【武炎】南郷の再戦。
マスター名:夢鳴 密
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/23 00:15



■オープニング本文

●激戦の後
 血と泥に塗れた兵たちが疲れた身体を引きずり、次々と合戦場から戻ってくる。
「此度の戦は、厳しいものであった」
 雲間から覗く青空を仰ぎ、立花伊織が呟いた。
 大アヤカシと呼ばれる脅威に人は勝利を収めたが、代償は大きい。
 秋を前に野山は荒れて田畑は潰れ、村々も被害を受けた。避難した民は疲弊し、アヤカシも全てが消えた訳ではない。
「再び民が平穏な暮らしを取り戻すまで、勝利したと言えぬ」
 伊織は素直に喜べず、唇を噛んだ。
「今後の復興のためにも、今しばしギルドの、開拓者の力を借して頂きたい」
 随分と頼もしさを増した面立ちで若き立花家当主が問えば、控えていた大伴定家は快く首肯した。
「まだしばらくは、休む暇もなさそうじゃのう」
 凱旋した開拓者たちが上げる鬨の声を聞きながら、好々爺は白い髭を撫ぜた。

●救護所
「お待ちください! その身体でどこに行こうというのです!」
 叫ぶ少年の声が辺りに響き渡る。
 その声に動きを止めたのは佐久間虎政。
 先の戦いで敗戦し、随分な深手を負った虎政。一時的に後方へ撤退してその傷を癒すことに専念していたのだが、動けるほどにまで回復するや否やすぐに戦仕度を始めたのだ。
「‥‥砦に、いく」
「砦って‥‥南郷砦ですか!? あそこはもう破棄されたって言ってたじゃないですか! 聞いてなかったんですか!?」
 虎政の言葉に半ば呆れながらも全力で反対する少年。
「それは聞いた。でも‥‥まだいる」
 ぎゅっと拳を握り締める虎政。
 彼女たちの部隊が壊滅する原因となった大アヤカシ瘴海が倒されたのはつい先日のことだ。瘴海の消滅によって、虎政が南郷砦に向かう理由などはないはずである。まして報告によれば南郷砦は既に廃墟同然で、あそこに残されているのは、残党とも言えるアヤカシの集団だけである。
「それこそ今じゃなくたって――」
「今じゃないと‥‥私がダメ!」
 虎政にしては珍しく怒気を含んだ声。同時に彼女の拳がゴガッと壁にめり込んだ。
 しばしの沈黙。
 やがて少年は大きな溜息をついた。
「‥‥どうしても行くとおっしゃるのですね?」
 こくりと頷く虎政。
「このままじゃ‥‥私は自分が許せない‥‥」
 呟く虎政の瞳には強い光が宿る。
「わかりました。ではこちらも条件があります。我々は部隊のほとんどが負傷しており、その上復興作業にも人でが必要ですから虎政様と共に行く者がおりません。かと言って万全ではない貴女をただ行かせるほど、私たちも余裕ないんです」
 淡々と述べる少年に俯く虎政。
「ですから、我々からギルドへ応援を要請を出させていただきます。貴女はそこで募った仲間と共に、砦に向かってください。それが‥‥我々に出来る最大限の譲歩です」
「‥‥わかった」

 次の日、開拓者ギルドには、南郷砦のアヤカシ退治の依頼が張り出されていた。


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
エグム・マキナ(ia9693
27歳・男・弓
劉 星晶(ib3478
20歳・男・泰
アルマ・ムリフェイン(ib3629
17歳・男・吟
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
椿鬼 蜜鈴(ib6311
21歳・女・魔


■リプレイ本文

●砦を前に。
 吹き荒ぶ風が頬を撫でる。
 数々の犠牲を出した先の戦い。その中でも一際多くの犠牲者が出たのが、初戦の舞台であるここ、南郷砦である。
 既に各所が崩れ、見た目からして廃墟となった砦を前に、虎政はぐっと拳を握る。
「‥‥あのときのまま‥‥」
 小さく呟いた虎政は、手にした薙刀をぎゅっと握り締めると、ゆっくりと後方へと身体を向ける。
 そこにいるのは八人の開拓者の姿。
「‥‥我侭聞いてくれて、有り難う」
 八人に向けて頭を下げる虎政。
「なぁに。戦って気持ちに区切りが付いて、無事に帰還するなら良いさね」
「そうじゃのぅ。ケジメのつけ方は人其々じゃて、出来る限りは手を貸してやろうてな」
 笑みを浮かべながら虎政の肩に手を乗せる北條 黯羽(ia0072)に、椿鬼 蜜鈴(ib6311)も頷きながら言葉を綴る。
 どうやらここにいる女性、細かいことを考えないという意味では似た者同士なのかもしれない。
「女性は強いって言うけど‥‥ほんとかも」
 苦笑を浮かべるアルマ・ムリフェイン(ib3629)。しかし彼もまた並々ならぬ思いを抱いてここにいる。
 大きな戦の間、最後まで見届けることができなかった。今度こそは逃げずに――
 どこか思い詰めたようなアルマの肩にそっと手が乗せられる。顔を向けると劉 星晶(ib3478)がいた。
「‥‥心の整理をつけることは良い事です。私は嫌いじゃありませんよ?」
 そう言って微笑む星晶にアルマはこくりと頷いた。
「瘴海戦以来か、今回もよろしく頼む」
 肌の露出を極力抑えた出で立ちの羅喉丸(ia0347)が虎政に手を差し伸べる。その手を握った虎政はこくりと頷き、その後ろにいる酒々井 統真(ia0893)に視線を向けた。
「俺にゃアンタを止められねぇし、止める気もねぇ」
 虎政の行動に共感する部分も多いのだろう、息を一つ吐いた統真はにかっと笑って拳を突き出す。
「勝ちに行こうか、大将」
「‥‥ん!」
 こつりと拳を合わせる二人。それ以上の言葉は必要なかった。
 一方砦を見てそっと目を閉じた長谷部 円秀 (ib4529)は、戦で敗れた者たちへの想いを募らせる。
「兵達の夢の跡‥‥アヤカシに占拠させたままにはさせませんよ」
 再び開いた瞳には強い意志の光が灯っていた。
 そんな一行を見ながらエグム・マキナ(ia9693)はぼそりと呟く。
「実に、変わらなくて何より」
 どことなく暗い雰囲気を纏うエグム。その瞳は何を見ているのか、今一つはっきりはしていない。
「余計な感情は置いておきませんと、ね」
 誰に言うでもないエグムの言葉は風に運ばれて消えていく。
 各々が抱く思いはそれぞれ。だがなすべきことは一つ――
「南郷砦‥‥取り戻す‥‥!」

●見事な連携。
 砦に入ってからの開拓者たちの動きは見事としか言い様がなかった。
 各々が役割をきっちりと分担し、また絶妙な位置で虎政の支援に回っていく。
 入る前、まずはエグムが弓を掻き鳴らしその反響を調べ始めた。
「‥‥入ってすぐ、三体いますよ」
 エグムの声にまず統真・円秀が反応、砦内へと躍り出る。その後ろには羅喉丸と円秀が練力を蓄えた状態で続く。
 遭遇と同時に統真が地を蹴り、現れた鎧を前に大きく身を屈める。一瞬見えた相手を見失った鎧は動かそうとした手を所在なさげにぶらつかせた。次の瞬間、側面から轟音。地を這う様な姿勢から打ち出された統真の拳は鎧の胴を歪ませる。だが鎧以外に感触はない。どろりとした半固形の物体が統真の腕に襲い来る。
「ぐっ‥‥おらぁぁっ!」
 肉の焼けるような音を鳴らしながらも統真はソレを強引に掴み取り、引きずり出した。
「任せたっ!」
「全く‥‥無茶をするっ!」
 溜息交じりの羅喉丸、その掌に溜めた気を統真の手を侵食する物体に解き放つ。
 液体が蒸発するかのような不快な音と共に黒い霧が舞う。
 残された二体の鎧はその標的を後衛に定め動き出す。狙いは――
 距離はまだ少しある。
「俺ら狙われてるらしいぜ?」
 向かってくる鎧を前に悠然と笑みを浮かべる黯羽は、隣でプカリと煙管を吹かす蜜鈴に声を掛ける。
「舐められたものじゃ」
 宝玉輝く短剣をすっと前に出す蜜鈴は、にやりと獰猛な笑みを浮かべた。
「どれ、一つ灸を据えてやろうかのぅ」
「はは、お前さんのそういうトコ、俺ぁ好きだぜぃ」
 黯羽は笑いながら黒く澱んだ符を取り出した。
 接敵まで――僅か。
 黯羽が符を黒き灰に変えたのと、蜜鈴が短剣を振るったのはほぼ同時。向かい来る鎧の目の前に突然石の壁と黒い壁が出現。勢い余った鎧二体は壁に激突、その場で動きを止める。
 無論その隙は見逃す開拓者ではない。
「やれやれ、女性は敵に回すと怖いですね」
 苦笑を浮かべつつも既に印を結び終えた星晶、その周囲から生み出された水の刃が片方の鎧に突き刺さった。鎧の隙間より体液とも言える液体を散らせながら鎧はその場に崩れ落ちる。
 更にもう一体。
「轟砲を穿った矢。その甲冑にも刻んで差し上げましょう」
 ギリリと限界まで引かれた弓に溜め込まれた力を、エグムは一気に解き放つ。まるで悲鳴のような音と共に矢は鎧に突き刺さり、圧縮された音が振動となりその身を撃つ。
 地の底から震えるような咆哮を上げる鎧。動きを封じられた鎧の影から現れ出るは、仄かに白い光を帯びた短剣を手にした円秀。
「ここは‥‥貴様らの好きにして良い場所ではない!」
 鎧の隙間から差し込まれた短剣は一層に光を強める。それに伴い瘴気が徐々に浄化されていく。びくりと身を震わせ、断末魔の悲鳴を上げた一体が瘴気へと姿を変える。
「虎ちゃん、今だよ!」
 万全の状態ではない虎政には、ほぼ常時回復ができるようにアルマが付かず離れずの距離を保っている。そのアルマの声に頷く虎政は、自身の薙刀を体勢を崩したままの鎧に突き立てた。鈍い金属の擦れる音と共に瘴気の霧が立ち昇る。
 三体のアヤカシが無に帰ったことを確認したアルマはすぐに瘴索結界を張り巡らせる。
「続けてくるよ‥‥!」
 声と同時。どこからともなく濁った霧のようなものが辺りに流れ始める。
「腐食霧か」
 呟きながら口元を覆っていた布で鼻も押さえ込む羅喉丸。そのまま拳を構えると手近な壁を一気に粉砕。
「少なからず換気が出来れば‥‥」
 空けられた穴から空気が入れ替わる――ような気がする。
「次、右から五体。その後に左側に三体、ですね」
 掻き鳴らす弦の調べの伝える情報を即座に言葉にするエグム。
「っし、黯羽、蜜鈴! 誘導するから頼んだぜ!」
 頬を叩いて気合を入れた統真は単身躍り出た。
「あ、おい‥‥ってもういっちまったか」
 苦笑を浮かべた黯羽は離れる統真の後姿に一瞬視線を送り、やれやれと肩を竦める。
 そしてそれを見た虎政も後に続こうとして――止められた。
「虎ちゃん‥‥」
 アルマの言葉にぷいと視線を逸らす虎政。と、その頭をこつりと蜜鈴が小突く。
「これ、ちと頭を冷やせ」
 それでも身体が万全でない自覚があることが幸いし虎政は渋々視線を送る。
 その視線の先では統真が既にかなりの数の敵を引き付けていた。

●袋小路の一手。
 たった一人粘泥を集める統真は、攻撃をかわしながら巧みに粘泥たちを翻弄していく。
 ただそうは言ってもやはり数が多い。
(さすがにキツイか――)
 思った矢先、統真の側面で蠢いていた粘泥が突如雷に打たれたように爆ぜる。
「無理をなさらず!」
「すまん、助かった!」
 礼を述べた統真は周囲に視線を巡らせる。自分の傍に集まってきているのは凡そ十体。
 頃合い。
 統真は再び視線を後方へ向ける。視線の先で黯羽と蜜鈴が小さく頷いたのが見えた。
 頷き一つ。統真は粘泥の一斉攻撃を前にその身を大きく後方に飛ばす。突然視界から消えた統真に、粘泥たちの動きが一瞬止まる。その瞬間、粘泥たちの周りを石の壁と黒い壁が取り囲んだ。
「さて、そろそろ頃合いかのぅ」
 にぃと笑みを浮かべた蜜鈴は右手の短剣に意識を集中すると、口の中で呪文を唱え始める。
「んじゃこっちも始めようか」
 コキリと首を鳴らした黯羽もまた指で挟んだ符に力を込める。
 まずは蜜鈴。振りかざした短剣の宝玉が一際大きな光を放つと、その先から真っ白な風となった吹雪が駆け抜ける。壁で遮られ、逃げ場を失った粘泥たちはその影響を直で受けることとなる。
 追い討ちと言わんばかりに黯羽の符からは冷気を纏った龍出現。その鎌首を持ち上げ、吐き出された白刃の如き息は、瞬く間に粘泥たちを飲み込んでいく。
 真っ白に染められていく壁の中の世界。
 視界が戻ったときには粘泥たちの動きは随分と鈍っていた。その中を一気に駆け抜けていく羅喉丸・星晶・円秀、そして虎政とアルマ。
 拳を据え、腰を落とした構えの羅喉丸が掌を突き出すのに合わせ、目の前の黒い壁が消失。羅喉丸の掌から放たれた不可視の一撃が粘泥の一匹を捉える。
 羅喉丸の左右より星晶と円秀が飛び出す。
 接近しながら印を結ぶ星晶と、構えた得物に雷を纏わせる円秀。左右同時で放たれたその弐撃はそれぞれ粘泥の身を穿ち、瘴気へと変えていく。
 残り僅か。
 颯爽と風を斬って身を躍らせたのは虎政。自慢の薙刀を豪快に振りまわし動きの鈍った粘泥を切り伏せていく。その姿はどこか鬼気迫るような、まるでその場に残る者のために舞っているかのような錯覚さえ覚えるほどであった。
 粘泥たちも最後の足掻きともいえる腐食液を撒き散らすが、羅喉丸がそのために用意した盾を振るい尽く防いでみせる。更に星晶が鉄傘をもって広範囲に防いでいく。
 たとえその身に浴びることになったとしても、アルマがすぐに治療を施す。
 現れた十体の粘泥が存在を無に帰すのには、そう時間は掛からなかった。

●最後の一滴。
 砦の中を隈なく捜索し、索敵と殲滅を繰り返した開拓者一行。
 そしてついにその終わりが見えようとしていた。
「‥‥後一匹だよ」
 結界を解いてすっと目を開いたアルマは、隣にいる虎政に視線を移した。虎政は前方をじっと見詰めたまま動かない。その視線の先には一体の鎧。
「あの鎧、見覚えあるよ」
 同じく鎧に視線を移したアルマの言葉に、虎政は小さく首を振る。
「あぁ‥‥俺も見覚えあるな」
「余りいい気分ではないがのぅ」
 統真と蜜鈴もまた同意を返す。
 それは以前、この南郷砦で共に戦った仲間が着ていた鎧。敗戦時に放置されてしまったものにアヤカシが乗り移ったのだろう。
「最後がかつての――うぅん、アレはただのアヤカシだよね」
 アヤカシという存在に思うところがあるのか、胸元の首飾りをぎゅっと握り締めるアルマ。そのアルマの肩を、虎政がぽむと叩いた。
「‥‥有り難う。いつも、護ってくれて」
 呟くような小さな言葉。アルマは静かに首を横に振る。
「うぅん、前は最後まで見れなかったから‥‥今度は最後まで、逃げずに向き合うよ」
 それは決意――
 虎政は頷くこともなく、ただ無言で武器を構えた。
 それは信頼――
「さぁ、後始末といきましょうか。この砦で眠る者たちが、静かに眠れるように――」
 まるで演目の最後を飾るかのような円秀の言葉に、開拓者たちは最後の一匹目掛けて一斉に動き出す。
 第一の陣は統真と羅喉丸、そして円秀。
 白き闘気を纏った統真がその拳を鎧に放ち、羅喉丸の攻撃が鎧の足元を狙いその体勢を崩させる。更に倒れた鎧に淡い白の光を放つ刃を突き立てる円秀。
 第二の陣はエグムと星晶。
 狙い済ましたエグムの矢が倒れこむ鎧に突き刺さり、星晶の放つ水の刃が追い討ちとなり鎧を穿つ。
 第三の陣は黯羽と蜜鈴。
 黯羽の符から放たれた一陣の刃、そして蜜鈴の手から放たれた聖なる矢が鎧を弾き飛ばしていく。
 既に鎧は原型を留めていない。
「虎ちゃん」
 アルマの声に虎政は振り向く。
「終わらせようね」
 こくりと頷いた虎政は、ボロボロになりながらも未だ立ち上がろうとする鎧に向かって駆け出した。
 その一撃で、己の禍根を消し去る為に。

●弔い。
 全てのアヤカシの殲滅を終えた一行は、砦の中を一通り捜索することにした。
 最後の鎧もそうだが、ここにはまだあの敗戦で散った者たちが、未だ帰れぬ状態として残っている。
 開拓者たちもその職業柄、いつ命を落としてもおかしくない。
 そしてそれは大きな戦がある度に直面する兵士たちも同じ。
 ここに残された者たちはまさにそうして散った命たちなのだ。
「‥‥ごめんね」
 一つ何かを見つけては小さく謝って回る虎政。
 それで何かが許されるわけではない。しかし彼女はそうせずにはいられなかった。
「なんつーか、やっぱやりきれねぇな」
 頭をガシガシと掻きながら統真は呟く。そんな統真の肩に黯羽が優しく手を乗せる。
「済んだことは仕方ねぇさ。こうして俺たちは俺たちができることをやっていくしかないのさ」
 放置されていたこともあり、砦の中は荒れ放題ではあったが、幸いにも兵士たちの遺品に相当する物は比較的無事であり、開拓者たちは持てる全ての品物を一旦集めることにした。
「これで全部、ですかね?」
 ふぅと息を吐いたエグムの言葉に、一同は頷きを返す。
 集まった品物の多さに、改めて戦の犠牲者の数を思い知らされる一同。
 円秀の提案により、遺族に返還できる分を除いたものは、その砦に塚を立てることにした。
「私にはこんな事しかできませんが・・・貴方達がいたからこそ守れたものは多いです・・・どうか安らかに」
 そう言って手を合わせる円秀。
 その塚を前に、そっと酒を供えた蜜鈴。
「還りし御霊がゆるりと休めれば良いのじゃがの」
 誰にともなく呟いた蜜鈴の言葉。
 人気のなくなった南郷砦の中を、一陣の風が吹き抜ける。
 反響した風はぴゅうぴゅうと音をたて、まるで鳴き声を上げているかのような音だけが辺りを包み込んだ。

 南郷砦奪還。
 誰に知らされるわけでもないその報は、開拓者ギルドの報告書にひっそりと刻まれることとなった。

 〜了〜