【罠師】古地図の印す先
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/16 07:47



■オープニング本文

●序
「なあ、おっさん…この地図は何だ?」
 それは本当に偶然だった。
 いつものようにふらりと立ち寄った骨董屋――別に骨董品に興味がある訳じゃない。
 ただ罠師の癖なのか、ついつい道具になりそうな物を探してしまい、気付けば店に入っていたのだ。
「ああ、あんた若いのにそんなもんに興味があるのかい?」
 俺の声に気付いて、気立ての良さそうな主人が顔を出す。
「別にいいだろう…で、一体この地図は何なんだよ」
 紙が普及していると言うのに皮に記されたその地図は思いの他古めかしい。天儀本島のみを記した地図だが、それは驚くほど精密で何か異質な雰囲気を有している。
「何ってただの地図だと思うよ…」
 しかし、主人はそれに気付いていなかった。ただの皮切れよりも壷や茶碗の方が高く売れるとあって、そちらにかかりきりの様だ。
「じゃあ、この罰点は何だよ?」
 俺が見つけた地図にある印――それに視線を落としてぼそりと呟く。
「あぁ、それかい。それは多分子供の落書きだと思うよ」
 その印について主人の見解。確かに雑に記されているが、これが落書きとは思えない。
(「落書きだと? 馬鹿いえ…これはきっと」)
 皮に染み出した色の具合からして地図の制作と同時期についたもの。ともすれば、何らかの意図を持って記されたと考えて間違いない。
(「まさか、宝の地図だったりして…」)
 俺の脳裏に導かれた一つの可能性。子供染みた考えだとは思うが、決して否定は出来ない。
「おっさん、これいくらだ?」
 間違っていても構わない。たかが古地図一枚だ。そう高くはないだろうと高を括って、俺は早速交渉に入る。
「ああ、じゃあ…そうだな。三千文でどうだい?」
「はぁ!?」
 主人の答えに俺は思わず聞き返した。三千と言えば刀一本買える値段だ。
「ちっ、大きく出たな…おっさん」
 にじり寄る様な視線を返して俺が言う。
 さっきまでは愛想が良さそうだと思っていたが、やはり彼も商売人。俺が目を付けたものだから、どうせ売るにしても少しは高く売りつけてやろうという欲が出てきたらしい。
「こんなもん、普通は五百がいいとこだぜ…吹っかけ過ぎだろうが」
 こういう時は熱くなった方が負けだ。罠にかけるプロとしてもここは話術でさえ負ける訳にはいかない。平静を装い、彼との交渉に入る。
「いえいえ、落書き入りとはいえ精密ですから…」
 そう言う主人と俺の駆け引きは既に始まっていた。


●謎の刺客
「はあ〜、やったぜ。ざまぁみろ…」
 日は暮れてまったが、なんとか地図を三分の一の値段で手に入れて…俺は宿の一室に腰を下ろす。
 冷静になってみればここまでするほどのものだったのか疑問が残るが、やり切った達成感は悪くない。
「けどたかが地図に時間かかり過ぎたぜ…」
 旅を始めてからこっち色々あったが、まだまだ精進が足りないようだ。

   カタンッ

 ――とそこに不審な物音。緊張が走る。
(「鼠か? いや、違うな…」)
 即座に超越聴覚を働かせ、物音の出所を探る。
(「呼吸音…人か」)
 聴覚を極限まで研ぎ澄ませれば、部屋の外には気配が五つ。明らかに俺の部屋の前のようだ。
「男は殺しても構わん。とにかくアレを奪い取れ」
 小声で囁かれた言葉に息を飲む。
(「へえ、まさかまさかの本物か?」)
 おそらく狙いはこの地図だろう。この街に入って買ったものと言えばそれくらいだし、ここまでの道のりでこのような事は起こっていない。ならば、やはり――。

   だんっ

 その瞬間、激しくドアが突き飛ばされ雪崩の様に入ってくる男達。
(「けっ、甘いんだよ!」)
 だが、俺は勿論そこにはいなかった。素早く天井裏に移動し、部屋へと煙玉を放り込む。
(「へへ…面白い。早速これの事調べてみないとなあ…」)
 俺は地図の握り締め、ひとまず夜の闇へと姿を消すのだった。


 ――だが、
「全くしつこい…」
 地図の場所を目指そうと動き出した俺だったが、次の宿までも移動する事叶わない。
 どうやって先回りしているのかわからないが、そこやかしこで気配を感じ思うようには進めないのだ。
(「折を見てギルドに護衛を頼むか…」)
 例え罠師といえで一人で出来る事には限界がある。相手をうまく捕らえたとしても、また次が沸いてくる以上どうどう巡りもいい所だ。
(「地図の事も詳しく調べたいし、協力者は必要だよなあ」)
 路地裏に隠れて俺は決意する。
「よし、今だ…」
 そして、追手の目を盗んでギルドに駆け込む俺なのだった。


■参加者一覧
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
シーラ・シャトールノー(ib5285
17歳・女・騎
蓮 蒼馬(ib5707
30歳・男・泰
春吹 桜花(ib5775
17歳・女・志
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫


■リプレイ本文

●下準備
 ギルドの待合室にて半ば緊急で集められた開拓者は計六名。
 急ぎの用件とあっては仕方がない。相手が気付いていないうちに行動の打ち合わせに入る。
「まずは…キサイは罠師なんだろ? そこで頼みがある」
 古地図を前にして笹倉靖(ib6125)の頼み…それはずばり偽地図の作成だ。相手をはめる為に…そして、万が一の時にもフェイクがあれば何かと役に立つ。問題の場所までここ神楽からは最低でも三日はかかる。それに加えて、地図の情報を確かめる為キサイは図書館への寄り道も希望している。
「それとキサイさんには変装をお願いしたい」
 すると今度は滝月玲(ia1409)が言葉した。勿論それは彼を特定されない為の策だ。
「図書館を経由して動くに当たって七人でぞろぞろ歩くのは不自然ですしね。ここは、二手に分かれましょう」
 人数的なリスクは伴うが、うまく囮にかかってくれれば多少は安全に調べ物が出来る。長谷部円秀(ib4529)の言葉に皆が頷く。
「わかった。で連絡手段は?」
「それは俺が…。つかずはなれずの範囲内で最低限の連絡を超越聴覚でやりとりしてはどうだろうか?」
 キサイとはシノビ同士という事もあってここは玲が受け持つようだ。
 班分けに対してもそれは考慮されて――囮班に玲、円秀、靖が…調査班に残りのメンバーが配置される。そして、まずは必要な物の準備に入る。その間キサイはと言えばギルドに籠り地図を作成。
「うまいものだな。罠師と言うのはそういう事も出来るのか?」
 余り馴染みのない職業に興味を持った蓮蒼馬(ib5707)が作業中の彼に尋ねる。
「少しコツがあるんだ…皮だから写し難いがそれさえ終われば後はちょろい」
 そういう彼であるが、蒼馬から見ればそう簡単に出来る技とは思えない。
「キサイ、もう一ついいか?」
 とそこへ再び靖が現れて、何やら耳打ちするとキサイもそれに同意したようだ。
 その後方では彼の動きを観察する円秀の姿がある。
(「今のうちに理解しておきませんとね」)
 彼はそう心中で呟き、出発まで観察を続けるのだった。


「私が見張っておくからそのうちに…」
 一般の客も利用しいてる図書館の入り口付近でシーラ・シャトールノー(ib5285)が言葉する。本音を言えば入りたいところだが、ここは我慢だ。
「なら俺も待っておこう」
 それに続いて蒼馬も残るようだ。囮は既に街道を進んでいるが油断は出来ない。
「なら、あっしが隣でキサイのあんちゃんを守るでやんすよ」
 古地図への浪漫を膨らませ、この期にじっくり調べたいと思うのは春吹桜花(ib5775)だ。キサイの腕を取り入ってゆく。そして、彼の指示の元資料を集め個室を借りる。
「この地図自体に何か仕掛けがあるとは考えられないでやんすか?」
 そして、入るや否や皮の地図を手に取り透かしてみたり引っ張ってみたり。
「多分それはないと思うぞ。なんたって皮だし、それに実は…」
 そう言いかけたキサイだったが、あるページを前に言葉を失くす。その様子に気付いて視線を辿ると、そこには心躍る言葉が記されている。
「大いなる遺産でやんすか? これがどうかしたでやんす?」
 彼が何を見てそうなっているのか判らず彼女が問う。
「これだよ、これ。この地図見た時から妙だと思ってたんだ…無駄に手の込んだ模様だろ?」
 彼は地図を囲むように描かれた模様を指してそう告げて、次は文献の朱印に移動させる。するとそこには細かな模様が描かれ、それが地図のものと同一のようだ。
「って事はこの地図…」
「間違いない、本物だ」
 にやりと笑ってキサイが答え、ページを捲る。だが、
「怪しいのがいる…大事を見てここを離れた方がいい」
 シーラの報告を受けて蒼馬が二人に移動を促す。
「ちっ、早いな」
 キサイがそう舌打ちしするが、
「こうまでして欲しがるということは…実は自分達が書いた恥ずかしい詩を埋めたとかでやんすかな?」
 こんな状況をも楽しむような桜花の一言に思わず笑みが零れる。
「早くこっちへ…図書館の人に掛け合って別の出口を案内して貰ったわ」
 そこへシーラも合流し、素早くその場を後にするのだった。


●道のり
 初日の移動を終えて――両班共に宿を取る。気配こそすれ人通りが多い所では無茶な戦闘を仕掛けてこないのが有り難い。それもそのはず、相手はキサイを特定できていないようだ。
「一体どっちだ?」
 食堂に入った囮班を尾行する男が思案する。円秀と玲…二人は共にキサイらしい変装をして、ギルドを出発したのだ。
「キサイ、明日はあれを調べる為に早く出よう」
 そう言う靖に二人が頷く。
(「仕方ない…数を揃えて明日出直そう」)
 男は考えた末、その結論に達しその場を離れていく。それを察知し、キサイらが囮班と情報を交換する。
「明日はこちらが図書館に出向いてみる。ついでに敵とも接触する」
「あぁ気をつけて」
 二人の会話はただそれだけだった。しかし、通り過ぎ様に地図の交換さえ出来れば問題ない。目を付けられていない方が本家の地図を持つ。靖の提案に一捻り加えて、偽地図と本家が飛び交う道中となるようだった。


 そして翌日、安雲の図書館にて――
「ん〜〜、難しいものだねぇ」
 何冊かの本を捲り靖が溜息を付く。
「古美術鑑定術? 歴代象形文字? 一体何を調べているんだよ」
 そこへキサイ口調で現れたのは円秀だ。手には最近発行の地図帳を抱えている。
「見てわからないかなー? 俺はこれ自体の歴史についてだよ」
 古地図をぴらぴらさせて見せびらかす様にしながら彼が言う。昨日の会話に釣られていればきっとここにくるだろう。館内には彼らのみ――このチャンスを逃がす筈がない。
「来てる…続けて」
 玲がそれを察知しつつ、二人を促す。
「時代を調べたって無駄だと思うぞ」
「そうかねぇ〜紙や文字から調べるのも面白いと思ったんだけれど、素人鑑定はやっぱり駄目かー」
 そこでふいっと地図から手を離せば、相手が動く。
「だったらそれをッ、…くっ!?」
 だが、彼が飛び掛る前に警戒していた玲の手加減付きの一撃の餌食となる。
『兄貴っ!!』
 そう言って駆け出してきた子分も大した事なかった。
「司書の方を眠らせてくれて有難う。さあ色々はいて貰おうかな、口をわらないっていうならどうなっても知らないよ」
 とりあえず皆を縛り上げて、玲が爽やかに問う。
「俺らは雇われだー! 何も知らねぇ〜」
 涙混じりに言う彼らに嘘はないようだ。
(「……やはり雑魚じゃ無理か」)
 彼らの動きを監視するように遠くから望遠鏡で見つめる影があったが、さすがに彼らも気付く事は出来なかった。


 一方その頃、キサイらは山道を急ぐ。精霊門を潜り、街道を歩く事数時間――地図の場所へはここから先に門はない。相棒の手を借りる訳にも行かず、発ってからは延々と山道を進む彼らを突然の雨が襲う。
「囮班の到着も考えると、この辺が適当かしらね。野営の準備を」
 辺りに気配のない事を桜花に確認して貰い、シーラが仕度を始める。
「ふ〜ん、判ってるな。おまえ」
 そんな彼女を見てキサイは感心した。
 場所選びというのは案外重要で相手にばれないのが大前提なのだが、今回の場合は枯れ木が多い為それは難しい。ならば、気にするべきは相手の進入や接近をいかに早く察知するかと言う事になる。彼女はそれを考慮して小高くなっている場所を選択し、尚且つ下からは見つけ難い平地を野営地に選んだようだ。
「枯葉も多いもの、これだと何かと便利でしょう」
 鳴子の設置を考えていたキサイだが、これなら必要なさそうだ。
「食料はこれでいいだろうか?」
 最低限の食材を荷物から取り出し蒼馬が言う。
「ええ、後は任せて」
 彼女はそういうと手早く調理を開始する。

 そして、深夜を迎える前に囮班と合流を果たす。
 予めどの辺りに野営をするかは打ち合わせていたが、現地に行ってみない事にはと決定的座標については避けていた手前、少し手間取ったようだ。
「暗くなると印をつけても見にくいでやんすからお疲れ様でやんす」
 焚き火を囲み桜花が鍋の元へと誘う。
「おお、うまそうやね」
 ――とそこには野営とは思えない豪華な食事が並んでいた。雨のおかげで早くキャンプをする事になったのもある。シーラがこんな時でもと工夫を凝らして…この時期取れる野草も食材に加えたらしい。店を出しているだけはあり、味も申し分ない。
「まさか外でこんな美味しいものが食べられるとはな」
 皆その料理に喜び、お代わりの声も上がる。
「この後も交代で見張りですものね。しっかり力をつけておかなきゃもたないわ」
 そう言って彼女は微笑むと、先に見張りを買って出る。
「出来た人です」
 文武両道と言うのは少し違う気がするが、護衛のみならず仲間のメンタルも気にする配慮には頭が下がる。
「やっぱり古地図というのは浪漫ですよねぇ」
 食事を終えて――雨が止んだテントの中で円秀が呟く。
「そうだな、幾つになっても心が躍るもんだ」
 とこれは蒼馬。誰しもその言葉に惹かれるものがあるらしい。
「当てのない旅もいいでやんすが、目的があると自然と足も進むでやんす」
 旅を続けている桜花もその言葉に想いを乗せる。
 大いなる遺産――それが一体何なのか? 見張り交代を待つ中、皆で話し合う。
「どっちにしろ、行けばわかる。明日からは陰殻だ。余所者は歓迎されない…気を引き締めて頼む」
 だが、キサイは明日からの事が気がかりらしい。皆を戒める。
「ああ、わかった」
 その言葉に答えると、彼らは明日の打ち合わせもそこそこに各々身体を休めるのだった。


●シノビの国
 夜明けと共にテントを畳んで、ここからは道が入り組んでいる為一班になって進む。
 昼前に差し掛かる頃には辺りの空気は一変し、昨日の忠告を肌で感じる事となる。そんなぴりぴりした空気が流れる中、シーラが先頭を行き蒼馬が殿を。残りがキサイを囲むような隊列となり、木々に覆われた獣道をただひたすら進む。
「気配が多いですね…それでは意味がない」
 忍ぶのが本職な陰殻では、人の視線をどこかに感じる。こうなっては志士の心眼は意味がない。生体反応を感知するのはいいが、どれが敵でどれが違うのか検討がつかないからだ。
「となると俺らの聴覚が頼りかな?」
 意識を集中し辺りの音に気を配る。キサイも心得ているから交代で探知する。

「何か来る!!」
 暫くして玲が叫んだ。
 それを聞いて周囲を見渡せば、敵は空――龍より飛び降りてくる人影がある。
「全く派手な登場だー」
 今までとは違い死角の多いこの場所なら遠慮は要らないと踏んだのか。黒装束に身を包んだ者達が彼らを取り囲む。数はざっと見てもこちらの倍以上。今までの敵とは違い志体持ちのようだ。
「地図を渡せ…」
 そう言い投げられた飛び道具が彼らを襲う。
「そんなにあれが気になるでやんすか?」
 その問いには、
「答える義務はない」
 と冷たい返事。手の内を明かそうとはしない。
「キサイは先に行け。ここは俺たちで食い止める!」
 そこで蒼馬が叫び彼を逃がしにかかる。
 泰拳士だからといって遠距離攻撃が出来ない訳ではない。空気撃と空波掌で木に直接攻撃を仕掛け、敵を落としては接近戦に持ち込む。
「しゃあない。俺もやるかねぇ」
 そう言って白霊弾の構えに入ったのは靖だ。
「行きましょう、キサイさん。今回はヘタレないキサイさんに期待してるんですから」
 円秀がそう言って手を引けばキサイも頷く。たが、このままではいずれ誰かが傷を負う。
「皆伏せろ! シーラは盾で皆を庇ってくれ!」
 そこでキサイは懐から火薬玉を取り出し、振り向き様に天へ投げつけた。
 すると破裂と同時に辺り一帯に閃光が走る。
「ち、目くらましか!!」
 気付いた時にはもう遅かった。敵は回避する事ができず目を覆いもがく。
「何者だ! 襲撃か!!」
 その光は近隣の里にも届いて、警戒中のシノビが動き出す。
「いくぞ!」
 その騒ぎに紛れて、彼らは危機を脱するのだった。


「さっきはうまくいったけど、次はうまくいくかどうか…」
 陰殻に入って益々緊張状態は続く。相手も本気を出してきたのは明らかだ。
 だが、こちらも策が無い訳ではない。円秀は安雲にてここらの地形を調べていたおかげで若干ではあるが有利に進む事が出来ている。
「いや〜陰殻の地図って余りないみたいで…高低差くらいしかわかりませんでしたが、意外と役に立つものですね」
 侵入者に有利な情報を出す訳もなく、しかし地図と言うものは発行されているからその程度の情報は得る事が出来る。
「であとどれくらいなんでやんす?」
 出発してから五日目の夜に桜花がキサイに問う。
「あと少しの筈だ。明日は到着すると思う…」
「さて、宝が出るか、地獄の釜の蓋が開くか見物だな」
「開けたらまた地図だった、とかも笑えるけどなぁ」
 泣いても笑っても明日全てがわかる。


「あ、あれ?」
 そして、問題の場所に到着した一行を待っていたのは『ただの平地』だった。
「そんな馬鹿な…」
 その結果に困惑し、もう一度地図を確かめる。だが何度見ても場所に狂いはない。
「あの〜キサイさん?」
 どう声を掛けていいか迷いつつ、シーラが口を開く。
 だが彼も罠師…少しの異変も見逃さない。
「地面に継ぎ目がある…」
 自然界に存在する不自然な継ぎ目…それに着目し辺りを見回す。
「いっそぶち抜いてみるとか?」
 白霊砲なら壊せると見て靖が提案する。
「まった。あの石…不自然だ」
 けれどキサイがストップをかけ、転がる石を退ければそこには長さのある鎖の隠されているではないか。
「引いてみるでやんす〜」
 そこで桜花が実力行使。すると継ぎ目の部分が横にスライドし、それと同時に飛び出す瘴気の塊。どうやら獅子の形をしたアヤカシのようだ。とっさの事に動きが鈍った桜花だったが、
「大丈夫!?」
 盾で獅子の爪を受け止めたシーラによって負傷は免れる。
「えらいもののおでましですねぇ」
 そう呟きつつも円秀と蒼馬は即座に拳を打ち込む。それに続いて、追い討ちを掛けたのはシノビ二人だ。苦無が眼球をつら抜く。そしてラストは女性陣。
 シーラが盾で跳ね除けると同時に剣を突き出し、桜花は銀杏で一閃すれば獅子は悲鳴を上げる事すら無く瘴気へと還っていく。
「…ご苦労さんやね。とんだ遺産だったなー」
 すると唯一後ろで様子を見ていた靖が皮肉混じりに言う。
「いや、まだだ。先がある」
 けれど、それは始まりに過ぎない。開いた先には階段が続いている。
「まだ先があるでやんすか〜。これだけ厳重に隠されていたとなるとその先には…」
 その言葉に皆顔を見合わせる。
 続く階段には意味深な言葉が彫られ、彼らを待ち構えているようだった。