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■オープニング本文 とある街の小さな飲食店の店長は本日何度目かのため息をついた。 「一体どこへ行ってしまったんだ‥‥」 十日ほど前まで彼女が立っていた舞台を眺め、額に手をやった。 店長が頭を抱えるはめになったのは、この店の従業員であり、街で話題の歌姫でもある少女が失踪したからである。 最初こそ彼女の勝手な行動にただ怒りが募るばかりだったが、聞けば彼女はしばらく家にも戻らず、その姿を見た者もいないという。さすがに店長もずっとかわいがってきた、娘のような存在の少女のことが心配になってきた。 「真琴ちゃん、まだ戻らないんだって?」 「どうしたのかねえ‥‥」 歌を聞きに店にやってきた客が、まだ戻らない歌姫にがっかりしながら帰っていくのを横目に見ながらも、何人かは彼女の身を案じる言葉をかけてきた。 「そうなんです‥‥どなたか彼女を見かけた方はいらっしゃいませんか?」 店で食事をする客に聞こえるよう店長は呼びかける。彼は客に店の事情を聞かせるのは最低だと思っていたが、何せ今回は緊急事態。なりふり構っていられる場合ではなくなった。 「真琴ちゃんならちょっと前に近くの村に住む母親を訪ねるとかって言って、街を出るのを見たけど‥‥」 「本当ですか!?」 客の一人がそういうと、店長は表情を明るくした。 「でもそれ以降は‥‥もしかしたら村にいるのかもしれないねえ。お母さんもいろいろ大変みたいだからもう少し待ってあげたら?」 そういえば、歌姫――真琴の母親は病気で不自由だという話を聞いたことがあったと、店長は思い出した。もしかすれば、母親に何かあって帰ってこられないのかもしれない。 「そうですね‥‥」 無事であればいい。 店長は客の勧める通りに、余計な心配をするのをやめることにした。 しかし、それからまた十日待っても真琴が戻ってくることはなかった。 「ええい!こうなったら‥‥おい!」 ちょうど食材の調達から帰ってきた店の若手従業員に、村へ彼女を探しに行くことを頼もうと声をかけた。 「近くの村って、森を抜けたところの――」 「なあ!俺もしかしたら真琴ちゃん見かけたかもしれない!」 従業員に説明をしているちょうどその時だった。常連客の一人がばたばたと興奮気味に開店準備をしている店へと駆け込んでくる。 「そ、それは!お話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 客の話によれば、真琴の故郷の村へ行く途中の森で彼女の歌が聞こえたのだという。 「あんな見事な歌声はもう真琴ちゃんとしか考えられないよ!俺、絶対に真琴ちゃんの声を間違えるはずないし‥‥」 しかし、声が聞こえるほうへ行ってみても何もなく、そこからまた声がどこかに移動したと彼は言った。とにかく一人で捜索するのは難しいと思い、歌が終わる前に誰か呼んで来ようとあわてて森を離れたが、街の手前まで来たところで歌が終わってしまったらしい。その後の森はいつも通りの静寂が戻っていた。 真琴が森で歌い、かつ人から逃げている理由はまったく思いつかないが、いずれにせよ彼女の無事を確認したい。自ら探しに行きたい店長だったが、営業に支障をきたすわけにはいかないので何人かの従業員を森へ派遣した。 それからがまた奇妙。 森へ行った従業員もまた行方不明になり、さらにその捜索に出かけた店長、店の客も次々に消息を絶ったのだ。 そして、行方不明者が数を増すにつれて、森に歌が響く頻度も増しているのだという。 ◆ 「この依頼は、森に響く歌声の発生源と行方不明者の捜索です。街では歌姫が実は神の使いで、人間が何らかの怒りを買ったから、彼女が神の代わりに歌でおびき寄せた人をさらっているとか、いろいろ噂が立ってきています」 行方不明者の数はもはや看過できる人数でなくなり、事態はかなり深刻。このままでは、その先の村との交易に支障が出てしまう。 「早めの解決が望まれます。どなたか引き受けてくださいませんか?」 開拓者ギルドの受付役が、周囲を見回した。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
アッシュ・クライン(ib0456)
26歳・男・騎
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟 |
■リプレイ本文 噂の街に開拓者たちが到着して、しばらく時が経過した。 それぞれ別々に情報収集のために散らばっていた彼らが、いったん集合しようと約束していた時間である。 「僕は森に響く歌について調べたんだけど、面白いことがわかったよ」 そう言った琉宇(ib1119)は何かを取り出した。 「あの歌はどうも真琴さんがこれから発表する新曲だったらしいんだよね」 歌についての聞き込みと同時に真琴の身辺調査を行っていた彼は、店の従業員の協力により真琴の作りかけの楽譜を発見したという。それを見たところ、歌を聞いた者から聞いていた旋律とほぼ同じだったのだ。 この楽譜の存在と、聞き込みによって琉宇は森に流れる歌のより正確な楽譜を書き出していくことができた。それは開拓者たちにとって何か役に立つ可能性が高い。 「ってことは、歌姫に何かあったと考えてよさそうだな」 はあ、とオラース・カノーヴァ(ib0141)がため息をつきながら言った。 まだ発表されていない新曲なのだから、歌姫本人に何かあったとしか考えられない。彼はいろいろと考え「やってらんねぇな」と声を漏らした。 「ま、これで真琴セニョリータが何らかの理由で人さらいに近いまねをしてるってんなら、ある意味平和な話だと思うんだけどねぇ」 喪越(ia1670)が言った。しかし、嫌な予感しかしない。 「どんな形にしろ、行方不明になった人たちは返してやらんとな‥‥無事であればいいんだが」 アッシュ・クライン(ib0456)が森の方に視線を投げかけて言った。 「歌は少し上の方から聞こえているみたいや。さらに、歌が聞こえるのは日中だけらしいで」 天津疾也(ia0019)も琉宇と同じように、実際に歌を聞いた者に聞き込み調査を行い、その結果を報告した。 「ということは、鳥目で翼を持つ何かなのではないでしょうか」 疾也の言葉にレティシア(ib4475)が推測する。 「僕としては、森を調べる前に村にも立ち寄っておきたいと思うんだ。真琴さんのお母さんにも会っていろいろ聞いてみたいし」 本来は各自の調査時間に調べておきたかったが、真琴の店で思いのほか時間を取られてしまった。しかし、彼女の母親に会っておくことは必要であると琉宇は判断し、提案したのだ。 仲間たちがその言葉にうなずいた。 と、その時。 「ごめん!遅れた!」 森の方から蒼井 御子(ib4444)があわてた様子でやってきた。 「真琴さんの故郷の村へ行って、お母さんに真琴さんが来たか確認が必要だと思って」 もしかすれば真琴が村にいるかも、と考えた御子は調査の時間を使い村まで行ってきたのだ。さすがに時間内に往復することは難しかったが。 「真琴さん、やっぱり村にはいなかった‥‥来てもいないみたい」 真琴がもし村にいたとすればそれでよかったが、現実はそんなに甘くなかった。 「歌姫、ね‥‥あによ、利用されてるんだか何だかしらないケド、はた迷惑なことこの上ないわね」 こうなると残るは森を調査するのみ。鴇ノ宮 風葉(ia0799)はめんどくさいのだろうか、そう言った。 ◆ 森の中は日中であるにもかかわらず、薄暗い陰湿な雰囲気を醸し出していた。 レティシアの調査によりそれぞれが森の地形を把握し、打ち合わせ通りに3つのグループに分かれた。各グループには必ず吟遊詩人が1人。歌の発生源が反応するかもしれないため、琉宇が再現した歌を歌いながら森を進んでいく。 「よっと」 喪越が白墨で目印をつける。森で迷ってしまっては困るからだ。 同じグループのアッシュとレティシアは失踪者の痕跡がないかと周辺に注意を凝らしている。それも、なるべく今までの失踪者と同じように真琴を探しに来たふうに見えるよう、気を付けて。 「もし、連れ去られた人がいるのなら‥‥この先でしょうか」 調査をもとに予測した場所を思い出しながら、何回目かの真琴の歌を歌い終えたレティシアが言った。 その先、間隔をあけた場所にいる疾也もグループに分かれる前に聞いたことを思い出し、心眼を発動させる。その先に人間がいるかどうか、わかるかもしれない。 「これは微妙やなあ‥‥」 しかし、思いの外森には生命体が多かった。これでは判断ができない。 歌を歌いながら前方を歩く御子が、焦るなとばかりに微笑んだ。 そしてさらに間隔をあけているのは琉宇と風葉のグループだ。 澄んだ声で歌を歌いながら進む琉宇の横で、どこか緊迫した雰囲気を漂わせる風葉。 実を言うと、彼女は今音がほとんど聞こえていない。というのも、耳栓をしているからである。その状態で彼女は視覚からの情報のみを頼りにうまい具合に周りに合わせている。琉宇と2人のグループであることももしかしたら計算済みなのかもしれない。 「歌、なかなか聞こえないね」 「ん?あ、ああ、そーね、そーそね」 琉宇の唇の動きで歌っているときと歌っていないときを判断し、話しかけられたときは適当に流す。実に上手だった。 それにしても、意外と例の歌が聞こえてくるまでに時間がかかる。 そう、思ったときだった。 「あ!」 突如として森に響き渡る美しい声に、一番最初に反応したのは琉宇。歩きながら歌う3人の吟遊詩人のうちの誰でもない声は確かになんとなく上の方から聞こえてきていた。 「音源の絞り込み、だね」 そこで3つのグループは一度合流する。それぞれ、どこから歌が聞こえているかをまずは確認しなければいけない。 「これが例の歌とやらか。歌っているのは本人なのか、それとも別の存在なのか‥‥」 アッシュが周りを見回し、何があってもいいように気を引き締める。 「やっぱりあかんわ、この森‥‥鳥が多すぎる」 一方で心眼を再び発動させ、上空から木の上、さらに遠くまで歌の発生源として考えられるところを確認した疾也だったが、あいにく心眼ではアヤカシとほかの生命体との区別をつけることができない。 「聞こえている場所はだいたい同じみたいだね。だけど、この近くには見当たらない」 琉宇が首をかしげた。 それぞれのグループの仲間はほぼ同じ方向から、つまり歌の発生源が一致するように聞こえているが、敵はまだ見当たらない。 「もしかしたらまだ遠いのかもしれないね」 御子が言った。 「そうだなあ‥‥ここでいろいろと試してみたらどうなるんかな?」 喪越もその言葉に同意しつつ、意見を言う。 「そうですね」 レティシアがうなずいた。これも事前に打ち合わせ済み、喪越が言っていたことを試すのは今しかない。 そうして再びグループに分かれた開拓者たちは喪越の提案通り、まずは歌声の聞こえる方向と逆へ歩く。 「ふむ、近づいてきているな‥‥」 わずかに大きくなった歌声。これは追いかけられているとみていいのだろうか。 喪越が考え込みながら、次の行動の指示を出した。 「だいぶ近づいてきたから気を付ける必要があるな」 オラースが周囲に警戒しながら、指示通りにほかのグループと違う方向へ進んだ。 「遠ざかりましたね」 レティシアが再び小さくなった歌声に声を上げる。 「近づいたよ!」 その一方で、御子が言う。 「今度は一つのグループに目を付けたな‥‥アヤカシの可能性が高い」 喪越が状況を分析した。 「となれば、こいつの出番だな」 そう言いつつ、彼は人魂を発動した。 「やっぱり上の方‥‥とすると‥‥」 一番歌声を近くに聞いているグループの御子はおそるおそる、といった具合に上を見上げた。木に引っ掛かっているのは見たくない。 しかし、アヤカシの所在はだいぶ絞られてきている。少なくとも自分たちのグループに狙いを定めてきているのは確か。 「歌が終わりに近づいたようだ」 オラースが言った。 琉宇が再現した楽譜で見たのとほぼ同じ、歌は最も盛り上がる最後の部分に差し掛かっていた。 それとほぼ同時、琉宇が夜の子守歌を奏でる。その様子に気が付いた風葉は瘴索結界を発動、アヤカシの正確な居場所を突き止めようとした。 しかし、変化は意外と早く起こってしまう。 「そっちだ!その上にアヤカシがいるぜ!」 琉宇の子守歌と、アヤカシの歌。そして喪越が人魂でアヤカシを発見したという声。なにが早かっただろう。琉宇が最も早く発動したようにも見えたが、気が付いたときには鳥のような形をした、だけど明らかにほかの鳥とは違う妙な形をした「怪物」が姿を現していた。 風葉は呼子笛を鳴らした。 そして、隣で呆然と立ち尽くす琉宇を見て瞬時に状況を理解。印を組んで、解術の法を発動した。 「あ、あれ」 すると琉宇はたちまち我に返る。 「ったく‥‥この準備だけで攻撃術持ってこれなかったんだから!」 解術の法で回復しなければ杖でぶん殴るところだった、と風葉。彼女は状況をつかみかねている琉宇を「さっさと追う!」と急かした。アヤカシが飛んで行った方向にはほかの仲間たちがいる。 アヤカシを眠らせるには至らなかったが、琉宇の夜の子守歌によってアヤカシは早くも姿を現さなければならず、喪越の声もあり風葉はすぐに呼子笛で合図を出すことができたのだ。それが役に立っていた証拠が、すぐにアヤカシに反応できた仲間たちである。 「こらあかんわあ‥‥」 時間はほんのわずか前にさかのぼる。 アヤカシが歌を歌い終わったとき、その最後で甲高く鳴いたのだ。それによって御子とオラースは敵の術にかかり、混乱状態。運が良かったのか、無事だった疾也は襲い掛かってくる敵から動けない2人の仲間を守るべく体を張っていた。 風葉の笛により疾也は動けない2人の背後から襲ってくるアヤカシを間一髪で防ぐ。そして、そのままほかの仲間が駆け付けるまで、敵の攻撃をいなし続けた。その間にも鳥のくちばしがかすった傷が増えていく。 「お待たせしました!」 駆け付けたレティシアが再生されし平穏を発動した。歌が終わりに近づいたときにしっかり耳栓をしていたおかげで、彼女も敵の術にかからずに即座に仲間の混乱回復をすることができた。 「大丈夫?」 同じくほんのわずかレティシアたちよりも遅れて琉宇と風葉が到着する。そして、琉宇はレティシア同じように動けない仲間に再生されし平穏を奏でた。 「おまえの相手は俺だ!」 「許さないんだからー!」 レティシアにより、混乱から立ち直ったオラースがアヤカシをにらみつけながら武器を構えた。 同じく琉宇が回復させた御子も瞳に火を灯す。 安全な場所に脱兎のごとく素早く移動した彼女が戦将軍の剣を奏でた。それはオラースに力を与える。 一瞬の沈黙ののち、先に仕掛けてくるは敵アヤカシ。くちばしを使った直線的な攻撃ではあるが、飛び上がって四方八方からつついてくるのは厄介である。 オラースはそれを見切り、巧みに避けていく。体にかすり傷は増えていくが、絶対にそれ以上のダメージを許さない。 「甘い!」 そして、攻撃をことごとく外されて焦り始めたアヤカシにできた隙を、彼は見逃さなかった。即座にアークブラストが炸裂、稲妻がほとばしる! その攻撃によりアヤカシは動きを止める。そしてこのままでは不利だと思ったのだろう、翼を広げ攻撃が届かないと思われる木の上へ。 「逃げられると思ったん?」 そんなアヤカシの計画も結局は意味をなさなかった。 疾也の雷鳴剣が木の上で気を抜いたアヤカシへ突き刺さる。そのままよろめいて、地面に墜落した。 「はあ!」 その先にいたアッシュがチャンスとばかりに武器を振り上げる。すでにオーラドライブによって強化された彼の動きは洗練されたもの、防戦にまわる敵を怒涛のごとく攻めていく。 「見え見えだ」 ようやく攻めのチャンスを見つけたアヤカシの攻撃もまたカウンター気味に大剣で返り討ちにする。そして、そこにはっきりとした隙ができたのだ。 「そこだっ!」 急所に向かって寸分の狂いなく突き立てられる、ポイントアタック。そして間髪入れずにその後ろからレティシアのスプラッタノイズが発動される。 「ギュウウウ‥‥」 かろうじてまだ生き残っているアヤカシはもはや風前の灯。混乱した状態でふらふらと動き回った挙句、その先にいた疾也の軽い一撃で倒れて動けなくなった。 そして、その最後にそのくちばしから漏れたのは。 「歌?」 御子が首をかしげた。 歌姫の声で歌われるその歌はどこか切なく。そして、そのくちばしの中からのぞくのは、小さな髪飾りのようなもの。 「これは、もしかして」 やがてアヤカシは消え、その場には髪飾りだけが残された。レティシアが拾い上げる。 「真琴セニョリータの、か?」 森にアヤカシがいて、そいつが真琴の声で歌っている。そして、その口の中から髪飾りが発見された。それが意味することは。 「‥‥だめだったか」 アッシュが苦しげに言った。 おそらく真琴はアヤカシに食われてしまったのだろう。アヤカシは捕食した真琴が直前に歌っていた歌をそのまま彼女の声で再現できる能力を持っていたと考えるとつじつまが合う。 「最悪です。この歌は真琴さんだけのものなのに」 真琴が苦しんで書き上げただろう歌をこんなことに使うなど。レティシアはこぶしを握りしめた。 「ねえ、これってもしかして足跡?」 ふと、周りを確認していた御子が茂みのそばを指さす。 「ん?生存者かしら」 その様子を見て、風葉が首をかしげた。 「そういえば、この付近に洞窟が」 レティシアは調査結果を思い出した。人がいる可能性があると言って目を付けていたところである。 「追ってみよう」 御子の言葉に一同はうなずいた。 ◆ 「いやあ、助かりました助かりました!」 案の定、洞窟からは失踪者と思われる数人の男が現れた。 全員がボロボロの状態ではあったが、命にかかわるけがをしている者はいない。 「仲間が襲われているときに何とか逃げ出してねえ‥‥どうもあの鳥は夜に弱いらしくて」 「戻ろう。一応傷の手当てもしなければ」 安心したように笑う男は腰が抜けてしまって立てないらしい。アッシュが彼を背負うと、「すまないねえ」と言った。 「ほかの仲間はほとんどあの鳥にやられてしまって‥‥」 別の男が懐から何かを取り出した。 「それは遺品か?」 アッシュが尋ねると、男はうなずいた。 「では、供養をしよう」 そう言ったアッシュに同意するようにほかの仲間たちもうなずいた。 「あの、これに見覚えは?」 琉宇がレティシアから髪飾りを受け取りながら尋ねると、アッシュに背負われた男が目を見開いた。 「それは真琴の‥‥」 「‥‥そうか」 喪越がため息をつくように言った。 「それも一緒に弔おう。そして俺は墓に花でも添えさせてもらおうかね」 「私は真琴さんのお母さんに」 目を伏せながら、レティシアもそう言った。 こうして街を騒がせた不気味な歌声事件は幕を閉じたのだった。 |