い花がその根に絡まったままひっそりと咲いていた。
「倒した‥‥?」
「そのはず‥‥ですよ。瘴気に戻るのは確認しましたし」
 怪訝そうな表情の幸乃に若干自信なさげに答える京也。
「あの根はまさか‥‥」
「うむ。恐らく外に咲いておった花のものじゃろうな‥‥ここで流れた血を水分として吸っておったのじゃろう」
 蓮の言葉に桜が続く。あの異様に鮮やかな赤が元々の花の色なのか、はたまたここで吸った血のせいなのか、それは誰にもわからない。だが少なくとも見ていい気分になるものではないことは確かだ。
「血を吸う花、か‥‥何やえらい物騒やね」
 そう言って苦笑する芽依華。
「ところで‥‥この屋敷、どうします?」
「悪いのはアヤカシで屋敷自体に罪はないし‥‥このままでいいんじゃない?」
 そこらの壁をコンコンと小突きながら言う京也に朱璃が答える。
「やはり燃やした方がよいと思うのですが‥‥」
 最初に外の花も燃やすことを提案していた蓮はやはりどこか気になるのか、燃やすことを再度推す。事前の相談で全員の意見が纏まらなかったが故、意見が分かれてしまいどうにも決まらない。
「まぁこんな屋敷誰も使わねぇだろうけどな。一応村の人間に確認取るか? 依頼されてんのは屋敷の処理まで含まれてるみてぇだが‥‥」
 腕組をしながら恵皇は隣にいた桜のほうにチラリと視線を向ける。
「何故わしを見るのじゃ‥‥」
「いや、何となく‥‥?」
 ジロリと睨む桜に悪びれる様子もなくさらりと答える恵皇。桜は溜息をつくと今いる部屋をぐるりと見回した。
「アヤカシも退治したし、とりあえずは安全だとは思うがの。この後のことは村の者に任せるのじゃ」
 桜の一声に一同が頷きを返す。
 と、ここで水月が花があった付近に落ちていた服と小刀を拾い上げる。乾いた血がこびり付いた服は、比較的新しい物から既に風化してボロボロになったものまで様々。手に取った水月は何かを思ったのだろう、それらをぎゅっと抱きしめる。
「いつまでもこんなところでは‥‥ね。ちゃんと供養してあげましょう」
 微笑みながら水月の頭にぽんと手を乗せる京也。水月は静かに首をこくりと縦に振った。

 こうして神隠しを銘打った一連のアヤカシ騒動は一旦終わりを告げ、開拓者たちは不気味な屋敷を後にする。
 その入り口、どこか後ろ髪を引かれた蓮がそっと後ろを振り返る。来たときと同じように屋敷周りに咲き誇る真っ赤な花。
 しばらく眺めていた蓮だったが、やがて皆に追いつくために小走りで駆けていく。
 残されたのは屋敷と一面の赤い花。
 村人たちの総意は「触らぬ神に祟りなし」。結局放置することが決定したと言う。
 しばらく後―――この屋敷で再び奇怪な事件が起きたという報せがギルドに届けられることになる。
 が、それはまた別のお話‥‥。

 〜了〜