褌村復興物語〜其の壱。
マスター名:夢鳴 密
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/09 10:45



■オープニング本文

 かつて栄えた謎の村、どきどき☆フンドシ村―――略して『どきフン』。
 褌を愛する者たちによって設立されたその村は既にこの世にはなく、村が存在していた地域は今荒野となって野に晒されている。話によればアヤカシが存在するとも言われているが、その真偽は定かではない。
 二月程前、開拓者の手によって一つの褌が奪還された。
 それはかつて『どきフン』の象徴たる旗として掲げられた聖なる褌。
 そして今その旗の下、暑き褌野郎たちの伝説が始まろうとしていた。

「長―――」
 北面南部にある山岳地帯。普段余り人のいる場所ではないところにポツンと建つ一軒の山小屋。
 その小屋の中に声が響く。蠢くのは二つの人影。声を出したのはそのうちの一つ、泰独特と思われる衣装に身を包んだその影は以前褌の奪還を開拓者に託した者。
「居場所は掴めたか?」
 こちらはもう一つの影。長と呼ばれたその影は年の頃十七、八といったところか。金髪のその青年は非常に精悍な顔立ちをしており、立ち振る舞いは高貴だが無邪気さを残した不思議な雰囲気を身に纏っていた―――格好が褌一丁であることが残念でならないが。
「はっ‥‥どうやら森の奥深くにおられるとの事」
「ほう、意外に近くにいたんだな」
 男の報告に感嘆の声を上げる長。
「ですが‥‥我らが行くだけでは彼の御仁は納得しますまい」
 男の言葉に「ふむ」と腕を組む長。
「仙人の作り出すアレがなければ八将軍の召集すらままならねぇ。何としても手にいれねぇとな」
「ではやはり開拓者の力を‥‥?」
「あぁ。今の俺たちじゃ仙人の心を満たす程の刺激は生み出せねぇ。だが開拓者ならばあるいは―――」
 言いながら長は褌の前垂れをそっと持ち上げる。そこには達筆で書かれた『漢』の文字。
 この褌には今まで歴代の長たちの血と汗と涙とナニかの結晶が刻み込まれている。
「賭けてみようではないか。かつては褌を愛する者も数多くいたと言われる開拓者たちに―――」


「失礼」
 突如掛けられた声に驚く受付係。決して気を緩めていたわけではなかったのだが、気配に気付くことができなかった。
「‥‥またアンタか」
 以前にも似たようなことがあったな、と思いながらげんなりとした表情を浮かべる受付係。
 目の前に立っている男は泰の衣装に身を包んだ細い目の男。
「何だ、また褌か?」
「いえ、もうそれは済みましたので‥‥」
 ジロリと睨まれた男は苦笑を浮かべながら懐から一枚の紙切れを取り出し、受付係に手渡した。
 見ればどこかの地図であることはすぐわかる。どうやらどこかの森周辺の地図であるようだが。
「これは?」
「はい。実はこの森の奥深くに、とあるご老人がいらっしゃいます。その方からあるモノを貰ってきて頂きたいのです」
 笑顔を張りつけたままの顔で男は言う。相変わらず開いているのかわからない細い目だ。
「‥‥褌じゃねぇんだな?」
「ですからそれはもう終わったと‥‥」
 疑いの目を向ける受付係に細い目をハの字に歪める男。
「ふーん‥‥で、今度は何を?」
「実はこのご老人、とある秘薬をお持ちなのです。それは我々にも必要な物ですので、それを取ってきていただきたい」
「‥‥自分で取りに行けよ、そんぐらい」
 呆れた顔で言う受付係。だが言いたいことは尤もである。
 アヤカシや山賊がいる、というならまだしも、ただ取りに行くだけならば開拓者でなくてもいいはずである。
 そう、ただ取りに行くだけならば―――
「そうしたいのは山々なのですが‥‥このご老人、少し変わっておりまして。森の至る所に様々な罠を仕掛けては来る者の反応を見て楽しんでいるのです」
「‥‥趣味悪いな‥‥」
「更に、ご老人から薬を貰うためには、そのご老人をどんな形でもいいから打ち負かす必要がありまして‥‥」
 喉元まで出掛かった「面倒な」という言葉を慌てて飲み込む受付係。
 こんな依頼でも依頼は依頼。まして今はどんな依頼でもくれるだけ有り難い状況なのだ。
「内容はわかった。で、その秘薬ってなぁ何なんだ?」
 受付係の疑問に答える代わりに、男は懐からまた一枚の紙を取り出した。
 そこには達筆で『不老手印』と書かれている。
「‥‥何だか仰々しい名前だな」
 言いながら苦笑する受付係。名前だけでも怪しげだ。
「これが秘薬の名前です。そして老人の名は―――」
 そこで一旦男は言葉を止め、細い目をすっと開く。嫌な予感を何となく感じ取った受付係はゴクリと唾を飲み込んだ。
「―――褌仙人」
「やっぱり褌じゃねぇかあぁぁぁぁっ!?」
 受付係の心の叫びがギルド内に虚しく響き渡った。


■参加者一覧
エーリヒ・ハルトマン(ia0053
14歳・女・陰
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
風雲・空太(ia1036
19歳・男・サ
煉夜(ia1130
10歳・男・巫
四方山 連徳(ia1719
17歳・女・陰
伊集院 玄眞(ia3303
75歳・男・志


■リプレイ本文

●褌の舞〜序章。
 鬱蒼と生い茂る森の中枢。
 そこで八人の開拓者が歩みを止めて立ち竦んでいた。
「こ、これは‥‥」
 顔を引き攣らせて足元に視線を送るのは樹邑 鴻(ia0483)。同様に何かとてつもなく嫌そうな顔の相川・勝一(ia0675)と真亡・雫(ia0432)。
「行け、そういう風に見えますね」
「僕は嫌ですよ!?」
 勝一の言葉に慌てて首を振る雫。
 一体彼らは何を見ているのか―――それは一枚の張り紙。
 『ここは絶対踏むなよ? いいか、絶対だぞ?』と書かれている。
「やはり‥‥行けということなのか‥‥っ」
 自らの屈強な肉体を振るわせる風雲・空太(ia1036)は迷っていた。
 ここで一番槍を取るべきか否か。勿論どんな罠が来ようとも怯むつもりはないが、他の仲間の心意気も見てみたい。そんな空太の肩に伊集院 玄眞(ia3303)が手を乗せる。
「思う存分迷うがえぇ、若いうちにしか悩めんのじゃ」
「玄眞さん‥‥!」
 玄眞の言葉に何故か涙を流す空太。よくわからないがこの二人には何かが通じたようである。
「誰も行かないならうちが行くよー?」
 腕をぶんぶんと振り回してやる気満々なのはエーリヒ・ハルトマン(ia0053)。彼女の頭には既に罠を回避するという考えはない。
「い、いやそれなら俺が!」
 慌てた空太が手を上げると、他の仲間も「俺も!」「私も!」と手を上げる。
 最後に残ったのは―――雫。
「くっ‥‥じ、じゃあ僕が―――」
『どうぞどうぞ』
 お約束。それはいかなる状況においても発動される甘い罠。
 雫は涙を浮かべながら張り紙の上に足を乗せ―――消えた。
 見ると雫の立っていた辺りにぽっかりと黒い穴が。どうやら落とし穴のようだ。
「うわぁっ!? な、何これぬるぬるして‥‥鰻!? あ、ちょっ‥‥こら、中はダメ中は、あぁっ!?」
 ぽっかりと空いた穴から声だけが雫の状況を物語る。
「尊い犠牲でござった‥‥」
 何故か合掌する四方山 連徳(ia1719)に倣い、他の仲間も手を合わせる。
「‥‥無茶、しちゃって‥‥」
 目に涙を浮かべて空を見上げる煉夜(ia1130)の瞳にも何故か涙。
「勝手に殺さないでぇぇっ!?」

 こうして、褌仙人と呼ばれる奇特な老人と開拓者たちの熱き戦いの火蓋が切って落とされた。

●襲い来る罠たち〜前編。
「しかしこのような危険な森の中に本当に老人が住んでいるのでしょうかね?」
 雫が普段なら最もな感想を口にする。
 だがそれはあくまで普通の感覚。
「相手は仙人を名乗るほどの人物。常識は通用しないと考えていいだろう」
「くぅ〜! 漲ってくるなぁ!」
 あくまで冷静を装うが妙に腰周辺の感触が気になる鴻に、無意味に武者震いをする空太。
 既に彼らは敵の懐にいる。何が起きても不思議ではないのだ。
 と、そこで勝一が前方に何かを発見。
「あ、あそこ。何かありますよ?」
 勝一の声に全員が視線を移すと、そこには明らかに人工的に埋めた後のある地面。
「ま、また落とし穴か‥‥っ!?」
 先程の恐怖がよみがえる鴻。
「調べましょうか‥‥押さないでくださいよっ!?」
「あ、はい!」
 元気良く応えた煉夜が勝一の背中を思いっきり押した。
 慌てる間もなく押された勝一は地面が盛り上がった場所へ。
 直後、地面から網が出現して勝一の全身を絡め取る。
 そして何故か両足をV字型に伸ばして身体をくの字に折った、所謂恥ずかし固めと呼ばれる体勢のまま宙にぶら下げられる。
「うにゃあっ!? み、見ないでくださいーっ!」
「ご、ごめんなさい! 押せっていう合図かと思って!」
 泣き叫ぶ勝一におろおろと謝る煉夜。
 その様子を見ていた鴻は、再度地面を確認。何も起こらないのを確認してすっと立ち上がる。
 だが、立ち上がった所には新たな縄が。
「よし、皆ここは大丈―――へぶっ!?」
 突然飛来したしなる竹に顔面を強打して倒れる鴻。
「大丈夫です―――あっ!?」
 慌てて近寄る連徳。その足元には草を結んで輪にした簡単な罠が。
 引っ掛かった連徳はバランスを崩して倒れこみ、その膝はそのまま鴻の顔面へ。

 顔面に二連撃を食らった鴻が復活するには少し時間がかかったようだ。

●襲い来る罠たち〜中編。
「皆止まれっ!」
 先頭を歩いていた鴻が手で仲間を制止する。
「どうしたの?」
 ハルトマンが不思議そうに声をかけると、鴻はある一点を静かに指差した。良く見ると細い糸が張り巡らされている。
「明らかに何かありますね」
「ですね‥‥」
 煉夜の言葉に同意を示した雫は石を拾い上げると、それを前方へ無造作に投げ入れる。静かに何かが切れる音がして、地面から細長い物が飛び出してきた。
「い、意外に危ない物もあるじゃないですかっ‥‥!」
 それを見た勝一が思わずぶるりと肩を震わす。
 一方連徳は飛び出してきた物の正体に興味があったらしく、ゆっくりと近付いていく。それは青々とした、収穫して煮ると春先の季節物として喜ばれる素敵な食材―――
「何かわかったか!」
「‥‥うむ、これは筍でござ―――」
 女性を一人で行かせては、と近付く空太に報告しようと振り返る連徳。だがその瞬間連徳の手に何か糸が切れるような感触が。
「―――あ。」
 刹那、地面からにょきにょきと勢い良く飛び出す筍。
 生えてきたのは空太の足元。つまり筍の先はまっすぐに空太の尻へ。

 ぷす。

「‥‥のおぉぉぉぅ!?」
 かつて地面から急速に生える筍に刺された者などいただろうか、否ない。
「天儀の歴史に‥‥また一ページ‥‥」
「いえ、できればそのページはすぐ様白紙に戻したほうが‥‥」
 玄眞の言葉にどこか遠い目で反応する雫であった。

●襲い来る罠たち〜後編。
 何とか罠を潜り抜け―――というか被弾しながらも進む開拓者たち。
 だがまたしても彼らの前に難関が立ち塞がる。
 今一行の目の前にあるのは森の至る所に張り巡らされた縄の数々。通ろうとすればそのどれかには当たってしまう程の密集っぷりである。
「こ、これに引っ掛かるんですか‥‥っ!?」
 今まで遭遇した罠の数々を思い出してがたがたと震える勝一。
 この縄に引っ掛かれば一体何が起きるのか予想ができない。ただ本能が超絶に拒否していることだけは理解できた。
「こ、これは‥‥さすがに厳しいですね‥‥」
 何とか潜り抜けようと縄の隙間に身体を滑らせる雫も、その数の多さに身動きが取れなくなる。
 同様に煉夜と空太も通り抜けようと必死に身体を捻らすも、どうしても体勢的に無理が出てしまう。
「このままでは潜り抜ける前に身体がツってしまいます‥‥!」
「これだけの数だ、潜り抜けるなど不可能に近いが‥‥だからこそやる意味がある!」
 不自然な体制でぷるぷると震える煉夜と無駄に暑苦しさを振りまく空太。
 と、ここで頑張る姿を静かに眺めていた玄眞がくわっと目を見開いた。
「落ち着くのじゃ! 目で見るのではない、褌で感じるのだ! 全ての神経を褌に集中させよ!」
「全ての力を‥‥褌に‥‥」
 呟いた空太は言われたとおりそっと目を閉じ、己の肉体に纏う褌をイメージする。
 すると心の中に一本の光る道が見えた―――ような気がした。
「見えた!」
「嘘だっ‥‥‥‥なっ!? 俺にも見えた、だと‥‥!?」
 半信半疑というより完全否定に近かった鴻も、同様にして光る道が見えた―――ような気がした。
 どうやら煉夜も雫も勝一も、全員が同じような光景が見えたらしく、全員が顔を見合わせて力強く頷いた。
「さぁ、私に続け若人たちよっ!」
 玄眞の叫びと同時に一斉に縄の隙間を潜り抜ける男たち。
 こういうのを火事場の馬鹿力というのか、本当に縄に当たることなくするすると潜り抜けていく。人体にはまだまだ未知の力が眠っているのかもしれない。
 あと少し―――というところで後ろの方から黄色い声が。
「いやぁん、脱げちゃうー」
「あっ‥‥拙者のさらしがっ」
 同様に後から罠に突入したハルトマンと連徳がどうやら罠に掛かってしまったようなのだが、その時にあげた悲鳴は男性陣の意識を逸らすには十分な破壊力だった。悲しい男の性というべきか、思わず後ろを振り返ってしまう男性陣。元々ギリギリで潜り抜けていた罠、そこに予想外の行動が加われば当然―――
『‥‥‥‥あ。』
 全員のハモった呟きと共に無数の石礫が六人目掛けて飛来する―――ちょうど腰の下部を目掛けて。

 その後、股間を押さえて悶絶する六人の哀れな男たちの姿が確認されたとかされていないとか。

●集え! 褌の下に!
 数々の罠を潜り抜けた開拓者たちが森の奥深くに一軒の小屋を発見したときには、既に服はボロボロで生傷が体中に刻まれた状態だった。
「な、何とか辿り着いたなのー」
 呟いたのはへろへろ状態のハルトマン。どこをどうしたのか、彼女の服は既に大事な部分を覆うだけの布切れと化して、そのつるぺたな身体を思う存分露出する形になっていた。
「もう十分ボロボロでござるよ‥‥」
 こちらもげっそりとした様子の連徳。
 真面目にやっていたはずなのだが、何故かことごとく罠にかかった彼女もやはりボロボロだ。
 一方の男性陣は最後の罠が堪えたのか、静かに股間を抑えていた。
 と、そこで小屋から一つの人影が現れる。
「ほっほっほ、よくきたのぅ。歓迎するぞい?」
 穏やかに笑いながら出てきたのは長身と呼べる背にゴツくて厚い胸板を惜しげもなく曝け出した、褌一丁のムキムキの老人―――恐らくはこれが問題の褌仙人。その褌は恐らく白だったのだろうが、今はくすんでしまっている。
「ここに来たということはお主らが『不老手印』を求める開拓者かの?」
 嬉しそうに目を細める老人は、まるで新しいおもちゃを見つけたときの子供のようだ。
 だが、目の前の開拓者たちの満身創痍の姿に少し残念そうな表情を浮かべる。
「何じゃ、もう仕舞いかの‥‥?」
「‥‥まだまだ、です!」
 気迫を吐いた雫は懐から何かを取り出した。
「そうですね‥‥これからが僕たちの褌魂の見せ所です!」
 同様に煉夜もまた何かを取り出す。当然の如く空太、玄眞、鴻も何かを取り出す。
 最後まで躊躇していた勝一も何かを決心したように拳を握った。
「こ、こうなれば自棄です! 皆さん、変身ですよ!」
 言いながら勝一が取り出した物、それはいつもの彼なら戦闘時に身につけるはずの仮面。
 だが今回はその意味が違う。何故なら男性陣が皆同じ色違いの仮面を取り出していたからだ。
『着フン!』
 叫んだ六人が仮面を装着すると同時に衣服がはだけ、仮面と同じ色の褌姿へと変貌する!
「うおぉぉっ! 燃え滾る熱い魂、情熱の赤褌!」
 自慢の身体を誇示するようなポーズの空太。かぽんかぽんと音がする。
「貴様の罠に全俺が泣いた! 号泣の青褌!」
 何故か涙を流しながらポーズを取る鴻。色々何かが溜まっているのだろう。
「不思議な魅力全開、神秘なる紫褌!」
 どこか嬉しそうにキラキラと目を輝かせてポーズを取る煉夜。空太と玄眞に向ける視線が熱い。
「熟練の技を見せてしんぜよう、老練なる黒褌!」
 とても老人とは思えない身体を見せ付ける玄眞。金文字で『漢』と書かれた褌がちゃーみんぐ。
「恥ずかしさで死にそうです‥‥恥辱の桃褌!」
 もじもじと頬を染めながらポーズを取る雫。その筋の人が見たら間違いなく浚われそうだ。
「ふははは! 白く清き力は正義、清浄なる白褌!」
 仮面を装着することで何かを吹っ切ってポーズを取る勝一。仮面は人格を超えるのか。
『全員揃って、褌戦隊!』
 何かを示し合わせたわけではない。
 だが褌を愛する者の魂がそれをさせるのか、全員が一糸乱れぬ動きで決めポーズ。背後にカラフルな爆発が起こった―――ような気がしただけ。だが褌仙人には効果抜群だったようだ。
「おぉぉぉっ!? ま、まさかお主らの褌がこのような魅力を放つとはっ!」
「まだまだこれからだぜっ!」
 叫んだ空太が己の赤褌の前垂れを拳布のようにぐるりと手に巻きつける。勿論他の面子も同じように褌の前垂れを手に巻きつけた。
「あなたが持っているという秘薬『不老手印』、貰い受けにきた!」
「僕たちの褌魂とあなたの褌魂、どちらが強いか勝負です!」
 びしっと仙人を指差す勝一に煉夜が続く。
「ふ、ふははは! よかろう、掛かってくるがよい!」
 両手を広げていつでも受け入れるという姿勢をとる褌仙人。
 同時に一斉に駆け出した六人。そのまま褌仙人を囲むような形で布陣すると、一気に仙人に襲い掛かる。
 拳の射程距離に入るところで全員がその拳を振りかぶる。
 だが拳には褌の前垂れが巻きついている。それを振りかぶるほど大きく引っ張ったとすれば―――当然褌は脱げる。
「な、何じゃとぉっ!?」
 突如全裸に仮面だけの姿で襲い来る六人に驚愕する仙人。
 直後、全員の褌拳が千人の身体にめり込んだ。
「ばっ‥‥バカな‥‥褌を‥‥」
「あえて褌への拘りを捨てることで迷いを断つ‥‥穿いているだけが褌ではない」
 穏やかな笑みを浮かべながら玄眞はそう言った。
「褌戦隊‥‥覚えておこうぞ」
「‥‥打ち拉がれたその時は、俺の色を思い出せ」
 呟いた鴻の目はどこか遠いところを見ているようだ。
「見事‥‥っ!」
 ずぅんと大きな地響きを立てて巨大な筋肉の城はその身を地に沈めた。

 その後裸の身体で喜びを表現する男性陣に連徳とハルトマンから石が投げられたとか投げられていないとか。ともかく仙人との熱き戦いは開拓者の勝利で幕を閉じた。

●大団円。
 褌仙人を無事打ち破った開拓者たちは、仙人の持つ『不老手印』を無事に受け取り、その後褌を愛する者の友情を深めるためささやかな宴会を開いていた。
「ほぅ、お主名褌百選を知っておるのか!」
「無論だ。アレは褌愛好家たちの魂の結晶、褌を愛する者として知らぬわけがない」
 杯を傾けながらかつて栄えたという褌の村に伝わる秘宝の話で盛り上がる仙人と玄眞。
 どうやら彼らには他の人には見えない絆が存在するようだ。
「うぅ‥‥依頼のためとはいえ‥‥恥ずかしかったです」
「その割には仮面をつけてからは楽しそうでしたね‥‥」
 がっくりと項垂れる勝一に苦笑する雫。
「何故‥‥俺はここにいるんだ‥‥」
 既に起き上がれないほどの精神ダメージを受けた鴻が膝をついたまま涙を流す。
「全く‥‥散々な目にあったでござるよ」
「そういえば連徳様は褌にはならなかったのですね?」
 やれやれと溜息をつく連徳に煉夜がふとした疑問をぶつける。
「拙者がそんな姿になったら天儀中の殿方が鼻血の海に沈んでしまうでござるよ」
「うぅー、うちだってそれぐらいー」
 自信満々の連徳にハルトマンが小さく唸る。
「全ては褌のために―――これぞ褌愛だぁっ!!」
 滝のような涙を流す空太の叫びが、森の中に木霊して消えていった。

 〜了〜