【罠師】隠されし道の先
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/08 23:54



■オープニング本文

●地下へ

「ふ…ふははっ。やっぱり簡単には手に入れられないって事か。面白い…面白いぜ、コレ」

 仲間の視線を気にすることなく俺は笑う。
 俺がこの古地図を手に入れたのは一週間と少し前の事。そして、今その地図に印された場所に来ている。
 手に入れた時から胡散臭い奴らが俺を付け狙い、ここへ来る道のりさえ優しいものではなかった。正体の知れぬ相手への警戒を続けて…場所が陰殻だったという事もあってかこっちに入ったら更に緊張感が増したのは言うまでもない。けれどここまでやって来た。仲間の力もあって思ったよりも楽が出来たのは認める。
 しかしここからは、

「嫌な予感がする…」

 諦めるつもりはさらさらないが、この雰囲気は以前遺跡が見つかって同行を頼まれた時と同じ匂いがしていた。隠されるようになっていた階段への仕掛けもそうだし、下りた先には三畳程度の空間と厳重な石扉があり、発見者への警告めいた言葉も記されている。

『ここを訪れる者に告ぐ。己に自信がない者は即刻立ち去れ。今ならそれは許される…
 この先に進む者は覚悟を持って進むべし。例え何が起ころうとも…』と――。

 この言葉でさえ扉に記されていたのではなく、その狭い空間に入ってきた階段の一部に刻まれていたものだ。 

「いいぜ…やってやる。俺は死なんて恐くない」

 けれど、俺はむしろその不気味さがこの地図に真実味を与えてくれているようで俄然やる気が増していた。自然と笑みが零れて…後は普段通りの行動を開始する。
 石壁を隅々まで調べて、扉を開く為の仕掛けを探す。

(「かなり古い造りだけども…この手の扉はきっとこの辺に」)

 罠師の修行の折に一通りの遺跡やその手の造りの概要は記憶している。その知識を掘り返して、丁寧に調べていけばある一点だけ不自然な部分が見つかったりするものだ。

「よし、ここだ」

 壁面の一部にそれを見つけて指で押し込めば、若干の振動と共に正面の石扉が上へと開いてゆく。
 そして、さらに続く階段。

(「風は…ある。空気の心配はなさそうだぜ」)

 俺はそれを確認すると更に深くへと歩を進めた。


●追手
 キサイらがその場所に到着する頃、彼らを追う者達に新たな動きが見え始めていた。
「ほう…どうやら辿り着いてしまったようだ」
 彼らの偵察用に飛ばしていた人魂を通してそれを見た男は静かに言葉する。
「どうしますか? あれは我々が」
「まぁ、いい。場所はわかった…どうせなら全てを奴らに任せても構わない。大いなる遺産…それさえ手に出来ればあんな遺跡には興味等ない」
 だが、男は刺客を放っていたとは思えないほど落ち着き、今後の成り行きを見守るようだ。
「ただのガキだと思っていたが…ここはうまく利用させて貰おう。だが、中でどうなるかはわからん。追跡は怠るな、いいな」
「はい」
 『大いなる遺産』――あの地図にはその場所が書き込まれているという調べはついている。
 一体それがなんなのか? 彼らはまだ知らない。


 一方中へと足を踏み入れたキサイを待っていたのは巨大アスレチックの様なものだった。
「全く手の込んだ事をしやがる…」
 細い通路が続いて…そこを抜けると彼の前に見えたのは一本の釣り橋。
 あからさまに架けられたそれは朽ち果て所々板が腐っているようだ。地下だというのにかなり高さがあり、はるか下には水が音を立てて流れている。
 そして、さらにその先には辛うじて届くか届かないかの位置に巧妙に配された木の杭が立っているようだった。
「もし、あの中のどれかがダミーだとすると乗ったら最後か」
 橋を渡るのは造作もない事だが、その先何があるか。あの警告文が気にかかる。
 他にも一見自然の洞窟のように見えるが、壁側に目を向ければ嫌な穴やら天井には僅かな隙間が見え隠れし、いかにも何か仕掛けがあるような造りとなっている。加えて、
「入り口の獅子だけとは考えにくい…」
 多少なりともここには瘴気の気配を感じてキサイが呟く。
「仕方ない。一旦戻って作戦会議か」
 そう思い出ようとした彼だったが、階段を戻るとそこにはもう光は差してはいなかった。
 扉は固く閉ざされ、中からでは開けられないような仕組みになっているらしい。
「まぁ、予想はしていたけども……なんというか、まだまだだな」
 その状態にあっても彼は動じない。実はここへの護衛で同行した仲間に言付をしておいたのだ。
 もし、自分が三日経っても戻らなければギルドに申請を出して欲しいと。予め、依頼の内容は記していたし、事が事だけに一般の方には回さないよう言ってある。
「さてっと、帰れねーなら進むまでだけど…どうするかな?」
 腰のポーチから色々取り出し、彼は思案する。
 仲間の到着までに何か新たな発見をしておきたいと思う彼なのだった。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
郁磨(ia9365
24歳・男・魔
シーラ・シャトールノー(ib5285
17歳・女・騎
蓮 蒼馬(ib5707
30歳・男・泰


■リプレイ本文

●歯抜けの吊橋
 円滑にギルドの手続きは進み、キサイが待つ事数日で新たな仲間が馳せ参じる。
 だが、その前に一旦神楽に戻った者もいる。
 キサイが見つけた文献――そこに何か中の事について書かれていないかと考えたようだ。
 彼がいないのなら朋友を使っても支障はない。大した妨害もなくあっさりと戻る事が出来る。
「皇族の墓荒らし対策ならまだしも隠された物が『大いなる遺産』なら残し伝えるって事だから無作為に試練を設置しているじゃないかと思うし、きっと意味合いやそれを匂わせる様な記述が残されているはずだ」
 前回キサイに扮していた滝月玲(ia1409)であるが、今回は変装を解きその先に待つものに思いを馳せる。
「へぇ、それは面白そうですね〜。今からわくわくしますよ〜」
 その話を聞いて俄然やる気を出しているのは今回参加の郁磨(ia9365)だ。
 キサイと同行していた蓮蒼馬(ib5707)から文献の外見を聞き出して、その本を探すべくスキルを使う。
 そして、暫くの後彼らはそれと思しき本を発見した。
「これによると…あれですねぇ。ギルドが出来た後位に作られたみたいだ…」
 詳しい事は全く触れられてはいなかったが、年代と地図の製作者については僅かながら記載されている。
「あの地図はシノビの手によるものだったのか…」
 遺跡の場所が陰殻にあるのだから頷ける話だ。その他には判った事といえば、
「輝ける証…なんだろう?」
 謎めいた言い回しに首を傾げ、持ち出し禁止とあって郁磨はそれをメモしておくのだった。


「遅い…」
 そして、地下への道を開くと同時にキサイが仲間に言葉する。
「お元気そうで何よりです…」
 久し振りに会うのは柊沢霞澄(ia0067)――この件ではないのだが、以前彼女もキサイの遺跡調査に同行している。
「一応調べておいた事から言うと、この吊橋を渡るにはコツがいる」
「というと?」
 早速本題に入った彼にシーラ・シャトールノー(ib5285)の言葉。
「まず見ての通り大勢では渡れない…それに加えて踏んでいい足場と駄目な足場が存在する」
 それは予め彼がマーキングしているらしい。釣り橋の板には白い粉が振られている。
「距離、ありますね…」
 ちらりとそちらを見つめて、思わず霞澄の本音が零れた。どう見ても一歩では届かない距離…女性にはきつそうだ。荷物は最小限にしてきた彼らであるが、心配は尽きない。
「荒縄を用意している。これを命綱に順番に渡ろう」
 身軽な玲がまずは先に。その後に念の為キサイが続く。
 だが、次が続かなかった。彼女には珍しく好奇心を抱いてここに着た霞澄だったが、この恐怖に打ち勝つのは簡単ではない。
「……」
 下は激流――命綱があっても不安は隠せない。橋の手すりを握り締め躊躇する。
「大丈夫だ。前を見て少しジャンプするだけ…そうすれば俺達がちゃんと引っ張る」
 命綱を利用した飛び越え。普通に歩くだけでも軋む板を飛び越えなければならないとは頭で理解していても体が動かない。
「霞澄、神楽舞・攻だ」
「え…」
 その時唐突に投げられた言葉に彼女が目を丸くした。
「神楽舞・攻のあのステップ…あれで踏み出せば絶対届く」
 しっかりと彼女を見据えてそう言うキサイに彼女は後押しされて、そっと目を閉じ前動作。そしてたんっと軽やかに板を蹴り…その音と同時に二人が縄を引く。すると、
「きゃっ!」
 僅かに悲鳴は上がったものの、次の瞬間には歯抜けの部分を飛び越えて先の板に身を預けている。
「やれた…」
 ほっとする彼女に笑顔を返す仲間。
「へへっ、嘘も方便だぜ」
 そんな中、キサイは悪びれる様子もなくぼそりと呟く。
「おい、それじゃあさっきの…」
 それににやりと笑う彼に苦笑する玲…けれど、これも作戦のうちという事か。
「さぁ、次々…あんたも巫女だったんだろ? いけるよな?」
「はい、勿論ですよ〜」
 前職を言い当てられて若干吃驚した郁磨だったが、彼は男の子。この位は難なく渡りってみせる。
「さて、問題はシーラだな」
 残りは二名――殿を務める蒼馬はともかく騎士である彼女には鎧がある。そして盾も…身を守るべきものに足を引っ張られる可能性は大だ。

   ギィ ギィ

 一歩進む毎に軋む板。しかしさすがは騎士…多少の事では動じない。けれど、

   バキバキッ

 橋は悲鳴を上げた。老朽化に伴って安全であった筈の足場が崩壊したのだ。その拍子にトラップの板に足が触れて、

   ドドドッ

 何処からともなく放たれたのは三本の矢。不審な穴はこれの為にあったらしい。
「くっ!!」
 その場で必死に堪えるシーラだが、橋の揺れに回避行動は取れない。しかし、
「ちゃんと掴まってて下さい!」
 郁磨の声と共に援護のウィンドカッターが飛んだ。橋を切らないよう注意して、矢だけを打ち落としてゆく。
「有難う、助かったわ」
「いえいえ当然の事ですから〜」
 彼女の感謝の言葉に彼は爽やかに答えるのだった。



 吊橋を渡り切り小休止を取る中、次の難所を見つめ玲が思案する。
 足場となる杭に何か記されそれが暗号のようになっているのかと思っていたが、ここはそうではないらしい。
 忍眼でトラップを発見して、更に彼はいぶかしむ。なぜなら罠となる杭が少な過ぎるのだ。
(「これじゃあまるで…」)
「誘っている。それで合ってると思うぞ」
 心中の呟きに答えられて、玲はゾッとする。
「そんなに吃驚する事か? おまえもシノビだろ?」
 けれどキサイはそれが自然だと思っているようだ。
「さて、これも命綱で渡るとしてどうしたら良いのかな?」
 足場は片足が乗れる程度の小さなもの。さっきのように手摺もない。こうなるとバランス感覚が重要となってくる。
「霞澄、瘴気の様子は?」
 こちらに来てから何度か瘴索結界で周りを調べていた彼女に問う。
「下、みたいです…」
 その言葉に納得したように頷いて、
「みんな聞いてくれ…多分水の中にはアヤカシがいる。加えて、ここは一人ずつじゃあ渡れない」
 言うが早いか彼は手本を見せるように手近杭に乗って見せる。すると、ひゅっと小さな音がすると彼の姿はその場から消えてしまったのだ。慌てて下を覗き込めば、彼は杭の上に立っている。
「ようするにシーソーみたいな仕組みという訳ですね〜、面白いなぁ」
「ついでに連動式…玲、そこの杭に乗ってみろ」
 言われるまま玲が乗ればキサイは上へ。玲は下へと状態が逆転する。
「命綱はいいが荒縄二本と俺のこのマフラーを使っても全員分の長さは到底足りない。それに皆で繋げばリスクも増える」
 どの位の深さがあるかはわからないが、それは危険過ぎる。
「成程…この場合は命綱が命取りになるのか。やはり一筋縄ではいかない」
「ならチームを作るしかないわね」
 シーラの提案でまずは班分け。二人ずつで行きたいところだが、縄の数から二班に…シノビと女性二人が分かれるように考慮した結果、霞澄に玲と郁磨が…シーラに蒼馬とキサイが付く事となる。
「渡るだけでも一苦労ですからね、気をつけていきましょう」
「でゴールはあそこかしら?」
 彼らのいる場所から遥か先に見える色付きの杭。扉が無い以上それが何らかの仕掛けになっていると思われる。
「いけそうか?」
 再び杭を踏み玲を呼び戻したキサイの問い。それに皆が頷く。
 そして、一歩一歩慎重に――上下を繰り返して進む中、それは突如現れた。


●第二の刺客
 轟々と流れる水流から飛び出す小さな影。杭までは距離があると油断は出来ない。
 飛魚の様に飛び上がり、彼らの足元を狙う。
「くっ!!」
 それを咄嗟に背拳でかわした蒼馬だったが、すれ違い様に軽い衝撃。
「何ッ!?」
 足首に当ったのは一発の水弾――鉄砲魚のような攻撃も持ち合わせているらしい。その衝撃にバランスを崩して、このまま落ちれば残りの二人も道連れだ。苦し紛れに踏み出した先は残念ながら外れ杭。

『蒼馬さんっ!!』

 別働隊の三人も魚の猛攻をを必死にかわしつつ、声を上げる。
「くそっ!!」
 そこで彼は一か八かのの賭けに出た。とっさに水面に手を翳し、放たれたのは空波掌。

   ドーーン

 それが功を奏して、僅かに体が浮き上がる。
「今のうちだ、シーラ引き上げるぜ! そっちは援護を頼む!!」
『判った!!』
 小さな足場に両足を乗せて踏ん張るなど容易に出来る事ではない。そこで、

「それを足場に!!」
 玲が二人の杭に苦無を投げ打ち簡易的な足場を作る。
「下の方はお任せを〜」
 その間も飛び来る魚には郁磨がフローズで露払い。
 そして、間一髪落下は免れた。
 杭に抱きつく形で蒼馬の体を支えて…揺れが収まった所でキサイが乗れる杭の指示を出す。縄を手繰り寄せる事で何とか杭へと誘導して、ほっと一息。この遺跡の恐ろしさを身をもって体感する。
「すまない…」
 謝罪する蒼馬だったが、皆彼を責めはしなかった。水の中に瘴気を感じていたとはいえ、まさかあんな攻撃を仕掛けてくるとは誰が予想出来ただろうか。それよりも助かった事を素直に喜びたい。
「全く…やってくれるな」
 水際で牽制し虎視眈々と狙う魚を見つめ玲が呟く。
 場所はまだ半分も進んではいない様だった。



 蒼馬の転落から道は更に険しくなる。
 先に進むに連れて杭の位置は徐々に水流に近付き、さっきのアヤカシの妨害が激化したからだ。
「きゃっ!」
「大丈夫ですか〜?」
 怯える霞澄の小さな悲鳴に郁磨が手を差し伸べる。
 さっきのを教訓に皆魚対策を立てている。シーラ等は自分から盾で積極的に跳ね返し寄せ付けないよう努めている。
「さて、あの色の杭だがどうするか?」
 後少しでゴールなのだろうが、問題の杭は全部で八本。それが何を意味しているのか、流石にキサイにも判っていない。
 『多分、全部に乗ればいいとかだろ』そう彼は言っていたが、玲にはそれだけとは思えない。
「とりあえず調べてみるか」
 魚の強襲に耐えながら杭の近くまで来た彼が一旦命綱を外し、単独で杭に近付いてみる。
 すると杭の一部にはびっしりと文字が書き込まれているようだった。しかし、そのままでは読めないらしい。何か法則があるようだ。
「なんだか虹みたいですよね…」
 ぽつりと呟いた霞澄の一言――それに玲ははっとする。確かに言われて見れば杭の色は虹色に黒を加えた八色だ。ならば試しに杭に記されていた文字群をアーチになる様に読んでれば、なんとビンゴ。ちゃんとした文章になっている。
「キサイ、この杭の攻略方法がわかったよ」
 遅れて到着した彼らに玲が言う。
「全てを平等に…と言う事だ。つまりはこの杭を同じ高さにすればいいらしい」
 今ある色付きの杭の高さは全てばらばら。試しに彼が近くの青に飛びつけば今までの杭同様沈み、別の杭が上昇する。
「今度は色付き同士の連動か…手が込んでいるな」
「ふふふ、良いじゃないですか〜楽しいですよ」
 蒼馬の言葉に郁磨が続いて、
「とりあえず私はこれに乗ってみるわね」
 それぞれ近くにあった色付き杭に乗り様子を見る。
 すると今回は一定の法則で動いている事がわかる。それならば後は簡単。乗る順番を模索する。
「もしこれ人数少なかったらどうなってたんだろう」
 ぽつりと呟いた郁磨の疑問。しかし遺跡の主も考えている。
「それは乗る順番だから関係ないんじゃない? 黒がリセットを兼ねているみたいだしね」
 ちらりとそちらを向いて言ったシーラの言葉に成程納得。そして、正解の順を導き出し、新たな展開に発展する。


●何処までも続く

   ゴゴゴゴゴォーーーー

 突如響いた轟音は下からだった。
 一方方向の水流を成していた水が渦を巻き、今度は一点へと流れ込んでゆく。それと同時にあの魚達もその渦に呑まれてゆく。そして、水が退くと同時に再び轟音。それぞれの乗った杭が次第に下へと下がって行く。
「やったのか?」
 辺りに扉らしきものはない。見えているのはさっきまで足場にしていた聳え立つ杭だけである。
「あれは?」
 そこで玲は発見した。水が逃げていった穴の近くで光るそれを――。
 そして皆で駆け寄れば、そこには虎の彫刻。両眼には大振りの宝珠が使われているらしい。
「やったな!」
 そう言ってはみた蒼馬だったが、どこか腑に落ちない。
「これが大いなる遺産だと?」
 確かにこのようなサイズの宝珠付き彫刻は珍しく、さっきの水流を作る動力として使われていたのなら価値は高い。しかし『大いなる遺産』とい言うにはお粗末な気がする。
「何か取れそうだな…」
 そこに気付いて蒼馬がそれに手をかける。するとあっさりとそれは持ち上がり、その下にはメッセージ。
「困難に打ち勝ちし者達へ、新たな道を授けよう…地図を下に…残る道は後三つ…」
 文字を音読し、書かれた通りに地図を置く。
 すると宝珠が光り出し、古地図には一瞬にして新たな罰点が書き込まれてゆく。
「証ってこのスタンプですかね〜。他に無い様だし…」
 殺風景になってしまった遺跡を見回し、郁磨が言う。
「何だよこれ〜、馬鹿にしてるのかよっ!!」
 それに拍子抜けしたキサイが叫んだ。欠片ならまだしもこのサイズとなれば個人所有は難しく、一旦ギルドに届けなければならず、その後は国の管理物となってしまうからだ。
「まあ、仕方ないじゃない。それよりご飯…とはいかないけど何か食べないかしら。緊張の連続で疲れたでしょう?」
 落胆する仲間を元気付けるようにシーラは携帯していたクッキーを取り出す。
「はぁ〜〜〜、まだまだ続くのかよ。こうなりゃ意地でもやってやる!」
 嬉しさ半分、悲しさ半分。それでも達成感が無かったかといえば嘘になる。
 遺跡内で彼らは一時、その余韻に浸るのだった。


 さて、水が抜けたおかげで吊橋を再び渡る事はなかったが、水を逃がした穴からの脱出は困難なようで彼らは仕方なく崖に近い岩肌登りを余儀なくされる。
「そういや、あの扉は外開きだったようだが、どうした?」
 崖を登りながらキサイが尋ねる。もし閉まっていたら、別ルートの出口を探すしか無い。
「あの…それなら、大丈夫です。出られなくなったらと思い、楔を打って頂きました…」
 だが、心配は無用のようだ。体の弱い霞澄が蒼馬に背負われたままそう答える。
「へえ、やるじゃん。助かったぜ」
 それに感心し、先を急ぐキサイ。
「あ〜出口に追っ手がいるかもしれませんからね。用心深くいかないと〜」
 それに待ったをかけたのは郁磨だ。
「なら、私に任せて」
 そこでシーラ名乗りを上げる。
 ゆっくりと入り口だった扉を開いて、まず差し出したのは剣に玲の兜を被せたもの。念の為のそれを囮にして、相手の出方を見る。けれど、一向に動きは見られなかった。
「いいわ、行きましょう」
 それでも辺りを警戒し盾を構え――地上戻ると彼らを眩しい光が出迎える。
「とりあえずさんきゅ。後はギルドまで帰るだけだな」
 そう言ってほっとする彼らの頭上で、一匹の鳶がゆっくりと円を描いていた。