魅惑の歌声
マスター名:七海 理
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/04 19:25



■オープニング本文

 その歌声は、彼の心を捉えて離さなかった。
 それが純粋に美しい声だったのか、それともそれ以外の何かがその声に潜んでいたのかは、まだ誰も知らない。

「くそ、まだなのか!?」
 乱暴に振り下ろしたこぶしは机を打ちつけ、静かな室内の空気にびり、と振動を伝えた。
 秘書官はそれに肩を震わせ、あわてて深く頭を下げる。血の気が引いた顔を隠すようにうつむいたまま、こっそりと視線だけを上げて男の様子を伺った。
「すぐに、すぐに参りますので‥‥どうかお気を鎮めてくださいまし」
「すぐに?またそれか!そのすぐというのは具体的にあとどれくらいのことを言ってるんだ!」
 ますます興奮してきた男に、彼女は限界を悟った。



 ことの始まりは、ある初夏の夜のこと。
 その町の権力者は仕事のために隣町へと出かけた帰りに森の中で美しい鳥のさえずりを耳にしたという。
 高めでつややかな音色。長くないその音は最初から確かな響きを奏で、一瞬のうちに森の隅々まで染み渡るような余韻を残し、空気になじんだ。
 鳥の『声』ではない。これこそ、『さえずり』と言うにふさわしい、天上の旋律。仕事続きで疲れ果てた彼の心に潤いを与える。
 輿を担いでいた者たちもその他の使用人たちもそれぞれの役目に一生懸命だったため誰もそれを気には留めなかったが、輿の中で座っているだけだった彼にはひどく魅力的に聞こえた。
 彼はその場ですぐに輿を止めさせ、鳴き声の正体を探すべく目を凝らした。
 しかし、夜だったためか見上げても月明かりに浮かぶ木々とその葉の黒い影にさえぎられ、動物のようなものは一切見当たらなかった。
 夜も更け、一刻も早く町に戻らなくてはならなかった男は仕方なくその場で鳴き声の出所を突き止めることを諦めたが、時がたてばたつほど、彼の脳内であの旋律が何度も何度も繰り返された。

 そうしてとうとう我慢できなくなった男は部下にその美しい歌声の主を見つけ、捕らえるように命じたのだが、よい知らせは一向に届かず、彼のいらいらも頂点に達し、冒頭に至る。

「私ではもうどうにもなりません。探しに出かけた者のうち何人かは戻らないし‥‥そもそも夜中に鳴く鳥なんて不気味で仕方がありません」
 秘書官は開拓者ギルドの受付係に向かって語る。
 捜索に向かい、帰ってきた者は皆口をそろえて「鳥の声を聞いてから気がついたら隣を歩いていた仲間が見当たらなくなった」と言い、そこで恐ろしくなって町へ逃げ帰ったらしい。
 上司に当たる権力者の男の機嫌は日に日に悪くなり、身の危険を悟った彼らは各々の家にひきこもってしまい、秘書官のストレスは積もりに積もっていく。
「お願いします、どうにかしてください。このままでは私、おかしくなってしまいそうです‥‥!」
 とにかく鳴き声の出所が分かれば、と彼女は半泣きですがりついた。


■参加者一覧
空(ia1704
33歳・男・砂
仇湖・魚慈(ia4810
28歳・男・騎
琉宇(ib1119
12歳・男・吟
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
ベル・ホリディ(ib5403
20歳・女・砲
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
マハ シャンク(ib6351
10歳・女・泰
神座早紀(ib6735
15歳・女・巫


■リプレイ本文

 夕暮れ時、それぞれ調査に出かけていた開拓者たちが約束の場所へと集まってきた。
「部下の方たちがなんとかがんばっていますが、この様子だとあまり長くは持たなそうです。早く解決してあげましょう!」
 神座早紀(ib6735)がひきこもった部下からもらった地図を広げる。
「声が聞こえた場所は大体このあたりで‥‥」
 地図につけられた印を指さしながら早紀は説明する。
「ここからしばらく道に沿って、森の奥へと行ったところで失踪に気が付いているみたいです」
 整備された道を指がなぞる。
「ふむ、調査をした道はいくつかあるみたいだけど、ボクの聞いた話も合わせると、声が聞こえた場所はばらばらだけど、人が消えた場所は大体ここの周辺になるね」
 蒼井 御子(ib4444)は地図の上で指をくるくると滑らせて円を描く。それに合わせて早紀が地図に情報を付け加える。
「最初に聞いていた通り、全員周囲の捜索者たちが鳴き声を聞いて、なんとかその場所を突き止めようと集中していたとき消えているようです」
「ってことは、無事に戻ってきた部下が何かの術にかかってしまっていた可能性もあるな。まあ、もしかしたらただ声を追うのに夢中だっただけかもしれないけど」
 早紀の報告を聞いた笹倉 靖(ib6125)は首をかしげた。
「俺は権力者に会いに行ったが‥‥術にかかってないか見られればそれでよかったのに、あの男、衝立の中から出て来ないんだな」
 彼は疲れた表情で首を横に振った。
「この話を聞く限り、俺は権力者がなんらかの術に陥っていると思いたいね」
 違うかもしれないが、こんな無茶な要求を出す権力者が正気だとは思いたくない。
「面会拒絶ねェ‥‥どう考えてもなんかの術にかかってるだろうよ」
 にやりと口端をつり上げ、空(ia1704)が笑う。
「まあ、でもある程度の話は聞けただけよしとするしかねぇよ」
 靖は肩をすくめた。
「何か気が付いたことがないかと尋ねたんだが、鳴き声は常に前方から聞こえていたような気がするらしい。んで、森の中心を過ぎてしばらくすると聞こえなくなるってさ」
「つまりは発生源には移動の範囲があるかもしれないってことだね?」
 琉宇(ib1119)は「ふむ」とうなずいた。
「僕は昼間のうちに森で鳴く小鳥たちの声を覚えたから、実際に聞けばそれが普通の鳥なのか、それとも何か別のものである可能性があるのかわかると思うよ」
「あのさ、話が戻るんだけど、その何かの術にかかったかもしれないっていう権力者さん、普段から辛辣な物言いで人使いが荒い人らしいんだけど、決して仕事を投げ出すような人じゃないって町の人たちが言ってたよ」
 ベル・ホリディ(ib5403)は聞き込み調査を思い出す。
「基本的にプライドが高いのか知らないけど、あまり庶民に顔は見せないけど、自分の仕事に責任を持っている人だって」
 町に住む人々が口をそろえて言ったのは、権力者が簡単に仕事を投げ出すような人間ではない、ということ。
「なるほど。では術にかかっている可能性が高いな」
 マハ シャンク(ib6351)は腕を組んで言った。
「私も森の下見をしてきた。決定的な痕跡をいくつか見つけたが、すべて途中で途切れている。その場所と地図を照らし合わせると、だいたいが失踪に気が付くわずか前の地点だ」
 空の聞き込みにより書き込まれた順路を指さしながら、説明する。そこに、さらに発生源の移動方向を踏まえた印をつける。
「地面に引きずられた跡や、折れた灌木の枝などがあったからここから何かに引きずり込まれたと考えていいだろう」
「では、囮は私にお任せを」
 仇湖・魚慈(ia4810)だ。彼は徐々に暗くなっていく空を見上げた。
「そうだね、そろそろ捜索者たちが出かけた時間になる。今出発すれば問題の場所にたどりつく頃ちょうど、声が聞こえた始めたくらいの時間になるはず」
 御子はうなずいた。
「あ、マハ。今回もよろしく」
 以前に依頼で一緒だったマハに、靖が手を挙げて声をかけると、彼女は眉をしかめ。
「あの時のモグラか‥‥」
「モグ‥‥!」
 ふいっと無愛想にスルーしたマハに、靖は笑顔だった口元をひきつらせ、ぽりぽりと頬を掻いた。



 念のため、と早紀が全員に加護法をかけ、森に足を踏み入れた一行だが、日が落ちてわずかな月の光しか差し込まない森は、ひどく不気味だった。
「松明は先頭だ」
 マハが借りた松明を先頭付近の空に持たせる。
その直後を歩くのは魚慈とベルは凧糸でつながれており、さらに結ばれた命綱が後ろを歩く者たちの手に握られている。ベルの用意した凧糸にはブレスレット・ベルが結び付けられ、もしどちらかが何者かによって連れ去られそうになった時には、落下の音で仲間たちにそれを知らせることができる。命綱はさらに用心を、ということだ。
「まだ、何もないみたいですね」
 瘴索結界を発動させた早紀が周辺の様子を確認する。この段階ではまだ瘴気のようなものは見当たらない。
「それにしても、鳥なァ‥‥」
 あきれ顔で空が「風情あること」と皮肉を言う。
「鳴き声も、まだ聞こえねェな」
 超越聴覚を発動させているものの、まだ問題の声は出現しないと彼は続けて報告した。
「聞き込みのとき、行方不明になってから帰ってきた人がいないかと聞いたんだけど、やっぱりいないみたいなんだよね」
 思い出しながら、御子は言う。
「やっぱり、アヤカシの仕業って線が――」
「待て」
 空が突然立ち止る。
「何か聞こえンねぇ?」
 不敵な笑みを浮かべながら、仲間たちを見回す。まだ遠いが、間もなく近づいてくるだろう。
「行かなきゃ‥‥こっちみたいだよー?」
 突然ベルが歩き出す。
「確かに聞こえてるね。綺麗だけど‥‥」
 琉宇はすぐさま心の旋律を奏で、聴き比べる。
「私にも聞こえています。追いかけましょう」
 歩き出したベルに合わせるようにして、魚慈が捜索者たちと同じように上を見上げながら前に進む。
「‥‥ボクにも聞こえてきた」
 もしかすれば、鳴き声が聞こえるようにする術なのかと思って警戒していた御子の耳にも、澄んだ鳥のさえずりが届く。
「ベルさんの様子がおかしい。ここは再生されし平穏を――」
「すぐに何かされるわけでもないみたいだし、様子を見よう」
 琉宇が様子のおかしいベルに再生されし平穏をかけてみようと提案するが、御子は首を振る。まだアヤカシの痕跡はないのだ。このまま追いかけた方が効率はいいだろう。
 そうして森の奥へと道を進む先頭三人を追いかける。
「もうすぐ問題の場所ですね」
 地図を広げ、薄明りの中で目を凝らしながら早紀が言う。
「‥‥おい‥‥嘘だろ」
「どうしたんですか?」
 突然口を開いた靖に早紀が首をかしげる。
 前方から右側に注意を向けながら、瘴索結界で様子を見ていた靖だったが、その表情がこわばっている。
 その様子を不思議に思った早紀もまた、瘴索結界を発動させ――ひゅっと息をのんだ。
「さっきまでそんな様子なかったのに‥‥どこもかしこも瘴気だらけ」
 前方の森に瘴気がうっすらと充満している。
「アヤカシは」
「動くものはないね」
 先頭を歩く空が周囲を観察しながら言う。
 瘴気が充満しているのに、アヤカシらしき姿のものはない。というよりは、あちらこちらに瘴気があり、どれがアヤカシなのかまったくわからないのだ。
「また鳴き声だ!」
 御子が叫ぶ。それと同時に彼は周囲の仲間たちの動きを観察する。ここで妙な動きをするものがいれば、止めようと警戒していた。
「あっち‥‥」
 ベルが、さらに歩く。
「そろそろ潮時だね」
 アヤカシの形跡がある以上、このまま様子のおかしいベルを放っておくわけにはいかない。御子は再生されし平穏を奏でる。
「あ、あれ?」
 うっとりした様子のベルが突然周囲をきょろきょろと見回した。
「みんなも一緒に鳥を追っていたんじゃ‥‥?」
「‥‥幻覚が見えていたのか?」
 マハが眉をしかめた。
「幻覚で誘い込まれたってンなら‥‥どんくらい、生きてるんだかねェ」
 空がそう言った瞬間。
「なっ!」
 突然松明の明かりがふっと消えた。
「何かいる!?」
 魚慈が周囲を警戒する。襲いかかってくるようなら自分が盾になれるように。
 一拍。
 そして至近距離からの鳴き声。
「この先からだよ!」
 暗闇で方向感覚を失いかけたところに、琉宇が歯を鳴らして音の出た方向を割り出す。
「くそ、よく見えねェな」
 松明の明かりが消えてしまったことに舌打ちをして、空が暗視を発動。
「なんだァ?この森」
 周囲をきょろきょろと見回し。
「道の外に太い蔓があちらこちらに伸びてンぜ?ったく、気味わるいなァ」
「つ、る‥‥?」
 マハがその言葉に目を見開く。
「違う」
 昼間に下見に来た時のことを思い出す。森はそんな様子ではなかった。普通の木が密集しすぎない感覚で、生えているだけだったはずだ。
「そうだ、蔓なんか」
 まずい。
 マハの頬に汗が伝う。
「まさか」
 その言葉を聞いた琉宇もまた、何かに気が付いた表情を浮かべる。これは、昼間の森の様子をよく観察した二人だからこそ気が付けたこと。
「気をつけろ!蔓なんか、蔓なんかこの森には生えていなかった!」
 叫んだ瞬間から、コンマ数秒。
 しゃらん、と鈴の音が鳴る。
「魚慈さん!」
 ベルの焦った声が森に響く。
「ぎ、ギリギリ間に合いました‥‥」
 次第に暗闇に慣れてきた目に、足に蔓の絡みついた魚慈の姿が映る。
「そうか‥‥こいつが――」
 靖が再び瘴索結界を発動させる。確かに蔓から瘴気が出ている。
 常に魚慈に注意していた一行だったが、突然明かりが消されたために生じた一瞬のすきに付け込まれたのだ。靖は悔しげに顔をゆがめる。
「おそらく、この蔓が音もなく忍び寄り、絡め取った方をきつく締め付け、声が出せないようにしていたのでしょう」
 ぎりぎりと足がきつく締め付けられる感覚に、魚慈の額に汗が浮かんだ。
「いや、でも助かりました。マハさんが気づいて命綱を引いてくれたおかげで全身がんじがらめにされずに済みました」
このまま森へ引きずり込んでくれれば、あとはそれを追うだけで失踪者の行方がわかるはずだ。
 しかし、物事はそう簡単にはうまくいかない。
「緩んだ‥‥?」
 魚慈の足を見ていた早紀が首をかしげる。
「危ない!」
 突然の突風。そして衝撃。
 魚慈がとっさに早紀を突き飛ばし、立ち上がって頭上から襲いかかるものを受け止めた。その後ろから間髪空けずにベルが単動作、そして早撃ちで影を狙撃する。
「大丈夫か」
 突き飛ばされた早紀を受け止め、靖と敵の間にマハが立つ。
「これは――」
 御子が目を見張る。
「へェ?ずいぶんとまた」
 空も顔をひきつらせた。
 現れたのは太い蔓が何本も絡み合ってできたむちのようなもの。先端にくちばしのような形のものが付いており、見た目はかなり醜い。
「さっき松明の火を消したのはこいつか」
 靖が先端で素早く伸び縮みする蔓を見ながら言った。おそらくは伸び縮みするその動きで素早く気をかき消したのだろう。
「大丈夫ですか!?」
 間一髪で魚慈に救われた早紀が、倒れる彼のもとへ向かう。そして、傷の具合を確かめ、神風恩寵で治療する。
「で、で、出たなモンスター!あたしが退治してやる!」
 びしっとバーストハンドガンをアヤカシに向かって突出し、言い放ったベルだったが、うねうねと動く蔓にくちばしという気味の悪い形相をした相手に言葉尻がすぼみ、「め、めいびー」と最後は気弱な声を漏らした。
「来る!」
 マハが声を上げる。それに反応するかのように、跳躍して蔓の攻撃を避けた空が横から一撃。遠くからベルが射撃をする。
 鮮やかな反撃を食らい、焦ったアヤカシはくちばしを開いた。そして、再びあの美しい声を奏でる。
「く‥‥っ!こんな綺麗な声でもそのナリじゃ気味悪ぃったらありゃしねぇ」
 靖は耳をふさぎながら顔をゆがめる。
「目を覚まして!」
 おかしな行動に出た空に琉宇が再生されし平穏を発動させ、正気に戻す。
 そうしているうちに勝ち目がないと悟ったアヤカシが突然蔓を引っ込める。くちばしのついた太い蔓だけは高速で、残りはゆっくりと。
「任せろ!」
 瞬脚を発動したマハがすぐさまそれを追いかける。そして、追いついた先で蔓の傷ついたところに鋭い一撃を入れた。それは、ベルと空の攻撃によってもろくなり、あっさりと折れる。
「う、うげぇ」
 しばらくして追いついたベルがげんなりとした表情を見せた。
 そこにいたのは蔓の塊。中からは人間の手足らしきものがのぞいており、ぐったりした様子の表情をした頭も見える。
「まだ生きているかもしれない!早く助けよう!」
 じっと目を凝らして観察した御子が声を上げる。閉じた目が、ぴくりと動いたような気がしたのだ。
「しっかりしてください!」
御子は蔓に絡め取られている人の顔をぺちぺちと叩いた。
「う‥‥うう‥‥」
「今助けますから!」
 早紀はそういって空とベル、そして魚慈に目配せをする。
「動かないでくださいね!」
 三人いっせいに蔓の一か所を、的確に攻撃する。まさか一撃では倒せないだろうと身構えた彼らの予想に反して、蔓はあっさりと緩んだ。そしてその中に見えた口に軽く一撃を加える。
「‥‥弱ェ」
 空がため息をついた。



 結局八人は失踪した五人のうち二人を助け出し、残りの三人を食らったアヤカシを倒して町へと戻った。
 琉宇が忘れないうちに、と町に到着するなり用意した楽器を広げたのには一同ぎょっとしたが、どうやらアヤカシの鳴き声を模した楽器を作ろうとしているらしい。
 そして、出来上がった笛を秘書に渡せば、涙を流して喜んでくれた。
「まったくですよね。まさか権力者さん、真面目に仕事をするのに疲れてって‥‥」
 仕事をしない権力者に一喝した早紀がため息をついた。
 結論的に、男は町に帰ってきて数日した時点で正気に戻ったらしい。それまでの記憶はあいまいらしいが、少なくとも鳥の鳴き声に夢中になり、何も覚えていない間ストレスからも解放されたのだろう、もう一度あの鳴き声を聞けば楽になれると思っていたとのこと。一種の薬物依存のようなものだ。
「これで何とかなったみたいでよかったけど」
 琉宇も苦笑する。
 彼の渡した笛を秘書官が権力者に贈り、泣いて説得したのだ。ようやく権力者も本当の意味で目を覚ました。
「それにしても変なアヤカシだったな」
 マハがやけに弱いそいつを思い出す。
「多分私たち全員の気を引けなかったから、火を消したのだろう。魚ナントカをさらおうとしたが、術にかかったのは一人だけとなると」
 マハが続ける。
「やけに頭が回るくせに弱い」
 ちなみに引きずられた跡が途中で消えていたのは、人を絡め取り引きずり込むときに、ほかの人の目に就かない場所まで引きずり込んだため、わざわざ引きずる必要がなくなり、宙に浮かせたからと考えられた。
 こうして、不気味な森の事件は幕を閉じた。