|
■オープニング本文 少女は表情を輝かせて走る。軽い足取りは気持ちを反映したかのように、ときどき高く跳躍しながら林を走り抜けた。 今日は母親の誕生日。 彼女の大好きな花を摘んで贈ろうと計画していた少女は、母親の喜ぶ顔を想像するだけで顔の筋肉がにたりと緩む。普段たくさん苦労をさせている分、今日は飛びっきりの一日にしようと心に誓っていた。 目的の花は町から歩いてしばらく、そう遠くないが近くもない場所に群生している。 その場所もまた少女のお気に入りで、どうせなら母親を連れてこようとも思ったが、移動の時間や準備のことを考え、花を摘むことに決めたのだった。 「お母さん、喜んでくれるといいなあ‥‥」 朝日を顔に浴びて、少女はさわやかな空気を胸いっぱいに吸い込んだ。この時間ならば、花ももうきれいに開いているだろう。 しばらく進むと一気に視界が開けた。ここまでくれば花畑は目と鼻の先である。 「えっと‥‥」 少女は持ってきた小籠の中に包装用の布と紐が入っていることを確認する。この日のために用意してきたかわいらしい模様の布と、きらきら輝く糸が織り込まれた紐。なくしていたら困る。 そんな風に、彼女が持ち物を確認しながら花畑に近づいていったからだろうか。きちんと目の前に気をつけながら歩いていれば気がついていたはずのことを、彼女は見落としていた。 「え?」 最初に異変に気がついたのは耳障りな羽音だった。 彼女はふと顔を上げる。そして、その瞬間に口からあふれ出る、声にならない叫び。 そこにいたのは、無数の黄色と黒のしま模様をした、蜂だった。 ● 「急ぎの依頼ですよ!」 開拓者ギルドの受付係はたった今入った依頼が書かれた紙をひらひらと振った。その動作に数人の開拓者たちが動きを止める。 「蜂のアヤカシが出現しました。その退治の依頼です」 花畑に花を摘みに行った少女が目撃したのは黄色と黒のしま模様の、異常に大きな針を持った蜂の大群だった。そのうちの何匹かに気づかれてしまったようではあるが、運良く花畑周辺を知り尽くしていた彼女は林の中にある小屋に逃げて難を逃れたとのこと。しかし、相変わらず花畑周辺には蜂が飛び交っていてとても近づけるような状況ではないらしい。 花畑は町民たちから密かに愛され、恋人や家族が時々訪れることもある場所。このままではいずれ取り返しのつかないことになってしまうと判断した町長がギルドに依頼を出した。 「花を摘もうとした少女は明るくやさしい子で、せっかく母親の誕生日のために用意をしたのにこのままでは台無しになってしまう。どうか迅速な解決をお願いします、と町長からのお願いもあります」 どなたか、お願いできませんか、と受付係はあたりを見回した。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
椿 幻之条(ia3498)
22歳・男・陰
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
泡雪(ib6239)
15歳・女・シ
神座早紀(ib6735)
15歳・女・巫
レオ・バンディケッド(ib6751)
17歳・男・騎
明石 颯馬(ib6772)
19歳・男・志 |
■リプレイ本文 「見えた」 蒼井 御子(ib4444)は目を凝らしながら、木々が途切れたその先を見つめた。 視界に入るギリギリの位置からでもわかる異変。黒い点が密集して、花畑があるはずの場所周辺がかすんで見える。 「大きい蜂、かぁ」 彼女は顎に手を当てて考え込んだ。 アヤカシは普通の動物と同じような増え方をするものではないはず、と記憶の糸をたどっていくが、考えても疑問はなかなか解決しない。 「うん、後で聞いてみよう」 「まあ、とりあえず行きませんか?」 御子がそううなずいたのとほぼ同時、こんなところで見ていてもどうにもなりませんとばかりに、明石 颯馬(ib6772)は一歩前に進んだ。 「そうですよね、お母様思いのあの子の願いをかなえてあげなくては!」 その言葉に神座早紀(ib6735)が両手を胸の前で握りしめて気合のこもった声を発した。 「みなさん、今回はよろしくお願いします」 颯馬は微笑んだ。 林を抜け、一行の目の前に広がるのは、陽光を受けて鮮やかな輝きを放つ花の数々。思わずためいきが漏れるような光景である。 「確かにこれは絶景と言うべきかな」 荒らさないようにと頼まれたことに納得した、とうなずいたのは風雅 哲心(ia0135)である。 「そうね。せっかくの憩いの場ですもの、無粋者には退場していただかないとね」 口元に手をやり、優雅にふるまう椿 幻之条(ia3498)はこう見えても実は男性。初対面の者が次々に間違うほどの姿と声色を持つ。 そんな彼の横に立つ少年――レオ・バンディケッド(ib6751)は最初に会ったときの元気とは打って変わり、どこか静かで顔が青ざめていた。 「‥‥大丈夫だ、俺は行ける!」 自己暗示をかけるように「大丈夫」と繰り返す。蜂が苦手な彼だが、そこで逃げ出すほど柔ではないし、まずプライドが許さない。 「泡雪、準備はいいか?」 「ええ、もちろん」 今回の作戦で大事な役割を果たす水鏡 絵梨乃(ia0191)は同じように動く友人――泡雪(ib6239)と顔を見合わせた。 「まずは状況の把握だね」 花畑を注意深く観察していた御子が振り返る。 「そのためにも」 彼女はハープを構えた。花畑周辺の蜂をまず倒さなければならない。それと同時に早紀が加護法を発動させる。 「がんばってください!」 「任せて」 幻之条が一歩花畑に向かって歩き出したのを合図に、それぞれが近くのアヤカシめがけて速攻をかけていく。 そうして外周にちらほら見当たる蜂を薙ぎ払い、周辺がすっきりとしたところで幻之条が花畑内部に向かって人魂を放った。 「蜂は中心に行くほどに多いみたいね」 やっぱり、と人魂の目を通して見た光景に集中しながら彼は言った。 「花は均一に咲いているわけではないようだからそのあたりから入るといいわね」 囮役として花畑に入る絵梨乃と泡雪がわかりやすいように指で示しながら、注意深く周辺を見ていく。 「木の中に巣があるかもしれない、ということだったわね」 皆で考えたことを思い出す。そのまま人魂を木に近づけていくと、ますます蜂が増えていった。 「‥‥やられたわ」 「え?」 「蜂に気づかれた」 突然振り向いた幻之条に、指示を聞いていた仲間が首をかしげた。人魂が蜂に刺されて消えてしまったらしい。 「中心近くは蜂が多いし、仕方がないよ」 悔しそうな表情の幻之条に、御子が声をかける。 「ボクらの出番だな」 「はい」 「では念のためだ」 哲心が二人を交互に見据える。 「迅竜の息吹よ、彼の者らに疾風の加護を与えよ」 言葉を唱え。 「アクセラレート」 二人にスキルを発動する。 「ボクも――」 そう言って御子もまた曲を奏でる。ファナティック・ファンファーレの激しい旋律が響く。 「戦闘に入ったら曲を切り替えていくから、始めだけだけど。頑張って!」 「が、頑張ってください。私も、草葉の陰から応援しています!」 拳を握りしめた早紀に、絵梨乃と泡雪は笑みを浮かべてうなずいた。 ● 幻之条に言われた通りに花の少ない場所を選んで、絵梨乃が慎重に足を踏み出した。花を踏まないように注意しながら、足を運ぶ。かなり神経を使う行動である。 「来ます!」 「わかってる」 別のところから花畑に足を踏み入れ、絵梨乃の後方にいる泡雪が声をかけるのと同時に彼女は先ほど自分が足をついた場所を思い出しながら、足元をちらりと一瞥、後ろを確認することなく、しかし恐ろしく正確に花を避けながら後退した。 「こっちだ!」 絵梨乃が最後の一歩を大きく踏込み、ひょいと身軽に抜け出すと、レオが立ちはだかった。 「うっ」 相手が逃げる様子を見せないからか、ゆっくりと近づいてくる蜂の群れに彼の表情がますますひきつる。そんな自分を叱咤して気を引き締め、武器を強く握りしめる。 「お前らなんか怖くねえっ!」 一直線に飛来する蜂を見据えて、剣を振る! 「怖くねえんだ!!」 一匹を切り裂き、もう片手でもう一匹叩き落とす。 「さて、蜂退治と行きますか」 ゆっくりと口元を上げながら、颯馬も平正眼で構える。蜂の軌跡を読み、軽やかに大群を避け、逆に数匹をまとめて一刀両断した。 「まだまだ来ますよっ!」 第一群を迎え撃ち、数が減ったのもつかの間、すぐに泡雪の声が響く。 木葉隠で巧みに敵の目を欺きながら、花畑の中の蜂を時には手に持った手裏剣で斬りながら、極限まで引き付ける。そして、早駆を発動。 「この程度の距離、シノビには一跳びですね」 そう言いながら、三角跳で一瞬にして花畑の外に着地する。 稲妻のごとく瞬時に消えた彼女は、蜂のアヤカシから見れば驚きだったのか、今度は総勢猛突進と言った様子で飛びかかる。 「わ、わ‥‥っ」 その先にいた仲間――早紀はほかの人の援護をと周囲に目を配っていたところに突然現れた敵に冷や汗を流し、後ずさった。 「危ない!」 そんな彼女を幻之条が引っ張り、自分の背後にかばう。 「飛んで火に入る夏の虫‥‥にはちょっと早いかしら?」 まあ、どの道燃やすのだけど。そういうのが早かったか、狼に似た大きさの式が一直線に火を吐き出す。その射線上の蜂だけでなく、周辺にいた蜂も羽を燃やされ、地面にぽつぽつと落ちていく。 「あとはこっちに任せろ!」 横から現れた哲心が武器を突き立て、地面の蜂を次々に消滅させていく。 その様子に周辺の蜂たちは彼に狙いを変更する。 「そうだ、それでいい」 自信ありげな笑みを浮かべながら、襲いかかる蜂を切り落としながらだんだん花畑から離れていく。その際にいくつか攻撃がかすめるが、彼の動きにはまったく影響を与えなかった。 「――来たな」 彼は立ち止まる。 「みんな、巻き込まれないようにしろよ」 周囲に仲間がいないか確認し、離れた位置にいる者にも声をかける。これから彼が使うのは大技。 「轟け、迅竜の咆哮。吹き荒れろ――トルネード・キリク!」 ごうっ!と急激に加速された風が、次第に渦を巻いていく。その中に現れる真空の刃が、範囲内の蜂を残らず木端微塵にする。危険を感じて逃げようとしたそれもまた、竜巻の威力には勝てず、必死に動かしていた羽も次第に力尽き、最後には巻き込まれて消え失せた。 一方花畑で敵を引き付けている絵梨乃は上手に花をよけながら、多くのアヤカシを引き付けることに成功していた。背拳を用いた彼女は背後からの攻撃をものともせず、余裕で躱す。そのまま花畑から出たときには、目の前にはうじゃうじゃと大量のアヤカシが集まっていた。 「なっ!」 そんなところに予期せず、三角跳で高く跳躍した泡雪が飛び込んでくる。蜂の大群を一気に連れてくることができたが、予想以上に数が多く、着地直後の彼女とその近くにいた絵梨乃は一瞬反応が遅れる。それほどに、蜂は素早かった。 「意思は形を成し、その身を守る。その意思はやがて敵を穿つ力となるだろう――」 瞬時に御子が霊鎧の歌を掛け直す。戦闘前にかけていたが、解けかけていたのを見逃さず、さらにギリギリのタイミングでうまく滑り込ませる。 「持ちこたえて!」 二人が大群をよけるには余りに時間が足りない。これで何とか毒に対する耐性を上げられればと必死に唱えた霊鎧の歌だ。 「うおおおおっ!」 「あっ!」 「バンディケッド様!?」 そんな矢先のこと。 絵梨乃と泡雪が防御の姿勢を見せたときに、レオがその間に割り込んだ。その時間、わずか数秒。それこそ紙一重。 次々に襲いかかる毒針に歯を食いしばる。ガードを発動していても蜂の大群の攻撃を一身に受けるのはつらいものがある。 それでも。 「蜂はこえーけど‥‥」 ゆっくりと腕を持ち上げた。 「仲間を失うのはもっとこえーんだ!!」 目を見開いて、蜂に対する恐怖を振り払うように剣をふるった。 「よくやった」 後ろに下がったレオから敵を引き継ぐようにして哲心が現れる。離れた距離から駆け付けた彼はそのまま蜂の大群を引き受けた。 「あとは自分たちにまかせてください」 剣を構え、蜂からの攻撃を避けながら着実に哲心が引き連れていけなかったそれらを、一匹一匹地面に落としていく。 「大丈夫ですかっ」 駆け付けた早紀がうずくまったレオに神風恩寵をかける。体中にあった傷が、さわやかな風が吹くにつれて次第に消えていく。 「ありがとうございました。助かりました」 「危ないところに本当に助かったよ」 絵梨乃と泡雪がそういうと、レオは笑って腕を持ち上げた。 「おうよ!」 蜂の大群を引き受けた哲心は先ほどと同様、トルネード・キリクで一掃した。今度はさらに数が多かったため、竜巻が威力を失うとその場はアヤカシの死体があちらこちらにまき散らされたような状態だった。 そんな中から生き残った蜂が飛び去っていくのを哲心は見逃さない。 「いくつか逃げたぞ!」 すかさずその先にいた仲間に声をかけると、自分も逃げようとする蜂を切り裂いた。 針をこちらに向け、刺突を繰り出そうとしていた蜂の行動に気が付いた颯馬が軽やかなステップで横に避けた。横踏がきれいに決まり、そのまま振り向きざまに何匹かを同時に攻撃する。 「あと少しだよ!」 全体に目を配っていた御子が仲間たちに声をかけた。 花畑に残る蜂はもう半分以下に減っていた。 ● 「今治しますね!」 そうして、蜂を引き付けては倒し、引き付けては倒しを繰り返した一同はとうとう畑にぽつんぽつんと残る程度にまで蜂の数を減らした。 木に近づけばそれだけ蜂の数が増え、そのたびに何度か攻撃をかすめたり食らったりしてはいたものの、注意深く回避をし、また御子が霊鎧の歌と武勇の曲をうまく使い分けたおかげで毒によるダメージは最小限に抑えた。 早紀が仲間たちの傷を癒し、解毒をするとそれぞれかなりいいコンディションまで回復した。 「あとは巣の有無、ですね」 颯馬が花畑の外から中心の木を見つめた。 「もう一度、やってみましょうか」 幻之条もうなずく。絵梨乃と泡雪が敵を引き付ける間に瘴気回収でちょくちょく練力は回復していた彼は、もう一度人魂を発動させようと準備する。 「その前に自分が」 颯馬が心眼を発動させた。もし木の中に反応があれば、幻之条の人魂で探ればいい。そうでなければ、人魂を発動させる必要はない。 「‥‥やっぱりありますね」 「なるほど。このくぼみね」 彼の言葉に人魂を飛ばした幻之条が木のくぼみに丸い蜂の巣のようなものを見つけた。 「中に蜂がいないか確認するわね」 そう言って注意深く観察するものの、目立った変化は見られない。 「直接行ってみた方がよさそうだね」 御子がそういうと、レオと絵梨乃も同意する。とりあえず巣から蜂が出てくる様子もない以上、慎重になりすぎる必要はない。 「それにしても、怨みとか憎しみとか、そういったものからアヤカシができるというけど」 御子がつぶやいた。 もしかすれば、このきれいな花畑にも何か嫌なことがあったのかもしれない、と彼女は考える。そうとなると、非常に残念なことである。 「これだね」 花畑をゆっくりと進みながら、周囲の残った蜂を払落し、木までたどり着いた絵梨乃がくぼみを覗き込んで言った。 「ここで攻撃をするのは危ないだろうし――」 御子が言う。 その言葉に同じことで悩んでいたらしい絵梨乃は顔を上げた。そして、勢いよく足をくぼみに突っ込んだ! 「行くよ!」 彼女の意図を読んだレオと御子が急いで花畑から出ようと行動を始める。絵梨乃は巣を外に蹴りだすつもりだ。 「了解です!」 絵梨乃の目配せに、泡雪がうなずいて花畑の中央へ向かう。途中で巣が落ちては困る。 「てやっ!」 絶破昇竜脚の青い閃光がほとばしる。確実な精度で蹴りだされた巣は花畑にいる泡雪のもとへと飛んでいき、それを絶妙のタイミングで外へと押し出す。その際に、手裏剣が巣を真っ二つに割った。 「出てきましたねっ!」 割れた巣の中から、今までのどの蜂よりも大きな蜂が飛び出した。 それを予想していたらしい颯馬は平正眼で剣を構えると高く跳躍する。蜂が飛んでくるタイミングに合わせ、上から切り裂いた!全身の力を込めた斬撃は蜂の羽を切り落とし、それに伴って巨体を支えきれなくなった蜂はふらふらとギリギリの飛行をした。 「あと一歩ですよ」 駆け付けた泡雪が蜂の背後から攻撃を加える。それは残っていた羽にきれいに削いだ。 「しぶといな、だがこれで終わりだ」 地面に落ちるまでの間も何とか飛ぼうともがいていた蜂に、哲心が迫る。 「響け、豪竜の咆哮。穿ち貫け―――アークブラスト!」 「今までビクビクさせたお礼だ!」 飛んできた巣を火炎獣で燃やした幻之条と、もう片割れをレオが恐ろしい形相で粉々に切り裂いた。 最後に蜂の残りがいないか確認して、一同はほっと息をついた。時間にも間に合っている。今からならば少女ももう一度花を摘めるだろう。 「泡雪、お疲れさま」 絵梨乃が花畑を確認していた泡雪に声をかけ、心配そうにあちこちを確認する。 「大丈夫ですよ、刺されていても神座様に治していただきました」 絵梨乃の様子に微笑みながら言葉を返した。 そんな彼女に絵梨乃は抱きついた。 ● 「お母さん、お誕生日おめでとう!」 「まあ‥‥!」 あれから、少女はもう一度花を摘みに走った。 「あの花、俺も手伝ったんだぜ」 にっと仲間たちに笑いかけながら、少女の護衛をしたレオが小声で言った。 「きれいなお花」 花を受け取った母親が微笑んだ。 「いつもありがとう。私のために頑張ってくれるお母さん、大好きよ。だから、今日はなんでも言ってね、私がお母さんの願いをかなえてあげる!」 そう言った少女を母親は無言で抱きしめた。 その様子を見ていた早紀の目に涙が浮かぶ。幼いころに亡くした母親。彼女のこころにも暖かい思い出が浮かんでいるのだろうか。 「本当に、おめでとうございます」 その言葉に、母親もまた涙を浮かべながらうなずいた。 |