【鍋蓋】義賊の夜明けは
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/01 23:21



■オープニング本文

●帰還
「俺のいる理由もなくなったさね」
 アル=カマルに来て数ヶ月――。
 自分と同じものに興味を持った鍋蓋使いに会ってみたいと思ったのがきっかけだった。しかし、それを発端に悪徳地主退治へと話は移り、事件としては短かったがそれでも色々経験できたと彼は思う。
「これでここも少しは落ち着くさね」
 貧困の差はいまだ埋まっていないが、それでも新しい地主は良くやっている。貧民街への支援も始まり、バザールでの出店が許可され、そこに住む者達自身も自らで今の事態を変えようと動き出し始めている。
「そうなるといいんだけどね」
 そこへ声をかけたのはやはりラストドロップことラスだった。もう恒例になりつつある窓からの登場である。
「今日はどうしたさね? 俺はそろそろ長屋に帰るさぁ」
 そんな彼女ももう見納めかもしれない。身支度を整えた新海が問う。
「あら、もう帰るの? これに関してはもういいのかしら?」
 そんな彼を見つめて差し出したのは彼女の武器だった。
 ザブル・ボークと言うらしい。事件の後、暫くして見せて貰った鍋蓋を使った盾武器兼暗器である。
「十分見せて貰ったさね。だから、そろそろ…」
「待って! だったら最後に私の初仕事を見届けていったら?」
 引き止める声は幼かったが、物言いは少し偉そうで……義賊を語り盗人家業をやってはいたが、やはりまだ十代。理由は聞いていないが、訳があっての事だと新海は信じている。
「初仕事ってどういうことさね?」
 それよりもそこが気になって彼が問い返す。
「ふふふっ、私ね…あの後出頭したの。貧しい人の為とは言え盗みは盗みだから。あの人に言われた事やっぱり気にかかってたし…そしたら、特別に恩赦が与えられたの。街の警備に力を貸すなら、罪を許そう…ってね」
「本当さねっ!」
 今は治安の回復が優先されたのかもしれない。少女であっても町を守れる力があるなら使ってしまおうという事だろう。
「それでね。私…早速怪しい一行を見つけたのよ。だからパトロールついでに調査しようと思って…手伝ってくれる?」
 酒場で初めて会った時の明るい笑顔。それにつられて彼は快く了承した。


●密談
「ここよ…」
 そして、早速向かった場所では何やら確かにあやしい会話――。
「今度は女らしいぜ。しかもまだ子供だってよ」
「はぁ、いいのか。それ? うちのボスも何を考えているんだ?」
「けどな、腕は確からしい。しかもジンの能力も有してるって噂だぜ…こりゃ、一筋縄ではいかねぇよ」
「しかし、俺らとしてもいつも高くかって貰ってる訳だし、やらん訳にはいかんだろう」
 声だけしか聞こえないが、野太い声が男の者である事を物語っている。
「……そうだな。そうなると綿密な計画が必要だな」
 そこで話は途切れてしまい、気配だけが中に残っている。
「ねぇ、踏み込む? 声の数からしてそう多くないわよ」
 そういうラスだったが新海は冷静に、
「どこに伏兵がいるかわからないさね。それにラスの仕事初日は今日じゃないさぁ?」
 彼女の井出達はいつものままなのを不審に思い、小声で訊ねる。
「え、ええ…一週間後だけど?」
「だったら、今動くのはまずいさね。勝手な行動をして騒動を起こせば恩赦が取り消しになるかもしれないさぁ。後…」
「後、何よ?」
「奴らは綿密な計画って言ったさね…だから今日明日ですぐ動くとは考えられないさぁ。それと現場をおさえない事には言い逃れされてしまうさね」
 そう言う新海に諭されて、渋々そこは引き下がる。
 その場を離れ、彼女はつまらなそうに彼と通りを歩く。
「本当にほっといて大丈夫なの? もしまた人攫いとかだったら…」
「大丈夫さね。しかも相手はジンだって言ってたさぁ。あの雰囲気からして奴らは志体持ちではないと思うさね…だったら、そう簡単には手は出せないさねっ」
「けど、私奴らの事少し知ってるのよね」
「え?」
 後から紡がれた言葉に思わず、驚きの声を出す。
「あの中にいた一人は警備隊の一人なのよ…昨日尾行したから間違いない。もし今までの人攫いの件に絡んでたとしたら? 内通者がいれば警備網だって掻い潜れるわよね?」
「ん〜…」
 意外な事実に新海が唸る。
「……それはただならぬ情報さね。けど、なんか引っかかるさぁ」
 それがなんなのか判らず、ただただ首を捻る。
「まぁ、いいわ。とりあえず初日は付き合ってよね。そして、この件を解決して度肝を抜いてやるんだから!」
 張り切る彼女に軽く笑顔を返して、彼は今来た道を見つめるのだった。


■参加者一覧
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
ガルフ・ガルグウォード(ia5417
20歳・男・シ
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
トカキ=ウィンメルト(ib0323
20歳・男・シ
蓮 蒼馬(ib5707
30歳・男・泰
ナキ=シャラーラ(ib7034
10歳・女・吟


■リプレイ本文

●慎重
「あら、また集めたわね」
 新海がこっそりギルドに依頼を出して、集まった者達を見たラスの第一声はそんなものだった。
「相手はどんな組織かわからないさねっ。だから協力は必要さぁ」
 そう言って各々自己紹介。ラス絡みでずっと世話になっていた秋桜(ia2482)や蓮蒼馬(ib5707)は兎も角、仕事を請け負ってはいたが顔を合わせていなかった者もいる。
「初対面かな? 改めて宜しくだ♪ その鍋蓋武器のカッコ良いな…!」
 初見の新海を彷彿とさせる表情でガルフ・ガルグウォード(ia5417)が言う。
「よう、ラスドロの姉貴、自首するなんて意外と真面目なんだな! あたしは自首した事なんかねえぜ!」
 そう悪びれもせず言うのはスリで生計を立てていた過去があるナキ=シャラーラ(ib7034)だ。多少なりとも彼女に親近感があるらしい。
「いやぁ、挺身奉仕の精神ですか。若いのに偉いですねぇ本当に」
 そこへ爽やか笑顔でトカキ=ウィンメルト(ib0323)。内心自己犠牲なんて何が楽しいのかとか、恩赦が出るなんてヌルイとか思っていたりするのだが、そんな素振りはおくびにも出さない。
 だがそれとは対照的な者も存在した。
(「うぬぬ…最近見ねーなあと思ったら、まさかこんな場所で金髪エルフっ娘とオトモダチってやがったか鍋蓋マンンンンーッ!!」)
 辛うじて言葉には出していないがメラメラと背後に炎を燃やして村雨紫狼(ia9073)の眼光が新海を射抜く。
「でこんだけいれば踏み込むのも簡単よね。いつ仕掛けるの?」
 そんな事を気にかけることなく張り切っているラスだった。
「あーそれなんだけどよぉ〜ラスたん、裏付けは?」
 目撃証言だけで動くのは危険過ぎる。実際彼女に任されているのは街の巡回であり、怪しい一団への対応はあくまで彼女の希望に過ぎない。
「裏付け? そんなの私と鍋志士の聞いた話で十分じゃない…これ以上の何が」
 そう言いかけた彼女に、
「それなんだが、その対象はラスとは考えられないだろうか?」
 と蒼馬が割って入る。女・子供・ジン…二人が聞いた証言に確かにラスは該当する。
「あぁ、俺も気になっていました。俺の場合はただの直感ですけどね」
 それにトカキも同意する。
「ラスドロ様は民からの人気は高いとはいえ、逆に敵も多いでしょうし…あなたへの恨みで計画されているとも限りません。ここは慎重に行きましょう。私がその怪しい方を調べてみます」
 ここまでの依頼でも度々隠密行動を取っている秋桜が言う。
「それ以外であっても犯罪組織に潜入している囮捜査という可能性もありますし」
「新人の能力を試す試験的なものともとれるだろう」
 次々と出てくる意見にラスは黙ってしまう。
「そうだぜ。あんた警備隊の一員になったんだからスタンドプレーは謹んで他の警備隊の仲間と協力して仕事をするようにしなきゃダメだぜ!」
 そんな彼女を励ますように背中を叩いて、これはナキだ。いつもなら冷静に判断出来る筈なのだが、初仕事とあってやはり勇み足になっていた事を認めざる終えない。
「…わかった。慎重に行きましょう」
「じゃー理解して貰った所でローテーションを決めようぜ! 巡回にはラスたんに二名ついて万全に。余りの面子でまた二組作って裏付けと情報収集だ。んで、黒だったら夜踏み込むって事でどうよ?」
「異存ないぞー!」
 紫狼の提案にガルフが応えて皆もこくりと頷く。
「よっしゃ、じゃあここは公平にこの割り箸を使った籤で決めよーぜ! さぁ、王様だーれだ!」
 差出された箸と続いた掛け声に一同の不審の声が上がったのは言うまでもない。


●聞込み
「や〜、日頃の行いがいいと籤運もついてるぜ」
 警備隊の詰所に顔出したラスを捕まえて、早速巡回に入った紫狼が言う。
「あら、あなた正直ね…」
 そう笑いながらラスも何処か楽しそうだ。
「あたしも素直なのはいい事だと思うぜっ!」
 その横ではもう一人のペアであるナキが言葉する。
「これで何もなけりゃサイコーだぜ」
 天気は晴れ――砂漠の太陽が辺りを照らす中、さすが地元人…ラスは平然と挨拶をしながら歩いている。ナキも浪志組の隊士らしくこの手の仕事は慣れているようだ。彼女と楽しげに会話している。そして、あっという間に時間は過ぎてお昼時。
「ケバブならあそこの店が絶品よ」
 ナキの要望に応えて、ラスが店を紹介した。
「へぇ…ここにも舞台があるんだな。ああいうの見てると踊りたくなっちまうぜ」
 案内された店の中に舞台を見つけて、本能なのかナキが呟く。
「じゃあ、踊る? ここの店主とは知り合いだから。報酬は出ないだろうけどこの時間にショーなんて滅多にないし喜ばれるわよ」
 その言葉に嬉々とした表情返すナキ。
「浮かれた客から何かいい情報が聞けるかもしれないしな。行ってこいよ」
 実際は見たいだけな気もするが、紫狼も賛成ようで二人を促す。
「じゃあ、この際やるか」
 そこで急遽二人のショーが開催される事となり、
(「うひょひょ…やっぱり役得だぜ」)
 そう思う紫狼の近くでは、
「あいつが新しい警備隊員だって? 本当に大丈夫なのか?」
 店の隅で密かにそんな声も囁かれているようだった。


 一方その頃、聞き込み班のガルフも幸せを噛み締めていた。
 目の前には以前食べ損ねたケーキがある。路地や通りを回り終えて、師と慕う新海と共にこの甘味処に入ったのだ。
「さて、じゃあいっただきまーす」
 店の中に広がる甘い香りに期待は高まる。
 しかし、そこにいつか同様注がれる視線。どうやら以前聞き込みの際に手伝って貰った子供らしい。また菓子が貰えるのではないかと、じっとガルフを見つめている。
(「この状況…嫌な予感しかしないぞ…」)
 そう思いつつちらりと視線を向ければ、あっちははっと目を輝かせる。
「きょ、今日はちょっと…」
 そう言いかけたガルフだったが、
「食べたいさね? じゃあ食べるといいさぁ」
 彼が断るより先に新海が自分のケーキを差出した。後はいつか見た光景が広がるばかり。師匠が出したなら自分も出さねば…そう思うのだが、手が動かない。踏ん切りがつかず迷っていると、別の子がそれを狙って手を伸ばす。しかし、新海がそれを制して、
「それはガルフのさね。食べたいなら頼んでやるさぁ…だからそれに手を出しちゃ駄目さね」
 にこりと笑ってそういうと追加注文に入る。
「し、師匠〜」
 そんな彼に感謝しながらケーキを平らげ、ほっと辺りの声に耳を傾ければ丁度今奥様達の噂話に花が咲いているようだ。
「ラスドロに恩赦が出たんだってねぇ。よかったわ…あの子は私達の味方でもあったもの…」
「盗人といっても彼女は別よ……誰も文句なんて言いやしないわ。だって、あの嘆願書。街のほとんどが名前書いてたって言うじゃない」
 早速仕入れてきたらしい情報が店内を行き交っている。
(「へえ、恩赦への経緯は街の住民の嘆願書だったのか」)
 一つ新しい情報を得て、ガルフは新海と共にその店を後にする。


「ちょっ、放しなさいよっ!」
 通りすがりの路地裏から声が聞こえて、蒼馬とトカキが走り出す。
 そして、向かった先には女一人と複数の男。事情は分らないが、あまりいい雰囲気ではない。
「全く世話が焼ける…」
 そんな状態を見過ごす訳にもいかず、トカキがサンダーで牽制した。その間に蒼馬は女性を確保し距離を取っている。
「ちっジンか、仕方ねぇ」
 男達は即座にそれを悟ると一目散に逃げ出した。それを見送り女性に声をかければ、蒼馬の見知った顔。何度か顔を合わせていた女性がそこにいる。
「ふふ、縁がありますね…私達」
 お礼の後にそう言われて全くだと思う彼。
「あー、こほん」
 その横でトカキが冷たい視線を送る。
「きゃ、今日はもう一方もいるんですね。どうぞ中へ。お茶でも用意します」
 彼女の店らしい。近くの扉を開けて中へ入ってゆく。
「あの、さっきのは?」
 促されるままに入ったトカキが問えば取立屋だという事だった。何でも期日前に突然先払いを要求されたらしい。落ち着いた面持ちでお茶を運ぶ彼女の元には徐々に従業員だろう女性も姿を現し始める。
「あら、蒼馬さん。それは?」
 その一人が彼の持ち物に気がついた。中にはさっきバザールで買った菓子が入っている。
「娘になんだ…情報を聞き出す為だったのはいえ気を持たせて悪かったと思っている」
 ここでの仕事はこれが最後になるだろう。今しかないと彼が切り出す。
「あら、奥さんいたの? それは残念ね」
「いや、そうじゃない。養女なんだ…」
 余り嘘はつきたくないと正直な回答。
「ふふ、律儀ですね。そういうところ好きなのに…まあ、始めからわかっていた事ですもの。有難うね、楽しかったわ」
 彼女はそう言って、後は深く追求しようとはしなかった。
「すまない…そのついでだからもう一つだけいいだろうか?」
 街に詳しそうな彼女らの事。今の警備隊が入隊時抜き打ち試験のような事をしていないかや怪しい人物を最近見かけていないか聞き込む。
「さあ、そういうのは聞かないけど? ただ、最近女が来るって警備隊自体が浮き足立っていたみたいよ」
 彼女らから得られた情報はその程度のものだった。
 

●隠密
 怪しい一人の顔はわかっている。ラスからそれを聞いた秋桜は今尾行を続けている。
(「今度は花屋ですか…」)
 ラスとは朝も顔を合わせず別行動。男も巡回中なのだろうが相棒はおらず、単独行動で行く先々の店に声をかけて回っているようだ。そして、何件目かの店を訪れて――
「うまく出来たぜ。これならばっちりだ」
 大きな布を店の主人から受け取り、彼が笑みを浮かべる。畳んでいるようで何かは判らないが、広げるとシーツ二枚分はあるようだ。
(「あんなもの、一体何に?」)
 人を包むにしては大き過ぎる。人攫い様の何か? 疑問ばかりが増えてゆく。
「ああ、助かるぜ。こういうのがねぇとしまらねぇ」
 男はそう言ってまた違う店へと歩き出した。そこで彼女は進路を変更する。このままでは埒があかない。新海らが聞いたという密会場所へと移動。天井に忍び込んで下を除けば、中には既に何名かの人間が集まっているではないか。
「いや〜、別嬪だったぜ。あれは…」
 皿を手にした男の呟き。そこへさっきの男が布を抱えたままやってくる。そしてそれを開いて、
「あれは!!」
 その直後、彼女は全てを理解した。


 さて、早々と巡回を終えて――詰所で報告を済ませラスの初日は終了。場所を移して情報交換に入る。
「詳しくは判らなかったが、試験的なものはないようだ」
「怪しい人物やその手の情報もなかったぜ…よっぽど統率が取れてれば別だが、どうもそれもぱっとしない」
 街は以前に比べれば穏やかで、事件があったのはスリや喧嘩といった小さいものだ。
「警備隊のあの方についてですが…その前に一つ、ラスドロ様にお聞きしたい事があります。あなたの本名は何と申されるのですか?」
 秋桜がラスを見つめて問う。言われてみれば今までラスと呼んでいたが、それはあくまで街の者達が勝手につけたもので実際の名前ではない。
「メラルよ。メラル=ホープ」
 その言葉を聞いて秋桜は確信する。
「ラス…いえ、メラル様。あなたは今回の件について大きな勘違いをされています」
「え、どういうこと?」
 不思議思いラスが問う。
「全てはもうすぐ明らかになります」
 後方から駆けてくる人影を見つけ、彼女はそう告げるのだった。
 

   パン パンパン

 そして案内された先――あの宿で彼女を待ち受けていたのは豪華な料理と上等な酒。そして大量の紙吹雪だった。
「とどのつまり、これは歓迎会って事かぁ!?」
 一緒に案内された開拓者達もその部屋を見て驚きを隠せない。部屋の奥の大きな垂れ幕には『ウェルカム、メラルちゃん 警備隊へ』と書かれ、彼らの分までも料理が用意されている。
「全く…こんな結末とは…」
 お人好しばかりだ…と呟きつつもやはりトカキは言葉には出さない。
「ここの町に女の子の…しかもジンの隊員が加わってくれるなんてーのは初めての事だ! やっぱり今日はお仲間連れて巡回してたようだし、男ばかりで居辛いと思うがこれから頑張っていこーぜ! なあ、相棒?」
 彼女の側に近付いて警備隊の一人が花束を渡す。
「何よ、これ……やだ、私…じゃあ」
 それに彼女がどう応えていいか判らず言葉を詰まらせている。
「いい仲間じゃねーか、ラスドロ姉貴!」
 そんな彼女にナキの一言。するとラスも飛び切りの笑顔でそれに頷く。
「え、ラスドロって……?」
 しかし、ここで一旦空気が変わった。どうやら、彼女がラストドロップだった事は伏せられていたらしい。
「ばれたら仕方ないわね。そうよ、私はあのラストドロップなの…」
 その言葉にざわめく一同。何かが変わるかと思われたが、
「そりゃあ凄いぜ!! 通りで上が教えてくれない訳だ…腕は立つが女だしまだ子供だって聞かされた時は正直何考えてるのか判らなかったが、あのラスドロとは…」
「ゴメンね。危険が及ぶかもしれないって言われて」
「何言ってんだ、水臭いぜ…俺らはもう仲間だろうが!!」
 彼女が誰であろうと気にしない。そんな雰囲気で場は更に盛り上がっていく。
「よかったな、ラス…明朝、これを渡してやれ」
 そう言ってそっと蒼馬が差出したのは一着のドレスだった。何か勘違いしているようでそれを彼女に贈れという事らしい。
「渡すなら蒼馬が渡せばいいさぁ」
 しかし、この男も何処までも鈍感なようで彼の気回しに気がつかない。それを押し戻し、彼女を見守る。
「だったら俺が行くZE!」
 そう言ってただ駆け寄る紫狼に、
「お触りはそれなりに頂かないとね♪」
 と何処からともなく取り出した鍋蓋武器で彼女は撃退してみせ、それに仲間達が笑う。
 こうして、彼女の初日の夜は賑やかに更けていくのだった。


 そして翌日、帰路つく開拓者らを彼女が見送る。
「なんだか色々あったけどありがとねっ」
 今までずっと彼女に事件に関わった者には彼女からこっそり贈り物が贈られている。
「そう言えばどうして鍋蓋にしようと思ったんだ?」
 兼ねてから聞きたいと思っていた事をガルフが尋ねる。すると、
「これしかなかったのよ…貧民街で育ったからね。だから、捨てられた道具なら何でも良かったの。たまたまそこにあったのがこれなだけ」
 深い意味はないのだといともあっさり暴露して見せる。
「えーー、じゃあ鍋蓋でなくてもよかったさぁ!?」
 てっきり好きでそれを使っていたものだと思っていた新海は驚きと落胆の悲鳴。
「ええ…あ、けど…鍋蓋だと持ち込みやすいからやっぱりこれで良かったのかも」
 その様子にくすりと笑って彼女はそう答えたが、新海の耳にはそれは届いていない。だが、ガルフはそれもいいと思う。
 彼女が求めたもの…それは明確には判らない。しかし、きっと新たな何かを手に入れた事は間違いなかった。