【猫又】最強最悪の酒
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/04 08:33



■オープニング本文

「ご主人っ!! 一大事にゃ! これは行くしかないのにゃ!!」
 いつものお散歩を終えて帰って来たおいらがご主人の背に飛び乗る。
 ちなみにご主人はといえば机に突っ伏してうとうとしていた最中だ。
「重いだろうが……で何が一大事だって?」
 体勢を変えぬまま首だけを少し動かして…何処までも動くのが嫌らしい。
「今ギルドに行って来たのにゃ。そしたらお酒が人を変えるっていう依頼があったのにゃ」
 この依頼ならばさすがのご主人も動いてくれるだろう。でないとそろそろお財布が寂しいのだ。
「酒が人を変える? 普通だろう」
 だが、帰ってきたのはそんな反応で…確かに意味合いからすれば普通とも取れなくもない。
 しかし、事態はもっと深刻だったりする。
「違うのにゃ! そのお酒を飲んだら強くなったり元気になったりするのにゃ〜」
 事件のあらましを思い出しおいらが言う。
「はあ? それは絡み酒というやつだろう? 騒ぐほどの事じゃない」
 けれど、ご主人は全く相手にしてくれない。お酒が絡んでいるというのに…気まぐれなものだ。こうなってはもう最終手段に出るしかないとおいらは思う。
「ご主人! 来てくれないと酒瓶割っちゃうにゃよ」
 机にあった酒瓶を酒質にして、やっとご主人は身体を起こすのだった。


 事件の概要はこうだ。一抹も贔屓にしている酒屋で事は起こっているという。
 新酒が完成し、売り出した事に始まる。今年の酒はまろやかな旨みの中にぴりりと効いた辛味が通好みに仕上がり、売り上げは上々。生産が追いつかず売り切れが続出、酒蔵の主人は生産を増やす為奔走したのだという。そして、安定供給が出来始めた頃、少しずつ変な噂が立ち始める。

「あそこのお酒を飲むと強くなれるそうだよ…」

 強くなるとはどういうことか? 勿論それを知らぬ者はそう問うだろう。

「なんでも昨日までなよなよしてた人が飲んだと同時にみるみる力がついてさぁ。
 喧嘩もからっきしだった男が武道大会で優勝までしたんだとさぁ」
「私は病床についていた爺様が最後にと奥さんに頼んで買ってきて貰ったその酒を飲んだら
 生き返ったようにぴんぴんしだしたとか聞いたよ…」

 話によってまちまちで飲んだという人全員がそうなっているとは限らないらしい。
 きっと酒に酔った勢いで何かに目覚めたか? はたまた噂によくある尾鰭がついた誇張表現に過ぎないだろうと主人は余り気にしなかったのだという。だが、その後起こった事態を知っては目を瞑る訳にはいかなくなる。

「前言ってた人…亡くなったみたいだよ。病気も何も持ってなかった筈なのにおかしいねぇ」
「爺様も逝かれたそうよ。他にも何人も……なんだかあのお酒怖いわぁ」

 その酒を飲んだ人の極一部らしいのだが、超人的な変化があった者はその後数日中に痩せこけて木乃伊の様な状態になって亡くなっていると言うのだ。

「一体どんな材料を使っているんで? まさか毒薬でも」

 売れ行きを妬んでなのか、そんな事を言いに来た同業者もいる。
 しかし、思い当たる節はない。材料は健全なものを使っている自信がある。それに彼も何度か味見をしているが、特に変った症状はない。けれど噂が噂を呼び、

「あそこの酒は呪いの酒だよ。絶品だが命と引換には出来ないねぇ」

 死の酒として新酒の噂は広まり、他の酒への信頼も急降下。店を閉めざる負えない。

「私は何もしていないんだ…普通に酒を造り、売り出しただけ……」

 そう訴えたが、死者が出ているだけに聞く耳を持って貰えない。従業員にお暇を出して酒の調査を始める。
 けれど、どれを飲んでも味に変わりはなく、どうしてこうなったのか検討もつかないという。


「成程…体調を崩して閉めていた訳じゃなかったのか…」
 その詳細を知り、ご主人が呟く。
「どうにゃ? ご主人の大好きなお酒がこんなことを巻き起こしてるにゃ。ここは解決しないといけないと思わないかにゃ?」
 正直な所を言えばアルコールの匂いを直で嗅ぎ続けるのは辛いものがあるが、ここは選り好み出来ない。ぐっと我慢する。
「その酒どんな味か…俺も飲んでみるか」
「え…」
 ご主人の呟きにおいらは困惑するのだった。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
若獅(ia5248
17歳・女・泰
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
スレダ(ib6629
14歳・女・魔
和亜伊(ib7459
36歳・男・砲


■リプレイ本文

●毒見
   がらっ

 引き戸を開けて中に入るとそこには麹の香りが漂っていた。
 噂が立ち始めてから早数週間――けれど長年染み付いたその香りは容易に消えるものではない。
 そして、そこに並ぶのは大きな酒樽と綺麗に洗われた数々の道具。きちんと整理されたそれらは、この店の性格を物語っている。

「おや、あんた開拓者だったのかい?」

 調査の依頼を受けて訪れた者の中に一抹を見つけ店主が思わず目を丸くする。それもその筈、見た目では判断がつきにくい男である。

「いーい? 神音はまだ神音の猫又のぼーいふれんどになってもらう事諦めてないからね」
「そうなのにゃ? おいらまだ考えた事もないにゃよ?」

 その後ろでは何やら賑やかな声。その主を探れば若獅(ia5248)に抱かれたポチとそれを横で見つめながら話す石動神音(ib2662)の姿がある。

「おいらはご主人一筋にゃ!」
「へぇ、ポチは相変わらず忠猫だなぁ」

 そういうポチに若獅が感心の声を上げ、思わずぎゅっと抱きしめた。

「えーそれとこれとは話が別だよー」

 たがやはり神音は諦められないようで頬を膨らませている。

「あの、彼女らも?」

 その様子に怪訝な顔を見せた店主だったが、

「超人になった後死ぬ酒ってのはどれだい? 早速頂いてみたいんだけどねぇ」

 そう言う不破颯(ib0495)の言葉によって気を取り直し例の酒を取りに走る。

「さて、その間に…」

 それを見送って、颯は弓を下ろすと徐に弦を弾いてみせた。すると弦は大きく震え――しかしそれだけだ。

「アヤカシはいないみたいですね」

 その行動にアーニャ・ベルマン(ia5465)が答えを出した。実は彼女も同じ事を実行していたらしい。弓術師のスキル・鏡弦――もしここにアヤカシが存在したならば、共振し何かしらの反応がある筈なのだ。

「ま、いないに越した事はないからねぇ…いいんじゃないの〜」
 
 そんな彼女にへらりと笑って見せてさっきの真剣な顔は何処へやら、いつもの彼がそこにある。それと同時に店主が問題の酒を運んできた。ちなみに天儀で酒は十四から…残念ながら神音とスレダ(ib6629)は飲む事が出来ない。残りの面子も皆飲んでしまっては共倒れとなる為、ここは希望者を募る。

「風安さんもお酒を飲むならご一緒しましょう」

 そこで名乗りを上げたのは颯、アーニャ、一抹の三名だった。店主の御酌で曰く付きの酒を口へと運ぶ。

「大丈夫かにゃ?」

 ポチが三名を心配げに見つめて――勿論残りの面子にも緊張は走る。静まり返った酒蔵に響いたのは喉を通る僅かな音。しかし、

「……ぷは〜、こういう時は五臓六腑に染み渡るっていうのですよね。なんかおつまみが欲しくなりました」
「いや〜確かにいい酒だねぇ。噂に聞いた通りぴりりと効いた辛さがたまらないよ〜」
「成程、まずまずだな」

 各々そんな感想を漏らし、一抹などは御代りを要求している。

「何と言うか、おめーら普通に楽しんでいるよーですが…肝心の味に何か違和感ねーですか?」

 その様子に呆れた顔でスレダが問う。だが、やはりさしたる異状はないようだった。げんに店主も同じ酒を飲んだというが今もぴんぴんしている。それでもやはり気にかかったようで、彼女はその酒を桶に取り出して何やら手を翳してみる。

「それは?」

 その行動を覗き込んで羅喉丸(ia0347)が尋ねた。
 彼も酒自体への異物の混入を疑っているらしい。依頼書には同業者からの妬みに似た声があったと記されていた。つまりは店主が損をして誰が得をするかと考えたようだ。アヤカシの関与が無いとすれば、自ずと犯人はその辺の嫌がらせに絞られる。だが、翳した手はぼんやり光っただけで酒自体に変化はない。

「勿体ねぇ事を…」

 それを見つけて出された酒を飲み干したらしい一抹が桶奪い取るが、中身が水になったとこを察知して呟く。
 キュアウォーター…彼女は酒に不純物が入っていないかを調べる為そのスキルを使い、何らかの手ごたえがないか調べていたのだ。けれどこの反応だと水になっただけのようだ。

「とにかく手分けして詳しい裏付けに当ろう。何か見えてくるかもしれない」

 そもそも噂の真相はどうなのか。店主から今までの経緯を再度聞いた後各自別行動を開始する。

「さて、じゃあ俺はここを調べるか…」

 若獅はにこりと笑ってポチを下ろして店主の下へ。
 するとそこには先に話し込んでいる和亜伊(ib7459)の姿がある。

「なあ、もしかして麦角菌(ばっかくきん)って使ってねぇか?」

 そう問う彼に未だ毒見を続けていた一抹の眉が僅かに揺れた。


●駆け巡る推理

 店主の話を聞いた後、噂話の件を仲間に任せて図書館に向かったのはスレダである。
 片っ端から図書館にある酒が関わる書物やら呪術の本を集めて、似たような症状を発生させる呪いやアヤカシがいないかフィフロスを使って調べる。

「なかなかに面倒な作業ですが、解決しねーと職を失って食い扶持稼げなくなってしまうですからね。何とかしてやるしかねーです」

 その言うが数は膨大――しかし地道にやるしかない。とは言ってもあるものと言えばその多くは酒造りに関するものばかりで、事件性があってもただ単に近くで火事が起きたとか、麹が腐っての管理ミスによるもので的外れ。薬効によって活力をつけるというものはあっても、その後木乃伊になって死ぬなど前代未聞だ。

「さっきの酒には何も入ってなかったです…」

 毒でない。ならば他に考えられるのは、

「呪い、抵抗力、そして…」

 飲み合わせや抗体反応という意見も出ていたか。その事を思い出し、彼女は調べる本を追加するのだった。



「麦角菌、確かそう言ったな。なんでも麦が黒く変色し、黒い角が立つ麦の病気らしくて…そいつやそれで作った飲食物をうっかり口にすると、幻覚見た後死んでしまうってぇ話だったと思う。もし麦を使ってるならそれとは考えられねぇか?」

 いつか読んだ本の内容を思い出し亜伊が問う。

「それは違うな。これは米だ」
「え…」

 だが、その意見はいとも簡単に一抹の言葉によって否定された。

「すいません。確かにうちの原材料は米ですからそれではないかと…」

 それに続いて申し訳なさそうにいう店主に彼も苦笑する。

「あはは〜…俺の線はどうやらハズレだったっぽいな。とするとやっぱり同業者かアヤカシか」

 曖昧に誤魔化して徐に銃の手入れに入る彼。場所は酒蔵…もしここで戦闘になれば自分の得物が濡れてしまう。耐水防御は必須と言う訳だ。

「なぁ、主人。さっき生産を増やす為別の場所に新しい酒蔵を設けたって言ったが、道具はどうしたんだ? それにそもそも酒って一ヶ月かけて作るもんだと聞くが、早めて作れるものなのか?」

 事件が起こり出した時期と生産を増やし始めた時期が合致するのは偶然ではない。そう見ていたのは若獅だけではないが、スレダは別行動を取っている為彼女が聞く。

「あぁそれなら答えは簡単。あれは生酒なんです。一般的な清酒は火入れや熟成を経て瓶に詰めるんですが、生酒はそのまま出します。従ってその分賞味期限は短くなりますが、風味を生かすにはこの方法が一番なんです」

 雑菌の繁殖を抑える為の火入れと味に深みを与える熟成――この工程が無いだけで酒造りはかなり短縮出来るという。

「じゃあ人は? 新しい人を雇ったりしたんじゃないのかい?」

 同業者の内通者がいればこの期を逃す筈がない。そうでなくても買収して何か仕込ませたという線も考えられる。外からは別の仲間がそれを探っている。

「それについては心配ないかと。確かに増やしましたが、どちらも仕込みや重要どころではうちの古株…つまりは信用の置ける方々にお願いしましたから」

 その手の事も警戒して抜かりはないようだ。ならば、

「道具の方に不審な点は?」
「さぁ? それは従業員達に聞いてみないと判らないが代々お世話になってる店を利用しているし、チェックした時は何も」

 一体何が原因か? まだ判らない。


「お邪魔しまーす」

 神音の挨拶が木霊するここは従業員達が住んでいる長屋である。

「別に仕込みの材料に関しては本店と同じ物で工程もそのままだったよ。しいて言えば、あそこは風通しが良かったからねぇ。風邪になった者が多くてこの有様だよ」

 寝巻きを着たままの男が苦笑する。

「あそこってもしかして新しい蔵の事?」
「ああ、どういう訳か次々と風邪にかかってねぇ。若い者もいちころ…ついでに長引いてて困ってるよ」

 そう言えばこの前に訪れた家でも似たような光景を目にしており、疑問に思っていたところだ。

「おにーさん、ここら辺の従業員さんは皆新店で働いてたの?」

 そこでそれを尋ねたら答えはイエス。何か怪しい気配が漂い始める。
 そこで彼女は飛び出して、奉行所に裏付けを取りに向かった羅喉丸の元へと急ぐ。すると丁度出たばかりの彼に出くわして、ライバル店への調査に向かう道すがら情報交換に入る。

「成程、新店か。やはり何かあるな」

 その事を聞いて彼はそう呟いた。どうやら何か心当たりがあるらしい。

「どういうこと?」

 彼女の問いに彼も口を開く。

「いや噂は確かに本当だった。その時の聞いた話によれば被害者の酒の購入先は新店の方だったと言う事だ。それともう一つおかしな事がある」
「何?」
「なんでも元気になった筈の者達の目は虚ろだったそうだ。まるで体と心がちぐはぐに動いているような…」
「ちぐはぐ?」

 活力を得た筈の人間が虚ろとはへんな話だ。それが糸口になるかもしれない。

「まあ、じき判るだろう」

 羅喉丸はそう言って着いた店へと入っていくのだった。


「おおっ、残っている所があったとはな。どれ一杯…」

 一方聞き込みに共に動いていたアーニャと颯はやっとこ死者の残り酒とご対面。
 やはりどの現場も気味悪がってすぐに中身を捨ててしまい、残っていなかったのだ。

「匂いよし、色よし、アヤカシ反応なし」
「ほんじゃあ頂きます」

 一通り確認を終えて二人は乾杯、まずは颯が酒を口に運ぶ。

「おいおい、まじかよ…」

 そう周りが言葉したが、

「多分大丈夫でしょ。もし倒れても彼女がいるしね〜」

 と気にせず毒見。すると何処か生理的な部分で体が拒否反応を示して、

「ん〜なんだぁ、この違和感は…」
「何かありましたか?」

 僅かに口に含んで見たが、味自体に大きな違いはない。だが、さっきの違和感は未だ拭えない。その正体が何であるか二人にはまだ判らなかった。
 

●結論

「真実はいつもひとつ、じっちゃんの名にかけて、さくっとまるっとお見通しだーー!!」

 少し赤い顔でアーニャが言う。
 死者の酒…あれを飲んでから僅かに二人の様子はおかしい。

「二人とも大丈夫?」

 それを心配して神音が言う。

「少し頭がぼーとするだけだからねぇ。酔ったのかも知れないなぁ」

 相変わらずのへらり顔であるが、実は彼らを小さな頭痛が襲っている。

「とりあえず全てはここだな」

 眼前には新店の酒蔵。話を合算した結果ここが一番怪しいと言う事になったのだ。

「さて、何が出るですか?」

 スレダが灯りを掲げて中へと入る。そこは本店同様静まり返っており、背の高い酒樽が皆を圧迫する。

「え〜とここでも毒見を…」
「待て」

 ふらふらと酒樽に近付く颯を羅喉丸が制した。
 入ると同時に感じたのは重い空気――それが何なのか開拓者なら嫌でもわかる。

「瘴気にゃ?」

 肌でそれを感じてこれはポチ。

「じゃあアヤカシも?」

 そこで何とか弓術師の二人が鏡弦を発動してみたが、どういう訳か反応を示さない。

「どういうことですか? こんなに瘴気を感じるのに」

 いぶかしむ一同は二人を最後尾にすえ調査に入る。ここは閉店した時のままらしく、酒樽には酒が残っているのかほのかに香っている。

「言っても仕方ねぇが巫女が欲しかったな」

 瘴気の探知は今の面子では出来ない。感覚だけを頼りに濃い場所を探ってゆく。
 そして、何個目かの酒樽を開けるとそれはあった。
 梯子をかけて中を覗けば底板が黒く染まり、一際気分を害する空気が流れてくる。

「原因は判らねーですが、ここに瘴気が溜まっているという事ですか?」

 見つめる先にあるものがそうであると確信はできないが、そう説明する他ない。

「アヤカシとなる前の瘴気の塊…何処から流れ込んだんだか」

 風通しが言いとはいえまさか? しかし、目の前の現実はそれを物語っている。
 それに颯とアーニャ、そして従業員達の症状が瘴気感染からだとすると説明がつく。風邪のような症状は初期感染では見受けられるからだ。

「ちっ、仕方ないです。私がこれを戻しておいてやるです」

 そう言ってスレダは酒の浄化を。底板から酒に瘴気が染み出したというのが解答らしい。酒自体は水になっても樽の黒ずみは消えない。アヤカシならまだしもこの状態で彼らにもう出来る事は残されていない。他の樽も調べて…原因は樽にあったと告げると翌日には巫女が手配され、浄化をした後破壊する事となる。
 そして、その作業は神音と羅喉丸が受け持つ事となった。
 その後はスレダの提案で事実が公表され、この店自体には非がなかった事が明らかとなる。後から判った事だが、樽の卸問屋も白。どうやらあの場所自体に以前何かあったらしく瘴気が溜まり易くなっていたらしい。非があるとすればそれを知らずにそこに酒蔵を作ってしまった事がこの事件発生の要因だったのではないかという。

「瘴気に精気を持っていかれた…と言う事ですかね」

 アヤカシとならずに済んだ代わりに木乃伊死体となった。酒に含まれてしまった瘴気を摂取した事による異常反応だったのだろう。まだ瘴気については謎が多いようだ。 

「皆さん、とりあえず有難う御座いました! これでまた酒造りが再開できます!」
 お客の戻りまではまだ時間がかかるがひとまず事件は解決し、そこには前向きな店主の姿がある。

「ま、まずは従業員達の療養だね」
「はい。お二人さんも大丈夫で?」

 少なからず死者の酒を飲んでしまった二人に店主が尋ねる。

「あぁもうすっかりだよ〜。いや〜今回は参った参った」
「少し吃驚しましたけどね」

 その問いに二人は笑顔で答えて、

「あの、それで…もしよろしければこれを」

 そんな二人には少し遠慮気味に店主が徐に取り出したのは酒蔵に余っていた酒だった。

「勿論これはこっちで作ったものですから問題ないと思います。しかし、お客には出せませんし、しかし捨てるのは忍びなく…」

 困った顔で店主が言う。

「なら遠慮なく貰おう」

 そこで先陣を切って動いたのはやはり一抹だった。
 タダ酒が貰えるなら好都合とばかりに手を伸ばす。

「ご主人〜」

 そう言ったポチだったが、

「やったー、ありがとだよ」
「うちには酒好きの人妖がいる。有り難い」

 と続く仲間を前に驚きながら各々土産を手に家へと帰ってゆく見送って、彼も一抹の後を追いかけるのだった。