付喪神奇譚。
マスター名:夢鳴 密
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/29 05:17



■オープニング本文

 開拓者ギルドには様々な依頼が舞い込んでくる。
 それらは他愛もない依頼から、とんでもなく深刻なものまで幅広い。
 勿論基本的にはアヤカシ関連のものが多い。
 だが、中には単純に退治してほしいというものだけではない、難解なものも稀にある。
 今回のお話はそういう類のモノである。

「で、そのアヤカシを見つけ出して退治して欲しい、と?」
 背中に『粋』の文字を背負った半被姿の受付係は、煙管をプカリと吹かしながらそう言った。
 その言葉に頷いたのは一人の男。どうやら依頼人のようで、カウンターを挟んで受付係と顔を合わせる形で座っている。
 男の依頼は、単純に言えば家の中に住み着いているアヤカシを退治して欲しい、というもの。
 そのアヤカシのせいで家の使用人が何人か食われてしまったのだとか。
 何人か犠牲が出るまでそれがわからなかったのはいくつかの状況が重なっていたせいだ。
 その状況を時系列に纏めると以下の通りになる。

 ・最初のうちの犠牲者の時点では、ただ姿が消えたというだけだったため詳細は不明。
 ・一週間ほど前、再び使用人が失踪。その際にとある部屋の床に人の頭ぐらいの穴が空いていた。
 ・先日再び使用人が失踪。別の部屋だが、前回とほぼ同じような床の穴と、大量の血痕が残されていた。

「結局アヤカシの姿を見た者はいねぇのかい?」
「えぇ‥‥血の量が凄かったもんで、こりゃアヤカシの仕業じゃねぇかと。そうなると今まで消えた人も皆食われたんじゃないかって思いまして」
 受付係の言葉に少し申し訳なさそうな顔で言う依頼人の男。
 確かに人を食らうのはアヤカシの仕業には違いない。
 だがその姿も、特徴も何もわかってはいない。
「難儀な‥‥何か、少しでもいいんで情報があれば助かるんだが‥‥」
「はぁ‥‥」
 何とか見当だけでもつけたい受付係はどんな些細なことでもいいから、と男に迫る。
 開拓者とはいえ、相手はアヤカシ。何もわかっていない状況で手を出すのは余りに危険というモノ。
 であれば何とか情報を引き出しておくのが受付係の務めといえよう。
「‥‥あ、そういえば」
 しばしの間考えていた男が、ふと何かを思い出したように声を上げた。
「ここ最近で消えた人がいた部屋なんですがね。少し似たような部分があるんですよ」
「へぇ?」
 男の言葉に身を乗り出す受付係。
「気にしすぎかもしれないんですが、その部屋には二回とも同じモノがあったんですよ」
「同じモノ?」
「えぇ。花瓶と花、そして巻物と掛け軸です」
 男の思い出した情報、それは床下に穴が発見されたという二つの部屋にあった、共通する物体四点。

 一つ目は花瓶。
 元々は穴のあった最初の部屋に置いていた物だが、活けていた花を変えるために移動していたのだとか。
 かなりの年代モノらしい。現在は洗浄のため庭にある。
 二つ目は花。
 花瓶と共に最初の部屋に置かれていた物。今回その花を別の花に差し替えるために一緒に移動してきていた。
 これも高価な花らしいが、今回の件で屋敷の裏に捨てられている。
 三つ目は巻物。
 元々最初の部屋に転がっていたもので、部屋でいなくなった人が持っていた物のようだ。
 とある古美術商から高値で買い取った古い巻物で、中身は真っ白。現在は別の部屋に保管されている。
 四つ目は掛け軸。
 これも最初の部屋から移動してきたもの。依頼人のお気に入り。部屋の模様替えの度に移動させている。
 描かれているのは美人画で、著名な作家の作品らしい。これも相当高価なものだ。
 現在は血痕が付着してしまったため、倉庫にしまわれている。


 こうして、開拓者ギルドにまた一つ厄介な依頼が張り出されたのである。


■参加者一覧
小伝良 虎太郎(ia0375
18歳・男・泰
虚祁 祀(ia0870
17歳・女・志
ラフィーク(ia0944
31歳・男・泰
胡蝶(ia1199
19歳・女・陰
衛島 雫(ia1241
23歳・女・サ
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
乃々華(ia3009
15歳・女・サ
赤マント(ia3521
14歳・女・泰


■リプレイ本文

●意気込み。
 アヤカシが潜んでいるという商人の屋敷前に辿り着いた開拓者一行。
 今回はどこにアヤカシが潜んでいるかがわからないため、開拓者であることを悟られぬよう各人かなり身軽な服装をしている。
「人が消え、残された血痕と謎の穴‥‥また厄介なアヤカシが現れたものだな」
「そうね。誰も見てないんだから能力自体も不明だものね」
 手を顎にあてて考えるラフィーク(ia0944)に頷きを返す。虚祁 祀(ia0870)。
 これまでも様々なアヤカシと対峙してきた開拓者たちだが、その姿が見えず能力も不明という状況はそれほど多くはない。だが、それよりもそんな場所に住んでいるのが気掛かりだと息巻くのは小伝良 虎太郎(ia0375)。
「見えないのがいるってだけで凄く怖いと思うんだ。だから早く解決してあげたいな」
「ふふ、そうね。これ以上被害が広がらないように頑張らないとね」
 そう言って拳を合わせる虎太郎に嵩山 薫(ia1747)もふと笑みを零して頷く。
 開拓者は人々の安全を護るのも大事な仕事の一つなのだ。
「用心深い敵のようだな。とはいえ‥‥むぅ。普段しない格好だから何というか‥‥変じゃないか?」
「大丈夫、良く似合っていますよ」
 気を引き締めたものの、自分の格好がどこかしっくり来ずにくるくると見回している衛島 雫(ia1241)にくすくすと笑う乃々華(ia3009)。そんな二人の格好は至って普通の町娘といった着物姿。開拓者であると敵にバレてしまうと逃げられてしまう可能性があるため、屋敷内に自然に入り込むには雑用なり丁稚なりに扮している必要がある。そこで、と乃々華が用意した服。勿論屋敷内にて捜索をする仲間は皆それぞれに扮装している。
「ん〜! やっぱり身軽な方がさっぱりするね!」
 そう言ったのは赤マント(ia3521)。普段から速さを求めるためにとなるべく軽装を心がけている赤マントだが、やはり戦闘時の物と比べると身軽なのだろう、大きな伸びをしていた。
「まずは情報ね。集めれるだけ集めて出来る限り相手の位置を特定したいわ」
 胡蝶(ia1199)の言葉に頷く一同。
 こうして、開拓者たちによるアヤカシ捜索が始まった。

●情報其の壱〜古物商。
 商人の家からそれ程離れていない場所で小さな骨董屋を営む男―――それが巻物を持ってきた男だという話を聞いた祀は、屋敷内に残る仲間とは別行動を取り早速その店へと足を運んだ。
 独特の埃っぽさを醸しだすその店内は、祀が見ても一体何の価値があるのかすらわからないような不思議な物ばかりである。
「何か用かい?」
 店の奥から現れた男はひょろりとした痩せ型の中年男性。
「いくつか尋ねたいことがあるのだけれど、いいかしら?」
 祀の言葉に面倒臭そうに頷く男。
 聞きたかったのは屋敷にあるという巻物のこと。中身は真っ白だという話だが、それは元々白紙であったのか。そして白紙であったのなら何故それが高値で取引されているのか。
 答えは想像していたよりもずっと単純な話だった。
 曰く、その巻物はとある著名な画家が所持していたものらしく、これから描き始めようという所で謎の失踪、そのまま白紙のまま残っているのだとか。
 祀はふと、謎の失踪の部分に反応する。
 だが所詮は失踪。目撃されているはずもなく、それ以上詳しいことはわからなかった。
 他の人に渡ったか、あるいは妙な噂が立っていないかという点に関しても同様で、特別わかるようなことはなかった。
「とりあえず聞けることは聞いたわね。後は皆が上手くやってくれてるといいけど」
 店から出た祀はよし、と息を一つ吐くと、再び屋敷の方へとその足を速めた。

●情報其の弐〜掛け軸と花瓶。
 依頼人の下を訪れた一行。
 依頼を受けた時点から「巻物」が怪しいと踏んでいた開拓者たち。巻物に関してここに来る前の持ち主について尋ねてはみたが、それは後に祀が持ってくる情報以上のことは出てこなかった。
 決め付けるのも手だが、万が一外れた場合に逃げられてしまう。そこで可能性の薄い物から外していく消去法に出る。
 一つ目は掛け軸。これに目をつけたのは胡蝶。
 依頼人のお気に入りであるという美人画。血痕がついているため蔵にしまわれているというのを無理を承知で出してきてもらった。
「で、これをどうするんだい? 一応染み抜きとか試すから乱暴に扱わないでくれよ?」
「わかってるわ。それはそうとこの絵、どこか変わったところはない?」
 胡蝶の問いかけ。お気に入りというからには熟知しているはず、そして何か変化があるようであれば掛け軸がアヤカシの可能性も出てくる。
 胡蝶自身も掛け軸を見てはみるが、生々しい血の跡が付着している以外で特に不審な点は見当たらない。
 依頼人もしばしの間じっと掛け軸を見つめていたが、やがて溜息と共に首を横に振る。
「そう。違いがないのならいいわ。ありがとう」
 胡蝶は礼を述べる。一先ず掛け軸は可能性が薄そうだ。

 一方の裏庭。
 井戸の傍でせっせと花瓶を洗っている少年に声を掛けたのは赤マント。
「ボクも手伝うよー!」
 にこっと笑いながら少年を手伝う赤マント。
 だが本来の目的は―――聞き込み。
「ねぇ、これって血がついてたから洗ってるの?」
「ん? そうだよ。すごい量の血だったからね」
 答える少年は思わず眉を顰める。それほど凄惨な現場だったということだろう。
 だが赤マントは心中で笑みを浮かべる。
 花瓶・花・掛け軸。そのどれにも血痕がついていた。位置的に掛け軸にまで飛ぶ程の血量で巻物にだけついていなというのは不自然だ。それが意味するのは勿論―――
 赤マントは一通り花瓶洗いを手伝うと、一言少年に礼を述べて皆のいる場所へと戻る。

●情報其の参〜部屋と穴。
 依頼人が戻ったところで一行は問題の部屋を見せてもらうことにした。
 案内された部屋は最初に穴が発見された部屋。見れば床の中央に大きな穴がある。
「この部屋ともう一つの穴の部屋―――そこは近いのかね?」
 ラフィークの問いに「えぇ」と答える主人。聞けば二つ隣の部屋らしい。もしかするとこの穴は移動手段なのかもしれない、と考えたラフィークは主人の許可をもらい穴の中を覗き込む。床下は人が潜り込める程度の広さはある。確かに床下を通じて部屋と部屋は繋がっているようだ。ここを利用してアヤカシが移動したのだとすれば、物そのものが勝手に動いたということになるが。
「巻物のことで少し聞いてもいいかしら?」
 そう言った薫が気になったのは巻物の移動経路。誰かが部屋から部屋へと移動させたのか。またそれを目撃した者がいるのか。誰も知らないならば巻物が自分で移動したという可能性がある。
 それに付け加えるように質問したのは乃々華。乃々華の疑問点もまた巻物を「誰が」移動させているのかというところ。ひょっとすれば物ではなく既に人に憑依しているかもしれないという懸念も含めてではあるが。
「部屋から部屋へと移動しているのは主にこの家で働く者の誰かだろう。基本的にはその場に居合わせた者に頼むことが多いが‥‥誰、というのはさすがに覚えていないな。つい最近であれば私自身で別の部屋に移動させた」
 というのが依頼人からの返答。
 更に最初の穴があった部屋から血痕がついた部屋への移動に関しては目撃情報もなく、移動したという人間もいなかった。
 勿論食われてしまったであろう本人が移動したという可能性はなくなってはいないが。
「そうですか‥‥すみません、ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げながらも、ほぼ確信めいた思いを抱く乃々華、そして同じく笑みを浮かべて鉄扇をパチリと閉じる薫。
 一行は依頼人に頭を下げると、部屋を後にした。

●誘い出し。
 集めれるだけの情報を集めた開拓者たち。
 ほぼ予想通りの裏付けが取れた。後は目標を逃がさないようにするだけ。
「お邪魔しまーす‥‥」
 現在巻物が保管されている部屋へと入り込んだのは虎太郎。どこからどう見ても使用人にしか見えない虎太郎は、恐る恐る巻物に近付くと「えっと‥‥これをあの部屋に運ぶんだよね‥‥」と呟きながら巻物に手を伸ばす。勿論演技であり、万が一のときのために注意は怠ってはいないが、どうやら巻物が何かをしてくるような気配はない。
 虎太郎はそのまま巻物を予め準備していた離れの部屋へと運ぶ。
 運んだ先は少し広めの部屋。そこで待機していたのは乃々華。
「あ、あの‥‥旦那様に言われてコレを運ぶようにと‥‥」
「はい、ご苦労様ですー」
 虎太郎の言葉ににこりと微笑む乃々華。演技は完璧である。
 巻物を部屋の中央においた虎太郎は乃々華に一瞬視線を送り、残りの品の運搬のためそのまま部屋を後にする。巻物を最初に、掛け軸と花瓶、そして花の順番に次々に運び込んだ開拓者たち。後は、この部屋で相手が出てくるのを待つだけ―――
 部屋には乃々華と謎の物品のみ。掃除をしながら待つ乃々華。
 どれぐらいかの刻が過ぎ、そろそろ掃除し続けるのも限界という所で赤マントが部屋に飛び込んでくる。
「鏡を割って怪我しちゃったー」
 そういう赤マントの手は真っ赤に染まっている。一瞬何事かと驚いた乃々華だったが、それがアヤカシを誘い出す餌だとわかると、仰々しく驚いて包帯をと部屋を出る。
 一人になったのを確認した赤マントはわざと巻物に背を向けて座り込む。
 ほんの数刻―――赤マントの背後から不穏な気配がざわりと動き始める。赤マントはじっと後ろの気配に気を配りつつ、足だけは踏ん張れるように体勢を少し変える。まるで品定めをするような視線が赤マントの身体に纏わりつく。そして、その気配はすぐに攻撃の気配へと変貌する。
 一瞬の交錯。
 赤マントが元々いた場所に大きな獣のような口が突き刺さる。当の赤マントは即座に避けている。
「やっぱり君が犯人だったんだね! みんな!」
 声を上げる赤マントに、一斉に雪崩れ込んで来る開拓者たち。
 今まで誰も見たことがなかったアヤカシがついにその姿を眼前に曝け出した。

●戦闘。
 一行の目の前にはふわりと宙を浮きながらはためく開かれた巻物。
 そしてその巻物から歪に飛び出た巨大な口。獣のように鋭い牙を生やした口が、畳ごと床を食い破っている。
「やり口が荒っぽくなってきているのは余裕の表れか? 気に入らん!」
 拳を握って構える雫。更に泰拳士勢が巻物を取り囲むように陣取る。
 張り詰めた空気が流れる。
 しばらくの睨み合い。最初に動いたのはアヤカシ。狙ったのは出入り口を塞ぐ雫。
 アヤカシはその口の通り獣のような素早さでその牙を振るう。だがそこに躍り出たのは祀。
 横踏を使ってアヤカシの前に躍り出た祀は、矛先が自分に向かったのを確認すると、噛み付かれない様に刀をつっかえ棒の如く鞘ごと口の間にねじ込んだ。ガキンと音を立ててアヤカシの顎が止まる。そしてその顎を後ろにいた雫ががっしりと掴む。
「放て!」
 雫の合図と共に再び刀を抜き取った祀。そのまま刀を腰にあて、鯉口を軽く切り、一気に抜き放つ。
 志士の抜刀術『雪折』―――
 肉を裂く音と共にアヤカシの悲鳴が部屋に轟く。何かの力で巻物の中に潜んでいたのだろう、力を保てなくなり巻物からずり落ちるアヤカシ。
 身の危険を感じたアヤカシは再び逃げ場を探して部屋を見回す。が、視界に飛び込んできたのは拳を構えたラフィークの姿。
「はぁっ!」
 掌に気の力を乗せて放つ泰拳士の技『気功掌』。ラフィークの拳がアヤカシの身体にめり込む。
 悶えるアヤカシ。その上からひらひらと舞い落ちる細かな粒子。ビクンと震えたアヤカシの動きが更に鈍くなる。
「毒蛾の粉、浴びたからには自由に動けないわ」
 無表情のまま呟いた胡蝶。放ったのは神経毒を持つ蟲の式。
 そして動きの鈍ったアヤカシの前に立ったのは赤マントと薫。
「さぁいっくよー!」
「大見得切った手前‥‥外れなくてよかったわ」
 元気な赤マントの声に呼応する薫は静かな闘志を燃え上がらせる。
 アヤカシを見据える二人の身体が熱を帯び、徐々に真っ赤に染め上げていく。完全に染まりきるまで数瞬、同時に勢い良く地を蹴った二人は左右からアヤカシに肉薄する。まずは赤マント。速度を上げて放つ拳はそっと置くだけで凶器となる。
「逃げる暇なんて与えないよっ!」
 速度に任せた連撃がアヤカシの身体を歪ませる。悲鳴を上げる間もなく背後から迫る薫。
 大きく沈みこんだ身体を限界まで捻らせ、溜めた力と共に一気に回転。その重い蹴りがアヤカシの身体を捻じ曲げ、そのままとある場所へと吹き飛ばす。
「最後、頼みましたよ」
 呟く薫の視線の先には、腰をどっしりと落として構える虎太郎の姿。
「一気に決めるっ!」
 飛ばされて宙に浮いた状態のアヤカシに気合を込めて連撃を放つ虎太郎。虎太郎が使っているのは自らの素早さを犠牲にして力を引き上げる『牙狼拳』。本来欠点となるはずの素早さと足元ではあるが、この状態であれば欠点となりえるわけもなく。
 しこたま連撃を浴びせられたアヤカシは断末魔の叫びと共に静かに黒い霧と化して宙に消えていった。

●終わりに。
 アヤカシを無事仕留め終わった開拓者たち。
「にしても‥‥食べるときにわざわざ床を噛み砕くなんて、何考えてんだろ」
 開いた穴をせっせと埋めながら虎太郎は呟いた。
 元々アヤカシが移動するためにできた穴だと思っていたのだが、どうやら単純に勢い余って開いた穴のようだ。隠れるだけで、それほど知能が高いわけではなかったのかもしれない。
「やれやれ。面倒だと思ってましたが終わってみれば何てことはなかったですね」
 そう言いながらラフィークは首をコキコキと鳴らした。
「見つけてしまえばそんなものなのかもしれないわね」
 胡蝶も念のためにと仕掛けておいた地縛霊の符を外しながらコクリと頷く。
「もう演技をする必要もないですね」
「お疲れだよー!」
 乃々華の言葉に赤マントが労いの言葉をかける。
「拳の道は賢にも通ず。実戦で生きる知識こそが真の知識。是ぞ知行合一の意、よ」
「さすがだな。私はどうも策を巡らすのは苦手でな」
 口元で愛用の鉄扇をパチリと閉じて言う薫に、雫は溜息を漏らす。
「これで、屋敷の人たちも安心して眠れる、かな」
 微笑みを浮かべながら言う祀の言葉。
 こうしてまた一つ、開拓者の報告書に新たな一ページが追加されたのであった。

 〜了〜