【鍋蓋】匠の鍋蓋
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/17 01:20



■オープニング本文

「ん〜あれは残念だったさね」

 鍛冶屋の男と共に歩く帰り道――。前回の仕事を思い返しながら新海が呟く。
 新年一発目――初詣の後に支給品の抽選に挑んだ新海だったが、やはり手には鍋蓋が握られている。

「残念って、こないだのあれかい? あのふくせ‥‥‥うぐっ」

 男が言いかけた言葉を遮る様に、新海が男の口に持っていた鍋蓋を押し付ける。
 力任せに押し付けられて、半ば張り手のような一発に男は絶えられず、近くの壁に飛ばされていた。
「その事は内緒さねっ。ばらしちゃだめさぁ〜」
 それを追って、鍋蓋を構えたまま新海が詰め寄ってくる。
「あぁ〜わかったわかったから、その鍋蓋下ろせっ、なっなっ」
 叩かれた口を赤くしながら、男は叫ぶ。
(「割と新海さんって力があるんだなぁ〜」)
 ――さっきの一撃。鍋蓋とはいえ、かなりの衝撃だったようだ。
「まっ、わかってくれればいいさね。たかが鍋蓋というなかれ・・・ってことさね」
 今日支給された鍋蓋を見つめながら、新海がしみじみ言う。

 始めは自分も鍋蓋なんてと思っていた。
 しかし、それに関わることで沢山の出会いがあり、経験をした。自分の浅はかさを教えられ、武器の重要性についても学んだ。もともと志士だったから、道具に対しては並々ならぬ情熱を持っていた新海である。支給品として貰った鍋の蓋――初めはこんなもの役に立たないと思い、手入れは疎か貰ったらすぐ押し入れの肥やしにしていたのだが、今や毎日の手入れに楽しささえ覚え始めている。
 それに、ごく最近気付いたのだが鍋の蓋一つにしても、手作りのものであり微妙に色合いや形(僅かな木の歪みなのだが)が違うのだ。それを発見してからは一枚一枚の個性を見つけるのが楽しくて仕方がない。

「新海〜あっしの話し聞いてましたかい?」
 ぼんやりそんな事を考えていたから、鍛冶屋の男の話など全く聞いていなかった新海である。
「なんでぇ〜折角面白い情報を教えてやろ〜かと思ってたのに〜」
少し頬を膨らませて、子供のような態度を見せる男に頭を下げる新海。
「まぁまぁ、悪かったさね‥‥今度はちゃんと聞くから教えてほしいさぁ」
「本当ですかい?」
「もちろんさね」
 はっきりそう言ってやると、鍛冶屋の男は納得したのかいつもの表情に戻る。
「仕方ないなぁ〜今回は特別だ。実は、すごい匠がいるらしい」
「たくみ?」
 何の事かわからず、思わず言葉を繰り返す。

「鍋蓋職人の斬払木貫(ざんばらもっかん)先生‥‥
 何でも鍋蓋の巨匠とか呼ばれているらしくて、その人の造る鍋の蓋は百万文を下らないとか‥‥」

「ひゃっ百万文さねっ!!」

 新海はびっくりして手にしていた鍋蓋を取り落とした。
 むなしく地面に弾かれて蓋は思わぬ方へ転がってゆく。
「新海、ふたふた」
 それを見取って男が慌てて拾い上げる。
「どうやら放心しちまったらしいなぁ〜まぁ金額が金額だからな、仕方ねぇ」
 鍛冶屋の男が苦笑混じりにそう呟いた。

 家に着いても、新海の頭の中には木貫の鍋蓋の事で埋め尽くされていた。
(「百万文の鍋の蓋さ〜〜絶対他とは色々違うはずさね。
 一度でいいから見てみたいさ‥‥こう縁の曲線とか絶対ぜったい違うはずさね」)
 ぼんやりと宙を見つめながら新海はそんなことを考える。
 

 そして翌日――
「おぉ〜〜〜鍋蓋の神よ、ありがとうさぁ〜」
 ギルドの依頼書の中の一枚――その依頼内容を見て、新海が叫んだ。
 その声にびっくりして周りの開拓者らの視線が新海に集まる。
 だがしかし、新海は全く気にしていないようだった。スキップをしながら、窓口に向かう。
「おっねえさんっ! この依頼受けるさっ!!」
 新海の手にしていた依頼書――そこには、『斬原木貫の作品の護衛輸送』と書かれていた。


■参加者一覧
白河 聖(ia1145
18歳・男・陰
朧 焔那(ia1326
18歳・女・巫
鬼限(ia3382
70歳・男・泰
朝倉 影司(ia5385
20歳・男・シ
ガルフ・ガルグウォード(ia5417
20歳・男・シ
白漣(ia8295
18歳・男・巫
朱麓(ia8390
23歳・女・泰
和奏(ia8807
17歳・男・志


■リプレイ本文

●新海の印象
「新海さんっ、危ない!!」
 白河聖(ia1145)がそう叫んだが、間に合わなかった。
 頭を庇って転んだ新海の姿は見る見るうちに形を変える。
 新海にとっての雪山初体験――話は数分前に遡る。

「今回は貴方にも鍋蓋の護衛に徹してほしい」
 顔を合わすと同時に、仲間を代表して一番付き合いのあるガルフ・ガルグウォード(ia5417)から神妙な面持ちでそう言われ、新海もそれに同意した‥‥はずだった。木貫の工房を目指して歩き出した一行。雪山という事もあり、おのおの防寒対策をし、ある者はマフラーを、ある者はお手製鍋蓋型耳当てなんかを装備している。そんな中、ベターに藁の蓑と笠に身を包んで、白銀の世界を目にした時はしゃいだのは新海だった。
「おや、明朝の旦那は『雪』は始めてかい?」
 その様子を察して、朝倉影司(ia5385)が声をかける。
「そうさねっ、ほわほわの真っ白さぁ‥‥なんかうまそうさね」
「えっ、食べる気なんですか」
 今度は彼の後ろを歩いていた和奏(ia8807)が答える。
 隊列は二列編成だった。前から、朱麓(ia8390)・白漣(ia8295)、鬼限(ia3382)・新海、聖・影司、ガルフ・和奏の順である。
「だって、ほら‥‥と、ん? あそこに見えるは白兎!!」
 少し顔を見せたその兎に、新海の瞳が輝き出す。
「ちょっと行って来るさ〜」
 るんるんと輝きを持った瞳には、もう既に他のものは映っていない。
「あぁ、どこ行くのよっ」
「こら、新海! 御主という奴は!!」
 仲間の声を背に、ずんずん元来た道を進む。
「あぁ〜もう、仕方ないなぁ。これだけは使いたくなかったのに‥‥」
 和奏は新海を止める為――渋々すっと、足をずらす。和奏の罠に‥‥新海はまだ気付いていない。
「おへっ??」
   ずぼっ
 奇妙な声を上げて、倒れた場所には見事な人型が出来上がっている。
「さっ新海さん、遊んでいる場合じゃないですよ! お仕事お仕事」
 そんな二人の掛け合いに残りのメンバーが笑いを堪える。
「う〜〜ひどいさね‥‥って、おおおおおぉ」
 
 これが始まり――立ち上がりかけた新海が再びバランスを崩して――。

「おわわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」
 気付けば雪玉へと変貌を遂げ山を下っていく。
「あの皆さん‥‥」
 それを見つめながら、白漣が言う。
「噂に聞いてはいましたが、新海さんって‥‥なんかすごい方ですね‥‥」
 言葉が終わる頃には、新海の雪玉が麓の木に激突した所だった。


●目利きの腕
 山登り一日目――予定では工房にいるはずだったのだが、現実はそうではなく山の丁度五合目辺り。幸い、木々の多いこの山では風の吹きっ晒しに遭うことなく、テントを立てても強風に煽られる事はない。そんな場所で野営の準備を終え、食事の支度をするのは料理の得意な朱麓と白漣の二人である。
「よし、後は蓋をするだけねっ」
 食材を入れ終えて、朱麓が持参した鍋の蓋に手をかける。
「ちょっちょっと待つさ!」
 ――と、やはりここにも彼が現れた。突然の出現に思わず朱麓が身を引く。
「驚かせないでよ、全く」
「どこにでも出てきますね、新海さんは」
 二人の言葉を気にすることなく、新海の視線は鍋蓋に注がれている。
「ん〜〜この鍋の蓋、なかなかに使い込まれてるさね」
「え? あぁ、まぁね。あたしもよく料理するから‥‥」
「ちょっと見せて貰っていいさね?」
「あっ、はい。どうぞ」
 鑑定士のような眼つきの新海に蓋を手渡すと、彼は虫眼鏡を取り出し観察を始める。
「あの? そんなに違うもんなんですか?」
「全然違うさね‥‥この蓋は泰国製さ。この木目、この木触り‥‥泰国の木は、ちょっと神楽のものより柔らかいさね。この柔らかさが丁度いい沁み具合を作るらしいさ」
「ヘ〜〜知らなかったわ」
「成程。さすがですね」
 そんなウンチクが始まって――
 仲間が食事にありつけたのは、それから三時間後の事だった。


 そして次の日、新海を厳重警戒し登山を慣行――無事工房へと到着する。

「なんと、これが百万文の鍋の蓋か」

 一行が木貫から手渡されたのは、神々しく光って見える程の鍋蓋だった。
 大きさは一般のものと変わらないのだが、どこか風格のようなものがある。
「私の子供同然の品だ。くれぐれもよろしく頼む」
 この手の匠にしては腰が低い。威張り散らすタイプの人間とは違い、本当に自分の作品を愛しているのだろう、慈しむ様な表情で見つめている。
「大丈夫さね、俺達がちゃんと届けるさ」
「あなたが一番危険だと思うけど‥‥ま、任せて下さい。新海さんはともかく僕らが責任持ってお届けしますから」
 自信満々に答える新海に対して、和奏が無表情で突っ込む。
「なんか、ひどいさぁ〜〜」
その言葉にしょげた新海。瞳に光るものがある。
「まぁまぁ、明朝の旦那‥‥これ見て元気出して」
 木貫から預かった鍋の蓋の一枚を出して、新海に手渡すのは影司だ。木貫から預かったのは全部で五枚。どれも普通のものにない独特の雰囲気を醸し出している。
「ガルフ、おまえはいいのか?」
 友人であるガルフに声をかけると、ガルフも我慢していたのか嬉しそうに新海の方へと走っていく。
「新海さ‥‥いや師匠、どうですか?」
 鍋蓋を掲げて、観察していた新海に問う。なかなか言い出せなかった言葉――師匠。緊張しながら言ったのだが、当の呼ばれた本人は気付いていないようだ。
「んや? 見ての通りさね。この鍋蓋は一枚板から出来てるさぁ。普通なら取っ手と本体とは別々に作って後から組み合わせるのに、これは組み合わせた跡がないさぁ。つまりばらさず作っている証拠さね」
「ふむふむ」
「それに、この素材‥‥樹齢三百年以上で、しかもこの木目からするに病気とかにかかってない木さね‥‥」
 昨日の鍋蓋談議に続いて、再び新海の解説が展開されていく。
「全く‥‥新海殿は、まだまだ子供じゃな」
 その様子を見て、鬼限が優しく独りごちた。


●やけくその行き先
 結局二日目は木貫の工房で一夜を明かして、三日目の朝を迎える。
 さすがの新海も木貫から鍋蓋を受け取った後は気持ちを引き締めたのだろう。隊列を守り、進んでいる。辺りを警戒しつつ、足場にも気を配らなければならない道のりは決して楽なものではない。
 白い息を吐きながら進んでいた一行だったが、先頭を行く朱麓が何かを察知し手を上げて――運搬役の影司がさっと体制を低くする。
「北・東・西・・・数まではわからないけど何かいるわ」
 心眼を使って、生命反応を探知。それを聞き取り皆応戦態勢に入る。
 アヤカシか、はたまた野盗か・・・。数もはっきりとは特定できず、慎重にならざる終えない。

「さぁ、隠れてないで出てきなさいよっ」

 そこで彼女は挑発を試みる。彼女の挑発に乗ったのは‥‥野盗だった。ばれていては奇襲の意味がない。一人また一人と姿を現す。その数、ざっと数えて三十人。やはり狙いは鍋蓋のようだ。自然と視線が影司の包みに集中している。

「影司、あんたは念の為下がってて・・新海さんと和奏は後ろでサポートを。他の皆は野盗を片付ける。いいわね」

 朱麓の言葉に答えて、一同が一様に動き出す。

「ちょいとー、何処みてんだい? あんたらの相手はこっちだよ!」

 朱麓が先制――手近にいた一人に走り込み、鉄爪を振るう。
 続いて鬼限も前へ。得意の蛇拳と背拳を駆使し、一人ひとり確実に仕留めてゆく。後方からは、聖が斬撃符で支援、白漣がショートボウで援護射撃を行っている。

「くっそ! 何やってる! おめぇらそれでも野盗かよ!!」

 親玉なのだろう。厳つい男が部下の失態に激を飛ばす。

「しっかし、親分! 相手が強過ぎますぜ!!」
「俺らじゃ敵わねぇ〜〜〜」

 悲鳴を上げながら逃げ惑う部下に、親分の怒りは納まらない。

「何やってんだ、バカヤローーこのまま帰ってみろ! 俺がおめぇらをヤる!」
「えぇ〜〜〜そんなぁ〜〜〜〜〜」
「酷過ぎますぜっ、親分!」
「つべこべ言わずどうにかしろっ!」

 憤慨する親分に、部下もこのままでは引き下がれないと覚悟を決めたのだろう。

「あぁ〜〜〜もうどうなってもしんねぇーーからなっ!!!!」

 一人の男がそう叫び、懐から取り出したのは一本の花火。

「まさか、あやつ‥‥」

 それに気付いて鬼限が動いたのだが、僅かに遅かった。

   どーーーーーん

 着火したその花火を天高く放り投げて、男が耳を塞ぐ。

「あの男、何のつもりさね??」

 その意味を理解していないらしい新海が呑気に尋ねる。
「マジで、新海さんわからないんだ」
「旦那、雪山は初めてだっていってましたからねぇ」
「何かマズイさね?」
 そう言って振り向きかけた新海に迫り来る白い波。
 耳に届く轟音にみるみる顔色を変えてゆく。

「なっ雪崩れさねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 一行は野盗共々、団子になりながら必死で山を下る。

「なっなんてことしやがる! このばかたれがっ!」
「だって親分がどうにかしろって‥‥」
「だけど、俺らまで巻き込んでどうするっ!!」

 後方で親分と部下の会話が飲まれて消えた。


●目覚めた強敵

 ぜぇぜぇぜぇ

 全力疾走で下ったおかげで、一日はかかる山道を僅か一時間弱で下り切った一行は、山の麓で乱れた呼吸を整える。新海などは慣れない雪に再び足を取られ、二度目の雪玉下山を果たしている。

「もぅ、雪なんて懲り懲りさね‥‥」

 焚き火に当りながら新海が呟く。

「それより蓋は? 蓋は大丈夫ですか?」

 白漣が影司に聞けば、影司は無言で無事を告げている。早駆にて一足早く下った彼である。

「良かった‥‥」

 それを察して、緊張の肩を下ろす。

「さすがにもふらに包まれていれば、少々の衝撃にはびくともしませんよ」

 苦笑しながらそっと包みを開くと、鍋の蓋を抱きかかえるような形でもふらのぬいぐるみが配置されている。クッション代わりにと、和奏が提供したものである。

「似合ってますよ、影司さん」

 少し悪戯な笑みを見せて言う白漣に、影司が苦笑を返す。

「さて、折角早く下れたのじゃし、先を急ぐか‥‥」

   ぐぉぉぉぉぉぉぉ

 雪を払い立ち上がった鬼限の言葉が、何かの雄叫びにかき消された。
「今の声って、まさか‥‥」
 聖が辺りを見回して――しかし、その後が続かない。
 新海の後方に見える影‥‥そこには仁王立ちする白い大きな熊の姿がある。

「えっ? うそ、白熊??」
「んな訳ないでしょーーー!! あれは雪で白いだけです!!」

 朱麓の言葉にツッコミをいれたのは白漣だ。

「なんでこの時期に? 冬眠してんじゃないの?」

 素朴な疑問を口走りつつ、それでも一応臨戦態勢に入る。

「それは多分、さっきのじゃないでしょうか? 後、一昨日のあれと」
「アレって?」
「嫌だなぁ〜もうお忘れですか? 新海さんの雪玉事件です。今日も一回ありましたし、野盗の花火に雪崩れの衝撃‥‥起きない方がどうかしている」
「あっ、成程」

 冷静な判断で返された和奏の答えに、ぽんっと拳を打って納得する朱麓。それをじっと見ている熊ではなかった。無理矢理起こされて、熊も気が立っているのだろう。我武者羅に腕を振り、開拓者達を襲い始めている。

「まさか睡眠妨害された熊がこんなに恐ろしいとは‥‥」

 近付くこともままならない状況に、聖が呟く。

「そんな事言ってる場合じゃないさね〜〜どうにかするさぁ〜〜」

 鉤爪をぴょんとかわして、新海は懐からお手製苦無を取り出して――。

「師匠!! それはきか‥‥」

 ガルフの言葉を聞くより早く、熊の顔を目掛けて放たれる。
 ――が、それはやはり刺さらなかった。

「あぁ〜〜だから‥‥って、えぇ!!!!」

 以前、化猪相手に通用しなかった鍋蓋製苦無‥‥けれど、今回はそれだけでは終わらない。

「うぉりゃあ〜〜〜くらえっ、鍋蓋アタック!!」

 苦無を投げたと同時に新海が前に突っ込み熊の顎にアッパーを繰り出す。どこから取り出したのか両手に鍋蓋を握り、その攻撃は――見事熊を捕らえていた。下から押し上げられバランスを崩す熊。追い討ちをかける様にもう片方の蓋で胸を打ちつける。

「やった‥‥やったさねぇ〜〜〜」

 命中した喜びに、声を上げる新海。しかし、熊もこれで終わる程軟弱ではない。
 むくりと起き上がると、咆哮を上げ――執拗に新海を狙い始める。

「あぁ〜なぜに鍋蓋? まっいいか」

 聖はその攻撃に苦笑しつつも、すかさず新海のサポートに入る。

「さっ、わしらも見てる場合ではないぞ」

 鬼限の言葉に、皆が動いた。
 野盗戦と同様に、各役割をきちんとこなした息のあった攻撃。動き回る熊の足を狙って、地味ではあるが確実にショートボウで矢を放ち気を惹く白漣。その間に距離を詰め打剣を繰り出すガルフ。鍋蓋運搬の影司も遠巻きではあるが、手裏剣で援護している。雪の足場であったが、数での優勢の下じわじわ削って‥‥聖の呪縛符で捕らえた熊に、朱麓がフィニッシュ。炎魂縛武かけの最後の一撃に、熊はようやく活動を停止する。

「途中で戦意喪失してくれればよかったのに‥‥」
 襲ってきたのだから仕方がないのだが、熊もある意味被害者だった。出来る事なら殺さないでいたかったと思う聖である。
「これも運命」
 それを感じ取ったのか、影司が合掌し熊を弔う。

「これ、ありがとさねっ」
 ――と、その少し奥ではにっこりと笑う新海と、訳がわからないと言ったガルフの姿があった。差し出された鍋の蓋を見て、戸惑いを見せている。
「え〜〜と、師匠。どういうことでしょうか?」
 微妙に改まって、ガルフが問う。
「だから、この鍋蓋はあんたのさね。あの時とっさに思いついて、あんたの腰に下げてたこの蓋使わせてもらったさぁ」
 その言葉にふと自分の腰に目をやれば、そこにあるはずの鍋の蓋がなくなっている。
(「いつの間に?」)
シノビであるはずのガルフが気付かなかったのは驚きである。
「しっ‥‥師匠〜〜やっぱすげ〜〜やっ!!」
 蓋を受け取り、思わず上げた一言。
「すごくないさね‥‥その鍋蓋が強化されてなかったら危なかったさぁ。普通のだったら壊れてたかもしれないさねっ」
 しかし、新海は別に何とも思っていないようだ。自慢するでもなく、むしろガルフの鍋蓋に感謝している。

「全くもって変わった男じゃな‥‥」
「そうね」

 そんなやりとりを眺めて、鬼限と朱麓が微笑する。和奏はあまり関心がないようだったが、何か思うところがあるのかしばらく見つめて――。

「ささっ、熊も倒した事です。さっさとお仕事終わらしてしまいましょう。自分は最後尾のはず‥‥早く皆さん、並んで下さい」

 どこまでも冷静にそう言って、都に向けて歩き出す。

「あっ、そうだ! 皆さん、僕、飴持ってるんです‥‥よかったらどうぞ」

 一段落ついて、白漣が飴を配る。実は彼、大の甘いもの好きであり、常時甘味を携帯してるのである。彼の飴を頬張りながら、一行が無事都に着いたのはその日の夕方だったという。