盗賊団アジトを殲滅せよ
マスター名:中畑みとも
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/01 23:21



■オープニング本文

「きゃああああ!」
「騒ぐな! 殺すぞ!」
 静かなはずの深夜。丑の刻にもなろうとする頃、街に女性の悲痛な叫び声が響いた。

 ここは宝石加工を生業とする職人たちが多く住む街だ。彼らは自宅を工房とし、それぞれが引き継ぐ技術を持って、客の細かい要望に答えた品を作っていた。ジルベリア風に言えば、オーダーメイドというものである。
 そんな街で今一番の問題は、宝石を狙ってやってくる盗賊団のことだった。
「またやられた」
「腕を斬られたらしい。当分、仕事は出来んそうだ」
「今月に入って、もう2度目じゃないか。前は3ヶ月に一回、来るか来ないかだったのに」
「人数も多くなってる。これ以上は私らだけでは太刀打ち出来ん」
 以前は盗賊と言ってもゴロツキのようなもので、食うものに困ったような者が1人で工房に押し入っては、宝石をひと掴み掴んで逃げるようなものだった。中には逃げられてしまったこともあったが、大概は用心棒として村に住んでいる、腕に自信のある者の手によって捕まえることが出来ていた。
 だが最近では盗賊たちが徒党を組んでやってくるようになり、襲ってくる時期も工房が大口の仕事を受けた後など、略奪が計画的になって来ている。動きも素早くなっていて、用心棒が駆け付けた頃には盗賊団は逃げた後、ということが続いていた。
「やはり西の山にアジトを作ったようだ。アジトを殲滅せねば、1人2人捕えたところで何にもならん」
「だが、西の山にはアヤカシが住んでいるという話もある。あんたらが行って、アヤカシに殺されでもしたら、ワシらはその後どうしたらいいんじゃ」
 用心棒らしき年配の男が言うのに、村の長である老人は疲れたように溜息を吐いた。職人たちばかりの、娯楽の少ない街に常駐して用心棒を続けてくれる人材は貴重だ。老人の目の前に座る男は、親がこの街に住む職人であったため、親の手助けをしながら用心棒を何年も続けてくれている。
 いつ来ると限らない盗賊に対し、何人もの用心棒を雇う余裕はこの街にはない。今も居るのはこの年配の男と、男が伝手を頼って短期間だけ来てもらっている用心棒が2人だけだ。
 盗賊団がアジトを作ったという西の山は、木々こそ鬱蒼とは生い茂ってはいないものの、地質の脆い場所が多く、垂直に近い断崖も時折見られる、危険と言ってもいい山だった。街の者でさえ、滅多に近づくことはない。
 その山にアヤカシが出るという話は、近くを通った者が山の方から、およそ獣の声ではない鳴き声を聞いたというだけのもので、確実にアヤカシが出るというわけではなかったが、そもそも山自体が危険なのだ。そんなところに向かわせて、男たちが帰って来なかったら、用心棒の斡旋などを男に頼り切っていた街の者は右往左往するだろう。そしてその間に、盗賊団に押し入られるのだ。
 悪い想像しか出来なくなっている老人に、年配の男は困ったように思案した後、ふと顔を上げた。
「ならば、開拓者を雇おう。彼らならば、万が一アヤカシが出たとしても、上手く対処してくれるだろうし。少し腕が立って数が多いだけの盗賊団など相手ではないだろう」
「だが、ワシらには開拓者を雇うだけの金は‥‥」
「そこは何とかせねばならん。アジトを殲滅せねば、盗賊団は大きくなるばかりだ」
 男の言葉に、老人はしばらく俯いて考えた後、「判った‥‥」と呟いた。


■参加者一覧
月夜魅(ia0030
20歳・女・陰
荒屋敷(ia3801
17歳・男・サ
夏葵(ia5394
13歳・女・弓
小鳥遊 郭之丞(ia5560
20歳・女・志
隠神(ia5645
19歳・男・シ
鬼灯 恵那(ia6686
15歳・女・泰


■リプレイ本文

●洞窟発見
 ぱきり。
 なるべく音を立てないようにと思いつつも、地面に落ちた小枝などを踏んでしまえば、どうしたって音は出てしまう。幸いなのは、土から染み出る水分で落ち葉が湿っていて、空気に良く通る乾いた音が抑えられていることか。
 水平に大鎌を構えた小鳥遊 郭之丞(ia5560)は、柄を握る手にぐっと力を込めた。息を潜め、辺りを見渡す。
 ふと、その目の端に隠神(ia5645)の姿が映った。ついて来いと言うように片手を振り、先を歩き出す隠神からは足音が聞こえない。抜足を使ったその歩きに、感心したように口笛を吹こうとして、荒屋敷(ia3801)が慌てて口を手で塞いだ。
 人が滅多に入らないという山には道らしい道はなく、開拓者たちは枝葉を掻き分けながら奥へと進む。濡れた落ち葉が足を滑らせ、夏葵(ia5394)ががくりと膝をついた。
「大丈夫?」
「有難う御座います」
 転んだ夏葵を、鬼灯 恵那(ia6686)が支えてにっこりと笑う。それをチラリと振り返った隠神は、先を示すように指を上げた。慎重に坂を登りきった月夜魅(ia0030)が、指先を視線で追う。
 ぽつんと、小さな洞窟の入口が見えた。


●探索
「奥に6人、その途中で3人と4人。どうやら小部屋のような場所もあるようだ」
 そう判断したのは、心眼を使った郭之丞だ。それを受けて洞窟の内部を探索している隠神は、抜足を使って奥へと進んでいた。
 壁は触れた先からパラパラと土が落ちてくる。拠点とするには少し不安が過ぎる脆さだが、大人しくしていれば崩落することはないと、盗賊たちは判断したのだろう。もしかすると、その危険さ故に手を出し難いだろうとでも考えたのかもしれない。
 実際、依頼を受けた開拓者たちも洞窟の崩落を危険視して、洞窟内での戦闘は避けるべきだと判断していた。乱暴な手段も厭わなければ、手っ取り早いのは洞窟を壊して盗賊たちを生き埋めにすることだったが、「已むに已まれず、盗賊家業に身を落としてしまった者もいるかもしれない。更生の機会を与えるべきだ」とする郭之丞と、「出来ればあまり殺したくない」と言う荒屋敷の意見で、『討伐』ではなく『捕縛』を目的とする決定になったのだ。
 その為にはまず、戦闘をするに不安のあるこの場所から、盗賊たちを外へ誘き出さなければならない。

 洞窟の内部は単純で、まず一番奥まで続く道が1本。途中に脇道があり、その先が二股に分かれて2つの小部屋に通じているようだった。
 小部屋の片方は寝室らしい。と言っても、薄い布団に毛布を被るだけの、ほぼ野宿のような様相だ。2人がそこで睡眠をとっており、1人が武器の手入れをしているのを確認すると、隠神はもう1つの小部屋へ向かう。こちらはどうやら奪った宝石を保管している場所のようだ。2人が見張りをするように入口に立ち、もう2人は鑑定でもしているのか、何やら宝石の選別をしている。
 洞窟内の一番奥の部屋では、恐らく幹部クラスだろう盗賊たちが机を囲み、次の計画を立てている様子だった。上座に座る男は周りの盗賊たちと比べて身体が一回り以上も大きく、覇気も違う。あの男が盗賊の頭だろう。
 その両隣には髭面の男と、頬に傷のある男がいる。話し合いの様子を見るに、その3人の男が団の中心のようだ。
 内部の構造と、盗賊団幹部の人相を確認した隠神は一度洞窟を出ると、その内容を他の開拓者たちに伝え、再び洞窟内へと戻って行った。


●作戦開始 
「か、観念しろ、盗賊ども!」
 上擦った声が聞こえて、盗賊頭たちが訝しげに顔を上げる。と、一瞬で視線を交わすと、それぞれが武器を持ち、部屋を出た。
「何だぁ? てめぇ」
「こ、これ以上、宝石を奪わせてたまるか! 宝石を返せ!」
 叫んで、部屋から出て来た盗賊たちに十字手裏剣を投げつけるのは隠神だ。先程までの冷静さは何処へやら、ブルブルと身体を震わせながら盗賊たちに怯えた目を向けている。
「危ねぇなあ。何しやがんだ」
「ひぃぃ!」
「捕まえろ! 殺せ!」
 狙い定まらず投げられた手裏剣を難なく避けた盗賊たちは、後退り始めた隠神を追いかける。小部屋の方からも数人、盗賊たちが出て来るのを確認して、隠神は更に声を上げた。
「こ、こっちには仲間がいるんだ! 大人しく縛につけ!」
「仲間? 街の奴らか?」
「それにしては奴の恰好はおかしい。ありゃ忍び装束だ。街の者が盗賊を討伐しようとするときに、普通忍び装束を選ぶか? ‥‥雇われ者だな」
 怯えながら逃げて行く隠神に不審げな目を向けるのは盗賊頭だ。思案するように眉を上げ、部下たちに指示を出す。
「単独じゃあ、ねぇだろう。入口で待ち伏せしてるんだろうが、まあ、あの街の蓄えからして、そんな大層な奴を雇えるとは思えねぇ。行って殺して来い」
 盗賊頭の言葉に部下が武器を構えて隠神を追いかけて行く。それを見送り、盗賊頭は髭面と頬傷の男を呼んだ。
「裏道から出るぞ」
「行って殺してくりゃあ、いいんじゃねぇのか?」
 貴重そうな宝石を掻き集め、逃げる体勢を整える盗賊頭に頬傷の男が首を傾げるように武器を肩に置く。盗賊頭がそれに「馬鹿野郎」と言って、壁に掛けられた布を引き下ろすと、外へと続いているらしい道が現れる。
「ありゃあ開拓者だ。あいつらが束になってかかったって勝てやしねぇよ。ちっ、ここにはもういられねぇな。さっさと逃げるぞ」
 どうやら部下を囮に自分たちだけで逃げる気らしい盗賊頭に、髭面と頬傷の男は何も言わず、その背について行った。


●捕縛
「あ〜、どっかに宝石落ちてねえかな〜」
 洞窟の入り口で、ぼそりと呟いた荒屋敷は、呟きへ説教を始めそうな郭之丞の視線に気付き、慌てて「冗談だって」と返して肩を竦めた。その耳に隠神の叫び声と盗賊たちの怒声が届き、荒屋敷は足元に置いてあった縄を持つと、反対側の縄先を持った恵那と目配せをする。
「わぁぁっ! ‥‥っと」
 情けない声を上げながら洞窟を飛び出した隠神はすぐさま飛び上がり、入口上に伸びていた木を掴んで宙にぶら下がった。その足の下に盗賊たちがやって来た瞬間、荒屋敷と恵那が握っていた縄を盗賊たちの足を引っ掛けるように持ち上げる。
「な、なんだ!?」
「はい、残念でした!」
 縄に足を引っ掛けられて転んだ盗賊が立ち上がる前に、その身体を足で踏みつけ、荒屋敷が縄をかけた。手早く手足を縛り、近くの木に括りつける。
「何者だ! 貴様ら!」
「悪党相手に名乗る名は持たぬ。精武の士『小鳥遊 郭之丞』参る!」
「名乗ってんじゃん‥‥」
 思わず荒屋敷がツッコミを入れたが、郭之丞は気にした様子もなく、逆手に持った大鎌で盗賊の足を払った。巌流のかかったそれは盗賊を転ばせると同時に足に激痛を与え、痛みに悶える盗賊を郭之丞が縄で縛り上げる。
「大人しく、捕まって下さいなっ!」
 あっという間に捕まってしまった仲間に、盗賊たちが逃げの体勢を取った。それを阻止せんと月夜魅が呪縛符を盗賊にかけると、盗賊の足元に式が現れ、その動きを封じ込める。
「2人目、です!」
 動きの止まった盗賊に夏葵が縄をかけると、その横を必死に武器を振り回しながら逃げようとする盗賊が通り過ぎる。
「鬼灯様っ!」
「手加減って得意じゃないからどうなっても知らないよ。まぁ、自業自得って事で」
 武器を振りかざす盗賊に、恵那は薄く笑って蛮刀をひっくり返すと、その峰で盗賊の腕を打った。峰打ちと言えど、重量のある蛮刀に打たれた盗賊は武器を取り落とし、悲痛な声を上げて腕を抱える。それを見下ろし、恵那は逃げられないようにと盗賊の足を蛮刀で打った。バキンと嫌な音がして、盗賊の足が折れる。
「こっちゃあ玩具で相手してやってんだぜ? オッサン方、負けたら恥ずかしいぜ!?」
 逃げようとする盗賊たちを挑発しているのは荒屋敷だ。突然の捕縛にパニックになっている盗賊たちは、半ば自棄で荒屋敷に向かって行く。思いっきり振り回される武器を紙一重で避けながら、荒屋敷は木刀で盗賊の背中を打つ。なるべく傷つけないようにと木刀を選んではいるのだが、背中を打ち据えられた盗賊は息を詰め、その場に崩れ落ちた。1人2人と気を失って倒れる盗賊たちを、夏葵がせっせと縄で縛っていく。
「逃げちゃ駄目です!」
 その間にも逃げようとする盗賊の足を目掛けて、夏葵が矢を打つ。脹脛に突き立った矢に、盗賊が悲鳴を上げて倒れた。
「人数が足りぬ‥‥抜け道か」
 開拓者たちが次々と盗賊を縄にかけている中、その人数を数えた隠神は近くに転がっていた盗賊の胸元を掴むと、その目に十字手裏剣を突き付ける。
「洞窟に抜け道があるな? 言え」
「ひ‥‥ど、洞窟の奥に、山の裏側へ出る道が‥‥!」
 ちっ、と小さく舌打ちをした隠神は、掴んでいた盗賊を地面に放り投げると、全速力で洞窟内へと戻って行った。その背に気付き、郭之丞が仲間を振り返る。
「抜け道がある! ここは任せた!」
「あ、おい!」
 さっさと隠神を追いかけて行ってしまった郭之丞に荒屋敷が溜息を吐きつつ、盗賊の鳩尾を木刀で突いた。蹲る盗賊の首筋を柄で打って気絶させると、向かって来た1人の盗賊の顔面へ木刀を叩き込む。
「俺も行って来るわ! こいつら任せて大丈夫か?」
「ええ、任せて」
「向こうに幹部クラスが行ったのなら、月夜魅さまも向かわれた方が宜しいかもしれません」
「判りました! 参りましょう!」
 荒屋敷が恵那と夏葵を振り返ると、恵那は余裕たっぷりに盗賊たちへ笑みを向けながら、夏葵は弓を構えて盗賊を睨みつけながら答えた。それに月夜魅も頷き、荒屋敷と共に洞窟内へと入って行く。
「さて、あなたたちで最後‥‥覚悟してね?」
「お説教は、後でたっぷりと致します」
 ぎりっと弓を引く夏葵と、笑いながら蛮刀を揺らす恵那に、残った盗賊が青い顔で悲鳴を上げた。


「逃がさん!」
 盗賊頭たちを追って来た隠神は、洞窟を抜けた道の先にその背中を見つけると、早駆でその距離を詰め、手裏剣を投げつける。素早く飛んだ手裏剣は後方を走っていた髭面の背中に突き立ち、悲鳴に前の2人の足も止まった。
「ちっ、追いつかれたか!」
 盗賊頭を守るように頬傷の男が武器を構え、髭面が背中の痛みに唸りながらも体勢を整えようとする。その間に盗賊頭が逃げようとするのに、隠神は早駆を使って盗賊頭の前に回り込んだ。洞窟と隠神で盗賊たちを挟む形になって、盗賊たちが忌々しげに舌打ちをする。
「そこを退きやがれ!」
 立ち塞がる隠神に、髭面が武器を振り回した。隠神はそれを難なく避け、鳩尾に拳を叩き込む。息を詰める髭面の首に隠神の肘が思いっきり叩き込まれると、髭面は力無く地面に倒れた。
「てめぇ‥‥」
「追いついたぞ!」
 そこに、追いかけて来た郭之丞もやって来る。狭い道でも通りやすいよう、中段より少し手前に出す感じで構えた大鎌で、走る勢いをそのままに頬傷の男の背中を突いた。湾曲した峰で突かれた為に裂傷は出来ないが、それでも衝撃で頬傷の男の体勢が崩れる。
 その隙を逃さず、郭之丞が巌流で頬傷の男の足を掬った。倒れた頬傷の男の首に大鎌の刃をかける。
「これ以上抗うとあらば、次はその首刈り落とす!」
「うおおお!」
 大きな斧を振りかざした盗賊頭が郭之丞に襲いかかった。瞬時に間に入った隠神がその斧を白羽取りで受け止めるが、勢いは予想以上に強く、隠神の肩に斧の刃が食い込む。
「おおりゃああ!」
 隠神の肩を斬り落とさんとする盗賊頭に、追いついた荒屋敷が渾身の飛び蹴りを食らわせた。突然の衝撃に吹っ飛んだ盗賊頭に、荒屋敷の後ろから現れた月夜魅が呪縛符をかける。
「大丈夫ですか!?」
「傷は浅い。大丈夫だ」
 動きの封じられた盗賊頭に荒屋敷が縄をかけている間、月夜魅は血の流れる肩を押さえた隠神に駆け寄った。急いで治癒符をかけると、それほど深くはなかった傷が癒されていく。
「ちょっとハラハラしたが‥‥ま、一件落着かな」
 ギュッと最後に残った頬傷の男も縄で縛り上げ、荒屋敷は疲れたように溜息を吐いた。


●依頼終了
「本当に有難う御座います」
「いえ、多少は売り飛ばされてしまったようでしたが、いくつかは取り返せて良かったです」
 取り返した宝石を手に、開拓者たちを拝まんばかりの街人に、月夜魅がにっこりと笑う。
 捕まえた盗賊たちは皆縛りあげられていたが、折られた骨などの怪我は開拓者たちによって応急手当がされていた。当初から「殺したくない」と言っていた荒屋敷と、それを手伝った月夜魅の手によるものだったが、完治させて逃げられてもいけないので治癒符などは使わず、山で拾った枝と包帯を使った簡単なものである。
「‥‥強奪というのはその人の命や生活をも脅かすだけでなく、努力や未来への希望といったものも全て奪うことになるのです。これは倫理的にも道徳的にも反社会的な‥‥」 
 その盗賊たちは今、夏葵によってクドクドと説教を聞かされていた。盗賊頭などは特に不機嫌な顔で夏葵を射殺さんばかりに睨みつけていたが、暴れ出さないのは夏葵の横でにこやかに蛮刀を揺らしている恵那がいるせいだろう。先程、夏葵の説教を遮ろうとした盗賊が恵那の蛮刀によって、無事だった骨をまた一本失ったばかりだった。
「それでは報酬を‥‥」
「申し訳ないが、私は受け取れない。宝石を取り返したといっても、今までの被害総額と比べたら少ないのだろう? それは今後の街の為に役立てて欲しい」
 報酬を取りだした老人を制したのは郭之丞だった。その言葉に荒屋敷が「ええ? そんなん言ったら、俺たちも受け取り難くなるじゃん」と呟いたが、聞こえたのは軽く肩を竦めた隠神だけのようだ。
 そのまま踵を返す郭之丞に、老人が慌てて追いかける。
「いえ! 盗賊団を捕まえて頂いただけでなく、宝石まで取り返して頂いて、依頼以上のことをして頂きました。元々申し訳ないほど少ない報酬です‥‥受け取って頂かなければ、私たちの気が済みません」
 ぐい、と半ば押し付けられるようにして持たされる報酬に、郭之丞が小さく苦笑してそれを受け取った。
「いつか宝石を買いに来て下さい。そのときは腕によりをかけてお作り致します」
 そう言って深々と頭を下げる老人に、開拓者たちは晴れ晴れとした笑顔で別れを告げた。