死の山
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/09 00:05



■オープニング本文

 あの山は死の山だ。

 村の誰もがそう言って、その山には近づかない――目の前にそびえ立つその山は自然の生命さえ寄せ付けず、ごつごつした岩肌が剥き出しになり、年中霧がたちこめていると言う。
 そんな山であるから誰も登ろうとはせず、急ぎの用があったとしても遠回りする程、人々はその山に寄り付かない。もっとも、登れるような道もないのだが‥‥。
 その山の頂きで、禍々しい瘴気が――今まさに、形を成していた。
 ゆっくりと‥‥けれど確実に‥‥渦を巻く瘴気はしかし、それだけでは終わらなかった。そのまま形を形成するのではなくそこにあった獣の骨を媒介にして、さらに巨大な瘴気へと変貌を遂げ‥‥新たなアヤカシが誕生した。
 しかし、それに気付くものはいるはずもなく――。
 そして、事件は起こる。

「きゃあぁぁぁ〜〜〜」

 まだ太陽が登り始めたばかりだというのに、麓の村は女性の悲鳴と共に目覚めることとなる。女性の前には、無残に引き裂かれた男の死体――上半身と下半身が斜めに引き裂かれ、内蔵がはみ出している。傷口の形状から見て、鋭い爪のようなもので斜めに一閃されたようだ。辺りに血が飛び散っていた。恐らく絶命――抵抗する余裕さえ与えられずに、たった一瞬の出来事――。

「あ‥‥あぁ‥‥‥」

 その死体を目の当たりにして、女は放心したように意味のない言葉を繰り返す。

「これは、ひどい‥‥」

 村の自警団の青年もそれを見て、思わず目を反らしていた。
 かろうじて嘔吐は我慢したものの、これほど生々しい死体を見るのは初めてだった。胸に込み上げてくる気持ち悪さはなかなか消えない。

「とりあえずこの遺体を丁重に運ぶんだ。残りの者はその場に残って聞き込み調査を頼む」
「わかった」

 仲間の返答に、青年も仕事に取り掛かる。



――数時間後――

「調査結果を報告します。
 村の端に住んでる老婆がカシャカシャいう音に目が覚めて、外を見たとの事です。
 すると、そこには血塗れの、骨でできた化け物がいたとか‥‥
 しかし、その老婆は目が悪いらしくはっきりとした証言とは言いがたいですね。
 話によればその化け物は死の山方面へ去っていったとの事です」

「死の山に‥‥」

 青年はその事を聞き、表情を曇らせる。

(「あの山には登るのでさえ大変だというのに、どうしたものか」)

 思案し出した青年を見取って、もう一人の青年が声をかける。
「あの隊長。骨の生き物というのが気にかかります。本当かどうか定かではありませんが、もしこれが本当であれば相手はアヤカシ。我々で対応しきれるとは思えません」
 この村にいる自警団のメンバーはわずか八名。
 村自体は広くないし、人口の多くが高齢の為、村にいる若者が自動的に警備を任されているのである。腕っぷしに自信があるからなったと言う訳では決してない。責任感の人一倍強い彼が、たまたま隊長を勤めてはいるが平和な日常生活に慣れきってしまっている彼らにとって、この手の事件は全く縁がなく対処のしようがなかった。それどころか、一歩間違えば命を落としかねないのだ。

「厄介事を押し付けるようで心苦しいが、仕方ない‥‥開拓者の力を借りよう」

 青年は次の犠牲を出してはならないと、ギルドに依頼を出すのであった。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
香坂 御影(ia0737
20歳・男・サ
鬼啼里 鎮璃(ia0871
18歳・男・志
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
ヘレナ(ia3771
20歳・女・魔
周十(ia8748
25歳・男・志


■リプレイ本文

●立ち塞がる崖
「凄い霧だね、これは‥‥地元の人すら近付かない訳だ」
 山を登り出して早一時間。
 場所はまだ二合目というのに、すでに辺りは霧で立ち込めている。
 村での情報確認と道具受け取り、山に入った一行は雪の足場ということもあり手掛かりさえ見つけられず、ここまで来ていた。ひとつ、新しい情報といえるものがあるとすれば、被害者が三人に増えたという事と、傷跡が徐々に大きくなっているという事だけ。初めの遺体の爪の大きさより三件目の方が明らかに大きくなっていたということだ。
 吹雪く雪に耐えながら来た道を振り返って香坂御影(ia0737)はそうぼやくと、予め村で用意してもらったロープを肩から下ろす。
「(斉藤)晃(ia3071)さん、真珠朗(ia3553)さん、お願いしますよ」
 その言葉に二人が頷く。見るからに垂直の岩の壁。足場となりそうな場所は決して多くなく、雪もうっすら積もっている。
「こらまた、難儀やなぁ〜」
 それを見て、思わず愚痴を零す晃である。けれど、彼の考え方は至って前向き。それに対するように、真珠朗と言えば――。
「あぁ〜なんでしょうねぇ〜目の前のこの光景‥‥人が登る場所じゃあねぇ〜と思う訳ですよ。なのに、これを登るとは‥‥あぁ、困ったもんだ」
「全くですわ」
 ――と、そこに賛同したのはとある富豪のお嬢様であるヘレナ(ia3771)だ。村を出る際も防寒対策として貸し出された藁の蓑を見て、散々抗議していたのである。
「まぁまぁ、ヘレナさんそう言わずに。僕が上までエスコートしますから落ち着いて」
「だってこの状況‥‥もう殆ど何も見えないのよ。これでどうやって探せというの?」
「あ〜まぁそれはそうですけど、仕方ないでしょう。彼らに出来ない事を引き受けるのが僕らの仕事なんですから」
 苦笑を浮かべながら、そんな会話でヘレナを宥めている一方では、もう一つのペアがぎこちなく会話を展開している。
「あの‥‥すいません‥‥重くないですか‥‥」
 背負子に乗って、背負われているのは巫女の柊沢霞澄(ia0067)である。笠からはみ出した長い髪が下の羅喉丸(ia0347)に纏わり付いている。
「いや、大丈夫だ。それよりこれを‥‥」
 そう言って、視界に掛かる彼女の髪を払い除ける。
「あっ、すいません‥‥」
 そんなペアを見つめていた真珠朗だったが、そろそろ決意を固めなければならない。
「さぁて、それではいきますか」
「そうやなっ、いっちょ登ったろか」
 先頭を行く二人がロープを腰に巻き登り出す。
「出来るだけ安全そうなルートを探して登るが、危険はつきもんや。一応、わかるよう印を付けとくさかい、くれぐれも慎重に登ってくれや」
 晃の言葉に、後に続くものが無言で頷く。長い長い過酷な山登りの始まりだった。

●遭遇
 どれだけ登ったのだろう。足場が無い所には杭を打ち込み、人工的足場を作って一歩一歩進む。気の抜けない場面が延々と続いていくのだ。それに、上に行けば行く程に、雪は強くなりしっかりしがみ付いていなければ、横風にさらわれてしまいそうだ。
 そんな中で中衛に位置して、辺りを警戒しながら進んでいた周十(ia8748)が何かを捕らえた。
 気付いたのは僅かな振動――手を掛けた時に感じたそれは決して夢などではない。風の音に阻まれながらもよくよく耳を澄ましてみれば、ガシャガシャという異質な音が近付いてくるのがわかる。
「おい、何かくるぞ!」
 仲間に届くように叫べば、皆の表情に緊張が走る。
 この場所で戦闘にでもなれば、断然開拓者達が不利――。うっかりロープ等に攻撃が当ってしまったら、転落死なんて事もありうる。
「旦那ぁ〜そっちに横穴的場所はねぇ〜ですかい?」
「ん? あぁ? あるかも知れんが今の視界じゃあわかんねぇ〜」
「困りましたねぇ〜こりゃあ」
 思案しかけた真珠朗だったが、それより先に下から来る何かが彼らの横を通過する。
 見えたのはほんの一瞬だった。
 鋭い爪に大きな羽‥‥骨で出来ているのに、あれで飛べるのだろうか。
「きゃあ〜〜」
 確認出来たのはそれだけだった。そして、残ったのはさまざまな形の破片――骨のそれが、崖に爪を立てて駆け上ってゆくとその後には崩された岩肌の破片が雨の様に彼らを襲う。
「くっそ、防ぎきれねぇ」
 一つ一つは小さいものの、中には槍の様に尖ったものもある。おのおの必死で防ごうとするが場所が場所だけに難しい。
   ずどぉぉぉぉぉん
 ――と、今度は地響き。山全体が震えている。
「おわぁああ」
 その影響で崩れる足場‥‥皆を繋いだ命綱にずしりと重みが増す。それに気付いて下を向けば、鬼啼里鎮璃(ia0871)が片手で辛うじて落下は防いでいるものの身体は宙に投げ出す状態に陥っていた。
「大丈夫か?」
 先頭の晃が命綱を手繰り寄せながら問う。
「はい、すいません。けどちょっとやばいかも」
 手を掛けている岩肌――指をかけているその部分からぱらぱらと落ちてくる破片。
「真珠朗! 頼む!」
 晃はそれに気がついて横にいる彼にも協力を呼びかけて、二人係りで鎮璃の腕を掴んだ。そして、晃は気合を込めて‥‥。
「ふぁいとー!!!!」
「あーいっぱつ‥‥って、あたしゃ、そういうキャラじゃねぇんですが」
 二人の掛け声に温度差はあるものの、無事鎮璃が引き上げられて近くの足場に手をかける。ほっと出来るのも束の間だった。さっき登っていったアヤカシ――そちらに視線を送って‥‥。
「あれが、今回のお相手‥‥ですか」
 その言葉に、一同沈黙。
「しかし、まさか下から来るとは‥‥また何処かで被害が出ていなければいいんですが」
 下を見ても、そこに見えるのは白一色。
 出発した村――出る前、辺りを調べたがアヤカシの形跡はなかった。――とすれば、違う村を襲っていたのだろうか。
「何にしても早く片付けなければならないわね」
 厳しい表情で、ヘレナが呟くのだった。

●脅威の硬さ
 死の山の頂で一同が目にしたもの、それは無数の骨。
 獣がこの山にわざわざ登り生息しているとは考えにくいが、至る所に獣の骨が散乱しており、そこはまさに『死の山』と呼ぶに相応しい場所だった。
「とりあえず、広さを確認しておいた方がよさそうだな」
 霧で霞む視界――見えるのは僅か一メートル強の範囲のみ。一行は登りついた所から崖沿いに歩いて、この山の広さを確かめる。いつ襲われるかわからない恐怖‥‥それもまた、アヤカシにとっては力になってしまう。一行は、実に勤めて慎重だった。
 真珠朗と羅喉丸は背拳を発動、背後の敵を警戒。まずは、志士の鎮璃が心眼で辺りのアヤカシを探索する。視界が閉ざされた中で頼れるのは知覚のみ。孤立しないようある程度集まって、様子を探る。
「どうだ?」
「この付近には、アヤカシはいないようです。けどさっきのあれが何処かに‥‥‥
 もう少し待って下さい‥‥きっと‥‥いたっ!」
「それはどこだ!」
「右‥‥ここから見て北北東の方角、きますっ!!」
 鎮璃の言葉が終わらぬうちに、骨のアヤカシが一行の前へ姿を現す。

   グオォォォォォォォォォォォォ

 骨の塊であるはずなのに、どこから声が出ているのか低い獣のような雄叫び。
 虎の骨格に鳥の羽――うっすらと羽には膜のようなものがついており、どうやら飛ぶ事も可能であるようだ。飛び掛るように現れたそのアヤカシは、すごい地響きを立て、着地する。体長およそ二メートル。尻尾を含めば三メートルはあるだろう。両手両足には、刀に匹敵するほどの長さの爪、牙にしても普通の比ではない。
「逃がしゃしねぇ〜〜」
 その姿を見取って、先制をかけたのは晃だった。
 大地を蹴って、走り込み両断剣を乗せ自慢の大斧を振り下ろす。

   ガキィッ

 だが、しかし骨のアヤカシはビクともしなかった。晃の攻撃を避けようともせず、ただそこに立ちはだかり彼の攻撃を受け止める。肩に浴びせたその攻撃でアヤカシに与えたダメージは、皆無に近かった。
「なんてこった‥‥これじゃあこっちの骨身に沁みるがな」
 苦笑しつつ、戻る晃。腕にはさっきの衝撃で痺れが残っている。一方相手はというと、僅か数ミリのひびが入ったのみ。長期戦になりそうな予感が皆の脳裏を過る。しかし、こんな化け物をどうやって倒せばいい? 生まれる疑問――躊躇は命取りに繋がる。とにかく攻撃にでなければと、動きかけた前衛メンバーだったが、気付いた時にそこにアヤカシはいなかった。

●消耗する体力と見えた突破口
 どれほどの時間が経っているのか。緊張と張り詰めた警戒を強いられる開拓者達にはそれはわからない。たった数分しか経ってないのかもしれないが、彼らにとっては遥かに長く感じてしまう。各自すぐ対応に移れるよう、女性二人を中に据えて円陣のような位置取りでアヤカシの攻撃に備える。そんな彼らを骨のアヤカシは、上空から見下ろしていた。本来眼球のある場所に灯る淡く鬼火のような光――その瞳で一人ひとりを品定めするかのように、実際は知覚で感知しているのだがそう見えない。そして、急降下を開始した先に居るは真珠朗。

「なにっ!」

 突然の出現に、少し対応が遅れる。そこをアヤカシは逃がさない。右から左へ、事件の被害者が受けていた傷跡に一致する攻撃。やはりあの犯人はこのアヤカシで間違いないらしい。直撃を免れたものの、わき腹を抉られるようにうけた傷に真珠朗の息が一瞬詰まる。辛うじて、転倒を踏み止まったのはおそらく無意識。

「大丈夫ですか!?」

 それを見て霞澄が駆け寄りかけて、再びアヤカシの攻撃。今度の目標はもちろん彼女である。

「くるなっ!」

 真珠朗の言葉に、びくついた霞澄だったが、時すでに遅し。アヤカシの爪が彼女を襲う。羽織っていた蓑が引き裂かれたが、霞澄への当りは深くない。けれど、もともと身体の弱い彼女にとってはこのダメージは決して少なくなかった。

「レディに対してなんてことを! いきなさい、快癒蛭!」

 ヘレナの言葉に答えて、符が蛭に姿を変え霞澄の傷を癒していく。
 だが、アヤカシとて馬鹿ではない。畳み掛ける様に、再び霞澄を狙う。

「させんっ!」

 そこで、晃が跳んだ。霞澄を庇う形で、アヤカシの攻撃を受け凌ぐ。
「あっ‥‥あぁ‥‥ごめんなさい、晃さん‥‥」
 目の前で苦悶の表情を浮かべる晃に霞澄の心が痛む。
(「守られてばかりなんて嫌! 私も力にならなければ!!」)
 晃の腕をゆっくりと解き、霞澄が立ち上がる。
 その間も、ちらちらと姿を見せては霧に隠れるアヤカシ相手に、仲間は奮戦しているのだが、やはり見取ってからの反応では決定的な攻撃にはならないようだ。精神と体力だけが削られていく結果となっている。
「皆さん、私が力の歪みで動きを止めます。サポートお願いします!」
 いつになく積極的に霞澄が言う。
 その言葉に答えるように、残りのメンバーが彼女を囲む。

「くるぞ!」

 周十が目敏く気配を察知し、声に出す。

「いきます!!」

 霞澄の力が――アヤカシを捕らえた。
 湾曲する身体‥‥物理攻撃では歯が立たなかった骨のアヤカシの瞳の炎が激しく揺らぐ。尻尾も先程までと違い、ばたばたと揺さぶられている。
「成程、ならこっちも効くかも‥‥」
 今まで握っていた賊刀を置き、鎮璃が精霊の小刀に持ち替える。
 そして、歪みに囚われている骨のアヤカシ目掛けて小刀を突き立てる。
 
  パキッ

 ――と、その一撃で頭蓋骨部分に、大きなひびが入った。一部はぱらぱらと剥がれ落ち、瘴気に戻り消えてゆく。

「ん? おわぁああ」

 ふとその奥に何かを見つけた鎮璃だったが、暴れるアヤカシに妨害され後退する。
「どうかしたのか?」
「いやっ、なんか骨の下に骨がみえたような‥‥」
「骨の下に骨?」
 それを聞いて、羅喉丸が不信な表情を見せる。
「ものは試しだ‥‥確かめてみよう」
 周十はそう言って、前に出る。
「なら、私が手伝おう」
 さっきの一撃が効いたのか、再び霧に隠れたアヤカシを呼び戻す為、御影が咆哮。
 まだ遠くに逃げ切っていなかったらしい、アヤカシはまんまと御影のそれに答えるように姿を現す。

「よしっ、行ってくる!」

 周十は注意しながら駆け寄って、鎮璃の開けたひびの辺りに刀を突き立てる。

   ガッ

 鈍い衝撃――目を凝らせば、確かに中にもう一つ硬いものがあるようだ。中の破片は瘴気に変わらず、そのまま欠けて地面に落ちる。

「どうだった?」

 戻って来た周十に羅喉丸が尋ねる。
「間違いない、あのアヤカシ二重構造になってやがる。骨の下に本物の骨を隠してるって寸法だ‥‥道理で硬い訳だ」
「へぇ〜そういう事かい。ならこちらもセコくいかせてもらいましょう。それ相応にね」
 今まで様子を見るように、のらりくらりと攻撃をかわしていた真珠朗がにやりと笑う。序盤のダメージはすでに霞澄の神風恩寵によって癒されている。
 アヤカシが正面からくるのを見計らい、真珠朗の渾身の空気撃が炸裂した。
 じっくりと見計らっただけはある‥‥それは見事に胴体に入り、アヤカシが地面に横倒しになる。
「よしっ、このまま押し切る!!」
 倒れたアヤカシを前に羅喉丸が跳んだ。もう弱点はわかっている。
 二重の鎧のような骨――しかし、それも打ち砕いてしまえばいいまでの事。

「いっけ〜〜羅喉丸!」
「やっちまいな!!」
「お願いします!」

 仲間の言葉を背に、羅喉丸の拳が輝いて――止めの一撃。

「骨法起承拳!!!」

 鎮璃と周十の開いた傷口を抉るようにうち込んだ拳によって、骨のアヤカシは活動を停止したようだった。瞳の炎は消え、ガラスが割れるように纏わりついていた一重目の骨は瘴気に返り、中の骨は粉々に砕けて風にさらわれてゆく。

「終わったのか‥‥」

 御影がぽつりと呟いた。

●後始末
「もう、疲れましたわ」
 目的のアヤカシを討ち取って、死の山を下山するヘレナが一人ごちる。
「そうですね、もう出現してほしくないです」
 と、それを聞き取って答えたのは鎮璃だ。皆、さすがに疲労の色が濃い。一応、あの後辺りを調べたが特に他のアヤカシはいなかった。けれど、あれだけ多くの骨があると言う事は、また発生する可能性もない訳ではない。だが、砕いて回るとて切りがない量だ。
「もう、発生しない事を祈るしかないな」
 ヘレナを背負っている御影が言う。
「何、暗い顔してるんや! ちゃんと仕事は終えたんだもっと明るくいかにゃ!! それこそ、そんな気持ちじゃ俺らが新しいアヤカシを作ってまう! 戻ったら、酒飲んでぱぁ〜とやろうや!!」
 晃の言葉に元気付けられて、一行は村を目指す。
 これで、ひとまず村に平和が訪れるのだから‥‥‥けれど。

「まっ、霧が晴れんと死の山と呼ばれ続けるかもしれんけどな」

 晃が小声でそう呟いていたが、それを聞いた者は誰もいなかった。