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■オープニング本文 「ごまふ…か?」 太陽が天に向かう頃、ようやく起き上がってきた一抹が板間に丸々した物体を見つけ声をかける。 ちなみに『ごまふ』というのは、一抹の元を度々訪れるセレブ猫で、いい食事をしているのかなかなかに太った牛猫だったりする。 「うにゃ?」 だが、振り返ったその顔はごまふのモノではなくて――彼は僅かに目を見開いた。 「…おまえ、まさか」 小刻みに震える指先――彼らしからぬ反応には明らかな動揺が見える。 「ご主人?」 その言葉に彼の予想が確信へとかわる。 丸々と太った身体で、目の前にいるのは己の相棒だという事に……。 「いかん、これは悪夢だ。そうに違いない」 しかし、それを受け入れる事が出来ず頭を抱えて回れ右。再び寝床に戻ろうとする。 「駄目にゃ! ご主人っ、もう昼にゃよ!!…ってあれ、あれれ??」 そう言って呼び止めるように猫キックの一つでも食らわそうと思ったポチだったが、体が思うように動かない。やけに重く、見下ろすお腹は信楽焼きの狸のようだ。 「……ご、ご主人…お、おいら…」 恐る恐る尋ねる。 「俺は知らんぞ。おまえが何をしてたかなんてな…」 振り向く事無くそう言って一抹はさっさと寝床に戻る。 「ま、まさかなのにゃ…」 そう思いつつも見えるお腹の膨らみに、鏡の前まで移動して…ポチは唖然とした。 「こ、これがおいら…」 鏡まで畳一畳の対角線の距離――けれど、その距離でさえ息が上がってしまっている。そして、そこに映し出されているのは…あのごまふよりもふくよかな己の姿で。 「にぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」 ポチの悲鳴が家中に木霊した。 「で、おまえは俺がいない間何をしていた?」 さっきの悲鳴に寝付ける筈もなく、再び起きてきた一抹がポチに問う。 いない間というのは、実の所…ここ二週間一抹は家を空けていたからに他ならない。寝正月かと思いきや、律儀に大晦日から初詣に出かけたようでその後は暫く各地を転々としていたのか、戻ってきたのはついこの間のことだ。 「おいらにゃ? おいらは…ご近所さんを回って挨拶して……あ」 思い当たる節を見つけて、ポチの言葉が止まる。 「…その分だと何か食い物を貰ったか?」 「ううぅ」 その問いに呻きを返して、やはり図星と見える。 「だって皆しゃんお年玉の代わりにってくれるのにゃ。そんなのいらにゃいとはいえないにゃっ。そしたらどれも美味しくてついつい」 正月の残りといえば、伊達巻やら栗きんとんやら、黒豆やら…日保ちさせる為に砂糖を使った料理も多い。加えて、餅と言う必殺の炭水化物も存在する。一抹がいない間にどれだけの料理を食べたらこうなるのかわからないが、それでもなってしまったものは仕方がない。 「ご主人…おいらをごまふと思って抱き抱きはしてくれないのにゃ?」 起き上がる事が精一杯の今のポチが視線を送る。 「あれはあれだ。全くよくもまぁそんなに太ってくれたものだ」 そんな彼に冷ややかな言葉を返す一抹。あまり表情を変える人ではない為、真意が見えない。 「ご主人?」 「好きにすればいい。そんなお前は仕事にも連れていけんしな」 ガガーン 一抹から返された言葉に衝撃が走った。今までは「いるな」とは言わなかった。しかし、今の言葉は遠回りに役立たずと言われた気がして、自然と涙が溢れる。そんな彼を置いて、一抹は家を後にした。 (「仕方ねえ…気付くまで呑みにいくか」) そう心中で呟いて、行き付けの酒場へと足をのばす。 ポチは気付かなかったが、神棚には真新しい小さな神社の紙袋が一つ――大事そうに飾られていた。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
大曽根香流(ib7894)
16歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●猫饅頭 「にゃにゃ! 大勢揃ってどうしたのかにゃ?」 突然の来訪に訳が判らずポチが目を丸くする。 「まぁぁぁ、ポチ様…なんて、なんて愛らしいんですの!?」 その姿にいの一番に駆け寄ったのはマルカ・アルフォレスタ(ib4596)だ。抱きつき丸々としたお腹に頬擦りする。 「マルカしゃんなのにゃ? 会わない内に髪切ったのにゃね〜」 そんな彼女を匂いで察し彼が返す。 「ポチさんですよね…一体全体どうしちゃったんですか! そんな体じゃ波乗り出来なくなりますよ」 そういうのは夏にご一緒したアーニャ・ベルマン(ia5465)。彼の変わり様に驚いている。 「はははー、もうポチっつーかブヨだな、ブヨ! 白く染めて『もふらモドキ』とかに改名すっか〜」 その後ろで豪快に笑う村雨紫狼(ia9073)。知った顔触れに驚きを隠せない。 「こっ…これは…丸々としてなんと福々しいっ…!」 「ですです…見事な丸ですねぇ…」 そのまた後ろではリンスガルト・ギーベリ(ib5184)と大曽根香流(ib7894)が目を輝かせていた。どうやら、この二人気が合いそうだ。 「もふりたい…思う存分もふたりたいのじゃっ…」 「わかります…あのぷにぷにしたお腹いいですよねぇ〜〜」 「いくかの」 「そうですね」 二人は顔を見合わせると同時にポチへと突進し、 「妾にももふらせるのじゃ〜〜〜」 「ぷにぷにさせて下さいぃ〜〜」 マルカの腕から奪い取るようにポチを抱くと思う存分なでもふする。 「まぁ…ポチ様大人気ですこと」 「ひゃあ〜…すごいな。随分太っちゃったようだけど人気は変わらずか」 何処でポチの事を聞いていたのか知らないが荷台を裏口に運んで戻ってきた天河ふしぎ(ia1037)が呟く。 「うにゃあぁぁぁぁ、ちょっとくすぐったい通り越して痛いのにゃ〜〜」 何が何だか…彼の試練は始まっていた。 「さて、まあ現実的に考えて一週間でっつーたら正月ボケの矯正くらいかなー?」 早速居間に集まり事情説明の後、紫狼が計画を立てる。 「僕には秘策があるからね。きっとうまくいくよ」 そういうのはふしぎ。未だ明かされていない庭の荷物がそれらしい。 「食事制限はお任せ下さい。おいしくてカロリーの低いものを作るから」 香流はにこりと笑ってそう告げる。紫狼も料理は得意とかでそちらを手伝うようだ。 「皆ありがとなのにゃ。おいら頑…って何やってるにゃ?」 その好意に応え様としたポチだったが、先程から巻尺を片手に右往左往するアーニャが気になり首を傾げる。 「え、あ…これ? これはまだ内緒です。明日になってのお楽しみ」 ふふふと微笑を浮かべて彼女は楽しそうだ。 「じゃー善は急げだ! 僕のアレから試そう」 一日目、早速ふしぎの発明品がお披露目となる。 「じゃじゃーーん! これぞ『夢の翼』空賊式ダイエット機だ!!」 ばさっとかけていた布切れを取り、水車の歯車を思わせる木造のハンドル付機械が露になる。 「さぁポチ、この中に入れば、君もすぐに昔のスリムボディなんだぞ!」 そう言ってポチを投げ込むと後はハンドルを回せば稼動開始。 「にゃ、にゃにゃ!! 下が動いてるにゃ!!」 それに気付いて慌ててポチも立ち上がり歩き始めるが、以前のような軽やかさはない。 「待ってにゃ、速過ぎてついてけないのにゃ〜」 そういうポチだが、傍たら見れば回転速度は亀並みだ。 「何言ってるんだ! まだまだこれからなんだよ!」 それを知って、ふしぎは更にスピードを上げるべくハンドルを回す。 「あー、あれ。絶対回す方が痩せるよなぁ」 傍観する誰もが思った。そして、速度はどんどん上昇。高速回転する歯車の中でポチは…。 「あわわわわわわわわ〜」 ペースについていけなかった末路――中でゴロゴロ転がるのみ。 「ポチ、ポチ、しっかりするんだ!!」 十数分後、全身汗だくになったふしぎは装置の中で洗濯物のようになったポチを発見するのだった。 「では、次はあたしが…泳ぎはお好きですか?」 風呂がなかった為、川の辺で今度は香流が問う。 「嫌いじゃないけども…おいらこの体にゃよ?」 自分の足さえ見えなくなった体ではやはり不安を隠せない。 「大丈夫です。いざという時に為に縄を付けておきますから。さあどうぞ」 ――とここまではごく普通。理に適った方法だと思う。しかし、 「にゃーーー、死ぬぅ! 凍えるぅ!!」 寒空の下の寒中水泳…今までぬくぬく生活を続けていたポチにとっては冷たさが半端ない。 「ポチさん、我慢です! ここは気合です!!」 そう言う彼女であるが、実際浸かっているのはポチのみで。 「無理にゃー! 脂肪も凍っちゃうにゃーーー!!」 もがく動作が猫掻きなのか否か前進しているだけにいまいち判断がつかない。 「ん〜、少し早過ぎましたかねぇ」 彼女がぽつりと呟いた。 ●運動とバランス 「少ないけどおいしそうにゃ〜」 急激な運動で疲れきった体を引き摺って、家に戻ったポチは正直ほっとした。この調子だと食事抜きもありうると思っていたからだ。 「食べ物は力の源ですからね……但し、最低三十回は噛んで食べて下さい」 皿に乗せられているのはあっさり味に仕上げた蒸した野菜と鳥肉。 「俺も料理の他にポチっぽいものの為にこんなものを用意したZE」 ばばーんと背後を指差して――そこには無数の貼紙が貼られている。計画を立てる際聞き出した今までの食生活やら目標やらを書き出し、視覚的に訴えかける作戦らしい。 「あそこ、字間違ってるにゃ」 そう指摘しつつ、まずは一口。 しゃくしゃくしゃくしゃく…ごっくん 「駄目ですわ」 その様子にマルカのが即座に駄目出しした。 「ポチ様…大曽根様は先程なんとおっしゃいましたか?」 マルカが静かに問う。 「よく噛んでって言ったにゃ」 「そう最低三十回と言いました。なのにポチ様ときたら…」 そこでかちゃりと金属音。どうやらマルカの持つ槍らしい。なにやら不穏な空気が流れる。 「わっわかったにゃ! ちゃんと噛むからそれはお納め下さいなのにゃ〜」 悲鳴に近い声を上げて…その場は落ち着いたが、再びその槍が彼を脅かす事をになろうとは…彼はまだ知らない。 二日目の朝――何かに締め付けられるような感覚にポチは起床した。 「あ、起きちゃった…起きる前に済ませようと思ってたんだけど」 そういうアーニャにはっとし体に視線を落とせば、 「にゃんじゃこにゃーーー!!」 そこには革製の鎧めいたものが装着され、それをアーニャが締め上げようとしている。 「少しだから我慢して下さいね♪」 そう言って後はぎゅーーと引っ張り余分な脂肪がひとまず圧縮する。 「これぞアーニャ特製スレンダーコルセットです! これを着ればハードボイルドさ満点。道行く女の子にモテモテですっば! ね♪」 大丈夫だ、問題ない…そんな様子で、彼女はポチを眺めご満悦。 「にゃんか焼き豚の気持ちが解りそうだにゃ…」 そんな彼女とは対照的にポチは苦しそうだ。 (「ふふふ〜、虚ろな目のポチさんも愛らしいですね〜」) 「おや、男前に…ってなんだか青い顔してるけど…」 そこへふしぎがやって来て眉を顰めて、 「ああ、ふしぎさんのも作ってありますよ。挑戦するんでしたよね?」 ポチの様子に若干の不安を覚えながら彼もそれを受け取り装着へ。 「起きたかポ……って絶好の眺……あ゛あん!?」 着替え始めていたふしぎを前に紫狼は大きく後退する。 「え、あ……はは〜ん、君も勘違いしてたのか、全く…」 その様子を知って困ったように頭を抱えて――容姿が容姿だけに彼はよく女の子に間違われるらしい。 「……あ、いや、俺は男の娘も大じょ…」 「馬鹿やろーー! 僕は男の娘じゃない!!」 言いかけた彼にふしぎの鉄拳が炸裂した。 「ほほほ、やっと妾の出番じゃのう」 ポチに並々ならぬ好意を持ちながらも彼の為とあっては非情にならねばと思うリンスガルトである。 「よいかポチよ、妾はこれから汝を追い掛け回す。汝は部屋の中を全力で逃げ回るのじゃ。もし捕まえたら…」 わきわきわき 妖しく動く指先にポチは理解した。出会った日に食らったあのお触り地獄を――。思わずごくりと唾を飲む。その音がなぜか重なった。それが誰の者だったかは見れば判る。 異状にまで血走った瞳の奥には恍惚な光。 (「コルセットが邪魔じゃが…お仕置きの際は外して……そう、あの肉球とぽよんぽよんした腹を存分に擽り捲くろうぞ」) 「ふふ、ふふふふふふふ〜〜〜」 ポチの脂肪に対する執着。それが彼女の平静を奪っている。 それを感じ取り、ポチは逃げ始めた。だが、太り過ぎた体では重みで滑って廊下はうまく曲がれない。 どすぅぅん 激しく戸に身をぶつけると前に立ちはだかるのは勿論彼女で。 ポチの試練はまだまだ続く。 「逃げる…という点では同じようなものですが、わたくしのは簡単ですわ」 ちゃきりと構えられたのは昨日の長槍。彼女の身長をゆうに越している。そして、彼女の前には蓑虫のように木から吊るされたポチの姿がある。 「凄く嫌な予感しかしないのにゃけども…まさかそれで突くとか?」 体中から嫌な汗が滲み出る。そんなポチに無言の笑顔を返して、 「てあぁぁぁ!!」 マルカの槍がポチを襲う。 「無理にゃ! こんな縛られてちゃ避け様がないにゃ!!」 そこでじたばた悪足掻き。辛うじて避ければ、 「出来てらっしゃるじゃありませんか。その調子ですわっ! わたくしポチ様の為に鬼になりますわ!!」 どうやら拍車をかけてしまった様で、涙を浮かべつつも攻撃が加速する。 「ああ、ぜい肉もとい骨は拾ってやるぜっポチ気味なアレ」 それを眺めかながら男二人は庭に天幕を立てつつ、成り行きを見守るのだった。 ●動かずとも 三日目の朝、ポチが早々と音を上げる。 「…もう動けないにゃ」 唯一のお楽しみ・食事でさえ落ち着かない。顎はだるいし、体を締め付けられては食欲は半減する。まだまだ膨れた体であるが、拗ねて頬まで膨らませ雪だるまの様になっている。 「判った! 今日はじっとしてるが良い」 そこでリンスガルドがそう言いポチを抱き上げ庭のテントへ移動を開始すれば、他の女性陣もいそいそ仕度を始める。 「よいか。動くだけが減量の手段ではない。サウナ…いわゆる蒸し風呂というやつを試すのじゃ」 構造は至ってシンプルなもの。天幕の中に焼き石を設置し、その石に水をかける事で蒸気を発生させそこで汗を流すというものだ。 「十代が三人に二十代が一人…たまんねぇぜ、これは」 それを楽しみにするのは勿論この人・紫狼さん。 「君は近づかない事。これは女性陣からの命令だ」 そこへふしぎがやって来て彼の行動に釘を刺す。 「うむむ、有名人は辛いよなぁ〜」 彼の変態紳士の名は割と知られている。だから、女性から注視されているようだ。意気消沈の紫狼を余所に中からは楽しい声。 「にゃにゃ〜、なんだか極楽なような気がするにゃ♪」 女性四名に囲まれてじっとしたままでも痩せられる。そう思うとポチにとっては極楽天国。昨日の擽りとは打って変わってタオルが引かれた台の上で、香流とリンスガルドの念入りに脂肪燃焼マッサージを受ける。 「気持ちぃのにゃ〜」 だらしない表情になりながら至福の一時…昨日の疲労が嘘の様だ。 「このぷにぷにがたまりません〜♪」 「そうじゃの。このままでも妾はいいと思うのじゃがのう」 そして、この二人も別の意味で至福を味わっていたり。 暫くのマッサージを終えて…うとうとし始めたポチをアーニャが抱き上げて、 「ん〜〜、ポチさん可愛い」 雄のポチとしてはオイシイ状態が続いている。 「くそ〜〜、羨まし過ぎるじゃねぇかぁ〜〜」 それを傍観する人影が一つ。彼はやはり諦めてはいなかった。ふしぎが水汲みに行った隙に、設置時に仕掛けた覗き穴に忍び寄り中の様子を伺う。 「うひょ〜、マルカたんの黒水着も……って、ん?」 注意力が欠乏し、気付かなかったがすぐ隣にはふしぎが立っている。 「何やってるんだ、全く。食らえ正義の鉄槌!!」 「ぎゃああ〜〜」 彼への制裁はこれだけでは終わらなかった。 四日目――昨日のサウナがいい効果を発揮したらしい。 「あれと一緒なら運動も頑張れそうだにゃ」 初体験だったらしいのだが、汗をかく事で毛艶もよくなったようでやる気回復。コルセットも幾分が落ち着いてきている。 「それじゃあ、今日は私の乱射を回避して下さい」 そこで今日はアーニャが弓で運動を行うらしい。 「あー、マジで俺もか」 「勿論です。死にたくなければ逃げて下さい」 さり気無く加えられたのは昨日の覗き魔さん。一日だけであるが、ポチと同じメニューを両手足を縛られたハンデ付でこなす事となる。 「あれは覗きが来ないか見張ってただけでだな…」 「問答無用じゃ」 「タダ見は許しませんわ」 「覗きはいけないのです」 口々に返される言葉が彼を貫く。 「紫狼しゃん、ファイトにゃー!」 そして最後には応援する筈の相手に声をかけられる始末。 「では、いきます」 しゅぱぱぱぱぱ 一斉に飛び来る矢に芋虫のようになりながら避ける紫狼に対して、 「にゃにゃっとにゃ!」 ポチはコルセットのおかげか体に重さはあるが、それでも動き易いようで華麗に優雅にキレが戻り始めたようだ。 『おおっーー!』 その様子に喚声が上がる中、遠くでは一抹もそれを見守っていた。 そして、五、六、七と進み一週間が過ぎる。 午前中には運動を中心に活動的に、午後からはサウナで疲労を一旦回復する。 勿論食事管理も継続し、味の薄い料理にも慣れてくると案外美味しく感じられるようになったようでみるみる変化を遂げてゆく。ポチの頑張りの賜物か猫又の代謝が良いのかは判らないが、思ったより早く元に戻りそうだ。 「後少しだからこのまま付き合うよ」 期限は一週間の予定だったが成果を見て少し延長。そして、 「良く頑張ったねっ」 「おめでとうございます!」 彼の減量は成功した。柔軟でしなやかな肢体が見て取れる。 「リバウンドに気を付けろよ、ポチ」 散々ぽいもの扱いしていた紫狼からも晴れてちゃんとした名前で呼んで貰いポチの目にも涙。堪えきれない様だ。 (「あのお姿も捨て難かったのですが」) そう思う者もいたが、彼の希望が叶ったのだからと心中におし留めておく。 そして、去り行く仲間達を見つめてポチは心の底から感謝した。駄目だと思っていたが戻る事が出来た。それは傍にいてくれた仲間のおかげに他ならない。 「やっとか…まあいい、これはお前にだ」 するといつの間に戻ったのか一抹の姿があって、渡されたのは神棚にあった小さな袋。 その中には猫又用に作られた足首に付けられる小さな勾玉のお守りが入っている。 それはポチにぴったりのサイズで…彼はそれを嵌め誓う。 『もう絶対太らないにゃー!』 庭では残された水車モドキが哀愁を誘っていた。 |