【AP】召喚、妖軍団!
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/16 02:03



■オープニング本文

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

「いでよ、我がしもべ達よ。あの者に正義の鉄槌を」
『グゴォォォ!!』
 馬に騎乗で命を下して、現われるのは背丈二メートルを超える鎧武者。
 彼の一声でその武者達は腰の刀を引き抜いて眼前の鬼の下へと進んでゆく。
「おまえに何がわかる! 我が名は鬼操者と呼ばれた妖術師しぞ!」
 それに負けじと遥か向こうにも彼と同様に己が召喚した鬼達を従えた男がいた。
 そして、激突――金棒と刀が激しくぶつかり弾け飛んだのは刀の方。
 しかし、鎧武者も負けてはいない。刀が折れようと鎧は厚くそう易々とは崩れない。
 そんな戦が各地で展開されていた天儀年間とは違う時代――

 そこでは妖術師というアヤカシを操る力を持った者達が世界を支配しようと日夜戦いが繰り広げられ、領土は彼らの支配下にありました。しかし、いい妖術師に当たった民達は彼の力を信じ平和に暮らす事が出来たのですから悪い世ではありません。けれど、戦が起こっている事に変わりはない。そこでその乱世に終止符を打つべく、動いた者がおりました。彼の名は判りません。それは宛名不明の書簡から始まったのです。

『全ての戦いを終わらせる為、ここに決戦を開催する。
 我こそはと思う妖術師は己の操るアヤカシと共にこの場に馳せ参じよ。
 そして、そこで勝った者がこの世界を統治する権利を与える』

 その書簡の文面に妖術師は沸き立ちます。己が目指すものの為今まで動いてきたのです。
 何がどうあれ、この世界を統べる者となればそれが叶うと信じて――。
 アヤカシにも色々なタイプがおりましたが、妖術師が操り召喚できるのは一種のみ。
 ある者は闇目玉を複数出現させ相手を幻惑に陥れ、進撃をさせないで国を守っておりました。
 またある者は鉄甲鬼をたった三体を従えてパワーと高い防御を武器に侵略を繰り返しておりました。
 そして他にも強酸性粘泥を呼び出して、相手の攻撃を受け止め呑み込む事で敵を葬り続けます。
 こうした状態にまかれた種…。

『勝った者は世界を手に出来る』

 一国ではなく全てを――腕に自信のある者は動かない訳にはいきません。
 彼らは各々自分のアヤカシを引き連れて、書簡に書かれた場所へと向かいします。
 さまざまな想いを抱いて――決戦の地、神の楽間に。


●妖術師について
OP内にもありますが、召喚できるのは一種類のみ
但し低級のモノほど数を多く召喚出来、上級クラスは数を召喚する事は出来ません
(判定では公平にする為力加減は関与しませんが、描写時に数が関わってくるので念の為)


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
斑鳩(ia1002
19歳・女・巫
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
からす(ia6525
13歳・女・弓
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
トカキ=ウィンメルト(ib0323
20歳・男・シ
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
フルト・ブランド(ib6122
29歳・男・砲
霧雁(ib6739
30歳・男・シ
エルレーン(ib7455
18歳・女・志


■リプレイ本文

●顔合わせ
 暗雲立ち込める中、それぞれの想いを胸に妖術師達は集まる。
 そして、その戦場となるのは何もない殺風景な神の楽間――以前は多くの人が集い栄えたとして伝えられているが、もうそれを知る者はいない。神が全てを無に返したように…この何もない場所でこれからの行く末を担う王を決めるべく戦いが繰り広げられるのだ。

「よく来たな…まずは第一回戦第一試合の組み分けを行う。そのもふらの持つ籤を引くがいい」

 依然として姿を現さない主催者。声だけが彼らを導く。だが胡散臭く思う者もいわしたが、勝者となった時の理想が渦巻き、そちらへの思考回路は繋がれていないようだ。

「赤だ」
「私もです」
「俺は白だぜ」
「私も純白の白よ」

 各々がひいた紙には赤と白の色付けがされ、それで相手を決めるらしい。
「それでは、第一試合は合同デスマッチもふ。赤の者前へ」
 愛らしい姿とは裏腹に、お遣いもふらが皆を促す。
 ルールは至って簡単なものだった。集まった妖術師は計十名――そこでまずは五人で戦い、生き残った二名を準決勝へ。次に両グループの一人ずつが対戦し、その勝者同士が決勝を行うというものだ。戦いに関してはこれといった反則行為はなく、とにかく生き残ればよいというサバイバルルール。敗者復活等という甘い考えは存在しない。
「世界を手に出来るのだ、こうでなくては…」
 冷酷な笑みを浮かべて全身黒のスーツに身を包んだ霧雁(ib6739)が言う。
「物騒な…私は平穏が一番だと思うがね」
 そういうのは彼同様に黒い服に身を包むも正反対の考えを持つからす(ia6525)だ。旅をして来た経験からかその考えに行き着いたらしい。こんな状況でも湯飲みを片手に茶を啜る余裕を見せている。
「何を偽善者な事を…強者が敗者を蹂躙するのは自然の理。平穏など必要ないわ」
 そういう彼であるが、実際の参加の理由は意外と可愛いものだったり。だが、口には出さない。
「なんだか凄く不穏な空気がびんびんですけど、どういうことでしょうか? 私は世界を我が物にすると色々凄いと聞いて、ノリできちゃったのですが」
 そこに場違いとも思われる一輪の白い花。チーパオを着用した斑鳩(ia1002)は体のラインがくっきり見えて一際目立っている。
「うぬぬ…許すまじぃ〜! 何よ、あの強調した胸は!!」
 そんな彼女を後方から見つめてハンカチを噛むのはエルレーン(ib7455)だ。
「世界を制覇すれば色々食べ放題になったりしますかね? だとしたらちょっと頑張ろうと思います!」
 ぐっと拳を作って、斑鳩は大食漢らしい。寿司大食王者の称号も手にしているという。
「何よ何よ〜! 胸のみならず、そんなものまで〜〜」
 もはや負け犬の僻みにしか聞こえない。けれど、言わずにはおれない。
「じゃあ、あなたは何を求めてここにいるのです?」
 ちらりと視線を向けてトカキ=ウィンメルト(ib0323)が問う。
「私…私は、この世界をへいわにしたいのっ!」
 ばばーんとない胸を張って言い切って、瞳は神々しく輝いている。
「平和か…何が平和かは各々違うだろう?」
「そのとーーり!」
 と今度は何処から沸いて出たのか村雨紫狼(ia9073)が元気良くシャウトする。
「すばり俺の平和は、世界をエロスに染め…」
「なんと欲深い! 皆まで言うな、この変態紳士が…」
 言いかけた言葉を遮って現れたのは気品溢れる井出達の少女・リンスガルト・ギーベリ(ib5184)――馬に乗る姿もどこか勇ましい。
「おはっ! 勝気なロリッ娘発見だぜ!!」
 だが、素早く復活し彼女に駆け寄る紫狼。しかし、今度は彼女の馬に一蹴りされ大きく後退する。
「ロリも巨乳も嫌いよ…私の火兎ちゃんたちでやっつけちゃうんだからー!」
 いーと子供のような仕草を見せてこれはエルレーン。そんなメンバーを気にせず、我が道を行く者も勿論いて…開始前から異様な空気に包まれていた。


●第一試合・赤
「それでは始めっ!もふ」
 決戦の場所にまず降り立ったのは羅喉丸(ia0347)に斑鳩、そして鈴木透子(ia5664)にリンスガルト、霧雁の五名である。
「ちっ、あの巨乳とは別組みかっ」
 エルレーンはそう言って斑鳩の動向を見つめる。複数を相手にする戦いとなると、大型一体の召喚は不利なようにも見える。
「ででこい! 魔人『牌紋』もどき!!」
『なにっ!!』
 だが、彼女が呼んだ名前に衝撃が走った。牌紋といえば昔の大戦で開拓者と呼ばれる者達を苦しめた魔戦獣。皆が身構える。
「ならば我の相手にとって不足なし!!」
 それに続いて、霧雁は木葉隠を発動。何処からともなく木葉が集まり、それは竜巻のように天高く伸び彼を巻き込む。そして、次に姿を見せた時には別の姿を有している。
「見よ! 上級妖『蔓雲の怪龍』は今や我が傀儡よ!」
 文字通り蔦や蔓で出来た大型の龍。その龍に霧雁は同化している。頭の部分に彼の下半身は融合し、怪龍を操っているようだ。
「どうした、貴様ら! この姿に恐れを為して動く事も出来んかっ…と問題の牌紋はどこだ?」
 斑鳩のそれに対抗すべく出したはずの己の妖――だが、彼の標的となる相手が見つからない。
「どうした、女ぁ? 怖気づいて撤退でもさせたのか?」
 きしゃああと蛇のなうな奇声を発し、怪龍共々彼女を牽制する。
「何処に目をつけてるんですか! ちゃんとここにいます!!」
 ばばーんと指差したのは彼女の隣。確かにそれはいた。なんともちんまりとしたサイズで…確かに見た目はそのままであるが、些か…いや、かなりサイズが小さい。彼女の腰位までの大きさで、駱駝に乗ったそれがじっと待機している。

『なんじゃそりゃあーーーーーー!!!!!!!!!!』

 その姿に外野から突っ込みの声が上がる。
「私はちゃんと『もどき』とつけました。間違ってはいません!!」
 ふんっと鼻息荒く彼女が言う。
「あらあら、可愛らしい」
 透子などはそれに近寄り興味を示している。
「ば、馬鹿にしているのか、貴様ぁ〜……まぁいい、この俺がそれを押し潰してくれるわっ!」
 ぐいっと巨体を上昇させ、狙うはその小さな妖。途中猛毒や葉剣を放つが、それはなんなく避けられる。
「邪魔は駄目です!!」
 だが、その間に透子は立ちはだかる。牌紋を撫でようとしていたのに邪魔をされて頭にきたらしい。突進を食い止めるべく手を翳す。そして、
「いでよ、子鬼軍団!!」
 彼女が叫んだ。すると同時にぽこぽこ地面から出現するのは子鬼の群れ。言わずと知れた雑魚妖であるが、侮るなかれ…数での暴力で怪龍に立ち向かう。

「登れ、登れー!!」

 組み立て体操よろしくピラミッドを作って突進してくる彼に飛び乗り、蔦を足がかりに登ってはあっちをぽかぽか、こっちをぽかぽか。ひたすらに殴る。
「ちょ、止めろ! こら卑怯だぞ! 髪を引っ張るなーー!!」
 そして、上半身だけとなった霧雁自身にも直接攻撃。葉っぱは毟るわひっかくわでたまったものではない。
「なかなかの戦法だな」
 そんな彼を見つめ、リンスガルトの呟き。

「くそ、かくなる上は葉剣火輪!!」

 己の火遁と葉剣を組み合わせて、取り巻く子鬼達を打ち払う。しかし、その火を利用され、

「あ、駄目、それは反則だぞぉ〜〜〜」

 松明を持った一匹が彼の目の前で似たりと笑って体に点火。葉っぱの体はよく燃える。
 
「自業自得です」
「全くだな」

 そしてそれで最後だった。
「むむ、この役立たずが! このままでは終わらぬぞ!!」
 火傷を負う寸前で離脱し、準備した大凧に乗り換えると彼はそのまま消えてゆく。結局無理矢理友達計画の夢は潰えた様だ。
「隙あり」
 そんな彼に気を取られていた所を狙って動いたのは羅喉丸だった。いつの間にか暗黒の鎧を身に纏い、牌紋の元に迫っている。だが、もどきといえどオリジナルの性能を受け継ぐもの――。

   ギガガガガッ

 脳裏を掻き乱す様な激しい音声攻撃に辺りの者達を巻き込み接近を阻止する。
「我が女神よ、後方へ」
「うむ」
 そこで主を労わり盾となるべく現れたのはリンスガルトの妖・ネフェルト達だった。
 貴族出身の彼女とあってか配下とする妖も人型で美男子が揃っている。

「あれが消えた今、空を制するのは私です!!」

 そこで斑鳩が上空へ。見る限り自分以外に空を飛べるものは存在しない。子鬼に蠍…羅喉丸の妖が何であるか判らないが、今のところ自分が優位。例え小さかろうと威力は十分ある。首に巻いたマフラーをはためかせ、彼女は指示を出す。

「いきます! 丸焼きの炎!!」

 駱駝の口から吐き出される紅蓮の炎…それが地面にいる彼らを襲う。

「ほう、上級妖か。少しは楽しめそうだな」

 そう言って飛び出すネフェルト――素早く炎を交わし、跳躍の体制。だが、

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 それよりも先に動いた影があった。それは人とは思えぬ速さの羅喉丸自身である。

「俺には負けられない理由がある。この身を擲ってもなぁ!!」

 元武術家だった技を生かして、その速さは風の如し。ぐんぐん距離を詰めると身に纏った鎧が力を発する。
 そして、炎を諸共せず突っ込んで目指すは牌紋の元。驚異的な跳躍だった。

「ぐぎょおぉぉぉ!!」

 駱駝とその上の人影を拳が捉えて、勢いで押し切れば一瞬にして牌紋は瘴気へと還る。そのまま斑鳩に接近し、

「はぅぅ、食べ放題の夢がぁぁぁ」

 彼女も降伏宣言。
「次は誰だ」
 それを聞いて彼はくるりと振り返った。
 体からは黒い瘴気が立ち上り、なんとも異質な光景。残るは透子とリンスガルト。彼は瞬時に判断する。
(「大量の子鬼と数対の蠍人…。ならば今は」)

   ダッ

 地を大きく蹴り出し向かった先はネフェルトの方。軍団を潰すよりはまだ楽だと考えたらしい。
「迎え撃て、妾の美しき戦士達よ。民の平穏の為に今戦うがよい」
「ザシャアッ! 女神の願うままに」
 彼女を心から崇拝しているネフェルト達。数は五体…彼女を守るよう周囲に二名立ち、残りの三体が羅喉丸にダッシュをかける。その速さは羅喉丸に引けを取らない。
「くっ、やるな」
 それに言葉を漏らすも彼は三体相手でも互角の戦いを見せている。
 周囲から襲い繰るのは右手人差し指の長い爪――それがネフェルト最大の武器らしい。蠍らしく突き刺すような攻撃。その軌跡は常人には黒い光としか見えなかっただろう。
(「この鎧がなければ、俺も危なかったか」)
 内心でそう呟きつつ、反撃のチャンスを窺う。
「どうしました? 我々の攻撃に手も脚も出ないと?」
 だが相手は余裕を見せて、更に速度を上げ始める。
「ほらほら、脇がガラ空きです」
 そこで一体のネフェルトが挑発する。
「かかった!」
 そこでもう一体が特殊技。
「シャウラ・ヤフタレク!」
 狙うは脇腹――鎧ごしでどの程度効果があるか判らないが、それでも猛毒と高熱を帯びた爪で傷をつける自信はある。
「くっ」
 だが、その爪は掠っただけ…代わりに貰ったのは重い衝撃。かわすと同時に体制を下げて体を回転。三体を同時に足払いし飛ばして見せたのだ。
「きゃああ!!」
 いつもは毅然としているリンスガルトであるが、思わぬ事態に悲鳴が上がる。
「女神!!」
 守備の二人が身を挺して前に出たが、それは計算内。だが、
「お疲れ様です、リンスガルトさん。降参して頂けますよね?」
 どさくさに紛れて近付いていたらしい透子が子鬼を引き連れ彼女を囲み、降伏を促す。
「止む終えん…」
 その言葉に決着はついた。
「女神よ…我々が不甲斐ないばかりに」
 まだ戦えたと悔しそうにネフェルト達が言う。
「いいや、汝達は良く戦った。それに妾は汝達が無事ならそれでいい」
 そんな彼らを労わるように彼女はそう言って、戦場を去っていく。
「見事だ…お前は一時的にしろ上級妖を上回る程の瘴気を見に付けたのだ。俺達の、完敗だ。できれば勝って女神の目指す平和な世界を作って欲しい」
 立ち去り際にネフェルトが羅喉丸に言う。
「有難う…俺も願いは争いのない、誰もが笑って過ごせる世界を作る事だ。だから安心しろ」
「そうか、じゃあな」
 妖と妖術師――人に近い意思を持ったネフェルトとの約束。不思議な関係が生まれつつあった。


●第一回戦・白
 第一試合が終わって、次は白の第二試合。残りの面子が戦場へと降り立ち、もふらの合図で幕が開く。

「ふう―はは――! んでは出でませいっ我が最強の魔獣どもよーっ!!」

 ぶわっと自信満々に手を広げてまずは紫狼の召喚。黒い塊が三体並ぶ。

「殉でーす!」
「懲殺苦でーす!」
「…ニンージャハアットリ〜〜♪」
『えええええええーっ!!?』

 何処かの異国三人組かと思いきやヘンテコな落ちを繰り出して、そこには闇目玉の三人衆。ちなみに最後のは瘴痔というらしい。それが出揃うと、さっと一列に並んで、テンポをずらして円を描くように回転すれば、何処かの音楽グループのそれである。
「どうよ、これ! カッコいいだろう…ローリングウェーブだぜ」
 勝負だというのに意気揚々とそんなパフォーマンスを見せる彼。何処まで本気なのか怪しいものだ。ただ、一ついえるのはその呼び出した闇目玉を含め、皆ヤラシイ視線を抱いている危険人物だということだ。
「全くまた何を考えているんだか…」
 それに対抗するように、からすはぱちんと指を鳴らし羅刹妖兵を複数呼び出す。さっきの子鬼と違い、妖術・呪術を扱う鬼で頭も切れる。紫狼を前に警戒態勢を取っている。
「じゃあ私も」
 続いたのはエルレーンだった。炎を纏った火兎という妖は体長はおおよそ一メートル強…愛らしい姿とは裏腹に強力な跳躍と火炎攻撃を得意とする。
「どうよ、見た目だってかぁいいし! 私の火兎ちゃん達で、世界は貰っちゃうんだからね!」
 各々自慢の妖を傍に置き、出方を見る。
「はぁ…そんなものどこが可愛いんだか」
 そこにトカキがそっと加わる。引き連れているのは巨大な蜥蜴…それが彼の妖らしい。
「爬虫類こそ全て。誰がなんと言おうと可愛いです」
 蜥蜴の背に乗り、満足げに…なんだかこれでは戦いというより自慢大会である。
「それならヒダラシが一番だと思わないかね?」
 ぼんやりとした黒い霧が男を取り巻く。その霧は人型をしているようで、それは行き倒れや餓死者の成れの果てだとも言われている。
『いや、それは絶対に可愛くないから…』
 残りの四人が口を揃えて言う。
「ふむ、なら仕方がない。その身を持って判らせてやろう」
 アル=カマルの貴族風の風体で髭を生やしたどこか胡散臭い男・フルト・ブランド(ib6122)。
 そう言うとふっとヒダラシに息を吹きかけ、にやりと笑う。
「うわっ! 流れてくるぞ!」
 そう、そのヒダラシはただのヒダラシではないく霧状に変質し、空中を流れる事が出来るようだ。
「帰り打て、3馬鹿トリオ達!!」
 だが、それにも負けず積極的に出たのは紫狼。四人が集まって、じっと頭を抱えて…何をするのかと思えば上空に映し出されたのは大きなビジョン。そこにフルトらしい姿がある。けれど、
「いやぁ〜ん」
 映し出されていたのは顔だけフルトで下はナイスバディーな女性のもの。そして、その世にも奇妙は姿のフルトはあろう事かグラビア宜しくポーズを決め始める。
「それそれどーだ! もっともっとだ…俺のエロフォルダが火を吹くぜ!!」
 鼻の下を伸ばすだけ伸ばして、他の面子にも視線を向けて妄想を膨らませていく。
「ちょっやだ! やめてよ!」
「紫狼殿、いっぺん死んで見るかい?」
 女性陣はそのままらしいが、恥ずかしい姿に写し出される事に変わりはないらしい。
「胸ぺたであっても、俺の妄想は止まらないぜ…相棒」
 仲良く並んで闇目玉と共に…。ついには鼻血が止まらない。
「全く馬鹿ですか、馬鹿ですね。いいでしょう」
 トカキもその餌食にされて、顔は笑っていたが額には青筋が浮かんでいる。
「ここは一時休戦です」

   ドーーン

 そして、紫狼対四名の構図が完成した。トカキの蜥蜴が彼の行く手を塞ぐ。
「やっ、ちょっ、それずるくねぇ!!」
 その底知れぬ憎悪の視線に流石の紫狼も後退したが、
「誰が胸ぺたよ! やってお終い!!」
 エルレーンの火兎が炎を噴射。それを辛うじて避けても次の刺客。
「甘いよ、紫狼殿」
 彼の動きを止めるべく術を放ったのはからすの羅刹妖兵。束縛の禁呪が彼と闇目玉を襲う。そして、
「気持ち悪いのは頂けませんよ、紫狼…」
 ミストヒダラシが彼を捉えて、後は待つだけだった。
「……や、やばい。俺の妄想が枯渇していく…」
 闇目玉は消え、そこの残ったのは乾涸びた紫狼のみ。どうやら生気も全て吸われるらしい。
「一人落ちたもふ」
 それを冷静に見てもふらが言う。
「さぁ、他の方々もどうですか…虚脱の世界へ」
 ゆらりと立ち上って形作るのは人の姿――フルトのヒダラシが三人に視線を送る。
「面白い…やってみましょうか」
 それに答えたのはトカキだった。蜥蜴に指示を出し、ヒダラシではなく術者を狙い突進する。
「けれど、踏み込もうとする寸前で黒い霧がフルトの前に壁となり、直接攻撃を許さない。どころか、触れている部分から僅かながら瘴気を吸収されているようにも感じる。
「大丈夫か!」
 それに苦しむ己の妖にトカキが叫んだ。自分が愛して止まないこの姿が徐々に朽ちてゆくのは見ていられない。片足が消えた時、彼は決意する。
「もういい、降参だ」
 爬虫類の王国建設を夢見てきたが、それよりもまず彼を大事にしたい。そのまま背を向け退場の構え。だが、

「相手を変える」
 
 勝ち抜けは二名。フルトを執拗に責める必要はなく、残りの二人を狙えばいい。蜥蜴ではあるが鰐並みの尻尾の力を発揮して、エルレーンに飛び掛る。けれど、

「跳躍なら負けないんだからねー! 必殺・ひうさぎ・もふもふふとんむし!」

 複数一気に出現させて飛び掛ると、燃える体でトカキを封じ込む。

「蜥蜴の丸焼き、いっちょ上がりー♪」

 そして、彼女は勝利した。残るは三名――あと一人の脱落で決まる。
 ちなみにからすの羅刹妖兵は五体、エルレーンの兎は十羽、フルトのそれは不形態な為数えられない。
 霧と鬼…どっちを狙うか。どちらも難しいところではある。だが、彼女が下す事はなかった。

「私から行きますよ、レディ」

 紳士ぶった口調でフルトが先に動いたのだ。さっき同様霧がからすの元へ近付く。
 それを見て羅刹妖兵達が呪文らしきものを唱え始めた。すると、徐々に地面が輝き、出現したのは結界陣。いつの間にやらその準備をしていたらしい。地面には五芒星が描かれている。

「なんと、素晴らしい」

 それに敵でありながら感心してみせるフルト――神々しく輝くその陣に入ったヒダラシが一瞬にして消し飛んでしまう。
「どうかな? フルト殿」
 だが、それだけでは終わらなかった。
「ふふふっ、私のヒダラシがあれだけだとでも?」
 神出鬼没のそれは何処にでも召喚する事が出来る。しかも霧となって浮遊され陣の効果範囲外から攻められては対処の仕様がない。
「なにっ!」
 気付いた折には遅かった。背後を取られ振り返った先に黒い霧…それが彼女の顔を覆い、呼吸器から入り込むと生気や気力を蝕んでいく。

   がくっ

 そして、それまでだった。脱力して膝を付く頃にはもう動く気力など残っていない。
「世界は広い…また一から旅をしよう、私にはそれがあっている…」
 旅する妖術師からすはそういい残して、暫く目覚める事はなかった。


●スピード決着
 二戦を終えて――残った者、すでに旅立った者と様々であるが、次の対戦はどちらも早期決着となる。というのも対戦カードが最悪だった。

「友よ…俺はお前との約束を果たせるのだろうか…」

 それは昔の事――羅喉丸は親友の妖術師の護衛をしていた。しかし、彼は死に一人になってしまった。親友を守れなかった自分に出来る事。それは彼の意思を告ぐ事だったが、武術家としての力はあっても妖術師には敵わない。そこで彼も妖術師の道を歩んだのだが、残念ながら半人前……そこで彼は賭けに出る。残る手段は妖との融合。霧雁がやっていたのとはまた違い、彼の方法は更なる危険を伴う。

「さぁ、始めましょうか…」

 そんな彼の真意を知るよしもなくフルトが深々とお辞儀する。
 彼の妖の形態はさっき見ている。それは打撃攻撃を主とする羅喉丸にとっては不利なものだ。

(「しかし、やるしかない。これしか俺にはないのだから」)

 開始の合図と共に彼が呼び出したのは黒い鎧。それこそが彼の妖であり、力の源だ。妖の力を最大限に利用し、人の技を駆使して戦う。だが、全身を瘴気に晒す訳であるから自ずと体は蝕まれる。

「ほほぅ、捨て身のなんとかというやつですか」

 一直線に駆け出した羅喉丸とは対照的にフルトは動かず迎撃体制。大量の人型の塊が羅喉丸に近付き、纏わり着く。だが、彼は避けようとはしなかった。狙うは術者のみ――それが唯一の勝策だと信じて。
 下級とはいえ複数でかかられては体にも堪える。鎧はじわじわとヒダラシによって蝕まれ、まるで硫酸をかけられた様に解け落ちていく。それでも前へ。気持ちで進む彼に、たじろぐフルト。
「何をしている! 早く落としてしまえ!」
 動揺からか荒らげられた声に届くまであと少し。
「力をよこせ、そのためならばこの命、くれてやる」
 体中が悲鳴を上げる中、唯一彼を繋ぐのは気力。この一発に賭ける…その想いがフルトの傍まで彼を動かす。

「奥義・陰陽轟嵐撃!」

 声は確かにあった。しかし、放たれたその激しい連撃に手応えがない。そう、彼のそれはフルトには届いていなかった。フルトの僅か少し隣に拳圧でなのか抉れた地面が剥き出しになっている。
「ち、焦らせやがって…」
 ほっとするフルトの横で羅喉丸はゆっくりと地面に倒れ込んだ。身に着けていた鎧は消えている。
(「すまん、守れなかった…」)
 友との約束もネフェルトとの約束も…けれど、多分彼を責めてはいないだろう。


 一方、透子とエルレーンの戦いはまた違った意味で凄かった。
「貧乳同士、こんな場所じゃなかったら友達になれたかもしれないわね」
「私は別にまだ育ち盛りです。貧乳と決め付けないで下さい」
 どっちかというと元気なエルレーンにのんびりやの透子。なかなか見物である。両者己の妖を揃えて対峙する。
「そんな貧弱な子鬼達でどうするつもりよ。いいから降参しちゃいなさいよ? お子様は寝る時間でしょう?」
 確かに透子の願いは『畳でごろごろ』だったりするが、ここを勝たなくては意味がない。
「行きます、ゴロ寝の為に!!」
 そこで透子が動いた。実は彼女の子鬼ズ――色分けがされており、それぞれ勇者・戦士・武道家・魔法使い・僧侶っぽい編成となっている。そして、それぞれが判るように衣装も揃えて五体一組となって事にあたっているようだ。
「あの人はどうやら『貧乳』を気にしているようです。だからそこを攻めます」
 そう言って子鬼達に指示を出し、彼女に向かって言葉の一斉射撃を開始。

『ひんにゅー、ひんにゅー!』

 その言葉にエルレーンがカチンとこない筈がなかった。
「貧乳の何が悪いのよ…私が勝ったら巨乳税をかけて…世のイケメソ達を洗脳して、でかいのがいいなんて言わせない世界を作るんだからぁ!!!!!!!!」
 半ばやけくそ気味に願望を叫ぶ。
「悪いとは言いませんが、殿方はやはり大きい方がいいと聞きま…」
「くぅ〜〜〜子供だと思って優しくしてあげたのにぃーーー、許さないんだから!!」
 彼女の怒りは最高潮に達し、火兎達に炎攻撃の指示を出す。
 だが、そんな攻撃にも物ともせず。手にしていた耐火性武器入れ鞄を盾にして防ぐと、またあの言葉を連呼する。
「くぅ〜なんなのよなんなのよ!!」
 その言葉にちくちく精神を苛まれ、徐々に勢いを失くす彼女。
「そろそろです、留めの一撃!」
 そこでいつの間に用意していたのか知らないが、子鬼達の手にはバケツを握らせて。地面には穴…高速で穴を掘っていたらしい。そこから水を汲んで、
「それーー!!」
 透子の掛け声と共にぶっかければ、火兎の体の炎が消えたではないか。
「あ、やだ…消えるの?」
「自然の摂理ですよ。そういう訳で後はかかれー」
 炎が消えてしまえばこっちのもの。再び数の暴力に出た彼女は兎に登りぼかすか殴る。

「やーん、私の兎ちゃん達がーーっ! 参りましたー」

 半泣きになる彼女に頷く透子だった。


●決勝…そして
「……」
 透子の子鬼が勝つか、フルトのミストヒダラシが勝つかは五分と五分。
 個体と多少の知能がある子鬼が優勢? いや全てを呑み込み気を削いでしまうヒダラシにも勝算はある。

「後一つでごろ寝天国です。負けられません」

 いつになく意気込んで透子が言う。けれど、フルトは黙ったままだ。よく考えると何を求めていたか判らない。始めの合図を聞くと同時に、両者の召喚合戦が始まる。
「来なさい、ヒダラシの皆さん」
 声に応える様に地面から染み出す黒い影。対して、透子も負けてはいない。
「転寝(ゴロネ)戦隊ゴブリンジャーです!」
 次々と出現させて、色の面ではバリエーションの高い透子が勝っている。だが、
「枯れなさい…」
 先発早々、フルトが大技を繰り出した。片っ端から出現した子鬼達の生気を奪ってゆく。
「くっ、やっぱり厄介ですね」
 そういう透子であるが、対抗策が見つかっていない。しいていえば、やはり安い命は使い捨て作戦。相手の攻撃の波が収まるまで召喚を続けるしかない。問題は彼女の力が続くかどうかだ。
「ほらほらどうしました? 無理なさらないほうがよろしいですよ?」
 その作戦を知ってかフルトが余裕の笑みを浮かべる。やはり気体に近いヒダラシには勝てないのか。そんな空気が流れる。そこで考えたのは最終手段。

   ブォォォォォォォォン

 ほら貝を取り出し、透子がフルトを睨みつける。

「目には目を、歯には歯を…これぞ私の最終奥義!!」

 そして高らかにそう言うと子鬼達は各々ポーズを決めて、全方向に展開しチームで一斉攻撃をかけ始める。
「な、なにごとだ!」
 フルトの今日二度目の動揺。自分もヒダラシを守りの位置に展開し構える。
「素早く駆けるのです。いいですね! 何があってもあの人を捕まえるのです」
 地響きと共に怒涛の勢いで迫る子鬼達。ヒグラシの対応も間に合わない。それぞれの生気を吸いに入ってはいるが、勢いが早く止めるには至らないのだ。

「大将貰ったり!!」

 そして背後まで迫ると背中に飛びついて、彼の背負っている銃を奪い突きつけようとしたその時、

   ズドーーン

 その銃が暴発した。その暴発が運悪く透子の肩を捕らえて…時間が止まったように、辺りが静まる。蹲る透子に慌てる子鬼達。フルトでさえ動揺を隠せない。確かに降伏を促す為銃を背負っていた。だが、弾は入れていなかった。なのに彼女の肩からは血が流れている。

「勝者、フルト・ブランドもふ」

 そこで勝手にコールがかけられた。
 これで勝ったと言えるのか甚だ疑問であるが、手を挙げるよう指示をされ、されるがまま勝者コメントを求められる。だがしかし、彼は望みを言うよりもさっきの事が気になって仕方がない。

「どうして…」

 子鬼の手にした銃を奪い取り、中を確認する彼。やはり弾は入っていない。では、一体誰が?
 辺りを見回すが居るのは敗者となった妖術師と、そして――。

「あなたか…」

 その言葉にもふらが反応した。

「……ふっふっふっ、知らなければ勝者として君臨できたものを…おまえは馬鹿もふね?」

 いつもの愛らしさは何処へやら、黒い笑みを浮かべたもふらが彼を見つめる。
「あなたは一体?」
「我はモフ・ラー。あの手紙を送ったのは我輩もふ。我輩は偉大な神もふ…だから暇潰しにおまえらを戦わせたもふが、もう飽きたもふ。だから終わらせたもふ」
 悪びれる様子もなくさらりと言う。
「と言う事は世界を手に出来るというのは…」
「嘘ではないもふ。ただし、我輩の配下として働いて貰う条件付もふ」
「なんだと…」
 人の命をどう思っているのか、彼の中ではただの遊びだったらしい。その言葉に各々怒りが募る。

「今ここで成敗した方がいいのではないか?」
「食べ放題が出来ないならそれは悪です」
「そうだな…そんなもふらを野放しにしていては平穏な日々は過ごせないね」
「俺はどうでもいいが、女子ズがやるならもち手伝うぜ!」
「爬虫類命」
「こんなもふらはもふらじゃないわ!」

 居残り敗者組の意見が集い、見据える先はモフ・ラー。
 暗黒立ち込める神の楽間で集まった妖術師達の力が集結する。

『消え失せろ、身勝手神様!!!!!!!!』

 各々の残りの力を込めた渾身の召喚、それに続いてそれぞれの必殺技が唸りを上げる。

   ブォォォォォン

 とこれは透子の法螺貝。それを聞きつけてか一旦離脱しかけた敗者も戻り、よく判らないが憂さ晴らしとばかりに参戦して、

「私が封じている間に皆宜しく頼むよ、呪滅陣!!」
「ならば我から! 忍法・乱れ蔓!!」
「もう一発、放つ力を…陰陽轟嵐撃!!」
「牌紋もどき、やっちゃって下さい!」
「私のもふもふふとんむしもくらえーー!」
「妄想3DビームだZEEEE!!」
「爬虫類は最強だ…」
「枯らしなさい」
「秘儀・カルブ・アル・アクラブ・ヤフタレク!!」

 よく判らないものも混じっているが、全てを総動員した攻撃に慌てふためく神もふら。

「もっふぅぅぅぅぅぅ……」

 そして最後はそんな可愛らしい悲鳴を上げて呆気なく消滅…それと共に暗雲は晴れてゆく。
 世界を手に出来るという戦い――そんなものが数人の勝負で決まる訳がない。
 雲が流れた後には、いつもと変わらぬ太陽が今日も顔を出しているのだった。