|
■オープニング本文 ●悲鳴と包丁 それが起こったのは今日の明け方の事――。 長屋にある共同井戸へと向かった一人の女性が被害者を発見した事に始まる。 「キャーーー!!」 静まり返った一角、そこに木霊した悲鳴に喜助も思わず飛び出して、現場にあったのは怯える女性と井戸に凭れたままの男。井戸の縁には血の痕が残っている。 「どうした? 大丈夫かい!?」 それを発見し近付いた喜助だったが、 「いやぁーーーーー!!」 女は彼を見るや否や再び悲鳴を上げて走り去っていく。 「あ?」 それに訳が判らず視線を落として……彼は理解した。 (「しまった。うっかりそのまま…」) 彼の右手には血のついた包丁――朝早く目が覚めてしまった為、さっきまで朝食の準備をしていたのだ。 「喜助、てめぇ…なんてことを…」 「や、違う…これは魚を」 そう弁明したが遅かった。悲鳴を聞きつけてやってきた長屋の仲間達は彼のそんな姿見取り非難する。そして、彼を追い込むもう一つの災難。それは、 「私がこの事件の謎を解いて見せましょう」 突如現れた書生風の青年・犬岡越前(いぬおか えちまえ)の登場に他ならなかった。 ●状況と推理 「現場を荒らさないで下さい。ああ、遺体もそのままで」 誰の真似をしているのやら着物にヘンテコな帽子を被って、犬岡は現場で指示を出す。 この青年、密かにこの辺りでは名の知れた人物である。毎日色々な推理小説を読み漁り、事件が起これば逸早く駆けつけ探偵気取りに推理を進めていくのだ。 「将太…あれをどうにかしてくれねぇかぁ」 そんな彼の登場に喜助が同僚の将太に泣きそうな声で頼む。 「あ〜、そりゃどうにか出来るものならやってやりたいが…あれも一応警備隊の一員だからなあ」 ちなみに喜助自身もこの一帯を警備する役目を担っている。 「あいつが出てきていいように動いた試しがねぇ…さっきも俺が犯人の一点張りだぜぃ」 血のついた包丁を持っていたと言うだけでほぼ犯人だと断定し、大声で推理を展開したのだ。 「先輩が来た時にいたという女性も怪しいもんです。本当は自作自演で架空の人物を仕立て上げているのでは?」 あからさまに疑った視線を向けて、仲間だというのに容赦ない。 「そんな事して俺になんの得があるって言うんだ! 仮に俺が犯人だとしたら静かに逃げた方が得だろう? わざわざ殺人現場で偽装の悲鳴を上げて…しかも凶器を持ったままでとか馬鹿のやることだろうが!」 そう説き伏せても、 「ふふ、先輩騙されませんよ。それが狙いなのでしょう…そう思って犯人から除外されれば思う壺だ。最近の犯罪は手が込んでますからねぇ〜」 聞く耳を持たないといった様子でなぜかしたり顔。 「じゃじゃあ、あの遺体をよく見てみろ。あの状況…刺し傷なんてないじゃねぇか!」 喜助の包丁が凶器なら切り傷があるはず。その主張も犬岡には通じない。 「確かにあの被害者は井戸で頭をぶつけたような痕があり、切り傷の痕など残っていません。しかし、包丁でもある方法を使えば撲殺出来るんですよ。そう凍った魚を包丁に刺しそれで彼を殴る。そして、殴った魚は井戸にほおりこむなり、猫の餌にするなりすればいい。台所の魚はフェイクだ」 「はぁ??」 どこをどうしたらそうなるのか理解に苦しむが、彼は至って真面目に言い放つ。 「いいですか、あなたの台所に魚があってもそれは殺害してない証拠にはならない。それに聞きましたよ、先輩…いや喜助さん。昨日あなたは被害者の男と口論していたそうじゃないですか!」 「え…」 うろたえる喜助ににやりと笑う犬岡。 「あなたは大家さんに頼まれて家賃の催促に行った。そして結局払って貰えず、面目丸潰れ…その事が頭にきてつい罪を犯してしまった。違いますか?」 「違うわーーー!!」 もっともらしい口調で言ってはいるが、普通に考えてもそんな事で人を殺すだろうか。 「おまえじゃ話にならん! 他に…俺以外にも怪しい人物はいなかったのか!!」 とうとう我慢の限界を迎えて喜助が叫ぶ。 「いますよ…黒に近い人物は。しかし、そういうのは相場犯人ではないと決まっている…」 「はぁ??」 話によればその男の名は又吉。乱暴者で知られた札付きの悪――被害者とはそれでも幼馴染で付き合いが長かったようだが、実際のところは又吉の一方的なものであったらしい。昨晩から明け方にかけて二人の言い争う声を聞いたという証言も多数寄せられていると言う。 「あぁ、これじゃあ警備隊としてもまた恥を晒す事にならぁ…将太、なんとかならねぇか?」 証言からしてもきっとそいつが犯人に間違いない。だが、このままではこの素っ頓狂な推理のおかげで喜助が犯人にされてしまう。 「わかりやした。ちょっくらその又吉って奴を探してきまさぁ」 そう言って駆け出した将太だったが、日暮れにはなっても彼の姿は見つからず喜助の座敷牢行きが決定する。 「んな馬鹿な事があるかーー!! 俺は無実だーー!!」 警備隊の仮牢に閉じ込められて、彼の悲痛な叫びが木霊するのだった。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
千古(ia9622)
18歳・女・巫
利穏(ia9760)
14歳・男・陰
央 由樹(ib2477)
25歳・男・シ
スレダ(ib6629)
14歳・女・魔
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
ルカ・ジョルジェット(ib8687)
23歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●現場 夕日が長屋を染め始め、血に染まった井戸の一角が更に紅く照らされる。 「これで事件解決かな」 そう思い満足げなのは越前である。しかし、 「ちょっとまったぁぁ!!」 猛スピードで駆けて来たのは天河ふしぎ(ia1037)――とんでも探偵の称号を持つつわものだ。そんな彼の登場に勿論越前はうろたえる。 「な、なんであなたが…」 いつ知ったのか知らないが、どうやら探偵と付くものには詳しいらしい。彼の事も聞き及んでいるようだ。そこで彼はずばっと指を突きつけて、 「そんな推理間違ってる! 僕が来たからには必ずや真犯人を見付けて見せるんだぞっ!」 と帽子に手を当て決めポーズ。宣戦布告とはこの事だ。 「そんな、この事件はもう私が」 「越前くん、君の推理はまだまだなんだからなっ」 彼の言葉を遮る様に言い放ち、明日それの証明を約束するとそそくさと現場検証に入る。そのままそこに立ち尽くしていると今度はエルフの少女・スレダ(ib6629)も現れて、 「許可は将太さんから頂いてるですよ。だから邪魔するなーです」 と本格的な調査が開始され、 「何やえらい血ぃ少ないなぁ」 その後には央由樹(ib2477)も駆けつけ、井戸付近の痕跡に率直な感想を漏らす。 「血のついている箇所は一箇所だけみてーですが、被害者の頭はぱっくりいってたです。即死だとすると確かに少ねーです」 井戸の血痕は拳より一回りほど大きい程度。地面には流れた筈の血溜りが出来ていてもおかしくないのだが、その跡が見られない。 「それは凶器が冷凍魚だか…」 「馬鹿言うなです! 冷凍魚なんてそう簡単に手に入らねーです。術者の仲間がいれば別ですが鯵なんていう小さい魚であんな傷は付けられねーです!!」 ギラリと片眼の眼鏡を光らせて彼女が言う。 「それにねぇ、君の一連の推理には何も物的証拠が伴ってないんだぞっ! まずはそこから始めなきゃ」 そう言うとふしぎは井戸の中へ入るらしい。由樹に手伝って貰い徐々に中へと姿を消す。 「物的証拠なら先輩の包丁が」 「はぁ? つくづく馬鹿です! あれだけで決め付けるのは愚の骨頂…貴方は事件を解決したいんじゃねーですっ。小説のような探偵の振る舞いの真似事をしてーだけですっ!」 ずびしっと再び言い切られ、越前は言葉を失くす。 「もし本気で事件解決を望むなら、一から推理も捜査のイロハも叩き込んでやるですから、覚悟しやがれです」 彼女はそう言ってまた調査に戻る。 「捜査のイロハ…」 彼はその言葉を反芻し、開拓者達の動きを観察し始めるのだった。 一方、時間が限られているとあって聞き込みに回っている者もいる。 「黄色い小袖に青い簪の女を見なかっただろうか?」 喜助が見たという第一発見者の女性の特徴――彼の無実を証明するには彼女の証言は欠かせない。羅喉丸(ia0347)は彼女の捜索を再優先に動く。幸い沢山の者が悲鳴を聞いていたし、簪が珍しい物だったという事もあって彼女の身元はすぐに割れた。しかし、 「今日の朝から行方知れずなんだよ」 あの悲鳴は芝居だったか? 又吉と繋がっているとすると非常にまずい。 「ではその女性は又吉って人と仲が良かったとか聞いていないか?」 そこで二人の事実関係を確かめるべく彼が問う。 「いいや。彼女は…確かお初っていうんだが、与作っていう男と恋仲で最近あの青い簪を貰ったって喜んでたよ」 「与作か…ちなみにその人はどちらに?」 偽名と言う線も考慮して更に追求する。 「それが今日殺されたんだってさぁ。長屋で事件があったろう。あれでやられたのが与作だって聞いたよ」 「なんだって!」 被害者の恋人が第一発見者だという事実に思わず声が上がる。もしかして三角関係か? 謎は深まるばかりだ。 「まだ行ける。もう一軒行くか」 暮れ行く長屋で彼の必死の聞き込みは続く。 「喜助さんは又吉さんと被害者さんの事はご存知で?」 座敷牢に入れられた喜助の下を訪れた利穏(ia9760)が問う。 「まあ、多少は知ってるよ。なんたって長屋の仲間だからなぁ…与作は小心者だったが、人一番皆に優しくてな。仲良くなった奴には家族のように接していたようだ。だから、余り催促も気が進まなかったんだ…しかし、大家さんもからの頼みだろ。戸は閉まってたが中では『明日必ず』って呟く声が聞こえていたから何かよっぽどの事情があったんだろうよ」 その時の事を思い出し喜助は残念そうだ。 「又吉さんの方は?」 「あれは評判通りの荒くれだ。博打も喧嘩も…だが、なぜだか家賃の滞納は無かったらしい」 「へえ、意外ですね。お金はどうしていたんでしょう?」 「さぁな。それは俺が知りたいぜ」 口には出さないが差し詰め仕事とは考えにくい。ともすれば浮かぶのは…。 「又吉って人どんなだった? 昨日の口論の内容とか聞いてません?」 長屋の部屋の配置を教えて貰い、まずその周辺から聞き込みを開始したエルレーン(ib7455)。又吉の捜索に重視をおいて後から合流する由樹の為にも少しでも多くの情報を手に入れておこうと奔走する。 「与作とは幼馴染みってのは聞いてるだろうが、あれはそんな良い仲じゃないよ…半ばかつ上げ状態さぁ。金に困ると与作のとこに来てはせびってた。与作も与作ですぐ貸しちまって…根は言い奴なんだって言ってたがあんなの、金を溝に捨ててるようなもんだったよ。けど昨日は少し違ったかなぁ」 「違ったって何が?」 「今回は大喧嘩だよ。いつもならあまり口論にならないんだけど『もう一銭も譲れない。これからの事もあるからわかってくれ』って。家賃にしたってちゃんと入っていた筈なんだよ。なんたって与作はうちで働いていて昨日もちゃんと給金を渡したから」 与作の仕事は棒手持ちだったようだ。 「稼ぎがあったのに払えなかった…いや払わなかったのかな?」 時間から察するに喜助の催促の方が先であり、支給直後に又吉に渡したのなら夜来る理由がない。となると稼ぎの金は何に使われたのだろう。 「どないや、何かわかったか?」 そこへ由樹が現れて、ここからは二人での捜索が開始されるのだった。 ●物証は語る 場所は変わって被害者の部屋。又吉の部屋にも行ってみたが目ぼしい物はなく、スレダと千古(ia9622)は捜査対象をこちらに移す。 「なかなか綺麗な部屋ですね。と言うか物が少ないだけかしら」 部屋にあるのは暖房用の火鉢に一人分の器のみ。狭い居間には万年床なのか布団が敷かれ、荒らされた形跡はない。 「物取りじゃねーですね」 「うわっと」 そう言った直後に声がした。それに視線を向ければ、付いて来ていた越前が土間と居間の間の置石に足を取られたらしい。 「何やってるですか! 全くやってられ…!?」 そう言いかけて彼の元に近付いたスレダの目に映ったのは不審な跡。さっきは気付かなかったが、置石の位置が僅かにズレているようだ。 「これは…」 重さのある置石の事、さっきの躓きでずれる筈がない。千古と越前に指示を出し石を返せば、その下には小さな空洞。何か隠していたのだろうか?そして、裏返した石にある染みもスレダは見逃さなかった。だが越前と言えば、 「いや〜疲れた疲れた。水でも一杯…」 等と暢気に水を求めて飲料用の水壷に近付いてゆく。 「いいかげんにしろです! 現場保存は…ってあぁ!!」 再び声を上げるスレダに二人が目を丸くする。 「見えたです」 彼女は彼を水壷から引き剥がすと中を確認し、そう言葉した。 さて、夕食時に彼らは情報を総合し又吉の居場所を特定する。 この事件、やはり彼が黒であるらしい。凶器らしいものはなかったが、井戸で殺されたのではないという証明は出来そうだ。 「後は直接聞けばええ」 「意地でも言わせてみせるわ」 少し強引な気もするが、あの越前を説き伏せるにはそれが一番かもしれない。 「しかし、目撃者の方はまだやろ? 大丈夫かいな?」 予想をつけた場所で張り込み、皆の到着を待っていた由樹が問う。 「それなんだが、恐らく又吉と一緒だと思う」 ずっとお初を探していた羅喉丸。その後の聞き込みで悲鳴の直後駆け出した女を追う人影があったと言う目撃証言を入手している。そして、別の話では黄色の小袖の女が路地裏に連れ込まれるのを見た者までいる。 「ほな、急がななぁ」 それが又吉であり、お初が殺害を目撃していたとすれば彼女が危ない。 「まずは僕が…」 情報で行き着いたのは賭博場。小窓を見付けて利穏が人魂を鼠に変え忍ばせる。 (「ん〜、どこだろう?」) 床下を走らせ逐一隙間から中を窺い捜索する。又吉の風貌は既に聞き込みで得ているからその特徴を探せばいい。 「今日は又吉は来てないのかい?」 すると早速彼の名があがった。 「あぁ、今日は女連れでよう…訳有りか鍵部屋から出てこねぇんだよ」 「へえ、あいつが? よくあそこを借りる金があったもんだ」 酒を片手に男の会話。 「鍵部屋…」 その言葉を聞き取って、 「成程、秘密の部屋っちゅう訳か」 娼館も併設されている裏路地の店。気に入った女がいればそのまま連れ込む事が出来るらしい。そしてこの手の店では隠された部屋があるものだ。 「あの部屋です!」 利穏がそれを見付けて突入する。強引にこじ開け入った先、そこには着崩れた黄色の小袖の女と大柄な男…女の方は猿轡に縄で縛られ涙を浮かべている。 「あなたを犯人です!」 緊張の余り何を言っているのやら。 「あんたが又吉やな!」 それに続いて由樹は素早く影縛りを発動し、エルレーンは刀を突きつけて――舌打ちした又吉だったが逃げようがない。 「昨日、お前の長屋で起こった事で聞きたいことがある。俺らと一緒に来てもらうで」 凄味を利かせた一言に無言で頷き、又吉の逮捕劇は呆気なく幕を閉じた。 ●真相 翌日、ふしぎの宣言通り越前・喜助を交えて改めて推理を展開する。 「まずずばり言うけど犬岡くん。井戸の奥まで調べたけど魚の類は落ちていなかったよ…それに被害者との口論にしても、明らかに又吉って人の方が強い動機を持っている事を無視しているよ」 まだ又吉の捕縛が成功している事は伏せたままふしぎが言う。 「そ、それは…別に井戸の中だけとは限らず、野良猫に食べさせたとしたらもう証拠は残ってません。それに動機の強さはこの際関係ない。セオリーなんです! 初めに浮上する怪しい人物は犯人じゃないって」 「はい?」 だったら喜助こそそうではないかと思うのだがとりあえず黙っておく。 「いいですか。あの時重要なのは誰が現場に居たかです。悲鳴の女性だって結局見つかって…」 「おるで、ここに」 「えっ! み、見つかったんですか!」 てっきり喜助の偽装だと思っていた手前予想外の事には滅法弱い。視線が宙を泳ぎ始める。 「あの昨日はその…すいませんでした。私、気が動転して…あの人は犯人じゃないと思います。私が見つけた時は与作さんあそこに倒れていたし…それにあの後、そこの人に拉致されて…そして聞かれました。おまえ見たんだろって…」 喜助を指差した後、今度は又吉に移動させ彼女が証言する。 「え、あの人は? ま…まさか」 「又吉だよ。行方不明になっていた」 「ええっ!!!」 二つ目の吃驚事実に越前が尻餅をつく。 「そ、そんな…見つかってないって聞いてたし…拉致ってどういう事ですか!?」 訳が判らない様子の彼に事件のあらましを説明すべく、皆は与作の部屋へと移動するのだった。 「これを見てほしーです」 スレダが示す先には裏返された置石と水壷がある。 「これが一体何を?」 その石の隅には赤黒いシミが残り水は僅かしか残っていないのだが、犬岡はそれに気付かないらしい。 「この事件…恐らく口論の末の事故だと思うです。このシミはきっと与作さんの血痕…違いますか?」 又吉を見つめて彼女の言葉。たが、彼は黙秘を通すつもりか口を開かない。 「いいです。では全部話すです…いつものように金に困ったあなたはここに来た。しかし、与作は抵抗した…そこで強引にでも金を奪って行こうと考え、馴染みであるあなたは与作さんの金の隠し場所に手をかける。そう、この置石下の穴が隠し場所です…そしてまた一悶着。過って与作は転倒し即死。このままでは自分のせいにされてしまう…そこであなたは遺体を移す事を思いついた。別の場所で見つかれば自分だと疑われない。血のついた石を洗い、与作の血も出来るだけ流し床も土で隠すなど工作したです。その証拠がこの石と水壷…もう乾いてしまったみてーですが、昨日水壷の周りには濡れた跡もあったです!!」 抑揚をつけて言い放ち、彼女の方がよっぽど探偵のようだ。 「ほ、本当ですか…又吉さん」 恐る恐る越前が尋ねる。 「ちなみにあんたはなぜあそこに?」 与作の家を訪れた経緯が気になっていた由樹が尋ねる。 「この簪…与作さんから頂いたんです。一昨日届けられて…その日のうちに御礼に行きたかったんですが忙しくて…棒手持ちの仕事は朝早いから早く行かないと会えないと思ってあの時間に…そうしたら戸が開いていて水滴が外に続いていたので辿ったら…あんな事に…」 最後の方は消えそうな声でお初が言う。 「あんたのせいだ! 俺の作戦は完璧だった…なのにあんたが現れて全て台無しだ! 俺はてっきり見られたと」 「だまらっしゃい!」 事故であれ遺体を隠蔽しようとした事実を知りエルレーンが喝を入れる。 「……くそっ、あいつが悪いんだよ。勝手に転んで勝手に死んだ…さっさと金を出せば」 ぱんっ 言い訳を続ける又吉に今度はお初の平手が飛ぶ。 「与作さんが何したって言うの! あなたが働かないから悪いんでしょう…与作さん、貴方の事心配してた。私と一緒になればあいつは一人になるって。子供の頃野犬から助けて貰った恩があるから見捨てられない…けど、悪縁を断たなきゃ私の父から結婚は認めないって言われて…悩んでやっと決意したのに…どうして解らなかったの!」 又吉の事も与作は彼女にも話していたらしい。 「は…はは…あいつ、そんな昔の事を…」 かくて事件は解決した。家賃の未払いの件は謎のままだが、何かしらの事情があったのだろう。事故の隠蔽とお初に対する拉致監禁。この二つで又吉はお縄となる。 「いや〜先輩、すいませんでした」 その後無事釈放された喜助を前に越前が謝罪する。 「えへ、今回はちょっと間違えちゃったみたいだけど…次は頑張ってね」 そんな彼に皮肉たっぷりに声をかけるのはエルレーン。 「いいかい? 思い込みは捜査にとってもっとも悪しき障害だよ…そして、もう少し注意深く物を見ることを覚えた方がいい。そうすればきっと立派な探偵になれるから」 とこれはふしぎだ。さり気無いフォローを忘れない。 「有難う御座います! だったらいっそ私を皆さんの弟子にして下さい!!」 『ええっ!!』 彼の純粋な眼差しと突然のお願いに一同困惑するのだった。 |